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■こんにちは褌■

里子
【1973】【威吹・玲璽】【バーテンダー】
 熱帯夜。
 寝苦しさにふと目を覚まし水を飲みに起き出す。そんな機会も多くなる。そんな夜のそんな機会に、ふと垣間見てしまう非日常。
 熱帯夜。
 真夏の、暑い熱い夜の夢。

 月刊アトラス編集部。毎度の如く事件は三下の不幸な経験から始まる。
「で?」
 不機嫌極まりない様子で己を見下ろす麗香を見上げ、三下はいよいよ身を竦ませる。優雅に脚を組んで腰掛けている麗香を『見上げる』ことは如何に麗香が長身であろうと成人男性である三下には不可能。
 すわ怪奇現象かとは――勿論誰も思わない。
 単に三下は麗香の足元に正座しているだけである。毎度の如くに。
「だから噂なんですううぅ」
 都内のある住宅街に最近蔓延している不可解な怪談。
 夜中に目を覚ますと『それ』は漂っている。ゆらゆらと揺れながら布団の上を。
 そして起き上がるとついてくる、悲鳴を上げようと無視して水を飲みにいこうと、トイレに駆け込もうと付いてくる。
 そして――
「正気か?」
 草間は眉間に皺を寄せた。コクコクコクと麗香の足元の三下が幾度も幾度も頷く。
 話があるとの女王様のお召しに参上してみればこれである。草間は頭を抱えたくなった。
「――オカルト雑誌の主旨からは大分外れてないか?」
「だからあなたを呼んだんでしょ」
 悪びれもせずにきっぱりと言い切る麗香に、草間は額を押え、渋い顔で沈黙した。

 夜中に目を覚ますと『それ』は漂っている。ゆらゆらと揺れながら布団の上を。
 そして起き上がるとついてくる、悲鳴を上げようと無視して水を飲みにいこうと、トイレに駆け込もうと付いてくる。
 そして『それ』を見たものは例外なく何かに目覚める。翌朝狂ったように箪笥を引っ掻き回し、あるもののみを総て捨て(その時身につけているものさえも例外でなく)あるものを買い漁りに走る。

「……正気か?」
 繰り返す草間に、麗香は無情にもこっくりと頷いた。
「何しろ早々売ってるものでもないでしょう? 布を買ってきて奥さんに縫わせるだとか、見つからずになにもなしで過ごすとか……まあそういう事態が頻発してるらしいのよ。ネタになるかどうかは兎も角ちょっと冗談じゃない話だし、何とかしてもらえない?」
「なんとかねえ?」

 熱帯夜。
 寝苦しさにふと目を覚まし水を飲みに起き出す。そんな機会も多くなる。そんな夜のそんな機会に、ふと垣間見てしまう非日常。
 熱帯夜。
 真夏の、暑い熱い夜の夢。

 ――褌の夢。
こんにちは褌

 熱帯夜。
 寝苦しさにふと目を覚まし水を飲みに起き出す。そんな機会も多くなる。そんな夜のそんな機会に、ふと垣間見てしまう非日常。
 熱帯夜。
 真夏の、暑い熱い夜の夢。

「すげー話だな。悶絶! 褌天国! って感じか? いや、どっちかっていうと地獄か。っていうか見たくねぇ。帰ってもイイですか?」
「いいわけないだろ」
 身を翻しかけた男に見事なまでの足払いを食らわせたのは妙齢の女性。
 途端に巻き起こるけたたましい物音に草間は一瞬顔を顰めた。無論同情等はしてくれなかったが。
「にしたって、褌か……。ふ、ふふふふふふふ……」
「その含み笑いは一体なんだ……つか謝れ、一言でいいからとりあえず謝れ」
「なんで?」
「今の今俺に足払いかけたのは何処のどいつだ!?」
 がばっと起き上がった男の名前を威吹・玲璽(いぶき・れいじ)。何処吹く風でふふんと鼻を鳴らしている女の名前を藤井・葛(ふじい・かずら)という。
 葛は起き上がってきた玲璽の首根っこを鷲掴むと、そのまま草間に向直った。
「というわけでこれ借りてっていいか?」
「別に構わんがどうするつもりだ?」
「俺の意志は!?」
 怒鳴る玲璽に答えるものは居ない。綺麗に無視した葛はにんまりと草間に笑いかける。
「ま、どうなろうと俺には実害ないしな。実害ないってことは囮にもなれないってことだろ。適当にそこらで聞き込みして、それから囮使って罠はるのが確実ってもんだ」
「成る程囮に使うわけか?」
「一寸待て激しく聞き捨てならないぞそれは!」
「ああ、構わないだろ?」
「ああ、全くかまわん。兎に角さっさと片付けてきてくれ」
「了解」
「だから聞け人の話をー!!!!!!」
 誰も聞いてくれなかったのは言うまでもなかった。

 都内のある住宅街に最近蔓延している不可解な怪談。
 夜中に目を覚ますと『それ』は漂っている。ゆらゆらと揺れながら布団の上を。
 そして起き上がるとついてくる、悲鳴を上げようと無視して水を飲みにいこうと、トイレに駆け込もうと付いてくる。
 そして――

 そして『それ』を見たものは例外なく何かに目覚める。翌朝狂ったように箪笥を引っ掻き回し、あるもののみを総て捨て(その時身につけているものさえも例外でなく)あるものを買い漁りに走る。

 熱帯夜。
 寝苦しさにふと目を覚まし水を飲みに起き出す。そんな機会も多くなる。そんな夜のそんな機会に、ふと垣間見てしまう非日常。
 熱帯夜。
 真夏の、暑い熱い夜の夢。

 ――褌の夢。



「ホントにもう困ってるんです」
 疲れ果てたという声で一人の奥様が言う。それを皮切りに、
『どうしたらいいのか』
『なにを考えているのか』
『離婚しかないと思いつめている』
『いくら慰謝料取れるかしら』
 と、口々に愚痴が飛び出した。なにやら違うものも混じっているが。
 ご町内の井戸端会議。他に収集できる情報もない為に、守崎・啓斗(もりさき・けいと)、守崎・北斗(もりさき・ほくと)の双子と、葛とその犠牲者は揃ってその中に混じり込んでいた。確かに図書館や博物館、どんなデータベースに侵入をかましても、褌の幽霊なんぞの情報など得られる訳がないのである。得られてたまるかともいう。
 結局奥様方の話を総合すると、ある夜突然褌に目覚めた夫や息子や舅が、褌を求めてなにかをブラブラさせていると、その程度のことだったが。
「……ってそれのどこがその程度なんだよ」
 北斗がぶつくさと呟く。だが残念な事に、場外への苦情は受け付けてはもらえないものなのである! 何の話だとか言う突っ込みは不要である単なる楽屋落ちだ。
「無理矢理褌ってーとつまりハレンチドシフンの霊? つうか付喪神とか言う奴か? まぁどっちにしろハレンチな奴って事だ。……俺もハレンチ野郎になる恐れがあるのか。帰りてぇ」
 玲璽が深深と溜息を落とす。その首根っこを逃がすまじと捕まえている葛はその溜息に鬱陶しそうに開いている手をひらひらと振った。
「そんなに恥ずかしいお宝しか持ってないのかよ?」
「そんな問題じゃねー!!!!」×2
 北斗と玲璽の声が唱和する。微妙に頬が赤いのはさらりと吐かれた言葉が妙齢の女性の口からだったと言う事で、実は図星を指していたとかそういう事ではない。
 …………………………………………多分。
「しかしこんな不確かな噂話だけでは埒があかないな」
「やっぱ囮作戦しかないかね」
 啓斗の言葉に葛が頷く。勿論捕獲してある玲璽の意見も泣きかけの弟の意見も無視である。
 葛は故意に、啓斗は無意識にではあるが。
「てか! サンシタ! お前がくっだらねー噂なんか仕入れてくんのがわりーんだろー!!」
 麗香に無理矢理持ってこさせられた装備(三下忠雄)に蹴りくれつつ、吼える北斗と、
「つうか、俺、成仏させるとか出来ねぇぞ? せいぜい出来てもとっ捕まえるとか、動きを止めるだとか……」
 微妙に覚悟を完了した玲璽の姿が奥様方の涙を誘った。その甲斐あってか、四人は善意の奥様の一人から一晩囮用の民家を借り受ける事に成功したのであった。



 提供されたのはごく一般的な民家。一階にリビングと和室、二階に洋室が二間。建売地区7年残りローン13年と言った所か。住宅街にありがちな一軒家である。
「最初は格好よさでは結構定評があったんだぞ俺……それが今じゃ兄貴に美味しい所持ってかれて挙句の果てに青春小僧とかなんとかって言うあだ名まで貰っちまって……」
「あんたはまだ人生これからじゃねーか。俺なんかもう成人過ぎてるんだぞ。戻れねーことはねーが何かそろそろ色々考え出さなきゃならねーし、もう一寸したら嫁も欲しいし……」
 陰鬱と肩を組み、玲璽と北斗は語り合う。
 見事に友情が成立しているが恐らくこの友情は脆いだろう。何故ならそれに襲われたときに、恐らく迷わず互いを盾に差し出すからである。
「ったく陰気くせーな。男なら覚悟決めたらどーよ?」
「決めれるかああぁああぁ!!!!」×2
「全くだぞ北斗。ここで少し真面目に稼がないとお前のジョセフィーヌが枯れてしまうだろう?」
 大真面目に言い切る啓斗に、北斗はがっくりと項垂れた。忍術一筋のこの兄は、はっきり言って世間一般の常識に疎すぎる。疎すぎる上で腕が立つのだからものすごく始末に終えないのだ。
 妙な明るさと妙な暗さを保っているこの場所はリビングである。因みに三下はあまりに騒いだため満場一致で啓斗が一発食らわせて眠らせ、既に二階の寝室行きである。
「まあ兎に角捕まえて洗濯すればいいんだ。布切れは洗うもの。そう昔から決まってるんだから。そうすれば汚れと一緒に念も洗い流されて綺麗になるだろう」
「……本気でいってんの?」
 言い切った啓斗に、流石に恐る恐る葛が尋ねる。思いっきり啓斗が頷いた、その時、
 とたとたと、階段を下りる音が聞こえた。



 きたねーもん乙女の眼前に晒してんじゃねーよ!
 マジで切れたね俺は。もうかなり生きる価値ナシとか思ったね実際。

 後日談:藤井葛



「…………」
「……………………」
「…………………………………………」
「………………………………………………………………」
 きっちり満ちた沈黙は四人分。
 ふらふらとそしてぶらぶらと階段を下りてきた三下はうわ言のように『褌、ふんどし〜』と繰り返している。
 なんと言うか、あまりにもあまりな光景だった、それは。
「っざけんじゃねー!!!!!」
 まずぶちきれたのは藤井葛。花も恥らうにはちと遅いが立派に女性である。
 迷わずハリセンを握り締めた葛はやはり一切迷わずぶらぶらな三下目掛けてそれを渾身の力で振り下ろした。
 すっぱあああああああん!!!!
 小気味いい音に続いて、
 ごきゅ。
 と言う鈍い音がする。つまり要するに倒れたぶらぶら三下を、葛が足で踏みつけたのである。
 男三人が流石に唖然と動きを止めたその時、それはふかりと現れた。
 そして一切迷わず玲璽に襲い掛かる。
「あほー!!【逝け!逝っちまえ!】」
 怒鳴り声がすると同時にそれが吹っ飛ぶ。言霊使いで良かった、嗚呼お父さんお母さんありがとうと玲璽が思ったかは謎だが、吹っ飛ばされた褌はそれでも負けじとヒモを玲璽へと伸ばす。(越中)
 ずべべべべべべ。
 いい音だった。そしてまた、時間は止まった。



 ……そうか、最近はあんな柄のパンツも売ってるんだな。安いなら今度北斗に買ってきてやろう。

 後日談:守崎啓斗



「今度はてめーかあ!?」
 完全無欠にぶっちぎれた葛のハリセンが玲璽を襲う。履いていたジーンズを見事にダメにされ、ゾウさん柄の何かを晒すハメになった玲璽には、そのハリセンから逃げる手段はなかった。
 すっぱあああああああん!!!!
 小気味いい音に続いて、
 ごきゅ。
 と言う鈍い音。三下同様に足蹴で気絶である。
 そして、残ったのは全然諦めてない褌と一人の女と二人の少年。
 じりっと北斗が後ずさる。平然と褌を見つめている啓斗とは対象的に。そしてじりっと褌は北斗へと近付いた。
「……ちょっと待て。何で俺!?」
 冷たい汗が背筋を落ちる。啓斗はそんな北斗に『ジョセフィーヌの為だ、耐えろ』と全然慰めになっていない激励を寄越した。
「い、いやだああああああ」
 脱兎。そして追いすがる白い影!



 いや俺見てなかったんだけどな。……まあ強く生きようぜ少年。

 後日談:威吹・玲璽



 ……俺の人生って一体。

 後日談:守崎北斗



 因みに褌は犠牲者をどん底に叩き落した後に、何処かへふわふわと消えていったという。残念ながら幽霊を捕獲する事ができたものはいなかったが、一つだけ朗報が在るとすればその褌の幽霊、その界隈にはもう現れなくなったと言う事である。
 理由は――

「わからねえが、案外満足したんじゃないのか?」
「……いや俺は恐れをなしたんだと思うが誰とはいわねーけど」
「やはり洗濯してくれそうもないと思ったのかな」
「……………………(涙)」

 霧の中である。



 因みにその後玲璽は箪笥の中にある下着を総て白かグレーのボクサーショーツに買い換えたという。
 素敵ながらパンの霊が彼を襲わないことを祈るばかりである。

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
【1312 / 藤井・葛 / 女 / 22 / 学生】
【1973 / 威吹・玲璽 / 男 / 24 / バーテンダー】
【0554 / 守崎・啓斗 / 男 / 17 / 高校生(忍)】
【0568 / 守崎・北斗 / 男 / 17 / 高校生(忍)】

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■         ライター通信          ■
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 はじめまして、里子です。今回は参加ありがとうございます。

 さて褌第二段二回目の受注となった今回、やはり犠牲者てんこもりで里子迷っちゃう困っちゃう状態でした。<待てや
 犠牲者となってしまった方申し訳ありません。強く生きてください。<だから待たんかい

 今回はありがとうございました。
 またの機会がありましたら、宜しくお願いいたします。