■駅前マンション〜それぞれの日常■
日向葵 |
【2209】【冠城・琉人】【神父(悪魔狩り)】 |
二十階建て各階五戸、屋上完備の4LDK。しかも新築で駅から徒歩五分程度。それなのに家賃はばかに安い。
今は現役を引退した老退魔師が大家と管理人を兼ねるこのマンションは、異様なまでに怪奇現象が多い。
土地柄のせいもあるのだが、人間世界に慣れない妖怪や人外の存在を次々と受け入れているためである。
しかしそれだけに、このマンションは騒ぎも多い。
謎の怪奇現象や人間世界の常識を知らない住民が起こす事件や、かつては凄腕の退魔師だった大家を頼ってくる人外などなど。
けれどまあ。
いつも大騒ぎというわけでもなく。
平和な毎日と、時折起こる事件と。
そんな感じに、駅前マンションの日常は過ぎて行くのだ。
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◆ライターより◆
・駅前マンションを舞台としたフリーシナリオ。完全個別ということで+500円しております。
別PCと一緒に描写してほしい場合は同時期に発注のうえ、プレイングにその旨明記をお願いします。
・怪奇事件との遭遇や日常生活風景的などなど。貴方の日常生活を好きに発注してくださいませ。今までの駅前マンションシナリオや日向 葵が担当したシナリオに関わるシチュエーションもOK。
・日向葵の他NPC、公式NPCなども登場可能。
下記以外のNPCに関しては、東京怪談個別部屋を参照願います。
http://omc.terranetz.jp/creators_room/room_view.cgi?ROOMID=397
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駅前マンションの怪
●お茶会をしよう
本日の冠城琉人は上機嫌のホクホク顔だった。最近ゴーヤ茶を入手したのだ。
手に入れたゴーヤ茶と、常備されている美味しい茶葉を何種類か持って、琉人は大家をお茶に誘おうと思って一階に降りてきたのだが。
聞こえてきた泣き声に、琉人はふと足を止めた。
「子供……?」
確かに聞こえてくるのは子供の泣き声。だがそこにそれらしき姿はない。
だが琉人はそこで諦めたりはしなかった。なんと言ってもここは駅前マンション、人外の存在も数多く現われる場所なのだ。
じっと瞳を凝らして見れば、コミュニティスペースの奥に飾られたミニ門松の前に立つ、幼い子供の姿があった。
「どうしたのですか?」
しゃがみ込んで子供に視線を合わせ、琉人はにっこりと微笑んだ。
だが。
子供は泣いてばかりで琉人の問いに答えてはくれそうにない。
そこで琉人は作戦を変える事にした。まずは大家の部屋のチャイムを鳴らす。
「おや、どうした?」
「そこで子供が泣いているんですけど、泣き止んでくれないんですよ。お茶でも淹れてあげようかと思いまして」
「そういうことならうちのお湯と急須を持っていきなさい」
さすがに話が早い。琉人が言う前に、大家の老人はポットと急須と湯のみを取りに一旦部屋の中に引っ込んだ。
「ああ、良かったらその子もうちに来るよう誘ってみてくれないかい?」
「ええ、わかりました。どうもありがとうございます」
急須と湯のみとポットの礼を言って、琉人はすぐさまクルリと踵をかえす。
「お待たせしました」
泣いている子供に向かって優しく告げて、お茶を注ぐ。
「お茶でも飲んで落ち着きましょう。ね?」
差し出されたお茶の湯気を見つめて、子供はようやっと泣き止んだ。きょとんとした顔つきでお茶と琉人を交互に見る。
「どうぞ」
にっこり微笑むと、子供はそっと湯のみに手を伸ばした。
子供の様子を眺めつつ、やはりお茶は心落ち着く素敵なものだと再認識して琉人はご機嫌な笑みを浮かべる。
そうして子供が落ちついたころを見計らって、
「君はどこから来たのですか?」
問うと、少年は少し逡巡してから上を指差した。
「上……上の階の住人の方なんですか?」
違うような気もしたが、一応聞いてみる。
案の定、少年はふるふると首を横に振った。
と、その時。
ガチャリと扉の開く気配がして、大家の部屋から二つの人影がやってきた。一人は大家の老人。そしてもう一人は、何度か会った事のある少女――天薙撫子であった。
二人の姿をみとめるなり、琉人はひょいと湯のみを二つ、テーブルの上に追加した。
「良かったら天薙さんもどうですか?」
お茶を手に泣き止んでいる子供の隣で、琉人がにっこりと笑う。
「そうですね・……せっかくですから頂きましょう」
こうして、コミュニティスペースではのほほんとしたお茶会が始まった。
「あ、先ほどの質問なのですが」
「ああ、なんだい?」
撫子の問いに、老人はずずっとお茶を飲みながら相槌を打つ。
「この子はいったいどうして迷子になってしまったのでしょう?」
「ああ、私もそれは聞きたいところです。帰り道を探すにしても、どこから来たのかわからないと探せませんし」
二人の問いに、大家の老人は湯のみのお茶をきっちり呑み干してから答えた。
「そこの門松に導かれてやってきた年神様だよ。帰るタイミングを逃して、帰り道がわからなくなったらしい」
「おやまあ」
「うーん、それでしたらどんと祭でお返しできるでしょうか…?」
どんと祭とは正月の門松や古くなった取り替えられた注連縄(しめなわ)や神具、他の神社仏閣で付与された各種の守り札などをお祓いを受けた炎で燃やす、お炊き上げの祭事のことである。
「そうですねえ、街中でやるわけにもいきませんが……」
「火の元に気を付けてくれるなら屋上を使っても構わないぞ」
「ありがとうございます」
二人がほぼ同時に頭を下げる。
「あ、せっかくですから正月行事にしませんか? お餅付きの時みたいに人を誘って」
「それは楽しそうですねえ」
琉人としてもお茶を広めるチャンスはあり難い。
こうして、神様の帰り道を示すべく、駅前マンションどんと祭の開催が決定したのであった。
●年神様の御帰還
急ぎの祭であったため、結局参加者は全部で五人――祭の企画者である天薙撫子と冠城琉人。撫子や琉人と同様、年神の帰り道を探すべく駅前マンションにやってきたシュライン・エマと真名神慶悟。偶然泣いている年神を目にして遊び相手にまわっていたセフィア・アウルゲートだ。
「それでは、始めましょうか」
コミュニティスペースに置き去りになっていた門松を屋上に置いて、撫子がにっこりと宣言する。
「上手く帰り道が見つかれば良いのですけれどねえ」
いつのまに用意したのか、屋上の一角になぜかお茶スペースができている。十数種類の茶葉に囲まれ、自身もお茶を飲みつつ、琉人がのんきに呟いた。
「見つからないの?」
琉人の言葉を何故か悪い方に受け取って、年神の少年がぐすりと目に涙を溜め始める。
「大丈夫よ、そんなに泣かないで」
シュラインの慰めを聞きつつ、慶悟が小さく息を吐く。
「神ならば、それなりの威厳を持たねばな。背筋を伸ばし毅然と構える。泣いていては神としての尊厳も台無しだ。だから泣かずに帰る方法を考える。良いな?」
きっぱりとした声で言われて、年神のほうも納得したらしい。こくりと頷いて、涙を拭う。
「きっと大丈夫ですよ」
年神に抱かれたままのデフォルメセフィアがにっこりと年神に笑いかけた。つられるようにして年神の少年も笑う。
「では、いきますよ」
門松に火が点けられる。
冬の強い風の中であったが、それは勢いよく燃えて、煙が天高くへと昇って行く。
「どう? 帰り道は見える?」
シュラインの問いに、年神の少年は必死に煙と炎の行く先を見つめた。
ふいに、少年の表情が明るくなった。
「見つかりました?」
つられて表情を明るくした撫子に、年神の少年はこくこくと元気に頷く。
「それはよかった。ではこれはお土産にどうぞ」
琉人オリジナルブレンドの日本茶の他数種類の茶葉をひょいと少年に手渡すと、少年はきょとんと茶葉を見つめて、琉人を見上げた。
「とても美味しいお茶ですから、是非みなさんで飲んでください」
少年はぺこりっとお辞儀をして、ふわりと宙に舞いあがる。
「あ、手ごろなサイズ出すけど私を持ち帰られたら困ります〜」
言われて、少年はぱっと慌てて手を離した。どうやらセフィアを抱いたままであったことをすっかり忘れていたらしい。
少年はセフィアを離してから再度、深々とお辞儀をして、今度こそ。
空高くへと飛び去っていった。
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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整理番号|PC名|性別|年齢|職業
0086|シュライン・エマ |女|26|翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員
0328|天薙撫子 |女|18|大学生(巫女)
0389|真名神慶悟 |男|20|陰陽師
2209|冠城琉人 |男|84|神父(悪魔狩り)
2334|セフィア・アウルゲート|女|316|古本屋
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■ ライター通信 ■
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こんにちわ、日向 葵です。
今回は依頼へのご参加ありがとうございました。
すみません、〆切ギリギリ‥‥お年始の季節はとっくに過ぎてしまいましたねえ(涙)
もともとお年始より少しずれた時期の話――1月下旬くらいを考えていたのですが、2月にまたがってしまったのはちょっと予想外でした。
ちょぴりと風邪で寝込んでしまいまして。まだ寒い毎日が続きますが、皆様もどうぞ体調にはお気をつけくださいませ。
それでは今回はこの辺で。
またお会いする機会がありましたら、よろしくお願いいたします。
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