■幻想交響曲 2 舞踏会■
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【1548】【イヴ・ソマリア】【アイドル歌手兼異世界調査員】 |
(第1楽章オープニングより)
「僕はコンピュータを利用して、視聴者がより映像の世界を体感できるようなシステムを考えていました。今まででも、目にゴーグルのように装着して視界のようにスクリーンを見られるようなモニターなんか、ありましたよね。あとヘッドホンなんかもそうです。そういったものの複合体を計画して、医療用の脳波測定器の改造版と組み合わせて作ったのがこれです」
水谷・和馬(みずたに・かずま)と名乗った青年が一同を案内した部屋には、SF映画にでも出てきそうな頭部の半分を覆う設計になっている機械があった。見た目は何かの医療器具のようにも見える。そこから一本のケーブルがコンピュータに接続されており、手前に置いたディスプレイから操作できるようになっていた。
霊の思念によって精神を音楽の世界に取り込まれてしまった青年を救い出して欲しい、という依頼がある。上手くやれば割りのいい仕事になるが、やらないか、といかにも胡散臭い依頼を持ちかけてきたのは、結城・レイ(ゆうき・れい)という東京都内をロードバイクで駆け回ってはどこから情報を仕入れたものか、表向きはその異能を知られる事なく生活している彼らにわざわざ話を持ちかけてくる自称メッセンジャーの少女である。
彼らはレイによって召集され、現在こうしてその青年の自宅であるという高級アパートメントのワンフロアを占めるスタジオ兼住居に居る訳だった。声をかけた張本人であるレイは、依頼者に引き合わせるといつの間にか姿を消してしまったが。
「装置としては、さっき説明したような視界型のスクリーンと外部の音を完全にシャットアウトできるヘッドホン、それから脳波にダイレクトに作用するもので──まあ、これは複雑なんですが微弱な電波、しかし脳の各感覚部分に確実に作用するもの、と考えて貰えばいいですね。それが映像、音響情報と連係して、対象に擬似的な感覚を与える訳です。例えば、木が風に揺れているような映像と効果音だったら、風が身体に当たっているような錯覚を与える、というように。まあ、コンピュータマニアが遊びで作った玩具だったんですよ。柾は、映像の世界に没頭する奴でしたから、彼なら楽しめるかもしれないと思って、彼にやったんです。たまに映画を見たりして、面白い、と云ってくれてましたが。……ですが、例の事故があってから、柾は全く死んだみたいに無気力になってしまって……。彼はある意味、彼女が死んだ事を認めてないようでした。ちょっと言動もおかしかったんです。突然、ふらっと僕を訪ねて来て『おい、千鶴子来てないか』とか聞いたり……」
柾・晴冶(まさき・はるや)は新進の若手として注目を集めていた映像作家だった。映像と音とで白昼夢のような美しい世界を造りあげ、その裏では製作過程で潔癖性なまでのこだわりを見せ、変わり者と評されてもいたが、短編映画やコマーシャルフィルムの監督として将来を期待されていた。水谷は、アマチュア時代から柾と共に創作活動をしていたディレクターの卵で、柾の数少ない友人だった。
その柾の恋人は陵・千鶴子(みささぎ・ちづこ)という舞台女優だった。古典的な女優然とした気品のある美貌で、柾の映像世界には理想的だったのだろう、あるショートフィルムの主演に彼女を起用した時から二人の交際は始まった。監督と女優という典型的な関係ながら、相思相愛振りは中学生の恋愛のように微笑ましいほど純粋だったようで、人間嫌いの噂もあった柾が千鶴子に対してだけは少年のようになる、と専らの評判だった。
「似合いでしたよ、柾も美青年だったし、何しろ自分の言動とか身の回りに関しても映像としてのこだわりがあったから、二人が一緒の所だけ別世界のようにきれいで」
悲劇は、一月程前に起こった。
陵千鶴子の急逝。轢逃げによる即死だった。警察も事故、他殺の面で捜査したが未だ犯人は見つかっていない。事故車だけは乗り捨てられた状態で発見されたが、それは少し前に都内で盗難届けが出されていたものだった。
柾は知らせを聞いて半狂乱になり、落ち着いたと思ったら今度は突然無気力になって自宅に引きこもって仕事も、関係者に面会することもなくなった。その少し後には水谷が云うように精神の破綻も来していたらしい。
「問題はここからで……一週間程前、僕もさすがに不安になって柾を訪ねたんですよ。つまり、この家ですけどね。ベルを鳴らしても、出ない。外から携帯で電話しても、通じない。おかしいと思って、入ってみました。鍵は開いてたんです。居間にもいないし声をかけても返事がないので、捜しまわってる内に、この部屋でこの装置を使って何かを見てる柾を見つけました。ディスプレイで確認したら、それが、この映像だったんです。慌てて、中断させました。それから……ずっとああなんです。何も見えてない、聞こえてないみたいな状態です」
柾は音楽、特にクラシック音楽にも深い感性を持っていた。陵千鶴子を使って、ベルリオーズの「幻想交響曲」を映像化する計画があったらしい。一部、撮影が進んでいたが、完成を待たず千鶴子は帰らぬ人となった。
その製作途中のフィルムが、今ディスプレイに映っているものだ。
陵千鶴子が、白いドレスを着て、微笑んでいる。白くぼやけた背景の中を漂うような美しい彼女は、今となってはその直後の不安な死を予感させるほど儚い幻想のようだ。
「こんな装置を柾に与えた僕の責任です。柾が今非常に不安定な状態だと知っていながら……。これは、精神科を含めて医療の範疇では解決できないと思っています。明らかに、柾の精神は別の世界を彷徨ってる。……これは、あなた方だから云うんですが、見えたんですよ、千鶴子が……フィルムに残っていない場面で、誘いかけるように笑って手招きしてる千鶴子の姿が、一瞬だけ映ったんです。千鶴子が柾を引っ張り込もうとしてるに違いないんです。それで、そういった霊的な物に対抗できる方を紹介して貰えるように方々を訪ねてたんです」
「柾に、もう一度この装置を使ってこの映像と、同時に幻想交響曲を最初から最後まで聞かせます。チャンスは一回しかありません。もし、またこの装置を使って実際の柾にこの曲を最後まで聞かせたら、柾は二度とこっちには帰ってこられないでしょう。ですが、その間に柾にこれは幻覚だ、千鶴子は死んだんだと理解させられれば……あるいは、と思いまして。柾に音楽を聴かせている間に、どうか、柾の彷徨っている世界へ行って彼を連れ戻してきてくれませんか」
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幻想交響曲 2 舞踏会
【2_0zero】
アイスコーヒーを追加し、某ネットカフェの窓際の席で第二楽章の始まりを待っていた結城・レイ(ゆうき・れい)の耳許でこんこん、とガラスが叩かれた。顔を上げ、窓の外から手を振っている人物に目を留めた彼女は非常に厭そうな顔をした。
その人物は、ややして自分もネットカフェの店内に入って真直ぐレイの横へ来た。レイは無視するように殊更じっとモニタを見詰めている。
「相変わらず暑そうな髪だよな」
そう云って彼女の前髪を掻き上げようと伸びて来た彼の手を、レイはぱし、と叩く。
「私の勝手でしょう。それより何か用?」
「なんか冷たくない? 姉貴」
レイの不快指数が一気に跳ね上がったらしい。
「都合いい時だけ姉呼ばわりするの、やめなさい、磔也」
傍らに立っている少年は、結城・磔也(ゆうき・たくや)と云い、レイの弟だ。一応。彼の髪は普通の高校生らしく適当な長さに切られているが、真っ黒なその色と、肌の異様な白さが遺伝子上の二人の繋がりを示唆している。顔は……姉の方がこうなので比べようもない。
「……レイ、水谷和馬って何者?」
「……あんた、また私のファイルに勝手にアクセスしたわね。あんたには関係ない事よ。さっさと帰るか私の視界に入らない席でネットゲームでもやってらっしゃい」
「レイのファイルなんか見ないよ。俺の所に、その水谷が依頼に来たんだ」
「……何ですって?」
レイはスツールから立ち上がり、磔也を問いただす姿勢に入った。
「水谷は私の依頼人よ。それが、何であんたの所に行ってるのよ、草間興信所とかならともかく、なんでよりによってあんたの、」
「知らねーよ。だから聞きに来たんじゃないか。……例によって一人ばかり、バケモノ系オッケーの奴寄越してくれって云うから、さっき送り出しといた」
「……!」
レイは慌ててモニタを覗き込む。今の所異常はないが──。
「水谷の奴……。で、そいつの名前は? 能力は?」
「交換条件」
「磔也、あんた、覚えてなさいよ」
「水谷に云えよ。俺は何も知らずに仕事しただけさ」
「……」
──結局、レイは水谷のファイルへのアクセスコードだけを教え、替わりに五降臨・時雨(ごこうりん・しぐれ)という人間のデータを受け取った。どうせ、隠しても彼ならレイのコンピュータ位好きにハッキングしてしまうのだ。
「……冗談じゃないわよ、こんな危ない奴」
磔也が奥の個室へ行ってしまうと、レイはキーボードに両手を置いた。のんびり見物でもしていようと思ったのに、そうは許さない状況になった。とにかく、こいつだけは何とかしなければ。──実際の所、レイには柾がどうなろうと知った事ではないのだが、──あいつの好きにされるのだけは我慢できない、と店内の奥を一瞥した。
その時だ。レイの携帯電話に着信があったのは。
レイは舌打ちしながら通話ボタンを押す。知らない番号だが、まあそれは日常茶飯事である。
「もしもし?」
若い男の声だった。結城さんの携帯ですか、と問われ、レイはやや苛立ちながらそうですけど、と答える。……忙しい時に。
相手の男は御影・涼(みかげ・りょう)と名乗り、田沼探偵事務所の者だが、篠原は居るか、と訊ねて来た。
ああ、あの依頼書か。全く面倒な。
「知らないわよ、私はただ仲介しただけなんだから。直接の依頼人に聞いてくれない。……水谷っていう奴、……ああもう分かったわよ、今から云う住所に行って。……どんなって、依頼書読んだんでしょう、行きゃ分かるわよ、実際に!」
──『五降臨・時雨 / 男 / 25 / 殺し屋』
【2_0ABCDEFH】
「……なんで、いきなりこんな場面になるんだ?」
時代錯誤もいい所な、明治時代を彷佛とさせる華やかな事この上ない宮殿を前に将之が呟いた。今までの広々とした海岸線や砂浜、廃虚の街や何もない土地とは大きなギャップがある。
それらがイメージ──傍らにいる柾の幻覚の中の映像というのは今思えば納得出来る気もするが、この建物に関して云えば明らかに幻覚のレベルではない。
細部に渡って造り込まれているのだ。イヴ・ソマリア、セレスティ・カーニンガム、篠原・勝明、ケーナズ・ルクセンブルク、陵・彬、倉塚・将之、草壁・鞍馬が歩く長い回廊一つ取っても、真紅の天鵞絨の絨毯から脇を固める装飾品の類、大理石の床の細かな模様から色合いに渡る細部までがはっきりと映し出されて居た。
ここへ来て幻想とは俄に信じ難くなった。この風景は、現実と思った方が自然な程の完成度である。
然し、今まで開けて居た不安定な空間の海岸線も消えてしまった。この建物の回廊に残されてしまった一同は、──、即ち、先へ進むしかないのである。
仕方なく、柾を合わせた8人連れ立ってぞろぞろと大仰なカーペットの上を歩き始めた。背後の音楽は、新しい場面の幕開けを仄めかすような重々しい効果音。
「……どうして、これがこの幻想の中に存在しているのかしら」
イヴがぽつりと呟いた。
「心当たりがあるのか?」
ケーナズに問われたイヴは、……うん、と曖昧に頷きながら視界を360度巡らせ、……やっぱり、と呟く。
「『鹿鳴館』のセットだわ」
「鹿鳴館? 三島由紀夫のあれか?」
言葉の美しさにこだわり続けた作家の小説の題名が飛び出せば黙っていられないのが彬だ。今になって急に辺りを細かく観察し始め、つい群れを離れて遠くへ消えそうになるのを鞍馬が追って引き戻した。
「何だ」
「危ねぇだろうが、また何が出て来るか分かんねぇのに、一人で離れんな、」
御節介な、とでも云いたげな目で彬は鞍馬を見ていたが、先の今だ。大人しく連れ戻された。
「『鹿鳴館』っていうのは、柾さんと千鶴子さんが最初に共演した短編フィルムなの。そうね、多分、そのあたりの世界観も反映されてたと思うけど、基本的にはストーリーよりも映像でこうした古いダンスホールで繰り広げられる舞踏会のイメージを表現した、って感じかな。私も見たけど、これは、完璧にそのフィルムの中のセットよ」
「……そうか、この幻想交響曲にそのフィルムが存在するのはおかしい、という訳だな」
「だって、これは幻想交響曲用の映像ではなかったはずだもの。そうでしょう、幻想交響曲用の映像は最初に見せて貰った千鶴子さんの映像と、将之君達が見たっていう試し撮りのビデオ。さっきまではそれだけで世界ができていたけど、これは……」
「でも2楽章は『舞踏会』って云うんだろ、単に使えそうだったから昔のフィルムでも使う気だったんじゃねえの?」
将之が柾の腕を引きながら気楽に云った。本人に聞ければ良いのだが、傍らの柾にはどうせ聴くだけ無駄だ。
「……でも、そんな単純な事を柾さんがするかしら……」
「段々、柾のイメージとは関係のない物までが介入してきたと考えるべきか……」
ケーナズは柾を眺め、次に
「何にせよ、用心は必要だ。まさか、まだ迷っている人間が居はしないだろうな」
と強くも静かな口調で云った。
「……迷い、とは少し違うんだが」
彬が静かに口を開いた。
「優しい千鶴子さんと怖い千鶴子さん、というのが引っかかる。もし千鶴子さんが二人いるなら……しかも優しい千鶴子さんがいるのなら、或いは状況が変わって来る」
千鶴子も柾も傷つけずに結末を迎えることができるかも知れない、……そう甘くは行かないだろうが、と彬は考えたのだ。
「千鶴子さんが現れたからと云って、闇雲に攻撃するよりもまずその気配を確かめるのが懸命だと思う」
「それも良い。だが、千鶴子には君も痛い目に合わされただろう。もしもその気配が悪いものであれば、迷う暇はないぞ」
千鶴子さんだけじゃなく、あんたも噛んでたけどな、と思いつつ鞍馬はそれを聞いていた。だが、鞍馬は今ではケーナズに感謝している。
──あんたのお蔭で、また彬を護る事ができる。……ありがとな。
……等と、思ったことは傍らの冷たい美貌の男に云える筈もないが。鞍馬も、千鶴子を傷つけたくない気持は同じだ。が、彬に危害を加えるのならば迷いはしない、という決心は固めている。
黙って最後尾に続き、そんなやりとりを聞いていたセレスティだったが、やがて勝明に大丈夫ですか、と尋ねる。勝明は明らかに神経を尖らせていた。
「……厭な予感がする」
ケーナズにも第2楽章のあらましは聞いた。……まあ、どうせ、この予感は的中するんだろうな、と半分諦めていたが。
「……、」
セレスティがふと微笑した。
「何がおかしいんですか」
「いいえ、……御安心なさい、あなたにはこの楽章は精神的にショックが大きいかもしれませんが、それを補って余り有る存在が見えます」
「……はあ、」
勝明は今一つこの男の正体が掴めないながらも、とりあえず曖昧に答えて置いた。
「……、」
回廊が大きく、重厚な装飾の扉に突き当たった。
「……行くぞ」
【2_1AD】
「踊って下さらない?」
ホールは軽やかに舞い踊る男女で溢れ返っていた。先陣切ってそこへ飛び込んだケーナズが黙ってその様子を窺っていると、不意に背後からセイレーンの甘い声。
「……、歓んで」
「……、」
二人はやや黙ったまま微笑み合っていたが、不意にケーナズが「失礼」と彼女に断って片手を上げた。
「……、ケーナズ!」
「折角レディからお誘い頂いたのだ、せめてもの礼儀だ」
イヴが口許に片手を当てて目を瞬かせて見つめている先は、タキシードで正装したケーナズである。誰かさんのように御神刀を言霊に任せて精神世界へ呼び付けるなどと云う常識破りはできないが、一定時間の身なりを細工する位ならお手の物である。
「じゃあねえ……私も」
イヴは少し考えた後、その髪と同じ淡い水色のタンクドレスの裾を翻してくるり、と回って見せた。
他の連中の唖然とした視線を感じつつ、セイレーンの娘とドイツ貴族の末裔というこの上無く優雅で麗しいカップルは群集の中に入って行くと、手を取ってウインナワルツのステップを踏み始めた。
「……何考えてんだ、あいつら……。……って云うか何であんなに上手いんだよ」
柾の護衛を任された形になった将之が呟いた。
「女性から誘い掛けるなんて、貴族様にしてみればなんて非常識って所かしら?」
悪戯っぽく舌を出してくるり、と回ったイヴを抱き止めたケーナズは微笑んで低声で云う。
「……正直、少し嬉しかった」
「……?」
「あの後だからな、まさか君が私と踊って呉れるとは思わなかったよ」
「……ケーナズは、ケーナズよ。……そんなクールな所まで魅力になっちゃうんだから、ずるいわよね」
「おや、君が云えた事なのか、それは?」
「意地悪」
何も二人は、ここぞとばかりに只ソシアルダンスを満喫しているロマンチストではない。そんな、恋人同士のような会話を微笑と共に交わしながらもそれぞれの視線は敏捷こく動き、周囲の気配と、柾の安否の確認に忙しい。
将之が片手に大剣を担ぎ、もう片方では柾の腕を確りと掴んで呆れたような視線をこちらに向けているのが見える。
「頼もしいわね、彼。……あら」
イヴが不意に繋いでいない方の手を耳に当てた。
「──……あらそう、じゃ、舞ちゃんよろしく☆」
「……イヴ?」
「うふふふ……☆ ちょっと、元の世界を舞ちゃんに調べて貰ってるの」
「……ああ、」
ケーナズは降参だ、というように苦笑した。舞……確か朝比奈だったか。イヴが趣味の探偵活動を街中で行う時の為の変装した分身の名前だ。
「やはり君はとても魅力的だよ。美しくて強い立派な女性だ」
「いやあね。所で、ケーナズも何か外で知りたいことはある?」
「……そうだな、」
ケーナズはやや眉を顰めて考え込んでしまい、動きの止まった腕をイヴに軽く引っ張られてリードを再開する。
その二人の視界に何故か同じくカップルになって踊っている彬と鞍馬が映った。二人は顔を見合わせた後、ケーナズはやや含みのある笑みを、イヴはウィンクを彬達へ送った。
「……気になるとすれば、彼の云っていたストーカー男の事だ」
「将之君へ依頼に行ったって云う?」
二人は同時に、群集の向こうに垣間見える将之へ視線を遣った。
「……あの中学生が、柾の幻覚と千鶴子の怨念以外にもこの世界へ介入している物があるかもしれないと云った時から少し引っ掛かっていたんだ。……それほど迄に死んだ女優に執念を持ったファンの存在……というのも無視はできないだろう。……それにしても、」
ケーナズは護衛付きでのんびりとホールを眺めている柾を一瞥し、溜息を吐いた。
「死んでしまった哀れなストーカーの方が、ただ現実逃避をしている柾よりもまともなことをやっているというのはお笑いだよ」
「相変わらずねぇ。でも……了解、実は私も、千鶴子さんの関係者が気になって調べようと思ってた所」
そしてイヴは再び朝比奈に指示でも送っているのか、目を閉じてステップをケーナズのリードに任せたままにしていた。
……だが、その動きが急に止まった。
「……ケーナズ……、──……上!」
「!!」
ケーナズは直感で、顔を上に向けるより先にイヴを軽く抱き上げると横様にその場を飛び退いた。
「……、」
──赤い影に見えるものが、降って来た。
【2_2ABCDEFGH】
突如としてダンスホールの中心に出現した「侵入者」の気配に、各所に散らばった全員が一斉に顔色を変えた。──否、2人ばかり表情を変えなかった人間もいる。何にも気付いていない柾と、先に展開を読んでいたセレスティだ。
因に、ウインナワルツを踊り続けているホール内のカップル達も何も気付いた様子は無い。──気付いていないと云うよりは、関係がない、と云うべきか。まるで、何人たりとも彼等の存在に干渉できないとでも云うように。自分達の中心に、赤い長髪を靡かせ、片手に長刀を手にした赤い瞳の青年が突如出現して立っていても見向きもせず、イヴを抱きかかえてそれを避けたケーナズが派手にぶつかろうと倒れもせずそのまま踊り続けている。
──関係のない事は通り過ぎる、というセレスティの言葉がこんな所へ来て具体例を示した。
「何だ、あれ!」
鞍馬が彬を後ろ手に庇いつつ叫んだ。……柾さんはどうした? と思いながらそういう涼自身も勝明を優先的に庇う気配がありありと伺える。ケーナズはイヴを抱きかかえたままだし、セレスティは一人余裕だしで、結局柾を自分の背後に庇ったのは将之一人である。
赤い長髪の「侵入者」は、何やら聞き取れない低い声で呟いていたが、やがて視線を廻らせると身体を柾と将之に向けた。──片手にはやたらと長い刀が一振り。
ゆっくりと、一歩が踏み出された。
「……仕事しようぜ、皆……」
将之は一同を横目で一瞬だけ一瞥したものの、大剣「破神」を構えると柾との距離を計算しながら間合いを詰めた。
──来る、な……。
そう覚悟を固めた将之と「侵入者」の赤い瞳がぶつかった瞬間、彼が動いた。
「……、──!?」
──速えッ!
瞬間移動したとしか思えない速さだった。破神を振り被って受ける姿勢を取ったが、間に合わない、と判断した将之が咄嗟に柾を保護するべく空気の壁を発生させたのは思考の速度よりも武術家としての勘だ。
「──……!」
連続斬撃だ、と気付くと同時に彼の二の腕が十センチばかりぱっくりと開き、鮮血を噴き上げた。同時に激しい熱が腕全体に走る。
「……熱っつ……、」
受け切れない、将之は柾を片手で突き飛ばすと同時に風の刃を飛ばした。
「侵入者」はそれを受けて一旦飛び退いたが、完全に見切っているようで表情に余裕がある。
将之の風の刃は「侵入者」ではなく、悲鳴も上げず表情一つ変えずにばっさりとその存在を断たれて消滅していくだけのホールのカップルにぶち当たった。「侵入者」が障害物と判断したらしく斬り捨てられたダンサーは炎上しながら消えて行く。
──と、彼がす、と首を傾いだ。その傍らを彬の発砲したBB弾が掠める。
「──……、」
「彬っ!」
「侵入者」が彬を振り返る。
「……雪月花、」
鞍馬が赤い瞳を煌めかせ、口唇を僅かに動かしてそう呟くとその右手にぼんやりと赤い光が集まり、一振りの御神刀が現れた。それを見た勝明を追って来たらしい青年──御影・涼が、へえ、と感心したように呟く。
「そうか、そういう手があったか」
じゃあ俺も、とその手の中に彼の霊刀「正神丙霊刀・黄天」が具現化した。
この、一見穏やかそうに見える青年、意外と好戦的なようである。ケーナズと鞍馬に勝明を頼むと、自ら「侵入者」へと駆け出して行った。
──これもまた速い。涼は、剣道で云えば全国大会レベルの腕の持ち主なのである。身体能力も高くその太刀筋や身のこなしは神速で、「侵入者」の速さと、勝るとも劣らない。
ホールの中心では神速の打ち合いが繰り広げられている。その間に、将之は突き飛ばしっ放しだった柾を再び助け起こして体制を立て直す余裕を得た。
残った6人は、ケーナズと鞍馬を前面に配置し、イヴ、勝明、セレスティ、彬を庇う体制に入った。彬はやや不本意そうではあるが、後方支援だと自分に云い聞かせる。下手に動かない方が懸命なのだ。柾の事も気になるが、固まるのは危険だと誰もが判断している。特に、あのやたらと素早い「侵入者」を相手にしては。
「……セレスティさん」
勝明がセレスティの腕を掴んだ。
「……」
「……千鶴子さんは」
──やはり、この子は気付いていたか、とセレスティは思う。先程、彼の前に千鶴子が現れた事を。
「──穏やかでした。きっと、あなたが会った彼女と同一の存在でしょう」
「じゃあ……、彼女は一体──」
云いかけた勝明の頬に鋭い痛みが走った。──一種流れ弾と云っても良い、神速で打ち合う刀の間に発生した衝撃波が彼の頬を浅く掠めたのだ。
「……、」
「勝明! 離れるなと云っただろう!」
涼が一旦「侵入者」から離れながら怒鳴った。ケーナズが勝明とセレスティの腕を纏めて、相手があれではやや心許ないが一応張り巡らせてあるPKバリアの内側へ引っ張り込む。
「まあ、大丈夫?」
眉を顰めたイヴに、勝明は黙ったまま頷いた。そして、未だ物問いたげな視線をセレスティに向ける。セレスティは、勝明の頬に手を当てて傷を癒しながら低声で答えた。
「君と、先程私が遭遇した彼女が恐らくは本来の彼女の思念体と思われます。──然し、……君ならもう分かっているでしょう、彼女はこの世界に中心たらざる存在である事」
「……やっぱり」
勝明は相変わらず突如中心に出現した戦場に構いもせず踊り続ける「存在」達の向こうに柾を見遣った。──だとしたら、やっぱり、この世界は柾個人の幻覚だけには無い。
「……この世界に介入できるもう一つの存在……」
「……、」
「彬、動くなよ」
そう云い置いて涼と将之を支援するべく駆け出しかけた鞍馬の視界が、──否、ダンスホール全体の動きが静止し、彼は驚きつつ足を止めた。
その瞬間、音楽と、幻想世界全体の映像が急に「一時停止」したのだ。
【2_3】
「はいはいはい、ストップ!」
更に有り得ない人間の出現に一同は目を見開いた。
「一時停止」状態で運動を止めているダンスホールのカップル達の間を縫って走って来て、一同──イヴ・ソマリア、セレスティ・カーニンガム、篠原・勝明、ケーナズ・ルクセンブルク、陵・彬、倉塚・将之、御影・涼、草壁・鞍馬と柾達──と赤い髪の侵入者の間でぱんぱん、と手を叩いたのはレイである。
「何故君がここに?」
「ちょっと、あなたこの原因には噛んでないって云わなかった?」
「……あ、あの声、電話の……」
「……、」
レイはまあまあ、と一同を宥めるように掌を下に向けてひらひらと振った。相変わらず、鬱陶し気な前髪の下の口唇は気楽そうな笑みを浮かべてはいるが、妙に余裕のあった態度が失われ、やや忙し無いというか、焦っている様子が伺えた。
「悪いわね、ちょっとした手違いがあったのよ。あ、勿論私はただ見てただけなのよ、でも途中で手違いに気付いたものだから、もしかしてこんな事態になるかもと思ってちょっと仲裁がてら、お邪魔した訳。あ、あんまり長い時間取れないのよ、この『一時停止』。だから、あんまり深く考えずに聞いてね」
そうは行くかと文句の飛び出しそうな一同に素早く背を向けると、レイは赤い髪の侵入者にまた忙し無く駆け寄って、ぽん、とその両肩を叩いた。
「もー、やあねー、早まっちゃって。2楽章が終わるまで待っててくれればちゃんと説明したのに、聞きもしないでさっさと入っていっちゃうんだから焦ったじゃない。あ、紹介するわ、彼、五降臨・時雨君。凄く速かったでしょ、彼、秒速2000mで運動できるのよ。そちらの御影・涼君と同じ、新しい仲間よ。ま、追加投入要員てとこね」
とひらりと上向けた手の先で侵入者、時雨を指し、かと思うと今度は涼に向かって「あら先程はどうも、ごめんなさいねー、ちょっと手が塞がってたものだから」とわざとらしい程愛想良い挨拶をする。
「……大方、彼女だろう、勝明を勝手に連れ出したのは」
「……、」
諦めたような涼の声に、勝明もまた半分何かを諦めた顔で頷いた。
「……じゃ、そいつも柾さんの救出に来たって事か?」
未だ御神刀を構えたまま鞍馬が訝し気に問う。仲間と柾と、何より彬の命が懸かっているのだ。適当に丸め込まれる訳には行かない。
「当たり前じゃない、草壁君、頭良いわねー、」
「放っとけ!」
「あら、倉塚君怪我してるじゃない、やだ、痛そー! ごめんねー、私の連絡が行き届いてなかったばっかりに。彼を責めないであげてね、ほら、よく見たら凄く優しそうな顔した人じゃない。ね? 五降臨君、子供とか動物に凄く好かれるものねー、あ、ドクター、ドクター!」
繰状態だ……、と将之が呆れて文句も付けられない程矢継ぎ早に喋り、レイはセレスティを「ドクター」呼ばわりして手を振る。それでもセレスティは静かに将之に歩み寄るとその腕を取って衣服ごと開いた彼の傷口を水霊の力で持って治癒した。あくまで、彼をドクター呼ばわりしてぞんざいに呼びつけたレイの為ではなく、将之の安全の為だ。彼は、仲間には──時には危険なほど──優しく愛情を向けるのだ。「どうも、すいませんいつも」と会釈した将之にセレスティは微笑を返す。
「……ボク……は……、……あの人……から、……彼が目標……」
時雨が相変わらず独り言のように呟いたのを聞き咎めたレイはまたしても慌てて時雨に駆け寄った。
「そうそう、そうなのよ。彼、柾・晴冶さん。ちょっと今頭が飛んじゃってて、あ、って云うか私彼も『一時停止』させちゃったか、ともかく挨拶はできないけど、彼があんたの護衛する人! そう、目標! 分かった? じゃ、しっかり彼を護ってあげてね、期待してるわ」
「……でも……君……はあの人じゃ……」
時雨を振り返ったレイの前髪の奥が一瞬きらりと光った──気がする。
「え? やだ、私があんたに依頼したんじゃない。……あ、そうそう、磔也ね、磔也! アイツったら厭あねー、あれ、頭悪くてすぐに勘違いしちゃうのよ。全く、手伝ってくれたのはいいけど全然正反対の内容伝えてちゃ話にならないわよね。だから私がわざわざ出向いたんだけど。だから!」
レイは一瞬頭に手をやってふらりとよろめいたが、ともかくやっつけ仕事をするように「だから」と一同と時雨それぞれに両手の人さし指を向けてそれを行き来させた。
「あんた達は仲間なの。今からは9人で力を合わせて頑張ってね。ほら、キリのいい人数じゃない、バレーのチームと一緒で」
「……君……本当に……」
「だから、磔也は私の弟! 姉思いの優しい弟が仕事を手伝ってくれたつもりが頭悪いもんだから全然逆な内容を伝えちゃっただけ!」
いいわね、じゃあしっかり柾を護るのよ、あんたも護衛だからね、と一喝し、レイはまたそそくさとその場を後にした。
そして、レイが姿を消すと同時に幻想世界と音楽も動き出した。
──狂乱のワルツが、である。
【2_3xxx】
「……頭悪いって……俺より知能指数低い女に云われたかねぇよな」
磔也は、一見居眠りでもしているように見える、ノートパソコンを前に机に突っ伏したレイの後頭部を軽く突つきながら呟いた。レイは、起きる気配もない。当然だ、彼女の意識は今このモニタに映し出された幻想世界の中に居るのである。
「……五降臨、だっけか……。……いいもん見せて貰ったけど、常識飛んでそうだったしな……。……そこに付け込んで味方に引き摺り込むたあいい度胸してるよ、姉貴も」
そして、ダンスホールから離れると出口を探して逃げ惑っているレイをモニタの中に眺める。
「……仕方ねえなあ、」
磔也はノートパソコンを引き寄せると、キーボードに指を置いた。
【2_4A】
「結城さん、あなた、そんなに慌てて帰る事ないんじゃない? どうせなら2楽章の終わりまで居ればいいのに。将之君達も居る事だし」
イヴは静止した人込みの中を、明らかに慌てた動作で何かを探すように駆け回っているレイの背後に立って声を掛けた。
「……え? ……あ、遠慮しとくわ。……何より、ほら、私あんたに頼まれた映像のレコーディング見張ってなきゃ。途中でフリーズでもしたら大変な事に」
……完璧に逃げる気ね、とイヴは思った。つまりは少なくともこの後、2楽章の間にも何か一騒動起きるに違い無い。
「……本当にあなたを信用していいのかしら?」
「当たり前じゃない、だからこそ事故が起こる前に仲裁に来たんじゃないのよ」
「……、」
「……ねえ、」
レイは心無しかふらついている。どうせ無茶な方法で入って来たのだろう。だが、最後に彼女はイヴを見ると「信用と云えば」と低声で囁いた。
「──水谷を信用しちゃ駄目。私、一杯喰わされたかもしれない」
「……、」
──現実世界。
都内某所のスクランブル交差点前の電話ボックスで、一人の少女が受話器を耳に当てていた。膝丈のぱっとしないデザインのスカート、茶色い二つに括った髪、眼鏡、──朝比奈・舞である。
「──……もしもし、草間さん? ……例の件、報酬は私の方でどうにかするから急いでくれない?」
シュラインと、田沼という探偵が今調査中だ、結果が出次第そちらにも伝える、という言葉を聞くと彼女は受話器を置いた。
「……、」
姦しい電子音を響かせながら吐き出されたテレホンカードもそのままに、彼女はその伊達眼鏡の奥の視線を目の前の交差点へ向けた。
死亡事故発生場所、信号注意。そんなまだ新しい立て看板が立っている。
【2_4zero】
「……、」
レイはゆっくり突っ伏せていた顔を上げる。──助かった、と思う彼女の横には一人の少年。
「──磔也」
「……全く無茶するよなぁ。大急ぎで自分のヒトゲノム情報をあっちのコンピュータに送り込んだ上で音楽をクラックして一時停止、しかもそこに意識だけで割り込むなんて」
レイは手櫛で髪(特に前髪)を整えながら、呆れたように腕を組んでいる磔也から顔を背けた。
「元はと云えばあんたが悪いんじゃないのよ」
「……あ? 最終的にレイの意識を引っぱり出してやったのは誰だよ」
「それぐらいしてくれて当然じゃないの? あんたがちょっかい掛けて来なければ、私だってあんな死にそうな目、好き好んで見るもんですか」
「知らねーっつってんのにさ。……所で、あっちの連中、結構ヤバいんじゃねぇの」
磔也はモニタをとんとん、と指先で叩き、中に居る9人を指した。
「何しろ出入り口を守ってる奴が──」
「……分かってる」
レイは氷が溶けて温く、薄くなったコーヒーを一気に飲み干し、じっとディスプレイを睨み付けた。
──柾どころじゃないわよ、あんた達。
「……レイ」
「何よ」
「賭けようか」
「……」
「連中が柾を連れて戻って来られたらレイの勝ち。柾が死んだら俺の勝ち」
「受けようじゃない」
レイは享楽的な表情で云う磔也を一瞥した。
「……面白くなりそうだな」
親もレイに任せるよ、姉貴、と云い置いてポケットから無造作に取り出した紙幣の束──どうせ水谷からの前金か何かだろう──をレイの前に放ると、磔也は再び奥の個室へ戻って行った。
「……滅茶苦茶になるわよ、この先」
イヴ、セレスティ、勝明、ケーナズ、彬、将之、涼、鞍馬、時雨の9人をモニタの中に見詰めながら、レイは呟いた。
【2_5】
「皆、ちょっと良い?」
一同の中へ戻って来たイヴが声を掛けた。
「舞ちゃんの中間報告」
──ネットカフェを出、調査を開始した朝比奈舞、つまり現実世界担当のイヴの分身は、まず電話での聞き込みを開始した。主に芸能関係者や、舞台関係者にイヴ名義も偽名も使い分けて、陵千鶴子の男性関係及び水谷和馬の女性関係について訊ねて回った。
イヴには、一同を前に説明を行った和馬がマイナーな舞台とは云え人気女優の陵千鶴子の事を「千鶴子」と名前で呼び捨てたのが引っ掛かったのだ。馴れ馴れしいと云うか、親し気な感じもする。──それに、確か彼は女優の誰かさんに熱を上げているという噂。
或いは、千鶴子。千鶴子は本当に柾一筋だったのだろうか。裏で遊んでいた可能性は? 皆の云う、柾を「殺そうとする千鶴子」と「護ろうとしている千鶴子」。それぞれの正体を知る為にはその辺りの裏付けが必要だ。
──。
「千鶴子さんは、本当に柾さん一筋だったみたいね。ほんと、それこそ『中学生の恋愛』みたいな微笑ましい光景だったみたいよ。誰かさんみたいな『自称恋人』は居ても、柾さんの他には一緒にお食事する男性さえ居なかったみたい。問題は、水谷さんの方よ」
──あ、イヴさん? どうされたんですか?
「ちょっと聞きたい事があるんだけどぉ、あのね、ディレクターの水谷さんって居るじゃない、水谷和馬さん。実はぁ、わたしの友達が水谷さん、いいなー、なんて云っててぇ、……彼、フリー?」
──水谷? ……わざわざ……、……変わった趣味ですねぇ。フリーはフリーですけどね。有名ですよ、見向いて貰える筈もない美人女優に御執心って」
「あ、じゃあ好きな人はいるのね。誰?」
──……色んな意味で、絶対無理なんですけどね。……陵千鶴子ですよ、先月亡くなった女優の。
「──……!」
──。
「どういう事かしら? 水谷さん、柾さんと親友でありながら、陰ではずっと千鶴子さんに御執心だったのよ。そんな事、彼、一言も云わなかったわよね。──それに、」
陵・彬から千鶴子が同姓である事について調べて欲しいと云われた件について、彼女は真っ先に草間興信所へ向かった。身許調査と云えば興信所である。旧家の人間にそんな立ち入った事を聞いても答えてくれる筈もないし、何より普段から殺到する怪奇絡みの依頼に頭を悩ませている草間が「普通の依頼が来た」と喜ぶだろう。
だが、その為に向かった彼女はそこで、奇遇としか云い様のない場面に直面した。
草間が彼女に見せた調査依頼書、その依頼者名は調べるまでもなく陵千鶴子の兄、陵・修一(みささぎ・しゅういち)となっていたのだ。しかも、彼等の母は旧家の実家を飛び出して東京でシングルマザーだったという事も知れた。
陵の依頼内容もまた、イヴがこれから調査しようとしていた事そのものである。陵は千鶴子殺害犯人の目星を付け、警察では証拠が上げられないので霊的な方面よりの調査をして欲しい、と云ったのだ。
そして、その時たまたま興信所に居合わせたのは今や草間興信所の雑務係ボランティアと化したお馴染みのシュライン・エマ(しゅらいん・えま)と、田沼・亮一(たぬま・りょういち)という探偵。
「亮一!?」
「……亮一さん、帰ったんだ」
涼がはっと顔を上げた勝明に、戻ったら探してくれるよう置き手紙を残して来たんだ、と教えた。
「勝明君を探しに来てたのよ、大丈夫、勝明君は無事って伝えて置いたから」
イヴは既に自分が得た情報を提供した代わりに、その件の調査を急ぎ、結果が出ればすぐ伝えてくれるように頼んで興信所を出た。
「今頃、シュラインさんと田沼さんが『彼』の調査を始めてる頃よ」
「……大分、事情が込み合って来たな」
ケーナズが目頭を押さえながら呟いた。
「……、」
彬は結果的に、実家に連絡が行かずに済んだ事に安心したらしい。調査の為なら私情は挟んでいられないが、それは鞍馬も同様である。……この事が楓に知れたらどうなるか。
「千鶴子さんは、柾さんを殺そうとはしてない?」
将之が、再び柾の腕を掴まえつつ呟いた。そして、柾に引けを取らないほどぼんやりして話の輪から外れている時雨に「お前も注意してろ」と釘を指す。
「……え……?」
「え、じゃねえよ、あんたも柾さんの護衛になったんだろ?」
「……分かった……」
本当かよ、と呆れる将之の耳に、「じゃああの千鶴子は一体何者だ?」と云うケーナズの声が響いた。
「……、」
──現れた。陵千鶴子だ。流石の時雨を含んだ全員が目を向けた先に、赤い天鵞絨の華やかで扇情的なドレスと口紅を纏った千鶴子が微笑している。
「──あの気配は明らかに不穏だぞ」
「──円の中心」
セレスティが呟く。
「さっき君が会ったという千鶴子と、気配は?」
彼は首を振る。
「違いますね、──明らかに。衣装も違います。恐らくは、彼女の云っていたフィルムの中での衣装では? 私が会った時には、最初に見た『幻想交響曲』の為の映像と同じ衣装、そしてこの世界の中心を離れた場所に現れました」
「あの怨念が、このホールの中心に現れたと云う事は──、」
誘い掛けるような千鶴子の微笑みに吊られるように、今迄何が起こってもにこやかに踊り続けて居た男女達は既に正体を現した。但し、元々それが「正体」としてしか映っていなかった勝明の目には変化はない。骸骨、或いはそれ寸前まで痩せこけた少女達が耳許まで口唇の裂けた口許で高く、ホール全体に反響する笑い声を一斉に上げ、気の狂ったとしか思えない狂乱の体で踊る。
「……あれも、ムンクだな。『死の舞踏』──」
懐からメモを引っ張り出そうとした彬を、「彬、今んとこプチ情報は要らねえ」と鞍馬が制止した。……そうでないと、涼までもが「ああ、その絵なら俺、昔京都に来たのを見たよ、修学旅行で──」などと相槌を打ちかけていたからだ。
ケーナズは一同を振り返った。
「迅速に行動するぞ。役割分担だ、イヴ、篠原君、カーニンガム氏、彬君は柾を連れて出口を捜せ。倉塚君と御影君は皆の護りに重点を」
「俺と、こいつとあんたは!?」
時雨を指差しながら叫んだのは鞍馬だ。
「我々であの怨霊を喰い止める!」
「俺もそっちへ移動させて貰う」
そう云ってエアガンを抜きながら彬が歩み寄った。
「莫迦、危ねえよ」
「あの怨霊の方には俺も借りがある」
彬は、押し戻そうとした鞍馬を払い除けた。
「好きにし給え、君に何かあればどうせ彼は柾を放り出すだろう、──行け、」
「気を付けて!」
そして、全員が二手に別れて散った。
【2_6ABCFG】
「くそっ、何でこう都合良く出口が消えたりすんだよ!」
将之はその正体を現し、柾に触れようとぞろぞろと手を伸ばして来る化物達を大剣で薙ぎ払いながら舌打ちした。
「入ってきた時は、確かにここに扉が合ったはず、それが、……まるで俺達を閉じ込めて逃がさないように消えている──、……やっぱり……。……!?」
後ろから襟首を引っ掴まれた勝明は言葉を失う。涼だ。
「ぼんやりするんじゃない」
珍しく厳しい表情で、涼はぼんやりとしていた勝明に触れかかった骨のような少女の手を「正神丙霊刀・黄天」で切り裂く。生者に手を出そうとする者には容赦しない。勝明を下ろすと、更に自ら踏み込んだ。──神速の太刀筋が化物を一閃する。
「その、刀を」
セレスティが貸せ、と身振りで示す。
「何を?」
「すぐお返しします」
訝りつつも涼が差し出した刀を短く礼を述べて受け取るが速いか、セレスティはその刃で自らの両掌を傷つけた。
「セレスティさん!?」
そう、叫んだ勝明をまたも引き止めた涼に「黄天」を返すと、セレスティは何もない壁にその手を押し当てて目を閉じた。
──水よ、私の血を以てその道を開け。
出口が消えた事を悟ったセレスティは気配を集中させたが、彼がその水霊の力を動かすに必要な水がこの場所には存在しなかったのだ。代用できる物と云えば──そして、その為に犠牲を払わなければならないとすれば。
壁に押し当てた手から、一際激しく鮮血が噴き出した。それが壁に赤い影をはっきりと映したと同時に、──空間が、歪んだ。
「……早く」
「……、」
呆然としている勝明を、涼が引っ張る。この際だ、厳しくとも冷静に優先事項を見極めなければならない。
先にセレスティをその「道」へ促し、イヴと将之にも声を掛けて涼は勝明の肩を掴んだまま飛び込んだ。
「イヴさん!」
自らは柾を留めようと触手を伸ばす化物を切り裂く事で手一杯の将之が怒鳴る。イヴはええ、と叫び返し、勿論柾の手を引こうとしているのだが──、柾は、あちらの4人が相手にしている千鶴子に気を取られて、ぼんやりしている癖にこの場所に留まろうと、こんな時に限って都合よくしっかりと足を留めている。
「柾さん、ちょっと、早く! あれは偽者よ、柾さんを殺そうとしているのよ!」
「──……はあっ!」
──キリがない。将之は大剣を床に突き立て、両腕を伸ばした。そして、最大限の力で辛うじて自分と、柾とイヴを化物から遮断できるだけの風の壁を巡らす。
「……、」
──早くしてくれよ、……将之の額に汗が滲む。壁を擦り抜けようとする邪気を諸に受けた掌が電流を受けたように痺れる。
「柾さん!」
何て仕方のない、と焦るイヴの脳裏を、セレスティの言葉が過る。──柾を、「護ろう」としていた穏やかな千鶴子。
「……晴冶さん、」
実際にイヴは見ていない。だから、その演技はセイレーンとしての、或いは天才的な女優としての彼女の勘だ。柾が驚いたように振り返る。──その目には、明らかな生気が宿っていた。
「行きましょう、私が付いてるわ、何も怖くない」
「──……千鶴子……、……でも、俺は……」
でも、も何も在ったものか。イヴはその隙に柾を千鶴子ならば死んでも出せないような力で「道」へ引き摺り込んだ。
「よし、」
限界だ。将之もそれを確認するとすぐさま大剣を抜いて最後の一閃を払い、自らも「道」へ飛び込んだ。
【2_6zero】
「よっしゃ!」
レイは思わずテーブルを叩いて声を上げ、店内の視線を集めたのに気付いて沈黙した。絶妙のタイミングで携帯電話が鳴る。
「はい?」
──ZERO、どういう事だこれは。
「どうにもこうにも。なかなか頼りになる連中じゃない。それをお望みじゃなかったかしら?」
──お前までがサーバに割り込んできた云い訳をどう付けるつもりだ。……予定外だ、完全に。
「……本性現したわね。悪いけど、私彼等に付くわよ。最初の依頼内容通りで行動させて貰う。……不服そうね。磔也にでも頼めば?」
【2_7】
「道」の中は、暗かった。逸れないように、一同はゆっくりと、気配を確認し合いながら進む。
「セレスティさん、大丈夫ですか」
勝明がステッキを突きながら歩く足音へ向けて訊ねた。
「……心配には及びませんよ」
「でも、見た所あの出血量は危険です」
涼も云う。医学生なのである、彼は。
「……大丈夫ですよ。……もう血は止まっていますから」
ほら、とセレスティは二人の腕に掌を当てて傷の塞がっている事を確認させた。
「……、」
気配だけで目配せを交わした二人を余所に、彼は微笑する。──多少きつかったが、自分の血流位後でどうとでも出来る、と分かっていたからこそあの英断に出たのだ。
「しかし、これではっきりしたな。柾を殺そうとしているのが『捏造』された千鶴子の幻影だと云うことが」
「……愛しているからと云って、廃人にしてまで引き寄せて良いとは思えないからね」
ケーナズの呟きに涼が同意した。
「一体、どこまでが柾の幻覚なんだか……」
「ケーナズ、さっきは云いそびれたんだけど、ストーカー男の事」
「ああ、どうだった?」
「イヴさん、」
勝明の呼び掛けに、イヴが彼女自身の声ではあい、と答える。
「さっきの事なんだけど、現実世界のイヴさんに伝言を頼みたいんだ。亮一に、確かめて欲しい事がある」
「何なりとどうぞ☆」
「──俺が最初に見た海岸で……あの場所に流れていた意識が柾さん自身の物なら。あの時、一瞬通った「音」が教えてくれた事が一つある。柾さんには、忘れたい、けど忘れちゃいけない事がある、と云う事。……此処に来る前に、こうなる前の様子を聞いたけど……千鶴子さんが『居ない事』、死んでしまった事をただ無かった事にしたいのなら、そのまま事実を忘れるだけで良かった筈。それなのに、映し出されたこの世界に閉じこもった理由……それを、確かめて欲しいって。──多分、亮一なら確かめてくれる」
「オーケー、舞ちゃんに伝えるわ」
「死んでしまった事実を忘れる……か。……それこそ誉められた行為ではないがな。今となっては確かめる必要もある、か」
「ケーナズ、さっき云いそびれたんだけど」
イヴがケーナズの腕を引く。
「ストーカー男の事」
「ああ、どうだった?」
「私、彼の事故現場に云って気配を調べたの。現場には残留思念はなかったんだけど、私、彼の気配をどこかで感じたのよ。……どこで、だと思う?」
「……それは一体?」
「本当に幽かなのよ、……この世界で」
「何?」
「……この世界のほんの1ピースとして、ストーカー男の意思も絡んでいる」
「……それは……」
彬と鞍馬は少し遅れて「道」に入り、やや急いだ歩調を合わせていた。
「彬、付いてきてるよな」
「……ああ」
憮然と、彬が答える。
「子供じゃないんだ、そう過保護に点呼して貰わないでも、ちゃんと付いて行く」
「それなら良いさ」
鞍馬が片目を瞑ったのが、暗がりの中にも分かった。
「ところで、五降臨、奴は付いて来てるか? 気配が感じられないが」
「……、」
一同が黙る。応えたのは将之だ。
「あー、俺もさっき人数確認して思ったんだけど……、多分、滅茶苦茶足速ぇ奴だったから、多分……先に出たんじゃないかな……。……多分、」
迷子になってたらシャレんなんねえけど、という一言は低声で付け加えた。
「……、」
「道」が開けた。その先に広がった視界は、目に眩しい程の明るい緑。果てしない草原が風に煽られて流れている。
「……千鶴子、」
柾が、やけにしっかりとした口調で彼女の名前を呼んだ。将之は彼が自分の腕を離れた事に慌てたが、柾は特に駆け出す様子もなく、ゆっくりと数歩だけ歩いて立ち止まった。
──……、
「今のは……、」
柾の呼び掛けに答える、千鶴子の声を聴いた気がした。……風に靡いた、草の音が与えた幻覚とも取れるが、──。
柾の表情に笑顔が現れる。柾は、愛おし気な色をした瞳で澄んだ空を見上げた。
【2_7xxx】
「──……こんなもんか」
現実世界、都内某ネットカフェのとある個室。磔也はキーボードから手を離すと、大きな溜息と共に煙草の煙を吐き出した。
死刑執行中継
投稿者:xxx
投稿日:2003/09/XX 1X:XX
──────
死刑の中継とか、見たい奴居るか?
それも今どき時代遅れなギロチンのヤツ。
まあ現実の映像じゃないけど、半分バーチャル、半分本当みたいなもんだから暇つぶしにはなるかも。
詳細に興味がある奴、居たらこの書き込みから15分以内に下のアドレスまでメール送って来い。
xxx_....@XX.hotmail.com
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幻想交響曲 Phantastische Symphonie Op.14
作曲:Hector BERLIOZ (1803-1869)
作曲年:1830
「病的な感受性と、はげしい想像力を持った若い芸術家が、恋の悩みから絶望して阿片自殺を計る。しかし服用量が少なすぎて死に至らず、奇怪な一連の幻夢を見る。その中に恋する女性は、一つの旋律として表れる──」
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【0932 / 篠原・勝明 / 男 / 15 / 学生】
【1481 / ケーナズ・ルクセンブルク / 男 / 25 / 製薬会社研究員(諜報員)】
【1548 / イヴ・ソマリア / 女 / 502 / アイドル兼世界調査員】
【1555 / 倉塚・将之 / 男 / 17 / 高校生兼怪奇専門の何でも屋】
【1564 / 五降臨・時雨 / 男 / 25 / 殺し屋】
【1712 / 陵・彬 / 男 / 19 / 大学生】
【1717 / 草壁・鞍馬 / 男 / 20 / インディーズバンドのボーカルギタリスト】
【1831 / 御影・涼 / 男 / 19 / 大学生】
【1883 / セレスティ・カーニンガム / 男 / 725 / 財閥総帥・占い師・水霊使い】
NPC
【1630 / 結城・磔也 / 男 / 17 / 学生】
【1889 / 結城・レイ / 女 / 21 / 自称メッセンジャー】
【水谷・和馬(みずたに・かずま)】
・今回の依頼人。アマチュア時代から柾と共に創作活動をしていたディレクターの卵。
【柾・晴冶(まさき・はるや)】
・新進の若手として注目を集めていた映像作家。千鶴子の恋人。現在、精神が音楽の世界に取り込まれている。肉体は藻抜けの殻。傍目には多分廃人に見える。
【陵・千鶴子(みささぎ・ちづこ)】
・生前は、古典的な女優然とした気品のある美貌を持つ舞台女優だった。一月程前に轢逃げに遭い死亡。正木の元恋人。彼女の思念が柾を黄泉に引き摺り込む為、彼の精神を閉じ込めている。
【陵・修一(みささぎ・しゅういち)】
・陵千鶴子の5つ違いの兄。千鶴子殺害の犯人に見当を付けており、草間興信所に依頼に行った。
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■ ライター通信 ■
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皆様、お疲れ様でした。ライターの危惧を余所に、7名様全員の続投を頂き、感謝の至りです。ありがとうございました。
お気付きの方もいらっしゃるかと思われますが、第2楽章の再生中に草間興信所に関連のある依頼が出されました。残る楽章をプレイする中で大きなヒントとなる結果が出そうですが、この調査依頼の内容は第3楽章の受注を〆切った後にアップし、第3楽章の再生中に何らかの方法で幻想世界内のPCに伝わる予定です。(PC/PL間の情報量を出来るだけ近付ける為です)
また、最後に磔也が某掲示板に書き込みをしていましたが、何を企んでいるのでしょうね。基本的に賭けの対象に本人が手を出すのはルール違反ですから、……誰かに頼むつもりでしょうか?
レイは磔也との賭けでムキになっていますので、以後幻想世界内のPCの味方に付きます。間接的な事であれば協力してくれるかもしれません。
但し、くれぐれも結城姉弟は狂言回しの役回りですので、シナリオの本質には関係がない点、御留意下さい。
今回は非常に慌ただしい楽章でしたが、次回の第三楽章「田園の風景」は柾が大分落ち着いている為、話をする余裕があります。基本的に(あくまで予定では)戦闘はありません。
受注は10日水曜日午後8時からの予定です。(前回は深夜に開いてしまい、「眠い」と云われてしまいました……申し訳ありません)
■ イヴ・ソマリア様
引き続きの御参加頂き、有り難うございました。
草間興信所の依頼にも気付いて頂いたんですね、……何しろ依頼主のようなものですから。
後日アップ予定の調査結果等も目を通して頂ければ倖いです。
「例の物」は全編終了後某所に必ず言付けますので。
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