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■夢見る・お豆ちゃん■

三咲 都李
【0086】【シュライン・エマ】【翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員】
「草間さーん、小包でーす」

パタパタといつものように零がはんこを突き、小包はいつものように草間武彦の机へと運ばれた。
「・・・差出人・『全国草間武彦ファンの会』・・・」
その差出人の名に嫌な予感が走る。
かつて、この『全国草間武彦ファンの会』からの贈り物でろくな物はなかった。
では、今回は・・・?
ためらいながらもその誘惑に勝てぬ草間は、その包みをそっと開けた。
と、中からは『豆』が出てきた。

・・・ま・・め?

「豆ですねぇ」
後ろから覗き込んでいた零もそう言ったから間違いなくこれは豆だろう。
豆は2種類。
1つは堂々と赤い鬼の面が付けられたあからさまに節分用の豆。
そしてもう1つは・・・。
「『ドリーム・ビーン』?」
袋を持ち上げ後ろの説明書きを読もうとした草間の手が滑り、『ドリーム・ビーン』は床に叩きつけられた。
慌てて草間は拾い上げた。中の豆は少々ヒビがいった程度であった。
草間は改めて説明書きを読んだ。

『寝る前にこの豆に貴方が見たい夢を話しかけてください。貴方の望む夢が見られるでしょう。そして起きた時、このドリーム・ビーンは貴方の夢の中で一番望んだ物をその枕元で産むでしょう』

草間は再度、豆を見た。
少々ヒビの入った豆・・・面白そうな物ではあるが自分で試すのははっきり言って怖い・・・。

草間は待つことにした。
この豆を試してくれる強者が現れるのを・・・。
夢見る・お豆ちゃん

1.シュライン・豆を見つける
 「あら、これどうしたの? 武彦さん」
シュライン・エマは調査報告から戻ると、草間武彦の机の上に置かれた奇妙な荷物に目を留めた。
「あー・・それな、例の『全国草間武彦ファンの会』から送られてきた」
新聞に目を通しながら、大して興味なさそうに草間がそう言った。
「『ドリーム・ビーン』? 何だか面白そうな物が入っているのね」
エマがそう言って『ドリーム・ビーン』のパッケージを見ていると、草間は慌てたように新聞をほおり投げた。
「そ、それはやめとけ。俺がさっき落としたからヒビが入った。説明通りのことが起きるか保証はできないぞ」
「・・じゃあどうして捨てないのかしら?」
エマがそう言うと、草間は視線をそらしつつ「とりあえず、実験体が来るのを待ってるんだ」と言った。
「・・ヒビが気にはなるけれど、なんなら私が試してみましょうか?」
「な!?」
草間が絶句した。
「それとも・・一緒にやってみましょうか?」
エマが草間の至近距離に顔を近づけた。
「お・・おい・・それは・・」
「・・・もちろん、零ちゃんも交えて3人で雑魚寝よ?」
ワタワタと動揺する草間の姿に、エマはにっこりと笑って付け足した。
「・・・」
「ふふっ。じゃ零ちゃんを誘ってこよっと♪」
エマがそう言って、零の部屋へと足取りも軽く歩いていった。

「ちっ。あいつの方が1枚上手か・・・」
草間の悔しそうな、かつ残念そうな声が小さくエマの耳に届いた。


2.シュライン・夢を語る
 布団の上でエマは少々ヒビの入った豆を前に悩んでいた。
「どんな夢にするんですか?」
パジャマ姿の零が隣で同じようにヒビの入った豆を見つめながらエマに聞いた。
「んー・・ちゃんと報酬の出る依頼ばかりがくる興信所とか。で、暖房の効きも確りしてて、ソファーもスプリング利いた新品で、台所の鍋も凹んでない・・・そんな夢がいいかなって」
「おまえ・・そんなに今の事務所は不満か?」
困り顔で草間がそう言った。
まぁ、草間本人もそう思い続けていることなのだが、さすがに他の人に・・しかもエマに言われると重みが違う。
「あの・・現状の備品達は年季入ってて愛着はあるんだけど、新しいとどんな感じなのかな〜って多少、少々、ほんのりと興味が・・」
語尾が段々と不鮮明になっていくエマの言葉に、草間は溜息をついた。
「あの、兄さんもそんなにしょげないで下さい。シュラインさんも兄さんがきちんと働いていないからだなんて思ってませんから」
零のフォローしているのかトドメを刺したのかよく分からない言葉に、エマは苦笑した。

そういえば欲しいと思った物もくれるんだったわね。
夢は夢と割り切って見るつもりだから特に欲しいって物は思いつかないのよね。
依頼先の住所書いたメモとか。無茶過ぎるかしら・・?

エマがそんなことを考えている傍らで、どよーんとした雰囲気の草間とそれを何とか立ち直らせようとしている零の姿。
「さぁ、そろそろ寝ましょうか」
エマはそんな2人と布団にもぐった。
零を真ん中に川の字。シングルの布団を二つ並べても、大人3人が寝るには少々狭い。
だが、冬の夜の人肌はとても温かく3人はすぐに眠りに落ちていった・・・。


3−1.夢は語る
 「どうした? シュライン」
草間にそう言われて、エマは自分が草間興信所に立っていたことに気が付いた。
「・・えーと・・」
「どうかしたんですか? シュラインさん」
不思議そうな顔をして零が横を通り過ぎた。
その腕いっぱいになにやら書類を抱えて。
「ボーっとしてる暇はないぞ。今やこの草間興信所は業界TOPだ。ほら、おまえの後ろにもお客が来てる」
淡々と仕事をこなす草間の言葉に、エマは振り向いた。
玄関扉のわずかなガラスの向こうには人の頭がいくつも並んでいた。
「・・ホント。ボーっとしてる暇なんかないわね」
よくよく見ればいつもの草間興信所とはどことなく違う。
そう、なんとなくピカピカしている。
零の掃除が物凄く丁寧だった、ということではなく・・・そう。備品の一つ一つが姿かたちを同じに新しくなっていたのだ。
「シュライン、悪いが客にお茶を入れてきてくれ」
客の1人を招きいれた草間はエマにそう指示を出した。
「わかったわ」
エマは素直にそれに従い、台所へと向かった。
こちらもやはりピカピカで、なんとシステムキッチンになっていた。
有名どころの鍋がキチンと整理してあり、大型冷蔵庫の中には色とりどりの食材が所狭しとひしめいている。

何だか、物凄く違和感を感じるわ・・・。

そう思いつつエマは一級茶葉と書かれた玉露を急須に適量入れ、茶を注いだ。


3−2.さらに夢は語る
 草間が招きいれた客は『親方日の丸』と称される戦後財閥解体で解体されたとある企業の若き社長であった。
「実は、とある人物から脅迫されておりまして。なるべく隠密に済ませたいのでここに来た次第です」
「その『とある人物』に心あたりは?」
お客と草間の前にお茶を置くと草間の隣にエマも腰をかけた。
硬くもなく、柔らかすぎもせずソファはエマの体を受け止めた。
「・・お恥ずかしい話ですが、前に付き合っていた女だと思います」
「具体的にどのような内容の脅迫を?」
「その辺は申し訳ないが、料金に反映という形で触れないで頂きたい」
「わかりました」
話を聞いていくうちに、エマはなんともいえない不快感に包まれていた。
確かに身元も確かで料金を払ってくれそうな客ではあったが、何かが引っかかっていた。
「では手付金と必要経費としてまずこれだけ置いていきます。残りは全てが終わった際にお持ちします」
社長はそう言って立ち上がった。
ちらりとエマを見るとこう言って立ち去った。
「このような場所に貴女のようなお美しい方がいると、心が安らぎますね」

・・・あの男、生粋のタラシね。

ようやく、不快感の元がわかった気がした。
が、草間はそんなエマの心境に気づかないのか分厚い封筒と一枚のメモをエマに渡した。
「このメモの女を探してくれ。都内にいるはずだ。そしてこの封筒を渡して必ず一筆書いてもらうんだ。『二度と社長にまとわりつきません』と」
「・・私が行くの?」
「あぁ、俺は次の客の話を聞かねばならん。行ってくれるな?」
その言葉は、あまりにも事務的で有無を言わせぬ口調だったのでエマは押し黙ったまま封筒を受け取った。
なんだか、草間は人が変わってしまったようだった・・・。


3−3.そして夢は語り終える
 メモの女性はすぐに見つかった。
女性はエマが差し出した封筒を見ると泣き出した。
だが、その泣き声とは別に奥から泣き声が聞こえてきた。
どうやら赤ん坊の声のようだった。
エマはやりきれない思いを無理やり抑え、女性に封筒を渡して引き上げた。
草間に言われた『一筆』は貰わなかった。

興信所に戻ると草間は開口一番「書いてもらった紙は?」と聞いた。
「貰わなかったわ。そんな必要ないと思ったから」
草間の表情が一瞬険しくなった。
だが、次の瞬間にはすぐに元の草間に戻っていた。
「わかった。とりあえず今から社長に連絡するから、おまえも同席してくれ」
受話器を取ると、草間はそれ以上エマへ言葉をかけなかった。

いつもならどんなに自分が疲れていようと『ご苦労様』の一言はかける人だったのに・・・。

エマは草間の心変わりが痛くて辛かった。
連絡を取った後、待機でもしていたのかと思うほど早く社長は興信所へとやってきた。
「さすが業界TOPの草間興信所ですね。まさかこんなに早く解決してくださるとは」
上機嫌の社長はアタッシュケースから分厚い札束をテーブルの上に置いていった。
「私の心として少々多めにご用意いたしました。これからも何かあったときはよろしくお願いしますよ」
「どうぞご贔屓に」
草間はそう言うと零を呼び、テーブルの上の札束を運ばせていった。
「それでは俺はこれで」
突然に草間が立ち上がった。
エマも社長に一礼して立ち上がろうとした・・・がそれは社長によって阻止された。
「何ですか?」
眉間にしわを寄せ、不快感をあらわにそう言うと社長はニコリと笑った。
「貴女が気に入ったので、草間さんに2人きりにしてもらえるように頼んだんですよ」
「・・武彦さんが!?」
「そう。だから・・・」
徐々にエマに社長の顔が迫る。

あんなの私が好きな武彦さんじゃない!
武彦さんは口では色々言いながらもちゃんと人の心をわかってくれる人なんだから!
私の武彦さんは優しい人なんだから!

「誰がアンタなんかとーーーーー!!!!!」

エマはそう叫んだ自分の声で目が覚めた・・・。


4.そして現実へ
「な・・なんだぁ?」
「ふにゃ・・」
飛び起きたエマとつられて起きた草間、そしてまだ半分寝ぼけ眼の零。
エマはハァハァと荒い息をつき、「ゆ・・夢でよかった」と呟いた。
あたりはようやく朝日が昇りきったところらしく真っ白な光がカーテンの隙間から細長く差し込んでいた。

「で、どんな夢見たんだ?」
「いいの。所詮夢は夢なんだって、よ〜くわかったから」
何度も聞く草間にエマは何度でも根気よくその答えを繰り返した。
繰り返しながら、エマは枕元においてあった物を思い出してポケットから取り出した。
夢の中でエマが探した女性の名前と住所がエマの字で書いてあった。

夢はやっぱり夢なのよね・・・。

エマはそう思ってその紙をそっとポケットに戻した。
今この時間・・ちょっと貧乏だけどこの今のままの興信所が何よりなのだとエマは思った・・・。



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

0086 / シュライン・エマ / 女 / 26 / 翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員

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■         ライター通信          ■
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シュライン・エマ様

この度はPCゲームノベル『夢見る・お豆ちゃん』へのご参加ありがとうございます。
少々嫌な夢を見せてしまいましたが、現実にあまりご不満のないエマ様だったのでこういったお話を書かせていただきました。
やはり夢は夢なんですよね。割り切った考えができる人というのは憧れます。
それでは、またお会いできる日を楽しみにしております。
とーいでした。