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■幻想交響曲 2 舞踏会■

x_chrysalis
【1548】【イヴ・ソマリア】【アイドル歌手兼異世界調査員】
(第1楽章オープニングより)

「僕はコンピュータを利用して、視聴者がより映像の世界を体感できるようなシステムを考えていました。今まででも、目にゴーグルのように装着して視界のようにスクリーンを見られるようなモニターなんか、ありましたよね。あとヘッドホンなんかもそうです。そういったものの複合体を計画して、医療用の脳波測定器の改造版と組み合わせて作ったのがこれです」

 水谷・和馬(みずたに・かずま)と名乗った青年が一同を案内した部屋には、SF映画にでも出てきそうな頭部の半分を覆う設計になっている機械があった。見た目は何かの医療器具のようにも見える。そこから一本のケーブルがコンピュータに接続されており、手前に置いたディスプレイから操作できるようになっていた。

 霊の思念によって精神を音楽の世界に取り込まれてしまった青年を救い出して欲しい、という依頼がある。上手くやれば割りのいい仕事になるが、やらないか、といかにも胡散臭い依頼を持ちかけてきたのは、結城・レイ(ゆうき・れい)という東京都内をロードバイクで駆け回ってはどこから情報を仕入れたものか、表向きはその異能を知られる事なく生活している彼らにわざわざ話を持ちかけてくる自称メッセンジャーの少女である。
 彼らはレイによって召集され、現在こうしてその青年の自宅であるという高級アパートメントのワンフロアを占めるスタジオ兼住居に居る訳だった。声をかけた張本人であるレイは、依頼者に引き合わせるといつの間にか姿を消してしまったが。

「装置としては、さっき説明したような視界型のスクリーンと外部の音を完全にシャットアウトできるヘッドホン、それから脳波にダイレクトに作用するもので──まあ、これは複雑なんですが微弱な電波、しかし脳の各感覚部分に確実に作用するもの、と考えて貰えばいいですね。それが映像、音響情報と連係して、対象に擬似的な感覚を与える訳です。例えば、木が風に揺れているような映像と効果音だったら、風が身体に当たっているような錯覚を与える、というように。まあ、コンピュータマニアが遊びで作った玩具だったんですよ。柾は、映像の世界に没頭する奴でしたから、彼なら楽しめるかもしれないと思って、彼にやったんです。たまに映画を見たりして、面白い、と云ってくれてましたが。……ですが、例の事故があってから、柾は全く死んだみたいに無気力になってしまって……。彼はある意味、彼女が死んだ事を認めてないようでした。ちょっと言動もおかしかったんです。突然、ふらっと僕を訪ねて来て『おい、千鶴子来てないか』とか聞いたり……」

 柾・晴冶(まさき・はるや)は新進の若手として注目を集めていた映像作家だった。映像と音とで白昼夢のような美しい世界を造りあげ、その裏では製作過程で潔癖性なまでのこだわりを見せ、変わり者と評されてもいたが、短編映画やコマーシャルフィルムの監督として将来を期待されていた。水谷は、アマチュア時代から柾と共に創作活動をしていたディレクターの卵で、柾の数少ない友人だった。

 その柾の恋人は陵・千鶴子(みささぎ・ちづこ)という舞台女優だった。古典的な女優然とした気品のある美貌で、柾の映像世界には理想的だったのだろう、あるショートフィルムの主演に彼女を起用した時から二人の交際は始まった。監督と女優という典型的な関係ながら、相思相愛振りは中学生の恋愛のように微笑ましいほど純粋だったようで、人間嫌いの噂もあった柾が千鶴子に対してだけは少年のようになる、と専らの評判だった。

「似合いでしたよ、柾も美青年だったし、何しろ自分の言動とか身の回りに関しても映像としてのこだわりがあったから、二人が一緒の所だけ別世界のようにきれいで」

 悲劇は、一月程前に起こった。
 陵千鶴子の急逝。轢逃げによる即死だった。警察も事故、他殺の面で捜査したが未だ犯人は見つかっていない。事故車だけは乗り捨てられた状態で発見されたが、それは少し前に都内で盗難届けが出されていたものだった。
 柾は知らせを聞いて半狂乱になり、落ち着いたと思ったら今度は突然無気力になって自宅に引きこもって仕事も、関係者に面会することもなくなった。その少し後には水谷が云うように精神の破綻も来していたらしい。

「問題はここからで……一週間程前、僕もさすがに不安になって柾を訪ねたんですよ。つまり、この家ですけどね。ベルを鳴らしても、出ない。外から携帯で電話しても、通じない。おかしいと思って、入ってみました。鍵は開いてたんです。居間にもいないし声をかけても返事がないので、捜しまわってる内に、この部屋でこの装置を使って何かを見てる柾を見つけました。ディスプレイで確認したら、それが、この映像だったんです。慌てて、中断させました。それから……ずっとああなんです。何も見えてない、聞こえてないみたいな状態です」

 柾は音楽、特にクラシック音楽にも深い感性を持っていた。陵千鶴子を使って、ベルリオーズの「幻想交響曲」を映像化する計画があったらしい。一部、撮影が進んでいたが、完成を待たず千鶴子は帰らぬ人となった。
 その製作途中のフィルムが、今ディスプレイに映っているものだ。
 陵千鶴子が、白いドレスを着て、微笑んでいる。白くぼやけた背景の中を漂うような美しい彼女は、今となってはその直後の不安な死を予感させるほど儚い幻想のようだ。

「こんな装置を柾に与えた僕の責任です。柾が今非常に不安定な状態だと知っていながら……。これは、精神科を含めて医療の範疇では解決できないと思っています。明らかに、柾の精神は別の世界を彷徨ってる。……これは、あなた方だから云うんですが、見えたんですよ、千鶴子が……フィルムに残っていない場面で、誘いかけるように笑って手招きしてる千鶴子の姿が、一瞬だけ映ったんです。千鶴子が柾を引っ張り込もうとしてるに違いないんです。それで、そういった霊的な物に対抗できる方を紹介して貰えるように方々を訪ねてたんです」

「柾に、もう一度この装置を使ってこの映像と、同時に幻想交響曲を最初から最後まで聞かせます。チャンスは一回しかありません。もし、またこの装置を使って実際の柾にこの曲を最後まで聞かせたら、柾は二度とこっちには帰ってこられないでしょう。ですが、その間に柾にこれは幻覚だ、千鶴子は死んだんだと理解させられれば……あるいは、と思いまして。柾に音楽を聴かせている間に、どうか、柾の彷徨っている世界へ行って彼を連れ戻してきてくれませんか」
幻想交響曲 1 夢

【0F】

「……駄目ね」
 プレゼンテーション代わりにコンピュータのモニタに写し出されたmpeg映像を一目見たイヴ・ソマリア(いヴ・そまりあ)は首を横に振った。
 水色のふわふわしたウェーブのかかった髪にヘアバンドがトレードマークの、大きな緑色の瞳の美少女。CDを出せばミリオンセラーは確定、主演映画・ドラマは尽く大ヒット。大人から子供まで不思議と好かれる好感度NO.1美少女アイドルである。
 新曲のプロモーションビデオのイメージ映像が出来たと云うから仕事の合間に見てみたが、これは駄目だ。イヴ自身が愛らしい顔立ちの美少女だからこそ、こんなこってりしたセンスの無い映像で撮影・編集すれば野暮ったくなってしまうのは目に見えている。映像の善し悪しに関わらず彼女の歌声だけで新曲のヒットは確実だが、イヴはただ命じられた仕事をこなすだけのお人形さん的なアイドルではない。自分の仕事へのプライドと美意識があるのだ。
「こんなのじゃ使い物にならないわ。……サードシングルの時はもっと良かったのにー……」
 少しはアイドルらしく語尾を引っ張ってみたが、……目の前のプロデューサーの卵、水谷・和馬(みずたに・かずま)は慌てたような表情を浮かべるだけで靡いてくれそうはない。……確かこの人、女優の誰だったかに熱を上げてるという噂だったけど、誰だったかしら。……まあいいわ、自分にはドイツ貴族の末裔にして眉目麗しい金髪碧眼の素敵なボーイフレンドも居るのだから、こんなうだつの上がらない男が靡いてくれなくても。
「わたしぃ、柾さんに撮って欲しいな〜、ねぇー、柾さんは駄目なの? 柾さんだってイヴの事、気に入ってくれたって云ってたのに……」
「柾は……」
 水谷は云い難そうに口籠り、視線を反らした。
 柾・晴冶(まさき・はるや)はイヴのサードシングルのプロモーション映像を撮影、監督した若手の新進映像作家だが、こんなセンスの欠片もないプレデンテーションを平気で送ってくる業界人とは違い、人間嫌いで偏屈という噂も有りながらそれを補って余り有る才能の持ち主、芸術家だ。
 『空白、間』を重視していると云われる白昼夢のような淡い美しい映像の世界。彼にまた撮って貰えたら……。
「柾は……駄目なんです、今」
「えぇ〜、どういう事?」
「イヴさんも御存じでしょう、陵・千鶴子(みささぎ・ちづこ)の事故の事」
「陵って、女優の?」
「ええ」
「ああ……確か先月、轢逃げに遭ったのよね……。私、彼女の舞台を見た事があったわ。お可哀想」
 イヴは、彼女とは対照的な、やや冷たい感じもする程の古典的な美貌の舞台女優を思い出した。知性的で、例え怒り狂って罵声を発する演技をしてもどこか気品のあった彼女。……ま、私ならそんな事よりももっと完璧な演技をして見せるけどね、と思いつつ。その彼女は、殺人の線が疑われながら未だ未解決の交通事故で先月、還らぬ人となったのだ。
「柾と彼女、付き合ってたんですよ」
「あら」
 イヴは口許に手を当てた。普通なら監督と女優、三流ゴシップ誌が手を叩いて喜びそうなそんな情報も、事故の後の今では何とも痛ましい事実だ。
「それからあいつ、もう無気力になっちゃって……駄目ですよ、あいつ、今イヴさんの大事なプロモーションビデオ所か、カメラを持つ事さえ出来ません」
「そうなの……残念だけど、それは気の毒ね……」
 気にはなるが、仕方のない事だ、と諦めかけた時だ。
「正直に云っちゃえば、水谷さん。ついでに彼女にも手伝って貰えばいいじゃない」
 いつの間にか、楽屋の入口に一人の少女が立っていた。……前、見えてるのかしら、と訝る程鬱陶しそうな前髪に、何か腹に一物ありそうな笑みを浮かべた、何とも怪し気な少女だ。只でさえ熱狂的なファンやストーカーの心配が付きまとうトップアイドルの楽屋、警備だってVIP並に厳重な筈だが……。
「……『ZERO』!」
 水谷は慌てたように彼女を振り返り、険しい表情で怒鳴った。
「何をしに来た、大体、どこから」
「入口から。初めまして、イヴ・ソマリア嬢。いつも素晴らしい歌声は聴いてるわ。……素晴らしい……セイレーンの歌声はね、」
「……それはどうもありがとう、」
 何を仕込んでいるのか、スニーカーの底をかちゃかちゃと金属音を響かせながら歩み寄ってきた彼女に、イヴは表面上だけは朗らかに答えた。
 この愛くるしいトップアイドルの正体。魔界の女王の妹で、女王に代わり滅びかけた魔界の為移住先を探しこちらの世界に調査にやってきた吸血鬼とセイレーンのハーフなのである。もちろん世間一般にも、マネージャーにすら知られていない事であるが。
「ZERO、お前には仕事の仲介を頼んだだけだ、仕事場に来ていいとは云っていないぞ、しかも、イヴさんの楽屋に押し掛けるとはなんて失礼な」
「何も知らないのはあんただけよ、水谷さん。……彼女なら、あんたより余っ程柾さんの救出に役立つわ。それに、簡単には死なないしその麗しい顔に怪我したってすぐ治っちゃうもの、ねー、」
「……」
 どこか気に触る『ZERO』とやらの言葉にはぴくり、と眉が動くのを感じたが、柾氏の救出、という訳有り気な言葉を聴けば黙ってアイドルを押し通す事もない。
「……どういう事なの? 説明してくれる、水谷さん」

【-opening-】

「僕はコンピュータを利用して、視聴者がより映像の世界を体感できるようなシステムを考えていました。今まででも、目にゴーグルのように装着して視界のようにスクリーンを見られるようなモニターなんか、ありましたよね。あとヘッドホンなんかもそうです。そういったものの複合体を計画して、医療用の脳波測定器の改造版と組み合わせて作ったのがこれです」

 水谷・和馬(みずたに・かずま)と名乗った青年が一同を案内した部屋には、SF映画にでも出てきそうな頭部の半分を覆う設計になっている機械があった。見た目は何かの医療器具のようにも見える。そこから一本のケーブルがコンピュータに接続されており、手前に置いたディスプレイから操作できるようになっていた。

 霊の思念によって精神を音楽の世界に取り込まれてしまった青年を救い出して欲しい、という依頼がある。上手くやれば割りのいい仕事になるが、やらないか、といかにも胡散臭い依頼を持ちかけてきたのは、結城・レイ(ゆうき・れい)という東京都内をロードバイクで駆け回ってはどこから情報を仕入れたものか、表向きはその異能を知られる事なく生活している彼らにわざわざ話を持ちかけてくる自称メッセンジャーの少女である。
 彼らはレイによって召集され、現在こうしてその青年の自宅であるという高級アパートメントのワンフロアを占めるスタジオ兼住居に居る訳だった。声をかけた張本人であるレイは、依頼者に引き合わせるといつの間にか姿を消してしまったが。

「装置としては、さっき説明したような視界型のスクリーンと外部の音を完全にシャットアウトできるヘッドホン、それから脳波にダイレクトに作用するもので──まあ、これは複雑なんですが微弱な電波、しかし脳の各感覚部分に確実に作用するもの、と考えて貰えばいいですね。それが映像、音響情報と連係して、対象に擬似的な感覚を与える訳です。例えば、木が風に揺れているような映像と効果音だったら、風が身体に当たっているような錯覚を与える、というように。まあ、コンピュータマニアが遊びで作った玩具だったんですよ。柾は、映像の世界に没頭する奴でしたから、彼なら楽しめるかもしれないと思って、彼にやったんです。たまに映画を見たりして、面白い、と云ってくれてましたが。……ですが、例の事故があってから、柾は全く死んだみたいに無気力になってしまって……。彼はある意味、彼女が死んだ事を認めてないようでした。ちょっと言動もおかしかったんです。突然、ふらっと僕を訪ねて来て『おい、千鶴子来てないか』とか聞いたり……」

 柾・晴冶(まさき・はるや)は新進の若手として注目を集めていた映像作家だった。映像と音とで白昼夢のような美しい世界を造りあげ、その裏では製作過程で潔癖性なまでのこだわりを見せ、変わり者と評されてもいたが、短編映画やコマーシャルフィルムの監督として将来を期待されていた。水谷は、アマチュア時代から柾と共に創作活動をしていたディレクターの卵で、柾の数少ない友人だった。

 その柾の恋人は陵・千鶴子(みささぎ・ちづこ)という舞台女優だった。古典的な女優然とした気品のある美貌で、柾の映像世界には理想的だったのだろう、あるショートフィルムの主演に彼女を起用した時から二人の交際は始まった。監督と女優という典型的な関係ながら、相思相愛振りは中学生の恋愛のように微笑ましいほど純粋だったようで、人間嫌いの噂もあった柾が千鶴子に対してだけは少年のようになる、と専らの評判だった。

「似合いでしたよ、柾も美青年だったし、何しろ自分の言動とか身の回りに関しても映像としてのこだわりがあったから、二人が一緒の所だけ別世界のようにきれいで」

 悲劇は、一月程前に起こった。
 陵千鶴子の急逝。轢逃げによる即死だった。警察も事故、他殺の面で捜査したが未だ犯人は見つかっていない。事故車だけは乗り捨てられた状態で発見されたが、それは少し前に都内で盗難届けが出されていたものだった。
 柾は知らせを聞いて半狂乱になり、落ち着いたと思ったら今度は突然無気力になって自宅に引きこもって仕事も、関係者に面会することもなくなった。その少し後には水谷が云うように精神の破綻も来していたらしい。

「問題はここからで……一週間程前、僕もさすがに不安になって柾を訪ねたんですよ。つまり、この家ですけどね。ベルを鳴らしても、出ない。外から携帯で電話しても、通じない。おかしいと思って、入ってみました。鍵は開いてたんです。居間にもいないし声をかけても返事がないので、捜しまわってる内に、この部屋でこの装置を使って何かを見てる柾を見つけました。ディスプレイで確認したら、それが、この映像だったんです。慌てて、中断させました。それから……ずっとああなんです。何も見えてない、聞こえてないみたいな状態です」

 柾は音楽、特にクラシック音楽にも深い感性を持っていた。陵千鶴子を使って、ベルリオーズの「幻想交響曲」を映像化する計画があったらしい。一部、撮影が進んでいたが、完成を待たず千鶴子は帰らぬ人となった。
 その製作途中のフィルムが、今ディスプレイに映っているものだ。
 陵千鶴子が、白いドレスを着て、微笑んでいる。白くぼやけた背景の中を漂うような美しい彼女は、今となってはその直後の不安な死を予感させるほど儚い幻想のようだ。

「こんな装置を柾に与えた僕の責任です。柾が今非常に不安定な状態だと知っていながら……。これは、精神科を含めて医療の範疇では解決できないと思っています。明らかに、柾の精神は別の世界を彷徨ってる。……これは、あなた方だから云うんですが、見えたんですよ、千鶴子が……フィルムに残っていない場面で、誘いかけるように笑って手招きしてる千鶴子の姿が、一瞬だけ映ったんです。千鶴子が柾を引っ張り込もうとしてるに違いないんです。それで、そういった霊的な物に対抗できる方を紹介して貰えるように方々を訪ねてたんです」

「柾に、もう一度この装置を使ってこの映像と、同時に幻想交響曲を最初から最後まで聞かせます。チャンスは一回しかありません。もし、またこの装置を使って実際の柾にこの曲を最後まで聞かせたら、柾は二度とこっちには帰ってこられないでしょう。ですが、その間に柾にこれは幻覚だ、千鶴子は死んだんだと理解させられれば……あるいは、と思いまして。柾に音楽を聴かせている間に、どうか、柾の彷徨っている世界へ行って彼を連れ戻してきてくれませんか」

【1_0CF】

 何時に無く険しい表情で廃人同然の柾を眺めていたケーナズの耳許で、甘い声が響く。
「ケーナズ、久し振りね」
 ケーナズはすぐに表情を社交的な笑顔に変え、久し振りだ、イヴ、と応じる。
「最近、全然誘ってくれないんだもの」
「すまない。何しろ、君と違って私の身体は一つしかないものでね」
 イヴの事だから心配はないだろうとは思ったものの、実際に元気の良さそうな可愛らしい笑顔を見ると安心する。
「今日は眼鏡をかけてないのね」
「おかしいか?」
「いいえ、普段の知的なケーナズも良いけど、今日のあなたもどこかクールで素敵だわ」
「イヴ・ソマリア嬢にそんな事を云って貰える私はなんて倖せなんだろう」
 如何に、精神の弱い、根性の甘えた人間に苦々しい感情を抱いていようと、表面上は、穏やかに。レディファーストで。イヴもそれを分かっているからこそ、いやあね、などとくすくす笑っていたが、ふと柾に視線をやった。
「柾さんをどう思う?」
「君は、確か柾と仕事をした事があったな」
「ええ、素晴らしい才能の持ち主だと思うわ。……最近、新しくプロモーションビデオのプレゼンテーションを持ち込んだ映像会社があったけど、全然駄目。それが結構大手なもんだから呆れちゃうわ。やっぱり、柾さんが居ないと駄目なのよ、音楽界も映像の世界も」
「だから、もう一度彼と仕事をする為にも参加した、という訳か」
「勝手だと思う?」
 イヴは甘えるように首を傾いで見せた。ケーナズはいや、と否定する。イヴは表面的な言動こそ容姿の可愛らしさを最大限利用して我侭に振舞っているように見えるが、その実自分で自分の行動を決定する意思と確立された自我を持っていることをケーナズは知っている。そうでなければ、いくら見た目がきれいと云ってケーナズがその気に入る訳はない。
「それが当然なのだ。彼はまだ若く、元はと云えば自分の意思で芸術の世界に身を投じた筈。自分の意思の弱さから現実逃避してそこから勝手にリタイアしていい訳はない。本来なら、内面的にはどれだけ悲しくともそれを現実として捕らえ、自らやり出したことは最後までやるべきだ」
「分っかんなぁい♪ ……でも、ケーナズも柾さんに事実を教えるべき、という考えは同じなのよね」
「当然だ」
「……迷ってるコもいるみたいだけど」
 イヴは悪戯っぽくちらり、とぼんやりしている赤い髪の青年を横目で見た。ケーナズも彼の迷いには薄々気付いて、苦々しく思ってはいた。……甘い人間は柾一人で充分だ。迷いながらこの世界に入れば、自分すら取り込まれてしまうのは必至だと云うのに、足を引っ張るつもりだろうか。……まあ、ケーナズは彼の面倒までは見切れないが、鞍馬の横に居る相棒らしいアルビノの少年はしっかりとした意思を持っているようなので、彼がなんとか──意識をはっきりさせるなり、どうしても迷っているなら元の世界へ叩き返すなりするだろう、とは思っていたが。
「それにしても、柾さんの幻想の世界って、どれだけきれいな世界かしらね」
「そう思うか?」
「勿論。……普通は、理想の映像を実際に再現するのは不可能よ。柾さんは異常なまでのこだわりでそれを実際にやってのけていたけど、その分効率が悪いのも確かよ。……そのブランクを飛び越えて、柾さんの頭の中の映像を見られるなんて、そうある機会じゃないと思うわ」
「……曲が曲だけに、一概には云えまい」
 ケーナズはあれから、……あの怪し気な少女からイヴの参加を仄めかされ、無視する訳には行くまいと思い決めてから改めて「幻想交響曲」を聴いて世界観を把握して来た。
 甘く誘い掛けるような、……さながら、あの映像の中の千鶴子の微笑のような旋律で聴くものを安心させ、気付いた時には増幅を繰り返す倍音によって精神を侵されている。そこに、生者を道連れにしようとしている元恋人の怨念がつけ込めば、一体何が起こるやら……。
「……でもラッキーだわ。柾さんの頭の中の映像が見られるっていうだけでも美味しいのに、さらにはそこにケーナズまで居るなんて」
 そうしてイヴはケーナズの美貌を見上げ、うっとりと呟く。
「……何か云ったか?」
「何でもない♪ こっちの話」
 水谷が、準備できました、と云って各自に柾と同じ音楽を聴かせるヘッドホンを手渡した。それを受け取りながら、イヴがケーナズに耳打ちした。
「夢で会えたら──せめてきれいな世界の中ではデートしましょうね」
 ケーナズは苦笑してそれに応え、ヘッドホンを装着した。

 ──視界がホワイトアウトした。そして、遠くの方でフルートとクラリネットによるハ単調の静かで、切なくも甘いラルゴの前奏が響き出す。

【1_0zero】

 都内の某ネットカフェの窓際に落ち着いたレイは、自分のノートパソコンを広げてある共有ファイル──柾宅の、例の映像装置に繋がったコンピュータに接続した。今頃、その体感型映像、音声出力装置の中には傍目には廃人同様の柾の肉体、云い換えれば抜け殻が収まっている事だろう。
 その装置とリンクしている画面は今の所ホワイトアウトしている。
 もうすぐ、ヘッドホンからの音楽を入口として草壁・鞍馬、陵・彬、ケーナズ・ルクセンブルク、セレスティ・カーニンガム、倉塚・将之、イヴ・ソマリア、篠原・勝明の7人がログインする筈だ。既にファイルの中にある、未完成の映像と柾の幻想と陵千鶴子の怨念が絡み合った「幻想交響曲」の世界に。
 レイ自身はイヤホンも付けていないし、ノートパソコンの音声も切っている。
 対岸の火事を傍観するつもりなのに、自分が音楽の中に取り込まれてしまっては元も子も無い。──気付いた時にはもう遅く、音の一つ一つが映像として「見えて」しまうこの曲の恐ろしさは充分理解している。
「……遅くない?」
 レイはぽつりと呟き、平行して待機させているストップウォッチソフトと画面上の時刻表示を見比べて呟く。
「……何か準備に手間取ってるのかしらね」
 そしてまあいいか、と傍らに置いたアイスコーヒーに口を付ける。
「柾晴冶と彼等がどうなっても、私には関係ないし」
 相変わらずの笑みを浮かべて頬杖を付いていたレイだが、「あ」とやがて声を洩した。
「……来た来た」
 ホワイトアウトした画面が、ゆっくりと淡い色彩の映像を伴って流れ出す。レイはストップウォッチのスタートボタンをクリックして開始させた。

【1_0F】

「そして、あなた自身は音楽は聴かずに映像だけ見物するって訳ね」
 はた、とレイが振り返るとそこにいたのは野暮ったい程大人しい服装に、二つに括った茶色い髪、眼鏡をかけた同じ茶色の目の少女──典型的な日本人、しかも優等生タイプに見えるがその可愛らしい顔立ちは何を隠そうイヴ・ソマリアと同型である。
「……ああ、そう云えばあなた、分身もできるんだっけ。便利よね」
 それぞれが意識を持って個別に行動可能な分身化。イヴの能力の内一つだ。
 勿論分身とは云えトップアイドルイヴ・ソマリアがこんな街中のネットカフェに姿を現したとなれば大騒ぎは必至なので、変装してはいるが。
 割と普段からこの格好で街を歩き回っては某怪奇探偵から請け負ったアルバイトをやっているらしい。朝比奈・舞と云う偽名までちゃんと設定済で、楽しんでいるとしか思えない凝り様だ。
「で、あんたの役割は私の監視って訳?」
「だってあなた……充分怪しいもの」
 そして向い側の椅子をモニタの見える角度に移動させて腰掛け、そのイヴは嘯いた。
「云っとくけど、私この原因には噛んでないわよ、残念だけど。ただ面白そうだから見物させて貰ってるだけ」
「だったら私もそれは同じ事だわ。御一緒させて頂いていいでしょう?」
 御自由に、と半分諦めたようにレイはモニタの角度をイヴの方へややずらした。
「それと、一つお願い、できる?」
 イヴは眼鏡越しにもこの上なく愛らしい、しかし冷静に見れば魔性の物としか云いようのない笑みを浮かべた。
「個人的な事だけど、私、この映像……今あなたがハードディスクにレコーディングしている映像、後でコピーして欲しいわ。仕事に使えそうだもの。柾さんの映像世界、しかも精神の中の映像が具体化したものなら、どんなにきれいな景色なんでしょうね」
 そしてレイのアイスコーヒーの横に置いたのはDVD-Rのブランクディスク。レイは苦笑して両手を上げた。
「喜んで。……魔界の女王の妹君直々の頼み事、断って無駄死にするのは私だって厭よ」

【1_1】

 一同の目の前には、果てしない海岸線が広がって居た。恐らく、時刻は明け方だろう。ホワイトアウトに被さった白い砂浜に静かに寄せる波は、水平線の見えない遥か遠くまで淡い青紫のグラデーションを描いている。
「まあ……きれい」
 イヴがうっとりしたように呟く。危機感の欠片も感じられない。然し、それも当然だろう。既にこの先の楽曲の展開を知っている人間ですら、思わずそれを忘れて郷愁に襲われてしまいそうな光景だ。
 イヴやケーナズの余裕は強い自分の自我に対する自信に拠ってであり、彬、将之、勝明が緊張感を緩めないのはそれぞれが所持しているやや場違いにも思える武器の存在感と事前にこの幻想世界が千鶴子の怨念によるものだという恐ろしさを辛うじて覚えているからだ。セレスティは何の感想もなさそうにただ観察するように静謐な青い瞳を水面に向けている。鞍馬は一人ぼんやりしていた。
「──柾、」
 ケーナズが呟いた。
 釣られて視線を向けた一同の先──波打ち際に、裸足の足を浸して両腕を大きく広げ、天を仰いでいる柾の姿が在った。おそらく未だ精神に異常を来す前、水谷が「自分の言動や身の周りに関しても映像としてのこだわりがあった」と云っていた頃の、神経質そうな、整った横顔だ。
 前奏に繋がるヴァイオリンの切ない旋律。
 柾はゆっくりと海に向かって歩み出す。切なさに支配された心は、甘く誘い掛けるようなヴァイオリンの音色に釣られて恋人を探して彷徨い始めた。
「危ないな、」
 勝明が呟いた。
「このままじゃあの人、気が付かないまま海に入っていくぜ、」
 将之も少しずつ水に浸かっていく足許には注意を払いもせず、たゆたう様に進んでいく柾の姿には焦りを覚えたようだ。
「……、」
 ケーナズが足を進めた。
「ともかく、彼の意識をこちらに向けさせなければ話を聞きもしないだろう」
 だが、ケーナズは柾の入っている海に「拒絶」された。壁が存在している訳でもないのに、波打ち際より中には入れないのだ。
「……まだラルゴが始まったばかりよ、穏やかな景色に対して不粋な事はすべからず、という意味でしょう」
 イヴがケーナズを親し気に制し、「私が柾さんの注意を反らすわ」と、今度は事も無げに海に入って云った。
「……全く、神経質な映像作家の精神、か、或いは」
 ケーナズは吐き捨て、何を思ったかちらりと背後のセレスティを一瞥したが、しかし「まあ、この楽章は全体でも特に長く情景の転換も著しい楽章だ。余裕はあるか」と気を取り直したように腕を組んでイヴの後ろ姿を見遣った。
「あの人、注意を反らすって、どうするんだろう」
 眉を顰めた彬に対してケーナズが簡単に云う。
「彼女も女優だ。それもその歌声で人を魅了するセイレーンの血が入った。姿は彼女のままでも、雰囲気や気配だけでも陵千鶴子を『演じる』ことはできるのだろう。そして、ひとまずは安全な水の外まで柾を誘い出す」
 果たして、イヴの「演じた」千鶴子の気配に気付いたのか、ふらふらとした足取りで彷徨っていた柾ははっと背後を振り返ると、呆然とその指先をイヴに向けた。揶揄かうように波打ち際に向けて駆け出したイヴを追って、水に足を取られながらも覚束無い身振りで駆け出す。
 水しぶきがそこここで跳ねた。それを象徴するように、細かな装飾音を伴ったヴァイオリンがテンポを加速させながら軽やかに愛らしい(アニマート)パッセージを奏でる。
「……遊んでいるように見えるが」
「……あの娘、本当に柾さんを助ける気があるのか?」
 彬と将之が不審そうに顔を見合わせている。イヴはさっきよりは深度のある場所へこそ行かなかったものの、なかなか砂浜まで柾を導く気配がない。ずっと、ふくらはぎまで辺が水に浸かる中を駆け回っている。実はその辺り、ケーナズにも「勿論だ」と断言できる自信がなく、そ知らぬ顔でそれを見つめていた。
「……、あの」
 勝明には思い当たる事があって、そっと一同を離れるとセレスティに近付いた。
「……何か?」
「さっき水を操ってケーナズさんを近付けなかったの、あなたじゃないんですか」
「……、」
 セレスティは表情一つ変えずに澄まして相変わらず「柾の幻想」を眺めていた。やっぱりな、と勝明は思う。
「……不粋な真似は好きではない。……それに、もうしばらくは彼の幻想とやらを眺めていたいとは思いませんか?」
「思いませんよ」
 駄目だこの人……、と思いながら勝明は元の場所へ戻った。
「鞍馬」
 不意に彬に呼び掛けられた鞍馬ははっとして顔を上げた。彬の表情が一層険しくなる。
「本当に大丈夫か」
「ん……ああ、大丈夫」
「……やっぱりお前は迷ってる。水際に居ればセレスティさんが護ってくれるだろうから、1楽章の間はここにいて終わったらさっさと戻った方がいい」
「……彬、」
 だって、何とも思わないのか。あれ程夢中で恋人を(実際は千鶴子の気配を真似たイヴなのだが)追い続けている柾の目の前で、本物の千鶴子の思念体を攻撃することなんか、できるのか? ──駄目だ。
 少なくとも、俺には千鶴子さんを攻撃できない、と思いながら鞍馬は再び俯いた。
「……!」
 将之が俄に表情を緊張に引き攣らせ、大剣「破神」を構えた。どこからともなく、今までその気配を感じさせることのない程自然に唸りを上げたコントラバスのロングトーンが旋風となってその茶色い短髪を吹き抜けた。──地下鉄の駅構内で、通過車両が強風を残して過ぎ去って行く時のような緊張が肌に染みる。
「来る、か──……?」
「いや」
 しかしケーナズは落ち着いたまま組んだ腕を解かない。
 その通り、その後は何事もなったかのようにヴァイオリンが甘い旋律を歌い続け、後には一同の緊張を揶揄かうように規則的で穏やかな波だけが打ち寄せていた。──あまりに自然すぎて、錯覚を起こす程に。今、自分は幻覚を見たのではないかと。──彼は剣を構え続けている。柄を握る手に、汗が滲んで居た。
 それは、彬と勝明も同じ思いだった。そもそも、この風景自体が柾の幻想だと云えばそれまでなのだが、何か、今一瞬の内に自分の記憶の中で一番不安なもの、見たくないもの、然し思い出さなければならない何かを見たような錯覚を覚えた。
「こんな事はこの先いくらでもあるぞ。君達も分かったら、覚悟して置き給え。美しい旋律に油断すると、その隙をついて不協和音が襲って来る。生半可に安心していると、柾のように精神を乗っ取られるぞ」
 その言葉を聴いた彬が眉を持ち上げ、鞍馬は視線を反らした。……余裕で微笑んでいるのはセレスティ。ある意味、一番性質が悪いのではないだろうか……。
 幻想の世界に入った途端、いきなり目の前が大海だったのは予想外だったが、如何に幻想と云えども海はセレスティの能力が最も敏感に働く場所だ。これだけ広大な水に包まれた世界ならば、ケーナズ程には楽曲をスコア的に理解していなくとも、未来は読める。この直後に起こる変化を知りつつ美しい光景を前に待ち受けるのは、如何にも楽しい事ではないか。
 勝明の上げた声に一同が揃って視線を上げた。
「イヴさんと柾さんが……、」
 居ない。
 意識が柾から離れた一瞬の隙に、二人の姿は消えていた。──甘い、誘い掛けるようなヴァイオリンとフルートの旋律に、攫われてしまった様に。
「……あ……、」
 水面が歪んだ。ぐらり、と傾く視界に目を細めた鞍馬、彬、将之、勝明にセレスティの落ち着いた声だけがよく響いて聴こえた。
『──気を付けなさい。彼女は柾氏だけでなく全てを誘い込もうとしている。……気を許すと──』
 だが、四人は青い歪んだ空間に飲まれてしまった。その後に、元通り静かな海岸に残っているのはケーナズとセレスティだけだ。
「……あなたはどうするつもりだ?」
 ケーナズは水霊の力を得てか、旋律の変化を経ても尚そこに広大な海を残したままの世界を守ったセレスティに対して問いかけた。
「御覧の通り、私は身体の自由が利きません。……ほら、あの子達の様に元気よく駆け回る事はできませんからね。ここから眺めていることにしましょう。……本当に危なくなったら、ここへ帰って来なさい。出血を止める位の役には立ちましょう」
「……、」
 全てを見通しているらしいセレスティがほら、と示した彼等──恐らくは、さっきのうねりに呑まれた鞍馬、彬、将之、勝明──の姿は彼には見えなかったが、ケーナズはそれでも「余裕だな」と吐くと自分の足で次の場面に向けて海岸線を歩き出した。
「……君もだ」

【1_1zero】
 
「五分経過。──そろそろ最初の固定楽想<idee-fixe>か……」
 レイはモニターと、ストップウォッチウィンドウの表示を眺めながら片方の唇を吊り上げた。

【1_2CF】

 ケーナズはまずは柾を探す事にした。今あの青年にまともに話が通じるとは思えなかったが、あくまでケーナズは柾には現実を認識させるつもりだ。
 感覚に頼って──といっても只の山勘ではない、ケーナズにはPK能力があり、特に優れた透視や千里眼に頼って──砂浜をやや速い歩調で歩いていたケーナズに、向こう側から大きく手を振りながら、ふわふわした水色の髪を靡かせて駆けてくる少女が見えた。
「──イヴ、」
「ケーナズ!」
 ああ、疲れちゃった、と云って大きく息をついているイヴにケーナズは問い掛ける。
「柾は、」
「ごめんなさい、さっきのうねりの中ではぐれてしまったわ」
「──或いは、君と柾を引き離したくて起こした事かもしれないな、あの女優の怨念が」
「でも大丈夫、すぐに見つかるわ。『私達』が今彼方此方探して回ってるから」
 『私達』──、分身能力を有するイヴの、それぞれに意思を持った分身達の事だろう。そして、ここにいるイヴはさて、とばかりにケーナズの腕に抱き着き、甘い微笑を彼に向ける。
「──君、」
「いいじゃない、約束したでしょ、デートよ、デート」
「……その事じゃない。──イヴ、君は、この先ずっと柾の前で彼女を演じ続けるつもりか?」
「千鶴子さんの演技、完璧だったでしょう? 私、一度彼女の舞台を見たことがあるの」
「いや、──君のやっている事は、柾を更なる現実逃避へ向かわせるのと同じ事だぞ」
「……ケーナズ」
 イヴは笑みを消し、ケーナズの腕を離した。
「……あなたは、もし千鶴子さんと対峙したら、柾さんの目の前であってもそれを殺すのでしょうね」
「当然だ。彼女はもう既に死んでいる。死してなお生きた人間に害を及そうとするなら遠慮はしない」
「柾さんの気持ちは考えないの?」
「彼を本当に気遣うならば、柾には現実を教えるべきだ」
 ──人は死ねば、二度と生き返らないのだ。どれだけ悲しくとも、それが現実だ。それを、残された者自身がしっかり認識し、向き合わなければならない。──その為なら、自分は喜んで憎まれ役に徹しよう。
「……ケーナズ……」
 穏やかな波の音だけが響く。その中にやや急いた足音を聴き、ケーナズは足を止めた。
「あ、」
「……、」
 アルビノの少年、彬が遠くを走っている。イヴが「彬君、」と声を張り上げ、ケーナズも大きく手を振って合図を贈った。

「イヴさん、柾さんは?」
「はぐれてしまったのよ、……引き離されたというべきかしら。でも、大丈夫、すぐ見つかるわ」
「それより君、君の相棒はどうした?」
 彬は首を振った。
「──やはり、全員散ったか……。他の連中は大丈夫だろうが……あの彼、君の相棒は危ないぞ」
「分かっている。……全く、迷ってるならやめておけと云ったのに、あの莫迦」
「……あら、私」
 イヴが呟くと、果たして向こうからもう一人のイヴが駆けてきた。その彼女が、目の前のイヴ目掛けて来たと思うと、すいっ、とその中に入り込むように同化してしまったのを彬はきょとんとして見ていたが──。
「見つかったわ、柾さん、将之君と勝明君も一緒よ」

【1_3BCDEFG】

「……本来ならこの甘ったれた男に本当の事を分からせてやりたい所だが……」
 ケーナズは遠くから聴こえてきて、クレシェンドで近づいて来るやたらと明るいトゥッティの響きに耳を澄ました。
「……今はその暇はないようだ」
「え?」
 ケーナズは耳を塞いで蹲り、口唇を震わせている柾を冷たい視線で見下ろした。──柾は、明らかにこのトゥッティに続く旋律を畏れている。
 ケーナズは将之と彬に注意を促した。
「気を付け給え、もうすぐ魑魅魍魎の類が跋扈するぞ」
「魑魅魍魎だと!? 何だよ、それ」
「……『あれ』じゃないのか」
 ピアニシモから急激なクレシェンドを伴って上昇下降を繰り返す半音階の旋律が魑魅魍魎の登場を現すことをケーナズはあらかじめ知っていたが、柾の幻想の中ではそれがどんな形態をとっているかは想像しようもなかった。『あれ』の姿を見たケーナズは、全く想像力の逞しい男だ、と柾に向けて舌打ちした。
「……何て芸術的な魑魅魍魎だろう……」
 彬が感心したと云うよりは呆れたように呟いた。
「あれのどこが!?」
 そうこうしている内にも『あれ』は迫って来る。大剣「破神」を構えながら半ば怒鳴るように将之が訊ねた。
 『あれ』は一見、人魂のように見えるが、よく個体を観察してみればイラスト風にデフォルメされた真っ白な胎児、それの大軍である。然し、胎児にしてみればやたらと手足が細く、大きな頭部の頬はげっそりとして陰気な目が虚ろに見開かれている。それが超高速で飛びかかってくる図は、シュールだ。柾でなくとも、充分怖い。
「『マドンナ』だ。画家エドヴァルド・ムンクの。あれには確か油絵とリトグラフの2種類が存在しているが、そのリトグラフの方にはマドンナを取り囲むようにあの胎児の絵が──」
 ちらりと懐のメモから「プチ情報(この際にはあまり役に立っていない)」を引き出した彬の解説を、既に将之は聞いていない。大剣を大きく振りかぶり、目の前まで達した『あれ』、魑魅魍魎共を切り裂いていたからだ。そう云う彬もメモ帳を仕舞い込みつつ、片手ではエアガンを発砲している。
「要は、ビジュアルにこだわってるって事よねぇ、流石柾さんだわ」
 うっとりしながら片手を翳し、これもまたある意味恐ろしい事に胎児の姿をした魑魅魍魎共の生気を「吸い取って」いるのはイヴ。ケーナズはイヴをちらりと一瞥した。「吸引」中の方ではない。それは彼女の分身だ。もう一人のイヴは、襲い掛かってくる魑魅魍魎共に震えながら「千鶴子、千鶴子」と呟き続ける柾の横でまたもや陵千鶴子を演じている。
「柾さん、私はここよ」
「……やはり君は優しいな、」
「あなたが強過ぎるのよ。男が皆あなたのように強いとは限らないわ」
 「吸引」中のイヴが替わりに答えた。
 しかし、あまりにその数の多い魑魅魍魎は時に柾の目の前まで達し、イヴがようやく気を逸らせた柾に悲鳴を上げさせた。……その時には勝明がぺちん、とばかりに叩き落としたが。数が多く、空気のような存在であるだけにキリがない。将之が風の刃で切り裂いても、それは分裂はするが再現なく増え続けるし、彬に至っては対魔可のエアガンだけに確実性はあるが効率は悪い。マシンガンにすべきだった、とマガジンを交換しながら彬は舌打ちした。
「柾さん、しっかりしてくれ、これは柾さんの幻覚が産み出したものなんだ、柾さんがしっかりすれば、こいつらは消える」
 勝明が説得しようとするが、柾は怯えるだけで聞こうとしない。都合のいい奴め、と苦々しい表情で彼を見つめるケーナズの頭上を、咄嗟に身を屈めた彼の髪の毛1、2本を跳ね飛ばして将之の大剣が掠めた。
「伏せてくれ!」
「云うのが遅い!」
「悪ぃ!」
 そう、ケーナズに謝った将之は柾達の前で大剣を振り被り、その刃から産み出した高圧縮の空気の壁で魑魅魍魎共を遮断し、柾を護る方向へ切り替えた。
「そのまま続けろ、向こうから来る分はこっちで引き受けよう」
「了解!」
 元気よく答えた将之に入れ替わり、ケーナズは飛びかかる胎児の大軍に向けて片手を差し向ける。その青い瞳が一瞬、一際強く輝いたと思うとその指先から発動されたPKバリアがその存在を一蹴した。サイコ能力を生身の人間に向けることは好まないケーナズだが、柾の幻覚、或いは化物相手ならば容赦はしない。
「……凄いな」
 自らもエアガンを発砲しながら彬が感心したように呟いた。
「向かって来る物を跳ね飛ばすならばテニスと同じだ。こちらも堂々と反則技が使えるだけに、余程他愛無い」
「……テニス?」
「趣味だ」

──……。

 セレスティは、一同の健闘振りを微笑ましく「観て」いたが、やがて頃合だろうと水面に向かって両手を広げた。幻想世界全体が、大きな波に包まれ、一同の視界はホワイトアウトした。──グランド・パウゼ。

【1_3zero】

「……8分半経過。ここが山場と思ってたけど……やるじゃん、リンスター財閥総帥」

【1_4】

「……」
 そこは、元いた海岸の、砂浜の上だった。但し、空は明るい。妙に明るい。昼の明るさとは違う。──真っ白、だった。
 一同の横で涼やかに微笑んでいるのはセレスティである。お疲れ様です、とでも云いたげな表情だ。
「礼を述べるべきなのか、それとも今の今まで傍観を決め込んでいたことに文句を付ければ良いのか?」
 ケーナズが皮肉っぽく笑う。
「──千鶴子」
 柾が不意にはっきりとした声を洩した。
「……、」
 一同の視線の遠く向こうに、美しい横顔を海に向けている女性が立っていた。──陵千鶴子だ。
 千鶴子はその声を聞くと、首を傾いで振り返り、柾に向けて妖艶とも云える微笑を浮かべた。誘い掛けるような。
「──……、」
 柾が歩みだそうとする。勝明が慌てたように柾の腕を引き止めた。
「駄目だ、柾さん、あれは違う」
「違う? ──あんた、さっき千鶴子さんに会ったって云ってたよな」
 将之がさり気なく勝明に加勢してしっかりとその腕を両手で押さえ込みながら聞いた。勝明は頷く。
「違うと思う……あれは……似てるけど、俺がさっき会った千鶴子さんとは全然気配が違う」
「違うって、何が?」
「……さっき会った千鶴子さんからは少なくとも悪意は感じられなかった。……でも、あれは……明らかに柾さんを殺そうとしてる」
 ケーナズは柾を睨むと、将之に合図した。
「その幻想狂を押さえていろ。……好都合だ。良い機会じゃないか」
「何を?」
「私がカタを付けよう。……そのバカも、流石にもう一度事実を目の前にすれば目が覚めるだろう」
「……やめてくれ」
「──……、」

 千鶴子の向こうから歩いて来たのは、赤毛の青年だ。
「……鞍馬!」
 ぼんやりした目をしている。そして、鞍馬はケーナズと千鶴子の間に立った。
「あの莫迦」
 彬は珍しく表情を思いきり険しく顰めて吐き捨てた。
 それを避けて通ろうとしたケーナズの腕を、鞍馬がしっかりと掴んだ。
「……駄目だ」
「……、」
 ケーナズはセレスティに向かって低声で訊ねた。
「君、確か出血を止められると云ったな」
「水は私の領域。操るは自在。それは血液という水とて同じ事です」
 セレスティは相変わらず微笑を浮かべたまま答える。
「よし」
 そして彼は再び鞍馬に向き合った。
「まさか、その亡霊を庇う気か?」
「お前が千鶴子さんを殺そうとするならな」
「君まで錯乱したか。その女はもう死んでいる。分かっているのだろうな」
「……2度も殺す事ねえじゃねえかよ」
「鞍馬、お前、取り込まれかかっているぞ、」
 彬が必死で呼び掛ける。事実、──まずい。このままでは柾と同様になるか、あるいは柾程に千鶴子が執着していないだけにすぐにでも命を取られ兼ねない。
「だって、お前等平気なのかよ、いくら死んでたって、柾さんの目の前でもう一度恋人を殺すような残酷な事、出来んのかよ!?」
「……、」
 ケーナズは振り返ると、柾を無理矢理、という感じで押さえ込んでいる将之、そして傍らの勝明、イヴにも声を掛けた。
「君達は柾を連れて離れ給え」
「え? でも──」
「イヴ、柾の気は引けるだろう」
「ケーナズ?」
 突然意趣を変えたケーナズにイヴも不思議そうな表情をしたが、「急げ」と一言、静かに、然し逆らい難い不思議な威力でもって命令したケーナズに、柾を引っ張った将之、横から「柾さん、柾さん」と千鶴子の声で呼び掛けるイヴ、勝明の3人は走って行った。

【1_5EFG】

「ここまで来れば大丈夫かしら、……それにしても、ケーナズ、一体急にどうしたのかしら?」
 イヴが柾を気にしながらも背後を振り返って云う。
「いやあ……もう、俺にはこの世界自体が訳分かんねえ」
 将之はやっと重たい荷物──いかに憔悴して痩せているとは云え、自分と身長のほとんど変わらない大の大人一人と、大剣を両方抱えて走るのは武術に長けた将之にも大荷物なのだ──から解放され、砂浜に大の字に倒れ込んで喘ぐように吐き捨てた。
「……、」
 柾はまたぼんやりしている。穏やかな固定楽想<idee-fixe>に、恋人への想いでも馳せているのだろうか。
「ところであなた、さっき云ってた、あの千鶴子さんとあなたが会った千鶴子さんは違う、というのは?」
 勝明はもと来た背後の方に神経を向け、次に柾を見てから答えた。
「最初にみんなが逸れた後、俺はまず柾さんを探したんだ。俺が、ここへ来てまず一番、自分の目と耳で確かめたかったのが柾さんと、そして千鶴子さんの意思だから。柾さんの
精神はあまりに不安定過ぎて、俺にもよく分からなかった。そんな時に、最初に千鶴子さんの姿が見えたんだけど」
 穏やかだった気配。自分を想うあまりぼんやりと夢を見続けるようになってしまった柾へ向けていた、少し悲しそうな、然し愛情に溢れた表情。
 だが、勝明がさっきの、鞍馬を取り込みかけた千鶴子を見た時にはそれは感じられなかった。むしろ、殺せるものは全て殺し、取り込んでしまおうと云った黒い気配に、勝明まで目眩を起こした程だ。
「え? どういう事だ? 千鶴子さんは二人いるのか?」
「俺、思うんだけど……。……この世界は、そんなに単純なものじゃない気がするんだ。何か……。……柾さんの幻想、千鶴子さんの思念、……他に、この世界に介入できるものって……何だろう、」
 云いかけた勝明は空の遠くを認めて言葉を切った。
「何か?」
「それより、あれ」
 あれ、と元来た方向の空を指差しながら、勝明はまだ大の字で転がったままの将之の肩をぱんぱん、と叩く。起きて下さい、もう一仕事あります、といった所か……。
「……何でもあり、だな」
 それを自分でも確認した将之は頷き、砂の上に突き立てていた大剣を構える。
「ケーナズ達の方ね……何をやったのかしら、彼」
「イヴさん、柾さんを頼む」
 イヴはまかせて、というように将之に魅力的なウィンクを投げると、柾の後ろに屈んでそっと、しかしまた逃げられないようしっかり両手をその肩に置いた。
 まずは柾さん達の頭上に壁を造るのを優先、自分に流れて来たものは避ける方向で行くか──、将之は軌道を計算しながら考える。──何にせよ、戦闘要員が一人で、尚且つぼんやりしている人間を護るのはなかなか厳しい。
 そう──明らかに彼等が元来た方向……千鶴子や、鞍馬、彬、ケーナズ、セレスティのいる方向から、刃と化した「気の断片」が雨霰のようにこちら側へ飛んできたのだ。
「相変わらず訳分かんねぇけど、」
 将之は呟く。とにかく、自分の最優先事項は柾と仲間を守る事だ。……とりあえず、音楽が終わるまで。

【1_6】

 先程までの混沌振りが嘘のような、荘厳な終止に向かう和音が重く響いている。
「無事だな、」
 セレスティと共に柾と、イヴ、勝明、将之の許へ辿り着いたケーナズが確認する。柾は無事だ。が、対する将之は腕に無数のかすり傷を作った健闘振りだったらしい。
「傷を」
 セレスティが手を差し伸べる。将之は、いや、平気、これくらい、と元気そうにその腕でくしゃ、と茶色い短髪を掻き上げた。
「どうせだから治して置いて貰い給え。……後は長い」
「え、まだ?」
 いかにも音楽の集結しそうなアンサンブルに、将之は首を傾ぐ。
「……捻くれているだろう。こんなに物々しい終止をして置きながら、これはまだ1楽章の終わりに過ぎない」
「……全部で何楽章でしたっけ」
 勝明が訊く。5楽章だ、と答えたケーナズの言葉を聞いて、一気に脱力したような将之は大人しくされるままにセレスティの治療を受けていた。
「しかしそうでなくてはこちらも困る。……まだ、柾は何にも現実に目を向けていないからな」
 イヴが苦笑した。
「やっぱり、あくまで厳しいのね、ケーナズ」
「当然だ。見ただろう、不用意な迷いが危険な結果を招いたのを。……だが彼は強い。手許にないものを意思の力だけでこちらに呼び寄せた程だ。……全く、その廃人に見習わせたい」
 ケーナズは向こうから連れ立って歩いて来る、アルビノの大学生と、一振りの刀を下げた赤毛の青年に微笑を向けた。

【1_6zero】

「……なんか滅茶苦茶ではあったけど……意外とタフみたい、彼ら」
 14分を過ぎた。ディスプレイから顔を上げたレイは、その傍らの人物が居なくなり、一人になっていることに気付いた。──しかし、その彼女の手許にはしっかりと新品のDVD-Rメディアが置かれている。
「……ちゃっかりしてるわねー……。これ、事務所付けでいいのかしら」
 ぱり、とセロファンを剥がしながら呟く。ディスプレイの中では、次ぎの舞台となるべく、華やかな建物のダンスホールに幕が下りている。
「そう云えば……『鹿鳴館』って云ったっけ……二人の共演したフィルム」

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幻想交響曲 Phantastische Symphonie Op.14
作曲:Hector BERLIOZ (1803-1869)
作曲年:1830

「病的な感受性と、はげしい想像力を持った若い芸術家が、恋の悩みから絶望して阿片自殺を計る。しかし服用量が少なすぎて死に至らず、奇怪な一連の幻夢を見る。その中に恋する女性は、一つの旋律として表れる──」

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【0932 / 篠原・勝明 / 男 / 15 / 学生】
【1481 / ケーナズ・ルクセンブルク / 男 / 25 / 製薬会社研究員(諜報員)】
【1548 / イヴ・ソマリア / 女 / 502 / アイドル兼異世界調査員】
【1555 / 倉塚・将之 / 男 / 17 / 高校生兼怪奇専門の何でも屋】
【1712 / 陵・彬 / 男 / 19 / 大学生】
【1717 / 草壁・鞍馬 / 男 / 20 / インディーズバンドのボーカルギタリスト】
【1883 / セレスティ・カーニンガム / 男 / 725 / 財閥総帥・占い師・水霊使い】

NPC
【1889 / 結城・レイ / 女 / 21 / 自称メッセンジャー】
【水谷・和馬(みずたに・かずま)】
・今回の依頼人。アマチュア時代から柾と共に創作活動をしていたディレクターの卵。
【柾・晴冶(まさき・はるや)】
・新進の若手として注目を集めていた映像作家。千鶴子の恋人。現在、精神が音楽の世界に取り込まれている。肉体は藻抜けの殻。傍目には多分廃人に見える。
【陵・千鶴子(みささぎ・ちづこ)】
・生前は、古典的な女優然とした気品のある美貌を持つ舞台女優だった。一月程前に轢逃げに遭い死亡。正木の元恋人。彼女の思念が柾を黄泉に引き摺り込む為、彼の精神を閉じ込めている。

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■         ライター通信          ■
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皆様、お疲れさまでした。そして、今回の御参加ありがとうございます。
今回は、個別パートが多くなり、また少し立ち入り過ぎた点まで描写してしまった気がします。
もっと、あくまでシナリオの流れに沿って各PC様をプレイヤーとして登場させた方がいいのかとも迷いましたが、今回は取り敢えずそのままにしています。
その点等につきましても、要望や不満点などをお聞かせ願えたら有り難く思います。
「幻想交響曲」という曲を通して、音楽の恐ろしさというものを描写したかったのですが、なかなかそれは音楽以外の方法では難しいのだと改めて気付かされました。
是非、聴く機会があれば音の一つ一つを「観る」つもりで聴いてみて下さい。全ての音が何かしらの映像に見えます。

本シナリオは全5楽章まで続きます。
後半に差し掛かったら、某ネットカフェや某興信所に関連のある調査依頼が出るかもしれません。
取り敢えず次回作は「第2楽章 舞踏会」となり、9月2日火曜日午前0時から受注窓を開けるつもりでいます。気が向かれましたら、或いは適当な楽章だけでも結構です。覗いてみて下さい。

■ イヴ・ソマリア様

初めまして。
トップアイドルの紅一点、しかも分身化から、二人の男性の恋人役まで忙しく立ち回って頂き、さぞお疲れかと思います。
折角御参加頂いた中でルクセンブルク氏と口喧嘩紛いの事をさせてしまいましたが、他PC様にもお断りしていますように、あの行き過ぎてシビアなルクセンブルク氏はライターのやや独断です。ご了承下さい……。
朝比奈舞さんにもよろしくお伝え下さい。

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