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■宇宙公安バルザー!■

ALF
【2069】【星野・改造】【高校生・正義のヒーロー・サイボーグ】
「恒久平和実現、非武装中立実現の為、全ての戦力の放棄を!」
「宇宙市民の輪を広げ、国家間紛争に終焉を」
「全ての人が平等な生活を送る、真に平等な社会の建設の為、大規模な政治改革を!」
 駅前の大通り、様々な言葉が踊るビラが差し出される。近くに止められた街宣車からは、政治的な演説を打つ女性の声。
 駅前では比較的、ありがちな風景‥‥もっとも、「ビラを配っている連中が赤い全身タイツに仮面をつけた姿でなく」、「街宣車が生物的で奇怪な装飾で飾られていなく、さらにどうやら自分の意志で動き回っている様子ではなく」、そして「街宣車の上に立ってマイクを持つ10代半ばほどの少女に角が無く、肌も露わな鎧を来ていなければ」の話だが。
 人々は、その異様さに近寄る事すら避け、見なかった事にしてさっさと道を急いでいた。
「お願いです! 話を聞いて下さい! 今、再び軍靴の音が‥‥」
 街宣車の上の少女、平和の歌い手ミナ・ルーは必死で訴える。人々はきっと解り合えるのだから、それを阻害する武器を自ら捨てようと‥‥
「きゃあああああっ!?」
 ミナの演説を途切れさせる悲鳴。それは、街宣員達がビラを配っていた辺りで起こった。
 そこに立つのは、銀色のプロテクタースーツを着、手に蛍光色の光で出来た警棒を持つ一人の人物。
 その足下には、赤い全身タイツの街宣員が一人倒れ‥‥生きているのか、死んでいるのか、ピクリとも動かない。
「あ‥‥ああ‥‥‥‥宇宙公安‥‥」
 ミナの顔色が蒼白になり、体が震え出す。
 そんな彼女に目をやり、宇宙公安‥‥その名もバルザーは、酷く冷たい声で宣言した。
「街宣員及びオルグ獣、そして平和の歌い手ミナ・ルー。お前達は宇宙治安維持法に違反している。これより、法にのっとり、この集会を“鎮圧”。『赤』を逮捕‥‥粛正する」
 その声によってもたらされる惨劇の予感‥‥
 そして、対峙する宇宙公安と『赤』を見る者の中に、貴方は存在していた。

宇宙公安バルザー 第1話 バルザー登場。街頭宣伝を打ち砕け!

「恒久平和実現、非武装中立実現の為、全ての戦力の放棄を!」
「宇宙市民の輪を広げ、国家間紛争に終焉を」
「全ての人が平等な生活を送る、真に平等な社会の建設の為、大規模な政治改革を!」
 駅前の大通り、様々な言葉が踊るビラが差し出される。近くに止められた街宣車からは、政治的な演説を打つ女性の声。
 駅前では比較的、ありがちな風景‥‥もっとも、「ビラを配っている連中が赤い全身タイツに仮面をつけた姿でなく」、「街宣車が生物的で奇怪な装飾で飾られていなく、さらにどうやら自分の意志で動き回っている様子ではなく」、そして「街宣車の上に立ってマイクを持つ10代半ばほどの少女に角が無く、肌も露わな鎧を来ていなければ」の話だが。
 人々は、その異様さに近寄る事すら避け、見なかった事にしてさっさと道を急いでいた。
「お願いです! 話を聞いて下さい! 今、再び軍靴の音が‥‥」
 街宣車の上の少女、平和の歌い手ミナ・ルーは必死で訴える。人々はきっと解り合えるのだから、それを阻害する武器を自ら捨てようと‥‥
「きゃあああああっ!?」
 ミナの演説を途切れさせる悲鳴。それは、街宣員達がビラを配っていた辺りで起こった。
 そこに立つのは、銀色のプロテクタースーツを着、手に蛍光色の光で出来た警棒を持つ一人の人物。
 その足下には、赤い全身タイツの街宣員が一人倒れ‥‥生きているのか、死んでいるのか、ピクリとも動かない。
「あ‥‥ああ‥‥‥‥宇宙公安‥‥」
 ミナの顔色が蒼白になり、体が震え出す。
 そんな彼女に目をやり、宇宙公安‥‥その名もバルザーは、酷く冷たい声で宣言した。
「街宣員及びオルグ獣、そして平和の歌い手ミナ・ルー。お前達は宇宙治安維持法に違反している。これより、法にのっとり、この集会を“鎮圧”。『赤』を逮捕‥‥粛正する」
 その声によってもたらされる惨劇の予感‥‥
 そして、対峙する宇宙公安と『赤』を見る者の中に、貴方は存在していた。


●傍観者
「宇宙治安維持法‥‥」
 その騒動に足を止められていたササキビ・クミノは、聞き慣れないその法律をネットからダウンロードしようとして、すぐに断念した。
 そんなデータは存在しない‥‥
 宇宙公安という言葉から、彼らが宇宙から来た存在だと仮定して‥‥
 ‥‥そもそも、コンピューターの形態やシステムが同じ筈もないので、地球から宇宙のネットワークに接続する方法など無いだろう。
 インターネットに相当する技術そのものが無い可能性もある。宇宙は広いのだ。どんな技術進化をしててもおかしくはない。
「類推するか‥‥」
 ササキビは、語感からその意味を探るべく、思考に入った。
 地球上の治安維持法と類似があるのだとすれば、やはりそれは社会秩序を守る為に存在する法だと考えらる。『赤』と呼ばれる者達は、社会の敵とされているのだろう。となると‥‥
「戦いを止める方法など無いか」
 両者の関係は単純な敵対関係ではなく、犯罪者と法の執行者の関係と見るべきだ。
 犯罪者と法の執行者‥‥互いに妥協点が存在しないので、どちらかがこの場所から居なくならない限り、戦いの終了はありえない。
 つまり、この関係を終わらせるには、法律自体が変わらなければならない。その法律に対しては、地球人達はもちろん、バルザーも干渉する事が出来ないだろう。
 一時的な停戦で十分ならば、どちらか一方を敗北、または逃走させる事でかなうが‥‥それはどちらかに加担し、どちらかを敵に回す選択でしかなかった。
「無駄に厄介事を背負い込む必要もないな」
 見るに、バルザーも、『赤』の一団も、ササキビを巻き込むつもりはないようだった。
 考えてみれば、バルザーには事件に関係のない人間へ攻撃をくわえる意味など無い。また、『赤』の一団にしても、完全武装排除を訴えているような連中が率先して武力を振るう筈もない。
 ならば、さっさと帰ってしまうに限る。
 縁もゆかりも無い連中の争い事‥‥しかも、ササキビの主観上、まともに相手をしたいとも思わない類の争い事に関わるなど、無駄極まるのだから。
 ササキビは、回り道になる事を憂いながら、騒動から背を向けた。

●vs地球人
「みんな、逃げてぇ!」
 街宣車オルグの上、ミナ・ルーが悲鳴にも似た声を上げる。しかし、それは僅かに遅く、何某かの反応を見せる前にもう一人‥‥そしてまた一人の街宣員が、レーザー警棒の一撃に体を断ち割られ、倒れる。
 倒れた街宣員達からは血は流れない。
 だからこそ、無関係な地球人達には、それが芝居であるかの様に見えていた。
 しかしそれは、レーザーで焼き切られたが為に血管が焼き塞がれ、血が流れないからに過ぎない。そこで行われていたのは殺戮に他ならなかった。
 恐怖に声も出ないミナ。その目の前で、街宣員達は次々に屠られていく。と‥‥殺戮を続けるバルザーの手が止まり、真っ直ぐにミナを見据えた。
 ミナは、恐怖がゆっくりと絶望に変わっていくのを感じながら、それでもバルザーに問いかける。
「どうして‥‥戦争を止めようとしているだけなのに‥‥どうしてこんな酷い事をするの?」
 声はかすれ、ほとんど形にはならなかった。しかし、それでもバルザーは聞き取ったのか、ミナに対して真っ直ぐに答える。
「お前達が『赤』だからだ」
 言いながら、ミナに向かって歩くバルザー。ミナは、死を覚悟する‥‥その時だった。
「諸君‥‥我輩は萌えッ子が好きだ。看護婦さんが好きだ! メイドさんが好きだ! 魔女ッ子が好きだ!」
 訳のわからない叫びが辺りに響く。
 いつの間にか街宣車オルグの上にのぼり、ミナからマイクを奪い取って叫んでいたのは、海塚・要。こんなでも魔王。
「ドジッ子ロボが、学校に試験運用に来たときなど歓喜の極みだ。電話をしたら女神様が光臨されたなどあった日には笑って死ねると断言しよう! 『ボクの事忘れて下さい』などと言われるシーンが好きだ! 哀しいが、炸裂した萌え感動を生涯忘れることはないだろう! 諸君! 日頃は責任在るお仕事に就きつつ、いつか空から秘密組織に追われる女の子来ないかなと思ってる諸君! 萌えを望むか!? ご近所の皆様に後指さされても、尚、萌えるシーンに命を賭けたいと思うか!?」
 海塚は、賛同者の声を待つ‥‥しかし、非常に残念ながら声は返らなかった。
 そういったものに傾倒している人間というのは、石下の虫のごとく日の光の当たる所には出てこない。きっと、日光に当たると死ぬ。
 同種が集まると多少は声高にもなるようだが、まかり間違っても、こんな日中の駅前でシュプレヒコールを上げる事はない。
 ともかくも、海塚による、発言者が人間だったならばそのまま灰になって消滅してしまうんじゃ無かろうかという恥ずかしい演説は、殺戮の場であるこの駅前に空白とも言えるような停滞の時間を産んだ。
 それを気に、状況を漫然と見ていた雨柳・凪砂は、バルザーに歩み寄り、ちょっとおずおずとした様子で聞いた。
「あの‥‥宇宙警察の基づいている法とはどこの法なのでしょうか。地球は宇宙政府には属していない治外法権的な場所のはずですから、ここでの権力は通用しないと思うのですけど」
 宇宙警察と対抗組織の闘争なのかなと雨柳は思う‥‥まあ、人外が意外に多く町中にいるようなので、そう言うのも有りなのかなと。
 でも、それは宇宙でやるべきじゃないのかなとも思うのであるが‥‥
 雨柳の問いに振り返るバルザー。雨柳は、少し身構えた。良くある特撮ヒーローじみた造形ではあるが、無表情なマスクは直視すると恐い。
 だが、バルザーは素直に答えてくれた。
「宇宙法が適用されないと言う意味ではほぼ同じだが、地球は治外法権ではない。地球は、我々にとって単なる無法地帯だ」
 確かに、宇宙法は地球では意味を持たない。
 しかし、地球に治外法権のような、宇宙法に従わなくても良いという特権があるわけではなく、単に未開の蛮地では文明国の法律が通用しないという程度の意味でしかないのだ。
「無法地帯‥‥良いですけど、それでは、あの方達‥‥」
 言いながら雨柳は、街宣車オルグの方を指さし、続けて言った。
「あの方達をどうして殺そうとするんでしょう? 地球では宇宙法は意味がないようですし、それに地球では、ああいった事をしても違法ではありませんが‥‥」
「もちろん、地球人がどんな政治を行っていようと宇宙政府は干渉しない。そして、宇宙政府に属さない地球では、宇宙法に基づいた政治を行う必要もない‥‥」
 地球人は地球人の責任でもって、自らの意志によって道を選ぶべき‥‥それに対し、宇宙政府が口を挟むべきではない。
「しかし、我々の宇宙の犯罪者が、地球に干渉しようとしている。これは、地球にとって害悪になると判断した。よって、自分はここに来ている」
 自国から逃げ出した思想犯が、未開の土地で土民を洗脳しようとしている‥‥自分達には関係がないから、土民達がその思想を受け入れているからといって、放置するのは正しい態度ではないと、宇宙政府はバルザーを派遣した。
 これは、先進国が後進国に対してあたる態度としては、非常に良心的であると言えよう。
 とは言え、宇宙政府と地球を対等だと見ると話は違ってくる。思想犯の亡命というのは有り得る話だし、第一、地球の法や自治権を無視して、その領内で犯罪者の逮捕を行うというのは筋が通らない。
 そう言った傲慢さは、雨柳は気に入らなかった。だから、雨柳は曖昧に頷き、そしてバルザーから離れてミナの元へと行く。
「‥‥あの、地球の警察にも捕まりますから、逃げた方がいいですよ」
 雨柳はミナに言う。
 とりあえず、警察も暇ではないので、駅前でちょっとばかり騒ぎ立てたからと言って逮捕に来るわけもないだろう。
 むしろ、危ぶむべきは入国管理局の方から手を回されるケースか‥‥異星人とは言え、不法入国である事に変わりはないのだから。
 しかしまあ、雨柳の逃げろという提案は、この場に置いては非常に正しいものと言えた。と言うより、他に選択の余地が無いとも言う。
「ミナ様、彼女の言う通りです。ここはお逃げを‥‥この街宣車オルグが時間を稼ぎます」
 街宣車オルグがミナに言う。
「ダメです! 戦いだなんてそんな‥‥」
 戦いへの忌避の念。そして、逃げるなら一緒にとの思い。それらのこもるミナの言葉。
 しかし、街宣車オルグや、街宣員達の返す眼差しは、死を決意した者のそれであった
「革命の為の正義の戦いは、書記長も認めておられます。何より、ミナ様はここで死んではならぬ方。御決断を‥‥」
「でも‥‥」
 熱意に押されながら、それでも従う事の出来ないミナ‥‥
 と、答えない彼女の前に割り込むように、今まですっかり忘れ去られていた海塚が立ち上がると高らかに宣言した。
「‥‥宜しい! ならば『此処は俺に任せて先へ逝け』だ!」
「「「「「おおおおおおおおっ!」」」」」」
 美少女を守って戦うも萌え‥‥という海塚。
 まあ、それに対する同意の声こそ挙がらなかったが、敬愛する同志を守らんが為、その目的は同じ‥‥海塚の声に応え、街宣獣オルグと街宣員達は、一斉に『応』と答えたのだった。
 バルザーは興味も無さそうにそれを見る‥‥恐らくは、彼の前では何度も繰り返された事なのだろう。誰かを逃がすための、自己犠牲の戦いなど。
 ただ、バルザーは自分の見解を短く述べる。
「逃げられはしない。それから、地球人達よ‥‥『赤』をかくまう事は、君達自身の為にならないぞ」
「何が、為にならないって言うんだ!」
 バルザーの“忠告”に、周囲のギャラリーの中から星野・改造が声を上げる。
 彼は、そのまま衆人環視のただ中に歩み出、バルザーを睨み据えながら、ミナを指さして叫んだ。
「その人の言っている事は正しいじゃないか! 正しい言葉を人を殺そうとする‥‥お前をボクは許さない!」
 バルザーは星野を見‥‥そして、チラとミナの方を見てから、星野に視線を戻して問う。
「正しいと‥‥本当に思うのか?」
「ボクも兵器として改造された。だからこそ解る! こんな危険な物は廃棄してしまうに限るんだ! この世界から兵器や争いを無くすのがボクの使命! ボク自身が最後の兵器となり、自分で自分を破壊する日が来るまで、ボクは戦い続けるっ!」
 星野は胸を張って答える。
 バルザーは、彼の言葉を沈黙で受け止め、そしてその視線を雨柳と海塚に向けた。二人とも、バルザーに対して何かを言う訳ではないがかといってミナの前を退く素振りもない。
「よせ‥‥地球人との戦闘は避けたい」
 戦うつもりでいる者達に、バルザーは言った。
「じゃあ、この人達を追うのを止めて‥‥」
「それは出来ない」
 言いかける雨柳に、バルザーは言葉短く言い返す。その言葉を合図にしたかのように、海塚がいきなり走り出す。
「ならば戦うしかないな! それこそが、我らの定め‥‥そして、死こそが貴様の定めであったのだと知るが良い!」
 海塚の攻撃をかわそうと、バルザーは動きかかる。しかし、海塚の動きは今までの街宣員の比ではない。
 回避の間に合わぬまま、海塚の繰り出した拳がバルザーを捉え、バルザーはその上半身を揺らがせた。
「はっはっは! 今の私は、確実に“萌え”を体現している!」
 言いつつ、自分に酔う海塚。だが、その隙にバルザーは体勢を立て直した。
 そして海塚を避け、後方のミナの元へと走る。
 地球人との戦いは避けるつもりなのだろう。しかし、それが許される程、ミナについた者達は甘くはなかった。
「ミナさんは後ろに下がって!」
 叫ぶ雨柳の身体に獣毛が生え、急速に獣化する。
 その間に、動かないミナを星野が抱きかかえるようにして跳躍。バルザーからミナを引き離す。
 バルザーは、その後を追って僅かに進路を変えた。
 そこに、獣化を終えた雨柳が襲いかかる。加速が付き、直線的な動きを止められないバルザーには、それをかわすなど出来はしなかった。
 横合いから飛び込むようなタックルを受け、地面に押し倒されるバルザー。雨柳はそんなバルザーにのしかかり、その爪と牙をふるう。
 バルザーは、その牙を押さえようと雨柳の顎に手をかける。その時、弾みで雨柳の首が絞まり、雨柳は苦しげな声を上げる。と‥‥
「やらせはしないぞ!」
 ミナを置き、再び戦いに戻ってきた星野が、転がったままのバルザーの横腹を蹴り上げた。
 同時に星野は、バルザーの手から逃れて咳き込む雨柳を抱えてバルザーから離れる。
 そして‥‥
「ミナ様から受けし大恩義、今こそ返す時! 宇宙平和の礎となり、滅びろバルザー!」
 咆哮を上げながら、街宣車オルグがバルザーに突っ込む。
 立ち上がりかけのバルザーは、その突進をまともに受け‥‥そのまま、街宣車オルグのフロント部分に引っかけられたまま、ビルの壁面にたたきつけられる。
 轟音と共に崩れ落ちるビル‥‥ここにいたり、事がドラマなどではないと気づいた観衆は慌てて逃げ出した。
 そして、街宣車オルグは崩壊したビルの瓦礫の中から、ゆっくりと後退して出てくる。
 その場に残されたのは、瓦礫に埋もれて動かないバルザーの姿だった。

●巻き込まれる者達
「戦ってる‥‥」
 先程からずっと、不信の目で現場を見ていたヴィヴィアン・マッカランは、これでよりいっそうその不信感が強まっていた。
 まず思ったのは、『赤』の一団は、何故にあのような変な格好をしてるのだろうかという事。
 とは言え、今日の日本はファッションも多様化しているので、これぐらいの事では驚くべき事でも無いのかも知れない。ヴィヴィアンのゴスロリファッションだって普通の格好とは言えないだろう。
 とは言え、まあ、この疑問は足を止めたきっかけに過ぎない。後はミナの語る話を聞いて、不信感は増していったのだ。
「武器捨てるだけで平和になるの? 平等って、運動会で順位付けずにみんなで仲良くゴールインってこと? 全ての人がみんな仲良くなる必要あるのかなぁ。そんな世の中って逆につまんない気がするしぃ」
 とまあ、こんな感じ。
 そして、バルザーと『赤』及び他数名との戦い。それは決定的な違和感を与える。
「‥‥赤い人たち、抵抗してるよ? 戦力放棄を訴えてなかった? あたし、良く分かんないや。分かり合える筈なら非暴力主義を貫いてみればいいのに〜」
 『赤』に超常能力者の協力者が加わるに至り、形勢は完全に『赤』の優位となった。バルザーは倒れ、起きあがる気配もない。
 どうしようかと考えるヴィヴィアン。と‥‥ヴィヴィアンは、もしもの時のために持ち歩いている“ある物”の事を思い出した。
 ヴィヴィアンは、その思いつきにニッコリと微笑む。
「やってみよう〜。そうしよう〜」
 歌うように言いながら、ヴィヴィアンは手提げ鞄の中に手を入れた。

「まったく‥‥こうなるとは思ったんだ」
 ササキビは天を仰がずにはいられなかった。
 バルザーが突っ込んだビルは、ササキビが歩いていた場所のすぐ先だっただった。
 早くこの場を移動して、人と接触するのを防ごうと思ったのだが‥‥
「巻き込まれるとはな」
 ササキビは、さほど遠くない場所で瓦礫に埋もれるバルザーを見ながら、どうしたものかと考えていた。

●立ち上がれ! バルザー!
 バルザーが倒れ、状況は明らかに終息へと移る‥‥だが、それを許さない者の降臨が、この戦いに一石を投じた。
『バルザー! まだ、倒れるのは早いわ!』
 それは、突然頭上から降り注いできた声。
 上を見上げた人々が見たのは、駅前ビルにつけられた大型モニター。そこに映し出されたのは、軍服めいたコスチュームを着込んだイヴ・ソマリア。彼女はマイクを持って画面越しにウィンクを飛ばすと、流れるミュージックに合わせて歌い始める。
『愛する国家を守る為。
 社会の秩序を守る為。
 戦え、バルザー!
 秩序を内から崩す者。国家を蝕む邪悪な「赤」を、正義の剣で切り裂け、バルザー!
 今、貴方は〜‥‥』
「何だ‥‥この歌は」
 海塚が顔をしかめた。星野や、雨柳も耳を押さえて苦痛の表情を浮かべる。
 イヴが歌い続けるその歌は、周囲に明かな“変化”をもたらした。
 聞く者達は例外なく、社会秩序を脅かす者への怒りを駆り立てられる。
 『赤』は美辞麗句を引き下げてやってくる。反戦、平和なんて言葉は大好きだ。そして、人々から戦う意志を奪い、国家を蝕んでいく。
 『赤』に蝕まれ、戦う力を失った国家はどうなるか? 領土拡大を望む他国に攻め込まれる。
 戦争に反対し、平和な世界を作ろうと言う『赤』は、最終的には戦争を呼び込み、国家に破滅をもたらす。
 それを防ぐのが、反社会的な組織を調査し、監視する‥‥公安。宇宙公安バルザーは、『赤』と戦う正義の戦士なのだ。
『その娘と「赤」は政府の敵。騙されてはいけないわ!』
 歌の合間にイヴがメッセージを送る。
 人々の間に『赤』への怒りが沸き上がる。
 しかし、その怒りは暴動へは繋がらない。讃えるべき公安の正義に、暴動はそぐわないからだ。
 ただ、人々は祈る。自分達に代わり、社会に巣くう病巣たる『赤』を倒してくれるヒーローの復活を。
 そして‥‥イヴの歌声は、ヒーローにも確かに届いていた。
「‥‥‥‥」
 瓦礫が動き、その中からバルザーが身を起こす。
 バルザーはふらつきながらも直立すると、まるで自分に言い聞かせるかのように呟いた。
「地球人からの攻撃を確認。思想犯罪への協力及び宇宙公安調査局への妨害と認識。攻撃制限、限定解除。地球人を無力化、排除する」
 それは、地球上で必要以上の破壊を行わない為に自らにかした封印。その第一段階を解き、本来の力を取り戻す。
「機動モード」
 呟くように言った瞬間、バルザーの顔を覆うように、透明な物質で出来た板状のフェイスガードが現れる。同時に、バルザーの左手に、その全身を隠せるほどの大きさの直方形の盾が現れた。
 如何なる敵も制圧する、バルザー機動モード。
 その右手に、再びレーザー警棒の光が輝いた。
「敵の抵抗をこれより鎮圧する」

●戦い
「そこまでだ!」
 場を征する声を上げる者‥‥それは、特殊強化服FZ−01をまとった葉月・政人だった。
 最初は、自分の出る幕ではないと静観していたのだが、バルザーの登場‥‥そして、街宣員達への攻撃が始まるに至り、覆面パトカー内に隠し置かれた特殊強化服FZ−01を装着して来たのだ。
「警視庁の者だ! 双方直ちに解散せよ!」
 FZ−01は警察手帳を提示して、この場で戦闘行為を行う者を恫喝する。
 FZ−01は、バルザー‥‥『赤』に加担した星野、雨柳、海塚、そして街宣車オルグにガトリングライフルを向ける。
「無駄な抵抗は止めろ。大人しく投降するんだ」
「宇宙公安‥‥まだ居たのか!」
 その時、過剰な反応を見せたのは、街宣車オルグだった。
 FZ−01も、バルザーも、装甲服を着ているという共通点を持つ。無論、形状は全く違うのだが、慣れぬ戦いに興奮していた街宣車オルグはその違いに気付かなかった。
 街宣車オルグは、高らかにエンジン音を響かせると、FZ−01に狙いを定めて、
「!」
 FZ−01は、一応、空に向けて威嚇射撃する。しかし、それで止まる街宣車オルグではない。
「く‥‥」
 FZ−01は、ガトリングライフルを街宣車オルグに向ける。しかし、その時には街宣車オルグは、目前にまで迫っていた。
 しかし、次の瞬間、バルザーがFZ−01の前に飛び込んでくる。そして、その手のシールドで、横合いから街宣車オルグを殴りつける。
「‥‥す、すまない」
 FZ−01は、自分を見たバルザーにそう礼を返した。バルザーは、興味を失った様子で、FZ−01から敵に視線を移す。『赤』に組みした超常能力者達へ‥‥
「行くぞ!」
 動いたのは星野だった。彼はバルザーめがけて走り、その速度をもって跳躍、空中からバルザーを射抜かんばかりの蹴りを放つ。
 だが、バルザーのシールドが、その攻撃を完全に受け止め、弾き返した。相当の衝撃を受けたにもかかわらず、シールドは小揺るぎ一つしない。
「ただの盾じゃないのか‥‥」
 星野が思わず呟いた直後、バルザーが烈光の速さで振り回したシールドが星野を叩き潰すかのように打ち据える。
「がぁっ!?」
 叩き付けられ、アスファルトに身を埋める星野。
「う‥‥」
 呻き、アスファルトの破片の中から星野は身を起こす。だが、彼が見たのは、自身の前に立つバルザーの姿だった。
 バルザーは無言のまま、もう一度、シールドを振り下ろす。
 血が渋いた。そして、アスファルトの上に走る亀裂が更に大きく、広範囲に広がる。
 バルザーはシールドを上げた‥‥そこには、血塗れの星野が埋まっている。
「それ以上は!」
 雨柳は、星野への更なる攻撃を防ぐために、バルザーに襲いかかった。
 僅かに距離をあけているが、獣化した雨柳の速さなら瞬時に駆け抜けられる。
 だが、雨柳がバルザーに飛びかかる直前、バルザーはその右手を挙げて手の甲を雨柳に向けた。
「高圧水流」
 バルザーが差し出した右手から、何かが撃ち出される。
「きゃあああっ!?」
 それは、雨柳の体を正確に捉え、そこで炸裂した。辺りに光を反射しながら飛沫が飛ぶ‥‥それは水滴。
 超高圧をかけられて撃ち出された水の弾丸‥‥その威力は、雨柳の突進を完全に止めたばかりか、逆に後ろに下がらせてすらいる。
 地面に叩き落とされた雨柳は、内臓を損傷したのか血を吐いて悶絶した。
「い、痛い‥‥けど、ダメ‥‥暴走しないで‥‥」
 内にある何かと戦うかのように、呻く雨柳。そこに、バルザーは更なる高圧水流弾を打ち込む。
 雨柳の声は止まった‥‥暴走は、無い。
 これで、超常能力者二人が倒れた。
 一方で、街宣車オルグはFZ−01との戦いの最中にある。
「ぐ‥‥ぐお‥‥」
 街宣車オルグは、何度目かの突進をFZ−01に仕掛けた。しかし、動きは当然のように直線的なので、その速度に慣れた今、FZ−01にとってはかわす事など容易。
 反対に、FZ−01の持つガトリングライフルが、街宣車オルグの体表面を削っていた。
 街宣車オルグの生体装甲が弾丸に穿たれ、そこから緑の血を溢れさせる。所詮は街宣用と言う事か、見た目ほどは強くない。
「これで終わりだ」
 再び突っ込んできた街宣車オルグに、FZ−01は避ける様子も見せずにガトリングライフルを向けた。
 引き金がひかれるや、撃ち出される無数の弾丸が奔流となって街宣車オルグに襲いかかる。
 その銃弾の嵐の中‥‥街宣車オルグは自らの死を悟った。
「もはや‥‥ここまで。ミナ様‥‥‥‥」
 最後の呟き。直後、街宣車オルグの体は爆炎と変わり、周囲のものを呑み込む。FZ−01もまた、その炎に飲まれた。
 炎が全てのものを焼き尽くしたかに思えたその時‥‥何か影のようなものが炎の中から歩み出てくる。
 それは、FZ−01。彼は、炎の中から不死鳥のごとく生還した。
 バルザーは、一瞬だがその方向に目をやり、FZ−01の勝利を確認する。そして、最後に残った超常能力者‥‥海塚と隙無く対峙した。
「貴様! いったい、如何なる“萌え”で、その様な力を‥‥」
 海塚は、バルザーに問いながら、魔王たる自分の力を解放しなければならないかと考える。
 だが‥‥その時、

●メイド服の威力
「大変、お困りの様子‥‥どうでしょう、私の願いを聞いてくれるのなら手伝いますよ?」
 再び戦闘を始めたバルザーを後目に、田中・裕介はミナに歩み寄った。目的は他の何でもない。ミナ‥‥の、メイド服姿である。
「願いと言ってもたいした事じゃありません。私が用意したメイド服を着てくれる事‥‥それだけです」
「あの‥‥何を言っておられるのですか?」
 ミナは明らかに困惑した様子だった。
 それはそうだろう。修羅場に踏み込んできて、メイド服も何もあったものではない。
 とは言え、角の生えた美少女のメイド服というレア物が見たい田中は、その程度の“常識”で引き下がるつもりはない。
「お役に立ちますよ。そう‥‥例えば」
 田中は、ミナの背後に目をやり、そこで玉葱の微塵切りの入ったタッパーを何故か持って歩いているヴィヴィアンを見つける。
 目が合い、ヴィヴィアンは空惚けた様子で視線を逸らす‥‥それは、明らかに何かを企んでいる様子ではあった。
 田中は、そんなヴィヴィアンを排除すべく、いきなり必殺の奥義を繰り出す。
「早着せ替えの術!」
 それは瞬時の事であった。
 たなかの姿が消えたと思った瞬間、その姿はヴィヴィアンの背後に現れ‥‥その時には既に、ヴィヴィアンのまとう服はメイド服に変わっていた。
「何これぇ!?」
「え? ええっ?」
 驚くヴィヴィアン‥‥そして、もう一人。ミナの服も、ついでにメイド服に替えられていた。
 田中はこれで、ヴィヴィアンとミナが恥ずかしさで無力化されたところを連れ去り、戦場から安全な場所へと移そうと考えていた。
 しかし、普段からゴスロリを着て町中を歩くヴィヴィアンが、たかがメイド服ごときで恥ずかしがる筈もない。
 ミナは、普段の衣装が衣装だけに特にどうとも思ってはいないようだが、異性に着替えをさせられたという事の方で恥じ入っている。
 一方で、無力化されたのは予想外の人物だった。
「ば‥‥馬鹿な。それは、萌えを体現した衣装、メイド服ではないか!」
 バルザーと戦いを続けていた海塚が、ここに至って現れたメイドさんに、思わず目を奪われる。
 当然、それは致命的な結末を招いた。
 直後に飛来した無数の高圧水流弾が、海塚に次々に直撃。水洗トイレの様にその体を押し流した。
「し、しまったあああぁぁぁ‥‥‥‥」
 そのまま遠くへと消えていく海塚を見送り、田中は同好の死を悼む事もなく、ミナの元へと駆け戻る。
 そして、メイド服に困惑するミナをいきなり抱きかかえ、戦場から離脱した。
 ミナをこの場所に残しておく事は得策ではないのだから、誰かが連れ出さねばならない‥‥それが、たまたま自分だっただけだ。

●終劇
「ま‥‥だだ‥‥」
 海塚が消え、新たな敵を探すバルザーの背後、星野が身を起こした。
「ボクは‥‥ボクは負けられないんだ。この世界から、武器をなくすために」
 星野の呻きに似た声を無視し、バルザーはレーザー警棒を正眼に構える。
「レーザー警棒‥‥オーバードライブ」
 バルザーの手の中、レーザー警棒のリミッターが外され、2mあまりの長さに伸びた。
「フライトシールド‥‥」
 バルザーは次に、シールドを投げる。重力を無視して地面と水平に飛ぶシールド‥‥バルザーは跳躍すると、サーフボードに乗るかのようにシールドの上に立った。
「穿滅!」
 直後、シールドは急激に速度を増し、空を引き裂いて飛ぶ。
「速い!?」
 一瞬でバルザーは、恐るべき速度に達した。
 巻き起こすソニックウェーブは、その全てがレーザーブレードに巻き取られ、その刃を強化する。どうやらシールドを中心に空間をねじ曲げているらしい。
 無論、その攻撃を今の星野が避けられる筈もない。
「!」
 星野にバルザーの刃が迫る‥‥だが、次の瞬間、星野の寸前で、バルザーは壁に当たったかのように一瞬で停止した。
「待て、そこまでだ!」
 制止の声を上げたのはササキビ。星野は、寸前でササキビの結界に取り込まれていた。
 物理攻撃を無効化しうる結界により、バルザーの攻撃はほぼ無効化される。
 ササキビはバルザーに言った。
「お前が追うべき犯人は逃走した。地球人を逮捕する意味も、殺す意味も、障害の排除以外には無い以上、犯人が逃げた後に戦いを続けても仕方のない筈だ」
 これが公務であり、妨害を排除する為の戦闘であるならば、
「それより、犯人を追う事が先ではないか?」
「‥‥‥‥忠告、ありがとう」
 バルザーは少しの間、黙り込んだ後、ゆっくりと背を向けた。しかし、
「まだ、戦えるぞ!」
 星野の体は急速に回復しつつあった。
 それでも未だ動きのおぼつかぬ様子。しかし星野は、バルザーを行かせるわけには行かないと考えていた。
「そう‥‥です。貴方を‥‥行かせるわけには‥‥」
 そして、雨柳もまた立ち上がる。
 再びの戦いの開始‥‥恐らく、今度は死者が出るだろう。ササキビがそう覚悟した時、そこにヴィヴィアンが駆け込んできた。
 その手には、例の玉葱入りタッパー。
「‥‥ぐすっ」
 玉葱の前に溢れ出すヴィヴィアンの涙が、その秘められた力を解放した。
 直後、その場にいた街宣員はバタバタと倒れる。幸い、戦いを遠巻きにしている観衆には影響は出ていない。
 だが、他の者には大きな影響が出る。
 意識が急速に薄れていく星野、雨柳。そして、ササキビとFZ−01。
 しかし、ササキビとFZ−01は、駆け寄ってきたバルザーの手によってその効果範囲外に連れ出された。
 残った星野と雨柳は、ヴィヴィアンの魔力によって意識を失い、戦闘継続は不可能となる。
 それを見届け‥‥バルザーは、右手を街宣員達に向ける。止める間も無く、打ち出された高圧水流が、気絶したままの街宣員を打ち砕いた。
 そして、バルザーは駅前ビルの巨大モニターに目をやる。
『‥‥バイ。ヒーローさん』
 イヴは歌を止め、バルザーに微笑みかけた。その直後に、モニターからはイヴの映像が消える。
 それを見届け、そしてFZ−01はバルザーに聞いた。
「君は、いったい誰なんだ?」
「宇宙公安調査庁所属‥‥バルザーだ。妄言を吐き、人心を惑わし、社会を危機に陥れる者‥‥『赤』を滅ぼす為、宇宙から来た」
 答えるバルザー。FZ−01とは、同じく公僕らしい。
 僅かに親しみを覚え、FZ−01はバルザーに手を差し出した。
「握手してくれないか?」
「‥‥‥‥」
 FZ−01が指しだした手を、バルザーは軽く握り返す。と‥‥その時、道の彼方から誰も乗っていないバイクが走ってくる。
 そして、ヴィヴィアンも色紙を持ってバルザーの元へ駆け寄ってきた。
「バルザー様〜、これからも頑張って〜、サイン下さい!」
 流石にサインの要求に応えるつもりはないのか、バルザーは軽やかに飛ぶと、疾走している最中のバイクに飛び乗り、速度をあげて走り去っていく。
「ああ‥‥もう!」
 不満そうに頬を膨らますヴィヴィアン。その背後で、今度こそはさっさと帰ろうと、ササキビが足を速めて歩き出していた。

●暗躍者
「待ってください! みんなが‥‥」
 ミナが、田中の腕の中で涙を流す。
 それは、残された仲間と、一緒に戦ってくれた人々の死を確信しての涙だった。
 流石にそれを慰めることは出来ず‥‥田中は、泣きじゃくるミナを抱えたままで裏路地を駆け抜ける。
 そして、ミナが多少の落ち着きを取り戻したのを見計らって言った。
「もう宇宙公安に狙われるような事は止めて‥‥とりあえず身近な所の平和を守りませんか? 良かったら、仕事などを紹介しますが」
 別に、現行犯逮捕以外じゃ捕まらないという訳ではないので、今更、行動を改めても遅い。バルザーは何処までも追ってくるだろう。
 それでも、活動から足を洗い、隠れて生活すれば、ずっと見つかりにくい筈だ。
 だが、ミナは田中に、ゆっくり首を横に振って答える。
「それは‥‥できません。これは、私の使命ですから‥‥」
「ほう、その使命とやら‥‥聞かせてもらいたいな」
「!?」
 田中は、ミナの言葉に応えるように響いた声に、思わず足を止めた。
 今のは田中の言葉ではない。それは‥‥裏路地の闇の中から響いた声だった。
「何者だ!?」
「名乗る名はない‥‥が、敢えて問われるならばこう答えよう『アンサズ』と」
 薄汚れた裏路地に不釣り合いな、タキシードを着た若い金色の髪の男。その顔は、アイマスクで隠されており、その正体は分からない。
 ただ、名乗った名はルーン文字。神や英雄、または智恵と戦いの神オーディンを表す。
「そのお嬢さんを迎えに着た‥‥と、ご安心を。私は、かの宇宙公安とは無関係ですから。殺したりはしませんよ。殺したりはね‥‥」
「何だかわからないが‥‥どうやら、お前にミナを渡すわけには行かないようだな」
 アンサズが何を企んでいるのかは知らない‥‥しかし、それがミナの為であるとは、田中には思えなかった。
 むしろ、悪意のようなものを感じる。
 田中は、そっとミナを下ろすと、アンサズに向かって身構えた。
「守らせてもらう」
「‥‥‥‥」
 アンサズは答えず‥‥ただ、小さく嘲りの笑みを口はしに浮かべた。
「っ!」
 油断ならない相手‥‥そう直感的に判断した田中は、そのアンサズの嘲りの表情を隙と捉えて、一気に攻撃を仕掛ける。
 気の力で常人を遙かに超える速度を出し、その飛ぶかのような速度を乗せきった蹴りを放つ。
 鉄柱でも曲がろうかという一撃‥‥しかし、アンサズはかわそうともしない。
 田中がアンサズの挙動に不信感を持ったその時、田中は不可視の壁に激突した。
 宙でその動きを止められた田中‥‥直後、アンサズの手から放たれた光の槍が、田中の体を打ち貫く。
 光の槍を受けた衝撃に弾かれ、路面に叩き付けられると同時に転がされ、ビルの壁に叩き付けられる田中‥‥すかさずアンサズは、田中に向け、容赦のない追撃の一打を放った。

●虜の少女
 路上に倒れる田中は、動く様子はない。
 ミナは、ただ呆然と‥‥心の動きを封じられたかのようにアンサズを見ていた。そんな彼女に、アンサズが静かに促す。
「質問が途切れていたな。さあ、君の使命‥‥いや、『赤』が刷り込んだ偽りの正義を聞かせてもらおうか」
「それは‥‥」
 ミナは魅入られたかのように口を開いた。
「私達の故郷の宇宙では、歴史が始まってから、ずっと戦争をしています‥‥戦争がない平和な時代も僅かにはありましたが、国に軍備が無かった時代はありませんでした。そして必ず、戦争は再び始まるんです」
 ミナが生きる今の時代は、幸いにも平和と言って良い時代だった。しかし、その前の戦争の時には、宇宙政府は沢山の人を殺している。
 それなのに、宇宙政府は軍備を‥‥戦争の準備を放棄していない。いつか来る戦争のために。
「‥‥政府は大金を使って、人を殺すための道具を‥‥軍備を増強しているんです。それだけのお金があったら、幾らでも人を救う事が出来るはずなのに」
 現在有る戦力は、あくまでも自衛の為と位置づけられ、戦争による国家間問題の解決は放棄された。だが実際には、同盟国の後方支援などの名目で、戦争に戦力を送り込んでもいる。
「人は話し合いで解り合えます。戦争なんて、酷い事をしちゃいけない‥‥それくらい、子供だってわかる事なんです。誰もが悪い事だと思っている戦争がどうして始まるんです? それは、戦争をしたいと思っている人がいるからじゃないでしょうか?」
 誰もが嫌っている戦争。それを好きな一部の人達が、戦争を呼び込んでいる。ミナはそれを本気で信じていた。
「そんな人達は、国を守る為と言いながら軍備を整えて、戦争を起こします。それを許さない事‥‥そして、戦争を完全に放棄した姿を他の国家に先んじて見せる事が、戦争のない世界を作る第一歩なんです。今まで、戦争で酷い事をしてきた私達の国家が、その第一歩を踏み出すのは、当然の義務なんです!」
 そこまで言った後、ミナの表情に影が浮かぶ。
「でも、私達の宇宙では、その様な考えを持つこと自体が禁じられています。宇宙治安維持法の名において‥‥殺されてしまうのです。私達は、逃げるしかなかった‥‥」
「そして、地球に来た訳か。それで、地球で何をしている。お前達が地球で活動し、幾ら政治を変えようとも、宇宙政府とやらには何の影響も及ぼせない」
 アンサズが問う。それにミナは素直に答えた。
「地球もまた、私達の国家と同じく戦争という病に冒されていると知りました。知ってしまった以上、それを捨てては置けません」
「なるほどな‥‥どうやら、『赤』というのは相当な愚か者達の集まりらしい」
 ミナの言葉を聞き、アンサズはそう結論づけた。そして、ミナを嘲るように言葉をぶつける。
「人間は、棒一本、石一つでも殺し合う事が出来る。いや、それすら無くとも人を殺す力はある。武器を捨てる事で平和になるなどと言うのは根拠のない妄想に過ぎない」
 武器を無くしても、戦争の規模が小さくなるだけで、決して戦争自体は無くならない。
 人は、武器があるから戦うのではなく、戦いに必要だから武器を発展させてきたのだ。
「そして、戦争の原因は、もっと根元的な部分にある。上辺しか見ていない平和主義など、弾圧されて当然だ」
 言ってアンサズは、ミナに歩み寄った。そして、不思議と無反応の彼女を抱き寄せると、その唇を奪う。
 ややあって、放心したように体から力が抜けたミナを抱き留め、アンサズは薄く笑った。
「く‥‥ミナに何をするつもりだ!?」
 地に転がる田中が、未だ満足に動かない体を無理に起こし、何とかアンサズを睨み据えて問う。
 アンサズはそんな田中を一瞥し、笑みのままで答える。
「この娘は、私が預かろう。くだらない『赤』の妄想から解き放ち、私の道具として使わせてもらう」
「な‥‥」
「さらばだ‥‥」
 言葉を失う田中の目の前、アンサズとその腕に抱かれたミナは、宙に掻き消えるかのように消えた。
 何もなくなったその場を睨み‥‥田中は地面を殴りつける。
 その激しさに拳が破れ、血が滴るのにも気付かぬのか、田中は何度と無く地面を叩いた。
 そして、肉体から来るものではない‥‥苦痛の声を吐き出す。
「くそ‥‥」
 もはや誰も居ない路地裏で、田中は再び路面にくずおれた‥‥

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名/ 年齢 / 性別  / 職業】

2069/星野・改造/17/男/高校生・正義のヒーロー・サイボーグ
1847/雨柳・凪砂/24/女/好事家
1855/葉月・政人/25/男/警視庁対超常現象特殊強化服装着員
1481/ケーナズ・ルクセンブルク//25/男/製薬会社研究員(諜報員)
1166/ササキビ・クミノ/13/女/殺し屋じゃない、殺し屋では断じてない。
0759/海塚・要/999/男/魔王
1402/ヴィヴィアン・マッカラン/120/女/留学生
1098/田中・裕介/18/男/高校生兼何でも屋
1548/イヴ・ソマリア/502/女/アイドル兼異世界調査員

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■         ライター通信          ■
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 戦闘メイン〜 ギャグ度薄め〜
 バルザーに敵対した方も、一緒に戦った方も、この機会に公安調査庁に親しみを持っていただければ幸いです。
 ただし、本物の公安調査庁は怪人と戦ってたりはしません。怪しい組織と戦っていたりはするようですが。

 さて、次はもっと濃いネタを用意するか‥‥

 ちなみに、アンサズ=ケーナズさんと言う事で。
 ケーナズさんはNPCミナ・ルーをゲットです。この話の続きには、ミナを使用する事が出来ます。