■赤褌のサンタクロース■
遠野藍子 |
【1838】【鬼頭・郡司】【高校生・雷鬼】 |
今日も平和な白王社月刊アトラス編集部。
いつもの事ながら、ボツをくらった三下が泣きながら必死に原稿の書きなおしをしている。
そんな姿を横目に、編集長碇麗香はかかってきた電話を取った。
「はい、アトラス編集部―――って、なんだ」
電話をかけてきたのは巷で噂の怪奇探偵草間武彦だった。
「え、今から? えぇ、別に構わないけど当然おいしいネタ持参で来るんでしょうね? えぇ、判ったわ。じゃ」
草間はもうすぐこちらに来ると言う。
自分が呼び出す事があっても、彼が呼び出しもしないのに自ら出向いてくるのは珍しい。
一体、彼が持ってくるというのはどう言うネタなのだろう―――そんな事を考えながら麗香は窓の外の景色に目をやった。
時間を遡る事約1時間前。
草間興信所に1人の女性が訪れていた。
「で、今回はどういった御用件で?」
草間はそうにこやかに目の前の女性に向かって問い掛けた。
彼女は非常に困惑した表情をしている。
「おかしいんです」
「おかしい?」
「えぇ。あ、私、保育士をしているんですけれど……最近生徒達が―――」
季節柄彼女の勤める保育園でも子供達が熱心に色々書いている。それは、欲しいプレゼントの絵だったりサンタクロースへの手紙であったり。
そして彼女は気付いたのだ、ある子供達が――そう、全ての子供たちがと言うわけではないのだが――描いたサンタクロースの絵が“普通ではない”と言う事に。
「普通ではない?」
「普通じゃないんです」
どこが普通ではないのか彼女は戸惑いながら説明した。
そして、草間は後悔した。
後悔というよりもむしろ恨んだ。
彼女を、ではない。彼女をここに行かせる事になった“何か”を。
依頼者が帰った後に、草間は苦虫を噛み潰したような顔をしながらアトラス編集部へ電話をかけた。
「あー、オレだ。オレ。今からちょっとそっちに行こうと思ってるんだが。―――あぁ、うってつけのネタがウチに来たんだよ」
話はついて、草間は、
「ちょっとアトラスまで行ってくる」
と零に告げて興信所を出て行った。
「あー、うちに来た依頼なんだがな……アレを着たサンタクロースが一部に現れるらしいんだ」
そう、草間興信所に今回きた依頼はその後こう呼ばれる事になる。
“赤い褌のサンタクロース事件”と―――
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赤褌のサンタクロース
いつものようにバイトの口を求めて訪れたアトラス編集部で、見なれた人物を見つけて村上涼(むらかみ・りょう)が片手を軽く挙げた。
「こんなとこで何してんのオッサン」
「だぁれが、オッサンだ」
迷うことなく涼はソファを陣取っている草間の顔を指差した。
目の前に人差し指を突き付けられて、頭を項垂れさせて大きく息をついた。。
まぁ、こんなやり取りは草間興信所では日常茶飯事なわけで、多少場所が変わったとだけで今更どうなるかなど露ほども期待していたわけではないのだが、どこにいてもあまりにも変わり様のない涼の態度に草間はしみじみと溜息を吐いてしまったようだ。
「赤褌のサンタねぇ……」
軽く脅して席を譲らせた三下を更に軽く締め上げて草間がこの場所に居る理由を聞き出した涼は、
「なんつーか―――待て、コラ、オッサン。そんな露出狂サンタなんてお子様の夢を粉砕するじゃないのよ! ま、楽しいけど」
結局オチはそれか、オイ―――そんな言葉は軽く無視して、
「単なる街宣サンタとかじゃないでしょうね、それ」
と言いつつも好奇心は止められないらしい。
単なる街宣サンタだとしたらとっくに御用となっていることだろうということで、その予想はあっさりと却下したが、
「まぁ、いいわ。なんとしてもそのサンタ探し出さないと」
力説する涼に、草間は不信な目をむける。
「なんでそんなに熱心なんだ? 珍しい……」
「べ、別に。失礼ね、いつだって仕事には熱心よ!」
「そうかぁ?」
そんなやり取りを眺めながら、
「真っ赤な褌のサンタクロース♪」
赤い布切れなびかせて〜♪と、海原みあお(うなばら・みあお)が誰もが幼い頃必ずこの時期に1度は歌わされた事があるであろう歌に奇妙な歌詞を乗せて歌いながら割って入った。
「草間いいタイミングで面白いネタ持ってきたよね〜。大丈夫、みあお、サイン色紙とペン、記念写真用のデジタルカメラと懐中電灯、あとお菓子は常備してるから任せて!」
と、みあおは次々とそれらをテーブルの上に並べる。そのカバンの中は四次元に繋がっているのかどう考えても出てくるものの体積とカバンの大きさが見合っていないような気もするが、あまり深い事は考えないようにしておこう。
サンタを見るということ自体に期待しているみあおは実に微笑ましい。
それにひきかえ、
「よ♪三下! 相変わらずしけたツラしてやがんな♪」
と、来るなり三下の首に腕を回してがんがん首を揺さぶるうちに図らずともキレイに三下のチョークにスリーパーホールドを決めてしまい、ついうっかり三下を三途の川一歩手前まで送ってしまった鬼頭郡司(きとう・ぐんじ)は、
「何?なんか問題あんのか?赤は身体に良いって箱の兄ちゃんも言ってたぞ、赤いパンツはけって」
と見当違いな―――ちなみにこの台詞を通訳すると箱の兄ちゃんというのはテレビに出演している兄ちゃんという意味である。つまり、郡司は先日テレビで赤パン健康法なるものを見たらしい―――事を言ったかと思うと、
「んで、その“サンタ”って何?食えるのか?」
と興味を示した。とても間違った方向にだが。
「一応止めといた方が良いんじゃない。食べられない事はないけど……人間だろうから相手、多分」
美味しくないわよ、一緒にいるトナカイは美味しいかもしれないけどと、涼は身も蓋もないことを言う。さっきまで褌姿のサンタなんてお子様の夢を粉砕するじゃないなどと至極まともな台詞の発言者と同一人物とは全く思えない。
しかし、郡司は“サンタ”が人と聞いて、更に間違った方向に意識が向いたようだ。
「よし、出没するってとこ調べて行ってみようぜ! クリスマスツリーとか言う木が近くにあんだろ? 木になら俺、話聞けるし、それに負けらんねえじゃん、そいつに!」
「負けって何が?」
よく判らなかったみあおが尋ねると、
「俺と三下の方が絶対似合うって、赤フン姿!」
と堂々と言い切った。
どうも、赤褌姿と聞いて基本衣装虎柄の褌一丁という郡司にとって“サンタ”はライバルという場所に位置付けされたらしい。
「まぁ、まずガキども締め上げてみるべきね。さ、行こうか」
涼はそう言うと、郡司にそのまま三下を捕まえさせて目撃者への証言を取りに行くべくアトラス編集部を後にしようとした。
「ちょ、ちょっと待って下さいっ! 何で僕まで」
「え、だって郡司が言ってたじゃない、自分と三下さんの方が赤フン姿が似合うって」
「いや、でも年末進行の原稿が……」
訴えかける三下に追い討ちをかけるように、
「あぁ、別に良いわよ。そんな記事より一緒に行って褌サンタの真相探ってらっしゃい」
と、あっさり麗香の言葉が投げかけられる。
「そ、そんな編集長ぉ〜〜〜〜」
結果、ずるずると毎度のごとく人身御供として三下は連れて行かれた。
■■■■■
褌サンタを見たという子供達が通っている保育園に向かった3人はそこで少しげっそりとした顔の真名神慶悟(まながみ・けいご)、シュライン・エマ(しゅらいん・えま)、それに1人元気な丈峯楓香(たけみね・ふうか)に出会った。
「なんだ、お前達も来てたのかー」
動物並みの視力でいち早く3人を見付けた郡司、その後ろから現れたみあおを見て慶悟はさらにギョッとした顔をした。
「やっぱり出たな……」
こんな意地悪をされるような事を何かしましたか神様―――彼がそう呟いたとしても広い心と生暖かい目で見守ってあげて下さい。
嫌な感じのデジャヴにしばし硬直した慶悟だったが、その後に現れたのが涼であった為、幾分か……そう、ほんの少しだけ胸を撫で下ろした。
「聞いたわよー、赤ふんサンタの話し」
「えぇ、よりによってなんでこんな話がウチに来るんだか―――ともあれ引き受けた以上は探さないとなのよねぇ」
シュラインはそういって溜息をついた。
「ところで、貴方達は見つけてどうするつもりなの?」
「はーい、みあおはねぇ、そのサンタクロースさんが本物だったらサインと記念写真お願いするんだ♪」
と首から下げたデジタルカメラと色紙、マジックの3点セットを見せる。
「絶対俺らのが赤フン似合うってことをバッチリ見せつけてやんねぇと!この勝負ぜってぇ引かねぇかんな!」
僕は違いますよぉ―――という三下の意見はどうやら全く郡司の耳には入っていないらしい。
「で、涼は?」
「探してどうするかって決まってんでしょ。サンタは良い子にプレゼントくれるんでしょ? この際衣装はどうでも良いのよ。今年も精錬潔白清く正しく美しく生活していた良い子の私に職運という名のプレゼント貰うに決まってるじゃない!」
これで就職戦争にピリオドを打つのよ!と、涼は意気込んでいる。
どこまで本気なのかと問い掛ける事を許さない気迫であった。
「で? お兄ちゃんはなんでそんな顔してるの?」
みあおは自分と決して目をあわせようとしない慶悟を見たが、さっと、視線を左に反らされる。
左に回りこむと右に、右に回りこむと左に、身長差を活かして下に回りこむととうとう上を向かれてしまった。
「うわぁ、大人げないな〜」
「それだけの事をしただろうが!」
アレの調査の時にはカメラをもった幼女には注意―――過去の数々の経験を考えると同情して余りあるのだが、如何せん場所が悪かった。
保育園児で溢れかえる場所で子供相手に怒る成人男子。
「うわぁぁぁん――――」
背後から何人もの子供の泣き声が上がる。
あからさまにシュラインと涼にあからさまに白い目を向けられた。
「……すまん」
「大丈夫、こんな時はあたしに任せて♪」
申し訳なさそうな慶悟を見て、楓香がフォローしようと思ったのが更にまずかった。
「子供が好きなものって言うとぉ……えい!」
そう言って楓香は子供が好きそうなお菓子の家やメリーゴーランド、メルヘンちっくな遊園地を思い浮かべて子供たちの精神に投影させた―――
「わぁぁぁん、ママぁ〜〜〜パパぁ〜〜〜〜」
お世辞にも巧いとは言い難い楓香のお菓子の家はお化け屋敷に、メリーゴーランドの白馬は白い河馬が追いかけてくる為に子供たちの泣き声は更に響き渡る。
「ひぃぃぃ―――」
三下は子供と一緒に怯えていた。
そして、その一方で、
「うわぁ、おもしろーい」
「すっげーすっげー。なぁ、あの白い河馬狩っていいのか? なぁ、なぁって」
喜んでいたのは、郡司とみあおの2人だった―――
「あんた達が喜んでどうするのよ!」
涼の雷が落ちたのは言うまでもない。
数分後、みあおはカバンの中のお菓子を振りまき、慶悟の式神の中でも子供受けしそうな式神を厳選して無理矢理子供相手に愛想を振り撒かせ、なんとか子供たちを宥めすかしてようやく話しを聞ける状態になった。―――ちなみに、慶悟の式神たちは子供に弄られまくりどんな敵を相手にした時よりも疲労困憊ボロボロになっていたが。
「で、この中で褌のサンタクさんの話し知ってる子は手ぇ、挙げてー」
楓香がそう言うと、子供たちが何人も手を挙げた。
「その話ってどこで聞いたの?」
みあおは歳が近いせいかみあおは全く警戒心なく子供たちに溶け込んでいる。
「なんだよ、ショーガクセーのクセにそんなこともしらないのかよー」
ガキ大将っぽい男の子が得意げにそう言う。
教えて?と、みあおが言うと、その男の子は頬を赤らめる。
「去年はアイツらの家に来たんだ。オレの家にも来たんだぞ」
そう言って何人かの子供を指差した。
「サンタに何か言われなかったか? 例えば…ズボンを探している、とか?」
慶悟は子供の目線に合わせてしゃがんでそう聞いたが子供たちは首を横に振る。
「サンタさんなにもいってなかったよ」
「ボクねててね、それでね、ガタンてきこえてめがさめたんだ、そしたらボクのベットのあたまのところにサンタさんがプレゼントおいてくれててね、それでねそれでね」
「アタシはことしこそサンタの正体をみてやろうと思って寝たふりしてずっと起きてたの、そしたらサンタが来たんだけどねズボンはいてなかったからきゃーって言ったらあわてて帰っちゃった。失礼よね、レディの部屋にそんな服装で来るなんて」
ませた女の子は話しに割り込んでそう言った。
だんだん、時間が経つにつれ話しが反れていき騒がしくなってくる。
「ねーねー、おばさんたちなんでそんなこときくの―?」
「あー、わかったー、オトナなのにサンタさんからプレゼントもらおうとしてるんだろう!」
「えぇ、オトナなのにサンタクロースなんてしんじてるのかよー」
ついにはサンタクロースは居るのか居ないのかと言う騒ぎにまで発展する。
「えぇい、もう、こんなとこで良いでしょ。次、親のとこ行きましょう」
きゃーきゃーぎゃーぎゃーという、子供特有の奇声やら嬌声に耐えられなくなったのか、涼がそう促したが、すっかり輪になった状態で子供地獄から抜け出る事は容易ではなさそうだ。
そこで涼は、
「郡司ー、今よ!」
と、話には参加せずに輪の外で子供を担いだり振り回したりと体力勝負な遊びをしていた郡司に合図を出した。
すると、いつの間に用意したのか褌サンタの扮装をした三下が現れた。
「ほーら、あそこに褌サンタが!!」
涼の叫び声に、いっせいに子供たちが三下の元へ駆けて行き輪が崩れた。
その隙に、すっかり囲まれていた面々は保育園を後にした。
「次は親ね」
背後から三下の悲鳴が聞こえたが、全くそんなことを気にせずに一行は次なる情報収集の現場へ向かった。
数分後、今度はお迎え前の母親たちが集まっている団地内の公園で聞き込みをした。
「ふんどし姿のサンタクロースでしょう? えぇ、ウチの子がお友達に聞いたって話してたけど、ねぇ。勿論、ウチの子は普通に描いてるわよ」
「子供って言うのは想像力が豊かだから時々突拍子もない事思いつくのよ。あなた達もそのうち子供を持てば判ると思うけど」
「あら、でもやっぱりそれって親御さんの教育が―――」
「ほら、あそこの旦那さん変わった趣味があったりして」
「やぁだ、奥さんったら」
「でもほら、あの旦那さんみたいなタイプの人に限って―――」
「…………」
世の中の奥様たちと言うのはそんなに噂話に飢えているのか、ちょっと話しを向けるだけで喋る事喋る事。その勢いに、ついて行くには相当の気力を要する。
涼は草々に奥様方のお相手を放棄した。
まぁ、そこらへんはシュラインと、妙に奥様方に受けがイイ様子の慶悟にまかせておけば良いだろう、と。
多分、どう考えても慶悟はホストと間違えられてるんだろうなぁなどと思いつつ、涼はその光景を眺めていた。
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窓の明かりが次々と消え出す時間、クリスマスイブ当日深夜、そんな時間に哀しいかな寒空の下、一同は集結していた。
調査の結果、どうも褌サンタが現れたのは去年だけというわけではないようだった。そして、1番子供たちからの目撃証言が多かったのがここら辺では1番のマンモス団地内であった。
「真っ赤な褌のサンタクロース♪ 赤い布切れなびかせて〜♪」
みあおの歌声が公園内に響く。
「でも、今回捕まえるて意味じゃ楽よねー」
団地の各棟の屋上には慶悟の式神が配置されている。
「本物のサンタなら隠遁は得意だろうからな。ヘタに俺たちが張るよりはな」
とは慶悟の台詞だった。
「後は待つだけ……となれば、やっぱりここは宴会でしょう!」
そう言って涼は徐に酒を取り出した。最近酒に逃げがちだということはこの場合禁句である。
どうやら示し合わせてきたようで涼、シュライン、楓香、みあおが次々と酒だとかツマミだとかお菓子だとかどうやって今まで隠していたんだと問い掛けたくなるほど大量にレジャーシートの上に広げていく。
「酒〜〜〜! 食い物〜〜〜!」
なぁ、肉は肉は?―――と、自分は何一つもってきていないにもかかわらず案の定郡司の食いつきは非常に良かった。
一応みあおと楓香の2人はノンアルコール、その他はアルコールで深夜の団地内公園でクリスマスの名を借りた宴会がひそやかにはじまった。。
とりあえず、酔っ払う前に褌サンタの出現を祈るばかりである。ご近所の人々の平和の為にも。
宴もたけなわ―――あらかた飲み食いした草木も眠る丑三つ時に、獲物は御用になった。
そう、あまりにもあっさりと。
「……」
「………」
「…………」
慶悟の式神が見事しょっ引いて来たのは確かに間違いなく、トナカイの引くソリに乗り、赤い帽子を被り白いヒゲをたくわえ、赤いコートを着て……そして何故か赤い褌をしたサンタクロースだった。
「―――失礼ですけど、えぇと、本物のサンタクロースさんですか?」
正面切って楓香が尋ねると、サンタクロースははっきりしっかりと首を縦に振った。
「……やっぱり、サンタなのね」
すっかりアルコールを摂取した涼たちはあまりにもそのままの姿のため夢ならば覚めて欲しいと想ったが、どうも夢ではないようだ。
とりあえず、捕縛を解かれたサンタに、
「えぇと、なんでサンタさんなのに赤い褌なの? ズボンは?」
みあおは早速デジカメを向けながら問い掛ける。
「実は……」
赤ふんサンタが語るところによると、最近はサンタの世界も人手不足となっており彼はオーストラリア〜日本担当のサンタクロースだという。
今、日本は真冬だが、南半球にあるオーストラリアは真夏だ。
オーストラリアから日本に来る為にこんな格好だという。
「というわけで薄着だと、そう言いたいわけだな?」
「イエ〜ス」
「都合のいい時だけ外人ぶるな……」
とてつもなく脱力したように慶悟がサンタに向かってそう言った。
しかし、その答えは全く全然これっぽっちも褌姿の理由にはなっていない。
だいたい、コートを持ってくるのならちゃんとズボンももって来いと、ここは声を大にして言いたい。
「そっか、サンタさんも忘れ物多いんだぁ、あたしもよくその日提出の課題とか忘れちゃうもん、仕方ないよね」
うんうんと、楓香は頷いている。
「でもね、楓香ちゃんの場合はついうっかりなんだろうけど、サンタさんの場合は……」
ズボンを忘れる―――それって痴呆の初期なのではとはとてもじゃないが口には出せず、
「……寒そうよね……」
コートからのびているあまり見たくないサンタクロースのナマ足を見てしまいシュラインは遠い目をした。
なぜ褌なのか、とてもそれはもうとても興味があるが知らないほうがいいということも世の中にはある。
「とりあえず、存在を確認出来たという事で―――写真良いですか?」
シュラインはとりあえず、依頼人に見せるため―――というか、依頼人はいると判ればそれでいいと言っていただけで証拠を見たいとは一言もいっていなかったが―――手持ちのデジカメで写真とサンタの全身をなめてとった動画をデジカメに残した。
出来れば決して安くはなかったこのデジカメは、もっとこう色んな意味で“良い使い方”をしたかったと思いながら。
「その褌はどこで入手したのよ? 一体」
とりあえずそれだけは聞いておかねばなるまい、もっともな疑問の確信をついた涼に、
「日本のサンタクロースはプレゼントを配るだけだけれども、本来サンタクロースにはお菓子などの歓迎の品を置いておくものなんだよ」
珍しくも、とある家に入ったときにこの赤い褌がおいてあったのだという。
それは単に畳んで置いてあっただけの洗濯物ではないのでしょうか?とは誰も言えなかった。
勘違いから派生したことかもしれないが、立派な下着ドロだ。
どうやらやっぱり、そんなオチだったらしい。
■エピローグ■
褌姿が正装だと信じて疑わない郡司は全くサンタクロースに対しての疑問は持っていなかった。
ただ、彼の興味は一心に、あるモノに注がれていた。
「……鹿の肉ってうまいんだよな」
ぼそりと呟く。
そう、もはやあかフン勝負よりも目の前のトナカイにすっかり目を奪われている。
「俺、これがいい。コレコレ、この鹿くれよ!」
即それは却下された。
これ以上居てはトナカイの身に危険が及ぶのを感じたのか、
「……じゃあ、そろそろ」
と、サンタはその場を離れようとした。
「あ、そだ! 子供らにさプレゼントやる代わりに菓子とかもらえんだろ?じゃ、俺手伝ってやるよ!雷獣に乗って赤フンで♪ 喜ぶだろーなー♪」
そう言って、郡司は半分無理矢理サンタのあとについて行った。
当然、サンタに合わせて赤褌姿で。
きっと、来年はもっと赤褌サンタの目撃情報が増える事は間違いない。
しかも、きっと来年のサンタの絵は更にグレードアップ、コートすら着ていない文字通り赤フン一丁姿になった。
Fin
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
【0086 / シュライン・エマ / 女 / 26歳 / 翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員】
【0381 / 村上・涼 / 女 / 22歳 / 大学生】
【1415 / 海原・みあお / 女 / 13歳 / 小学生】
【0389 / 真名神・慶悟 / 男 / 20歳 / 陰陽師】
【2152 / 丈峯・楓香 / 女 / 15歳 / 高校生】
【1838 / 鬼頭・郡司 / 男 / 15歳 / 高校生・雷鬼】
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■ ライター通信 ■
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こんにちは、遠野藍子です。
この度は御参加頂きありがとうございました。
すっかりクリスマスも過ぎてしまい申し訳ありませんでした。
せっかくなのでクリスマスネタがやりたくてトモダチになんかネタないか相談したところ結局浮かんできたのがこんなネタだったのですが。
こんなお馬鹿なネタ被るわけないだろうと思っていたのですが―――いや、被りはしなかったんですが先日朝、出掛けに某局の朝のワイドショーを見ていたらニューヨークでサンタ帽にビキニパンツの男性達のパレードなるものを取り上げていました……。
さすが人種の坩堝アメリカ―――感心する前に呆然としてしまいました。
あまり朝から見たくなかったなぁ、あんな光景。思い出すだけで遠い目になります。
なんだか一寸切ない気分と同時に敗北感を味わいました。
某PC様ではありませんが、自分で考えておきながらそんなサンタがいきなり家に居たら変質者ですよね。まず110番通報だよなぁと思いましたよ。えぇ。ワタクシ常識人ですから。ちなみにこんなネタ考えたヤツが常識人!?とかいうブーイングはしちゃいやです。
ほら、だって実際にそんな格好でパレードやってる人達だって居るわけだし。意外とワールドワイドなネタだったんだなぁ、きっと。>支離滅裂
ちなみに、そのパレードの映像ではビキニパンツは赤の他に青をはいている人も居ました。
何はともあれ、とりあえず少しは参加者の方々の期待に応えられていたら良いなぁと思う次第です。
では、また機会があればよろしくお願いします。
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