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■妖精さんいらっしゃい♪■

日向葵
【1838】【鬼頭・郡司】【高校生・雷鬼】
 それはある晴れた日のこと。
「こーんにーちわ、なの〜♪」
「ワタシたち、すっごく暇なの〜☆」
 突然降ってわいた甲高い声のその直後。
 貴方の目の前に、何かがぽんっと姿を現わした。・・・・・・それは、透明で薄い綺麗な四枚羽を持った、二人の小さな妖精。
 そっくり同じ姿を持った二人は息もぴったり合うようで、見事に左右対称に、まるでダンスでもするかのように宙を踊った。
 ふわふわんっとウェーブのかかった薄紅の髪が背中まで伸びていて、楽しげに風に揺れる。
 少女たちの深緑の瞳と目が合うと、二人はくるりと空中で一回転。ダンスを止めて、可愛らしい笑みを浮かべた。
「あたしはウェル♪」
「ワタシはテクス☆」
 そして二人は、パンッとお互いの両手を合わせて、見事に声を合わせた。
「遊んでなの〜〜〜っ!」
 妖精たちは返答も待たずに飛びついて来て、
「遊んでくれなきゃイタズラしちゃうのっ」
 無邪気な笑みで脅しともとれる言葉を告げたのだった。
妖精さんいらっしゃい♪

 くすくすという可愛らしい笑い声。
 ふわふわんっとウェーブのかかった薄紅の髪。深緑の瞳。薄く透明な四枚羽を背に抱き。
 そっくり同じ姿を持った二人の妖精は、明るい陽射しの空を楽しげに散歩していた。
 その目的はただ一つ!
 ――暇つぶしであった。
「だーれっかいっないっかな〜♪」
 二人は思いついたままに鼻歌なぞ歌いながら真下に見える街並を眺めていた。
 さて、妖精たちの目にまず飛び込んできたのは、通りを歩いている金髪の少年――
「あっそぼうなの〜♪」
「ひまなのーーっ!」
 いつもの如く飛び込んで行くと、少年は一瞬びっくりしたように目を丸くした。
「なんだ、なんだぁ!?」
「遊ぼうなの、遊ぼうなのっ!」
 くるくると少年の周囲を飛び周ると、少年はニッと不敵に笑った。
「元気のいいチビどもだな。ちょうど俺も退屈してたとこだぜ!」
「あそんでくれるの?」
「一緒にあそぶの?」
 少年の目の前でピタリと静止し、胸の前で両手を合わせてきらきらと目を輝かせると、少年は両手を腰に当てて楽しそうに笑った。
「ドカーンと一発、派手に遊んでやろうじゃん♪」
「きゃーーーっ♪」
 嬉しい答えに、妖精コンビは浮かれて宙を舞い、甲高い声をあげる。
「俺は鬼頭郡司だ、よろしくな。おまえらはなんて言うんだ?」
 宙高くに舞い上がっていた妖精たちは、ヒュッと郡司の目の前まで戻ってきて、
「郡司、郡司。おぼえたーっ!」
 くるりと空中一回転。
「あたしはウェル」
「ワタシはテクス」
 可愛らしくスカートの裾を持ち上げてお辞儀をしたあと、
「よろしくなのーっ♪」
 二人同時に、にっこりと笑った。


 妖精たちに連れられてやってきた小さな公園。妖精コンビの棲み家でもあるその公園には、現在四人の人間が集っていた。
 海原みあお、真名神慶悟、鬼頭郡司、風祭真――全員、妖精たちの誘いに乗ってやってきた者たちである。
「さて、何して遊ぶよ?」
 やる気満々の郡司が言うと、
「楽しいこと〜っ!」
「えーっと・・・缶けりとかは?」
「そうねえ、鬼ごっこなんてどうかしら?」
 妖精コンビ、みあお、真が次々に提案を口に出した。
「おまえからはなんか提案ないのか?」
 唯一提案のなかった慶悟に話題を振ると、慶悟は少し考えたあと、
「そうだな・・・こんなのはどうだ?」
 スッと符を取り出した。
 符が――小さな陣笠姿に、赤い小鳥に・・・ポポンっと現われた式神に妖精たちはすぐさま興味を示して寄ってきた。
「面白いのー♪」
「この子たちも遊ぶのーーっ♪」
「いよっしゃ、人数も増えたし軽く鬼ごっこと行くか!」
 郡司がガッツポーズとともに気合を入れた。
 真はにんまりと楽しげに笑い、
「ふふっ。私、逃げるの得意なのよ」
 ひょいと妖精たちと視線を合わせて告げる。
「二人が私を捕まえられたら一つだけ、なんでもお願い聞いちゃうわよ」
「お願いなの?」
 ワクワクと瞳を輝かせる妖精たちにクスリと笑みを返し、
「私が逃げきったら、お客さん連れてきてね♪」
「はーい、なのっ!」
 真の持ち出した賭けに、妖精たちは元気に手を上げて答えた。
「よぉし、みあおも負けないよっ! 範囲はこの公園の中ね」
 全員が頷き、本人参加する気のないらしい――式神を操っている慶悟がスタートの合図をすることとなった。
「それじゃあ最初の鬼は妖精二人ってことでいいな?」
 妖精コンビはこくこくと頷いて、一行を追いかける体制に入った。
「よし、スタートっ!」
「きゃーーーっ♪」
 掛け声と同時、パッと妖精たちが飛び出した。
 小さいだけに素早いが、三人+式神+真の風精霊――白狼の姿で、疾風という名だ――も負けてはいない。
 ふわりと身軽に妖精たちの突進を避け、密かに風を操りつつ妖精たちを退ける真。
 子供特有の身軽さで、ひょいひょい身軽に走りまわるみあお。
 出会った時は普通に制服を着ていたはずなのだが・・・いつのまにやら褌一丁で野生動物の如く軽やかに逃げる郡司。
「ほ〜らほら、捕まらないわよ♪」
 真は余裕の表情だ。
「きゃーーっ♪」
 一方みあおは楽しげな声をあげながらぱたぱたと狭い公園を駆け周る。
 郡司はかなり本気で逃げているらしく、賑やかに笑いながらも瞳は真剣そのもの。
「むーっ」
「捕まらないのーーーっ!」
 ふわりふわりと飛ぶ式神たちにも追いつけず、妖精たちはついに最終手段に出た。
 シュッと辺りの草が伸び始め、地面にいくつかの輪っかを作る。
「おおっ!?」
 最初にそれに捕まったのは郡司だった。さすがにコケたりはしないものの、足をとられて一瞬立ち止まる。
「今なのーーーーっ!」
 猛烈な勢いで突進してきた妖精コンビに体当たりをかまされ、郡司は思わず彼女らを受けとめた。
「あ〜あ、捕まっちまったか」
 頭を掻きつつ、鬼の役割りを代わろうとしたところ、
「次は何するの? 何するの?」
 妖精は、わくわくと楽しげにそう問いかけてきた。
 一行は互いに視線を交わして、小さく笑いを洩らす。どうやら、もうこの遊びに飽きてしまったらしい。
「お宝探しで行こうぜっ!」
「お宝?」
「お宝なの?」
 いまだ郡司に張りついたまま、妖精たちはひょいと郡司の顔を見上げた。
 バチリと目が合った瞬間、
「面白そうなの〜〜っ♪」
 妖精コンビはくるくると空中を舞いあがった。
「よぉし、それじゃ俺のことはお頭と呼ぶんだぜ?」
「おかしら?」
「お頭?」
 妖精だけでなく、みあおもわくわくと楽しげな表情で郡司を見た。
 郡司はニっと不敵な笑みを浮かべ。
「おうよ! いいか〜? 綺麗なモノとか珍しいモノ、おまえらがお宝だと思えばなんでもお宝だ。誰が一番たくさん見つけられるか競走しようぜ」
 妖精コンビ+みあおは郡司の真似をして不敵っぽく笑みを浮かべ、
「りょうかーいっ!」
 サッと公園中に散った。
「私はちょっと休憩させてもらおうかしらね」
 今度は大人組二名は見学に回る気らしい。式神は慶悟のもとに戻り、真は近場のベンチに腰を下ろした。
 その間にも、宝探し組一行はわさわさと公園のあちこちを探しまわっている。
 そして数十分ののち――
「お宝ーーっ!」
 宝探し組がそれぞれの成果を見せあった。
 蝉の抜け殻だとか、落ちていたビー玉だとか、綺麗な形の石だとか。その辺の大人から見ればくだらない物ばかりだが、子供らにとってはそれも立派なお宝なのだ。
 それぞれ楽しげな声でお互いのお宝を自慢しあう。
 ふと気付けば、もう夕暮れ。
「おー、そろそろ暗くなってきたなあ」
「あ、もう帰らないと怒られちゃう」
「え〜」
 妖精たちが不満げな声をあげるが、時間ばかりはどうしようもない。
「んじゃ、最後に気持ちいいコトしねえ?」
「気持ちいいコトなの?」
「おう!」
 答えたのとほぼ同時、郡司の横に獣――雷獣が姿を現わした。
「ま、こんくれぇの時間ならあんま目立たねぇだろ。空の散歩と行こうぜ♪」
「あら、じゃあ私もご一緒させてもらおうかしら」
 ふわりと、真が宙に浮かぶ。
「みあおも行くーーっ!」
 言いながら駆け寄ると、郡司が手をひいて雷獣に乗せてくれた。
 あっという間に宙に飛びあがっていった一行を眺めつつ、慶悟は静かに呟いた。
「【妖精の輪】さながらだな」
 一度足を踏み込んでしまうと外に出た時に数時間、或いは数年経っているという、妖精の伝承だ。騒がしくも可笑しな妖精達を見ていると、ついつい時を忘れてしまう。
 慶悟はもう一度赤い小鳥の式神を呼出し、空の散歩を楽しんでいる一行の方へと飛ばした。
「あー、さっきの小鳥さんだーっ」
 雷獣の背から、みあおが楽しげに指差した。
 妖精がひょいと雷獣の背を離れて、両腕でパタパタと小鳥のはばたきを真似つつ、くるりと空中一回転をして見せる。式神の小鳥も妖精に合わせて一回転して見せた。
「みあおもやろうっと♪」
 青い小鳥に変化したみあおも、続いて一回転。
「あら、みんな凄いのねえ」
 綺麗な曲芸飛行に、真がくすくすと笑った。
「おおぉ〜。俺も負けてられねぇな!」
 郡司も雷獣ごとくるっと一回転をして見せる。
 次々と曲芸飛行が披露され、雲の上に楽しい笑い声が響いた。

「楽しかったの〜っ♪」
 ようやっと空から戻ってきた時、陽はほとんど沈みかけていた。
「結局一日遊んじゃったわねえ」
 ほんのちょっとのつもりだったのに、妖精たちにつられて時を忘れてしまった真が、苦笑を浮かべた。
「そろそろ帰る時間だな」
 空の散歩から戻ってきた式神を連れて、慶悟がひょいとベンチから立ちあがった。
「あー、もうそんな時間なのか」
 郡司が残念そうに言う。
「最後はこれっ!」
 ごそごそと鞄の中から取り出してきたカメラを手に、みあおが元気に宣言した。
「おお〜。準備いいじゃねえか」
「今日の記念撮影ね♪」
「なあに? なぁに?」
 カメラを知らない妖精たちは、物珍しげにカメラを覗き込む。
「ま、やってみればわかる」
 慶悟がみあおの手からカメラを受け取り、そのまま式神に手渡した。
「ああ、それなら全員入れるわね」
「ねねね。なに? それなに〜?」
 まだカメラをじぃっと眺めてくるくる宙を踊っている妖精たち。
「妖精さん、妖精さん。こっち〜!」
 みあおが手招きをして呼ぶと、まだ不思議そうな顔をしながらも、妖精たちは素直にみあおのところに飛んできた。
「いいか〜? 動いちゃだめなんだぜ?」
 郡司の注意に首を傾げる妖精コンビ。
「はい、おいでおいで。やってみればわかるから」
 こうして――真、慶悟、みあお、郡司、白狼、雷獣、赤い小鳥の式神と、陣笠姿の式神と、妖精コンビ。なんとも賑やかな面子の揃った記念写真が出来あがったのだった。

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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整理番号|PC名|性別|年齢|職業

0389|真名神慶悟|男|20|陰陽師
1838|鬼頭郡司 |男|15|高校生
1415|海原みあお|女|13|小学生
1891|風祭真  |女|987|『丼亭・花音』店長

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■         ライター通信          ■
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こんにちは、日向 葵です。
慶悟さん、みあおさん、いつもお世話になっております。
郡司さん、真さん、初めまして。
この度は妖精さんの遊び相手をしていただきありがとうございました。
皆様いろいろな遊びを提案してくださったのですが、全部は使うことができなくて残念です(^^;

では、またお会いする機会がありましたら、その時はよろしくお願いします。
少しでもお楽しみいただけることを祈りつつ・・・・。