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■夢見る・お豆ちゃん■

三咲 都李
【2129】【観巫和・あげは】【甘味処【和(なごみ)】の店主】
「草間さーん、小包でーす」

パタパタといつものように零がはんこを突き、小包はいつものように草間武彦の机へと運ばれた。
「・・・差出人・『全国草間武彦ファンの会』・・・」
その差出人の名に嫌な予感が走る。
かつて、この『全国草間武彦ファンの会』からの贈り物でろくな物はなかった。
では、今回は・・・?
ためらいながらもその誘惑に勝てぬ草間は、その包みをそっと開けた。
と、中からは『豆』が出てきた。

・・・ま・・め?

「豆ですねぇ」
後ろから覗き込んでいた零もそう言ったから間違いなくこれは豆だろう。
豆は2種類。
1つは堂々と赤い鬼の面が付けられたあからさまに節分用の豆。
そしてもう1つは・・・。
「『ドリーム・ビーン』?」
袋を持ち上げ後ろの説明書きを読もうとした草間の手が滑り、『ドリーム・ビーン』は床に叩きつけられた。
慌てて草間は拾い上げた。中の豆は少々ヒビがいった程度であった。
草間は改めて説明書きを読んだ。

『寝る前にこの豆に貴方が見たい夢を話しかけてください。貴方の望む夢が見られるでしょう。そして起きた時、このドリーム・ビーンは貴方の夢の中で一番望んだ物をその枕元で産むでしょう』

草間は再度、豆を見た。
少々ヒビの入った豆・・・面白そうな物ではあるが自分で試すのははっきり言って怖い・・・。

草間は待つことにした。
この豆を試してくれる強者が現れるのを・・・。
夢見る・お豆ちゃん

1.あげは・豆を貰う
「望む夢を見られるお豆なんですか?」
草間興信所に差し入れに来た観巫和(みかなぎ)あげはは、草間武彦から『ドリーム・ビーン』を一粒渡された。
「ついでに夢の中で欲しいと思った物が貰えるらしい」
興味なさそうなフリをしつつ、草間はあげはにそう言った。
「そうなんですか。・・じゃあ折角だから貰っていきますね」
にっこりと笑い、あげはは草間のその好意を受け取った。
その時草間の瞳がキランと光ったことに、あげはは気がついていなかった。

素直な子だ・・・と草間は一人ほくそえんでいた・・・。


2.あげは・夢を語る
「最近、夢なんて見てなかったかもしれないわね・・でも、忘れているだけかも」
一日の仕事を終え、あげはは布団の中で『ドリーム・ビーン』を見つめていた。
貰ったはいいものの、さてどんな夢を見たいのだろう・・?と思ったら色々と考えてしまった。

一番望んだものを生む・・・生まれるという事は、それは育ったりするのかしら・・・。

じーっと眺めた豆には小さなヒビが刻まれている。
見たい夢・・・見たい夢・・・と考えるうちに、どうしてもお店のことへいってしまう。

今、一番欲しいものはうちのお店ならではの新製品、かしら・・・。
色々考えてはいるのだけれど、思いつかないし・・・。
材料とか、この間読んだ旅行雑誌とか・・名産品の目録とか・・思い出して反芻したら何か良い夢が見られるかしら?

そう思ったらいてもたってもいられなくなって、折角温かくなってきた布団からあげはは抜け出した。
そして、材料のカタログや旅行雑誌、名産品目録をあっちこっちから引っ張り出してきた。
「枕の下に入れて置けば、いい夢が見れるっていいますものね」
あげははそれらを枕の下に全て入れた。
再び布団に入って横になる。
枕は当然先ほどよりも高くなっていた。

「和菓子のよいメニューが思いつきますように」

『ドリーム・ビーン』に願いを言って、あげははそれを枕元に置くと今度こそ眠りについた・・・。


3−1.夢は語る
「あ、あの、えーと・・・いらっしゃいませ?」
甘味処【和(なごみ)】はいつものようにお客様でいっぱい。
だが、何かがおかしい・・・。
そう、お客の間をすり抜けて何かが走り回っているのだ。
あげははよーく目を凝らした。
凝らして、それが何であるかを悟った。

小豆が・・お団子が・・・走り回ってる・・・。

そう、それらは【和】の商品にして、材料でもある種々雑多な食べ物達であった。
ある物は袋に入ったまま、ある物はそのままの姿で、ある物は手まで生えて・・・。
「お団子1つお願いしまーす」
お客からの注文が入った。
「はーい」
あげはは厨房へと入った。
中には、餡蜜がワタワタと中身を求めてさまよっていたり、お汁粉の鍋の中にどうにかして入ろうとしている餅の姿などがあった。
あげははそれらをひとまずおいておき、お客の注文の品を探すことにした。
「えーっと、お団子さんはどこに行きましたか〜? 出てきてくださいよ〜」
あげはがそう呼ぶとどこからともなく「は〜い」という声がした。
声は厨房の机の下から聞こえたようで、あげはは屈んでお団子の姿を探した。
「あーあ、みつかっちゃった」
あげはと対極線上あたりに隠れていたお団子が残念そうに顔を出した。
「ほらほら、お客様がお待ちですよ。このお皿に乗ってくださいね」
お盆の上にセットされたお皿を差し出すと、お団子は抵抗なくその上に寝そべった。
なんだかおかしな具合だったが、あげははそれをもろともせずこの不思議な空間になじんでいた・・・。


3−2.さらに夢は語る
【和】はさらに盛況さをましていった。
まるで新装開店のパチンコ屋のように長蛇の列ができていく。
「湯飲みさんはどこに行きましたか〜? あら、ワラビモチさんは注文入ってませんよ?」
てんやわんやとあげはは厨房内を探し回り、駆け回り、追いかけまくる。
だが、それもだいぶ慣れてきたようで材料たちが勝手にあげはの周りに集まってきてお手伝いをしてくれるようにもなった。

懐かれてしまったのかしら?
それとも、私がそんなに大変そうに見えるのかしら?

とにもかくにも厨房はまさに火の車。
手伝ってくれるのは本当にありがたい。
「美味しかったです」とお客の帰り際の言葉を聞くとあげはは嬉しくなった。
だが、そんな時大変なお客が来た。
「いらっしゃいま・・・」
そういいかけたあげはの言葉が凍りついた。

「わしらを使って菓子作って欲しいんじゃがのう」

そう言って入ってきたのは『絹ごし豆腐』『牛乳』『抹茶粉末』の手足の生えた者たちである。
「私らデザートになりたいんですが、無理でしょうか・・・?」
もごもごとそういった彼らに、少し考えてあげはは厨房に招き入れた。

デザート・・・お菓子・・・。
でも、どうしたらいいのだろう?
そうだ、ちょっと洋菓子みたいな和風のデザートなら・・・。

かすかな閃きに、あげはは厨房内でその閃きに使えそうな物を探した。
出てきたのは『ゼラチン』と『砂糖』。
さて、なにができるのやら・・・?


3−3.そして夢は語り終える
「豆腐さんはミキサーでほぐれてて下さい。もしミキサーが見つからなければ裏ごししますので・・。ゼラチンさんはちょっと水でふやけててくださいね。後で呼びますから」
「はいはい」
てきぱきと材料に指示を与え、あげはは頭の中で固まりつつあるレシピの通りに動いた。
「まず、牛乳さんは鍋で沸騰しないように温まってください」
「鍋はこれでいいのかな?」
「はい。それでいいですよ」
素直にあげはの指示通りに動く材料たち。
足元でワタワタしていた団子やお餅もあげはが動きやすいように色々と頑張って手伝っていた。
「えーと、あ。豆腐さん終わりましたか? なら次はお砂糖と抹茶粉末さんと混ざっててください」
「はーい!」
元気な返事が厨房内に響き渡る。
さて、そろそろ何ができるかわかってきましたでしょうか?
「では温まった牛乳さんの中にゼラチンさんは完全に溶けてくださ〜い。その後で豆腐さんと牛乳さんは合流してくださいね」
全てが合流すると、あげははプリン型をいくつか出してきた。
そして、その合流した物をその型に移し粗熱を取ってから冷蔵庫へと入れた。

「豆腐抹茶プリン・・・あとは待つだけです」

ふ〜っと息を吐き、あげはは厨房にあった椅子に座った。
なんだか妙に疲れていて、あげははいつの間にか眠ってしまった・・・。


4.そして現実へ
 ちゅんちゅん、とスズメの声がした。
あげはは重い瞼を無理やりに開けた。
「夢がこんなに記憶に残って・・こんなに疲れたの、初めて・・」
いつもなら見た夢がこんなに記憶に残っていないあげはにとって、今回の夢はあまりにも鮮明な夢であった。
あげはは大きなあくびを1つした。
よく寝たのか、よく働いたのか。何だか微妙な気分だった。
ふと、あげはは枕元を見た。
「・・・ノート?」
よく見ると、それは夢の中で見た走り回る団子や餡蜜などがワンポイントに描かれている『レシピノート』と書かれたノートだった。
ぱらぱらと中身を見ていくと、それは現在の【和】のメニューのレシピがそのまま書かれていた。
「これが、私が夢で望んだ物?」
小首を傾げつつ眺め、真ん中あたりのページまで来たところであげはの手は止まった。

「『豆腐抹茶プリン』?」

じーっと食い入るように真剣に読んでいくと、それはどうやら夢の中であげはが作ったあのプリンのレシピであった。
そして、そのレシピ以降のページは空白であった。
「この空白の部分は・・・私自身に埋めろということかしら?」

卵から生まれるように成長するのだろうか・・と考えたのをあの豆はわかったのでしょうか?
確かにこれなら私が書き込むことで成長すると言えるかも知れない・・・。

あげははふぅっと溜息をついた。
少し時間を見つけてこのプリンがメニューに載せれるものかどうか試してみる必要がありそうだ。
朝の柔らかな光に、あげはは大きく伸びをした。
今日も一日、いい天気になりそうだ。
きっとお客さんもいっぱい来るだろう。

「うん!頑張りましょう!」

疲れた体に気合を入れて、あげはは朝の空気を肺いっぱいに吸いいれるべく窓を開けた・・・。


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

2129 / 観巫和・あげは / 女 / 19 / 甘味処【和(なごみ)】の店主

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■         ライター通信          ■
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観巫和あげは様

再びお会いできて光栄です。
この度はPCゲームノベル『夢見る・お豆ちゃん』へのご参加ありがとうございました。
あげは様のお話に出てきました『豆腐抹茶プリン』ですが、検索で出てきました「とうふプリン」なるレシピに和風テイストを加える為に抹茶を加えてみた物です。
多分食べられると思います。私が実際に作ったことはありませんが。(^^;
・・とか思ってたら、市販の物でもあるみたいです。う。知らなかった・・・。
甘味処ということで和菓子方向でレシピ探したのですが、中々面白いのが見つからなかったのでこのような形となりました。
それでは、またお会いできる日を楽しみにしております。
とーいでした。