■【庭園の猫】抜け出した思い出■
秋月 奏 |
【1990】【天音神・孝】【フリーの運び屋・フリーター・異世界監視員】 |
ちりん……と。
庭園の中で、鳴る風鈴の音一つ。
「……また、抜け出してしまったの……?」
少女は誰に言う事もなくぽつりと呟いた。
黒髪が風になびく。
「見つけなくてはいけないのね……猫を。風鈴が、壊れる前に」
りん……。
少女の言葉に答えるように強く、強く、鈴の音が響いた。
庭園から抜け出した猫を探すべく。
特徴は少女の色彩と同じ。
闇夜のような黒い毛に、悪戯を好むような銀月の瞳の色。
出来うるだけ、早く。
思い出という名の記憶が猫から溢れ出してしまわぬうちに。
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予定参加人数:1人から3人(個別文章になる可能性、アリ)
ライターより:探すのは、猫です。が、猫が庭園から逃げると
風鈴売りの少女は、かなり困ってしまいます。
この庭園の中で保存されている数々の思い出を猫が持っているからですが……。
探す場所は、街の中にある施設なら何処でも可です。
尚、何か懐かしいと思うもの、についてプレイング内に書いてくださると(^^)
それでは、ご参加お待ちしております。
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【庭園の猫】抜け出した思い出
さわさわ……と。
庭園の中に何かを告げるような風が吹いた。
少女は、その吹く風に少しばかり怪訝そうな顔をする。
――誰かが、此処へ来る。
誰なのだろう、猫が戻ってきたのだろうか。
それとも――?
風鈴は、りんとした涼やかな音を立てるばかり。
◇◆◇
(………暇だ………)
ぼんやりと辺りを見渡しながら歩いているのは天音神・考。
無精髭に触れながら、やっぱ見たことないところだよなあ……と思う。
ありとあらゆる花々に樹木が並ぶ道々、何処からか風鈴の音だろうか涼やかな音が何処かから聞こえてくる。
……この冬の寒い時期に風鈴…?とも思うのだが、この風鈴の音は悪くはない。
(しかし一体此処は何処なんだ? 暇だ暇だと思って歩いてたら風景変わるってのはアリなのかっ?)
そうこうしていると、考は四阿に一人の少女を考は見つけた。
和服を着た黒髪の少女は何処か、この庭園風景にそぐわなかったが取りあえず、此処は何処だろうと聞くことにしてみよう…全ては其処からだ…多分。
「…あの、すいませんがね」
考は少女へと話し掛ける。
艶やかな黒髪が揺れ、振り向く少女の表情が見えた。
「はい? ああ……風が教えてくれた来訪者の方ですね、いらっしゃいませ」
「風? ……俺が来ることが解ってたって事か?」
少女はその言葉に対して首を振る。
そう言う意味ではない、と伝えるように。
「いいえ、そうではなく。誰かが来ると教えてくれるだけです……」
言葉を言い切ると瞳を伏せる。
何処か疲れてるような表情に考は瞳を瞬かせた。
何かあって言えない、その感情が垣間見えた気がしたのだ。
「へぇ……便利だな。で?」
「で?とおっしゃいますと?」
「何か困ったことは無いかい? お困りのことがあるなら出来る限りで相談に乗るぜ? 女の子が困ってるんだし、な」
「まあ……有難うございます。ですが頼んで大丈夫でしょうか」
「ま、そいつも聞かなきゃ解らないな」
「では……あのですね…猫が、此処から逃げてしまったんです…風鈴を持って」
「へぇ…その猫の特徴は?」
「黒猫ですわ。瞳の色は私と同じ銀色です……いつもいつも忘れた頃に逃げ出す本当に困った猫で……」
「そいつは大変だなあ……風鈴の色やら形状は?」
「――解らないんです」
「は?」
解らない筈は無いだろうと考は思う。
風鈴を持って抜け出したと言うのであるのならば、どういう風鈴かは解りきっている筈。
なのに、未だに少女は首を振るばかり。
「どの風鈴なのかは解らないんです。猫は、その時に一番綺麗だと思ったものを持っていく癖がありますから」
「なるほど……しかし、その口調からすると随分色々な風鈴が此処にはあるようだな?」
「そうですね、沢山ございます。売り物であり、また私にとって大事なものでもありますから」
「ふむ……おし、解った! いっちょ探してやるよ。猫だし多分そんな遠くに行ってないと思うしな」
にっと考は微笑むと少女の肩を軽くたたいた。
それは言外に、心配するなと言っているようでもあり、漸く少女はほっとした表情を見せた。
◇◆◇
さて。
腕を組み唸りながら、考は一人黙々と歩いた。
庭園から出ること暫し、任せろ!と少女に言ったのはいいが――どうしたもんだろうか。
(ビラをあらゆるところに貼って『家のタマ知りませんか?』は長期戦すぎるしなあ……)
いや、猫と言うんだし……いっそのこと!
押しても駄目なら引いてみろ、エサで釣ってみっか大作戦でもやってみるべきだろうか……。
(まぐろ缶とかツナ缶とか買っておくかな……使わないなら俺の夕飯にしてもいいし)
それはちょいと寂しい夕飯じゃないか?!と言う外部のツッコミは入らないままに、不揃いにのびた髪をかきかきと掻きながら考は、歩く方向を定めると早足で商店街へと向かっていった。
目指すは猫が好きそうな缶詰の購入――と、そして。
多分にそこらをうろうろしているであろう、困ったちゃんな猫の捕獲である。
◇◆◇
とん……とん……。
――階段を軽く駆け下りてゆく音が響いた。
猫はくるりとその階段の上、高い高い場所にある踊り場を見つめ瞳を三日月の如く細めた。
まだ、誰かが来る気配は――無い。
少女は現実の世界の狭間狭間にしか来る事は出来ないのを知っていて猫は駆ける。
誰が――追いかけてくるのだろう、この風鈴の持ち主か。
それとも―全く違う『誰か』か。
(……私をどういう風に思われているのかが、問題だけどね)
単なる猫と思われているだろうか。
彼の人物の言葉で猫じゃないだろう、それは……と思われているのか。
どちらにせよ。
とん、とん――と。
猫は階段を巡る。
螺旋の果てを辿るように、何かをひたすら、探すように。
◇◆◇
商店街。
すっかり、陽が暮れるのが早くなった冬の街並みは何処か寂しいものを考に与えた。
冬の風景は潔い。
全ての樹木の葉は落ち、春へと備えるべく寒々しさを見せ、風は冷たさを増し吐く息は白い。
着ている上着のポケットに手を突っ込んで歩きたいのをぐっと堪え、先ほど購入した缶詰と携帯用缶きりを持ち歩きながら自分より下の目線で考は猫を探す。
ちりん。
飲食店が立ち並ぶ通りの奥へと入ると何処かで鈴の鳴る音がした。
考は怪しまれないよう辺りをきょろきょろと窺う。
――辺りは人の声が響くばかりで猫一匹としていない。
(……何処で鳴ってるんだ?)
――ちりん……。
音は近い。
何処で、と言うレベルではない。近くで鳴っている筈なのに。
(何処で……?)
すると。
奇妙な事に忘れていた筈の思い出が頭の中に鮮明に蘇って来た。
昔、一緒に旅をし仕事をしてきた仲間達。
元の人間だった頃の親友。
良い事ばかりではなかったけれどもそれは未だに眩い記憶であり笑顔ばかりが今はただ遠い、昔の事。
皆が、考の周りに笑顔を残し次々と消え――または考が違う世界へ行ってしまったからこそのそんなギャップがあるのかもしれない、けれど。
随分と遠くにあった思い出だ……、と思う。
そして――。
――今になってただ、懐かしいとさえ……思うのだ。
全ては過ぎ去り、此処にあるものが考に残る全てではあるけれど。
後は…そう、妹だ。
幼い頃に両親が亡くなってしまって以来、ずっと手を取り歩いてきた、たった一人の。
……今は、理由があって逢うと苦手で逃げ惑ってしまいたい程の存在だが。
けれど、そうやって手を取り合って生きてきた記憶も確かに…あったんだよなって思う。
良く妹を持つ人達が言うじゃないか。
『昔の妹は可愛かった』のにって、さ。
…何て言うか、今はそんな気分になる。
でも……。
(――でも?)
…いつでも、きっと変わることなく妹で兄だから。
(――幸福を祈っちまうんだろうな……ま、兄ってのはそんなもんだ)
「……なるほど、ね」
不意に言葉が考へとかかる。
きょろきょろと辺りを窺いつつぼんやりとしていた時間は如何程のものだったか知れないが――。
考の目の前には。
――銀の瞳も鮮やかな黒い黒い漆黒の毛並みを持つ猫が行儀良く立っていた。
◇◆◇
「……探す手間、省けたなオイ」
喋れる猫に驚くことの無いまま、考は呟いた。
何と言っても庭園に風鈴売りだ。
その猫が言葉を喋っても何の問題もないような気がするのが不思議なものだが。
が、猫は呟きを聞くと「にゃあ」とも鳴かずに再び言葉を喋りだした。
「と、言うかくるくると渡り歩いてたら缶詰持って歩いてる御仁が居たからついてきてたんだけどね」
「ほう…つまり、俺のエサでおびき寄せろ大作戦が成功したと?」
「……や、そうじゃなくって」
「あん?」
「猫のエサじゃなくて普通の缶詰ってのが興味深くってね」
「……良く解らんぞ」
考は首を傾げつつ、猫へと腕を伸ばす。
すると、猫も慣れているのか腕の中へとすっぽり、もぐりこんで来た。
触り心地のよい毛並みに考は瞳を細め、撫でた。
「解らなくても良いんだよ……それに、いいもの見させていただいたからね」
「――いいもの?」
そう、と猫は呟く。
ちりん……。
風鈴の音が宙で、鳴った。
その風鈴は深い緑に白い花の紋様が幾重にも描かれている見事なもので、考はおや?と思った。
少女の言葉が脳裏へと響く。
『猫は自分で綺麗だと思うものを持って出て行くんです』
そう、確か少女は言っていた筈……。
「…おい、まさか…これ!」
「そう、あの庭園での少女が護る一つのもの――そして、君の思い出でもある。風鈴の持ち主が探しに来てくれる、とは思っていなかったよ?」
「…ったぁ……俺もこんなところでああいうことを思い出せるなんて変だとは思ってたけど……」
「中々、良い思い出を見させてもらえて嬉しいよ」
「そうか? ま、んじゃ話は此処までにして…帰るか。探してくれと言ったお嬢さんが待ってるはずだからな」
「ああ、見つかったなら帰るのが基本だしね」
「…猫の台詞とは思えないな、ホント」
りん……。
風鈴が宙に浮いたまま消えゆくような音を奏で――やがて、溶けるようにして、消えた。
◇◆◇
庭園、四阿。
灯りが灯され庭園の中の花々も、また柔らかな照明に照らされていた。
その中でお茶を飲んでいるのは少女と、考と――そして、猫。
……いいや、猫に化けていた青年と言うべきか。
「……騙された!」
「何がだい?」
「何がですか?」
少女と猫は、ぶつぶつ「騙された」と言う考へと問い返す。
考は憮然とした表情で答えた。
「猫だよ…青年だなんてさあ…撫でた俺の時間を返してくれ……」
何となく可愛いなあと思ってたのだ―本当に猫だと思っていたし。
なのに、それがそれが!
目の前に居る長身の青年だとはっ。
「おやおや、随分聞き捨てならないねえ」
「…すいません、説明が足らなくって……」
だが、その怒りもこの二人には毎度の事なのだろうか、それぞれの言葉で考へと再び返す二人。
もうそれ以上、考は何も言えなくなってしまい黙り込む。
が、そう言えば――と、ふと思う。
(こいつらの思い出って何があるんだ?)
こうして、過ごすことしかできないような二人なのに。
「あのさ」
「ん?」
「はい?」
「笑われることを承知で聞くけど…二人の思い出って何だ?」
きょとんとして、瞳を合わせる二人。
が――、彼らはやはり考の予想通りに微笑を浮かべるばかりで。
その答えは、とうとう返ってくることは無かった。
―End―
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■ 登場人物 ■
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【1990 / 天音神・考 / 男 / 367 /
フリーの運び屋・フリーター・異世界監視員】
【NPC / 猫 / 男 / 999 / 庭園の猫】
【NPC / 風鈴売りの少女 / 女 / 16 / 風鈴(思い出)売り】
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■ 庭 園 通 信 ■
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初めまして、こんにちは。ライターの秋月です。
今回はこちらのシナリオにご参加くださり誠に有難うございます!
天音神さんは初めてのご参加ですね。
今回は本当にどうもありがとうございました(^^)
さて、今回は個別と言う事で天音神さんのは、こう言う風に
なりましたが……如何でしたでしょうか?
実は少女も猫も、奇妙な人たちでしたが、このちょっとした出会いが
天音神さんに悪いものでなければ良いのですが……。
宜しければテラコン等からのご意見などお待ちしております。
では、また何処かにて逢えますことを祈りつつ……。
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