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■駅前マンションの怪〜異界編■

日向葵
【1358】【鬼柳・要】【高校生】
 マンションのある場所を通りがかった時だった。
 貴方は、おかしな気配を感じて足を止めた。
 ぱっと見には、なにも妙なところはない。
 だが確かに、それは存在していた。
 この世界とは違う場所への接点。
 それがどこに通じているのかは知らないが・・・・・。だが、このまま放っておけるようなものでもない。
 自分のようにこの存在に気付いて避けたり、もしくは自分から入って行くのならともかく。
 誰かがまったく気づかないままに入りこんでしまったりしたら大変だ。
 歪みを封印しようとして――。
 あるいは、どうすれば歪みを消せるのかわらなくて――。
 あるいは、結局誰が巻き込まれようと自分には関係ないのだからと歩き去ろうとして――。

 その時。

 突然に歪みが増大した。
 視界が光に包まれる。
 そして、
 光が途絶え視界が戻ってきた時。

 貴方が居たのは――

駅前マンションの怪〜異界編・氷の世界

 鬼柳要は、突然に変貌してしまった風景を眺め、目をぱちくりさせた。
 下校途中。通り道にあるマンションの方でなにか光ったなあと思った次の瞬間。
 世界は一変していたのだ。
 アスファルトの地面はもちろん、木々や家々にいたるまでが氷に覆われ、日本とは思えないほどの空気の冷たさ。吹きすさぶ風は冷たいを通り越して痛い。
「・・・・どうなってんだ、これは」
 呟いてみたところで何が変わるわけではナシ。
 これは少々不利かもしれない。
 要はそんなふうに考えつつ、とりあえず原因があったと思われる目の前の建物――マンションの入口を探してぐるりとその周囲の道を回った。要が歩いていたのはちょうどマンションの裏手に当たる場所だったのだ。
 要は炎を操る能力者である。氷を溶かすには確かに炎は有効かもしれないが、これだけの量だ。あまり期待はできない。
 それにもし氷が悪意をもって襲ってきた場合――なんの前触れもなく広範囲に突如出現した氷だ、そういう状況も想定しておいた方がいいだろう――火は水で消えるものなのだ。氷を溶かしてもその水で火が消されてしまう可能性も高い。
「あそこで光った何かが原因なんだよな、多分」
 前後の状況を考えてみて、可能性としてはそれが一番高いだろう。
 背の高いそのマンションは、二十階建てであるらしい。入ってすぐのところの郵便受けをざっと確認して、要はさらにその奥へと歩を進めた。
 外にはまったく人の気配はなかったのだが・・・――何故か、この世界には人の気配がまったくなかった。
 さっき通っていた道は、それなりに人通りもあり、光が放たれた瞬間にも要の周囲には歩行者がいたはずなのに。
 となると、ここはさっきまで居た場所ではないのだろうか・・・?
 一瞬で見渡す限りの光景を氷の世界に変える能力者というのも考え難いが、さらにそこにいた人間を一瞬にして消し去る能力者なんてもっと考え難い。
 そうやって考えていくと、残る可能性としてはあの光が要を別の世界に飛ばしてしまったということだろうか?
 あの光がいったいどういう基準で要をこの世界へ飛ばしたのかは知らないが、なかなかに迷惑な話である。
「・・・ん?」
 一箇所。
 明かりも人の気配もないマンションの中で、〇一一号室と書かれた部屋だけ、明かりが灯っていた。
 普通に考えるなら、怪しい。
 こんな場所で、人っ子一人居ない場所で。
 だが考え方を変えれば、要と同じ状況に陥った人間だということも考えられる。
「ま、なんとかなるだろ」
 襲われたってある程度自分の身を守る自信はある。それよりなにより、好奇心が勝ったし。

 ピンポーン

 チャイムを鳴らすと、ガチャリと扉が開き、中から顔を出したのは一人の老人だった。
「いらっしゃい。外は寒いだろう? 良かったら暖まっていきなさい」
「は? えーと・・・・いいのか?」
 いきなりの言葉に驚いて、要は少々戸惑った様子を見せた。だが素直に老人の申し出を受けた。
「貴方も今回の異世界騒動に巻き込まれたんですね? 私は冠城琉人と言います」
 部屋の真中のコタツの一角を陣取っていた青年が、にっこり笑って名を告げた。
「俺は鬼柳要だ。・・・冷静になるのが悪い事だとは言わないが、落ちつきすぎじゃないか?」
 そう言いつつも、要はあっさりとコタツの一角に腰を下ろした。
「そうですか?」
「・・・もしかして、何がどうしてこんなことになったのか知っているのか?」
 あまりにも落ち着き払った琉人に、要はそんな疑問を抱いた。
 だが最近入居してきたばかりの琉人はもちろん、原因など知るわけがない。
「こんな時はじっとして待つのが一番ですよ」
 にっこり笑って、お茶菓子の羊羹に手を伸ばす。
 要の視線が老人の方へと向いた。
「まあ、よくある事だ」
「よくある事?」
 要が問いかえすと、老人は楽しそうに笑った。
 そして、このマンションは昔っから――マンションが建つ以前から、こういう土地柄だったのだと、告げた。
「もしかしたらここに惹かれてくる妖怪は、実はこの気配に惹かれてきているのかもしれないなあ」
「この気配?」
 オウム返しに問う要に、老人はさらに言葉を続ける。
「ここは空間が微妙に歪んでいてな・・・扉が薄いんだよ。異なる世界との扉がな。それでも、普段はぴったりと閉じてるから気付く者は少ない。気付いた者は気付いた者で、自主的にいろいろやってくれてるようだが、そういった扉――歪みと呼ぶ者もいるが――は、気紛れに現われては開くものだから、いつどこに開くかという予測は難しいんだよ」
「・・・些細なきっかけで他の世界への扉が開いてしまうということか」
「まあ、そういうことだ」
 老人は、呑気にお茶をすすりつつ、頷いた。
 二人のやりとりを、表面上は変わらぬのほほんとした様子で――だがその裏では至極真剣に、琉人も耳を傾けた。
「帰る方法はないのか?」
「方法は簡単だ。扉を探すか、世界の中心を探すか、世界が消えるまで待つか――どれを実行するにしてもそう難しくはない。まあ、私は面倒だから世界が消えるのを待っているがな。どうせ、大概他にも巻き込まれているんだ、そのうちの誰かがなんとかするだろうて。ついさっき・・・冠城さんが来る少し前にも何人かの娘さんが、脱出方法を探しに行ったしな」
「結構、巻きこまれた人間は多いみたいだな」
「そうでもありませんよ」
 自分への確認のように呟いた要の言葉に、琉人は何でもない事のようにさらりと返した。
「私たちを入れても全部で十一人です。・・・さて、出掛けましょうか」
「どこに?」
「この世界からの出口――歪みに、です」


 逸早く屋上にやってきた真柴尚道。中心を探すべく見晴らしの良い場所へやってきた綾和泉汐耶と海原みなも。歪みを探して屋上に辿り着いた冠城琉人と鬼柳要。
 五人はお互いに顔を見合わせて、苦笑した。
「タイミングが良いというか悪いというか」
「おや、真柴さんも巻き込まれていたんですね」
「他にも巻き込まれた方がいるとは聞きましたけれど、ここで会えるとは思っていませんでした」
「とりあえず・・・皆は外の様子を見る目的で来たのかしら?」
 尚道が苦笑し、琉人は何故か落ちついた様子で告げ、みなもは少しばかり驚いた様子を見せた。
 そして最後に発言したのは汐耶。その問いに二人がこくりと頷いた。
「俺と冠城は、出口がこっちの方にあるっつーから様子を見に来たんだ」
 頷かなかった二人――要と冠城のうち、要が答える。
「どうやらな、あっちの方に中心があるらしいんだ」
 尚道が指差した方角に、全員が視線を集中した。
 確かに、刻々と分厚くなっていく氷は尚道が指差した方から広がってきているようだった。
「つまりあちらの方にこの世界を創り出した意思があるわけですね」
「そういうことだ。どうする?」
 みなもの言葉に頷いた尚道が、一行を見まわして、問いかけた。
「どうする・・・って?」
 汐耶の問いに、尚道よりも先に琉人が答えた。
「この世界を消すか、それともここにある道を通って帰るか・・・ということですね?」
 尚道がこくりと頷いた。
「あのじいさんの話からすれば、どっちの方法でも帰れるみたいだしな」
「そうねえ・・・道は向こうに戻ってから封印すれば問題ないでしょうし」
 要の呟きに続いて、汐耶が考えこむ仕草を見せた。
 ・・・少なくとも、中心はここからでは見えない。
 ビルや家に邪魔されて、詳しい場所までは見えないのだ。
「ここに出口があるならば、ここからすぐに帰れるということですよね」
 みなもの問いに、尚道がその歪みの方を指差した。それは屋上に上がる扉の真上。
「せっかく出口があるのなら、活用しない手はないと思いますよ、私は」
 にこにこと穏やかに、琉人が述べた。
 実を言えば琉人は、すでに中心部に向かっている五人の人間の様子を把握していた。今から向かっても辿り着く前に片がつくだろうと判断しての意見だった。
「まあ、俺もそれはちょっと思ったけどさあ。その原因となってるヤツが・・・好きで氷の世界にしたわけじゃなかったら?」
「何か困っているなら、助けてあげたいですよね」
 要の意見に、みなもが同意して頷いた。
「そうねえ・・・道が一つだけじゃない可能性も考えないといけないし」
 なにせここにいる全員、全く違う場所にいたのだ。
 同じ光を見たという共通点はあるものの、その光がどういう基準で、どういう条件で彼らをこの世界に飛ばしたのかはまったくわからない。
 つまり、この世界自体をどうにかしなければ、また同じようなことが起こる可能性もあるのだ。
 だがそれらの中心にも行ってみよう意見は、琉人の一言のもとに却下された。
「でも、もう間に合わないと思いますよ」
「は?」
 思わず声に出した尚道だけではない。琉人以外の全員が、琉人の言葉の意味を掴みかねて不思議そうな顔をした。
 琉人は、にっこりと笑顔のままで、
「迷い込んだ人は全部で十一人。大家さんを除いて、ここにいないあと五人が、どこに向かっていると思いますか?」
 そう、告げた直後。

 世界が、光を放つ。

「世界の中心が壊された・・・?」
 光が途絶え、視界が戻ってきた時、異世界に迷い込んだという十一人全員が、九階から十階に向かう階段の踊り場に立っていた。
 どうやら道の大元はここであったらしい。
 狭い階段の踊り場にに十一人。なかなか見られない光景である。
 突然の移動に、一行はしばし茫然としていた。
 が、特に気にするふうでもなく飄々と動き出した人物が一人。
「さて、それじゃ私は部屋に戻るとするか。美味しいお茶をありがとうな、冠城さん」
 大家の老人の言葉をきっかけに、十人ははっと我に返る。
 ふと空を見上げれば、今年最初の初雪が、チラホラと空から落ちてきていた。


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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整理番号|PC名|性別|年齢|職業

2158|真柴尚道    |男|21|フリーター(壊し屋…もとい…元破壊神)
0086|シュライン・エマ|女|26|翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員
0328|天薙撫子    |女|18|大学生(巫女)
2209|冠城琉人    |男|84|神父(悪魔狩り)
2181|鹿沼・デルフェス|女|163|アンティークショップの店員
1252|海原みなも   |女|13|中学生
0389|真名神慶悟   |男|20|陰陽師
1449|綾和泉汐耶   |女|23|都立図書館司書
2053|氷女杜冬華   |女|24|フルーツパーラー店主
1358|鬼柳要     |男|17|高校生

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■         ライター通信          ■
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 こんにちわ、日向 葵です。
 異界に吹っ飛ばされてしまった皆様・・・・お疲れ様でした。

 お初にお目にかかります。
 氷に火という面白そうな相性にも関わらず・・・・・すみません、能力使う機会はありませんでした(汗)
 状況のわりにのほほんとしたストーリーになることが多いもので・・・(^^;
 今度はなにか能力ばしばし使えるようなシナリオ作ってみたいと思います。
 
 それでは、今回はご参加どうもありがとうございました。
 またお会いする機会がありましたら、どうぞよろしくお願いします。