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■駅前マンション〜それぞれの日常■

日向葵
【1823】【レベル・ゴルデルゼ】【家事手伝いだったり錬金術師の助手だったり】
 二十階建て各階五戸、屋上完備の4LDK。しかも新築で駅から徒歩五分程度。それなのに家賃はばかに安い。
 今は現役を引退した老退魔師が大家と管理人を兼ねるこのマンションは、異様なまでに怪奇現象が多い。
 土地柄のせいもあるのだが、人間世界に慣れない妖怪や人外の存在を次々と受け入れているためである。
 しかしそれだけに、このマンションは騒ぎも多い。
 謎の怪奇現象や人間世界の常識を知らない住民が起こす事件や、かつては凄腕の退魔師だった大家を頼ってくる人外などなど。
 けれどまあ。
 いつも大騒ぎというわけでもなく。
 平和な毎日と、時折起こる事件と。

 そんな感じに、駅前マンションの日常は過ぎて行くのだ。

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◆ライターより◆
・駅前マンションを舞台としたフリーシナリオ。完全個別ということで+500円しております。
 別PCと一緒に描写してほしい場合は同時期に発注のうえ、プレイングにその旨明記をお願いします。

・怪奇事件との遭遇や日常生活風景的などなど。貴方の日常生活を好きに発注してくださいませ。今までの駅前マンションシナリオや日向 葵が担当したシナリオに関わるシチュエーションもOK。

・日向葵の他NPC、公式NPCなども登場可能。

下記以外のNPCに関しては、東京怪談個別部屋を参照願います。
http://omc.terranetz.jp/creators_room/room_view.cgi?ROOMID=397
駅前マンションの怪

●帰らない妖精を探して

 そろそろ日も暮れようかという時刻。
 レベル・ゴルデルゼは、うろうろと街中を歩きまわっていた。
 実年齢五歳。しかし外見は二十代後半。そんな噛み合わない年齢であるのは、きちんと理由がある。彼女は、錬金術師の手によって造られたホムンクルスなのだ。
 彼女の住む家には彼女を作った錬金術師、それから同じ錬金術師に作られたホムンクルス、そして錬金術師が拾ってきた妖精。彼女を含めて四人の住人がいる。
 今日、レベルがうろうろと適当に街を歩きまわっているのは、そのうちの一人が遊びに出たきり帰ってこないからだ。
 さて、その出かけたっきり帰ってこない人物は、外見だけで言えば一番幼い――実年齢で言えばレベルよりもずっと年上だが――妖精の少女。
 妖精というのはそういうものなのか、実年齢に反して少女の行動は幼い子供そのものだ。だから、年上だとわかっていても少し心配になる。
 レベルは、帰ってこない妖精を探して、街中をうろうろ歩きまわっていたのだ。
「・・・・・・どこまで遊びに行ってしまったのかしら」
 そんな時。
 ふと、レベルの感覚に引っかかるモノがあった。
 ぐるりと周囲の気配を改めて探れば、ソレはすぐにわかった。
 すぐ先に見える、マンション――そこからなにか、普通ではない気配を感じる。
「・・・少し違うかもしれないけれど・・・」
 もしも、ということもある。
「念の為」
 レベルは、まっすぐに歩き出した。


●住人の証言

 真新しい雰囲気の漂うそのマンションは、二十階建てであるらしい。
 それなりの広さを持った敷地内をアテもなく探しまわるのは大変な作業だ。
 常に瞳を閉じたままで日常生活を送っている――つまり、視覚で確認ができないレベルにしてみればもっと大変な作業という事になる。
 まあ、そのぶん嗅覚や聴覚は優れているから、ある意味では普通の人間が人探しをするよりは楽かもしれないが。
 パタパタと賑やかに、マンションの中のほうからこちらに向かってくる足音が聞こえた。
「すみません」
 レベルが声をかけると、足音が止まる。
「ん?」
「この辺で銀髪の子供を見かけませんでしたか? 無口で、たいてい不機嫌そうな表情してる子なんですけど」
 実際にはいつでも不機嫌というわけではないのだが、不機嫌でない時でもむーっとしていて、少しばかり目つきの悪い少女の表情は、知らない人から見ると不機嫌な表情に見えるらしい。
 それをわかっているから、レベルはあえてそんな問い方をしたのだ。
「んー・・・。とりあえず、家からここに来るまでの間にはそういう子は見かけなかったけど。注意してみてたわけじゃないしなあ・・・よくわかんねぇや」
 レベルがペコリと会釈をすると、少年は――声からしてそんな感じだった――じゃあな、と言葉を残してまた賑やかに走り去っていった。
 とりあえず、レベルはマンション内を一巡りしてみようと歩き出した。
 先ほど感じた気配は、近づいたせいかさらに強く感じるようになっていた。
 殺気。
 隠そうともせず、周囲に撒き散らされるままの殺気だ。
「上・・・ね」
 レベルは気配を追って、階段を上がっていった。


●屋上で出会った者

 ギィ、と扉を開ける。
 途端に目が合った――正確に言えば、そんな気配がしただけだが。
「・・・人違いだったわ。ごめんなさい」
 扉を閉じた。ところに、
「あら、貴方もあの気配を追ってきたの?」
「ったく、物好きが多いな」
 女性の声と、男性の声。どちらも若い感じだ。
 レベルは、くるりと振り返った。
 一瞬、二人が静かになる。レベルの閉じられた瞳に驚いたのだろうか?
 レベルは沈黙したままで軽く会釈をした。二人はそれぞれシュライン・エマ、真柴尚道と名乗った。レベルも、とりあえず自分の名を名乗って返した。
 シュラインが、ピタリと扉に耳を当てて向こうの様子に耳を澄ませる。
 今のところ、特に騒ぐ気配はない様子。
 だが。
「殺気は消えてねぇな」
 尚道は真剣な表情でそう呟いた。
「どうしましょう?」
 レベルが問う。
 彼女の言う通り、ここでいつまでも様子見をしているわけにもいかないのだ。
「そうねえ・・・本当に敵意ある者かどうかは会ってみないとわからないものね」
「あれだけの殺気を放ってるのに、か?」
 疑い半分のような尚道の言葉を聞いて、シュラインはしっかりと頷いた。
「ええ。例えば・・・手負いの獣なら、警戒して殺気を撒き散らしていてもおかしくないでしょう?」
 尚道が納得したように頷いたのを確認してから、シュラインは改めて扉に耳を寄せた。
「やっぱり、暴れてるような物音はしないわね」
「はい」
 扉に耳を寄せるまでもなく、レベルはあっさりとシュラインに同意した。
 二人の耳に聞こえるのはバサバサという――だがどこかバランスの悪い、翼の羽音だけだ。
「とりあえず・・・救急箱でも持ってこようかしら」
 怪我をしてるなら必要になるだろうという配慮だ。
「人間の薬で治せるもんなのか?」
「・・・・・・でも、何も用意しないよりは良いと思います」
 レベルの同意もあって、救急箱を用意した数分後。
 三人は、屋上への扉を開けた。


●獣

 その先にいたのは、一匹の獣。
 黒い毛並みで、全長は二メートルほど。背には黒い翼があった。
 獣は、どうやら怪我をしているらしい。屋上の床には赤黒い血のあとがぽつりぽつりと落ちている。
「なんとか治してあげられないかしら」
 一歩踏み出す。
 と、途端に獣が低い唸り声をあげた。
 慌てて下がると、獣は静かになった。どうやら、こちらから近づかなければ害を与える気はないらしい。
 だがこれでは治療ができない。
 どうしようかと悩んでいたところに、
「シュライン様!?」
 聞こえた声に振り返れば、そこには二人の男女が立っていた。どちらも見知らぬ顔だ。
「あら、二人とも。奇遇ね」
「あんたらもこれ、確かめに来たのか」
 シュラインに続いて、尚道が軽い口調で言う。
「え、ええ」
 微妙に緊張感のない受け答えに、女性は返す言葉に戸惑いを見せた。
「あ、俺は真柴尚道」
「レベル・ゴルゼルデです」
「俺は真名神慶悟だ」
「天薙撫子といいます」
 さっと名乗りあって、それから、慶悟と撫子は改めて獣の方へと目を向けた。
「でもちょうど良いところに来てくれたわ」
「ちょうど良いところ・・・ですか?」
 シュラインの言葉に、撫子が不思議そうな顔をした。慶悟は変わらず獣の方への警戒を怠らない。
「あの子・・・怪我をしてここに不時着したみたいなんです」
 レベルが、ゆっくりと静かに告げた。
「なんとか治療なりしてやりたいんだけどさ、近づかせてくれねえんだよ」
 まあ、手負いの獣とはそういうものだ。
「言葉は通じないのか?」
 慶悟の問いを聞いて、尚道とシュラインが首を横に振った。
「知能は普通の獣と大差ないみたいで」
 そう答えたのはレベル。
「ならば、少し強引だが無理やり動きを封じるか?」
「でもそれでは、下手をすると暴れ出すのではないでしょうか・・・?」
 その時だった。
 ふいに、レベルは自分の持っていた物に気付いた。
 探し妖精を見つけた時に、その子にあげるつもりで持っていたお菓子だった。
 レベルは、もともと動物が好きなのだ。なんとか助けたいとも思った。
「どうした?」
 じっと俯いて――自分の服のポケットを見つめる。
 途端。
 なんの気負いもなく。
 レベルはすたすたと獣に向かって歩き出した。
 止める暇は、なかった。
 慶悟は慌てて符を手にし、撫子は妖斬鋼糸を手にして、尚道も戦闘態勢を整えた。
「待って・・・」
 獣の呼吸音の変化を鋭い聴覚で聞き分けたシュラインが、三人に制止をかけた。
 暴れ出す様子はない。
 三人は、戦闘態勢は崩さないまま、静かにレベルの動向を見守る。
「これ・・・食べます?」
 レベルがそっとお菓子を差し出すと・・・・何を思ったのか、獣は急に大人しくなって、差し出されたお菓子を食べ始めた。


●そして、終わりに

 一行の現在地。
 マンション一階、入口に一番近い一一〇号室。
 このマンションの大家の部屋である。
「おお、お疲れさん」
 何時どこから情報を仕入れたのか、大家である老人は五人を快く家に迎え入れた。
「まあ、私にはこれくらいしかできないが、お礼だ。ゆっくりしていきなさい」
 お煎餅とお茶を出して、老人は五人をもてなしてくれた。
 もともと別口の用事で出てきていたレベルは早々に帰っていってしまったが・・・・・・残る四人は、老人の淹れたお茶と、撫子が持参してきた栗蒸し羊羹で、楽しいお茶の時間を過ごしたのであった。


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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整理番号|PC名|性別|年齢|職業

0328|天薙撫子     |女|18|大学生(巫女)
0389|真名神慶悟    |男|20|陰陽師
1823|レベル・ゴルデルゼ|女| 5|家事手伝い、錬金術師の弟子
0086|シュライン・エマ |女|26|翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員
2158|真柴尚道     |男|21|フリーター

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■         ライター通信          ■
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 こんにちわ、日向 葵です。
 撫子さん、慶悟さん、シュラインさん。いつもお世話になっております。
 レベルさん、尚道さん。初めまして。
 この度はやってきた魔物の調査、お疲れ様でした。

>撫子さん
 素敵な設定をどうもありがとうございました♪
 序盤の蔵整理のシーンは書いていてとても楽しかったです。(実は頑固老人系書くの大好き・・・v)

>慶悟さん
 今回は符を使う暇もなく・・・。もともと羽音が屋上から響いてる事もあって、一直線に屋上を目指してしまいました。
 せっかくつけてもらった印の活躍シーンがあんまり書けなくてすみません。
 次回までにもっと精進していたいと思います。

>レベルさん
 動物に懐く方ということで、獣の宥め役に回っていただきました。
 ヴィエちゃんのお菓子ならきっと美味しいお菓子だったろうと思います(笑)

>尚道さん
 マンション住人さんのご参加、ありがとうございました。
 なにかマンションに怪しい設定が増え、ますます楽しいことになりそうです♪

>シュラインさん
 お見事、大正解でした。
 悪意=敵とは限らないという発想の方がいらっしゃったおかげで平和的にコトを進められました。
 どうもありがとうございました〜。


 それでは、今回はこの辺で。
 またお会いする機会がありましたら、よろしくお願いいたします。