■駅前マンション〜それぞれの日常■
日向葵 |
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【1847】【雨柳・凪砂】【好事家（自称）】 |
二十階建て各階五戸、屋上完備の４ＬＤＫ。しかも新築で駅から徒歩五分程度。それなのに家賃はばかに安い。
今は現役を引退した老退魔師が大家と管理人を兼ねるこのマンションは、異様なまでに怪奇現象が多い。
土地柄のせいもあるのだが、人間世界に慣れない妖怪や人外の存在を次々と受け入れているためである。
しかしそれだけに、このマンションは騒ぎも多い。
謎の怪奇現象や人間世界の常識を知らない住民が起こす事件や、かつては凄腕の退魔師だった大家を頼ってくる人外などなど。
けれどまあ。
いつも大騒ぎというわけでもなく。
平和な毎日と、時折起こる事件と。
そんな感じに、駅前マンションの日常は過ぎて行くのだ。
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◆ライターより◆
・駅前マンションを舞台としたフリーシナリオ。完全個別ということで＋５００円しております。
別ＰＣと一緒に描写してほしい場合は同時期に発注のうえ、プレイングにその旨明記をお願いします。
・怪奇事件との遭遇や日常生活風景的などなど。貴方の日常生活を好きに発注してくださいませ。今までの駅前マンションシナリオや日向 葵が担当したシナリオに関わるシチュエーションもＯＫ。
・日向葵の他ＮＰＣ、公式ＮＰＣなども登場可能。
下記以外のＮＰＣに関しては、東京怪談個別部屋を参照願います。
http://omc.terranetz.jp/creators_room/room_view.cgi?ROOMID=397
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駅前マンションの怪
●取材に行こう
雨柳凪砂がそれを聞いたのは、ほんの偶然からだった。
草間興信所に出入りしているマンションの住人が、他愛のない話の一つとして今マンションで起こっている怪事を教えてくれたのだ。
それは真夜中。草木も眠る丑三つ時に。
マンションの廊下で、鈴の音が鳴り響くと言うのだ。だが様子を見に行ってみると、そこには誰もいないらしい。
「記事のネタになるかしら」
まあそれでなくとも小説のネタにはなるだろう。
話を聞いた凪砂は手早く準備を整えて、さっそくそのマンションへと足を運んだ。
二十階建ての新築マンションは外観もなかなかに綺麗で、パッと見はそんな怪事とは無縁にも思えるような雰囲気をもっていた。
大家さんへの手土産を持ち。
凪砂はさっそく管理人室へと向かった。
チャイムを鳴らすと、扉はすぐに開かれた。
「おや、見ない顔だね。入居希望かい？」
「いえ。あたし、ここを取材させてもらいたくて来たんです」
「取材？ そんな面白い物なんてあったかな」
にこにこと柔和な笑みで、老人は凪砂を中に招き入れてくれた。
室内には日本の冬の名物コタツとみかん。ＴＶが映し出すのは時代劇。
招かれてコタツに腰を下ろした凪砂は、もって来たお土産を出し。
「真夜中に鳴り響く鈴の音の話を聞いてきたんです」
すると老人は納得したかのように頷いた。
「ああ、あれか。そんなに珍しいものでもないだろうに」
「そ、そうですか･･････？」
普通、こういった怪事はどちらかと言えば『珍しい物』の範疇に入ると思うのだが･･････。
感覚の違いと慣れの差というところだろうか。･････あんまり慣れたくないけど。
「まあ、別に取材をするのは構わんよ。ついでに解決してくれるともっと嬉しい」
「え？ あ、はい。一応そのつもりです」
ズズッと、お茶を飲みながら。のんびりまったりさらりと言われて、凪砂は思わず解答が遅れた。
だが老人はそんな凪砂を気にするふうでもなく、お茶請けのお煎餅をすすめてくれる。
凪砂としては最初から解決を目指すつもりだったから、頼まれてもそう大きな問題ではないけれど。
これ、人によってはただ働きさせるって言うんじゃないかしら･･････。
思わず浮かんだ思考はとりあえず頭の隅に押しやっておいて。
「どうもありがとうございました。それじゃ、あたし、そろそろお暇します」
「おお。良かったらまたおいで」
にこにこと呑気な老人の声に送られ、凪砂は管理人室をあとにした。
●聞き込みＧＯ！
マンションの住人たちが一番集まる場所と言えば、一階にあるコミュニティスペースである。自販機と椅子とテーブルが置いてあるだけの場所だが、家に帰る前にちょっと寄ったりだとか、逆にちょっと早く家を出たから寄って行こうだなんて住人が結構いる。
だが今日に限ってはタイミングが悪かったのか、現在この場所にいるマンションの住民はたったの二人。
悠桐竜磨と、冠城琉人である。だがしかし、マンション外の者が他に三人――シュライン・エマ、雨柳凪砂、天薙撫子――が、顔をつき合わせていた。
「それでは、皆さん鈴の音の正体をつきとめるために？」
おっとりと尋ねたのは、記事のネタを探してやってきた凪砂である。
「そうですねえ。私としては、自分の健康にも関わりますし」
真夜中に起こされてしまった被害者の一人でもある琉人は、持ちこんできたお茶を飲みつつ言葉の内容と不釣合いに呑気な口調で答えた。
「それでは、冠城様も鈴の音を聞いたのですか？」
「ええ」
「マンションの住人ならみんな多少なりと聞いてると思うな。音源を間近で見たやつは少ないだろうけど」
頷く琉人に続いて、竜磨が付け足した。
「それじゃあ、悠桐くんはその音源を見たのかしら？」
シュラインの指摘に、竜磨はコクリと頷いた。
「俺は仕事柄夜明けとか真夜中に帰ってくるからな。ちょうど遭遇したんだ」
そして竜磨は昨夜遭遇したばかりのその出来事を話して聞かせる。
マンションの上の階から下に降りてきて、そしてコミュニティスペースの奥の方へと消えてしまったのだ。鈴の音は間近にあるにも関わらず、その音を鳴らす姿はなし。
「幽霊の類いだとは思うのですが、おそらく人間ではないでしょう。どうも上から降りてきてるみたいですね」
竜磨に同意して、琉人も自分が聞いた音について説明した。
「それじゃあ、屋上で張るのが良いかしら」
「ですが、上と言っても屋上とは限らないのではないでしょうか？」
シュラインの案に、撫子が思案顔で答えた。
琉人が住むのは十九階。そこより上は二十階と屋上のみだが、確かに絶対に屋上とは言いきれないのも間違いではない。
「それなら、二十階の廊下で張るのはどうでしょう？ 屋上に続く階段も見れますし」
凪砂の言葉でとりあえずの行動方針が決まった五人は、鈴の音が現れるという真夜中にまた集合という話に落ちつき、一旦解散したのであった。
●鈴の音の響く場所
そして来る真夜中。
二十階の廊下にはシュライン、凪砂、撫子、竜磨の四人――なぜか琉人は来ていない――が集っていた。
「冠城さんはいらっしゃらないんでしょうか‥‥」
ついつい下への階段に目を凝らす凪砂とは対象的に、撫子は落ち着き払って穏やかな笑みを浮かべた。
「大丈夫ですよ。イザとなればすぐにいらっしゃいますから」
「まあ、すぐ下の階だしね」
シュラインの同意に、竜磨が苦笑した。
実を言えば、竜磨と撫子は琉人が来ない理由をなんとなくわかっていた。撫子は霊を視る力で。竜磨は人並み外れた鋭敏な感覚で。
さっきからこの周囲を飛び周る幽霊たち。だがしかし、その幽霊たちは何かを必死に探している様子。統率のとれた彼らを見れば、背後に誰かがいることはすぐにわかる。
それが、今はここに来ていない琉人なのだろうと推測するのはそう難しいことではなかった。
その時。幽霊たちが一斉にとある方向へと注意を向けた。屋上への階段――その、先へ。
「あちらのようですね」
撫子の言葉に竜磨が頷く。
「何かわかったの？」
霊能力とは縁のないシュラインの問いに頷いたのは、いつからそこにいたのか、琉人だった。
「やはり屋上から来ているようですよ」
「行きましょう」
しっかりとテープレコーダーとカメラを手にして、凪砂が促した。
●年の瀬に 来年こそはと期待して 鈴の音鳴らし 主張する
リィィ･･･ン
音が、鳴る。
「屋上の真中あたりだな」
「ええ」
鋭敏な聴覚を持つ竜魔と類い稀なる聴音能力を持つシュラインの二人が鈴の音源だと確信した場所は、屋上のど真ん中だった。
「うーん、あたしにはなにも見えないですけど‥‥皆さんは？」
しっかりテープレコーダーをまわして、シャッターチャンスを逃さぬようにカメラを握っている凪砂の問いに、撫子が困ったような顔で答えた。
「いるというか、ええ、いるんですけど‥‥」
「なんと言うか、あれはなんでしょうねえ‥‥」
霊視能力を持つ二人は、困ったように首を傾げた。
撫子と琉人の瞳に映るは白い猫。
赤い首輪に銀の鈴をつけた、碧の瞳の白い猫。
猫から敵意は感じられない。そう判断した撫子は、ゆっくりと、猫に声をかけてみた。
「すみません、良かったら姿を見せていただけませんか？」
撫子と琉人の目には、きょとんと驚いたように見上げる猫の瞳があった。
だがそれだけだ。目が合うと嬉しそうに寄ってきたが、それ以上の行動は起こさなかった。
「言葉が通じないんでしょうか」
こんな騒ぎを起こしている猫だから、もしかしたら言葉も通じるかもしれないとの期待も多少はあったのだが。
「そこに何がいるの？」
「白い猫です」
シュラインの問いに、撫子が答える。
そのやりとりを聞いて、竜磨が一歩前に進み出る。
「だったら俺がやってみるよ。えーと‥･･」
「あ、そこですよ。天薙さんの足元です」
姿の見えない相手に戸惑う竜磨に、琉人が猫の居場所を示してくれた。
「あのさ、なんでこんなことしてるのか教えてもらえないか？ それで、出来るなら皆に見えるように姿をあらわしてくれると助かるんだけど」
その言葉に答えるように。
何もなかった闇に、すぅっと白い猫が姿を見せた。
「この子が、鈴の音を？」
凪砂の疑問に答えるように、猫はニャアとうれしげな鳴き声をあげた。
それから猫はじっと竜磨を見つめて、再びニャアと鳴く。
「‥‥は？」
竜磨が、呆れたような声をあげた。
「なんて言ってるの？」
問われて、竜磨は苦笑を漏らした。
「猫年が欲しいんだそうだ」
「‥‥猫年、ですか」
「それで、自分の存在を主張していたのですか？」
凪砂と撫子は半ば茫然とした声でそれぞれに呟く。
「うーん。それにしたって、なんでここに？」
竜磨が猫に伝えて、猫がニャアニャアと鳴いて答えた。
「ここの人はみんな不思議な力を持ってるから、だってさ」
「他力本願ですねえ」
琉人がふうと溜息をつくと、言葉そのものはわからずともニュアンスはしっかり伝わったらしい。猫がむっと不機嫌そうに尻尾を揺らした。
「うーん‥‥猫年はさすがに無理ですけど、代わりに招き猫っていうのはどうでしょう？」
ぽんっと、凪砂が手を打った。苦し紛れに近い提案。
猫年と招き猫では全然違うのではと思ったのも束の間。
ニャアンと思いきり嬉しそうに鳴いて、猫は凪砂に擦り寄った。
「‥‥あんた、目立てればなんでもいいわけ、もしかして‥‥」
思わず呟いたシュラインの声が届いたのか。猫はゴロゴロと喉を鳴らして不敵に笑った。
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■ 登場人物（この物語に登場した人物の一覧） ■
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整理番号｜ＰＣ名｜性別｜年齢｜職業
0328｜天薙撫子 ｜女｜18｜大学生（巫女）
0086｜シュライン・エマ｜女｜26｜翻訳家＆幽霊作家＋草間興信所事務員
2133｜悠桐竜磨 ｜男｜20｜大学生／ホスト
2209｜冠城琉人 ｜男｜84｜神父（悪魔狩り）
1847｜雨柳凪砂 ｜女｜24｜好事家
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■ ライター通信 ■
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こんにちわ、日向 葵です。
今回は依頼へのご参加ありがとうございました。
年越しネタに猫年です（謎）
お久しぶりです。
今回は戦闘などとは程遠いお話だったので力を使う機会はありませんでしたが、テープレコーダーとカメラはしっかり使わせていただきました。
お話中で活躍させられなかったのは残念ですが、しかし。鈴の音も猫の姿もしっかり映っております。
記事か小説のネタに･･･なってれば良いのですが（＾＾；
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