■あやかし荘奇譚 剣客の下宿9 奉納演舞■
滝照直樹 |
【1219】【風野・時音】【時空跳躍者】 |
うむむ〜
あ、失礼。私エルハンド・ダークライツ。天空剣師範だ。
この度、秋に長谷神社にて奉納演舞を行う。
プログラムはいつもの通りなのだが…。
神聖な儀式をじゃまする輩が居る気がしてな…。
というわけで…門下生は当たり前だが演舞に参加(理由があるなら欠席可能だけどね)。
他の能力者には警備に当たって欲しい。
まぁ…あまり対したことでは無いのだろうけどな…。
(ため息をつく神様)
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あやかし荘奇譚 剣客の下宿9 奉納演舞
■道場にて
エルハンドと織田義昭は、奉納演舞について話をしていた。
「どうしてバイトを?」
「…良からぬ事件が起きる気がしてな…」
「せんせーは先見能力などお持ちなのは分かるけど…長谷神社自体は純粋の霊木で邪悪なる存在が入れないはず…」
「そこだよ…」
「そこ?」
「あの霊力・妖力は善悪がない純粋なエネルギーだ。其れを取り入れようと画策する輩がいるはずだ。特に…虚無の境界…」
「虚無の境界…聞いたことあります…」
「近頃、行動が活発になっている…なので、警備バイトも頼んだのだ」
「そうなんですか」
あの組織に攻撃を受け、被害者になっても、融通の利かない退魔組織に睨まれると動き辛くなる。特にIO2は能力者の事件に関して常に目を光らせている。MIAなら何とかなるだろうが…。
「兎に角、人集めはお前と茜に任せたぞ。他の門下生で支度を整えるから」
「はい、分かりました」
義昭は頷きその場を去っていった。
「こんなものかな〜?」
と茜はポスターなるものを描いていた。
「おいおい…学芸会じゃ無いんだから…」
後ろから義昭が言う。
「いつも地味なチラシじゃない!」
「其れで良いの。幾らお祭りと言っても、聖なる儀式だ。全く巫女であるお前がそうだと…」
「ぶー」
頬を膨らませる茜であるが、幼なじみと他愛のない会話を楽しんでいる。
「あ―――っ!抜け駆け禁止〜!」
可愛い声が2人に届く。
義昭と茜が振り向けば…瀬名雫がたってプンプン怒っていた。
「奉納演舞有るって言うなら呼んでよね!」
「呼んでなかったのか?茜」
「え?えーっと…。よしちゃんが誘うんじゃなかったの」
「はぁ?」
雫は怒っていても義昭にべったりしている
「蛍ちゃんが教えてくれなかったら、別の調査いきそうになっちゃった」
「雫ちゃんべったりしないで!」
茜が雫と反対側の腕を持ち引っ張る。雫も負けじと引っ張り合い…。
「まて〜俺を引っ張るなー。大岡裁きするな〜」
―君の優柔不断がそうさせているのだ。
その騒ぎを遠くで、冬野蛍を猫づかみしている剣客が眺めていた。
「はぁ」
と神はため息をついた。
「此処を別の意味で修羅場にする気か?」
「うぐぅ…」
■打ち合わせ色々
エルハンドは特殊剣技を教えていない門下生には、いつもの準備(巻き茣蓙を水漬けにする、霊木周りの掃除、プログラムのリハーサル)を指示し、いつもの様に稽古を始める。
そのあと、田中祐介や天薙撫子、風野時音には事の事情を連絡し、有事に備え出来うる限りの装備をする様指示した。
「何が起こるのですか?エルハンド様」
「詳しくは分からない…しかし…何かが此処にやってくる…霊木が危ないのでな」
「…」
「分かりました師匠。俺も門下生としてそして演舞を成功させるべく最前を尽くします」
祐介は真剣なまなざしで答えた。
途中、神社の電話がなるので急いで茜が受話器を取った。
「もしもし、長谷神社でございます」
[あの、私雨柳凪砂と申しますが…奉納演舞の事を聞いて取材したいのですが]
「しゅ、取材!?」
ビックリする茜。
「ちょ…少々お待ちください」
電話を保留にして急いでエルハンドがくつろいでいる部屋に走っていった。
「エルハンド!エルハンド!取材だって!取材!」
何故か異常なほど慌てぶりの茜。
「落ち着け、なんの取材のなんだ?」
「すぅはぁ〜。…取材したいって雨柳という人が前に「Wish」の関係で…」
「良く覚えていたな、偉い。変わるよ」
「その一言多い〜」
茜の文句を無視して、エルハンドは電話を替わった。
「こんにちは、変わりましたエルハンドです」
[お久しぶりです。エルハンドさん、実は…]
「取材だね。かまわないよ…簡単なことを今のウチに聞きたいが」
暫く会話した後、エルハンドは電話を切った。
「明日辺りに、周りの見学をしたいそうだ」
「ひえ〜。どうしよう。ちゃんと掃除しないと〜」
あわてふためく茜。
「さぼってるのか、いつも?」
「そ、そんな分けないじゃない!」
エルハンドのジトメで返され、言葉が出ない茜。
「ううううう」
エルハンドは苦笑し、茜の頭を撫でた。
「今からでも遅くはないだろ、門下生と一緒に一生懸命掃除しろ」
「神社もだけど、自分の部屋もだよう…」
と、半泣き状態の茜。
「そこまでは知らん」
エルハンドは肩をすくめてため息をついた。
「ぐすん」
その会話を覗く祐介と義昭。
「あ、茜がせんせーに負けてる。…明日、雨か?」
「そんなに珍しいことですか?義昭君」
「ええ、宝くじで前後賞当たる様なもの」
「その対比はおかしいですよ?」
祐介はあきれるが…にこりと笑って、
「…茜さんの部屋は俺と君で手伝うのはどうかな?」
と提案するが、
「こっそりその服を…紛れ込ませるつもりですか」
と、義昭に突っこまれる。
「ばれたか…紛れ込ませるのでなく…全部コレに…」
祐介が持っているのは新作のメイド服…。
「はぁ…今度は刺さるんでなく…斬られますよ?ハリセンで…」
2人の会話に口元を隠して苦笑するしかない撫子だった。
●ルゥリィ・ハウゼン
エルハンドが、あやかし荘の蓮の間で演舞項目プログラムの修正を茜としている時である。
「エルハンドさんお客さんですよ」
と管理人恵美の声がした。
「分かりましたすぐ行きます。茜暫く頼んだ」
「は〜い」
玄関先で、銀髪のドイツ人独特の風貌を見せる女性、ルゥリィ・ハウゼンがエルハンドを見ると、
「ご無沙汰しております。奉納演舞の開催おめでとうございます」
と恭しく挨拶をした。
「久しぶり。こちらこそ、前の事件(『神格暴走者』)では世話になった。小汚いところだが、私の部屋で話を聞こう」
「はい、お邪魔します」
「警備希望者と?」
「バイト代は要りません。その代わり出来れば少し日本刀での試斬をご教授していただけませんでしょうか?」
「そう言うことか。演舞当日まで時間があるから教えることが出来る。いつでもかまわない」
「ありがとうございます」
「茜、西洋騎士団の友情出演という項目を試斬に入れておいてくれ」
「わかったわ、エルハンド」
「出来れば打ち上げには参加して欲しいところだ」
「お言葉に甘えます」
「たのむよ」
エルハンドは微笑みながらルゥリィと話をし、時間が空いている時に、試斬練習や素振りを指導していた。
日本刀の斬り方は幾ら力がいらないとはいえ(西洋剣術にくらべれば)、体勢を維持するのに体力を必要とすることを肌で感じるルゥリィ。もし、この技術が「エストラント」に導入できればさらなる強化を期待できる。
エルハンドはよく西洋剣を使う様だが、形が完全に日本剣術とうまく融合している。そうでなくては天空剣師範が務まるわけがないのだが。パラマンディウムの作りは一見西洋剣であるが…鍛え方が日本刀と同じモノだった。地面に突き刺しても(本当はやっては行けないが)揺れないのだ(鋳物作成の剣は、鉄や鋼の層がないため揺れるし、折れやすい)。
●漁火汀
漁火・汀(いさりび・なぎさ)は、風を頼りにこつこつと歩く。
「…風が…激しく泣いている」
この付近は、長谷神社の霊木が支配している。純粋・純真の霊木とも言われ、純粋な力をもつ不思議な木だ。しかし、汀にはこの地ははじめてなので分かるはずもない。
(…虚無が襲いに…)
と風が告げた。汀は…その風をたよりに…足早に歩いていく。
義昭が、茜の代わりに神社の掃除をしている頃…。有る気配を感じ義昭は鳥居を見る。
其処には四十ぐらいのくたびれた紳士が立っていた。スーツもかなり年代を感じる古いもの。しかし義昭には彼の姿はそう見えない。かなり年齢を重ねていることを肌で感じ、「人」ではない事も察知した。
しかし、義昭は紳士に悪意を感じられない事、向こうからやってくる事から、警戒心もなく箒を壁に立てかける。
「僕は…漁火汀と言います」
「俺、織田義昭です。長谷神社に何か御用でも?」
と挨拶を交わすと同時に訊ねる
「風に誘われてまいりました。ここに来たのは初めてなんですが、よろしくお願いします。いえね、風が不穏な気配を運んできてる気がするんですよ。なので、警備のバイトに加えていただけませんか?武芸者としては見学したかったのですけどね」
「風…ですか?そして武芸者ですか…」
義昭は武芸者と聞いてかなり興味を持った。
「いいですよ。簡単な書類を書いていただきますが…」
「かまいません」
「ではこちらに」
といって、汀を連れて神社を案内し、プログラム説明と面談などを行った。
「当日にお越しください。お待ちしております」
と義昭は丁寧に紳士を見送った。
■演舞当日
気持ちよい秋晴れ。
すでに天空剣門下生一同は長谷神社で準備を整えていた。
「エルハンド〜」
と可愛い声がした。鈴代ゆゆである。
「お、遊びに来たか」
エルハンドは彼女が近寄ってきたときに頭を撫でる。
「ここって凄い〈先輩〉がいるんだ」
「わかるんだね」
先輩とは例の霊木のことだ。植物の精のゆゆにはあの木の領域に入ったとたんに感じたのだろう。
「〈ほうのうえんぶ〉ってよく分からないけど、凄いんだよね」
「実際見たら分かるさ」
彼女の好奇心や活発さを優しい笑みで話をしているエルハンド。
茜は義昭と祐介を連れて影で訊く。
「どういう事?あのエルハンドがあんな優しいのって?おかしいよ!」
「親友だからでしょう?」
祐介は今までの2人の行動を見てきたので知っている。
「うーんそうとは見えないよう」
「もしかして…嫉妬?」
「っ…!よしちゃんの馬鹿ぁ!」
茜が義昭をハリセンで叩いて、怒って去っていった。
「うーん…女の心は難しい」
「君が…いや…何でもない」
「??」
悩む義昭の呟きに祐介が突っこもうとするが、あえて言葉を止めた。
エルハンドの笑みはそう長くは続かない。
撫子と共に、彼女の従妹、榊船亜真知が和服姿で軽やかな足取りであそびに来たのだ。
実は言うと、エルハンドは彼女が苦手である。妹の様に思っているのだが…。
しかし、亜真知は親友+ライバルという目で見ている。
前に、式人形でモルモットにされた記憶が鮮明によみがえるエルハンド。
「おはようございます、エルハンド様」
撫子が挨拶する。
「おはよう、撫子」
「エルハンド様、おはようございます♪」
内心と裏腹に可愛くにこやかに挨拶する亜真知。
「ぁ…ああ、おはよう、亜真知さん」
少し恐怖しているエルハンドの返事。
(今度はどうからかわれるのだ?)
と彼は思っている。
其れを読みとった様に亜真知はニコニコと笑って、お辞儀をしてからゆゆと一緒におしゃべりをするのだった。
一方、義昭・祐介組(要は影で見ている)
「奉納演舞でなく、せんせーの百面相大会?」
「…」
流石にここまで天然な義昭に何も言えない祐介だった。
そして、漁火とルゥリィ、雨柳が開場1時間前に訪れ、漁火は警備担当の義昭に、雨柳はエルハンドとの取材打ち合わせを行った。
亜真知とゆゆは、ジュースを飲んで、開場を待つばかりである。
間違って、お酒を飲んだらどうなるだろう…と物陰にはかわうそ?が隠れて考えていた。
●時音家族
風野時音も立派な門下生である。天空剣師範代位をつい最近取得したばかりだ。しかし、立場上此処での稽古はあまりでない。あやかし荘の守衛の仕事や自分の世界の原因を突き止めるべく余裕がない。しかしながら、前の上司の馬鹿騒ぎにいつもかり出されているので、
「いい加減縁を切れ」
とエルハンドに言われている。
時音は養女・雪香をあやしている歌姫をのんびり見つめつつ…娘にオモチャの刀で頭を叩かれたりしながら、時間を静かに待っていた。完全に家族サービスをしている。しかし彼は色々考えている様だ。
数日前…。
「演舞を手刀でやってみたい?」
「はい」
と希望する。
「前にもエル先生が手刀で貫いたり、斬ったりしていましたので…」
「しかし、其れだと天空剣ではなく天空拳になるな…」
エルハンドは一考する。
「あ、そ…そうですね…」
「…其れをするなら、空手用の板を4つほど持ってきた方が良いだろうな…」
「あの…」
「茣蓙だと、振動しても客には分からない。天空剣は無手の「基本三技(斬・封・解)」もあるからいいだろう。それに、ルゥリィ・ハウゼンの友情出演を許可したんだ、お前の我が儘も聞いておくよ」
「あ…ありがとうございます!」
という会話がなされていたのだった。
●雨柳凪砂
資料などを整頓し、メモとデジカメを用意している凪砂。
前に、図書館やこの神社について話を調べていた。
「純真の霊木」というモノに何かを感じる凪砂。
樹齢をはかることは不可能なほどの太さ(千年は超えている)で、善にも悪にも染まっていない霊力で、しかし悪を呼び寄せることはなく、この一帯では問題有る大きな霊現象は無いという。
長谷神社はその霊木を守るために建てられたたしいが、その恩恵で有能な術師を輩出しているとのこと。
純真故に、手を加えれば何にも染まるし、手を加えない様にすれば染まらない、諸刃の剣。「神」であるエルハンドがこうして留まるのも納得がいく。ただ、天空剣との接点は何もなかった。
資料として草間興信所でエルハンドと草間から許可を得て手に入れた『零が倒れた時のファイル』時にこの場所を使用したと分かる。
「そしてコレが…純真の霊木…」
凪砂は天に届くかの様な高く、そして太い幹を眺めて自然と「超常」の存在を強く感じた。
「フェンリルの影」もこの霊木の前ではおとなしく、ひょっとすると「首輪」を外しても良いぐらいなのかと思うほど、身体も気持ちが軽いのだ。
―もし、首輪無しの生活に戻れるなら…。
と凪砂は微かな希望を見いだして、一筋の涙を流した。
■演舞開始
修正を入れて以下のプログラムとなった。
1.開会宣言(長谷宮司)
2.師範による四方斬り
3.宣誓(織田義昭)
4.門下生による演舞
5.友情演舞:ルゥリィ・ハウゼン
6.織田義昭師範代による演舞
7.木刀による実践(織田義昭剣士と田中祐介剣士)
8.御神木・純真の霊木にて祈祷。
9.閉幕
本殿の前に舞台が設置されており、向かって右に司会進行のマイクや本部テントがある。
長谷宮司がマイクを取り、簡単な祝辞を述べた後、開幕宣言をする。
舞台には巻き茣蓙を備え付けた台が四方に置かれ、中央に和装のエルハンドが、各方面に礼をしてから、正座、帯刀する。
しんと静まりかえる神社。
見物客も彼の気迫に沈黙する。
静かに立ち上がるエルハンド。抜刀し、まず、形から入り、袈裟斬りで一本、そして後退し次を斬る。と気合いと順に四方斬りを成功。
その後皆から拍手喝采。エルハンドは血ぶりの形を行い納刀し、皆に礼をする。
義昭の宣誓が終わると、門下生とエルハンドと縁のある者の演舞が行われた。
基本の型で茣蓙を斬るのは天空剣で撫子が一番鮮やかに演舞し、祐介は「清修院流抜刀術」を使い、巻き茣蓙を綺麗に斬る。
時音の無刀術では、静かな舞を舞って、その後の威力が…板が割れるどころか砕ける様…皆を驚かせた。
そして、警備バイトも兼ねたルゥリィの西洋騎士の剣技も披露し盛り上がりを見せる。
流石のゆゆもこの緊張感のある雰囲気で、はしゃぐことは出来なかったが、本部に戻ってくる門下生は和気藹々と酒を飲んで、お互いに斬り方や形を話し合っていたので、徐々に気が軽くなる。
●異常事態…神社
遠くでは、フラリと寄っている魔術師シェラン・ギリアムが真剣に演舞を眺めていた。何かを気づいて、近くで雑用をしていた茜を呼ぶ。
「何かが近づいている…気を付けた方が良いです、アカネ」
「…まさか?エルハンドの言ったとおりに…」
「…少し回りを見てきます」
「私も行く!」
撫子と祐介も何かを感じたのか、各々の武器を手に取る。気が付けばエルハンド、亜真知と漁火もいなかった。
「静寂の陣」には悪しき者は居ない…様だが。
「これご神木を狙っている様ですね…」
義昭と蛍が2人に駆け寄り、
「俺たちはこのままいた方が良いでしょう。警備の方々とせんせーが何とかします」
「わかった」
「義昭君の言うとおりにします」
「大丈夫かなぁエル兄様…」
●純真の霊木…
「何かいるな…」
エルハンドと亜真知、漁火、ルゥリィが駆け寄った先は純真の霊木の前だった。
風の流れを皆で感じ取る。
「コレは…腐臭…」
「ゾンビか?」
「やっかいですわね」
気が付けば、ゾンビにレイスが彼らの周りに集まっていた。そして最悪なことに。身近にいる種を発見する。
「霊鬼兵!?」
「虚無の境界が動いているというのですか!」
エストラントのルゥリィが叫んだ。
そう…草間零と同じ霊鬼兵が6体、ゾンビを操り向かっているのだ。
純真の霊木は、此処まで近づいたものに限りない力を与える。
ゾンビ程度なら、たやすく倒せるだろうが…霊鬼兵はそうはいかない。
怨霊のほかに神木の力でもはや神格保持者に匹敵する力を得ているはずと、亜真知とエルハンドは考えた。
「異空間化して被害を最小限にして、早く片を付けるしかないな」
「IO2は何をしているのでしょう…」
「人間がすることだ。ミスは誰にでもある」
「おしゃべりは此処までで、早く片づけましょう」
亜真知の一言で、恐ろしき戦いが切って落とされた。
まずは霊鬼兵をルゥリィと神が切り捨てようとするが、超回復力で致命傷にならない。
理力変換を使うには難しい状況の亜真知は、保護フィールドを展開し、霊木を守る。
漁火は風と自分の武術を持ってゾンビを始末するも、再び復活することで焦りを感じた。
「ゾンビ使いの本体さえ…本体さえ分かれば!」
エルハンドは、1体の霊鬼兵を塵にしたときに呟いた。
20分が過ぎたのだろうか…。
ゾンビはいきなり朽ち果て、霊鬼兵の動きも緩慢になった。
「誰かが本体を?」
亜真知が驚くが、喜びの驚きだ。
その瞬間、ルゥリィ達の猛攻で、霊鬼兵を塵に帰した。
「非探知術のセキュリティホールを誰かが見つけたんだろう…」
エルハンドが返り血一つ無い天魔刀を鞘に収め呟いた。
そして丁度門下生達や観客が祈祷のためにやってきたのであった。
●裏手…
シェランと茜は、神社の裏側にある丘まで走る。
「成る程…」
サイコメトリーを無動作で発動したシェランは、この場に虚無の境界のキャンプが有るという事を突き止めた。
「ほとんどのゾンビや霊鬼兵は神社に向かったようだ」
珍しく、殺気を出しているシェランに茜は恐怖していた。しかし
「シェラン…数は?」
「今のところ2人。対等な数…といいがな。1人がゾンビ使いなら…増える」
「分かった。私も奥の手を使う」
「死んでも知らないからな…」
「そんなの承知よ?私を誰だと思ってるの?」
シェランの冷たい言葉を笑みで返す茜。手には愛用の「武器」が握られていた。
―芯の強い娘だ。
魔術師は心の中で笑った。
堂々とシェランは虚無の境界メンバーと対面する。
「…何者だ?神でさえ探知できぬ様に結界をはってあったというのに」
「其れが落とし穴になった…と言えば良いな…」
シェランは感情のない声で返答する。
「神に対して非探知の呪術を行うことは不可能に近い。しかし、この一帯はあの霊木の力が働き、其れを可能にする。しかし、力が強すぎ〈能力者〉からのセキュリティホールを作ったのだ。結界から、お前達の目的が手に取る様に分かったよ。呪物の大量生産のために純真の霊木の枝、もしくは種を回収し、本体自身は殺すという事を」
シェランは、その場で歩きながら虚無の2人に説明した。
「ふっ…此処まで分かるとは、なかなかな魔術師…。今なら後ろの小娘を殺し…お前も共に…」
虚無が交渉を持ちかけた。
「断る…。俺はそう言うモノは興味がない。守るべき物がある…」
殺気を放つかのようにシェランは答えた
「残念だ、人を想うあまり、人を殺めている矛盾した生き方をしているというのに…其れがおかしいと考えたことはないのか?」
…しばし沈黙。相手もサイコメトリーでシェランの過去を読みとった様だ。
「あるさ…しかし、俺は…人を傷つける以外…人を救えないのだからな…」
魔術師はアサメイを取り出し、緊迫が走った。
茜も、術の行使にうつる。
勝負は一瞬だった。
茜の術は…霊木に宿る精を召還し、その場を瞬間浄化させる。虚無のゾンビ使いがゾンビを呼び起こそうにも浄化された土地に何もない。
シェランは、霊木の精を刺激しない様に一気に黒魔術で相手2人を押さえつけた…冥界の術に移ろうとするが…、茜が武器…ハリセンで2人を気絶させたのだった。
「ふー。危なかった…」
茜は霊木の精を元に戻し、ため息をついた。
シェランは茜に一礼するとその場を去っていこうとする。
「お礼がしたいのに帰るの?」
「…いいですよ…俺は人を又傷つける所…あなたに助けられたので」
と、言って茂みをかき分け去っていった。
「変な人…でも分からないわけ無いか…」
茜は携帯を取り出し、神社の本部に通達した。ほとんどの処理はIO2に任せれば良いだろう。
■祈祷のち打ち上げ
無事に、観客に混乱もなく演舞は終了した。
関係者は、あやかし荘まで向かう。
武術話で花を咲かす所、雨柳凪砂は念入りにこぼれ話をメモっていく。
手品と称して祐介は茜や女子門下生にメイド服を着替えさせる暴挙にでて…全員にハリセンで叩かれる始末。亜真知は、義昭と茜、撫子の和やかな雰囲気を見ながら、エルハンドに我が儘を言ってからかうという…厳かな儀式の後がお気楽な宴会となった。
ゆゆは、宴会が終わった後も、再び神社にやってきて、霊木とずっと会話をしていた。
「又今度来るからね」
霊木は喜ぶ様な「気」をゆゆに与えた。
End
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【0276 / 冬野・蛍 / 女 / 12 /死に神?】
【0328 / 天薙・撫子 / 女 / 19 / 大学生】
【0428 / 鈴代・ゆゆ / 女 / 10 / 鈴蘭の精】
【1098 / 田中・祐介 / 男 / 18 / 高校生兼何でも屋】
【1219 / 風野・時音 / 男 / 17 / 時空跳躍者】
【1366 / シェラン・ギリアム / 男 / 25 /放浪の魔術師】
【1425 / ルゥリィ・ハウゼン / 女 / 20 / 大学生・『D因子』保持者】
【1593 / 榊船・亜真知 / 女 / 999 / 超高位次元生命体:アマチ…神さま!?】
【1847 / 雨柳・凪砂 / 女 / 24 / 好事家 】
【1998 / 漁火・汀 / 男 / 285 / 画家、風使い、武芸者】
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■ ライター通信 ■
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滝照直樹です。
『剣客の下宿9』に参加していただきありがとうございます。
また機会が有れば宜しくお願いします。
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