■東京怪談本番直前（仮）■
深海残月 |
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【1415】【海原・みあお】【小学生】 |
ある日の草間興信所。
「…で、何だって？」
何故かエビフライを箸で抓んだまま、憮然とした顔で訊き返す興信所の主。
「どうやら今回は…ノベルの趣向が違うそうなんですよ」
こちらも何故かエビフライを一本片付けた後、辛めのジンジャーエールを平然と飲みつつ、御言。
「…どういう事だ？」
「ここにたむろっている事に、いつもにも増して理由が無いって事になるわね」
言い聞かせるように、こちらも何故かエビフライにタルタルソースを付けながら、エル。
「…怪奇事件をわざわざ持ってくる訳じゃなけりゃ何でも良いさ…」
箸でエビフライを抓んだそのままで、思わず遠い目になる興信所の主。
「そう仰られましても、今回は…『皆さんから事件をわざわざ持って来て頂く』、事が前提にされているようなんですけれど…」
ざらざらざら、と新たなエビフライを皿の上に大量に足しながら、瑪瑙。
「…」
「…」
「…まだあるのか」
エビフライ。
「誰がこんな事したんでしょうかねぇ…」
じーっとエビフライ山盛りの皿を見つつ、空五倍子。
「美味しいから俺は良いけどねー☆」
嬉々としてエビフライをぱくつく湖藍灰。
「…いっそお前さんが全部食うか？」
嬉しそうな湖藍灰を横目に、呆れたように、誠名。
「…嫌がらせにしても程がある…くうっ」
嘆きつつも漸く、抓んでいたエビフライを頬張る興信所の主。
「あの、まだ軽くその倍はあるんですけど…」
恐る恐る口を挟んで来る興信所の主の妹、零。
それを聞き興信所の主は非常ーに嫌そうな顔をした。
「…誰がこんなに食うんだ誰が」
「誰かの悪戯だ、って話だったか？」
タルタルソースの入った小皿と箸を片手に、立ったままビールを飲みつつ、凋叶棕。
「そうだ。しかも出前先の店曰くキャンセル不可で、だがそういう事情があるならと…折衷案として食べ切れたなら御代は無料で良いと来た…何がどうしてそんな折衷案になるのか果てしなく謎なんだが」
そして草間興信所には金が無い。
客人もなるべくならば払いたくは無い。
故に、そこに居る皆総掛かりで…何となく食べて片付けている。
客人も合わせるなら、別に金銭的には何も切羽詰まっている訳では無いが…。
「ところで『事件を持って来て頂く事が前提』ってのはなんだ？」
誰にとも無く問う興信所の主。
「誰かから御指名があったら、ボクたちここから出て行かなきゃならないんだよね」
答えるように丁香紫。
「…逃げる訳か」
「そんなつもりは無いが…。そうやって『我々の中の誰か』を指名した誰かの希望に沿う形にノベルを作るのが今回のシナリオと言う事らしい…まぁ、制約緩めなPCシチュエーションノベルのようなものだと言う話だが…それが今回の背後の指定だ…」
頭が痛そうに、エビフライの載った小皿を持ったまま、キリエ。
その話を聞いて、更に憮然とする興信所の主。
「………………だったらせめてそれまでは意地でも付き合わせるぞ」
「わかってますって。でもこれ…ひとつひとつを言うなら結構美味しいじゃないですか。たくさんあるとさすがにひとりでは勘弁ですけど、幸運な事に今は人もたくさん居ますし。きっとその内片付きますよ」
興信所の主を宥めるように、水原。
「ところでいったい誰がこんな悪戯したんでしょーね…」
エビの尻尾を小皿に置きつつ、ぽつりと呟くイオ。
「それさえわかればお前ら引き摺り込まずともそいつに押し付けられるがな…」
この大量のエビフライとその御勘定の両方が。
興信所の主は再び嘆息する。
「まぁ、どちらにしろ…誰か来るまでは誰も逃がさんぞ…」
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→ 幽霊でも着せ替えごっこは可能？
…ある日の月刊アトラス編集部の朝。
始業早々の時間帯。
ばたばたばたと銀色の流星――もとい、銀髪のお嬢さんが色々と抱えて駆け込んで参りました。
「ねえねえねえ碇碇碇〜！！！」
そして編集長を呼ばわる可愛らしい声が続きます。
…ついでにびらびらとフリルやら何やら色とりどりな布のはためきと揚げ物っぽい香りが更に続きます。
「あのさ、美都どこ美都どこ〜！！！」
ばたばたばたばた、と駆けて来た銀髪のお嬢さんこと海原みあおは、駆け込んで来るなり編集長のデスクに向かうと――その机の上に持っていたエビフライの皿と大量の洋服をよいしょっと置きました。何か大層な事を成し遂げたように、はー。と息を吐き額の汗でも拭う素振りをすると、みあおは改めてデスクの主――編集長、碇麗香を見上げました。
一方の麗香の方はいったい今度は何事か、と額を押さえて俯いています。
「…今日は何」
「草間のところからもらってきたエビフライ食べようっ」
「…また朝っぱらから」
いや、朝じゃなければ良いと言う事ではないんですが。
「ってのは口実で、美都一日貸してっ！」
「は？」
「折角のお休みなんだもん。たまには美都とも遊びたいのー！！！」
じたばたじたばた。
遊ぶの遊ぶの、と訴えます。
と、そこに。
何事か外で用事でもあったのか、編集部の外からすーっと半透明な人影が文字通り空を飛んで入ってきました。背の中程まである黒髪に、白のネグリジェを靡かせながら。
…先程からみあおが御指名の当人、幻美都です。
彼女はそのまますーっと麗香のデスクの横まで来ました。
『どうしたんですか編集長〜、ってあ、みあおちゃんじゃないですか』
おはようございます、と頭を下げ、美都は改めて編集長のデスクの上とみあおを見比べます。
『えーと…何の騒ぎでしょう？』
「みあおと一緒にエビフライ食べよう！」
『へ？』
「それからついでにみあおと着せ替えごっこしようっ！」
『はい？』
きょとん、と美都は目を丸くしました。
そんな美都にみあおはにっこりと笑い掛けます。
「えーとねえーとね、メイド服とか巫女装束とかもあるし、お姉様の持ってる奇抜なのもあるし、とにかくみあおの家にある幽霊着用可能な洋服のセット、ぜーんぶ持って来たんだ！ それにね、みあおの霊羽で霊力付与済みの…『みあお特製デジタルカメラ（業務用）』もちゃーんと装備っ！ 美都だって撮れるよ☆」
『はわー…』
唖然。
どうやら美都の方はひとまずびっくりした、と言うのが正しいよう。
「ね、やろ？」
最後にみあおは、にこっ、と駄目押しの笑顔を見せました。
■■■
で。
びららん、とみあおは色々洋服を広げて美都に見せています。
これなんかどーだろー、こっちは、これはっ？ と、悪魔っ子やらメイド服やら次々引っ張り出し嬉々として見立てている様子です。どういう原理になっているのかわかりませんが、本当に幽霊である美都にも透けてしまう事無く合わせられるようで…何はともあれ、便利な洋服です。
みあおはと言うと既にして――こーゆーのがあるんだよー、と例のつもりか着ぐるみのクマさんを着込んでいたりします。ちなみにそれを着る前には妖精っぽい触角やら蝶の如き羽根を生やしていたりしました。
「うーん、うーん…美都は…取り敢えずこれでどーだっ！」
…と、色々目移りした後にみあおが見立て、美都をロッカールームに呼び込んで着替えさせた結果は――。
『…なんだか着た感じはあんまり普段と変わりないです』
巫女装束。
ついでに狐の耳に尻尾がぴょこんと付いているのは御愛嬌。
『ちょっと引き締まる感じはしますが』
少し照れたように微笑みつつ、恥じらって見せる美都。
「髪がさらさら真っ直ぐで真っ黒だし、雰囲気からして清楚な感じが良いかなーって思ったからコレにしてみたんだけど…うん。ばっちり！」
満足そうに頷くと、みあおはじゃー、撮ろー☆ とその辺に居る編集員を取っ捕まえ、はい、と当然のように特製カメラを渡しておねがーい、とあっさり頼みます。
そして速攻でカメラを渡した彼から離れ、美都をも来い来い、と呼び付け引き摺り込み、ポーズ。
問答無用でカメラマンにされてしまった編集員もはいはい、とばかりにみあおのわがまま聞いてあげて、ぱしゃり。
で、撮り終わると、じゃー次ー！ とまた初めっから繰り返し。…勿論他の服で。
そんなこんなで数回繰り返した後。
「ねえねえ、美都が何か着てみたいって服はある？」
『私がですか？』
「うんうん。だってなんだかみあおばっかり楽しんでるみたいなんだもん」
美都にも楽しんで欲しいんだけどなぁ。
あっけらかんとぼやきつつ、休憩がてらみあおは持参したエビフライをもぐもぐもぐもぐ食べています。
そしてついでに、これ油っこくなくて結構美味しいよ〜♪ と美都の返答を待ちつつも周囲に適当に勧めてもいます。
『着てみたい服ですか…』
うーん。
顎に手を当て、悩む美都。
ふと思い付きます。
『…そう言えば私、学校って行った記憶無いんですよね…何か、制服、とか？』
「だったら！」
と、美都のその科白を聞き留め、ここぞとばかりにみあおがぴらっと引っ張り出したのは…何処ぞの女子制服。
それも一着ではなく、永遠の定番（？）セーラー服から有名私立なブレザーのものまで多種多様。
『うわ』
「よりどりみどりいろいろあるよ〜☆ あ、みあおんとこの制服が良かったらみあおの貸したげるし」
『って…えーと』
「ランドセルとか指定の鞄もあるよー」
学生やりたいならランドセルの方が雰囲気出るかな？
と、みあおは今度は制服を色々美都に合わせて見ています。茶系から紺色系、チェック柄のスカートだったりプリーツスカートだったり…帽子やら小物まで揃えられております。一見、サイズの問題も出そうですが…どれもこれも、何故か着てみるとぴったり合う謎の洋服でもあったりします。…他ならぬ海原さんちコレクションのお洋服だからでしょうか。
「こっちのカーディガンっぽいの美都に似合いそうじゃないかなあ？ どーだろー？」
と、みあおがイチ押しだったのは某お嬢様御用達な有名私立学園初等部の制服（何故あるのでしょう？）
『んー…じゃ、それにしてみます。あ、ランドセルもお借りして良いですか？』
「もっちろんっ」
うん。と元気に頷くみあお。
で、暫し後。
『…どうでしょう？』
再びロッカールームを借り、仄かに頬を赤らめつつ出てきた美都は、ちら、とみあおを見ました。みあおは、ふむ。と検分するようじーっと見てから、元気いっぱい満足そうに頷きます。
そして、内緒話でもするように美都に顔を寄せました。
「ねえねえねえ」
『はい？』
きょとんとした顔で美都は受けます。
「あのさ、ちょうど良いからそれ着てさ、午後からどっか行かない？」
『え、でも…今日やろうと思っていたあちらのファイルの整理が終わって無いんで…』
今の時点で結構、時間食っちゃってますし…。
「いいじゃんいいじゃん一日くらい！ 美都ずーっとここでお手伝いしてるんでしょ、一日くらい休んだって誰も文句言わないって！ 一緒に遊びに行こうよーっ！ ほら、みあおの霊羽があれば一日くらいは実体化出来るだろーしさ！」
ねえねえねえ、と訴えます。
『うー…ん』
困ったように首を傾げ、済まなそうに編集長を見る美都の顔。
と。
「あー、もう何処にでも行ってらっしゃい」
むしろこの状況で居座られる方が仕事の邪魔だわ…とこれ見よがしに編集長は嘆息します。
と、許可がもらえた♪ とばかりにみあおは大はしゃぎ。
すみません、と編集長に頭を下げつつ、それでも何処か嬉しそうな美都。
じゃー、媒体のうささん持ってこよー！！ と、いつもの霊羽片手に編集部ロッカーの隅――そこに美都の依代であるぬいぐるみが置いてある――に向け元気に駆け出すみあお。目的の場所に到着するとそこにあったピンクのウサギのぬいぐるみを取り上げ、そのままたーっと戻って来ます。
「どうだっ！」
そしてふわっ、と霊羽でぬいぐるみを撫で、霊力付与。
と。
半透明だった美都の姿が、みあおの宣言通り、少しずつ透けなくなって来ていました。
わ、ホントに実体化してる、と自分の身体に触れ、驚く美都。
で、みあおはと言うと当然のように行こー行こーと無邪気に急かします。それに促されるよう美都は麗香に深々と頭を下げると、みあおに手を引かれるまま、素直に外へ行こうとしています。
と。
「ああ、ちょっと待った」
『はい？』
足を踏み出す前に麗香に呼ばれ、振り向いた美都の――空いている方の手に、当然のように麗香から千円札が数枚――六枚、握らされました。
『あ、あの！？』
「これから遊びに行くならこのくらいあっても良いでしょ。全部みあおちゃんに任せる訳にも行かないしね」
『でも』
「そもそも美都には…幽霊だから使いどころが無いだろうって事もあって、給料全然払ってないじゃない。三下なんかよりずぅっと役に立ってるのに」
だから、遠慮する必要は全然無いの。
ま、今までの給料の代わりって言うにはこれじゃ安過ぎるけど、と、麗香はにっこり。
『あ、有難う御座いますっ』
「どうせだからたまにはぱーっと遊んでらっしゃい。で、帰ってきたらまたばりばり頼むから」
「じゃ、決まりだっ！！」
嬉々としながら、みあおはついでのように美都の姿を捉え、ぱしゃりとカメラのシャッターを切っています。
■■■
その後。
よぉっし、行っくぞー♪ との元気なみあおの号令で、みあおと美都のふたりは連れ立って歩いていました。
…そして、何故かふたりともお揃いで猫耳仕様になってます。
ただ制服ってだけだとちょっとつまんないのー、と、みあおに駄々捏ねられた結果の事。
そんなみあおの手には、美都の依代であるぬいぐるみが確りと持たれています。
『外に出るのは久し振りです〜』
「そ言えばあんまり外出ないんだっけ？」
『はい。時々回線を通じてネットカフェにお邪魔したりアトラスのお得意様等にメッセンジャーとしてお伺いしたり…はしますが』
それ以外は…みあおちゃんに連れて行ってもらった時ありましたよね。そのくらいです。
いえ、こんな風に自分の足で普通に歩く、のは…ひょっとすると生きてる頃から含めて、初めてになるかもしれません。
美都のそんな科白に、みあおはぎゅっ、と美都の腕を抱き締めます。
「んじゃ、めいっぱい遊ばなきゃ損だよね♪」
『…みあおちゃん』
「じゃーさ、まずは…何処行こっかな…ここは編集部の近所だから…うーん。あ、そだ、クレープでも食べる？ 近くで美味しいところ知ってるからさっ！ イチゴスペシャルとかがお店イチ押しで人気なんだよ！」
チョコとかカラメルとかも美味しいし♪ メニューがたくさんある上にハズレがないから選びがいもあるんだ〜☆
『…』
その科白に美都は少し考えます。
自分は幽霊。
それは今は一応実体化しているが…飲食、可？
と。
「なぁんか面倒な事考えてるなー？」
じーっと顔を覗き込むみあお。
『え、あ、いや、何でも…』
「行こっ」
クレープクレープ♪
と、みあおは問答無用で美都を引っ張って行きます。
…どうせだもん。美味しいものを食べさせたいから。
件のぬいぐるみ片手に、ぎゅっ、と美都の手を取ったままずいずいと歩いて行くみあおに、うーん、と苦笑しつつ美都もまた付いて行きます。
が、別に嫌では無さそう。
まず実体化する事すら久し振りなので、服を着替える事は勿論、それ以上何をするまでも無く…ただ、今こうやって手を繋いで道を歩いている、それだけでも楽しい事は楽しい様子。
手を引かれるまま、大人しく付いて行っているのがその証拠です。
………………取り敢えず、ふたりとも、暗くなる前にはおうちに帰りましょうね？
【了】
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登場人物（この物語に登場した人物の一覧）
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■整理番号／ＰＣ名
性別／年齢／職業
■PC
■1415／海原・みあお（うなばら・-）
女／13歳／小学生
■指定NPC
■幻・美都（まほろば・みと）
女／享年11歳／幽霊・月刊アトラス編集部でお手伝い
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ライター通信…改めNPCより
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御指名有難う御座いました〜。
美都です。
最近私がメインNPCで出る調査依頼がめっきり無いんですが（汗）覚えていて下さって有難う御座います（礼）
今回は実験的な代物…とＷＲが言ってましたが、いかがだったでしょう？
えー、私としては…こちらまでコスプレに巻き込まれてしまうとは思いませんでしたが（苦笑）
とは言え…取り敢えず…私も、楽しませて…もらった事は、確か、ですね（照）
みあおちゃんの方はどうだったでしょう？
楽しかったでしょうか？
楽しかったなら…一日お休みもらった甲斐があったってものなんですけどね♪
ではでは、また編集部でお会いしましょー☆
メインNPCとして出ていなくとも、アトラスやゴーストネットの調査依頼ではちょくちょく顔出すと思いますので、今後とも宜しくお願いしますです♪
幻・美都 拝
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