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■夢の檻■

紫月サクヤ
【1831】【御影・涼】【大学生】
 天地のない闇。
 重力も何も感じられないその中に一人の黒衣の青年が立っていた。闇の中に一際輝く銀髪。そして暗闇の中だというのに黒布で覆われた両目。すらりと伸びた背筋には異空間にいる不安は感じられない。
「もう逃げられませんよ。さぁ、諦めてコチラへ」
 しかしその声に応答はない。
 そもそもその闇には何があるのか。
「そちらから出てこないのであれば、私が直に捕まえますよ。夢魔にも心音がある。私はそこに手を伸ばせばいい」
 くすっと微笑み青年はすっと暗闇に白いしなやかな指を伸ばす。
 そして何もない空間で手を握りしめる動作をすると、闇が一つの形を作り出した。
 それはゆっくりと黒い翼を持つ一人の女性の形を描きはじめる。青年の掴んだ部分から白い蒸気が立ち上った。

「捕まえた・・・」
「ぎゃぁぁぁぁっ・・・苦しいっ、離して」
「私もそれほどバカではありませんから。離して貴方が消え去るという可能性を無視できない」
「いやぁーっ」
 手足をばたつかせ必死に青年の手を振り払おうとする夢魔。しかし青年はそれを軽く交わし笑う。
「往生際が悪いですね。・・・とても美味しそうだ」
 おやつには勿体ないかもしれない、と呟いた青年に息も絶え絶えの夢魔が告げる。
「はっ、『夢狩り人の貘』と名高いアンタが随分とがっついているじゃない。アンタの側には夢魔のガキがいるでしょ。アイツを先に食べればいいっ!」
 それは無理です、と貘と呼ばれた青年は残念そうに言う。
「改心したそうで美味しくないらしいですから。私、結構美食家なんですよ」
 だから貴方の方が美味しそうだ、と貘は白い肌ゆえに目立つ赤い唇を薄く開く。
「イヤよっ!アンタに食べられるだなんてっ!」
 まさに貘が夢魔を食そうとした時、ドンッ、と強い衝撃が闇を襲う。そしてガラガラと硝子が割れるように崩れていく世界。闇に光が満ちていく。
「おかしい・・・何故・・・」
 貘の呟きは満ちる光に溶ける。
 悪夢の宿主が目覚めた事を告げる夢の世界の崩壊。貘が夢渡りをしている時に目覚めるなど普通ならあり得なかった。そしてその世界の崩壊は貘を閉じこめる檻となる。もしもの時にその檻を突破する術を持つ貘の相方は、あいにく今日は別の件で出ていて此処には居ない。貘は無惨にも檻に閉じこめられた。
「ふふふっ。私の勝ちね。夢に捕らわれ夢の中でくたばりなさいな」
 高笑いをしながら夢魔は宿主の精神に溶けていった。
夢の檻

------<オープニング>--------------------------------------

 天地のない闇。
 重力も何も感じられないその中に一人の黒衣の青年が立っていた。闇の中に一際輝く銀髪。そして暗闇の中だというのに黒布で覆われた両目。すらりと伸びた背筋には異空間にいる不安は感じられない。
「もう逃げられませんよ。さぁ、諦めてコチラへ」
 しかしその声に応答はない。
 そもそもその闇には何があるのか。
「そちらから出てこないのであれば、私が直に捕まえますよ。夢魔にも心音がある。私はそこに手を伸ばせばいい」
 くすっと微笑み青年はすっと暗闇に白いしなやかな指を伸ばす。
 そして何もない空間で手を握りしめる動作をすると、闇が一つの形を作り出した。
 それはゆっくりと黒い翼を持つ一人の女性の形を描きはじめる。青年の掴んだ部分から白い蒸気が立ち上った。

「捕まえた・・・」
「ぎゃぁぁぁぁっ・・・苦しいっ、離して」
「私もそれほどバカではありませんから。離して貴方が消え去るという可能性を無視できない」
「いやぁーっ」
 手足をばたつかせ必死に青年の手を振り払おうとする夢魔。しかし青年はそれを軽く交わし笑う。
「往生際が悪いですね。・・・とても美味しそうだ」
 おやつには勿体ないかもしれない、と呟いた青年に息も絶え絶えの夢魔が告げる。
「はっ、『夢狩り人の貘』と名高いアンタが随分とがっついているじゃない。アンタの側には夢魔のガキがいるでしょ。アイツを先に食べればいいっ!」
 それは無理です、と貘と呼ばれた青年は残念そうに言う。
「改心したそうで美味しくないらしいですから。私、結構美食家なんですよ」
 だから貴方の方が美味しそうだ、と貘は白い肌ゆえに目立つ赤い唇を薄く開く。
「イヤよっ!アンタに食べられるだなんてっ!」
 まさに貘が夢魔を食そうとした時、ドンッ、と強い衝撃が闇を襲う。そしてガラガラと硝子が割れるように崩れていく世界。闇に光が満ちていく。
「おかしい・・・何故・・・」
 貘の呟きは満ちる光に溶ける。
 悪夢の宿主が目覚めた事を告げる夢の世界の崩壊。貘が夢渡りをしている時に目覚めるなど普通ならあり得なかった。そしてその世界の崩壊は貘を閉じこめる檻となる。もしもの時にその檻を突破する術を持つ貘の相方は、あいにく今日は別の件で出ていて此処には居ない。貘は無惨にも檻に閉じこめられた。
「ふふふっ。私の勝ちね。夢に捕らわれ夢の中でくたばりなさいな」
 高笑いをしながら夢魔は宿主の精神に溶けていった。
 
------<夢紡樹>--------------------------------------

「困りましたね・・・」
 店内に金髪の青年の呟きが響く。
「俺ははっきり言って戦力にはならないし、リリィを一緒に連れて行けば帰り道を塞がれる可能性もあるんですよね・・・」
「別にリリィ、行っても良いけど・・・何とかなると思うし。やっぱエドガー、リリィも一緒に行くよ。マスター捕まっちゃってるから心配だし」
 リリィと呼ばれたピンクの長い髪を持つ少女は指先で髪を弄りながら落ち着きなく呟く。
 その時、店内にカランとドアベルの音が響いた。
 エドガーとリリィは驚いてそちらを眺める。するとそこには人の良さそうな青年が立っていた。
「あ・・あれ?お休みですか?」
 青年はひょいと自分の開けたドアにかかっている『OPEN』の文字を確認して不思議そうにエドガー達を見る。
「あっ!ごめんなさい。直すの忘れてた!ちょっと取り込み中なの。厄介な事件に巻き込まれてて・・・」
「事件・・・?」
「えぇ。ちょっと・・・こちらのミスで申し訳ないのですが今日は閉店とさせていただいてます。申し訳ありません」
 一礼して謝罪するエドガー。そして顔を上げたとき、今度はエドガーの方が首を傾げた。
「あの、失礼ですが何処かでお会いしたことありませんでした?」
 そう尋ねてからエドガーは、あぁ!、と声を上げ手をぽんと叩く。
「草間興信所で何度かすれ違ったことが会ったんです」
「草間さんとこで?」
「えぇ。草間さんと関係ある方ならもしかしたら・・・あの、不躾で申し訳ないのですが・・・手を貸していただきたいのです」
「今言ってた事件のですか?」
「そうです。夢を売り物にしているのにも関わらず、恥ずかしい話、夢魔にうちのマスターが捕まってしまいまして。俺は防御担当で戦闘能力がなく、こちらのリリィは戦闘能力はあるのですがこちら側で夢への回廊を開いておいてもらいたくて。そうすると夢の中で戦える人物がいなくて助け出そうにも助け出せない状況なんです」
 困惑した表情で告げるエドガー。それを見ていた青年は深く考えることもなくすんなりと頷く。
「俺で力になれるなら。身体能力には一応自信が・・・どちらかと言えば戦闘系かな?」
「本当っ?やった!これでマスター助けられる」
 床に力無く座り込んでいたリリィがぴょんと立ち上がり青年の元へとやってくる。
「ありがとう!私はリリィ、あっちはエドガー。ね、キミの名前は?」
「俺は御影・涼」
「そう。涼ね。よろしく!」
「よろしくお願いいたします」
 ぺこりと頭を下げたエドガーに涼はなんとも照れくさそうに頷いた。
 
 リリィの連れてきた少女が宿主だと聞いて涼は眉を顰める。
 7歳くらいの少女が悪夢にうなされ、悪夢を売りに来た。
 その事実だけで胸が痛くなる。
 怯えた表情の少女の頭を優しく撫でながら言う。
「大丈夫、俺がちゃんと貘も連れて帰ってくるしキミの悪夢も取り払ってあげるから」
「そうだよ、私たちもちゃんとサポートするから。ちょっとだけ怖いけど我慢してね」
 少女が頷いたのを確認し、涼はもう一度頭を撫でる。少しでも早く恐怖から解放してあげたかった。
 その後、リリィが少女の額に手を当て眠りの世界へと少女を誘う。
 かくん、とその頭をたらしリリィの肩に倒れ込む少女。
 柔らかなベッドに寝かせ、涼とエドガーは夢の中へと降りることにした。
 
------<悪夢>--------------------------------------

「さてと、とりあえず中に送って貰ったのはいいけど・・・貘の居場所分かりますか?」
 隣にいるエドガーを見ると、小さく首を振る。
「ちょっとまだ分かりません。少し夢の濃度が濃いようで・・・。靄みたいなのがかかってるんですよ」
 うーん、とエドガーは唸る。
「どうにかして靄が薄くなれば分かると思うんですけど」
「靄ねぇ・・・やってみるか」
 涼は精神を集中させその手に愛刀『正神丙霊刀・黄天』を具現化させる。
 夢の中でも自分自身力を自在に操ることが出来ることに涼は驚いた。
「それは?」
 エドガーに聞かれ、涼は笑って答える。
「浄化の力がある俺の愛刀です。これで悪夢を少しずつ浄化してやれば、濃度の方も薄くなるんじゃないかと」
「やってみる価値があると思います」
 お願いします、というエドガーの言葉に頷きながら涼はしっかりと刀を握る。
 使い慣れた刀はしっくりと手に馴染み、そこから力が満ちてくるような気さえする。
 普段はこのような使い方はしないが、ここは悪夢の中。
 涼は剣に意識を集中させながら、緩やかに舞う。
 煌めく剣先が空中に残像を残すように動き回る。
 涼の動きは無駄が無く軽やかだ。
 
 しかし突然、その動きを止めるように鋭い短刀が飛んでくる。
 涼は剣舞の最中でもその動きを見極め、黄天で弾き落とした。
「夢魔かっ!」
 回りを見渡すがその影は見えない。
 エドガーはその間にも貘を探索する。
 涼は手を止めることなく、そのまま剣舞を続ける。
 ゆっくりとだがその空間に風が出てきたようだった。
 その風が薄く張った靄を押し流していく。
 
「居ましたっ!」
 エドガーが叫び、真っ白な世界の彼方を指さした。
「あっちです」
 エドガーが走り出し、涼もその後を追う。
「浄化の力、凄いですね。あんなにも簡単に靄が引いていくなんて」
「そんなことはないですよ。・・・っつぅ!」
 会話の最中、突然足を捕まれ涼は転びかけるが、持ち前の運動神経で体勢を立て直し足を掴む手を黄天で切り落とす。
 凄まじい絶叫が響き渡った。
「大丈夫ですか?」
 そう言った先からエドガーに襲いかかる無数の手。どこから湧いて出てきたのか見当も付かない。
 それを全てガードはしているが攻撃まではいかないようだ。
 涼はエドガーに駆け寄るとそのまま腕ごと空間から切り落とす。
「ありがとうございます。夢魔も自分の悪夢が消されて隠れてもいられなくなってきたようですね」
 エドガーは涼に礼を言いながらも視線を四方に向ける。涼も同じだった。
 追撃は二人の予想通りあった。
 二人を包み込むように立ちこめる白い雲。
 囲まれた途端、息が出来なくなる。
 涼は気合いを込め、黄天を大きく振るった。
 すると、すぅっとその雲は霧散する。
「先を急ぎましょう。まずは貘を助けるのが先決です」
「そうですね」
 涼が今度は先に立って走り出す。
 今の一撃が効いたのか貘の元まで辿り着くまでに追撃はなかった。

「貘っ!」
「ちょっとドジ踏んでしまいましたー」
 苦笑しながら白い骨のような物体で作られた檻の中で貘は言う。
「えっと・・・そちらは?」
 目の見えない貘にも気配で分かったのだろう。涼の方へ顔を向けながらエドガーに尋ねる。
「貘を助けに来るのに困ってるところを救っていただいたんですよ。御影・涼さんです」
「初めまして。ってこんなところで悠長に自己紹介してる場合じゃないですよね」
 背後からの殺気を感じ、涼は振り向く。
 黄天はその場にあるだけで自然と浄化を行っていく。
 風が流れ出している。靄のような感覚も消えていた。
 すでに悪夢はその効果を失い、少女の精神と夢魔の存在を分離させてしまっていた。
 この夢の中で邪気を放つのは目の前にいる妖艶な夢魔の存在だけ。

「やってくれたわね・・・。私そういうことする人嫌いよ」
「願ったりですね」
 貘が言うと、すぐさま夢魔は凄まじい形相で襲いかかってくる。
 鋭い爪が一瞬にして1メートルほど伸びる。それが先頭にいた涼に襲いかかった。
 スピードもあったが、それよりも涼のスピードの方が勝っていた。
 しかし涼はなんなくそれを避け、そのままくるりと一回転すると夢魔の後ろに着地する。
 そして首筋に黄天を突きつけた。
「このままこの少女の身体から出ていく気はありませんか?」
「あるわけないでしょう!私はこの魂が食べたいっ!食べたいんだからー」
 ぐぎっ、という奇妙な音と共に夢魔の腕が折れ曲がる。
 そしてそのまま後ろにいる涼を攻撃した。
 しかし、涼が避け刀を振り下ろすのが先だった。
 エドガーも防御の姿勢をとり涼へのサポートをしようとしていたがそれも無用だったようだ。
 煌めく刀身は勢いよくのけぞった夢魔を一刀両断にする。
 断末魔の悲鳴が辺りに響き渡った。
 その瞬間、貘を捕らえる檻も霧散する。

「夢魔に情けをかけてあげるなんて優しいですね。しかも見ず知らずの私まで助けていただいてありがとうございます」
 そう言いながら貘は丁寧にお辞儀をする。エドガーも、ありがとうございます、と一礼する。
「いえ・・・お人好しだけなのかもしれない」
 苦笑気味に涼が笑うと貘が首を振る。
「助かりました。ずっとあそこで暮らさなきゃならないのかと思ったら苦しくて。いつでもおやつは食べられるんですけどね」
 いいところはそれだけなんです、と貘は笑うがエドガーにたしなめられる。
「何馬鹿なこと言ってるんですか。全く・・・」
「とりあえず戻ろうか、現実へ」
「そうですね。悪夢も夢魔も消えましたし。少女も安心でしょう」
 夢の中で風がゆっくりと三人の頬を凪いでいった。
 
 
------<笑顔>-------------------------------------
 
「お兄ちゃんっ!ありがとう!」
 すっかり元気になった少女が涼の元へ駆けてくる。
「良かったね。もう寝ても怖くないよ」
「うんっ!」
 少女の笑顔が夢紡樹の中に満ちる。
「やっぱり夢は笑顔が似合うようなものが良いですねぇ」
 貘の呟きに涼はそっと頷く。
「お人好しもたまには良いかも・・・」
 そんなことを呟きながら、エドガーの淹れたコーヒーを飲みつつ涼は小さく笑った。
 
 
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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【 整理番号/PC名/性別/年齢/職業 】
【 1831/御影・涼/男/19/大学生兼探偵助手? 】

NPC
【貘/男/?/夢狩り人・『夢紡樹』店主】
【エドガー/男/?/『夢紡樹』の料理担当 兼 貘の相棒】
【リリィ/女/150/『夢紡樹』のウエイトレスと貘の手伝い】

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■         ライター通信          ■
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初めまして、夕凪沙久夜です。
この度は『夢の檻』へのご参加まことに有り難うございました。
俊敏な動きを描いてみたかったのですが、涼様の運動能力の高さいかせてますでしょうか。
悪夢の浄化はとても良かったと思います。
とても楽しんで書かせていただきました。
またお会いできることを楽しみにしております。
ありがとうございました。失礼いたします。