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■あやかし荘奇譚 剣客の下宿10 剣客が逮捕?■

滝照直樹
【1847】【雨柳・凪砂】【好事家(自称)】
このところ、あやかし荘近辺で墓荒らしが多発する。
「怖いですね」
恵美はエルハンドとその会話をしていた。
「今の墓には…屍術に十分な媒体はないはず…」
とエルハンドは考える。
Voodoo教のゾンビや、ネクロマンシーに関係する魔術、魔法にはかなりの材料を要する。今の時代土葬はないだろう…。
「でもこの辺りのお墓は土葬だったときくぞ」
嬉璃が答えた。
「ならばゾンビが増えたり…」
「こ…怖いです…」
恵美が怯える
「秋にゾンビとは趣がないのぢゃ」
嬉璃が呟く

数日後、エルハンドの周りに黒服が集まっている事に気づく。
エルハンドは其れを知りながら…墓荒らしの調査を開始していた。
運が悪いのかそれとも…
「エルハンド・ダークライツ。墓荒らし現行犯で逮捕する」
と黒服や、特殊装備をした者に逮捕された。
エルハンドは抵抗はしないで従う。

其れを聞いた義昭達は、驚くしかない。
「其れは違う!何かの間違いです!せんせーは絶対そんなことはしない!」
「待つんだ。落ち着け、織田!」
草間武彦が織田を止めた。
「エルハンドはあの組織に用事があったから態と捕まったのかもしれない。…IO2は秘密裏に動くからな…。だからお前と俺は…彼の残した記録を頼りに真犯人を捕まえた方が良い」
「信用できる助っ人を呼んでも良いですか?」
「俺もそのつもりだ」
あやかし荘奇譚 剣客の下宿10 剣客が逮捕!?

1.
エルハンドの部屋が家宅捜索され、ほとんど重要と思しき資料は無くなった蓮の間で、織田と草間は沈黙していた。草間は煙草とのみ、今でも飛び出しそうな織田義昭を見ている。
「落ち着け、織田…。今仲間が来るだろう」
「…」
この逮捕劇は、少し不自然だ。
普通なら、エルハンドは訳を話すか、神の力を用いてIO2の記憶を有耶無耶にするはず…。幾らIO2でも其処までの神の力を超える科学技術は存在しないはずだ。
なら何故?
「失礼します」
と、女性の声がした。天薙撫子である。
「早かったな」
「急いできました…義昭君…」
撫子も義昭の心配をしている。
「まずは真犯人を見つけましょう…ね?そうすれば、エルハンド様も無事に帰って来られますから」
「…」
撫子の言葉で、義昭は少し頷く。
暫くして、風野時音が蓮の間に来た。
「こんにちは、
「周りはどうだ?」
草間が訊ねる。
「調べましたが、五芒陣というのは白魔術か結界のように思えるのですが?今、伍宮君が調べてくれています」
「…そうか…」
伍宮春華は、「I wish to〜」事件で関わった天狗だ。
「ではこれらの確認だな…」
草間は、エルハンドの猫が持ってきた箱を開ける。
1.ゴーストネット調査依頼『I wish to〜』のDVD。
2.墓荒らしのポイント。どうもあやかし荘を中心に五芒星を描いている感じ。
3.吸血種、幽体種、忌屍魔技(リッチ)のなり方の研究資料データと対策方法。
4.神器「鬼殺し」の在処。
5.「虚無」と描かれたメモ
が入っていた。
全て手がかりになるものだが、どうも線が結べない…。
「虚無が神を狙っているのか…それともあやかし荘自体なのか?」
「わかりやすいのは…やはりこの墓荒らしのことですね」
またノックされる。
田中祐介と雨柳凪砂だ。
「師匠が逮捕されたのですか…大丈夫か?義昭君」
「あたしも何かお手伝いできたら…いつもお世話になっているので」
窓から、翼をはやした少年もやってくる。
「伍宮か?」
「ああ、今のところ全然、以上はないぜ?」
メンバーは集まった。これからどうすべきか…が話し合われることになるだろう。


2Bデータの真相
忌屍者について凪砂が調べていた。
『人の欲望を使うことで、霊的爆発を起こし、呪詛を広げる…』
そういったことがDVDに入っていた。
『呪詛は己に帰るのが道理。しかし、帰るところをねじ曲げれば、その呪詛は永遠に彷徨う』
『霊的地場が高い地は必ず封印されている。その霊力暴走を欲で汚せば…虚無の思い通りになるだろう』
「これが…大まかなデータかしら…あやかし荘は無事でいられるという安直な考えは捨てた方が良いのかな…」
凪砂が呟く。
また、忌屍者の書物を読むと、ネクロマンシーの魔法が書かれていた。
「ゾンビ、レイス、リッチか…。吸血鬼がいる以上、いても不思議ではない。現に虚無にはゾンビ使いがいるのらしいし」
他に〈鬼殺し〉が封印されている地図、虚無というメモを見ては考える凪砂。
相棒でも連れてきた方が良かったかと不安になる。
草間は〈鬼殺し〉に詳しい人物を連れてくると言うこと、祐介はずっとショックを受けている義昭に付きっきりである。
幸い、基礎魔法、多元宇宙論書とエルハンドの書物が僅かに残っているので其れにも目を通した。
魔術に詳しくない彼女でも何となく分かる…。
玄関の方でバタバタと音がする。
「済まない。待たせた」
草間が1人の女の子を連れてやってきた。頭には焔がいる。
焔は、そのまま廃人同然の義昭に向かっていく。
「〈鬼殺し〉8尺もある大刀を召還できる助っ人だの五月だ」
「このこが?」
「宜しくです」
可愛らしい挨拶する五月。
「他からの連絡では、あやかし荘自体がターゲットになっているそうだ」
「そんな…」
「あの神が何を考えているのかは分からないが…」
「〈鬼殺し〉は切り札が良いと思います」
「だな」
2人は、廃人同然の義昭を見て言った。
彼が元気になるのは…あるのだろうか…。


3.見付かるポイント
数日間、墓荒らしの事件は多発する。其れに負けじと、捜索は開始された。しかし、墓荒らしの犯人と遭遇することはなかった。
「見付かりました!」
時音が草間達に電話した。
義昭は眠っているので、いったん皆は外に出る。
最後の五芒星になるポイントの墓場を見つけたのは春華であった。時音と一緒にいるらしい。
撫子の話では、墓荒らしされた墓は、あやかし荘の地場を安定させるための封印結界と言うこと、彼は虚無と単独で戦っていることだった。本人はほとんどのことを知っているが、「来訪するときの制約」でいざというときにはほとんどの行動はその世界にいる者に託さなければならないことだという。
虚無との戦いは、言えば人間と人間の戦いなのだろう。
祐介はIO2に捕まった事は廃人同様になった義昭が己の意志で立ち上がるかどうかの試練ではないかと話をした…。
「洒落にならない試練だな」
草間は呟く。
「あの慌てぶりでは、暴走者と同じだ」
「大丈夫ですよ…彼は立ち上がります」
「…わたくしとしたことが…義昭くんのことを」
「いまは、動物たちと一緒に居たが良いみたいですね。ほら、アニマルセラピーって」
草間が煙草の火を消して、皆で調べた結果から、後のこりはそのポイントだと言うことだ。
「よし、今から張り込むぞ」

最後の封印の場所。此処が荒らされたら…あやかし荘の霊的地場が暴走し、虚無の境界にとって大きな媒体となる。もし高等魔術や『Wish』が使われたら…東京どころか全てが壊滅するだろう。墓を荒らされたことで怒る霊もいるので撫子が宥める。
凪砂と祐介はあやかし荘の人々と義昭を心配し、あやかし荘に残っている。
墓場は意外にも外人共同墓地だった…。その真ん中に一番大きな墓がある。
名も無き慰霊碑と言ったところだろうか?
霊気が、如何にも封印媒体として活動している事を感じさせる。
「異常はないよ」
春華と時音が周りを確認して合流した。
「たぶん、封印を壊すだけなら…戦闘系の霊鬼兵やゾンビ使いが来るかもしれません」
と時音が言う。
「戦いになるんだな…気合い入れないと」
春華が制服を脱ぎ動きやすくした。
「撫子さん…あなたは義昭君を守ってくれませんか?」
時音が言う。
「え?わたくしが?」
「今、一番心を開いてくれている相手は、祐介君と貴女だけです…」
「わ、分かりました」
お辞儀をして、彼女はあやかし荘に向かっていく。
「良いのか?」
草間が訊ねた
「僕は修羅場をくぐったし、歌姫がいるから…でも、彼には大切な人がいない気がして…」
と時音は哀しい目で答える。
「俺には、ここは自分1人で充分だって言えば格好いいのにな」
春華は正直な意見を述べる
「そう言う言葉は苦手だよ」
「そう…そりゃ大事は人って必要だよな」
春華は、つまらないなと思った。

深夜…。
何か人影が蠢いている。
草間達は、巧く隠れて其れを見守る
「あれだ」
男の声だ。
「あの大きな墓を破壊しろ…此処には沢山ゾンビやスケルトンが作れる。そして、あやかし荘の溜まっている霊的爆発で世界を破滅させるのだ…」
その声と共に、ゆっくりと何かが墓を壊していく。
ゾンビだった。しかし、その中に霊鬼兵もいる。
「よりによって…」
草間は銃を構えた。弾は時音が生成した退魔弾である。
春華も刀を持って待機。
時音は、エーテル界で様子を見ていた。
ゾンビや霊鬼兵が慰霊碑に集まったときに時音の仕掛けた罠が発動する。
ゾンビには破壊罠、霊鬼兵は撫子から借りた妖斬鋼糸での束縛。
「何!」
ゾンビ使いが声をだす。
「先回りしていたんだ。王手ってヤツだ」
後ろから、春華がゾンビ使いの首元に刃を突きつけた。
草間は他にいないか警戒し、エーテル界から戻ってきた時音は、霊鬼兵の「核」を素手で破壊して無力化した。
「お前達の野望は此処までだ…おそらくそろそろIO2が来るだろう」
草間が言う。
「王手?無駄なことを!既に成功しているわ!」
「なに?!」
破壊された霊鬼兵に機械音が鳴る。
「お前らも道連れだ!」
「爆弾だと!?」
慰霊碑を中心に…閃光が放たれた。

其れと同時に、あやかし荘に地震が起きる。霊的爆発の効果だ。
幸い、時音と撫子の結界と凪砂の誘導で住民避難は成功しているが…。暴走した霊力は…義昭に向かって襲いかかる。祐介と撫子が其れを追い払うも、力の差は歴然とした。
そのまま霊は、義昭の中に憑依する形で吸い込まれていく。
「うわああああああああっ」
彼は暴走する霊力で苦しんでいるようだ。
「義昭くん!」
五月が急いで〈鬼殺し〉を召還した。
「おねーちゃんこれを!」
八尺もある大刀…〈鬼殺し〉。しかし実際には重量がない「影」を呼び出したのだ。
撫子は首を振って。
「自らで彼を救うから…」
と撫子は駆け寄った。
「撫子さん!」
霊力の嵐はますます酷くなる。結界が持つかどうか…そして義昭自身も。
「しっかりして義昭くん!」
苦しむ義昭に必至に声をかける撫子。
「があぁああ!」
神格暴走者のような化け物の声を張り上げた義昭…。神格覚醒はされていないものの、霊力で撫子ははじき飛ばされた。
凪砂が彼女を受け止める。
(獣化するしかないのかな…)
と、凪砂は考えた…神を殺すほどの獣の力を…。
この状態の義昭を止めることが出来るのは…エルハンド以外いないのだろうか?
祐介は…ある賭に出た。
「義昭!そんなことでは人間としても『超越者』…いや自分さえも越えられないぞ!甘えるな!其れぐらいのモノなどはじけ!師がいなくなったぐらいで苦しむな!」
と一喝。
今まで、優しく接していた祐介だが…過去の話をして聞いている内、只優しくするだけでない事をしったのだ。彼を弟として、師の代わりとして。
その言葉で一瞬だが…嵐は収まった。
そして…青白い気を纏う少年が…暴走霊気を身体から追い出し、神格具現剣『水晶』を召還する…
「天空剣四神奥義玄武!」
四神の一柱の聖獣「玄武」が敵を飲み込むように襲いかかる。霊気は玄武に飲まれた後、地面に引きずり込まれて…沈黙した。
「…俺…いったい?」
義昭は何か分かっていない。すぐに『水晶』は消滅し、そのまま倒れ込もうとしている。
撫子は、急いで彼を抱き留めた。
「大丈夫ですか?」
と運良く時空跳躍で爆発から難を逃れた時音達が、あやかし荘に戻ってきた。
丁度、IO2らしき集団がやってきた。
「おせーよ」
春華は、ボロボロになった制服を身に纏いぶつくさ言った。

その中に、義昭が慕う師がいる事に皆は驚いた。


4.本当に捕まったのだが…
興信所で
「墓荒らしの現行犯で捕まったのは確かさ。茶番劇でもナンでもない…」
とエルハンドが弁明する。
「IO2は色々調べられた、まるで動物実験されたように気持ち悪いったら」
「では、何故抗わなかった?」
草間が言う。
「一度、異能者が空港でテロをやって指名手配されただろ?暴れて、よけいにややこしくなったらどうする?」
「むー」
「にゃー」
「すぴー」
「五月とナマモノは黙れ」
「一切術を使わず、無罪という事を納得させるのに時間を食ったんだ…」
不味いカツ丼を食わされてほとほと困っていたんだと呟く剣客に、もう苦笑しかできない草間と義昭。
「信じますよ…まったくどれだけ心配したか…」
「と言うよりお前…廃人同然だったんだぞ?そっちが心配したぞ」
「む…」
今度は義昭が突っこまれる。
「ま、これからはIO2や地元退魔機関と協力関係になれたことは大きな収穫。また
義昭があやかし荘の力場を再封印したのが、私は嬉しい。それに…」
「それに?」
「しかし、やっと親友と呼べる人を見つけたようだな」
と、エルハンドは義昭の頭を撫でた。
褒められるたびに撫でられた感覚。師のぬくもりを久々に感じる義昭だった。

しかし、そこから離れなければならない時期が近づいてくる事も感じた。


End

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【0328 / 天薙・撫子  / 女 / 19 / 大学生】
【1098 / 田中・祐介 / 男 / 18 / 高校生兼何でも屋】
【1219 / 風野・時音 / 男 / 17 / 時空跳躍者】
【1847 / 雨柳・凪砂 / 女 / 24 / 好事家 】
【1982 / 伍宮・春華 / 男 / 75 / 中学生】

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■         ライター通信          ■
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滝照直樹です。
『剣客の下宿10』に参加していただきありがとうございます。
大体皆様の推理が当たっていました。
墓荒らしの犯人扱いされたのは本当だったんで。冤罪でしたが。
そして、祐介さんの行動は織田義昭に重点が置かれていることに感動しました。

また機会が有れば宜しくお願いします。
※登場人物リストのミスにより再納品致しました。ご迷惑をおかけして申し訳ありません。