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■GAME〜涼蘭からの招待状■

小夜曲
【2355】【D・ギルバ】【墓場をうろつくモノ・破壊神の模造人形】
それは一つの書き込みから始まった。
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タイトル:ゲームのご招待  投稿者:涼蘭 MAIL
 こんばんは、涼蘭(Suzu-Ran)と言います。
 この度ちょっとしたゲームを修行がてら企画いたしました。
 参加者をお待ちしています。
 募集するのは三名です。それぞれ皆さん「時」「場合」「場所」
を考えておいてください。皆さんが考えている三つの要素をランダ
ムに選んで、そういう世界にご招待します。
 そこで何をするかと言うと金色の鍵を探してください。一番最初
に見つけた人が優勝です。あ、鍵は例えであって場所によっては鍵
の形をしていないかもしれないから注意してくださいね。
 見つけた人が出たらゲーム終了です。お迎えに上がります。
 ゲームに参加せずに遊んでても構いませんけど、そうすると夜明
けまで帰って来れませんから気をつけてくださいね。夜明けまで誰
も鍵を見つけられなかったら私の勝ちです。
 ……あ、別に優勝商品とか特にないですから、そういうの目当て
の人はご遠慮くださいね。
 日時は――
_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/

 雫が呆れたように呟いた。
「これ、どこまで本気だと思う? どっちにしても興味あるなあ」
 ――夜中だから行けないけど。
GAME〜涼蘭からの招待状

□オープニング
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タイトル:ゲームのご招待  投稿者:涼蘭 MAIL
 こんばんは、涼蘭(Suzu-Ran)と言います。
 この度ちょっとしたゲームを修行がてら企画いたしました。
 参加者をお待ちしています。
 募集するのは三名です。それぞれ皆さん「時」「場合」「場所」
を考えておいてください。皆さんが考えている三つの要素をランダ
ムに選んで、そういう世界にご招待します。
 そこで何をするかと言うと金色の鍵を探してください。一番最初
に見つけた人が優勝です。あ、鍵は例えであって場所によっては鍵
の形をしていないかもしれないから注意してくださいね。
 見つけた人が出たらゲーム終了です。お迎えに上がります。
 ゲームに参加せずに遊んでても構いませんけど、そうすると夜明
けまで帰って来れませんから気をつけてくださいね。夜明けまで誰
も鍵を見つけられなかったら私の勝ちです。
 ……あ、別に優勝商品とか特にないですから、そういうの目当て
の人はご遠慮くださいね。
 日時は――
_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/

 雫が呆れたように呟いた。
「これ、どこまで本気だと思う? どっちにしても興味あるなあ」
 ――夜中だから行けないけど。


□開かない「筈」のドア
 冬の夕暮れは早い。6時も回っていないというのに既に薄暗かった。街灯の明かりが灯り始めた坂道を駆け上ってくる人影が一つ。
 軽い足取りで駆け上がってくるのは少年。白い息を吐き出しながら彼は建物を前に足を止めた。
「あ、ここなのー」
 少年はメモに書いてある名前と建物の外壁に書いてある名前を見比べて大きく頷く。階段の奥をすかし見るように首を傾げるとさらりと緑色の髪が街灯の反射を受けきらめいた。
 建物の奥にあるエレベータがチンと軽い音を立てた。開いたドアの向こうに入っていく長身の影に向かって少年は慌てて声をかける。
「待って待って! 僕も乗るのーっ!」
「急がなくても大丈夫。気を付けてね」
 パタパタと駆け込んできた少年にかけた声でその長身の人が女性である事が知れた。すらりとした長身にショートヘアのその姿は遠めで見れば細い男性かもしれないとも思える。もっとも間近に彼女を見て男性と思う人間は少ないだろう。理知的で中世的な顔立ちだが、浮かべる表情はどこか柔らかいものだったのだから。
(きれいなお姉さんなのー)
 見上げた少年に女性は小さく首を傾げた。
「どうしたの? あ、そうだ。何階?」
 3のボタンを押しながらの問いかけに少年は何故か慌てて頭を下げた。
「待っててくれてありがとう。えっと、僕も三階なのー」
 そうと女性は頷いた。待つと言う程の事もなく、軽い上昇する感覚はすぐに停止して三階へ到着する。
「304号室〜、どこかなー?」
「え? 304?」
 飛び出そうとした少年をやや驚いた様子で女性が見た。少年は首を傾げるとぱっと笑顔になる。
「あーっ、お姉さんももしかしてゲームしにきたの?」
「君もなのね。同じエレベータになるなんて偶然ね」
 ゲームに参加するのは三人なのだから確かにちょうど乗り合わせるというのも中々の偶然と言えるだろう。お互いにちょっとした偶然に笑みを交わすと、二人は早速304号室に向かう事にした。
 角を曲がると扉の前に佇む存在がいた――存在、そう、それは人ではないものだった。人なのだとしたらそれの中に存在するとしか考えられないだろう。
 メタリックな輝きにいくつかの武装。あの兜に輝く二つの緑は或いは双眸なのだろうか?
 知らず女性はごくりと息を飲んだ。傍らの少年をかばおうと腕を伸ばし、その少年が駆け出した事に大いに慌てた。
「ま、待ちなさい!?」
 危ないからと続ける筈の言葉は少年の歓声に飲み込まれた。
「わーっ、かっこいい〜! テレビに出てくるせいぎの味方みたい!」
 気持ちは判るがそれが安全とは限らない、咄嗟に手を伸ばした女性はそれがやはり戸惑っている事に気が付いた。目の動きに落ち着きがなく若干腰がひけているような気がする。
「……もしかして困ってるの?」
 問い掛けられて彼――そう、それは大別するなら男性であった――は立ち止まる女性に目を向けた。これも弱者だと判断する。弱者を傷付ける事は彼には出来ない。彼は女性の言葉に顎を小さく引いて肯定した。
「こんな柔らかくて小さいもの、壊さずに触る方法がわからねえ……」
 その呟きに女性が息をつく。どうやら意思を疎通させる事が可能である事、そして危害を加えるつもりがない事、その二点が判明しただけでも大きな収穫だ。
 ホッと息をつくと、女性は少年に声をかける。
「ほら、困ってるみたいだから、こっちにいらっしゃい?」
 少年は彼を見上げて本気で困っているのだと悟ると、こくりと頷いた。そして離れようとしてから足を止めた。
「あ、304!」
「もしかして、ゲームの参加者?」
「……てめぇらもか」
 かくして扉を開く前に今回のゲームの参加者が合流する事になった。
「僕ね、僕、藤井蘭(ふじい・らん)って言うんだ! よろしくね!」
 でもねえ、『しゅぎょう』ってなんだろうと笑顔のまま藤井は首を傾げた。
「私は綾和泉汐耶(あやいずみ・せきや)と言います。よろしくね。因みに修行は、そうねえ、練習ってところかしらね」
「……D・ギルバ(でぃー・)だ」
 招待主からは中で待つように言われていた。早速中に入った三人は奇妙なものを目にする事になる。
 部屋は適温に保たれている。余り物のない部屋だ。
 黒い革張りの応接セットのテーブルにはお茶とお菓子。
 そしてつきあたりの壁に大きな扉――文字通りの扉ではなく、絵に書いたそれだ。
「お菓子なの、食べていいのかな?」
「……知らん」
 応接セットにちんまりと座った少年とやや距離をとって無愛想に答えるギルバ。
「何で壁に直接絵を描いているのかしら……、しかも扉の?」
 そんな二人をよそに綾和泉はしげしげと絵の扉を観察した。そして小さく悲鳴をあげて一歩二歩と後に下がった。
「どうしたの?」
「来ちゃ駄目! 扉が……ノブが動いてる!」
 変な事を言われた気がした。が、その違和感は目の前の違和感に大きくかき消される。
 壁に描かれた扉がぎぃと軋んだ音をたてて開いたのだ。
 出てきたのは茶色い髪の少女。鈴がたくさんついた大きな杓と不思議な衣装を来た彼女はぺこりと頭を下げた。
「あ、また遅刻しちゃいました。遅れちゃってごめんなさい。私、涼蘭って言いますぅ」
 非常識な登場をした涼蘭の声は耳に心地いいメゾソプラノだった。


□いざ、ゲームの世界へ
 絵の扉から出て来るという有り得ない事をやってのけた少女はマイペースだった。のんびりとソファに腰掛けると用意されていたお茶を四人分注ぐ。
「皆さんよかったら飲みませんかぁ? 今外って寒いんですよねぇ?」
「うん。とっても寒かったよ。あ、このクッキー食べていい?」
「君が涼蘭? ゲームの主催者の?」
「クッキーも食べてくださいね。はい、涼蘭です、よろしくお願いしますぅ」
 綾和泉はにこにこと笑顔を浮かべる涼蘭にやや毒気を抜かれた様子でソファに腰掛けた。ティーカップを手にすると紅茶の香気がほんのりと鼻腔をくすぐる。
「クッキーおいしいよ。ねー、ギルバさんも食べないの?」
 沈黙が落ちた。
 綾和泉はややぼんやりと考えた。この人って物を食べる事が出来るのかしら、と。
 答えを待つ三人分の女子供の視線にギルバは仕方なく首を横に振った。どうも勝手が違うとギルバもまたぼんやりと思う。
「……ところで聞いても良いかしら?」
「何をでしょう?」
「どうやってあれを開いたの?」
「あ、深く考えないでください、扉だから開くし、だから開けただけなんですよ」
 こっちの人ってそれだけじゃ納得出来ないんですよねえと困ったように言われても、綾和泉もやはり困ってしまう。その説明ではきっと誰も納得出来ない。
「ねー、金色のかぎさがすんだよねー? どうして金色なのかなあ?」
「え? 金色ってお日様の色だからです。夜に始めるゲームなら終わりの朝の色が良いかなって」
「そうなんだ。それでね、かぎじゃないかもしれないんだよね?」
「ええ、でも金色に輝いてるし、見たらきっとすぐに判りますよ」
 涼蘭の隣で見上げる少年に少女は大真面目に頷いて答える。
「成程、言うなればこれから構築される世界の出口が金色の鍵って事かしら?」
「ええ、そんな感じですぅ。で、皆さんには『時』と『場合』と『場所』を紙に書いて……書けます?」
 涼蘭が見たのはギルバだ。両手に砲門、指はなさそうに見える。ギルバは首を横に振ると珍しく口を開いた。
「でも思った世界に案内すんなら口頭で伝えれば良いじゃねーか」
「え? 違いますよぉ。皆さんの考えたものを一つづつ採用するんですぅ」
 じろりと緑の輝きが涼蘭を捉えた。
「……俺は俺のが選ばれたら好きなだけ戦えると思ってた」
「三人とも一つづつ、ですよぉ」
 誰かのだけだったら不公平ですからと鈴蘭は付け加えた。そして首を傾げる。
「でも書けないんですよねえ、うーんとじゃあ、念じてもらってそれを読み取れば良いかなぁ……あんまりやったコトないケド、これも修行のうちだし」
「がんばるのー!」
 やや不安な事を言い出した涼蘭を藤井が励ます。うんと気合を入れて少女が立ち上がった。
「じゃあ、始めましょうか。皆さん、三つのキーワードを念じてくださいねー」
 しゃんと音をたてて大きく杓が振られる。三人は目を閉じてそれぞれに念じ始めた。
(うーんとうーんと、お昼とおさんぽとお花がいっぱいある公園。光合成しながらのんびりたのしいおさんぽ。あったかくて気持ちいいのー)
(早朝の雅な京都御所で宴か祭り……冬はつとめて……あの下りのような……)
 最近読んでいた古典文学の数々が綾和泉の脳裏をよぎった。
(夜……虐殺……戦場……思い切り戦い力を振るう……でも弱者がここに……夜……虐殺……戦場……)
 迷ったままギルバは繰り返す。
 虹色の軌跡を描いて、鈴が耳に優しい音を奏でて、そして扉へと振り下ろされた。絵の扉は再び厚みを得る。それと同時に涼蘭がやや引きつった声をあげた。
「……あ」
「あ? どうしたの?」
「いえ、あのぅ……あはははは!」
 誤魔化している、明らかに。綾和泉は目を細めて涼蘭を見遣った。沈黙が落ちる。
「……あー、そのちょっと失敗しちゃったかなって」
「やり直すの?」
「あ、いえ、成功は成功なんですケドっ! ちょっと混ざっちゃったかなーって」
「混ざったって……もしかしてキーワードが?」
 こっくりと頷く涼蘭。
「危険はないのね?」
 やはり頷く涼蘭。
「いーんじゃねーのか」
「危険ないっていってたの! だから大丈夫なのー」
「ま、成功って言ってたしね」
 三者三様の言葉でそれでも了承の返事を得て涼蘭は大きく息をついた。
「えっと今から鍵を入れます。それから皆さんには別々の場所に降りて頂いて、そこからゲームの始まりです!」
 涼蘭はドアを開くと金色の鍵をドアの向こうの暗闇に放り投げた。金色の帯が鍵を追うように奥へ走る。どこに落ちたのだろうか。
「皆さん鍵からは同じくらいの距離と障害しかありません。では、心の準備が出来た方からどうぞ」


■暖かい光の中で
 着地したのは柔らかい草の上だった。まだ生え始めたばかりの柔らかい草。そのまま少年はころんと寝転びたくなった。
「あったかーい。気持ちいーい。うーん、やっぱり春はすてきなのー」
 そうか、藤井は口にしてから気が付いた。ここは春なんだ。
「寒いのよりあったかいのがいいよねー。僕、冬より春が好きだなあ」
 寒いと皆も元気ないから寂しい気がする藤井だった。植物の精霊である彼は他の植物の意思を感じ取る事も出来るし、何より彼はオリヅルランの精霊である。蘭は寒さには決して強くない。そして外で見かける他の植物達も今は寒さに凍えて半ば眠りに付いている者も多いのだ。
「寂しいんだよねえ、冬って。早く春にならないかなー?」
「そうだよね、そう思うよね」
 突然声をかけられて藤井は目を瞬いた一体どこから声がときょろきょろと辺りを見回す。
「ここだよ、こーこー!」
 足元だった。シロツメクサのしげみにちょこんと腰掛けているのは。
「君、だぁれ?」
「僕は春の妖精! 春が好きでいてくれて嬉しいよ」
「そっかー、妖精さんも春が好き?」
「ああ、とっても! 君みたいに春が大好きな人は僕らの仲間だって大歓迎さ、ねえ、皆にも会って行かない?」
「うん! いきたいなー、どこなの?」
 こっちこっちと小さな妖精は飛び上がる。藤井は笑いながら後を追いかけた。やがてついたのは広い広い花畑だった。
「うわあああ」
 色とりどりの花々に少年は目を奪われた。暖かな陽射しの下、風に揺れる花々はどこか楽しげた。胸一杯に空気を吸うと花々の良い匂いで胸が一杯になった。
「うわあああ」
 もう一度藤井は歓声を上げた。綺麗とか素敵とかという言葉よりもただただ嬉しい。暖かい陽射しを浴びようと両手を広げ、心地良い空気を思いっきり吸い込む。目を閉じたまま顔をあげれば陽射しの暖かさと太陽の明るさが感じられる。
「いい気持ちーっ」
「気に入ってくれたみたいだね」
「うんっ」
「やっぱり春っていいわよねー」
 見れば、いつの間にか妖精が増えていた。花の上にちょこんと座るその姿に目を留め、少年はしゃがみ込んで視線を合わせる。
「うん、春は気持ちいいの。皆も春が好き?」
「勿論! 僕達は春の妖精だからね!」
「早く春にならないかしらねー」
 僕も楽しみだと頷こうとした少年は妖精の一人がひらりと舞い上がり腰に手を当てたのを見て目を丸くした。
「こら、駄目だろう。そんなわがまま言ったら夏みたいになっちゃうぞ?」
「あー、それはいやー! また私達追い越して冬も追い出そうとしてるんでしょ?」
 途端に悲鳴のように首を振る先ほどの妖精。藤井は不思議に思って首を傾げながら訊ねた。
「どうしたの? 夏ってそんなに困ったことしてるのー?」
「そうそうそうなんだ、聞いてくれる?」
 妖精たちの唱和する声にうんいいよと笑顔で藤井は頷いた。


□季節の宮の
 三人は思わぬところで再び顔を合わせた。まず最初に気が付いたのは藤井だった。
「きれいなのー!」
 雅な和装の一団に綾和泉を見つけ駆け寄ると、優美な内掛けを羽織った綾和泉も目を留めて近寄ってきた。
「随分と可愛い人達と一緒なのね」
 言葉通り少年の周りには小さな羽のある妖精達が飛び回っていた。
「あのね、春の妖精さん達なんだー」
「そう、私は秋の方々と一緒なのよ」
 その時、がちゃがちゃと金属音を立てて近付いてきたものがいる。目を向けた二人はその眼差しを驚きのものに変えた。
「キャベツなのー!」
 鎧の上に乗っているのは確かにキャベツで間違いなかった。そして二つの――二人の?――キャベツを従えているのはギルバだった。
「夏と冬のキャベツだ」
 抑揚のない声が何故か嫌そうだった。
「そ、そう。……私はここのおかみに会いに来たんだケド君たちは?」
「ぼくもなのー」
 ギルバもまた頷く。三人は揃って季節の妖精達――キャベツがそうかと言われれば多少の疑問は残る――と共に彼らの主の元へと向かった。
 そこにあるのは大きな樹だった。青々とした葉が茂るそれにしばし目を奪われ、藤井が呟いた。
「これが、みんなのご主人さま?」
「……あそこ、見て!」
 逸早く見つけた綾和泉が指し示した方向に一人の男が佇んでいた。金色の衣を纏ったその男はこちらを見てにっこりと微笑んでいた。
「……あれか?」
「僕もそういう気がするよ」
 おそらくはあの金色の衣が鍵なのだろう、一目見ればわかると言うのは確かに正しい。
 綾和泉は彼に向かってここへきた事情を話し始めた。出鼻を挫かれた形でギルバは黙る。確かに鍵は欲しいが、人の話の邪魔は出来ない。
 央の宮に夏が、常にいたくて他の妖精達が担当の季節にまで攻め入ってくる、その説明に藤井も、ギルバも口を添える。主はしばし瞑目した後、こちらを見つめてた。
「じゃあ、君たちならどうするか教えてくれるかな?」
 穏やかな口調だった。答えようとした二人を制して綾和泉がそっと言った。
「多分ここでの答えで誰に鍵が渡るのか決まると思うわ」
 自分だけがその覚悟で答えるのもフェアではないような気がしたから考えていた事を告げた。それだけの事だったが、藤井は目を丸くして驚いた声をあげた。
「そうなの? ああ、でも言われてみればそうなのかもー」
「んな事知るか。……俺はちゃんと管理しねーてめぇが悪いと思う。上がしっかりしやがれ」
 彼の主は彼のやるべき事をきちんと決めてくれる。だから迷う必要はない。それがいいから、この主もそうするべきだとギルバは考えた。
 主が口を開く。
「でも、頭ごなしに決められたら嫌じゃないかい? やっぱり自分の意思で決めたいと思うよ」
「僕ね、皆がちゃんと仲良くすれば良いと思うよ。誰かだけがここにいるのがいけないなら皆でここに住めば良いと思うのー!」
 笑顔の意見に春の妖精が困ったように答えた。
「でも、ここに皆でいたら季節がぐしゃぐしゃになっちゃうんだ。それに僕たち自分の季節は好きだけれど、他の事は正直言って興味ないんだ」
「それじゃ駄目なの。いい所も皆一杯あるの」
 夏と冬のキャベツが声を揃えてそんな訳あるかと叫んだ後お互いにそっぽを向いた。
「季節ごとに一組しかここにいられなくて、そして他の季節が嫌いなら……そうね、こうしたらどうかしら? 央の宮にいない皆はお互いに訪ねあったり、一緒に過ごしてみたりするの。そうすればお互いいい所がわかると思うわ」
「一緒にいれば仲良くなれるかもしれないね! うん。それが良いかも!」
 綾和泉の言葉に藤井が大きく頷いた。季節の妖精達にも特に不満はないようだ。主は一堂を見渡すと一つ頷いた。
「では、そうする事にしよう。今日からしばらくは春の野原で皆で過ごしておいで……さて、そこの女性、名前を知らないけれど、君は良いアイデアをくれたね」
 お礼にこれをどうぞ、そう言って、主は着ていた金色の衣を差し出した。
「ありがとうございます」
 深く頭を下げて受け取った瞬間、辺りの喧騒が消えた。
「あれ? どうしたの?」
「鍵を見つけたからゲームオーバーです。今回の勝者は綾和泉さんですね」
 宙から舞い降りた涼蘭の鈴がしゃんと涼やかな音をたてた。


□そして元の世界へ
 涼蘭が何もない場所に現れたドアを開くとそこは元の部屋に続いていた。
「便利ね、これ」
 思わず呟いた綾和泉にまだまだですよぅと涼蘭が照れた。
「もうちょっと自在に操れるようにならないといけないんですケドねぇ」
「あれだけ出来れば十分だと思うのー」
「ありがとう。今まだ夜中ですから、良かったら皆さんの部屋までお送りしますよ」
「……俺はいらん」
 ギルバは不機嫌に言って踵を返した。その背中に声がかかる。
「ゲームにお付き合いありがとうございました。またいずれ」
 涼蘭の声が聞こえたのか聞こえなかったのかギルバは去った。涼蘭は女性と少年に向き直る。
「では行きましょうか、お二人とも」
 彼女はしっかりと玄関までのドアを開いてくれた。


fin.


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
 2355/D・ギルバ(ディー・)/男性/4/墓場をうろつくモノ・破壊神の模造人形
 1449/綾和泉・汐耶(あやいずみ・せきや)/女性/23/都立図書館司書
 2163/藤井・蘭(ふじい・らん)/男性/1/藤井家の居候

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■         ライター通信          ■
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 依頼に応えていただいて、ありがとうございました。
 小夜曲と申します。
 今回のお話はいかがでしたでしょうか?
 もしご不満な点などございましたら、どんどんご指導くださいませ。

 涼蘭の提供したゲームは、いかがでしたでしょうか?
 今回は涼蘭が失敗してしまいましたので、前回のゲームからは一風変わったものになりました。季節の妖精が季節が変わるたびに現実の今にやってくる。そんなイメージでしたが、乱暴モノの夏には今の季節にはちょっと位来てもらっても良いかもしれない。などと思ってしまいそうです(笑)

 ギルバさま、初めてのご参加ありがとうございます。
 乱暴そうに見えて弱者への配慮を持っている、しかしやっぱり心の根底には戦いへの渇望がある、そんなイメージで書かせていただきました、いかがでしたでしょうか?
 キーワードだけでしたのでこちらでイメージするままに書かせて頂きましたが、出来ればキャラ口調や苦手ならばPLさんとしての説明でも出来る限りで構いませんので入れていただけましたら、よりイメージに近いものが作成できるのにと思うと残念な気が致します。出来上がったものが少しでもイメージにかすっていると良いのですけれど……。
 今回のお話では各キャラで個別のパートもございます(■が個別パートです)。
 興味がございましたら目を通していただけると光栄です。
 では、今後のギルバさまの活躍を期待しております。
 いずれまたどこかの依頼で再会できると幸いでございます。