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■音楽都市、ユーフォニア ─破壊へのカコフォニー─■

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【1831】【御影・涼】【大学生】
 十二月の空気の下に放置していた銃身は冷やりとしていた。
 その冷たさが体温と同化するまでの僅かな間だけ、傷の痛みも耳鳴りの不快感も漠然とした不安も、全て感じずにいられた。
 十七年間、時間の流れは残酷な程に遅かった。苦痛な程に退屈な、長い前置きだった。一つだけ分かったのは、待っていても誰も爆弾を落としてはくれないと云う事だ。
 他者に何を求めても、壮大な破壊は与えられない。
「……只で死ぬ気は無いからな」
 結城・磔也は生気の無い目を細めて呟いた。

──お前も道連れだ。
音楽都市、ユーフォニア ─破壊へのカコフォニー─

【xxx】

──ユートピア国家の理想は軍部と専制政府の完全なる支配下に因ってこそ実現され、それでこそ研究に於ける完全なる秩序とその研究を通じて芸術が目指す素晴らしい成果が保証されるというものである──

 東京音楽才能開発教育研究所内の大ホール。客席は暗く、伽藍としている。ただ一人、冷めた瞳をした未だ幼い少年が独りだけ、二階席の隅で舞台上のピアニストが奏するソナタに耳を傾けていた。
 少年がぼんやりと耳許に手を翳した時、彼の背後からその肩に手を置いた人間が居る。
「……──先生?」
「……いや、」
「──……?」
 見知った筈の人物の、異質な表情を子供らしい敏感さで悟った彼は眉を顰めた。
 その男は笑みを浮かべた視線を舞台に向けたまま、少年の耳許で囁く。
「どう思う?」
「……上手い。……部類なんだろう」
 子供らしく無い、捻くれた返答だ。男は満足気に頷いた後で、どこか相手を話に引き込む力の在る朗々とした調子で語った。
「そうだ。彼は世界に向けても充分に通用する実力を得た。だが、所詮は旧式なんだ。君は頭が良いな。そしてそれは冷静な評価だ。君の感性に間違いは無い。彼のピアノは素晴らしい、だが、退屈だろう。時代は進化して行く、今やただ上手なだけでは世界の目を惹き付ける事は出来ないぞ。何かが、必要なんだ。残念な事に今時の聴衆は贅沢でね、美しい和声などただの背景としてしか認識出来ないんだ。然し、限界を極めた技術の巧みというものは芸術の枠を越えて万人を魅了する。いいかい、今、こうして私と君がお喋りしている内にも時間は流れる、その一分一秒の間に、世界は進化しているんだ。その進化の最先端を行く技術を、君ならば得られるぞ。どうだ、君は世界が欲しくは無いか」
「……別に」
 然し、少年の目には本当に僅かな、余程注意しなければ見逃してしまいそうな動揺が見えた。男はその変化を見逃さなかった。
「見給え」
 舞台の袖に、じっとピアニストを見守る少女の姿があった。彼女を見遣った少年は口唇を半ば開いて、声を発する前に押し止めた。
「君のお姉さんだ」
 少女の陶然とした瞳は、ただピアニストだけに向けられていた。こんな暗がりで交わされる、少年と男の会話には気付きもしない。
「表現など、極めようとすればキリが無いぞ、仕方無い事だ、音楽は人類の歴史を遡った太古から存在する。然し、技術には最先端が存在する。時代の最先端を極めた者が勝者だ。勝者には全てが与えられる。……彼女の意識など、簡単に手に入るぞ」
「……、」
「来なさい」
 男は、少年の腕を取って立たせた。舞台上では、演奏を終えたピアニストにパパ、と歓声を上げた少女が駆け寄った所だった。
「君に最高の高みを見せてやろう。先ずはリストだ。今でも、彼の超絶的な技巧を全て弾き切れる奏者はそうそう居ない。だが君はそれを全て得る。然しそこで安住しては駄目だぞ、新しく生み出され続ける技術も知識も、絶間なく吸収するんだ。その為には特訓も勉強も必要だが、耐えられるな?」
「……、」
 未だ、未練があるように舞台を振り返って少女と、その頭を撫でてやっているピアニストを見遣った後に少年は頷いた。男は満面の笑みを浮かべて頷き返す。
「良いだろう。──自己紹介をして置こう、私はクシレフだ。……後で君に、私を見つけ出す為の合図を教えて置こう。簡単な旋律だよ。私はその旋律を象徴として、何処にでも、君の為に現れよう」
「……クシレフ、」
「私と一緒に革命を起そう。君に、ユーフォニア──音楽一つで君の意のままに動く世界をプレゼントしてあげよう」
「……音楽に何が出来るって?」
 少年は幼い顔立ちに似合わない、嘲笑的な笑みを口許に浮かべた。
「何でも出来るぞ。人間の精神を操る事も、世界の流れを決定する事も、何でも。音楽は絶対だ。但し、生易しい美学は不可ないな。情は捨てる事だ。後々、役に立たない所か邪魔になる」
「……クシレフ、」
 何だ、──男は笑顔で頷く。
「──俺に世界を見せてくれ。……その為なら、あんたの云う事を聞く」
「上出来だ。──結城磔也君」

 『Dies Irae 怒りの日』の旋律と共に、その日から少年の世界にクシレフの思想が君臨する事になる。

【12:30_D】

 携帯電話が着信を告げた。『公衆電話』と云う表示を認めた瞬間、御影・涼(みかげ・りょう)の感応能力が直感で相手を知らせた。
 何事だ、と云う不安と共に無性に腹立たしい気持ちで、涼は素早くキーを押した。
「もしもし!?」
『──……、』
 返事の代わりに、ザ──……と云う波の音が遠くに聴こえた。波……海岸か、と焦点を絞って場所を探りながら、涼は電話口に向かって捲し立てた。
「誰かは分かってるぞ、磔也、お前だろう、」
『……、』
 一度、何か云おうとして寸前で飲み込んだような声がした。その後は再び沈黙と、波の音だけが続く。──居た。お台場の海浜公園だ。そんな所で何をやってるんだ、と涼の苛立ちは更に募る。こっちはこんなにも心配しているのに、珍しく自分から連絡して来たと思えば沈黙したままである。無意識の内に、涼は慣れないスーツのネクタイを緩めていた。
「磔也、お前太巻さんに頼んで拳銃を持ち出したそうじゃ無いか。一体、何をするつもりなんだ、分かってるのか、そんなもの、慣れない人間が発砲したら手を駄目にするんだぞ! ──何とか云えよ、磔也!」
『……、』
 今度は、少しはっきりと声が聴こえた。
「何だって? ──、」
 そこまで云って、はっと気付いた。
「……磔也、お前、聴こえてるか? 俺の声、まさか全然聴こえないんじゃ無いだろうな、いいか、少しでも聴こえてるなら何でも良いから返事しろ、」
 祈るような気持ちで、涼は懇願した。磔也の難聴は進行しているらしい。前に言葉を交わしてからここ一ヶ月程の間に、どこまで深刻になったかは知れない。進行の度合いは個人差もあり、不規則だ。然し、まさか今は会話すら聴こえなくなっているのだろうか。
 ──が、不安になった涼が磔也の精神へ直接訴えようとした時、彼は意外な程はっきりと言葉を発した。
『──やめろよ、俺の頭ん中とか、覗くんじゃ無ェぞ。絶対に』
「……聴こえてるならもっと早く返事しろよ、」
 安堵して、涼は肩を落としながらつい文句を洩した。──が、電話口の相手は一度口を開いた後、今度は延々と脈略の無い事を話していた。
『生憎覗かれたって俺はその事には抵抗出来無いけどな、ただ、今そんな事してみろ、お前、通りがかりの人間刺すぞ、多分。──いや、俺じゃ無くて、……お前、同調するんだろう』
「磔也? 何云ってるんだ?」
 ──何が云いたいんだ、と涼は心の声で訴えた。
 駄目なのか──、涼は口唇を噛み、黙ったままで耳を傾けた。
『……あー……、優男、お前、今日どうせ巣鴨行くんだろ』
 ──行くよ。止められたって、絶対に行くからな。
『……物のついでに、……、……あの……、』
 尋常では無かった。いつでも自分の都合で相手を振り回し、頼み事があれば完全に命令口調の磔也が、云いたい事があるのに中々切り出せない、と云うように言葉に詰っている。
 涼は辛抱強く待つ。──息を飲む音、波の音、……また、喉元まで出かかった言葉。
 何分程立ったか、磔也はようやく切り出した──と思えば、その声は完全に冷静さを欠いていた。
『──……を、……助けてくれよ、』
「磔也!?」
『……レイ、』
「……え、」
『……あのバカ女、何も知らないんだ。このままじゃ、……頼む、レイを護ってやってくれないか、お前にしか、こんな……、……助けてくれ。──御影、』
 ──あ。
 同時に、回線は切れた。呆然と耳障りな不通音を発する携帯電話を持つ手を下ろしながら、涼はぼんやりとどうでも良い事を考えていた。

──あいつ、初めて俺の事名前で呼んだな……。

──軽いもんだ。

 受話器を置き、磔也は目を細めて息を吐き出した。これだけ譲歩して情に訴えるような台詞でも吐いておけば、あの優男の事だからその辺りは適当に動いてくれるだろう。
 ──殆ど何を云っていたか聴こえなかったのは不安材料だが、大体は予想通りだろう。やめろと云ったら同調するのもあっさり止めたし。甘い奴。ああいう優男は適当に利用するに限る。
「……、」
──俺は、あいつを利用したんだ。ただ、それだけの筈だ。……さっきのは演技だ、あいつがレイにだけかまけて俺から注意が反れれば良い、──だから。……本心じゃ無い。──絶対に。

 目の前には、冬の陽射しを受けた東京湾の水面がきらきらと輝いていた。
 ──この海原が、どれだけ遠くてもフィンガルに、……イメージの中のヘブリディーズに続いているなら……。

「──とか、そんな感傷に浸る訳無ェだろ、この俺が」
 遣る事が無くて、時間より早くJRに乗り込んでしまい、何となく途中下車して私鉄に乗り換えてみただけだ。暇潰しに。
 煙草、──切らしたままだ。磔也は軽く舌打ちした。
「……ったく……、死刑囚でも最期には一服出来るっつーのによ」

【13:00_BCDEH】

「ここまで来た以上、レイさんに事情を伏せて置く訳にも行かないだろ」
 昨日の後では、今日もレイを勝手に行動させて東京コンセルヴァトワールの人間の懐に置くのは危険だ。何とかして行動を共にするようにしなければならない。
 一先ず彼女を一同の集合場所でもあるリンスター財閥総帥、セレスティ・カーニンガムの屋敷へ呼び出したものの、時間になっても現れない彼女を待つ間に天音神・孝(あまねがみ・こう)が先程のように意見を述べた。が、それは全員の意見の代表でもある。
 幾ら何でも、未だ「さあ何が起こっているんでしょう」では済まない。最悪の場合、今日、彼女の思慕する養父でもあるピアニスト、結城忍がそのピアノ演奏で以て混乱を引き起こすかも知れないのだ。涼や亮一の話から、レイの弟、磔也が実銃を持ち出した事も分かっている。──悪くすれば、死人が出る。磔也にしても、絶望と自暴自棄の絶頂にある彼が一体何を考えているのか分からない。常に最悪の事態も考えておかなければならないとすれば、その銃口がレイや忍に向かないとも限らない。
 レイは何も知らない。表向き、新設のコンサートホールで開催される、──オーケストラを一切使用せず、代わりにオーケストラピアノとやらを使用すると云う少々風変わりな趣向であっても──ただのオペラの裏で起こっている一連の事件の詳細も、また彼女や磔也が現東京コンセルヴァトワールの前身、東京音楽才能開発教育研究所で造り出された結城忍のクローンである事も、何も。
 然し、只でさえ混乱を来している彼女に突然「君はお父さんの娘では無く実験として女性に造られたクローンなんだ」などと告げるのは酷である。また危険だ。
 その辺りは伏せ、レイと磔也は実の姉弟だが二人は結城家の養子である事、また、東京音楽才能開発教育研究所基い東京コンセルヴァトワールは最終的には音楽をプロパガンダに利用してフランスを拠点に、世界規模のテロを起そうと画策している、その為に音楽の活用方を探って、大分非人道的な実験さえ行っている機関である事を話すことにした。──また、彼女が幼い頃からの知り合いと云うだけで無条件に信頼している東京コンセルヴァトワールの黒幕一味、冨樫一比やシドニー・オザワへの警戒も促す。
「……俺、どうも話が巧くないしさー、……その辺、総帥とか田沼さんとかで巧い事説明してくれるか?」
 提案した後で、孝は極まり悪そうに頭を掻きながらそう云う。無理もあるまい、孝はレイから奴隷か便利なペット程度にしか認識されていない。
「分かりました、その辺りは何とか」
 亮一は気安く請け合う。表面上、気安そうだが、──これは難しい、と思いつつ。
「じゃあね、その間、ちょっと天音神君にお願いしたい事があるんだけど、良い?」
 思いがけずシュラインが孝に微笑み掛けた。断る筈が無い。孝は「はい!」と元気良い返事をして、シュラインの手招きする部屋の一隅に収まった。
 レイが浮かない表情で、珍しく常識的な速度のロードバイクで敷地内へ乗り込んだのは直後の事だ。 
 窓から先にそれを認めながら、セレスティは陵君、と秘書の名前を呼んだ。
「──はい、」
「暖かい紅茶と、何か甘い物の用意を。……気分を落ち着かせてくれるものが必要です」

【13:30_BCD】

「レイさん、大丈夫?」
 顔を覗き込んで気遣う涼に、レイは「大丈夫じゃ無い!」と当り散らした。然し、責める事は出来ないだろう。今現在、彼女の混乱を思えば想像して余り有る。
 セレスティと亮一が慎重に言葉を選んで説明を行っても、動揺するなと云う方が無理であった。然も根が我侭な性格だ。セレスティが取り敢えず、と修一の用意した紅茶を勧めても、「要らない!」と喚いてそれを片手で払い除け、高価なボーンチャイナを中身ごと床に落として叩き割ってしまった。ぴくり、と修一が眉を吊り上げたが、セレスティは寛容にも黙ったまま首を横に振ってただ後片付けだけを命じた。
「もうヤだ、私、今日は行かない、」
「そういう訳にも行きませんよ、レイさんは当事者なんです。それに磔也君も結城さんも何をするか分からない以上、見ない振りは出来ないですよ」
 亮一はこれは実銃と同じ位には厄介だ、と諦めて説得を始めた。
「それに、今後はあまり無防備に東京コンセルヴァトワールに近づいては駄目です。特に、冨樫氏とシドニー・オザワには」
「煩いわよ、大体何で、あんた達に云われなきゃ不可ないの、放っといてよ! ──知らない方が良かった、何で、いちいちそんな事まで調べるのよ!」
「──レイさん、」
 厳粛な調子でセレスティが咎めて初めて、レイは黙った。──う、と逆らう訳にも行かないセレスティの容貌を見て黙っている辺り、ただの八つ当たりだった事が分かる。亮一はその隙に彼女の肩に手を置く。──少しずつ、異様な心拍数を呈していた彼女の精神が鎮まって行く。
「分かりますよ、レイさんの気持ちは。ただ、自棄を起しては駄目です。──自棄になって騒動に便乗するのは、磔也君だけで充分ですねぇ」
「う」
 巧い事を云ったものだ、とセレスティは亮一を眺めて微笑んだ。亮一は更に告げる。
「……それと、これに懲りて人間不審に陥っても駄目ですよ。結城氏だって、本心ではあなたの事が可愛い筈なんです。この際だから全て白状しますけど、俺がレイさん達の養子の件を聞いた時、本当の御両親を御存じないか訊ねたんです。──こう、仰ったんですよ、あなたのお父さん。『今は私の娘です』──と」

【14:00_D】

「レイさん、一つだけ云って置きたい事があるんだ」
 何、とぶっきらぼうに答えた彼女に、涼は先程磔也から電話があった事を伝えた。
「あいつ、何て云ってたと思う? こう云ったんだ、俺に。『レイを護ってやってくれ、あいつは何も知らないから』って」
 磔也、と聞いて顔色を蒼白に変えていたレイだが、それを聞くとフッ、と投げ遺りに口唇の端を持ち上げた。
「で? 御影君、それ聞いて感動しちゃった訳? ああ、磔也も姉思いなんだなあー、って」
「そうだよ。でも、俺は元から信じてたけどね、磔也は、少なくともレイさんの事だけは大事に思ってるって」
「刷り込みでしょ? 私に執着するように、って云う」
「それだけじゃ無いよ、屹度。──本当に。知ってるだろ? 俺が、他人の精神状態には敏感なの」
「──……、」
 フ──……、とレイが口唇を尖らせて息を吐いた。勢いで前髪が跳ね上がり、誰かに似た目許が露になった。レイが敢てそんな真似をしたのは相手が涼しか居ないと云う安心の為だったのだろうが、その目は何とも反抗的だった。わざと見せ付けたとしか思えない。
「云う訳無いでしょう、あの自己陶酔だけで出来た不良が、本心からそんな事。何か裏があるのよ。御影君、騙されてるわよー、矢っ張り君、甘い甘い」
 涼は少しだけ眉を持ち上げた。──が、そこは彼の事だ、直ぐに穏やかな表情を取り戻して仕方ないな、と微笑む。
「かも知れないね。でも、俺は別に騙されたって良いと思ってるよ、そんな嘘にならね。……って訳でさ、俺、今日は何があってもレイさんの事、護るから。レイさんに何かあったら俺、一生磔也の顔が見られない」
「……あ、そ。護ってくれるんだ。有難う。──で、それは磔也がそんな見え透いた嘘を吐いたから、だけ?」
 指先で前髪を挿んでまた目許を隠しながら、結局は彼女の我侭な性格らしいやや拗ねた調子でレイは涼を見上げた。
 いや、と涼はそれに対してははっきりと首を振る。
「俺の意思だからだよ」

 ぱす────────ん!!!

 ……と、この爽快な物音が何かはお分かりであろう。念の為に蛇足を付け足せば、何処からとも無く出現したハリセンである。
「──当たり前でしょ、そんな無意味に自信持つんじゃ無いの!」
「……、」
 後頭部を撫でながら、涼はやれやれ、と──ようやくレイが彼女らしさを取り戻した事に安堵しながら──肩を竦めた。
「御影君は、誰に云われなくたって私の事護ってくれなきゃヤだ! 弟子でしょ、それ位してくれて当たり前じゃない、そうでしょ!? ……ねえ、そうでしょう? ……もし、磔也が何も云わなくても、護ってくれてたわよね?」
 勿論だよ、と涼はレイの頭に手を置いた。
「だから、今日は絶対に俺から離れちゃ駄目だよ。俺は何よりもレイさんの安全を優先する、でも何があるか分からないんだ。いざって云う時に、傍に居ないと護りたくても護れないから」
「分かってます」
 つん、と拗ねたように答えてレイは涼の右腕にぶら下がるように抱き着いた。──もしもし、レイさん? と涼は笑わずに居られない。
「……未だ、ホールじゃ無いんだからさ、そこまでくっ付かなくて良いよ」
「私の勝手よ! 分かってるでしょ、頭の中がぐちゃぐちゃなのよ! 癒して!」
「──はいはい、」 

【18:15_ABCDH】

「レイさん、」
 とんとん、と肩を叩かれたレイが振り返ると同時に、シュラインが手に何かを滑り込ませて来た。ちらり、と視線を落としてこっそり確認すると、携帯電話である。
「シュラインさん……、駄目じゃない、電源切らなきゃ……、」
 未だ混乱している所為か、彼女はどうでも良い事を呟く。シュラインは微笑んだまま首を横に振り、耳許で囁いた。
「孝君と私からプレゼント。この携帯で、ホール全体の主電源と火災警報装置の操作が出来るようになってるの。操作は簡単だから分かると思うわ」
「……何で、私が?」
「お願い」
 シュラインは片目を閉じた。
「私達、連中への対処だけで精一杯だもの。観客の避難はあなたが先導して行って、ね?」
「……無理、そんな責任ある役目……、」
「出来るよ、レイさん」
 俺も横に居るから、と涼は笑顔を向けた。む、と唸って黙り込んだ後、レイは「分かった」と携帯電話の操作を確認し出した。
「じゃあ、そちらは安心してお任せして、と」
 シュラインは、レイに責任感からかやや真剣さが見えた事に安堵して着席した。
「田沼さん、今日はどんな感じ?」
 そして亮一に話し掛ける。どんな、とは……。──『今日はどんな感じで仕掛けてるの?』と云う事だ。彼の、「遮断」能力を。
 場慣れした人間にはある程度分かるものだ、超常的な能力が周囲に働いている時。
 亮一が微笑んで口を開こうとした時、作業着のジーンズでは無く、ややノスタルジックな淡いピンクのフレアスカートに白いブラウス、黒のカーディガンと云う服装に着替えた倉菜がやって来て、一同に軽く会釈して着席した。学生らしく派手では無いが、襟元に赤いリボンを結んでいるあたりがフォーマルらしい。
「まあ、保険ですかね。ピアノ自体は硝月さんが任意に操作出来るらしいので、一応、内から外への影響だけを軽減して」
「最悪、私はピアノの弦自体を消滅させます」
「……最悪?」
 何故最悪のケース? とやや気掛かりな事をシュラインが聞き咎めた。
「……余り、望ましく無いので。何故かと云うと、ピアノの弦と云うのは普通のグランドピアノでも数トン単位の張力が働いているんです。オーケストラピアノの調整をしながら構造を見ましたけど、構造的には教会や大ホールにあるパイプオルガンのようなものなの。普通はピアノの固体だけに掛かっている張力が、ホール全体に掛かっている。それを一気に消滅させたとしたら、反動が怖いわ」
「……良く分からないけど、もしかして壁がゴンゴン迫って来たりする?」
 先日セレスティの屋敷で聞いた、ベルリオーズのスプラッタ小説の内容を思い返して涼が訊く。作中では内側向けて迫って来るのは鋼鉄の壁だったが……。
 因みにこのホールは天井も壁も床も全て木である。クラシックコンサートに適した残響を提供し得る理想的な構造だ。
「まさか、それは無いと思いますけど。ただ、物凄く不快な音がするかも知れない」
「──はあ、耳栓はその対策も兼ねてる訳ですね」
 亮一は頷き、莞爾と倉菜に微笑み掛けた。
「何かあったら合図して下さい、『遮断』しますから。音、と云うのは微妙なんですが、ある程度は軽減出来ると思いますよ」
 だから安心して弦を切断でも消滅でも何でもして下さい、と。
「お待たせしました」
 ──と、そこへ現れたのがセレスティである。単身だ。一同の横には、2席の空席が残ったままである。

「涼さん、磔也君は……、」
 倉菜の問いに眉を顰めて涼は首を振った。
「……今日も、来ないのかしら、」
「来る訳無いわよ、あの卑怯者が、ヤバい事が分かってるような場所に」
 レイが未だこだわって憮然と呟くが、涼は「いや」と制した。レイには黙っておくが、実銃まで持ち出して来ない筈は無い。
「途中入場は出来ない筈だわ、休憩無しだもの、今日のプログラムだと」
「──出来ない、って云っても入口で止められるだけだろ? 通用しないよ、アイツには。……それか、急にどこかの窓とかから入って来るか──」
「磔也、裏口から入れる」
 窓から入るとか何とか、自分に取っても都合の悪い話題を反らす為かレイが口を挟んだ。「そうなの?」と涼は瞬いた。
「アイツ、関係者に顔通じるから。私だってしようと思えば出来るわよ。奏者の親族だもん」
「──そうか、……じゃ、何処から来るか分からないな」
 ──ともかく、彼の気配には常に気を最大限配っておこうと涼は思い極めた。
 
 そうする内にも、客席は段々と学生で埋まって行き、とうとう開演を告げるアナウンスが鳴って照明が落ちた。
「孝君と、葛城君は?」
 何も知らないレイが身を乗り出して(知らない事は何でも彼に訊けば分かるとでも思っているらしく)セレスティに囁いた。
「もう直にお見えになりますよ」
 ──そう、もう直ぐに……。

 但し、客席には現れないが。

【19:01】

「……うわぁ、ウィンさんキレイ……、」
 レイが呟いた。ウィンは譜捲りと云う裏方なので黒一色だが、それでも彼女らしく豪奢でセンスの良いドレスを着ていた。その服装で、輝かしい笑顔をちらりと客席に向けた彼女は同性(特に女を捨てた人間からは……)から見ても非常に美しい。
「……葛城君、……それに天音神君も勝るとも劣らないと思いますよ。楽しみに御覧なさい」
 傍らでカーニンガム総帥は何やら意味深長な事を宣った。

 一個のオーケストラに値する豊かな音色の幅と音量を持つオーケストラピアノ。
 結城忍、──シェトランの手に拠るそのオーケストラピアノで、序曲が流れ出した。
 暗転した舞台に、一条の光が射す。そこに照らし出されたのは、最愛の妻を失い、悲嘆に暮れるオルフェオの姿である。

「……ん?」
 レイは疑問を発しそうになって、慌てて声を飲み込んで内心で呟く事にした。
 オルフェオ……、別に黒髪のまま演っても良いんじゃないの? 鬘にしても金髪か栗色かその辺り……、──わざわざ、明緑色にしなくても。──にしても、どこかで見たような色だわ……。
「……ああ、葛城君です。彼は」
 序曲のダイナミクスに合わせ、囁きが漏れないよう低声で、然しどこか楽しそうにセレスティが答えた。
「か……葛城君!? 何で、里井薫じゃ無いの?」
 レイも愕然としながら低声で更に質問を。
「……と、天音神君です」
「!?」
 ──道理で、何処かで見たと思えば。……「あまねちゃん」……、孝の合体した魔法少女の姿である。レイを始め、結城家の人間にはお馴染みも良い所だ。
「……、」
 涼がちらり、と危惧したのは、もしこの場に磔也が乗り込んで来たとして舞台上の彼、否彼女の姿を見て激昂し、銃口を予定変更してあまねちゃんに向けてしまわないだろうか……、と云う事である。──まあ、流石に杞憂に終わるだろうが……。
「オペラでは化粧も濃いですし、要は、『天使の歌声』であれば良いのですから」
「はあ……、」
 天使ねぇ……、とレイはぼやく。あまねちゃんの美しいソプラノで、樹が主導権を持って歌唱力を発揮すれば確かにそれはもう天上の歌声になるだろうが……。──イマイチ複雑。

【19:11】

──Ah, se intorno a quest'urna funesta, Euridice, ombra bella, t'aggiri……

 オルフェオに先駆け、羊飼いとニンフのコーラスが歌い出す。通例は、そのコーラスも舞台上に配置されているものだが本日に限れば、舞台上には抽象的、且つ現代的な演出の舞台装置の中に居るのはオルフェオ……嗚呼もうややこしいのであまねちゃんにして置こう、彼女だけである。──コーラスは、何時かのように3階バルコニーから「降り注いで」来た。

「……成る程……、」
 セレスティは片方の眉を少しだけ持ち上げ、口許には笑みを浮かべて「彼等」を見上げた。
「……何れにせよ大人しくしては居ないと思いましたが。──まあ、宜しいでしょう」

──オペラが上演されている内は、出演者ならば限界までは起きていても許しましょう。

【19:27】

「……、」
 シュラインが、俄に耳を覆った。片手で倉菜から貰った耳栓を探ろうとして、──然し、と思い留まったように再び仕舞う。指先でこめかみを押さえ、眉をやや顰めて俯くことで我慢していた。丁度、第一幕の終わりに近いレスタティーヴォをあまねちゃんが、それこそ天使のような歌声で歌っていた時だ。
「シュラインさん?」
 亮一が顔色を伺いながら訊ねた。──「遮断」します?
 いいえ、とシュラインは手を振って亮一を留め、倉菜に耳打ちした。
「──気付いた?」
「……、」
 倉菜も黙ったまま頷いた。──妙な音が紛れ込んでいる。
 不協和音では無いし、楽譜から外れた音は特に音に敏感な彼女達二人が耳を澄ましても聴こえない。──が、何か、強拍(※便宜上、ここでは小節毎の一拍目と定義する)毎に心臓に響くような、神経に触るリズムが刻まれているような気がする。
「──……、」
 それを受け、セレスティが耳を澄ました。彼は直ぐにああ、と頷く。
「コンティヌオ──通奏低音です。古典作品の多くに見える、伴奏のバス声部。大抵はバス音や和音記号等が示されているのみで、内声は奏者の即興性に任される。……どうも、そこにある振動数の倍音が発生するようなばかりを選んでいるようですね」
「……、」
 どうしよう、と倉菜は逡巡した。何か、不協和音で無くとも特定の音域で人間の不快感を煽るような音が存在する筈だ。それがどの辺りの声部かは、今暫し様子を見れば自分なら割り出せるだろう。──が、良いのだろうか。こんな当初から弦が切れれば、結城忍が異変に気付かない訳は無いし、こんな大掛かりな構造のピアノの弦を切った結果の影響も明確には分からない。それに、自分達でさえここまで不快感を味わっているのだ。周囲の音楽専攻学生達、──一般人で、その上音には敏感な人間が多いだろう彼等にも直ぐに悪影響が出る筈だ。のんびりしていて良いものか。

 舞台上では、彼(女)もまた異変に気付いたらしいあまねちゃんが、少しでもその影響を軽減す可く、不快音──カコフォニーへ呪歌で対抗し続けている。
 ──樹君が頑張ってる、……でも、どうしたら……。

「……気持悪い」
 徐ら、レイがそう呻くと口許を押さえて項垂れた。レイさん、──涼が慌てて支える。
 
 オーケストラピアノの壮大なダイナミクスと、あまりに反響の良いホールに響く音楽は最早、そこまで騒ぎ出した彼等の物音をさえ掻き消していた。

【xxx】

『低周波振動公害』
 
 ……新幹線や多数の大型トラックなどが高速走行すると、その重量やエネルギーは非常に大きなもので大地をも揺るがす。
 こうして発生する振動は大地と云う非常に大きな面積と大きな質量であるため、物理的にも必然的に波長が長くなる。このため、可聴域以下の低い周波数帯域(20Hz以下)の振動が発生し、大きな振動エネルギーで波長も長い事から広範囲に伝播する事になる。

 ……循環系への影響/生物には外界からの刺激に抵抗して体の中を安定した状態に維持しようとする働き(恒常性)があり、これを維持する為には交感神経の反応や、下垂体副腎皮質の系統などが関与すると云われている。振動刺激に対しては、交感神経に影響が現れ6Hz近傍で心血管系の反応が顕著に現れる。

 ……呼吸系への影響/呼吸系への共振周波数と考えられている3あるいは4〜6Hzにおいて著明。上下振動では呼気の場合6Hz、吸気の場合5Hz、水平振動に対しては呼吸ともに3Hzに最大の山があると認められる。
 
 ……消化器系への影響/交通車両従業員で胃症状が訴えられる率が高いが、これも4〜5Hzにおいて最大の影響が認められている。

 ……心理的影響/ストレス、不快感、苦痛、不安感、恐怖感などをもたらす場合が多いことが知られている。

 以上、振動音響療法的見地からの雑学を蛇足ながら述べてみた。

【19:32】

 オペラは第2幕へ移行し、愛の神アモールがそろそろ登場するか、と云う時である。

 ──ジリリリリリリリリリリリリリリリリリリリ…………!!!!

 突如、幾ら火災警報装置と云え「有り得ない」程姦しいベルが響き渡った。元々注意喚起の為大音量に設定されている警報が、ホールの反響を借りて増幅されたと思えば当然である。
 大した騒音だ。東京コンセルヴァトワールなんぞが出て来ないまでも、これだけで充分音楽──とは云えないが「音の暴力」だ。
 最初の1秒程を聞いた時点で、予めその事が頭に合った一同だけは耳栓が間に合った。他の観客はと云えば、驚く、慌てるの前にあまりの姦しさに耳を塞いで絶叫している光景が多々見受けられる。

「早いよ、レイさん!!」
 ──幾ら何でも! レイが蹲ったと思ったら、片手ではちゃっかり例の携帯電話(=火災警報発動装置)を操作しているのを認めた涼が、耳栓をした上更に耳を塞ぎながら呆れて叫ぶ。
「だってぇ!! 気持ち悪いんだもん!!」
 筆者の知る所では無い。レイに操作を任せる事を提案したのはあまねちゃん、では無く孝である。それが、良い結果に傾いたか悪く傾いたかは、中々に判断の難しい所だ。

【19:33】

 響きの良いホールの特性が役に立った。ベルが途切れたと同時に、シュラインは反響を調節しながら殊更機械的な──録音音声を、スピーカーを通して流した声を模して──声色と調子で朗々と語り始めた。

『火災発生、当ホールのスモーキングルームより火災が発生しました。御客様にお願いします、以下の指示に従い、速やかに退避して下さい。混雑を避ける為、最寄りの出口に近い座席の御客様より順番に外へ退避して下さい。火災発生、当ホールのスモーキングルームより──、』

【19:37】

「……何だよ」
 すっかり暗くなった夜道を、遠くに巣鴨ユーフォニアハーモニーホールを仰ぎ、中からわらわらと出て来る人の群れを認めた磔也は呆然と呟いた。
「……あいつら、何かやらかしやがったな」
 東京コンセルヴァトワールの思惑通りに進んだとすれば、観客が一斉に逃げ出す筈は無い。磔也は立ち止まっている彼にぶつかった手近な青年を掴まえ、「何があった?」と訊ねた。
「……、……」
 彼は短く、この混乱の中では磔也には到底聞き取れない言葉を吐いてまた逃げて行った。
『火事だ、君も逃げろ』
 読唇術は得意では無い。が、恐らくはそう云っていた筈だ。
「火事ィ……?」
 眉を顰めながら人の流れから脇に反れ、ホールを見遣る。
「……んな訳無ェだろ」
 コートのポケットに手を突っ込んだまま、人混みに逆らう。──好都合だ。俺は、あいつらさえ殺れれば良い。

【19:49】

「……まあ、良いでしょう」
 亮一はのんびりと観客の逃げて行ったと思しい方角を見遣りながら呟いた。避難してしまえば、後はセレスティが予め配備しておいてくれたSP連が誘導してくれるだろうし、不審に思った所で再びホールには入って来られないよう、「遮断」はしている。

 さてさてそうしてホール内部は壮観な程にすっきり──基い伽藍としてしまった。残っているのは、客席には倉菜、セレスティ(彼が呼んだ録音技師も、流石に火事となれば殉死する意味も無いので既に避難したらしい)、亮一、涼、シュライン、レイ、そしてオーケストラピットのウィンに忍、舞台上でオルフェオの衣装のまま立ち尽くすあまねちゃん、3階のコーラス達は眉一つ動かさずにそのまま、……スタッフでも本当に何も知らない連中は避難した。後は、東京コンセルヴァトワールの人間程度である。冨樫、シドニー、……いつの間にか物陰に現れた水谷・和馬。

「……あーらら」
 コツ、コツ、……とヒールの高いサンダルが舞台を踏む音が響く。シドニーだ。シドニー・オザワ。涼は既に一度対峙している。フランス系の端正な顔立ちで、この騒動に慌てる様子も無く余裕のある笑みを浮かべて肩を竦めていた。
「大変」
 舞台上から、先ずはあまねちゃんを、続いて客席の一同に視線を投げて、さして大変そうでも無くそう云う。
「折角の壮大な実験だったのに。──随分とせっかちにぶち壊してくれたじゃない。『ZERO(不要品)』、それにお友達の皆さん。……ねえ、どうする? インスペクター、それにクシレフ」
 そしてくるり、と彼女が振り返った先に居たのは冨樫──インスペクター(※監督者/そのままでオーケストラ団体内での役割名)、そして水谷──クシレフ、だ。
 冨樫はコイツもまた気楽そうに肩を竦めて「さあ」などと宣う。
「僕、ただのインペクだし。そういう判断はトップに任せるとして」
「どうする? クシレフ! ねえ、只じゃ済まないわよね、これ」
 シドニーが、先程からずっと自信に満ちた、然し不穏な笑みを浮かべて黙っていた水谷、否その肉体を器として利用したクシレフに声を掛ける。──と。

「只じゃ済まないのはお前達の方だぜ、……シドニー、……冨樫」
 クシレフが口を開く前に、2階席の中央入口から声が響いた。
「──磔也!」
「……磔也君……、」
 涼と倉菜が真っ先に声を上げた。やや逆光でぼんやりとしか見えないが、磔也だ。──左手一本で、太巻の許から持ち出した件のニューナンブを構えていた。
「……、」 
 レイが顔を両手で覆ってその場に崩れ落ちた。丁度良く、座席の陰になっている。涼はレイの肩を押さえ込んで、「そのまま、伏せて立ち上がらないで」と鋭く命じた。そうしていれば、更に自分が庇っていれば万一の事があっても被弾はしないだろう。
「あら? 未だ死んでなかったの?」
 シドニーが笑った。「生憎な」と磔也もやや精神の崩壊が疑われる笑い声を上げた。
「Mauvaiseherbecroittoujours、──ってな」
 何て? と涼はこっそりシュラインに訊ねる。
「……『憎まれっ子世にはばかる』……、」
 溜息と共にシュラインは答えた。相変わらずだ──、と涼もつい眉間を摘んで俯いてしまう。
「ねえー、ここがホールで良かったわね。良く聞こえるでしょ? あ、辛うじて、かしら?」
「ああ、煩いから黙って十字でも切っとけ。……よぉ。散々人の事弄んでくれたなぁ。……そう、特にお前だ、クシレフ」
 ──カチ、とセーフティを落とす音がした。
「──駄目!!」
 倉菜が悲鳴に近い声を上げた。あんないい加減な姿勢で発砲しようものなら、間違い無く肩が壊れる。つまり、演奏が不可能になる。それは楽器を愛する倉菜にとって許せる事では無かった。
「駄目よ磔也君、撃っちゃ駄目!」
「煩ェ! 云うだろうが、Oeil pour oeil, dent pour dent !! ──De mort !!」

「『目には目を』、『死ね』」
 シュラインは同時通訳してみたが、最早誰も聞いていなかった。無論、彼女としてもそれを承知の上で、次に起こる事を察知していたからこそそんな余裕をかまして見たのである。
「……Precherdansl'oreilled'unsourd、かな」
 ついでに、彼女なりに格言を呟いてみる。……その通り、何を云おうが今の磔也が聞く筈も無く。

【19:59】

「……!?」
 トリガーを引く、──カチ、カチ、と小さな音が響くだけで撃鉄が下りない。──太巻の奴、嵌めやがったか──?
「駄目よ、撃たせないわ!」
 倉菜が叫んだ。太巻から銃の事を聞いてから考えていた事だが、トリガーを引け無くしたのは倉菜が咄嗟に銃の内部に鉄板を具現化させたからである。
「──畜生……、」
 発砲が不可能だと悟った磔也はだらりと腕を下ろして悪態を吐いた。──その隙に、亮一は素早く彼の前へ駆け寄って腕を捻り上げ、最早使い物にならなくなったニューナンブを一応取り上げた。
「痛──、」
 自業自得だ。知った事では無い。
「忘れたとは云わせないぞ、云っただろう、巧く配置しろと! ──『手駒』には、俺達も含まれてるんだがな、」
 筆者の口調表記誤りでは無い、念の為。この罵声は他成らぬ──あの、常に温厚で穏やかな笑顔を浮かべた──亮一から発せられたものである。
「……だっ──」
「だって、じゃ無い!」

【19:00】

 一気に全身の力が抜けたように、磔也は呆然とその場に蹲っていた。が、やがて低声で吐き捨てる。
「……どうすれば良かったんだよ」
「──何か云いました?」
 くるり、と振り返った亮一はもう常からの彼らしい穏やかな笑みを浮かべている。
 項垂れた磔也に合わせて屈み込み、「さあ云いたい事があるならはっきりとお兄さんの目を見て云って御覧なさい」と云わんばかりの満面の笑みで彼の顔を覗き込む。
「──俺だって、本当はピアノだけ弾いてたかったんだ、……でも、」
「でも?」
 その言葉を聞いた亮一は不穏な程緩慢に目を細めて先を促した。
「……何だかんだ云ったって、権力者に逆らって音楽なんて出来ないんだ、……最終的には、権力者に付いた人間だけが先の音楽を開拓出来る」
「……ふ────む、」
 聞き分けの良い大人らしく何度も頷きながら、亮一は磔也の頭に手を置く。──が、無論そこで「よしよし辛かったねぇ」などと云いながら頭を撫でてやるほど亮一は甘く無い。
「その責任転嫁はちょっと鮮やかじゃ無いですねえ、」
 前髪を鷲掴みにされて、顔を上げざるを得なかった磔也の目の前にあったのはもう使い物にはならないものの、先程亮一が取り上げた拳銃だ。
「これは、何です? 分かってます? 実銃ですよ、『本物』の。ちゃんと水鉄砲との区別が付いてますか? はい、良く見て」
「……分かってるよ」
「だったら今更子供じみた云い訳をするんじゃ無い!!」
 その場に居た倉菜やあまねちゃんまでがびく、と肩を竦める。涼などは信じられないような目付きで唖然と亮一を眺めていた。
「あなた、幾つです? もう17でしょう、玩具でなくて実銃を持ち出す程の判断力はあったと云うことですよ。そうまでしておいて、今更本当はやりたくなかった、なんて云甘えても許されません」
「亮一さん、ちょっと厳しいよ、──磔也だって耳の事もあるし、混乱してたんだから──」
 流石の涼も遠慮がちながら口を挿む。──その肩に、手を置いたのはウィンだ。
「ウィンさん?」
「御影君、あなたの思い遣りは分かるけど、でも本当の事よ。磔也はもう、何も知らなかった、未だ子供だから、って無条件で許される年齢では無いわ。明らかに、あの子は確信犯だったんだから」
「でも──、」
 その時、それまで亮一の一喝で黙り込んでいた磔也が突如ヒステリックな叫びを発した。
「分かったよ、責任取れって事だろ、取ってやるよ、──死ねば良いんだろう!」
 キン、と金属音が響く。(ああ出た)バタフライナイフの刃が飛び出す音だ。
「駄目だ! 駄目だ、磔也君!」
 ──と叫んだのは真摯だが愛らしいソプラノのままのあまねちゃん、──の意識主導権を持つ樹である。
「磔也君、死んじゃ駄目だ、生きて、生きなきゃ駄目だ、──何も望みが無いって云うなら、僕を虐めて遊べば良い、それで生きる望みが出来ると云うなら!」
「……何云ってんだ、お前……、」
「君の為に、曲を作ったんだ、磔也君の為のピアノ曲を! ──未だ、弾いて貰って無い」
 樹はあまりにも純粋なだけに、やや奇妙な事を口走った。磔也は呆気に取られて口唇を一瞬ぼんやりと開いたものの、手はそのままナイフを自分の首筋(致死率の高い丁度耳の下当たりである)を切ろうとしていた。
 ──何も分かってない、亮一は舌打ちしたい気分で制止しようと手を伸ばした、──が。
「──……、」
 わざわざ止めるまでも無く、磔也は俄に呆然として身体を硬直させ、ナイフを取り落とした。──背後から、倉菜が肩越しに磔也を抱き締めたのだ。
「あ」
「あら」
「……、」
 先程は肩を竦めた面々は今度は目を瞬いて口許を押さえる。亮一までがおやおや、と云うように吊り上げた眉を元に戻し、──一応ナイフは拾い上げた上で──「不粋者は消えますか」などとにこやかに呟いて退く。
 ──既に、ホール内にはセレスティとシュライン、それに舞台上に居た筈のシドニー達の姿が無かった。
 亮一は涼を促す。涼も状況を把握した上でレイをウィンに任せて、亮一に続いた。

【19:02_BCDH】

「……さてと、残る問題はあなたね」
 不良学生は当面問題無し、と倉菜に任せ、舞台に上がったシュラインは婉然と微笑みながらそう、──水谷に云った。本来問題は彼だった筈だ。
「──あなたには本当に振り回されたのだから。特にあなたね、クシレフさん? ……以前から、幻想交響曲騒動の時から随分と目に余る事をしてくれたじゃない?」
 ──ぱしゃ……、とシュラインの敏感な聴覚が、遠くの方で水の跳ねる音を聴いた。ちら、とそちらを振り向くと──3階バルコニーで、コーラス連中を纏めて気絶させたと思しいセレスティがシュラインに向けて微笑んでいた。──万事、そのように。
 シュラインは目配せを返し、カツ、と大仰に一歩、水谷に歩み寄った。
「彼も可哀想な人ね。弱い心に付け込まれて、千鶴子さんを殺め柾さんまで手に掛けようとしただけで無く、──未だ空の身体を扱き使われているなんて。精神の方はもうずっと前に重刑が執行されているのにね。だから」
 莞爾、──シュラインの笑顔はそこで妖艶な程に開放された。
「私は別にもうその身体をどうしたい訳でも無いのだけど、仕方無いわよね。──中にクシレフが居ると云うのなら。……水谷さんごと、死んで貰いましょうか」
 ──一瞬、水谷の顔が恐怖に歪んだ。……誰の意思で? クシレフか、あるいは精神の無い筈の水谷の肉体が恐怖感情を覚えていたのか……。
 くるり、と踵を返し、水谷は駆け出した。
「待ちなさい! 今回こそ逃がさないわよ!」
 シュラインは追う。──丁度、ホールを出た所の亮一と涼がエントランスに居る筈だ。セレスティが3階から降りて来たとして、完全に挟み撃ちである。

 エントランスホールでは鋼鉄のペルセウスが、メドゥーサの首を掲げて昂然と微笑んでいる。
 その前で、水谷は逃げ場を失った。舞台からは追い掛けて来るシュラインが、入口には立ち塞がる亮一と涼が、階段からは悠然とステッキの音を響かせながら降りて来るセレスティが見える。
「さあ、もうこれで袋の鼠よ。──どうする? クシレフさん? ……あなた、肉体を転移出来るんですってね。でも、流石に間借りしている最中の肉体の生命が断たれては不味く無い? ……別に試したければ試しても良いけど、私達の誰かを乗っ取るのは賢い方法では無いと思うけど」
「──……ユートピア国家の理想は軍部と専制政府の完全なる支配下に因ってこそ実現され、それでこそ研究に於ける完全なる秩序とその研究を通じて芸術が目指す素晴らしい成果が保証されるというものである……」
「未だ云ってる」
 シュラインは呆れながら亮一を振り返った。
「田沼さん、もう駄目だわこの人。──『遮断』してしまって、クシレフの宿る脳ごと!」
 微笑んだ亮一が頷きながら手を伸ばす、──と、水谷から先程の警報装置のベルに勝るとも劣らない程騒々しい(因みに今回耳栓は間に合わなかった……)絶叫が発せられた。
「……!」
 眉を顰めて思わず目を瞑ってしまった。目を開けたシュラインが見たのは、叫ぶだけ叫んでしまうと俄に、電池の切れた自動人形のようにぱたり、とその場に崩れ落ちた水谷の身体、──それに、不可視ながらに思わずぞっと全身が総毛立つような禍々しい『気』の跳躍である。
 階段の中程からそれを眺めていたセレスティが、莞爾と微笑んだ。──全て、彼の思惑通りだ。
「何処、一体何処へ!?」
 涼が慌てて視線を巡らせながら叫ぶ。その肩を掴んだ亮一が目線で示したのが、──件のペルセウス像である。
「涼!」
 即座に合点した涼は駆け出した。その片手に、輝かしい閃光が集まる──、と、その手中には霊刀、『黄天』が具現化されていた。涼は像の前で足を止めたと同時にその柄に手を掛け、抜刀と同時に斬り上げた。

 ──ペルセウス像、それは、ルネサンス期の偉大な彫刻家、ベンヴェヌート・チェリーニの功績に肖った『壮大な芸術』の象徴だと云うことだった。
 奢り昂った人間が、見境無くただ『壮大な』成果だけを求めて道を踏み外した今、──だとすれば、その像の崩壊もまた象徴的である。

【19:07】

「磔也君、一つだけ確認したい事があるんですがね?」
 何喰わぬ顔でホールに戻った亮一は、一瞬で全ての気力を失ったように呆然と座り込んでいた磔也を認め、──一言、釘を刺しておく必要がある、と声を掛けた。磔也はその声にはちら、と視線を上げただけだ。やや声を顰めて囁いたのだが、何故か聴こえたらしい。
「あなた、自分の命に一体どれ程の価値があると思ってるんです?」
「……、何……、」
「さっき、死んで責任を取る、そう仰いましたよね」
「云ったよ。──今からでも死んでやろうか、返せよ、ナイフ」
              ヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽ
「お言葉ですけど、あなたには死ぬ価値もありませんよ。あなたの命じゃあ、何の代償にもなりません」
「な……──、」
「いつ捨てても惜しくないと思っているような命で、帳消しにして貰おうなんて虫が良すぎませんか?」
「……、」 
「そこまで安く無いですよ、俺達の労働はね? 『雇い主』がそれじゃあ、困りますよねぇ……、何せ、リンスター財閥のトップたるセレスティさんまで借り出して置いて」
 くす、と後に続いて入って来たセレスティが笑う。──まともに交渉して、こんな一高校生が彼を雇える筈は無い……。
「まあ、追々、ですね。──ツケておいてあげますよ、今回の代償は」
 亮一は爽快な笑顔でそう、留めを刺した。──ふっ、と(もうどうとでも云えとばかり)天井を仰いだ磔也が呟く。
「……あーあ、……死に損なったな」

「……、」
 その一言を聞いた涼は眉を顰めた。──が、今は自分が何を云っても聞く訳は無いだろう。恐らく、倉菜達に任せて大丈夫な筈だ。ならば自分は、と──こちらもまた完全に脱力したように座席の陰にへたり込んだままのレイの身体を立たせ、「帰ろうか」と殊更明るく促してみせた。
「……、」
 レイは、うん、ともはあ、とも付かない頼り無い返事を返してふらりと立ち上がった。
「──パパは?」
「大丈夫、後から帰るよ、ちゃんと。先に俺と帰ろう? な、レイさん、」
 そう云ってレイの背中を押し、一同には「お先に」と軽く上げた片手だけで挨拶した涼に、いつの間にかウィンが並んでいた。彼女もまた何処かへ行く予定があるらしく──。
「磔也、大丈夫かな」
「大丈夫でしょう、倉菜と樹ちゃんに任せて置けば。……ただ、辛いのはこれからよ。……今までは、管理され、拘束されると云う不自由はあっても、逆に安心感があったのも確かでしょう。すべき事を他人に決定して貰える、権力者の傘下に居ると云う安住が。──自由になれば、同時にそうした安定を失えば、今後は全て磔也が自分で極めていかなくてはならないのだもの。……そして、だからこそ甘やかしては不可ないわ。少なくとも精神的に、あの子は未だ子供だけど今更劇的に感性が変化するとも思えないわ。……幾らか、分別を身に付けて行ってくれれば良いのだけど」

【XX:XX】

 音楽都市、ユーフォニア。
 ──それは、『調和』と云う名を騙り、ユートピア思想に依存する運命共同体の顔をした独裁国家の理想図である。
 音楽は、ただ美しいだけでは無い。
 それは暴力となり得る一面も、また非常に効果的に洗脳の材料として用いられる一面も合わせ持つ。

 『壮大な実験』を以てユーフォニア市の最初の拠点となる筈だった東京、巣鴨。
 ここは、彼等の尽力に依てその実験を阻止され、陥落を免れた。東京コンセルヴァトワールも今後は表立って大々的には活動を行えない。
 
 然し、組織とは個人の集まりである。そして、ユーフォニアの思想を掲げる個人は既に世界へ向けてばらまかれた。
 文化遺伝子<ミーム>は、限り無く増殖する。

【00:00】

「……で、お前ェ何でおれの所に来るんだよ」
 カウンターの中から、太巻は店内の隅に呆然と座り込んだままの人影に向かってそうぼやく。
 彼は、ほんの少し前にふらりと入って来たと思うと「暫く泊めてくれ」とだけ──太巻の返事を聞きもせずに──云い、太巻の手許からマルボロを一本かすめ取って火を点けた切り、ああしてずっと黙り込んでいるのである。──黙り込んでいる、と云うよりは精神薄弱者のような、生気の無い体だ。先日、彼の許から実銃を持ち出した時よりもある意味で酷い。
「……、」
 返事は無く、代わりに夥しい紫煙だけが吐き出された。
「ったく……、ちったァおれの面倒も考えろ。朝っぱらから煩ェ連中に怒鳴り込まれたと思ったら、今度は物も云え無くなったアホの居候かよ」
「……、」
「だんまり極め込んでっと、お前ェの養父とやらに連絡しちまうぞ(笑)、」
「……、」
 相変わらず、何を云われても彼は答えない。仕方無ェ、と重い腰を上げて彼の許へ歩み寄り、その目を覗き込んだ太巻は目を細めた。──気力と云うものが皆無に近い、呼吸活動さえ面倒そうな、……死んだ魚のような目……。
「……やる事ァ全部遣っちまって、目標が無くなったってとこかねェ。……ま、その内起きるだろ」
 今は何を云っても仕方無い。されるままのだらりとした指先からフィルターに到達した煙草を取り上げると、後は放置して太巻は彼の生活に戻った。

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【0086 / シュライン・エマ / 女 / 26 / 翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員】
【0931 / 田沼・亮一 / 男 / 24 / 探偵所所長】
【1588 / ウィン・ルクセンブルク / 女 / 25 / 万年大学生】
【1831 / 御影・涼 / 男 / 19 / 大学生兼探偵助手?】
【1883 / セレスティ・カーニンガム / 男 / 725 / 財閥総帥・占い師・水霊使い】
【1990 / 天音神・孝 / 男 / 367 / フリーの運び屋・フリーター・異世界監視員】
【1985 / 葛城・樹 / 男 / 18 / 音大予備校生】
【2194 / 硝月・倉菜 / 女 / 17 / 女子高生兼楽器職人(神聖都学園生徒)】

NPC
【結城・レイ / 女 / 21 / 自称メッセンジャー】
【結城・磔也 / 男 / 17 / 不良学生】
【結城・忍 / 男 / 42 / ピアニスト・コンセルヴァトワール教師】
【シドニー・オザワ / 女 / 18 / 学生】
【水谷・和馬 / 男 / 27 / 巣鴨ユーフォニアホール人事担当者】
【冨樫・一比 / 男 / 34 / オーケストラ団員・トロンボーニスト】
【里井・薫 / 男 / 24 / 歌手】
【陵・修一 / 男 / 28 / 某財閥秘書兼居候】

【太巻・大介 / 男 / 84 / 紹介屋】
【緋磨・聖 / 男 / 28 / 術師兼人形師(+探偵)】

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■         ライター通信          ■
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皆様、お疲れ様でした。
そして第一回からの御参加、心より感謝致します。本当に有難うございました。

東京怪談「幻想交響曲」シリーズよりもすっきりと終わった感の無い最終回となってしまいました。
連載開始前には「音楽の武器」とだけ云って居りましたが、今回の本当のテーマは「プロパガンダとしての音楽」でした。
自然、教育問題や多岐に渡る音楽学、政治的な要素までが絡み合い、シナリオとしても捻くれた上にWR自身の知識とキャパシティが追い付かないと云う無様な事となってしまい、多いに反省しております。
後味の悪さを残さない為にも、後程後日談と云う形で終了したいと思います。
前述の事とは全く無関係ですが、1月中はWRの個人的な事情によりOMCでの受注をストップ致します。それを受けて後日談の予告と受注も2月に入ってからとなる予定です。
やや興醒めかと思いますが、それでも気乗りした際にはどうぞ構い付けて下さいませ。
詳細は目処が立ってから個別受注ページで行います。
また、その間でも感想、苦情、誤りの指摘、後日談含む今後の御希望などありましたら遠慮なくお聞かせ下さいませ。

尚、今回受注時に行いましたシナリオ分岐アンケートの結果は以下の通りです。

A:太巻から拳銃を入手した磔也、その使い道、標的は?
1)東京コンセルヴァトワール……………………………………4※決定
2)身内(養父、姉)………………………………………………2
3)ホール内無差別発砲……………………………………………0
4)自殺………………………………………………………………2

B:プロパガンダとしての、音響行動学に基づいた人間の精神を洗脳し得る音楽が奏される。対処法は?
1)一般客の避難を促す……………………………………………3
2)混乱を生じてでも、演奏を止める(奏者を拘束する)……4※決定
3)逃げる……………………………………………………………0 
4)便乗してみる……………………………………………………0

C:水谷和馬の処理
1)殺しはしない……………………………………………………8※決定
2)クシレフが未だ中に居る場合に限り、殺す…………………0
3)クシレフが居ようが居まいが、殺す…………………………0
4)知ったこっちゃない……………………………………………0

重ね重ね、「音楽都市、ユーフォニア」シリーズへの御参加と辛抱強く文章へお付き合い下さいました事、深くお礼申し上げます。

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