■駅前マンション〜それぞれの日常■
日向葵 |
【2334】【セフィア・アウルゲート】【古本屋】 |
二十階建て各階五戸、屋上完備の4LDK。しかも新築で駅から徒歩五分程度。それなのに家賃はばかに安い。
今は現役を引退した老退魔師が大家と管理人を兼ねるこのマンションは、異様なまでに怪奇現象が多い。
土地柄のせいもあるのだが、人間世界に慣れない妖怪や人外の存在を次々と受け入れているためである。
しかしそれだけに、このマンションは騒ぎも多い。
謎の怪奇現象や人間世界の常識を知らない住民が起こす事件や、かつては凄腕の退魔師だった大家を頼ってくる人外などなど。
けれどまあ。
いつも大騒ぎというわけでもなく。
平和な毎日と、時折起こる事件と。
そんな感じに、駅前マンションの日常は過ぎて行くのだ。
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◆ライターより◆
・駅前マンションを舞台としたフリーシナリオ。完全個別ということで+500円しております。
別PCと一緒に描写してほしい場合は同時期に発注のうえ、プレイングにその旨明記をお願いします。
・怪奇事件との遭遇や日常生活風景的などなど。貴方の日常生活を好きに発注してくださいませ。今までの駅前マンションシナリオや日向 葵が担当したシナリオに関わるシチュエーションもOK。
・日向葵の他NPC、公式NPCなども登場可能。
下記以外のNPCに関しては、東京怪談個別部屋を参照願います。
http://omc.terranetz.jp/creators_room/room_view.cgi?ROOMID=397
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駅前マンションの怪
●迷子の少年
ふいに目に入ったのはおどおどと困った様子の少年の姿。
最近セフィア・アウルゲートはこの駅前マンションに出入りするようになった。きっかけは些細なことで、別の場所で知り合った友人がここの住人であったことから、このマンションを訪ねて来る率が増えただけ。
今日は友人の家を訪ねた帰りで、ちょうどエレベーターを降りた時、ふとその少年と目があったのだ。
基本的に小さくて可愛いものに目がない。しかもセフィアはどちらかと言えばお人好しである。思いっきり不安げなその少年の眼差しに勝てるはずがなかった。
けれど突然声をかけるのもちょっと勇気がいったので。
「どうしたんですか?」
セフィアは、デフォルメ体の可愛らしい姿で少年に話し掛けた。セフィアは分体と呼ばれる分身を作り出すことができるのだ。
同時に作れるのは自分と同じ姿の分身一体か、デフォルメ体だけなら三体まで。だがこの場合はデフォルメ体一体で充分である。
突然の出来事に、少年はきょとんと目を丸くして、小さなセフィアを見つめている。
「〜ん……」
だが少年はセフィアを見つめているだけで、セフィアの問いに答えてはくれなかった。
沈黙が続く。
と、ふいに少年が動いた。テーブルの上にあったチラシと、そしてコミュニティスペースの一角に飾られているミニ門松を指差す。
「えーと……」
テーブルの上に置かれていたチラシは、マンション屋上で開催されるどんど祭――正月の門松や古くなった取り替えられた注連縄(しめなわ)や神具、他の神社仏閣で付与された各種の守り札などをお祓いを受けた炎で燃やす、お炊き上げの祭事のことだ。――のものであった。
「年神様なんですか?」
こくんと小首を傾げて少年に問う。
セフィアは日本人ではないが、読書好きであることから、案外日本の知識も持っているのだ。
少年はこっくりと首を縦に振った。
それから、じわりと少年の瞳に涙が溜まる。
「え? 私、なにかしてしまいましたか?」
慌てて聞くと、少年はぶんぶんと勢いよく首を横に振った。
「帰り道……見つからなかったらどうしよう」
「………」
半分以上推測であるが、この少年、どんど祭が行われて門松が焼かれた時に帰り道を見つけられなかったらどうしようかと悩んでいるらしい。
「きっと大丈夫ですよ。泣いていたら、力が削げるばかりです……多分。一緒に遊んでみましょうか?」
告げると、少年は零れていた涙を拭いて、きょとんと目を丸くした。
「楽しい時間をすごすうちに、きっと人間さんが帰り道を標してくれます。きっと、これは人間さんが見つけなければならないことでしょうし……」
セフィアは、穏やかな微笑を浮かべて少年に告げた。
それからしばらくお手玉だとか、ちょっとした手遊びをして時間を過ごしていた二人だが、後ろから声をかけられて手が止まった。
「あら、楽しそうねえ」
振り返った先には二人の男女。一人は黒髪に青の瞳の女性。もう一人はおそらく染めているのだろう金髪の髪と、黒い瞳の青年である。
「こんにちわ〜」
セフィアはテーブルの上からにっこりとお辞儀した。
「あんたもこの神様の帰り道を探してるのか?」
その問いに、セフィアはふるふると首を横に振る。
「私はそういったことには詳しくありませんから……。でも、泣いているのを放ってもおけないので、準備が終わるまで一緒に遊んでいようかと」
セフィアの答えに、二人はしばらく考えこんでいた様子であったが、ふいに。
「そうか。それじゃあ俺たちは祭の準備の手伝いに行くか」
「そうねえ。こっちは大丈夫そうだし」
青年がせっかくだからと遊び相手の式神を数体置いていってくれて、コミュニティスペースは一気に賑やかになった。
少年も寂しさや不安を一時的にだが忘れられたようで、セフィアも嬉しくなったのであった。
●年神様の御帰還
急ぎの祭であったため、結局参加者は全部で五人――祭の企画者である天薙撫子と冠城琉人。撫子や琉人と同様、年神の帰り道を探すべく駅前マンションにやってきたシュライン・エマと真名神慶悟。偶然泣いている年神を目にして遊び相手にまわっていたセフィア・アウルゲートだ。
「それでは、始めましょうか」
コミュニティスペースに置き去りになっていた門松を屋上に置いて、撫子がにっこりと宣言する。
「上手く帰り道が見つかれば良いのですけれどねえ」
いつのまに用意したのか、屋上の一角になぜかお茶スペースができている。十数種類の茶葉に囲まれ、自身もお茶を飲みつつ、琉人がのんきに呟いた。
「見つからないの?」
琉人の言葉を何故か悪い方に受け取って、年神の少年がぐすりと目に涙を溜め始める。
「大丈夫よ、そんなに泣かないで」
シュラインの慰めを聞きつつ、慶悟が小さく息を吐く。
「神ならば、それなりの威厳を持たねばな。背筋を伸ばし毅然と構える。泣いていては神としての尊厳も台無しだ。だから泣かずに帰る方法を考える。良いな?」
きっぱりとした声で言われて、年神のほうも納得したらしい。こくりと頷いて、涙を拭う。
「きっと大丈夫ですよ」
年神に抱かれたままのデフォルメセフィアがにっこりと年神に笑いかけた。つられるようにして年神の少年も笑う。
「では、いきますよ」
門松に火が点けられる。
冬の強い風の中であったが、それは勢いよく燃えて、煙が天高くへと昇って行く。
「どう? 帰り道は見える?」
シュラインの問いに、年神の少年は必死に煙と炎の行く先を見つめた。
ふいに、少年の表情が明るくなった。
「見つかりました?」
つられて表情を明るくした撫子に、年神の少年はこくこくと元気に頷く。
「それはよかった。ではこれはお土産にどうぞ」
琉人オリジナルブレンドの日本茶の他数種類の茶葉をひょいと少年に手渡すと、少年はきょとんと茶葉を見つめて、琉人を見上げた。
「とても美味しいお茶ですから、是非みなさんで飲んでください」
少年はぺこりっとお辞儀をして、ふわりと宙に舞いあがる。
「あ、手ごろなサイズ出すけど私を持ち帰られたら困ります〜」
言われて、少年はぱっと慌てて手を離した。どうやらセフィアを抱いたままであったことをすっかり忘れていたらしい。
少年はセフィアを離してから再度、深々とお辞儀をして、今度こそ。
空高くへと飛び去っていった。
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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整理番号|PC名|性別|年齢|職業
0086|シュライン・エマ |女|26|翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員
0328|天薙撫子 |女|18|大学生(巫女)
0389|真名神慶悟 |男|20|陰陽師
2209|冠城琉人 |男|84|神父(悪魔狩り)
2334|セフィア・アウルゲート|女|316|古本屋
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■ ライター通信 ■
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こんにちわ、日向 葵です。
今回は依頼へのご参加ありがとうございました。
すみません、〆切ギリギリ‥‥お年始の季節はとっくに過ぎてしまいましたねえ(涙)
もともとお年始より少しずれた時期の話――1月下旬くらいを考えていたのですが、2月にまたがってしまったのはちょっと予想外でした。
ちょぴりと風邪で寝込んでしまいまして。まだ寒い毎日が続きますが、皆様もどうぞ体調にはお気をつけくださいませ。
それでは今回はこの辺で。
またお会いする機会がありましたら、よろしくお願いいたします。
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