東京怪談.COM

■温泉と松茸と山の主　１日目■

滝照直樹

【0086】【シュライン・エマ】【翻訳家＆幽霊作家＋草間興信所事務員】

ふと、恵美は思い出した。
秋深まる夕暮れ時に。
夕飯のサンマの塩焼き、焼きナスが程よく出来上がったころ。
「食欲の秋よね…あ、たしか友達から安くて美味しい松茸料理が食べられる温泉があるって聞いた事が…」
早速、電話で友達に確認。食事の準備は歌姫に替わって貰っている。
「…ありがとう…たすかっちゃった」
と、サラサラと温泉の場所と電話番号をメモった。
旅館は〈永久秋（とわしゅう）温泉〉、不思議とほとんど秋のような季節をもつ村らしい。

そして夕飯に食卓を囲んで恵美は温泉に行かないかと誘うのだった。
嬉璃も柚葉も綾も歌姫も賛同する。
「団体旅行になっちゃうね…あと数人お友達を誘えば…良いかも」
「決まりぢゃな」
と、恵美達はあやかし荘の住民や他の友達や世話になっている人に連絡するのだった。

あやかし荘奇譚　温泉と松茸と山の主　１日目

【前日１】草間興信所に電話：シュライン・エマ
「はい、こちら草間興信所でございます。あら恵美さん、どうしたの？」
綺麗な声で、シュラインが電話を取った。
「あら、それは良いわね♪温泉に松茸、良いわよ。武彦さん達もいいかしら？」
［はい歓迎します♪では日にちは…］
「うんうん、分かったわ。楽しみにしているからね、じゃね」
シュラインは、すらすらと日時のメモを取っていき、受話器を置いた。
「何だ？温泉とか松茸って？」
「恵美さんからお誘い受けたの。武彦さんや零ちゃんも♪」
「温泉か…それは良いよな」
「でしょ？」
「温泉…ですか？いいですね」
メイド服姿の零が、珈琲をもってにこやかに答えた。
「松茸料理も食べることが出来るのよ。結構な人を呼んでいるから皆ではしゃいじゃいましょ？」
と言って、草間と零の旅行の準備を始める。
「賛成―」
「にゃ～」
「すぴ～」
「五月とナマモノも一緒か？」
「たぶん、もう１匹ナマモノと遭う感じがするから、良いんじゃない？」
草間も不安な質問を気にしないでと言わんばかりに返答するシュラインだった。

【前日２】バケウサギ…と時音家族
緑の窓口で沢山の旅行パンフレットを持ってきた少女が、あやかし荘にいた。
恵美と歌姫、嬉璃も困り顔。
柚葉にいたっては…
「ボクより変身が巧い…」
と凹みがち。
正体は既に分かっている。変化能力をもったウサギなのだ。白兎みつきである。
饅頭（？）ウサギといつもじゃれ合っていることからか、馴染みになっていたが、管理人室を散らかしているのは頂けない。
「みつき、もうすぐ夕食なんぢゃ、片づけてくれぬか？」
「おんせんりょこう～♪」
「きいとるのか、おい」
そう聞いて、恵美はハッと思い出したようだ。
そう、永久秋温泉のことを。
そして歌姫に料理を代わって貰い、いそいそと電話をするのだった。
当然、
「あたしもいく～」
と、みつきも手をあげるのだ。
そんなバタバタしている風景を風野時音は見て、恵美に訊く。
「どうしたのですか？」
恵美は永久秋温泉の話を時音にする。
「どうですか？皆さんで一緒に行きませんか？」
「いいですね♪喜んで参加します」
と、雪香を抱いて微笑む時音だった。雪香も喜んでいる。
管理人室では、せっせとみつきがパンフレットを片づけている。これは嬉璃と柚葉がしっかり片づけ方を教えているからできるのであるのだが…。

【前日３】男と女の旅行
恵美から永久秋温泉の誘いを受けて、はしゃぐ矢塚朱姫は昴に伝える。
「昴！昴！恵美から温泉誘われた！行こう！行こう！」
「温泉？…一寸まってくださいね、朱姫さん」
昴は恋人の朱姫に温泉のことを詳しく訊いた。
「松茸食べ放題なんだって！後、この温泉はお肌がすべすべになるらしいぞ。すべすべだぞ？いいと思わないか？」
とても嬉しいのか、子供のようにはしゃぐ朱姫。
「もうＯＫとったんだ。昴も行こうぜ！」
「朱姫さん、男女で旅行というのはかなり大事…って、もういませんね…」
と、すでに彼女はあやかし荘の方向に駆けていったほうを見送りながら苦笑する昴。
「ま、いいでしょう…現地に着いたら…分かるでしょうし…」
そうして、昴は朱姫を追いかけるようにあやかし荘に向かって、詳細を訊いてから旅の各自の家で準備を整えることにした。

【前日４】ゆゆちゃん憂鬱
いつも遊びに来る鈴代ゆゆは、恵美から温泉旅行の話を聞いて、
「秋の味覚は…あう～食べられない～」
と凹みがち。しかし、参加意思はちゃっかりあるようだ。
彼女は精霊故、自然の植物との会話も楽しみである。只、普通に皆と食事が出来ないは悲しいものだ。
そこで、よく会話する友人エルハンドが見かねてか…
「ゆゆ、必要なときにこれを飲んでみろ？特に食事前な…」
「これ何？」
「変化薬といってな…、特定人物以外のなりたい人間、動物になれるものだ」
「というと？」
「自分の能力、君の場合幻影と植物との会話だけ保持したまま、１時間ほど人間になれる。…３本ほど渡しておくよ」
「え？う、うん…あ、ありがとう…」
と、クスリの色は透明な橙色をしている。
少し複雑な心境のゆゆだった。
―人間になるのってどういう事なのかな…？

【前日５】友人と共に
暁リンネは、恵美から永久秋のことを聞く。
「私以外に誘っても良いかな？」
と訊いてみたところ「ＯＫ」と言うことなので、
「では、友人を呼ぶんで、宜しくおねがいします」
と電話を切った。
いつも会うカフェで、友人の高遠紗弓は黄昏れていた。このところ、彼女は元気がないのだ。
数日前に訊いてみれば、妹に恋人が出来てかまってくれなくなり、悲しいらしい。妹には訳があり、その要因が紗弓のシスコンの原因になっている。恋する妹が代わっていく中、紗弓だけは其れになじめないと言うことだろう。
と、誘ってやろうというのは…哀れみでも何でもない。
リンネの周りはストレス要因がいっぱい有りすぎる、男とブランドしか目がない同期の女子大生たちに辟易しているのだ。２人ともストレスがたまっているのだ。
ウジウジしているより、ここは温泉やグルメを満喫するに限る！
「よし、紗弓さん！一緒に温泉行こう！」
「温泉？」
「あやかし荘の恵美さんから聞いたんだが、安くて良い温泉があるのよ。松茸と美味しいお酒が！」
「え？ホント？行く行く！」
「でも、団体旅行だけどね。その方が安くなるって言うから。でも中に入れば自由みたいよ」
「わかった！ありがとう！」
実際、ストレス発散や世の柵から離れる為に旅行する理由になるわけだ。これも又普通なのだ。

【前日６】親戚と共に
「あら、温泉ですか。一緒に行きましょう…」
天薙撫子の穏やかな声が聞こえる。
その隣では従妹の榊船亜真知がわくわくと会話を聞いていた。
「わたくしは、少し遅れますが…、亜真知サマが行きますので…はい、そう言うことで」
と、電話を切る。
「温泉ですね～」
「はい、温泉です」
２人はにっこり微笑んだ。
「亜真知サマは先に用意してあやかし荘に向かってください。わたくしは所用がありますから」
「は～い、お姉さま♪」
亜真知は鼻歌を歌いながら、身支度を始めるため自室に戻っていった。
撫子は、退魔の仕事を取りかかる後、永久秋について調べることにした。
常秋の地に何かあるのかと…。

【前日７】コスプレ猫ですか？（アルシュ談）
白里焔寿は恵美のお誘いを受け参加意志を伝える。
すぐに、身支度をすませるのだが、今回は友達の猫に何を着せるか悩んだ。
「又オシャレでなく…コスプレ？痛！」
すこし、飽きたよと訴える、アルシュ。其れを猫パンチで突っこむチャーム。
「ふっふっふっ」
「いや～な笑いだよ、焔寿…」
「えっと、秋だから…チャームはこれね♪」
と、チャームには栗と葡萄の飾りが付いた可愛い首輪を付けてあげた。チャームは満足そうに鳴く。
一方、アルシュは…
「前は結構ノリノリだけどさ、ボク猫だし…」
と、『風の又三郎』のような服装（しかも手作り）を着せられていた。ご丁寧にマント付きだ。
近頃、焔寿はお出かけの他、アルシュにコスプレさせることが楽しみのようだ。
「かっこいいわよ、アルシュ」
「にゃ～」
「チャーム、君…笑ってないか？」
と言いながら、アルシュもこの姿を気に入っているらしく、鏡の前でポーズをとっている…。
「クリスマスの時はサンタとかトナカイって言うベタなことは避けて欲しいなぁ」
と、ぼやく紫猫・アルシュだった。

【前日８】海原みあお
「みあお行く！」
といって、デジカメだの、旅行用具だのと鞄に詰めていく。
「いきなりどうして？」
姉が困った様子で聞いた。
「恵美お姉ちゃんからお誘い受けたの！それに、松茸ってお姉ちゃん「高い！」っていうから買ってくれないし！食べたこと無いもん！みあお食べたい！」
「う゛…」
痛い言葉だ。
国産の松茸はかなり高い…。みあおはずっと松茸を食べることを夢見ていたのだ。
―Ｂ級グルメの時、うまくいけば食べること出来たのに…（みあおの心の声）
次女が料理するならまだしも…母親が料理すれば悲しい結末が待っているから更に買えないというのは…流石に言えない。最も、時価食材は尚更手が出しにくいのは確かだ。
長女は海の中、次女はバイトで忙しいし、両親揃ってどこか仕事…。みあおだけ行くことになった。

【前日９】おんせんですかぁ？：ファルナ・新宮
「松茸に温泉ですかぁ～季節ですね～」
と、おそらく最強のブルジョア少女・ファルナ・新宮が、あやかし荘の夕食時にやってきては一緒にご飯を食べつつ言った。後ろには無表情のメイドゴーレムファルファが立っている。
「是非参加するのぢゃ」
と、嬉璃が言う。
「はい～喜んで♪」
と、和気藹々と会話するなか…恵美は顔を引きつらせて笑っているだけだった。
無理もない、「箱」からの温泉招待のとき、色々されちゃったものだから、恥ずかしいやら何というか…である。
彼女が来た以上、トラブルは避けて通ることは無理だろうか。避けられない事は運命である。
これが、男性陣参加者にとっては幸となるか不幸となるかは分からないのだが。

【Encounter】サバイバル拝み屋
「ぜぇぜぇぜぇ～」
１９歳ほどの少女が山の中を仲間数人と彷徨っていた。
「依頼は済んだけど…まさか遭難するなんて…トホホ」
「鞘子～はやいってば～」
「もう３日も、ちゃんとしたご飯食べてないのですよ？」
「もう～焦っても仕方ないよ～」
と鞘子と呼ばれた少女こそ、牧・鞘子。人形師見習い兼拝み屋である。
単に、除霊依頼を受けたのは良いが、迷子になり数日（仲間の言葉では３日）彷徨っているのだ。
しかし、逞しく、山の幸であるキノコやら栗など、そしてウツボカズラの水筒をもっていたりする。
何か良い香りを感じる鞘子。
「先に何かあります！」
と駆けていく。
「まってよ～」
その先に遭った物は……。
少し開けた場所の中央で、七輪で松茸を焼いている生物、いや見るからに二足歩行している天然記念物のニホンカワウソだ。
「かわうそが…松茸焼いている…」
流石鞘子も彼女の仲間もビックリして止まった。
「かわうそじゃない…かわうそ？」
「え？かわうそ？」
しかも人語を喋る…しかも呼び方まで注意された。でも霊気、妖気とも謎でまったく分からない。
危険ではないのは確かだが…何故？と突っこみたいがつっこめない…雰囲気を持つナマモノ・かわうそ？
「遭難者数名…保護…そちらに向かう。いじょー」
と、得体の知れない生物は、トランシーバーでどこかに連絡した。
「疲れ癒せる場所、近くにある。ついてくる…」
と、焼きたての松茸を人数分に裂いて鞘子達に渡した。そしてお茶も。
「ありがとう…何処にあるのでしょうか？」
おずおず、訊ねる鞘子。
「この道を降りた先…かわうそ？そこでバイトしている。」
「？？」
「永久秋温泉…。永遠に秋の季節の里、永久秋…」
山の幸をいっぱい入れた籠を平気に背負っている、かわうそ？は答えた。
その生物の言ったことは本当だった。
木々の間から、豪華な老舗旅館を感じさせる建物が見えてきたのだ。
―天然記念物に保護されるなんて…ね…。

【出発日】あやかし荘に集まる方々
参加人数役１０人以上…。草間興信所の面々や、あやかし荘の住人も集まった。
恵美は、エルハンドに留守の方を頼むことにした。彼は参加することは無いようだ。
「留守番はしっかりしますよ。ゆっくり行ってらっしゃい」
「ありがとうございます」
恵美とエルハンドはそう言う会話がなされる。
一方嬉璃達は三下をこき使って荷物を持たせており、庭先ではウサギと戯れて、バスを待つもの、親しい人と話をしている者と様々だ。
マイクロバスがやってきた時には皆、歓声があがる。
子供のお守りは時音担当で、荷物持ちは三下に草間、そして天樹昴となる。
「いそごう！いそごう！」
「温泉は逃げませんよ」
「きゃあ～猫とウサギ！かわいい♪」
「にゃ～」
「すぴ～」
何かと騒がしいバスが出発するのを、留守番する剣客は見送った。
「そんなに問題はないだろう」

バスは何のトラブルもなく、１５時頃に永久秋の里に着く。
今では、秋本番、山は鮮やかな色に化粧されている。その美しさに驚かない者は居ない。
永久秋温泉は、老舗の風格をもつ建物だった。
途中、上から見る事が出来たので、その広さはあやかし荘を思い出させる。
兎に角広い敷地に立派な建物だ。
そこから少し離れたところに、永久秋の集落がみえるのだ。
そして、永久秋温泉にたどり着いた。
「すごーい」
誰とも無く、感想を言う。その言葉は木霊するほどではないのだが…山から木霊として帰ってくる。
「あやかし荘の皆様、いらっしゃいませ」
と、和服姿の女将と従業員達が出迎えてくれた。
「女将の猿渡秋葉と申します。ごゆっくりしてくださいね」
「因幡恵美です、お世話になります」
と、団体代表の恵美と女将の秋葉は挨拶し、各人を部屋まで案内する。
「夕食まで各自自由に行動しても構いませんよ」
と、恵美は笑顔で言った。

一方、前日にナマモノに救出された鞘子が、この団体に興味を持っていた。
「あの団体は何だろう？」
「あやかし荘ご一行様…」
かわうそ？が側で答えた。
「ふ～ん、楽しそうです♪って何で君が居るの？」
「バイトだし」
言葉が出なかった。

【散策１】
シュラインは、一段落付いた後、草間の部屋に向かう。
相変わらず雑な男で、すでに荷物を隅に置いているだけで、板の間にあるイスに座って、外の景色を眺めて煙草をのんでいた。
「東京ではなかなかお目にかかれない風景だな…。シュライン、どうした？」
やはり、旅の疲れか景色に見とれていたのか、シュラインが入ってきた事を知らなかったようだ。
「ホント綺麗よね」
シュラインは近づいて、同じように見る。
「ねね、武彦さん。一緒に散策行かない？」
「ん？いいな、それに時間はあるからな」
草間は、煙草をもみ消しシュラインと共に外に出る。
仕事のために、滅多に二人っきりにはなれないので、こうしてゆっくり２人で山を散策するのも良いだろう。女将が絶景ポイントや、里の事を教えてくれた。
彼女曰く、気温だけが常に秋であるだけで、季節はあるのだというのだ。地元の季節の山の幸を楽しむ事は出来るし、永久秋というから、夏は暑くなく、冬には雪さえも降らない。里との境にある山頂に雪が見えると冬というわけだ。
草間もかなりリラックスしており、シュラインも自然に彼の腕を組んで山道を行く。
端から見ても、普通の大人のカップルにしか見えない。
秋ならではの心地よい気温、野生の小動物が彼らを出迎える。
絶景のポイントにたどり着いた。
それは言葉では表せない、秋化粧。
「綺麗よね…」
シュラインは景色に魅了される。
「恵美に感謝しなくては行けないな」
と草間はシュラインの肩を抱いた。
「来年は２人でくるか？」
「そうね…って…え？」
いきなりの草間の言葉に返事を返すが、我に戻ってビックリするシュライン。
草間が笑っている。
「ビックリする事じゃないだろ」
「そうよね…約束よ」
秋の穏やかな気温は２人の気持ちを和やかにしていた。

【散策２】
「散策行きましょう、嬉璃ちゃん恵美様♪」
「うむ、そうぢゃ…ここで茶をすすっているだけでは詰まらぬからの」
亜真知は嬉璃と恵美を引っ張って、山の散策を楽しむ事にした。既に松茸狩りについても認可が下りているので、心配はない。
「あたしも行くよ～！」
「散策ですか？私も行きます」
「みあおも！」
途中廊下で会った、ゆゆ、焔寿、みあおも付いてくる。
「面白そうですね」
と、昴も参加。三下は嬉璃の命令で強制だった。
焔は、亜真知が出かけると知り、急いで駆けてきて
「にゃー」
と鳴く。行きたいようだ。
亜真知は皆と秋の風景を楽しんだり、栗、キノコなどを採っていったりと散策に夢中になった。恵美も焔寿も楽しみながら、無茶をしないか保護者感覚である。
当然焔は亜真知の頭の上でお気楽にしている。アルシュにいたっては山猫のように、野生化のふり。
木に登る、飛びはねる、皆には、
「猫じゃなくて猿？」
と言われる。
「ちがーう！風の又三郎」
と紫猫は抗議。
「それは…ちょっと違うんじゃないかな？」
昴は首を傾げこの奇妙な猫に言った。
「え～！？うわ！」
見事にアルシュは枝から落ちる。そして茂みの中に消えた。
「アルシュ！」
焔寿が心配して駆け寄ってみると、見慣れない女性がアルシュを抱いていた。アルシュはビックリして固まっている。
白いセーターに短パン、玉のネックレス。スニーカーを履いている極普通の格好だが、何かしら不思議な感じがする。
「あ、ありがとうございます」
「…」
女性は、焔寿にアルシュを渡して、走って逃げるように去っていった。
「あ、待ってください！」
「この感覚は…」
亜真知は首を傾げるだけだった。
「おかしな女の人だなぁ…里の人なのかな？」
みあおも同意した。

散策も終わり宿に戻る一行だが、昴だけは、
「もう少し大きい松茸を探してみます」
という。
「ぢゃ、このサンシタもつれていけ」
と、三下を引っ張り、嬉璃が言った。
「サンシタじゃなくみのしたですぅ～」
「やかましい。サンシタがお前には相応の名ぢゃ。それと貴様は大きいのとらないと、どうなるかわかるぢゃろ？」
三下は泣く泣く、昴と共に更に山奥に向かったのだった。

松茸や山菜などが沢山採れたので、料理長に夕食に使って貰うためにその全てを渡した。
みあおは、お土産に松茸が欲しいと言っているが、女将はニコニコとして其れを承諾した。
「やった♪」
とても可愛い笑顔でガッツポーズをとるみあおだった。

【歓談】時音家族と零、鞘子
「昔に、ブロックを叩くと巨大キノコが…」
と未だ幼い雪香に延々と語る時音がいた。その周りで真剣に聞いている零と雪香とみつき、そして五月。
しかし、その光景を見て突っこむのは歌姫だった。
（有るわけ無いじゃない）
と怒っている様子。
「本当、本当なんだって…」
「そうなのですか？」
「すごい、こわいー」
零は不安そうに訊くし、みつきは怖がる。
「ええ、あの時は大変でした…ってイタいイタい！」
歌姫のハリセンが時音を叩く。
零は歌姫を止め、何とか落ち着くのだった。
そして、見知ったナマモノが入ってきた。かわうそ？である。
「あれ？君は？」
「いかにもかわうそ？」
「いやソレは分かるけど…何か用かな？」
時音が訊いた。
すると、鞘子が一礼して入ってきた。
「牧鞘子と申します」
「風野時音です…どうかいたしました？」
「あのですね…かわうそ？から訊いたのですけど、彼とお知り合いが多いらしいから、一寸興味がありまして」
と遠慮がち（？）に訳を話す。
「はい、旅は道連れ～って言いますし」
「宜しくです」
時音と零がニコリと笑う。
「此方こそ宜しくお願いします。いったい、何の話しているのですか？」
と、鞘子はお辞儀をする。
しかし、話はまた時音の謎の会話と漫才が続くのだった…。

【風呂はトラブルが付き物１】
永久秋は露天風呂であるが、男女別に設置されている。岩風呂で景色が見事な露天風呂だ。
一方、散策を終えたシュライン、時音の馬鹿話を聞き終えてきた鞘子、早く風呂に入りたかった朱姫とファルナが露天風呂に入っていた。ファルファはのぞき魔撃退のために警備に当たっている。
風呂はとても気持ちが良く、皆は一斉に
「言いお湯ですね～」
と、言う。
「ほんと、気持ちいい」
「効能がすごく気に入ったよ」
「朱姫さん、とてもスベスベな肌をしてますねぇ。彼氏さんと一緒に来ているのですねぇ？」
「え？あ、そうだが…あ…」
朱姫は何か思ったのか顔を朱に染めた。
「あらら、ファルナさん、あまりからかっちゃだめよ」
シュラインが苦笑する。
朱姫はどんどん恥ずかしくなっていった。其れもそうだ、昴を誘って意気揚々としていたのだが、今冷静に考えれば、団体とはいえ男女の旅行だ。すっかり自分たちの関係すなわち「恋人」という事を忘れていたのだ。昴はたぶん分かっているので尚更恥ずかしい。
彼女は、恥ずかしさのあまり口まで湯に浸けるのだった。

一方、山の中。
「なかなか見付からないですね」
昴は三下と松茸狩りをしてる。かなり急斜面の松林。
大きい松茸はなかなか無いようだ。
「三下さん、足元気を付けてくださいよ」
「はい～」
とはいっても、当の三下の脚は震えている。
探す事、暫くして
「あ、有りました！」
昴はかなり大きな松茸を見つけた。
しかし取りに行くのには、垂直級の崖を渡らなくてはならない。
高嶺の花でなく松茸と連想…。
「危ないですから帰りましょう～」
「そうはいっても、こんな大きいもの見逃しては…それに嬉璃さんにいびられますよ」
「そ、それもいやですぅ～」
と、三下は彼の後に付いていこうとするのだが…。
モノの見事に、急斜面を滑る。
「三下さん！」
「ぎゃぁ！！」
「あ、僕の脚を掴まないで、って…わぁぁあ！」
２人揃って山を転がって、宙を舞う、そしてその下に一瞬、蒸気を発する池が見えた…。
大きな水柱（推定１０feet）が出来るほど、２人は其処にダイビングしたのだ。
「きゃぁ！」
「な？何？」
気絶している三下が先に浮かび…昴が湯から顔を上げる…。
周りには女性がいっぱい。真っ赤に顔を染めた朱姫がワナワナと震えている。
「大胆ですわね～ダイビングして覗くなんて」
ファルナがのんびりとファルファの攻撃動作を制止ながら言う。
「こ、この…」
「あ、朱姫さん待ってください！こ、これは！」
「助平！」
朱姫の一声のあと、平手打ちが永久秋の里に木霊した。

男湯では、草間がのんびり疲れをとっていたが、
「哀れだな」
と、呟いていた。
彼は、あの２人が、斜面から転がり宙を舞う所を見ていたのだった。
せめて、弁護ぐらいはしてやろうと思って風呂から上がる怪奇探偵だった。

大きな平手打ちの音を部屋で聞いた紗弓は、
「先に風呂に入らなくて良かったみたい」
と、饅頭を食べながら言う。
「だいたい、こういうトラブルはあるものよ」
リンネは、落ち着いてお茶をすすっていた。

【宴会】
夕食は和中心の松茸料理が並ぶフルコースだった。普通ならこれほどの量は一般人では食べる事は出来ないものだ。鍋物はないが、松茸の網焼きがメインと思えば問題なし。

みつきがいきなり松茸を生で食べようとする所を、焔寿が止めた。
「えー美味しいよ？」
「網で焼いてからの方が美味しいですよ」
と、手際よく松茸をあぶる。
そして、それを裂いてみつきに渡した。
「あつい、あつい！…もぐもぐ…お、美味しい♪」
みつきは凄く幸せな顔をする。

「零ちゃん土瓶蒸しは美味しいわよ」
とシュラインは少しお酒が入っていながら、零に土瓶蒸しを勧めた。
「えと、これ贅沢じゃ…」
「いいからいいから」
流石に松茸が高級食材ということで抵抗感があるようだ。
今旬の白身魚に松茸、そしてアクセントとして一緒に蒸した山菜などが更に松茸の香りを引き立てる。
恐る恐る、零が土瓶蒸しを口にする。
「おいしいです。こんな美味しいもの初めて食べました」
とても幸せそうに零は言う。
草間もシュラインと一緒に酒を飲み、草間興信所メンバーは和気藹々と宴会を楽しむ。
「あれ？焔と五月は？」
「あれ？此処にいたはずなのに」
「大丈夫ですよ、２人とも」
零は笑っていた。

「はぁ妹にも食べさてやりたい！」
紗弓はこの豪華な料理を食べて感激しているも…やはり妹のことが気になるらしい。
それをジト目でみるアンリ。
「もういい加減妹から離れたらどうだ？」
「なによ～！たった１人の妹なのよ～」
「だめだなぁ紗弓は、ねー、焔ちゃんにアルシュ君だっけ？シスコンやブラコンはだめよね～」
「にゃ♪」
「だめだね」
「猫に同意も止めないでよって、そこの猫も同意しない！」
「見て来たし色々」
と猫が喋る。
「人の言葉分かるってすごいね～」
紗弓の抗議にアンリは虹猫を味方に付けている。
「可愛い～猫ってどうして可愛いのかなぁ。君たちも飲もう！」
と、アンリは既に酔っていた。猫に酒を勧めてどうするという紗弓の視線を無視。
「うにゃ～」
「マタタビ酒（松茸エキスブレンド）が有るのは何故？」
と、紗弓が突っこむが、すでに猫もアンリのペースにはまっているのだった。

玄関で急いでやってきた撫子を迎えたのは座敷童子２人と亜真知、みあおだった
「遅れて済みません」
「丁度だよ、未だ始まったばかり」
みあおがニコリと笑う。
「そろそろリタイア者がでるころぢゃがの」
嬉璃がにやりと笑う。
「撫子姉様、大丈夫でしたか？」
「はい、用事は全て終わりました亜真知サマ」
にっこりと従妹に答える。
「さて、ゆっくりしましょう、姉様」
と、亜真知は撫子と手をつないで宴会場に向かった。

風呂の一件から、ぎくしゃくしている朱姫と昴。席は隣だが、会話できない状態だ。
あのあと、草間や他の者の弁護で事故と分かっていても何も出来ない。
というのは、恋人として意識しており、緊張して話が出来ないのだ。
昴は昴で、大きな紅葉が出来ているので、少し話し辛い。
少しと奥の方で、恵美は心配そうにしている。
「時間が経てば、仲直りすると思うよ」
ゆゆはジュースを飲んで恵美に言った。
「そうですよね…」
恵美はため息をつく。
「ゆゆちゃんも…残念では？」
「うん…でも、これはこれで良いかなって…」
空元気を見せつつゆゆは笑う。
エルハンドから貰った変身のクスリを使うか悩んでいるが…今は止めておこうと思った。
ファルナはその隣で松茸料理に舌鼓。
「お父様と色々な松茸のお料理を食べましたが～やっぱりそのまま焼くのが一番です～」
といって、焼きたての手頃な松茸を傘からぱくりと食べるのだ。
なんというか、艶めかしい…食べ方だ。
「あ、これは美味しそうですね～」
「あ、それはだめですよ、ファルナさん！」
時既に遅し。ファルナは、松茸を浸けた酒を一気飲みして…
「あ～世界まわってますぅ～三下さーん、これ美味しいです…よ」
といって、フラフラ三下に覆い被さるように倒れ、熟睡。
「ファルナさんのいてください～！ぎゃ～」
ファルファの防衛システムが三下を襲った。
それには、乾いた笑いで見守るしかない、あやかし荘のメンツだった。
幸い、ファルナは何とか酔いがすぐに醒めた。
時音の持っている丸薬が功を奏したのだ。

そのあとは、時音家族は、のんびりと家族サービスをしているし、ファルファが皆に無表情晩酌、みあおは松茸料理を堪能しつつも記念撮影をとり続ける。酔ったナマモノ組（虹猫、かわうそ？）が芸を見せるなどあやかし荘並の宴会ムードとなる。
そして女将の秋葉がやってきて、挨拶が終わると、更に盛り上がりを見せていった。

【風呂はトラブルが付き物２】
夕食をすませた後、皆は風呂にむかった。
アンリは紗弓と風呂で酒を飲むので、結局は此処でも宴会。
お酒の他に、つまみがまた美味しい。悪酔いを避けるためにタンパク質の多いつまみだ。
ファルナと言えば…、鞘子や恵美の背中流しなどをしている。
結局皆の背中を流して暇になったのか（１０人以上背中流してか？）、
「あちらの方々も背中流さないと行けませんねぇ～」
と、フラフラ男湯に向かう。
「ファルナさん！」
一部の女性が止めようにも、彼女は訊かない…。
既に行動が読めている、撫子、恵美は首を振った。
「彼女はその辺を考えていないですから…あとは…男性陣がどうなるかだけです。ただ、背中流しだけだし問題ないですわ…」
止めるだけ無駄というあきらめの言葉。

案の定…男湯では歓喜とも恐怖とも思える悲鳴が聞こえてきたのだった。
時音は、風呂では力をなくすためその悲鳴さえ出せないのだが…。

【仲直り】
朱姫は縁側でションボリしていた。
「やっぱりマズかったかなぁ」
ため息。
しかし、今どういう風に言えばいいか分からない。
先ほど天国のようで地獄を体験した昴がやってきた。恋人が悄気ている所は見ても嬉しくない。
ここは、勇気を出すしかないだろう。
「朱姫さん」
「あ、す、昴！」
少し身構えてしまう朱姫。しかしすぐに緊張を解く…。
昴は何事もなかったかの様に彼女の横に座った。
暫く時間が流れる。ゆったりした気持ちになれた。
「色々あったけど、こうしてゆっくりした事ってなかったよ、誘ってくれてありがとう」
と、朱姫の頭を優しく撫でる昴だった。

【終わりに】
騒がしい温泉宴会を避けて就寝前に風呂に入るシュラインとゆゆ。
時にゆゆは、皆の姿を真似てセーラー服からバスタオル姿に幻術で変えている。
のんびりと夜空を眺め、ゆゆが口を開いた。
「命の洗濯だね」
「そうね」
ともあれ、無事に一日は過ぎた。

２日目に続く

□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■　　　登場人物（この物語に登場した人物の一覧）　　■
□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
【0086　シュライン・エマ　26　女　翻訳家＆幽霊作家＋草間興信所事務員】
【0157　ファルナ・新宮　16　女　ゴーレムテイマー】
【0187　高遠・紗弓　19　女　カメラマン】
【0328　天薙・撫子　18　女　大学生】
【0428　鈴代・ゆゆ　10　女　鈴蘭の精】
【0550　矢塚・朱姫　17　女　高校生】
【1219　風野・時音　17　男　時空跳躍者】
【1305　白里・焔寿　17　女　天翼の神子】
【1415　海原・みあお　13　女　　小学生】
【1593　榊船・亜真知　999　女　超高位次元知的生命体・・・神さま！？】
【2005　牧・鞘子　19　女　人形師見習い兼拝み屋】
【2014　暁・リンネ　19　女　大学生】
【2093　天樹・昴　21　男　大学生＆喫茶店店長】
【2099　白兎・みつき　５　女　バケウサギ…って職業じゃない】

□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■　　　　　　　　　ライター通信　　　　　　　　　　■
□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
滝照直樹です。
『あやかし荘奇譚　温泉と松茸と山の主　１日目』に参加していて頂きありがとうございます。
また、最高人数を更新しまして、「やりがいある」なと「さて、どう纏めていこうか」と悩みました。
予定の１０人を遙かに超える１４人ですから。
出来上がる時期を考慮すると、２日目を開けるのは１１月上旬～半ばという少し季節はずれになりそうです。
また、巧く希望通りに描写できたか不安ですが、楽しんで頂ければ幸いと存じます。

高遠・紗弓様、矢塚・朱姫様、牧・鞘子様、暁・リンネ様、天樹・昴様、初参加ありがとうございます。

では、２日目も宜しくお願いします。
滝照直樹拝