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■妖精さんいらっしゃい♪■

日向葵
【1781】【佐和・トオル】【ホスト】
 それはある晴れた日のこと。
「こーんにーちわ、なの〜♪」
「ワタシたち、すっごく暇なの〜☆」
 突然降ってわいた甲高い声のその直後。
 貴方の目の前に、何かがぽんっと姿を現わした。・・・・・・それは、透明で薄い綺麗な四枚羽を持った、二人の小さな妖精。
 そっくり同じ姿を持った二人は息もぴったり合うようで、見事に左右対称に、まるでダンスでもするかのように宙を踊った。
 ふわふわんっとウェーブのかかった薄紅の髪が背中まで伸びていて、楽しげに風に揺れる。
 少女たちの深緑の瞳と目が合うと、二人はくるりと空中で一回転。ダンスを止めて、可愛らしい笑みを浮かべた。
「あたしはウェル♪」
「ワタシはテクス☆」
 そして二人は、パンッとお互いの両手を合わせて、見事に声を合わせた。
「遊んでなの〜〜〜っ!」
 妖精たちは返答も待たずに飛びついて来て、
「遊んでくれなきゃイタズラしちゃうのっ」
 無邪気な笑みで脅しともとれる言葉を告げたのだった。
妖精さんいらっしゃい♪

 くすくすという可愛らしい笑い声。
 ふわふわんっとウェーブのかかった薄紅の髪。深緑の瞳。薄く透明な四枚羽を背に抱き。
 そっくり同じ姿を持った二人の妖精は、朝靄の中を楽しげに散歩していた。
 その目的はただ一つ!
 ――暇つぶし。
 キョロキョロと下に見える街並を眺めつつ、遊んでくれそうな人を探しているのだ。
「ん〜・・・・・・・?」
「ほえ?」
 先に気付いた一人に遅れてもう一人も片割れの視線を追う。その先にいたのは、一般的に言えばイイ男と呼ばれる部類に入る青年。
「GOっ!」
「きゃーっ♪」
 決めるのもほぼ同時ならば行動開始もほぼ同時。
「遊ぼうなの〜〜っ」
 二人は、やっぱりほぼ同時に青年のもとに辿り着き、小さな身体で青年に飛びついた。


 仕事明けの早朝。
 まったく疲れていないと言えば嘘になるが、だが。
「・・・・・・久しぶりに飲みすぎたかな」
 幻覚を見るほどには疲れていないはず。
 どうやっても絵本や物語に描かれている妖精そのものにしか見えない二人の少女に、青年――佐和トオルは思わず眩暈を覚えた。
「ねえねえ」
「ねねねねねねっ!」
 忙しなくトオルの周囲を飛び服の裾を引っ張り、
「遊んでなの〜」
「遊んでほしいの〜♪」
 ニコニコと笑みを浮かべる。
 当初はとりあえず、疲れているからまた今度に、とか説得を試みたりもしたのだが、妖精たちはまったく引く様子もなく。
 結局。『遊んでくれなきゃイタズラしちゃうのっ!』のフレーズと共に突如バシャリと降って来た水に、トオルは仕方なく二人を家まで連れて行くことにしたのであった。
「・・・・・・・・・・・・」
 しかし・・・・・・どうしろと言うのだ。
 濡れてしまった服を着替え、洗濯物に放り込みつつ考える。
 まあ、商売柄(?)『遊んでくれなきゃ〜〜』というフレーズは聞きなれているが、だが相手は店の客でもなく人間ですらない。
 一体どうしてやればよいものやら。
「きゃーうっ!」
「気持ちいーのぉ〜♪」
 部屋に残してきた妖精たちの声に、不吉な予感を感じ――
「うわっ、それはダメ! 商売道具だから!!」
 急ぎ部屋に戻ったトオルが見たのは、クローゼットの中の洋服に飛び込んで遊んでいる妖精二人の姿。どうやら肌触りが気に入ったらしい。
「これはおもちゃじゃないから」
 なるたけ穏やかに言うと、妖精たちは途端にぷくりと頬を膨らませた。
「えー?」
「え〜?」
「面白いのにーっ」
 不満そうに口を尖らせたあと、二人は見事に同じタイミングで抗議の言葉を投げてきた。
 まったくとんでもない拾い者をしてしまった。そう思いつつも、表情と言葉そのままにくるくると変わる色は、なんだか少し嬉しかった。
 どんなに親切で優しい人間であってもどうしても見え隠れする暗い色――それが、彼女らにはない。
「きゃーっ?」
「引っ張るのーっ!」
「え?」
 ほんのちょこっと感慨に浸っていただけなのに!
 今度はリビングのテーブルの方から。・・・・・・いつのまに移動したんだか。
 スタスタと早足に移動すると、今度はテーブルの上に置いてあったアクセサリー類に絡まって四苦八苦している二人がいた。
「・・・・・・・・ほら」
 苦笑しつつも、絡まったペンダントの鎖を外してやった。
「ありがとうなの〜」
「助かったの〜♪」
「どういたしまして」
 営業スマイルで返して・・・・・・。ふと、たった今外してやったペンダントが――ロザリオが、目に止まった。
「ああ、そうだ」
「ほえん?」
 パッと表情を変えたトオルを不思議に思ったのか、妖精たちは二人して疑問の声をあげて首を傾げた。
 トオルはにっこりと笑顔を浮かべ、
「明日まで待ってくれる? キミたちにとっておきを見せてあげるよ」
「明日なの?」
 さっきとは反対方向に、こくんともう一度首を傾げ――しかも二人同時。
「ああ」
 トオルの答えに、妖精たちはしばらく顔を見合わせたあと。
「わかったのっ!」
「明日また来るの〜〜っ」
 言うが早いか、開いていた窓から飛び出して行ってしまった。
「・・・・・・・戻ってくるのかなあ?」
 あまりの勢いに、数時間もしたら”明日のとっておき”など忘れて戻ってこないのではないかという疑問が過ぎったトオルであった。


「あっそびっに来ったの〜!」
「とっておきなの〜〜♪」
 翌朝――というより、夜中。まだ陽が昇ってもいない時間。
 トオルは、妖精たちの声で目を覚ました。
「早いね、キミたちは」
 だがちょうど良かった。トオルの”とっておき”は陽が昇る前でなければいけないのだ。
「とっておき、見せて〜♪」
 トオルの頭上をくるくると円を描いて飛びながら、二人は可愛らしい甲高い声で騒いでいる。
「わかってる。すぐ準備するからちょっと待ってて」
「はーいっ」
 トオルの声に、二人はきっちり左右対象にびしりと片手を挙げて良い子の返事で答えた。
 手早く着替えと準備を済ませたトオルは、二人の妖精を引き連れて、毎週通っている教会にやってきた。
「さ、ここだよ」
 扉を開けて、中へと導く。
 二人はわくわくとした様子でキョロキョロと周囲に視線を巡らせていた。
「見ててごらん」
 スッと指差した先は、天井。
 もうそろそろのはず――
 チカリ、と陽が射し始める。
 最初は細く。次第に、明るく。
 天窓に嵌っているステンドグラスが、朝の澄んだ光に照らされて輝く。
 これにはさすがの妖精たちも言葉が出ない様子。煌くステンドグラスに負けず劣らずのキラキラと輝く瞳で、だんだんと明るくなっていくステンドグラスの模様に魅入っていた。
 涼しげな朝の空気の中、トオルは妖精たちにむけてにこりと微笑んだ。
「俺とキミたちだけの特等席だよ」

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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整理番号|PC名|性別|年齢|職業

1781|佐和トオル|男|28|ホスト

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■         ライター通信          ■
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こんばんわ、日向 葵です。
今回はプレイングの都合でトオルさんのみ、お一人の個別ノベルとなりましたが・・・。
どうでしたでしょうか?
ちなみに、一度トオルさんの部屋を飛び出した妖精さんは、戻ってくるまでの間に他の方を巻き込んで遊びまわっておりました(笑)

では、今回はこの辺で。
またお会いする機会がありましたら、その時はよろしくお願いします。