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■音楽都市、ユーフォニア ─クシレフの陰謀─■

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【0086】【シュライン・エマ】【翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員】
──結城磔也君だね。君ならもう我々の存在は分かっているだろう。君のお姉さんは預かっている。あまりお上品な方法で無い事は承知だが、こちらとしても使命があるのでね。クシレフの陰謀から、人々を護ると云う使命が。……その為なら、残念だが彼女を傷つける事も厭わない。無事、お姉さんと再会したくばショトランをこちらに引き渡し給え。場所は任せる。……東京の外では、都合が悪いだろう?

──冗談じゃ無ェぞ。
 あいつらに、何が分かる。怪奇現象と音楽の力の区別もついて無いような連中に、邪魔をされて堪るか。……ようやく、クシレフを見付けたんだ。
 怪奇現象と思って舐めて居るが良い。好都合だ、見せてやろうじゃ無いか。音楽の力を、芸術の勝利を。
 邪魔はさせない。オーケストラピアノもユーフォニアの完成も。……それに。
 
 レイは、俺の所有物だ。他人の好きな様にはさせない。……返して貰う。
音楽都市、ユーフォニア ─クシレフの陰謀─

【ABCEH】

 シュライン・エマ、天音神・孝、御影・涼、田沼・亮一、緋磨・翔。
 現在位置、東京都内某所のセルフ給油所を経て亮一の探偵事務所へ。
 状況、結城・忍(ゆうき・しのぶ)の身柄は確保、結城・レイを人質に交渉を持ち掛けて来たIO2構成員、「シェップ」との取り引きに応じた結城・磔也(ゆうき・たくや)の指示により彼を巣鴨ユーフォニアハーモニーホールへ移送する途中。孝の提案に拠り、巣鴨ユーフォニアホールに関連のあると思われる事項について情報収集の為、現在地と中継。

【xxx】

 11月13日午後3時。
 東京都、JR山手線の車内に、ちょっとした騒ぎが持ち上がった。
 否、別に警察沙汰や職員が顔を出すような事件では無い。ただ、異様に目立つ一団が国鉄の1車両をほぼ占領し、隣接した車両や駅のホームの乗客の奇異の視線を集めていた、と云うだけで。
 彼等は全て15、6歳の少年少女だ。それぞれ同じデザインの白いシャツかブラウスに黒のボトムを制服のように整然と着用し、吊り革に掴まりもせずに姿勢を正して立っている。一糸乱れない統率の取れた動きは、どこか共産国家の軍隊を思わせた。
 平日の昼間と云うことでさほど混雑はしていなかったが、一通り座席を占めていた他の乗客は一言の私語も交わさず無気味なほどの無表情を見せている彼等に気を取られていた所為で、その中の一隅でぶつぶつと独り言を呟き続ける私服の少年──里井・薫の存在には気付かなかっただろう。ついでに云うならば、これは制服と同じ髪型の効用で──複数の人間を似通って見せるその効果で、逆に、彼等の顔立ちが全て同じ事にも気付かなかった筈だ。

「……畜生……、あいつ、好き勝手云いやがって……、何様の積もりなんだよ、……シェトランの子供だって云うだけで……、今に見てろ……、畜生、いつか必ず殺してやる」

 巣鴨駅に着いた。里井は独白を止め、一斉に足並みを揃えて車両を降りた彼等に慌てて続いた。

【0A】

「零ちゃん?」
──あ、シュラインさんですか?
 携帯電話から草間興信所に掛けた電話口に出たのは、草間・武彦では無く零だった。
「ね、武彦さん、居る?」
 シュラインは、東京コンセルヴァトワールやIO2との繋がりについて自分なりに何か情報が得られないかと思ったのだ。今現在亮一達が情報を集めているが、草間経由ではまた別な情報も得られるかも知れない、と。
 然し、電話口の零は沈黙していた。無音の中にも首を横に振っている彼女の動作が見えた気がした。
「居ないのね……、どこへ行ったか分かる? それか、折り返し連絡貰えるように伝えて貰えないかしら」
 兄さんは、と零は普段通り淡々と、然し何所か寂しそうに告げた。

『昨日から姿が見えなくて、連絡も付かないんです。私も何も聴いて無いし、見当が付きません』

【1ABCEHI】

「はい、」
 亮一の携帯電話が鳴った。視線を向けた仲間に対し、彼は「ウィン・ルクセンブルク嬢ですよ」と告げた。ここに居る面々は全員何らかの形で彼女を知っている。
 ホールに居た葛城・樹の従姉でもある彼女の連絡があっても不思議では無い。
『初めまして、先日は兄と従弟がお世話になりました、ウィン・ルクセンブルクと申します』
「こちらこそ」
『失礼ながら電話番号は従弟に聞きました。何の用かはお分かりかと思いますけど』
「そろそろ、連絡があるかなと思いましたよ」
 亮一は笑顔で応えた。彼女の双児の兄は万能エスパーであり、ウィンも同等の能力を持つと聞く。
 それに、ルクセンブルクと云えば現代クラシック界で名前を知らない者は居ない。彼女の叔母は、特に母国のドイツ語歌曲では世界的に認められた声楽家なのである。第三者には冷たく中々その実情を知り得ない音楽界の絡んだ事件に於いて、力強い助っ人であるには違い無かった。
『では、単刀直入に申し上げますわね。大体の事情は従弟から聞きました。レイは私にも大事なお友達だわ。黙っている訳には行きません、及ばずながら協力させて頂きます』
「よろしくお願いします。……丁度、『耳の良い』人間が揃っていそうですし、あちらには。あなたの能力は、非常に役立つと思います」
『連絡係は任せて下さいな。早速ですけど、そちらには田沼さんの他にどなたが居らっしゃるの?』
 亮一はぐるりと視線を巡らせながら名前を挙げた。
「先ず、シュライン・エマさん。それに天音神・孝さん、それから涼──御影・涼、あとは俺と、もう一人同じ事務所の関連分局所長で緋磨・翔と云うのが。俺達はレイさんの弟からの依頼で、彼の父親の護衛に成田空港へ行ってたんです。結城・忍さんと云うピアニストで、今は一緒です。それと、空港から別行動になってしまったんですが、カーニンガム総帥も」
 まあ、とウィンは声を上げた。
「巣鴨側の情報収集をお任せしているので、恐らくは先にそちらへ廻って頂けると思うんですが」
『そうなの、じゃあ、ちょっと連絡を取らなきゃ。……あ、そうそう、田沼さん』
 ウィンは、「従弟がホールの見取り図を事務所から盗み出したそうなのですけど、画像を入れたパソコンをちょっとしたトラブルで放置しているみたいなの」と云う。
「大丈夫ですよ」
 亮一は穏やかな笑みを浮かべて相槌を打った。手許では事務所で持ち替えたノートPC、PowerBookG4を操作しながら。
「……見つかりました、助かります。……あ、ファイルに勝手にアクセスするのは緊急事態のみですから」

「──……それなら良いの。そうなの、急な仕事かしらね。たまには所長本人にも確りお仕事して貰わなきゃ」
 携帯電話に向かってそう告げたシュラインが電源を切り、話の輪の中に戻って来た。
「?」
 孝が「何?」と云う風に小首を傾いでシュラインを見ている。
「草間興信所よ、何か別な情報が無いかと思ったんだけど、武彦さん、留守みたい」
「ほー、草間さんが?」
 相槌を打つ孝は如何にも珍しい、と行った表情だ。
「昨日かららしいから、少なくとも煙草の買い出しでは無いわね。武彦さんが直々に仕事中となれば、私達も確り依頼を完遂しないとね」
「お待たせ」
 翔が後ろ手にドアを閉め、戻って来た。
「どんな感じです?」
「ん、まあ手配は上々、か? ところで、シェップの事で面白い事が分かったぞ」
「何?」
 孝は浮かない表情のまま訊ねた。珍しく彼、何か思い詰めているらしい。
「……所で孝君、結城さんを連れて先に巣鴨に行っといてくれないか」
 翔は話の前に徐ら、孝に目配せした。もちろん、交通機関で行けと云うのでは無い。孝の得意な超短縮方法、異世界の召還に拠る空間移動でだ。
「……オーケー」
 忍に聞かれたくないのだろう、と咄嗟にピンと来た孝は気安く請け合った。
「じゃ、行こうか、結城さん。……あ、それと、空間は繋いでおくから。終わったら適当に来いよ」
 忍を促し、孝はそう云い置いて事務所のドアを開けた。
 ドアが再び閉まった後には、足音一つ聴こえて来ない。……さて。
 翔はシュライン、亮一と涼に向き直った。
「sheep dog。牧羊犬。そっから来た徒名らしいな、シェップって云うのは」
「?」
「奴、……今回、完全にスタンドプレーらしい」
「何?」
 声を上げ、眉を顰めたのは涼である。
「……おかしいと思った。いくら何でも、IO2が娘を人質に取るなんて卑怯な真似をするなんて」
「落ち付けボウヤ。……シェップは、現東京コンセルヴァトワールが以前、東京音楽才能開発研究所と云う機関だった時から、妙にそこばっかり目を光らせてたらしい。どうも、遺伝子操作だとか乳幼児に対する常識外れな音楽的訓練を行っていた気狂いじみた機関らしいがな、超常現象では無いからIO2の専門外であるに関わらず、だ。それに、情報も独占して他には洩さなかったらしい。……どうも、個人的に恨みがあるみたいだな」
「……それじゃ、IO2に対して気を遣う必要は無い、と云う事かしら?」
「気を遣う?」
「だって、不味いなと思ってたのよ。私達、明らかに異能者じゃ無いの。特に……、(この時彼女は、某魔法少女の消えたドアの先をちらりと見遣った)いえ、まあ、そんな私達があまり深入りすると、還ってIO2に都合の良い攻撃材料を与える事になってしまうんじゃ無いかって。だから、何とか妥協点が見つからないかと思ってたんだけど」
「恐らくね。逆に、スタンドプレーに走った上に一般人(自称)を人質に取るような真似をした事をネタに威せるでしょう」
「脅すって」
 呆れた表情のシュラインに、翔は苦笑を返した。
「実はね、私の旦那、ちょっとIO2とも関わってるもんで。まあ、脅すと云や聴こえは悪いけど」
「……それにしても、全く無し、ですか? その東京コンセルヴァトワールサイドに、異能者の存在は」
「無い。寧ろ、触れるとすれば実際の法律の方。実は、それで前身の東京音楽才能開発研究所は証拠を隠す為に一旦閉鎖したと云う噂らしい。今は、表立ってそんなヤバい事はやってないみたいだが……。……6年、だ。当時訓練を受けた子供が、ぼちぼち大人になってる時期だな」
「……もしかして、磔也?」
 翔は、未だ全てを話していない涼に向けて微妙な視線を向けた。
「……そうだ。あのボウヤは7歳までそこに居た」
「……俺、ちょっと先に行くよ」
 腰を浮かせた涼に、シュラインが声を掛けた。
「御影君、……磔也君、見張っておいてくれないかしら?」
「勿論、その積もりですけど」
「彼……、何をする積もりか知らないけど、絶対に、手を汚すような事が無いように」
 涼は神妙に頷いてドアの向こうに(本当に)消えた。
「……異能では無い。……だとすれば、音楽……音……。……音響物理学的な仕組みを利用したテロ的な行動かしら?」
 シュラインの呟きを、亮一と翔は黙って聞いていた。
「音……鼓膜で機械的振動変換、中耳耳小骨で振動圧力増、蝸牛管に振動として伝わり電気パルスに情報変換され神経へと繋がる。磔也君はこの仕組みを音響等々で効果上げ使用、つまりIO2対象外の自然現象の悪用を?」
「何にせよ、我々も向かいましょうか。大丈夫です、優秀なメンバーが揃ってますしね、最悪、……、」
 そこまで云ってちらりと翔を見遣った亮一は、「最悪、何?」と首を傾いだシュラインに笑顔で手を振った。
「いえ、何でもありません。最悪、俺の方でちょっとした反則をやらせて貰いますから」

【xxx】

「はい?」
──『インスペクター』、巣鴨の里井より要請在り、コーラスを各20名ずつ派遣しました。もう直ぐ、レイクイエムが奏されるでしょう。予め了承願います。
「……ああ、そうですか。……僕、ラッパ吹きに行った方が良いですかね?」
──その必要は在りません。恐らくは『キリエ』のみかと。『トゥーバ・ミルム』は演りません。
「なら良いです。……にしても、その曲にしては少人数ですね」
──計算の内です。あくまで、合唱団の貸し出しを許可したのは実験としてですから。総編成は必要在りません。インスペクターには、ただクシレフとシェトランの様子を見て頂くだけで結構です。
「了解しました。それじゃ」

【xxx2】

『メールを受信しました』

────────────
from sydney_xx@XX.mu
sique.fr

インスペクター? 磔也が
何かやらかすみたいね。詳
細希望! 返信待つ!
 Sydney.

────────────

【2ABCEH】

 亮一の探偵事務所のドアを開けるとそこは果たして巣鴨、ユーフォニアハーモニーホールのエントランスホールだった。

【3ABCDEFHI】

「いい加減にしろ、磔也」
 それは、御影・涼(みかげ・りょう)だった。
「レイさんの事で多少は必死になってるかと思えば、これだ。年上を虐めるんじゃない」
「……、お前こそタッパに物云わせて説教するんじゃ無ェよ」
 エントランスホールへ入ったウィンは、涼と樹を交互に見遣って肩を竦めた。
「……あああっ、ウィン従姉さん!」
 ウィンに気付いた樹が慌てて立ち上がり、駆け寄って来たと思うと彼女の陰に隠れるように背後に回る。
「……庇われてるのね、樹ちゃん」
「……誰だ、あんた。……つーか……、」
 磔也はくるりと背後を振り返った。何処からか、シュライン、亮一、翔までもがぞろぞろと現れて来た。──それに。
「……磔也」
 父親も。
「忍……、久し振りだな」
 シュラインが、咄嗟に涼の腕を掴んだ。「注意して、よく『見て』!」とその表情が告げている。
 忍の内面に存在すると思われる「シェトラン」、磔也と対峙する事で何かその片鱗が見えるかも知れない。
「一体、どういう事なんだ? 私が命を狙われたの、レイが人質に取られたのと……」
「煩い。……つまりだ、あんた、存在自体邪魔なんだよ。あんたが居るからこういう面倒にもなった訳。……あーあ、この際、あっさり『はいどうぞ煮るなり焼くなり』つってIO2に引き渡せたらどんなに良いかな」
「磔也! お前、父親に何て事云うんだ!」
 涼は磔也を窘めたが、それでも磔也の感情の変化には意識を集中させていた。
 ──妙だ。先程、忍の精神を伺っていた時と云い、何故こんなにも何の変化も無いのだろう。磔也がはっきり、「シェトラン」と云ったに関わらず。
「そうだぞ、素直になれよ、な? 心配して護衛まで依頼した癖に」
「……、」
 更に背後からの声に、磔也の血の気がさっと引いた。──何故か一足遅れて現れたのは、孝だ。素早く振り返った磔也は、「よ」と親し気な笑顔を浮かべて手を挙げた孝に「近づくな!」と怒鳴った。
「磔也ー」
 寂しそうな表情の孝とは対照的に、磔也は不安の所為かトラウマに拠る怯えか或いは単純に殺気か、ガタガタと全身が震えている。
「……俺の、半径2メートル以内に入ったら、即効殺す」
 あまりにも不穏な台詞だが、何故かシュライン、涼、亮一は笑いを堪え切れずに一斉に口許を覆った。それでも洩れる忍び笑いが更に磔也を殺気立たせる。
「笑うな! 手前ェら全員ぶっ殺す、つーか、天音神は今ここで殺す」
「やめなさいな」
 シュラインはぴしゃり、と磔也の手を叩いた。何だか、本当に冗談では無く勢いで人一人刺しそうな少年なので目が放せない。
「磔也、なんて事を。……すみません、……暫く目を放していたもので、……普段から、こういう事を云うんですか、この子は」
 忍が慌ててシュラインに詫び、勿論、と一同が頷く前に本人が「親の教育が悪かったもんでね」と嘯いた。
「……一体、何の騒ぎなの」
 呆れた顔で、倉菜が腕を組んで冷めた声で誰とも無しに訊ねた。
「……あなたは?」
 亮一が、ふと見慣れない少女に対して訊く。
「……硝月・倉菜と云います。……本当は、単にアルバイトの面接に来ただけなんだけど……。一体何事かしら」
 亮一は楽し気に倉菜に笑いかけた。笑いかけた、と云うよりも先程の抑え切れない笑いが残っていたのを上手く転嫁した、と云う感じで。
「ああ、この事は気にしないで結構です。実は、彼天音神君と云って──」
「田沼! 黙れ!」
「……、」
 明らかに殺意を向けられて居るのに気付く様子も無く、「たーくーやー、怒ってる? だから、不幸な事故なんだって、ほんと」とか何とか云いながら磔也の半径2メートル内に入りたそうにしている青年を、倉菜は冷たく眺めた。
「……、」 
 ふと、孝は冷たい視線に気付いて顔を上げ、──倉菜を見て顔色を変えた。
「あぁっ!? ……」
「……、」
 倉菜の無表情が「何か?」と云っている。……が、あれは……。
 
「……、」
「何見てる? 涼」
 翔が、やや一団から離れていた涼に声を掛けた。
「……ん、これ」
 涼の視線の先にあるものは、こうしたホールなどに良くある類の鋳像である。これはまた、古典的だが無気味な題材だ。
 女の首を掲げた男性が首から下だけの女性の身体を踏み付けにしている姿、──ペルセウス、ギリシャ神話の。
「何か、妙か?」
「……うーん、これさ、金属だよね……、」
「だったら?」
「……これも、楽器になるかなあ、なんて思って」
「ならないだろう、いくらなんでも。穿ち過ぎだ。……ま、こんな無気味なもの、わざわざ置く人間の神経は疑いたくもなるが」
「……そう、か」
 涼は未だ首を捻る。……一応、気をつけておこうか。

「ちょっと、すみません」
 好き勝手な行動に出ていた一同の注意を亮一が喚起した。
 亮一はPower Bookを起動させている。……その画面、ホールの見取り図の画像が表示さえているそれを認めたウィンは樹にウィンクを投げた。無事、手渡せたわね、と。
「4時2分過ぎ、……いずれにせよ、そろそろじゃ無いでしょうか、彼等の到着」
 亮一は更に忍も呼び寄せた。磔也は、涼が殆ど羽交い締めにして連れて来た。孝と樹の護衛を兼ねて。
「磔也君、どうする気なんです? 交渉するとして、外でやるんですか、それともここで?」
 亮一は不満そうに涼を睨んでいる磔也に適当に注意を促した。
「……中で」
 中、と云って磔也が見遣ったのは、この建物の中の、ホールだ。
「……中、ですか。……矢張り、単純に要求を呑む気じゃ無いようですね」
「当たり前だ。文句あるか」
「……いえ? 安心しましたよ、お父さん想いで」
「嘘吐け。……俺は外に出てる。忍連れて中に入っててくれ。……いいか、くれぐれも勝手な真似すんじゃ無ェぞ。……だから放せよ、優男! 分かったよ、この一件が片付くまで天音神は生かしといてやる!」

「……、」
「結城さん?」
 亮一は、ぼんやりとその鋳像に視線を向けていた忍に声を掛けた。
「あ、いえ……失礼。何でもありません」

──何故、これがここに……。

【4ABCDEHI】

「──……、」
 ホールの外は、数台の車に分乗していたIO2のメンバーが御丁寧に銃で武装した上で取り囲んでいた。
 その中心に、シェップが居る。磔也は両手を軽く挙げ、抵抗の意思が無い(振り)事を示しながら彼に歩み寄った。数歩歩いた所で、傍に居たメンバーに押し止められる。
「……何だよ、」
「一応、調べさせて貰う」
 シェップが云う傍から、彼等は磔也のポケットや袖を調べ出し、真っ先にバタフライナイフを見付けて顔色を変えた。
 メンバーが投げて寄越したナイフを見たシェップは眉を吊り上げ、「何だね、これは」と問う。
「……確か、姉の方も持ってたな。物騒な家族だ」
「ただの日用品だよ。俺も姉貴も鋏が持てないもんでね」
 勿論そんな云い訳が通用する筈は無い。結局、ナイフの他にも携帯電話や煙草、ライター等が全て一通り引っ張り出された。
「煙草もだ没収だ。……こんな物を粋がって持ち歩いているガキを見ると、苛々する」
「煩ェ奴。……携帯、後で返せよ」
「困るかね、無いと?」
「当然だろ。……今時の高校生はな、ケータイが無きゃ生きてけ無ェんだぞ」
「御託は良い、シェトランはどこだ」
「そっちこそ、レイはどこだよ」
「安心し給え、近くに居る。……妥協して、君の指定した場所に来てやったんだぞ、そう簡単に人質の居場所を教える程甘くは無い」
「この卑怯者、姉貴に何かしてみろ、本気で殺すぞおっさん」
「……姉思いな事だ」
「いや、一回云ってみたかっただけ」
 こめかみを引き攣らせたシェップの前で、磔也は平然と云ってのけた。

「何やってるのよ、全く、喧嘩売ってるような物じゃ無いの!」
 ウィンのテレパスと、それをアンテナとして皆に伝える翔の能力を借りるまでも無く、一人特殊な聴覚でそんな遣り取りを聴いていたシュラインが業を煮やして駆け出した。
「シュラインさん、どこへ!?」
 亮一が慌てて止めるが、シュラインはドアの手前で立ち止まって「安心して」と微笑した。
「交渉に行くだけよ、弟君には任せておけないわ。微妙に方向性間違ってる、彼」
「気を付けて」
「大丈夫、彼等だっていきなり発砲するほど大胆じゃ無いでしょう」

「……それじゃ、俺達も行こうか」
 シュラインの背中を見届けた涼が、立ち上がった。
「ウィンさん、もう大丈夫です、ありがとう、大体分かりました」
「……、」
 ウィンは額に滲んだ冷や汗を拭って、涼に微笑んだ。
「大丈夫ですか? ……無理したんじゃ……」
「大丈夫よ、大事なお友達の為だもの」
 ウィンは、限界レベルで解放したサイコ能力をようやく緩めてほっと一息を吐いた。どうにも好戦的で、某幻想世界では無茶苦茶な程の能力の使い方をした兄とは違って、ウィン自身はテレパスと千里眼を同時に使用するのは初めてだった。
 私情でスタンドプレーに走っているというシェップを信用するのは危険だ。
 ウィンや涼を始めとして、ほぼ全員の最優先事項は人命である。慎重に行動すれば、交渉よりも先にレイの身柄を奪還出来ると考えた。そこで、ウィンのサイコ能力が必要となったのである。
 そうしてウィンの精神に「感応」した涼が共にレイの居場所を探る。
「孝さん、行こう」
「よし」
 孝も涼に続いて立ち上がった。
「よろしくね、私と樹ちゃんは、もう少し事務所を調べてみる。合流先は田沼さんの事務所で良いのね」
「ん。ま、居場所さえ分かりゃ人質奪回は確実だ」
 孝は自信有り気な発言──何せ、空間を繋いでレイの身柄だけ奪回すれば、安全に追手も撒けるし、この世界での戦闘が楽勝な武器、電磁剣も彼にはあるし──の割りに、浮かない、と云うかやる気の無いトーンだ。孝にとっての問題は、寧ろ奪還後……。

【5AEFH】

「ちょっと待って!」
 シュラインはホールを飛び出し、両手を上げて磔也とシェップの間に進み出た。
「……誰だ」
「知るか、忍を連れて来た連中の一人」
 眉を顰めたシェップには磔也が面倒そうに応えた。シュラインは冷静に、淀み無く言葉を紡いだ。
「私はシュライン・エマと云います。あなた方が人質に取った結城レイの友人よ。今日は弟君からの依頼を手伝って空港から結城氏に付いて来ました」
「我々に何か用が?」
「少し話を聞いて頂け無いかしら、彼じゃ交渉にならないのでは?」
 そして、シュラインの視線を辿ってやる気無さそうな磔也に行き当たったシェップは一瞬考え込んだ後に頷いた。
「良いだろう。君達の中に頭の良い人間が居て助かった。……頭の悪いガキとは会話が出来ん。但し、手短に願う。時間稼ぎをされては溜らない」
「分かりました。……では単刀直入に。あなた達が、何故結城氏の暗殺を企んだかと云う事なのだけど、──詳しい内状は話せないでしょうね、それは良いわ。だけど、結局の目的は『シェトラン』では無いの?」
「……、」
「何……で、それを」
 シュラインの発した「シェトラン」と云う言葉に、シェップは黙り込み、磔也は顔色を変えた。
「あなた、電話で云ったじゃないの。『シェトラン』、それは、結城氏の内面に存在する実体を持たない別人格……そう考えて良いのじゃ無い?」
 御名答、とシェップが応え、磔也は溜息を吐いた。
「但し、その事について君が深入りする必要は無い」
「結構よ。でも、これだけは聴いて、あなた方が抹消したいと望むのがあくまで『シェトラン』のみだとしたら、──その人格だけをあなた方に引き渡し、結城氏の本体は無傷で返して頂く事も出来るのでは?」
「確実性があれば、の話だな」
「磔也君、君、知ってるでしょう、『シェトラン』を結城氏から切り離す方法」
「……まあね──……」
 全く……。暢気に嘯いた磔也を前にシュラインは脱力しそうになるのを堪えた。
「さっさと云いなさいよ、そういう事は」
「だって、俺は別に忍なんかどうでも良いし。俺は寧ろ──」
「いい加減にしろ、このガキ! 知っているからには実行して貰おう、結城忍、基いシェトランの引き渡しを! 分かっているんだろうな、こちらには君の姉が居ると」
「はいはい。……仕方無ェなぁ、全くあのバカ女」
「……、」
 あまりに暢気な彼の様子から、シュラインは勿論大人しく従う気は無いだろうと察知した。とうとう、何かやらかす気だ。──が、阻止して見せる。
「……つー訳で、はい、中へどうぞ」
「連れて来い」
「無理だって。……知ってんだろ、『シェトラン』は、忍がピアノ弾かなきゃ現れ無ェんだ」
 そうして、磔也はさっさとホールへ歩き出した。
「……あなた、」
 それに続こうとしたシェップを、シュラインは低い声で呼び止めた。
「……個人的に、彼等に恨みがあるのでは? ……一体、何故」
「恨みじゃ無い。……許せないんだ、連中が。……東京コンセルヴァトワールの連中、音楽を凶器として使おうとしている人間が」
「音楽を凶器に、ですって?」
「俺は、音楽が大嫌いだ。俺の母親は、音楽に殺された」
「──何ですって?」

【6AEFH】

「──来ましたね」 
 磔也に続いてホールに入って来た、シュラインともう一人のシェップらしい男を認めた亮一が呟いた。
「良し、沼、後は任せるぞ」
 身軽に踵を返し、翔は口唇の端と共に片手を軽く上げた。亮一も彼女へ向けた腕を上げ、それに応え、──二人はそれぞれの役目に従って行動に移る。
 亮一はシュラインの影を確認した。──翔は、抜かり無く彼女にも傀儡を配していた。
「──さて、と」
 亮一は翔の『アンテナ』を借りながら、ホール全体の遮断範囲をシャットアウトした。──これで、外でシェップの戻りを待っているエージェント達が乱入して来る事は無い。
「……あ」
 亮一の傍らに残った倉菜が口唇を開いた。
 舞台に上がった磔也は忍の前に立ち、ピアノの蓋を開けた。そう、倉菜の調律し直したピアノ。
「弾け、忍」
 忍は呆然と磔也を見上げていた。
 同時に、3階バルコニーの方角から静かに気配の動きがあった。
「……始まりますね」
「何をする気かしら……」
 
 忍は緩慢な動作で両手を鍵盤の上に置いた。
 それを見守るシェップや、シュラインにも緊張が走る。
 磔也は上方を、──亮一達の居る2階より更に上階の3階バルコニーに向かって腕を上げた。その合図を受けたのは、里井薫だった。

 ──ゆったりとした、ニ単調の旋律がピアノから流れた。……徐々に壮大なダイナミクスを伴ったピアノが上昇し切った時、バルコニーからのコーラスが被さった。

──Kyrie eleison , eleison ……、

「……何なの……、」
 倉菜はあまりの不快感に背筋が震え、思わず自らの両腕を抱き抱えていた。8度、5度、4度と云った完全音程は微妙な音程のずれだけで倍音を発し、それに被さる人工的な程に冷たく単調なコーラスがこの音響の良いホールの天井から空間中を覆うように間断無く降り注ぎ、連続性を持った倍音が彼等を包み込んでいた。遮断云々の問題では無い。普通の人間でも、こんな音楽をこの音量で、聴覚だけでなく振動を通して全身で浴びせられては溜ったものでは無い、音楽には未解明の部分が多い、精神的な不安を喚起する音もある。誰でも叫び出したくもなるだろう。特に、倉菜のように音に敏感な少女には不快極まりない。

 磔也は周囲を見回し、シュラインとシェップもが倉菜と同じような不快感に精神を犯されている事を認めると満足気に微笑んで掲げた腕の先で手を振った。指揮者のような動きに続いて、ソプラノのソロが始まった。

──Christe eleison, Christe eleison ……、
──……Kyrie eleison , eleison ……、
 
 歌っているのは、里井だ。不快極まりないピアノとコーラスの中にあっても、彼の声は全く異質だ。

──化け物の声、
 ……そう、磔也が倉菜に洩した通りの声、化け物としか云いようが無い。尋常で無く響く高音、その中にはありとあらゆる振動数の倍音列が混ざっている。
 脳内の、特に厭な記憶を封じ込めた場所をピンポイントで刺激する音だ。それは、明らかな凶器だ。

 里井のソロが始まって直ぐ、何とか耐えていたシュラインの傍でシェップが叫び声を上げた。

【-】

 俺が未だ10代のガキの頃、母親は軽度の精神衰弱で自宅療養しながらセラピーを受けていた。その病院では、デイサービスの一環として当時日本では未だ珍しかった音楽療法を取り入れていた。親父も俺も、音楽による癒しなんかがプラスになるとは思えないまでもまさかマイナスになるとは思ってもいなかった。
 演奏に来ていたのはボランティアのアマチュアグループで、療法士は自身は音楽知識の無い人間だった。だから、演奏の善し悪しに無頓着だったんだ。
 俺も何度か見学に行った。拙いバッハの弦楽四重奏なんかを一生懸命に演奏しているボランティアは気の良い人達で、好感を持った。それがまさか、母親にとって凶器になるとは思えなかった。
 誰も、気付かなかったんだ。アマチュアの演奏する高音楽器が発する甲高い音が、特に精神を病んだ人間にとって余りに不愉快な刺激を与えていた事に。
 母親は、何故か日毎に悪くなって行くようだった。余程精神状態にガタが来てたんだろうと、医者も父親もセラピーの悪影響を疑いもしなかった。
 
 ある日、セラピーの最中に母親は狂ったように絶叫しながら病院の窓から飛び降りた。

 精神患者の専用病棟じゃ無かったから、セキュリティは甘かったんだ。
 後になって、音色の悪い高音楽器の倍音が母親に過度のストレスを与えていたんだと知った。

 その時のボランティアを、俺は恨んではいない。あの人達には善意しか無かった。
 だが、俺はそれ以来どうしても音楽だけは好きになれない。

 ──その音楽を、意図的に凶器として使おうとしている連中は絶対に許せ無い。

【7AEDFHI】

 ──The Spell of the Voice。 
 超聴音と常人の音域を遥かに越えたヴォイスコントロールにより、ありとあらゆる音を聴き取り再現する能力だ。

「止めて──……!!」
 耐え兼ねたシュラインの絶叫は、彼女本来の声では無く、恐らくは無意識に里井の声を模倣した音に拠って発せられた。然し、その声量の差は歴然である。然も、シュラインの場合、それを予測して予め待機していた翔が『増幅』させたものだから──。 

「……、」
 亮一、倉菜、翔、は一様に両耳を覆っていた。
 ……凄い声だ。
 実際には、音は何も聴こえなかった。シュラインが発したのは、人間の聴覚では感知出来ない程の高周波数の声、云ってみれば超音波である。それは、聴こえなくとも凄まじい空気の振動を通して鼓膜を突き抜け、亮一がその干渉を遮断していた3人にもその壮絶さが知れた。
 音楽が、止んだ。不快極まりないレクイエム、キリエが。
 3階バルコニーに居たコーラスの少年少女達と里井、ピアノの前の忍と舞台下のシェップは意識を失ってその場に伏した。

「……凄い声だな……、」
 予想していたとは云え、あまりの効果に肩を竦めて翔はシュラインを見遣った。
「……だって、あんまりよ」
 ──問題は。
 コーラス全員や、忍までが意識を失った今の音を「聴いて」いた筈なのに、磔也だけは平然とした顔で元の位置に立っていた事だ。
 真摯なシュラインを嘲笑するように薄ら笑いさえ浮かべて。
「……沼、あのボウヤまで遮断したのか?」
「いえ、そんな筈は……、」
 何故、平気なのだろう。亮一にもそれは理解出来なかった。
「……何かあったか?」
「一体、どういう神経の構造をしているのかしら。信じられないわ」
 あの図太さ。あれじゃ繊細な音楽なんか演奏出来ない訳ね、と倉菜は冷めた視線を磔也に送った。
「……おい、何やってんだ、里井、未だ終わって無ェぞ」
 本当に何も気付いていないように3階バルコニーに向かって声を掛けた磔也に応えたのは、ウィンだった。──樹も居る。つい今しがた、舞台へ続く通路から入って来た所だ。
「無駄だわ。彼等、里井君も含めて全員気絶しているわよ。ついでに、お父さんも」
「……何?」
 眉を顰めた磔也はウィンと樹を一瞥した視線をそのまま忍に向け、はっと表情を変えた。
「……そう、矢っ張り『聴こえ』無かったのね、磔也君」
「──!」
 磔也はその一言で明らかに狼狽した。
「……どう云う事です?」
 亮一は2階からウィンに訪ねる。余計な程の音響の良さで、無理せずとも会話が通じた。
「……今のシュラインさんの声、聴こえなかったのよね、あなたには」
「手前ェら……、」
「葛城君、」
 亮一が次ぎに質問を向けた樹は、磔也へ遠慮勝ちな視線を向けながら切り出した。
「……磔也さんの聴覚は、壊れ始めてるらしいです」
「葛城! 黙れ、ぶっ殺すぞ手前ェ!」
 怒号を受けた樹は慌てて後ずさった。──穏やかじゃ無いこと。ウィンは、動揺して集中力の散漫になっている磔也の目を盗んで移動を始めた。
 樹は一旦廊下へ飛び出した後、階段を登って亮一達に合流した。そこで、先程水谷のコンピュータを介して入手した東京コンセルヴァトワールのデータベースを見せる。

────────────────────
<No. XXX3-001>
<氏名:結城・磔也>
<生年月日:1986年5月26日>
 ・
 ・
 ・
<聴力レベル:SA ※但、現時点で障害の発生が確認される。既に高音域を認知不可、進行中。(難聴までの予想期間1年(2003年現在))幻聴等も認められる。原因は不明、現在調査中>
<特記事項:(No.XXX3-000)『ZERO』結城・レイを姉として家族に設定、現在結城・忍の養子として戸籍に登録>
────────────────────

「……まさか、それだけの為に?」
 倉菜は愕然とした。
 聴覚に異常を来した事で自棄になって、こんな大騒ぎを引き起こしたと云うのか。
「……最低」

 ──そうとは云い切れない。
 倉菜の言葉を聴いたウィンはどこか悲しい気持で考えた。
 不思議な事に割合磔也と親しくしているらしい蓮が云っていた、あいつは相当精神のバランスが悪い、と。
 精神的な不調は、実際にはフィジカルな故障が根本的な原因である事が実は多い。
 肉体的、感覚的な不自由さが感情にダイレクトに反応するのだ。
 聴覚障害が全ての原因では無いだろう。だが、磔也のこの気狂いじみた行動には幾らか関係がある筈だ。
 この際、はっきりさせよう。

「ごめんなさい、許してね!」
 唐突に、ウィンは背後から磔也を抱き締めた。先日、兄が磔也に対して取った行動を聞き知っていたウィンは、咄嗟に彼の弱点を突く事に成功した。完全に虚を突かれた磔也は硬直して、反撃も出来ずに居る。

──悪いけど、あなたの心、見せて貰うわ。

「……結城氏と云い、磔也君と云い……役得続きですねぇ」
 亮一がのんびりと呟いた。

【7ADEFH】

「……なるほどな。おかしいと思ったぞ、IO2の人間が、異能者とも思えない連中相手に標的の娘を人質に取るなんて卑怯な方法を取ったもんで」
 樹から、ウィンのテレパスが感知したシェップの記憶らしい話を聴いた翔は溜息を吐いて問題IO2エージェントの足許に屈み込んだ。
「……さて、今は気絶してるらしいが、どうするかな」
「──心配は要らない。引き取ろう」
「……、」
 振り返った先、ホールの入口に、一人の男が立っていた。暗がりで、サングラスを掛けた顔は良く見えない。だが、──煙草の匂いがする。
「……あんたが出て来るとはね」
 ──旦那の奴。翔は苦笑いした。

【8ADEFGHJ】

「──あなた……、」
 シュラインは、淡々とシェップの身柄を担いで出て行こうとした男を見て呆然と呟いた。──まさか。でも、だとしたら全然雰囲気が違う。
「あんたまでが直々のお出ましか。……若しかして、結構大問題になってるんじゃ無いのか?」
 翔は男を知っているようだった。事情を知っているような事を云う。
「エージェントがスタンドプレーに走って一般人を巻き込んだ、って事はな。他の堅い連中じゃ、お前達に対してまで子煩い事を云いそうだから、引き取りに来た訳だ」
 大分視界がはっきりしても、男の顔はサングラスと陰で良く分からない。声も、ホールの反響の中でやや異質に響いた。
「面倒見の良い事じゃ無いか」
 男は、翔に顔を向けた。含み笑いを浮かべている。
「……緋磨のかみさんが関わってるって事だしな。……伝えておいてくれ。貸しにしとくって」
「……、」
 ふん、と苦笑したまま溜息を軽く吐き、翔は自らの片手に視線を落とした。彼女が手にしている小刀は、ある方面では夫の身分を示す身分証明として通じる。
「コネが役に立った、って云う可きかな?」
「──誰なの、あなたは……、」
 ──男は、シュラインの方は振り向かずに視線を2階の亮一に向けた。
「……『ディテクター』……そうそう、『壁』の事だが。外の連中には効いたみたいだが、俺に云わせれば詰めが甘い」
「同業者には厳しいんですね?」
 ──勿体振って。亮一は穏やかに答えながら苦笑した。

「──落ち着いたようですね」
「……、何だったんだ、一体」
 『ディテクター』が、ホールの外の連中を引き連れて去って行くとほぼ入れ違いに、セレスティと蓮、修一が入って来た。
「……セレスティさん、どうでした」
 亮一が彼に情報収集の成果を訊ねた。返って来た麗人の微笑みの悠然とした事。
「まあ、色々と」
「……それじゃ、俺達も引き揚げますか。……まあ、ここの事後処理はホール側の人間でやってくれるでしょうし」
 そして亮一は、ピアノの上の忍を揺り起こした。
「大丈夫ですか? ……レイさんも無事です、退却しましよう」
「……あ、……ええ」
  未だぼんやりとしているらしい忍は素直に亮一に従った。──結局、『シェトラン』の存在は分からず終いだ。
 
 孝が繋ぎっ放しにしていた空間の先へ、一旦先に忍を進ませて亮一は倉菜と蓮に声を掛けた。
「硝月さん、どうします? 俺達は一旦、俺の事務所に引き揚げてそこで情報を纏める積もりなんですが」
「お邪魔するわ。……これ、役に立つかも知れないし」
 倉菜がそうして亮一に掲げたものは、例のホールのミニチュアだ。
 舞台上のウィンを樹が揺り起こしている。磔也も気が付いたらしい。
「……、」
「香坂さんも、良ければ」
「……いや、先にやりたい事がある」
 蓮は首を振った。腕を組んだ彼は、やや眉を顰めて磔也を見ていた。
「……硝月、悪いが先刻のヴァイオリンをもう一度貸してくれないか」
「……良いけど?」

【9ABCEFGI】

 事務所へ戻ったシュラインは先ず目にした光景に「またやってる……」と溜息を吐いた。
 そう、彼女と、それに続いた亮一と倉菜を出迎えたのは淡い緑色の髪を靡かせた金色の
瞳の美少女だったのである。
「……御影君は居るし、……レイさんね、さては」
「いや、これには訳が」
 美少女、基いあまねちゃん、基い孝はシュラインの姿を前ににして慌てふためいて云い訳する。……が、シュラインは最早呆れしか感じ得ないようで、鷹揚にひらひらと手を振って「良いわよ、別に」と微笑んだ。
「……それにしても、好きねえ」
「誤解だって! シュラインさんてば!」

「……おかしいな」
 分離したレイを見下ろしながら、孝は髪を掻き回して首を傾いだ。
「どうだった?」
 未だ意識を失っているレイを抱き起こしてソファに寝かせながら、涼が訪ねる。
「……フツーだった」
「普通?」
「……ああ、本当に普通。……気を失わせたのが悪かったかなあ。けど、それにしても特に何も変わった事、無かったんだよな。……あれ、磔也が余っ程特殊なのかなあ」
「あり得るかも」
「……くそっ、そうなると余計に後が怖いな」
 慌て出した孝を、くすくすと笑って見上げながら涼は殊更優しくレイの頭を撫でた。
「あーあ、可哀想になあレイさん。あんなに厭がってたのに。……そろそろ起しても良い頃かな?」
「やめてくれ! つか、俺は今から逃げる、あと数分したら起して良いぞ」
「駄目だって。意識を失ってて、ある意味良かったね、あまねちゃん。命拾いだよ。……まあ、目が冷めた時は覚悟が必要だけど」
「ああもう土下座でも何でもするよ、」
 自棄半分に、孝は盛大な溜息を吐いた。
「……それにしても、怖かったね、レイさん。……もう大丈夫だから」
 整えてやろうと、レイの前髪を撫でていた涼はふとその指先を止めた。
「……、」
 前髪の隙間から覗いた、──ちゃんと見るのは始めてのレイの目許が露になった。

──磔也……?

『こちら巣鴨、どう、無事?』
 ウィンの声だ。

 ……そうか、若しかしたらレイさんが目許を隠していたのはこの所為かも知れないな──、涼は孝に見えないように、再びレイの目許を前髪で覆ってウィンのテレパスに答えた。

「無事です、レイさんにも、……結城さんにも異変はありません」
 結城、と云う時にシェトランの存在を意識して貰えるよう、やや強調して涼は答えた。

『所で、涼さんホールの音を聞きたいって云ってたでしょう、今、丁度香坂君がヴァイオリンを弾いてるの、……来たら?』

 ──あ、急いで意識を向けようとした時、折良く入口からセレスティが現れた。

「……こちらにも一騒動あったようですね」
「骨折り損でね」
 孝が憮然と答えた。
「……然し丁度都合が良い。御影君、レイ嬢をそのまま私に貸して頂けませんか? あなたはホールの音楽を聴いて来ると良い、先程の不快なコーラスとは違って、良いヴァイオリンですよ、中々。参考になるでしょう」
「じゃあ、」
 何をする気か、またこの麗人、何を企んでいるのかは気になるが、涼は一先ずレイをセレスティに預け、涼は今しがたセレスティの通って来た空間へ入った。

【10ABEF】

 セレスティがレイに誘導催眠をかけている間、シュラインと亮一は別室で忍に話を聞いていた。
「……それじゃ、レイさんも子供の頃はピアノを?」
 何気ない雑談を装いながら、シュラインは忍に訊ねた。
「ええ、」
「今は何もやっていないそうですけど……、何か、他の専門でも?」
「いえ、聴くのが専門だと。レイも、そこそこは上手かったんです。だが磔也には適わなかった。……あの子の技巧的な才能は、恐らくは私よりも遥かに上です。そこで、厭になったんでしょうね、『磔也が弾くんだから私がピアノをやる必要は無い、磔也にコンプレックスを持ち続けるのが厭だから私はやめる、音楽まで嫌いになりたくない』、そう、云いました。私も反対しませんでした。……それに、あの娘には別に特殊な才能もありましたし」
「それはどんな?」
「……足が、異常に速かったんです」
「……、」
 なるほど……、と妙に空虚な納得感が流れた。
「冗談でしょうが、その内にロードバイクを始めて、競輪の選手になるとか私は自転車でフランスに行ってみせるとか、……云ってました。私の専門外で持て余しましたが」
「……今でも滅茶苦茶速いですよ」
 孝は、髪を掻き回しながら遠慮勝ちに報告し、──その一声で何気ない様子で孝に視線を向けた倉菜と目を合わせて、慌てて顔を背けた。
「?」
 倉菜はそんな孝の反応に軽く眉を顰めた。……失礼な人。
「ある意味では、レイの方が懸命だったのかも知れないと思います。好きなだけで演奏する側には立てない。技巧の修得と云う壁を乗り越える段階で、磔也はどこか方向性を思い違えてしまった感があります。ある時期から、磔也は私の指導など全く聞かなくなった。逆に、私の演奏が間延びしている、退屈だと云って嘲笑される有り様です」
 微笑しながら頷いて聞くシュラインと亮一の横で、孝と倉菜は延々と穏やかでは無い空気を発していた。
──何よ、女の子の顔を見て厭そうな顔をするなんて。そこまで酷い顔じゃ無い積もりだけど? ……本当、厭な感じ。
──いやいやいや、んな筈は無い……。あいつなら絶対あんなクールな反応はしない筈。……つか、何であそこまで似た顔がこっちの世界に居るんだよ。
 お互いの疑問が解決する見込みは、今の所無さそうだ。

【11】

「と、云う訳で総括だ」
 結城親子が引き揚げた後、事務所に集まった面々を前に、翔が音頭を取った。
「シェップに関しては、今回奴は完全にスタンドプレーだった。昔、母親が素人の演奏に拠る音楽療法でストレスを溜めて自殺した事で、音楽を憎んでいたらしい。……ちょっとした借りは出来たが、元はと云えば向こうが悪いんだから相殺だろう」
 そして翔はちらりとシュラインを見遣る。──彼女は彼女で、別の問題を思案していた。
「私が思うに、これは磔也君一人どうこうして済む問題では無いと思うわ。寧ろ、彼は利用されている気がする。彼の精神的な不安に付け込んで、破壊衝動を煽られていると云うか」
「俺としては、水谷和馬自身が過去には何も東京コンセルヴァトワールなどとの繋がりを持たない、本当の一般人だった事の方が気になりますね。彼が関わっている理由は、矢張り……、水谷の空の肉体を乗っ取った存在……『クシレフ』……か」
 シュラインと亮一の意見は一致しているようだ。根本的な悪意は東京コンセルヴァトワールという組織にあるらしい、と。
「……でも、音楽をやっている彼が聴覚を失いかけているなんて、本当に可哀想。……まあ、あそこまで荒んだ性格は元々あった傾向かも知れないけど」
 ウィンは心底気の毒そう、と云うように目を伏せた。私だって音楽は大好き。殊更、「音楽しか」無い人間がそれを失ったら、と思えば──。
「それ、遺伝的な物なのかな?」
「いや、外的要因だろうと私は思う。……そうだろう、沼」
「同感ですね」
「どうして?」
 翔と亮一は目配せを交わし、「仕方ないか」と云う風に翔は口を開いた。
「涼には云い難かったんだが、あの家庭、大分複雑なんだ。結城氏に結婚歴は無し。磔也とレイは養子だ。……が、姉弟自体は血が繋がっているらしい。それと、ルクセンブルクさん達が入手して来たデータの遺伝子情報をざっと照合したんだが、妙な事に戸籍上の親子である筈の結城氏と姉弟、……同じなんだ。結城氏と。遺伝的な物であるとすれば、染色体には男女差があるから姉には現れ無いとしても、同じ男性の結城氏はとっくに聴覚を失っている筈だ」
「? ……ちょっと、意味が良く分からないな。遺伝の問題はともかく、養子なのに遺伝があるとか、」
「そう云えば、涼は見て無いですよね。3階の人達」
 涼は頷いたが、代わりには倉菜が肩を竦めた。
「ああ、あの全員同じ顔のコーラス達?」
「何それ、」
「見る? 覗いても良いわよ」
 涼の『感応』能力を大体察知していた倉菜は、件のコーラスの少年少女達の視覚的な記憶をイメージしながら涼に顔を向けた。「ごめん、」と断り、涼は彼女の精神に意識を集中した。
 そして、涼も見る事になる。100人近い人数の、全く同じ制服の上に、全て顔立ちから体つきまでが同じ少年少女達の軍勢を。
「……これ、映画じゃ無いよね?」
 ──余りに薄ら寒い。涼はわざと冗談めかして訊ねたが、倉菜は「当たり前よ」と素っ気無い。
「実際に、居たんですよ。3階バルコニーに」
「……どうだ、クローン人間だとしか思えないだろう」
「クローン人間、そんな非人道なって法律が──」
「だからこそ、証拠隠滅の為に東京コンセルヴァトワールは姿を変えたんだ。前身である東京音楽才能開発教育研究所から。結城忍、磔也もレイも元々はそこの出身だ。私が思うに、結城忍がわざわざ姉弟を養子に引き取ったのは逆に、単に戸籍を得る為の手段だったんじゃ無いかと思う」
「クローン……、まさか、……レイさん達が? つまり、才能あるピアニストのコピーとして?」
 出来れば否定したい気分の涼の脳裏に、ある光景が甦った。──介抱中に、ちらりと見えたレイの素顔。彼女が執拗に隠していたその顔が、姉弟とは云えあまりに弟に似過ぎていたと感じた事を。
「どうも、そんな事ばっかりやってた機関らしいぞ、東京音楽才能開発教育研究所。表向き、一応まともな音楽教育機関らしく音楽教室なんかも併設していたらしいが」
「磔也君の聴覚障害の件にしても、元々人間の聴覚は加齢と共に衰えて行くものです。ですが余りにその進行が早い事の外的要因として、……幼児期に無理な音感訓練を行ったとか。それも、実験の一環として弊害も予想の上で」
「……酷い」
 珍しく憤りを抑えられない涼に、翔は一応「あくまで予測だからな」と釘を刺しておいた。
「……所で、その東京コンセルヴァトワールの人間に会われたそうですね、カーニンガムさん?」
 翔は、質問をセレスティに向けた。麗人は一度ウィンを見遣って微笑む。
「ええ、ルクセンブルク嬢の御紹介で。自分はあくまで非常勤講師だと仰っていましたが、彼も若い時分には東京音楽才能開発教育研究所付属の音楽教室で学んでいたと云うことで、大分関わりは深いと思われます。暗に、脅されましたしね。あまり関わるな、と云いたかったように思います」
「何か、分かりまして?」 
 ウィンの問いに、セレスティは軽く首を傾いだ。
「そうですね、簡単には洩さないだろうとは思っていましたが、それだけに、矢張り磔也君や巣鴨ユーフォニアハーモニーホールの上には東京コンセルヴァトワールがある、と云う証拠とも云えるかと」
「その、東京コンセルヴァトワールを探る方法は無いかしら」
「私もそう思いまして、ルクセンブルク女史の御名前や資金援助の話を出したのですが。『堅いし、気取った所だから』とやや閉鎖的だと云う感じですね。……そうそう、」
 セレスティはそう、と涼に声を掛けた。
「御影君、ホールにあった彫像を気にしていたそうですが」
「はい、……何か不気味だし、……あと、結城氏が『何故これがここに?』って感じていたように思ったんです」
「あの彫像、元はどこにあったものかお分かりですか?」
「どこに?」
「東京音楽才能教育開発研究所の施設内です。閉鎖後、東京コンセルヴァトワールの倉庫あたりに押し込んで隠していたようですが」

「そう云えば、水谷さんはあの後どうなったかしら?」
 ふと、ウィンは素朴な疑問を発した。樹が精霊サンドマンを召還して眠らせたままの水谷。
「そろそろ、起きてると思いますけど。……でも、完全に顔は覚えられただろうし、履歴書まで渡して来ちゃったしなあ……僕はもうホールへは行けないです」
「今後の動向調査に、アルバイトの身分は有効だったんだけど、仕方無いわね。相手がその『クシレフ』とやらじゃ、そうそう簡単に記憶操作なんかの精神戦には持ち込めないし」
 それまで、訳が分からないと云う風に取り敢えず黙って話を聞いていた蓮が口を開いた。
「俺は、多分大丈夫だろう。何せ水谷氏の事は今日始めて知った位だからな。今後も音響チェックのアルバイトに行く事になると思う。未だ不完全だと云うホールに何か仕掛けが追加されれば、直ぐ分かるだろう。何かあればまた情報は提供する」
「私も」
 倉菜も蓮に倣って名乗りを上げた。亮一は軽く頷く。
「じゃ、そちらの事はお二人にお願いしましょう」
「……それと、香坂さん、」
 ウィンが急いで云い足した。
「磔也君、香坂さんには割と親しそうだったわよね」
「そうなのか? あの態度」
 だとすれば迷惑も良い所だが、蓮にはその辺りの基準が良く分からない。
「……全然扱い良いですよ。……僕なんか……、」
 呟くような独白を吐く従弟を横目に、ウィンは蓮と会話を続ける。
「あの子、当分帰って来ない気がするの。気になるわ。もし、連絡なんかがあれば教えて欲しいの」
「……分かった」

【xxx】

 一週間、何事も無く過ぎた。──ただ、磔也の消息が知れない事意外。

「……もしもし、あの、2年D組結城磔也の姉ですが。……弟、学校には……、……ですよね、あ、いえ、あの、風邪なんです。そう、ずーっと、そうです、ただの風邪ですから。ただ、あの通りバカなもんで一度熱出すと下がらなくて。まだ当分休むかも知れませんけど、どうぞご心配無く。留年決定で結構ですから」
 
──……そう、このまま居なくなってくれればどんなに良いか。

 レイは受話器を置き、ダイニングの父に向かって声を上げた。
「パパ、取り敢えず御飯にしよ、コーヒー煎れるね、いつものインスタントだけど」
 ああ、と気の無い返事が返った。だが、彼はどれだけ気掛かりな事があっても表面上は決して面倒そうな態度は取らない。
──……反抗期か。余程疎まれているらしいな、私は。昔から、不意に何日も居なくなる子だった。……珍しい事じゃ無い、多分、友達の家にでも泊まっているんだろう。冨樫君と一緒に居るのを見たと云う話も聞くし、……大丈夫だろう。……そうであれば良いが。
 レイはインスタントコーヒーを煎れ、湯を湧かしながら笑みが溢れるのを禁じ得なかった。 
──何があったか知らないけど、もし、本当にこのまま磔也が戻らなければ。
 父の帰還で大分浮かれているレイは、単純に目先の希望だけで他に注意を払えなかった。

「……そうだ、パパ、今度のコンサートね、香坂さんに招待するって云ってるの。この間逢ったんだっけ? 音響チェックで、アルバイトでヴァイオリン弾いてたでしょう? 凄く良いヴァイオリニストだと思わない? 今度、クロイツェルあたり二人で弾いて欲しいなー。……うん、だから招待券が出たら貰って置いてね。……あ、シュラインさんとか、御影君に葛城君も呼ぶかなあ。そうだ、ウィンさんもだ。ねえねえ、気付いてた? 金髪の凄くキレイなドイツ人の女の人が居たでしょう、彼女、あの声楽のルクセンブルク女史の姪なのよ。吃驚? ……でしょう? いっそ20枚くらい、纏めて貰って来て。……うん、お願いね──」
 朝食の後片付けをしながら、レイは背後の父に向かっていつまでも話し掛け続けた。

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【0086 / シュライン・エマ / 女 / 26 / 翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員】
【0931 / 田沼・亮一 / 男 / 24 / 探偵所所長】
【1532 / 香坂・蓮 / 男 / 24 / ヴァイオリニスト(兼、便利屋)】
【1588 / ウィン・ルクセンブルク / 女 / 25 / 万年大学生】
【1831 / 御影・涼 / 男 / 19 / 大学生兼探偵助手?】
【1883 / セレスティ・カーニンガム / 男 / 725 / 財閥総帥・占い師・水霊使い】
【1990 / 天音神・孝 / 男 / 367 / フリーの運び屋・フリーター・異世界監視員】
【1985 / 葛城・樹 / 男 / 18 / 音大予備校生】
【2124 / 緋磨・翔 / 女 / 24 / 探偵所所長】
【2194 / 硝月・倉菜 / 女 / 17 / 女子高生兼楽器職人】

NPC
【結城・レイ / 女 / 21 / 自称メッセンジャー】
【結城・磔也 / 男 / 17 / 不良学生】
【結城・忍 / 男 / 42 / ピアニスト・コンセルヴァトワール教師】
【水谷・和馬 / 男 / 27 / 巣鴨ユーフォニアホール人事担当者】
【冨樫・一比 / 男 / 34 / オーケストラ団員・トロンボーニスト】
【里井・薫 / 男 / 24 / 歌手】
【陵・修一 / 男 / 28 / 某財閥秘書兼居候】
【シェップ / 男 / 31 / IO2エージェント】
【ディテクター / 男 / 30 / IO2エージェント】

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■         ライター通信          ■
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皆様、今回も音楽都市への御参加を頂き、ありがとうございました。
前回は私としても反省点が多く、今回はそれを払拭しようとしたのですが、裏目に出て最後になって辻褄が合わなくなったり、また予定外の仕事が入ったりとして、このように大変お待たせする事となってしまいました。この場を借りてお詫び致します。

一部、戦闘メインのシナリオを期待された方も居らっしゃったと思いますが、全体的にプレイングを統合した結果、ほぼ無し、と云う流れになってしまいました。
本シリーズはあと2話、続きますがどうも戦闘レベルは今作程度に留まりそうです。

次回の受注は12月7日日曜日、午後8時からを予定しています。
危惧していた通り、どんどん話がマニアックな方へ流れていますが良ろしければ遊んで下さい。
また、次回シナリオではある点を多数決で決める形を取ります。里井に関しては、次回のプレイングで予想投票して頂く形になります。

最後に、改めて今回の御参加へのお礼とお詫び申し上げます。
最近、突発的な用事が入る事が多く、構想や実際の執筆に掛けられる時間が減ってきました。今後はシナリオノベル、シチュエーションノベル等全て納品期間に日数を追加、実際の納品もギリギリになる事が多くなると思います。いつもお世話になっている方々には申し訳ありませんが、どうぞ御了承の上、気が向かれた時にはお相手下さいませ。

■ シュライン・エマ様

幻想交響曲(とその後日談)からまたお世話になっています。
今回も御参加、有り難うございました。
推理がお得意なようです。情報をどう公開して良いか分からなくて、ほぼライターの中だけの設定に終わるだろうと思っていた部分まで読み取って頂いて驚きました。
また、今回のシナリオ舞台はシュライン様の能力の独壇場です。特殊能力カードから引用させて頂きました。

また、某IO2エージェントに関してはシュライン様が居らっしゃるのでどうしようかと思ったのですが、正体は知らない、と云う事に致しました。
この件に関して御意見があればどうぞお聞かせ下さい。

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