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■夢見る・お豆ちゃん■

三咲 都李
【1582】【柚品・弧月】【大学生】
「草間さーん、小包でーす」

パタパタといつものように零がはんこを突き、小包はいつものように草間武彦の机へと運ばれた。
「・・・差出人・『全国草間武彦ファンの会』・・・」
その差出人の名に嫌な予感が走る。
かつて、この『全国草間武彦ファンの会』からの贈り物でろくな物はなかった。
では、今回は・・・?
ためらいながらもその誘惑に勝てぬ草間は、その包みをそっと開けた。
と、中からは『豆』が出てきた。

・・・ま・・め?

「豆ですねぇ」
後ろから覗き込んでいた零もそう言ったから間違いなくこれは豆だろう。
豆は2種類。
1つは堂々と赤い鬼の面が付けられたあからさまに節分用の豆。
そしてもう1つは・・・。
「『ドリーム・ビーン』?」
袋を持ち上げ後ろの説明書きを読もうとした草間の手が滑り、『ドリーム・ビーン』は床に叩きつけられた。
慌てて草間は拾い上げた。中の豆は少々ヒビがいった程度であった。
草間は改めて説明書きを読んだ。

『寝る前にこの豆に貴方が見たい夢を話しかけてください。貴方の望む夢が見られるでしょう。そして起きた時、このドリーム・ビーンは貴方の夢の中で一番望んだ物をその枕元で産むでしょう』

草間は再度、豆を見た。
少々ヒビの入った豆・・・面白そうな物ではあるが自分で試すのははっきり言って怖い・・・。

草間は待つことにした。
この豆を試してくれる強者が現れるのを・・・。
夢見る・お豆ちゃん

1.柚品・豆を貰う
 柚品弧月(ゆしなこげつ)は、草間武彦に捕まった。
いや、それは妥当な言い方ではないのかもしれない。
なぜなら「望んだ夢を見れて望む物をくれる豆・・ですか。それは面白そうだ」と、本人興味津々であったからだ。
「なんなら試しに一個持っていくか?俺は使ってないが」
実験体を見つけた嬉しさを押し隠しつつ、草間は冷静かつ興味なさそうにそう言った。
「あー・・じゃあ貰っていこうかな。ありがとうございます」
ニコニコと柚品は一粒をポケットに入れた。
草間はそれを確認した後で聞いた。
「で、どんな夢を見たいんだ?」
「・・それは草間さんとはいえ、教えられませんよ。それじゃ」
少し赤くなった顔に草間は「ほぉ」っといった顔でなにやら女関係なのだろうと見当をつけた。
柚品はそんな草間から目をそらすと、ささっと帰路に着いたのであった・・。


2.柚品・夢を語る
 家に帰りつくと定位置であるソファへと寝転がった。
気ままな1人暮らし・・に見えるが家の中の至る所に気配がある。
その1つが、柚品の近くまでやってきた。
『もう寝るの?』
少女はそう言って柚品を覗き込んだ。
「いや、まだだよ。ちょっと考え事をしていたんだ」
柚品はポケットに入れていたドリーム・ビーンを出して少女に見せた。
『なにこれ?』
「望んだ夢を見れて望む物をくれる豆だって」
ふーんと感心していた少女だったが、なにやら気が付いた。
『これ、ヒビ入ってるよ? 大丈夫なの?』
「・・そういえば、袋に入っていたヤツ全部にヒビ入ってたな・・」
『なんか、怪しい気がするんだけど』
少女はそう言ったが、まさか不良品を草間が渡すわけがない・・と柚品は「大丈夫、大丈夫」と少女に言った。
『まぁ、あなたがそう言うなら止めないけどね。じゃあ私はお風呂入ってくるから』
時計を見ると21:30になろうとしていた。
少女が壁に消えると、柚品はずっと考えていた夢の内容を小声で言った。

「美人の芸妓さんにお酌してもらいながら世界中のケーキを食べ尽くしたいです」

少々寝るには早い時間だが、たまには早く寝たってかまわないだろう。
柚品はソファの上で目を瞑った。
睡魔はすぐに訪れた・・。


3−1.夢は語る
 黒く長い髪は流れるように、後ろで結い上げられている。
緑の瞳にうっすらと芸妓の化粧が施され、ほつれた髪がなお色っぽさを演出する。
どこぞの料亭の一室らしき和室に柚品はいた。

『美人の芸妓さん』と言っただけで、特定の人物について豆に語ったわけではなかったのに。
俺の願望すらも夢の中で見せてくれるとは。
だけど・・。

「おひとつ、どうぞ」
と美人の芸妓は柚品へと酌を勧めた。
だが、その酌はまるでおままごとの様な小ささ。
さらに付け加えるのなら『美人の芸妓』もそのサイズに見合った小ささで柚品の前に座っていた。

・・どうせなら等身大がよかった・・。

とは思ってみても、どこをどう見ても『あの人』にそっくりなわけで・・。
「ありがとうございます」
柚品はありがたくその酌を受け取った。
「中々あなたとはゆっくり話す暇もありませんもの。たまにはこうしているのもいいじゃんない?」
にっこりと彼女が笑った。
「そうですね・・ほんとにタイミングが悪いと言うか・・」
柚品は苦笑した。
目の前の彼女は、まるで本物の彼女のように立ち振る舞う。
今まで何度となくチャンスはあったがしていたが、ことごとく邪魔が入っていたのを思い出した。
夢の中ですら、こんな風に会えることもなかった。
「そうそう。私ね、あなたにケーキを作ってきたの。食べてもらえるかしら?」
「俺に? もちろん頂きます!」
「嬉しいわ。じゃあすぐに持ってくるから待っていてくれる?」
彼女が立ち上がるとそそくさと部屋から出て行った・・。


3−2.さらに夢は語る
彼女が部屋から出て行って少々時間が経過した。
が、一向に帰ってくる気配がない。
柚品はちょっと心配になってきた。
自分が知らないところで何か不都合が起きて、どこかに行ってしまったのではないかと思ったのだ。
が、柚品が立ち上がったところで「お待たせ〜」と彼女が帰ってきた。
「さぁ、どうぞ。腕によりをかけて作ったんだから」
彼女がふすまの奥を指差した。
そこには、彼女の大きさに見合ったサイズの小ささで色とりどりのケーキが所狭しと置かれていた。
「・・こ、これはすごい」
その小ささに驚いたのか、はたまたその多さに驚いたのか柚品は感心の一言を呟いた。
「かなり大変だったんだから。ねぇ、食べてよ?」
彼女が小さなフォークでケーキを切り分け、柚品に向けてそのフォークを差し出した。
暗に「食べさせてあげるから口開けて」と言いたいらしい。

まぁ、夢の中なんだし恥ずかしがることもないか・・。

素直に、柚品はその一口を彼女の手から頬張った。
甘いケーキに甘いひと時・・。
その甘いケーキは彼女の手作りだというし、こんな幸せな夢があっていいのだろうか?
柚品はその幸せを噛みしめていた。
が、ケーキはミニミニサイズ。
柚品が食べつくすのにそう時間は掛からなかった。
「足りなかったみたいね。もっと作ってきましょうか?」
彼女がそう聞いたので、柚品はその好意に甘えることにした。
彼女は再び、部屋から出て行った・・。


3−3.そして夢は語り終える
彼女が帰ってこない。
柚品は先ほど待っていたよりも長い時間を待っていた。

気になる・・。
だけど、様子を見に行ってもいいものだろうか?

その質疑を自分の胸の内で繰り返していた。
だが、その間も刻々と時間はすぎていく。

・・見て・・みようか・・。

柚品は立ち上がり、先ほど彼女が出て行った襖へと手をかけた。
なんとなく、後ろめたい気分になりながらそーっと襖を開けていく。
襖の奥はなんとなく暗がりで、部屋の奥のほうまで見通せない。
柚品はその中でかすかな音を聴いた。

何の音だろう?

暗がりに目を凝らし、柚品は音の発生源を探した。
徐々に暗闇に目が慣れていく。
と、ぼんやりと人影が見えてきた。
「ま・・!?」
呼びかけようとした柚品は異変に気が付いた。

「見てしまいましたね・・」

彼女と思われた影は、実は鶴だったのだ!
その鶴はなぜか機織りの前に座っており、その周りには先ほど見たミニミニサイズのケーキがたくさん並べてあった。
「見られてしまったからには、もうここにはいられません・・。さようなら〜」
バタバタと羽を羽ばたかせ、鶴は飛び立つ。
「あぁ!待って!!」
柚品はなにが何だかわからなかったが、引き止めるべきだろうと鶴の足を掴んだ。
だが、鶴の羽ばたきの振動が大きく伝わってきて柚品は思わず手を離してしまった。

下には畳があるはずだから大丈夫!

と思ったのだが、柚品の体はどこまでも暗闇に落ちていく・・・。


4.現実は・・?
どすんっ!と、体に衝撃が走った。
『あ。落ちた』
その衝撃とその声で柚品は目を覚ました。
「・・おはようございます」
『おはよう・・っていうか、その格好痛くないの?』
少女が特に心配そうでもなくそう聞いた。
「あはは・・痛い」
どうやらソファから落ちたらしい。柚品は体勢を立て直し、ソファに座った。
『で。あの豆、使ったの?』
「うん。まぁ、望んだとおりの夢・・といえば夢だったよ」
柚品は思い出しながら、そう言った。
『で、これが夢の中で望んだ物・・と』
少女が見つめる方向を柚品も見た。
そこには、夢の中で彼女が作っていたミニミニサイズのケーキがたくさん置いてあった。
「夢の・・名残か。確かに面白い夢だったな」
ひょいっとケーキをつまみ上げ、柚品はそれを口へ放り込んだ。
が。

「ぐっ!?」

顔色が一瞬で変わり、柚品は台所へと駆け込んだ。
ケーキを吐き出し、水をコップに注ぐのももどかしく蛇口から直接飲む。
一息つくと柚品は「死ぬかと思った」と呟いた。
『どうした??』
少女が柚品の後をまったりとついて来た。
「ケーキが塩の塊だった・・・」
『・・ほら見ろ。私の言うこと聞かないから、そういうことになるんだ』
少女はニヤリと笑うと壁の中に消えていった。

なるほど・・あのヒビの影響ってことか・・。
とすると、草間さんはもしかして俺を実験体に使ったんだろうか?

柚品は結論に達した。
そして、沸々とその胸の中に怒りをたぎらせてとある計画を思いついた。


5.そして復讐へ・・・
「こんにちわ。昨日はどうもでした」
ニコニコと柚品は草間興信所へとやってきた。
手にはケーキ屋の箱を持っていた。
「・・おう。どうだった? いい夢見れたか?」
開口一番に草間はそう聞いた。
それを聞いて柚品は自分が達した結論が間違いないことを確信した。
「えぇ、いい夢が見れました。御礼にケーキを買ってきたんですがどうですか?」
あくまでもニコニコとこちらの考えを悟られぬように柚品は言った。
「気が利くな。零! 珈琲を出してくれ」
「はーい」
柚品はケーキ屋の箱を開けた。
中からはショートケーキの他に夢の中の芸妓が作ったケーキが入っていた。
「新作だったんですが、どれも美味しそうだったので全部買ってきました」と、柚品は言いつつ彼女が作ったケーキを全部草間の前へと置いた。
「・・いいのか?こんなに大量に」
草間が目を数度瞬かせた。
「えぇ、この小ささならこれくらいは食べれると思いますよ」
「悪いな。気を使ってもらって」
草間がニコニコと笑った。零が珈琲を運んできた。

「全部残さず食べてくださいね?」

柚品はそういうと、笑顔のまま草間をじっと見つめていた・・・。


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

1582 / 柚品弧月 / 男 / 22 / 大学生

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■         ライター通信          ■
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柚品弧月様

この度はPCゲームノベル『夢見る・お豆ちゃん』へのご参加ありがとうございます。
このお話はプレイングに忠実に・・と思い作ったお話ですが、お気に召さなかったら申し訳ないです。
が、こちらも規定に反すること(他PC様を登場させること)ができませんので苦肉の策ということでご了承ください。
しかし、柚品様は温厚な方と思っておりましたが草間に対して復讐を企てるとは・・・。
楽しんで書かせていただきました。(笑) ありがとうございました。
それでは、またお会いできる日を楽しみにしております。
とーいでした。