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■闇風草紙 1 〜出会い編〜■

杜野天音
【2236】【大神・総一郎】【能役者】
■出会い編■

 夜のとばりが静かに街を覆う。だが、彼の眠る街は眠らない――東京。人々がそれぞれの思惑と夢を持って行き交う。イルミネーションに照らされた灰色の空の下で、今夜も熱い風が行き場をなくしてさ迷っている。
 ガシャーーン!!
 暗い路地の奥。肩を大きく揺らした男が、空き部屋になったスナック前に立っている。
 その顔には嬉しくて仕方のない、歪んだ表情がこびりついていた。
「ガラスの割れる音はシビレルだろ〜」
「く……僕が何をした」
 素手が窓ガラスにめり込んで、割れた透明な板の間を赤い液体が流れている。
 その狂喜に満ちた背中の向こうに、少年がひとり立っていた。
「お前、衣蒼の人間なんだろ? 家族に心配かけちゃ、いかんよなぁ〜」
「なるほど、家の迎えか……。心配してもらうほど、世話にもなってないさ」
 衣蒼未刀――封魔を生業とする家に生まれた異端児。力をより強くするために、家から出ることを許されず修行ばかりの生活をしていた。
 未だ見えぬ刀と呼ばれる真空剣を操るが、封魔したことは1度だけだった。
「せっかくの力、もったいないじゃないか。いらないなら、オレにくれよ」
「好きで得た力じゃない!! 僕は戦いたくないんだ……」
 男はニヤニヤとした笑みを浮かべ、長く割れたガラスの破片を掴んだ。
 勢いをつけ、未刀の胸目掛けて走り込んでくる。
「ひゃっほ〜。だったら、金に替えさせてもらうだけだぜ!!」

 闇を風が切り裂いた。
 笑みを張りつかせたままの男の体が二つに折れる。なんの支えもなく、ビールビンを薙ぎ倒し、男はその場に崩れた。
「くそ…足が――」
 逃げなくてはいけない。分かっているのに見動きが取れない。這いずるようにして、路地を更に奥へと進む。右のふくらはぎには男の投げたガラスが刺さったままだ。
 街灯とネオンがちらつく場所まで来た時、未刀は意識を失った。

闇風草紙 〜出会い編〜

□オープニング□

 夜のとばりが静かに街を覆う。だが、彼の街は眠らない――東京。
 人々がそれぞれの思惑と夢を持って行き交う。
 イルミネーションに照らされた灰色の空の下で、今夜も熱い風が行き場をなくしてさ迷っている。

 ガシャーーン!!

 暗い路地の奥。肩を大きく揺らした男が、空き部屋になったスナック前に立っている。
 その顔には嬉しくて仕方のない、歪んだ表情がこびりついていた。
「ガラスの割れる音はシビレルだろ〜」
「く……僕が何をした」
 男の素手が窓ガラスにめり込んで、割れた透明な板の間を赤い液体が流れている。
 その狂喜に満ちた背中の向こうに、少年がひとり立っていた。
「お前、衣蒼の人間なんだろ? 家族に心配かけちゃ、いかんよなぁ〜」
「なるほど、家の迎えか……。心配してもらうほど、世話にもなってないさ」
 衣蒼未刀――封魔を生業とする家に生まれた異端児。力をより強くするために、家から出ることを許されず修行ばかりの生活をしていた。
 未だ見えぬ刀と呼ばれる真空剣を操るが、封魔したことは1度だけだった。
「せっかくの力、もったいないじゃないか。いらないなら、オレにくれよ」
「好きで得た力じゃない!! 僕は戦いたくないんだ……」
 男はニヤニヤとした笑みを浮かべ、長く割れたガラスの破片を掴んだ。
 勢いをつけ、未刀の胸目掛けて走り込んでくる。
「ひゃっほ〜。だったら、金に替えさせてもらうだけだぜ!!」

 闇を風が切り裂いた。
 笑みを張りつかせたままの男の体が二つに折れる。なんの支えもなく、ビールビンを薙ぎ倒し、男はその場に崩れた。
「くそ…足が――」
 逃げなくてはいけない。分かっているのに見動きが取れない。這いずるようにして、路地を更に奥へと進む。右のふくらはぎには男の投げたガラスが刺さったままだ。
 街灯とネオンがちらつく場所まで来た時、未刀は意識を失った。


□天命下る ――大神総一郎

 流れに逆らうことの恐ろしさと憂いをよく知っているつもりだ。
 だからこそ、俺は彼との出会いに意味を見出そうとしていた。同じく「家」を背負う者として――。

「おや……この気配はなんだ?」
 珍しく送迎の車にも乗らず、俺は夜の街を歩いていた。
 能役者というものは厳しい規律の中にあって、本当の自由を感じる時間は少ない。しかも夜ともなれば、両親は心配するだろうことくらい予想はついていた。
 だが、当ても無く放浪するのもまた芸の肥しとなるのかもしれない。
 公演の後、着替えもそこそこに大通りへと泳ぎ出した。着慣れている着物姿も他人には珍しいのだろう。通りかかる人の誰もが風変わりな視線を投げてくる。その感情と意識の混濁する雑踏の中で、俺はひとつの気を探り始めていた。
 初めは声だった。
 感応能力を持つため、強い思念は勝手に脳細胞に侵入してくる。その声も通りすがりに過ぎないはずだった。
 何故だろうか?
 心が強く反応する。細胞のひとつひとつが探せと命令する。
「まぁ、いい。探してみるか……」
 遊び心もいい加減持ち合わせている。気になるものなら、見つけてはっきりさせるのがいいと判断した。

 しばらく気配を追って歩く。
 大通りから一歩入った路地は暗く狭い。流れてくる念は奥へ奥へと俺を誘う。
「ふむ。あれ……か」
 目の前に男が倒れていた。
 豹柄の趣味の悪いシャツに、いかにも悪そうな刺青がある。どうやら、声の主を傷つけた人物らしい。白目を剥いて昏倒している。
 少し歩くと、ゴミ置き場に寄りかかるようにして、少年が気を失っていた。足からは鮮血が流れている。止血を必要とするほどの量だ。
「さぁて、どうするかな」
 思案の手を結んでいると、背後に悪意が立ち上がった。昏倒している男のものではない。もっと激しく燃えさかる力の気配。
「コイツの力はオレのもんだぜぇ!」
「貴方はこの人の関係者? ――そうは見えませんね。どうやら敵側のようだ」
 振り向き様、俺は対峙した者を睨んだ。金に染めた髪、地獄の炎を思わせる赤く爆ぜる瞳。薄笑いを浮かべた顔は自信に満ち溢れている。
「くくく、だからどうだってんだぁ? 怪我したくなかったらそこを退けよ!!」
 奴のかざした両手から炎が噴出した。瞳と同じ地獄の色。
 熱風がすぐ傍まで迫った。
 俺は念じた。

 ――天狼爪牙!!

 鋭き月の輝き。天と同じくして地と同等の力を持つ。伝説の天狼が放つ爪牙。
 放たれた炎球を微塵に砕いた。
 アスファルトが点々と炎の装飾に彩られる。
「へぇ……能力者か。こりゃ、楽しみなこった」
「なにゆえ、彼を襲う?」
「蓮河楽斗――オレの名だ。知らねぇだろ? それが理由さ。アンタも関係ないフリしてりゃいいのに、モノ好きにも程があるぜ」
 ニヤついた楽斗の手の上、大きく揺らいだ空気。陽炎が立ち昇る。
 炎が育とうとした瞬間の右手を狙って、俺はもう一度力を解放した。
 赤く切り裂く爪。
「痛てぇ! クソ、今日は日が悪い。またアンタとは会うかもな……楽しみにしとくぜ。ふはははは」
 ありったけの炎を投げつけて、楽斗の姿は消えた。
 俺はまだ気を失ったままの少年を見下ろした。
「公にはできないようだな……」
 彼を観察していると、どこかで見たことがある気がした。どこでだろう?
 目が開いたら分かるかもしれない。
 俺は、広過ぎて困るくらいの我が家に彼を招待することにしたのだった。

                        +

「俺も大概お人好しだな……」
 苦笑しつつ、傷を締めていた包帯を緩めた。日頃よく利用するだけあって、他人の治療も手際が良いようだ。自画自賛して、畳みに置かれた医療箱を覗き込んだ。
「――ここは……。あんた誰だ?」
 白い肌に暖かい色が戻り、まだ虚ろな意識の中で彼は問いかけてきていた。
「神に収めし能を饗する神想流大神家。その修練場だ」
「修練場? ……何故、鏡があるんだ?」
 まだ意識が混濁しているらしい。自分でも気づいているのか、し切りに頭を振っている。
「型を確認するためさ。俺は大神総一郎。神想流の次期家元という肩書きも持っているけどね。で、キミの名前は?」
「僕……か? 言わない方がいい。あんたにとって、その方がいいはずだ」
「ふむ、なるほどね。しかし、呼ぶのに困るな。これから掛かる迷惑など心配するに足らない。さぁ、教えてくれ」
 俺の物言いに閉口したのか、しばらく無言でいたが、諦めたように呟いた。
「未刀。衣蒼未刀」
 俺はまっすぐに少年を見た。歳のころは17、8といったところか――瞳は印象的な青。端正な顔立ちだが、暗さが表面に現われ過ぎているようだ。
 目を伏せた彼を見て、俺は思い出した。
「未刀くん! キミには会ったことがある」
「え……? 僕は面識がないけど」
 確かに知っている、彼を。
 あれは大物政治家の誕生日を祝うパーティの席上だ。胸をそり返した中年の横で、死んだ目で立っていた少年の顔と同じ。すぐに会場からは姿が消えたが、強く印象に残っている。
「衣蒼家――封魔の大家が政に手を染め始めている噂は本当だったのか」
「言うな!!」
 未刀は布団を剥ぎ取ると、部屋に貼られた大鏡の前に立った。拳を叩き付ける、何度も。
「俺も長い歴史を持つ家を継がねばならない人間だ。肩に掛かる過重の辛さは分かるつもりだ」
「あんたも……なのか?」
 赤く腫れ上がった手の甲を擦り、愁喜の表情を浮かべた。
 俺は言葉を続けた。
「次期家元は襲名するだけでも憂鬱なものさ。ま、それは置いてといて、襲ってきた奴が気になる。未刀くんさえよかったら、しばらく体を休めたらどうかな?」
「あんたの言葉はありがたい……だけど、本当に関わらない方がいい」
 未刀は立ちあがった。
「行く……のか?」
「助けてくれたことは感謝する。じゃあ……」
 ドアは閉まった。
 壁にかかった般若の面が風もないのに落下した。未刀を待ち受けているのは未来ではないのかもしれない。
 同じ立場であると知った時の彼の微妙な表情が忘れられない。
 オヤツが欲しいのに言えない子供のような――。

 衣蒼未刀という人物と出会ったこと。これは変えることの出来ない運命なのだと、俺は思った。
 彼を救う手立てを今からでも考えなくては。
 俺は壁一面に貼られた鏡に姿を映し、自分と見詰めう。

 今、天命は下ったのだ。


□END□

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

+ 2236 / 大神・総一郎(おおがみ・そういちろう) / 男 / 25 / 能役者

+ NPC / 衣蒼・未刀(いそう・みたち) / 男 / 17 / 封魔屋(逃亡中)
+ NPC / 蓮河・楽斗(れんかわ・らくと)/ 男 / 19 / 衣蒼分家跡取


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■         ライター通信          ■
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 初めまして、ライターの杜野天音ですvv
 ご参加ありがとうございます。能役者という職業はとても興味があるのですが、文章にする力量を試されそうですね(苦笑)
 未刀との出会いは如何でしたでしょうか? 同じ立場のキャラは初めてでした。
 クールな感じが表現できているといいのですが。何せ凛々しい方ですから(*^-^*)
 私の不手際で登場NPCを選択できることを、シナリオ受注の際に明記し忘れました。プレイングに攻撃する方法がありましたので、楽斗を登場させました。この選択となりました。気に入って下さると嬉しいです!
 他のPLさんの話もよかったら読んで下さいませ。

 闇風草紙は連作となっております。
 次回のシナリオUP予定は「東京怪談〜異界〜 闇風草紙」にてご確認下さい。
 またお目にかかれることをお祈りしております。ありがとうございました!