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■魑魅魍魎の召喚者【第弐話】■

千秋志庵
【2240】【田中・緋玻】【翻訳家】
 前略

 突然のメール、失礼致します。
 以前もメールを送らせていただきました者で、シン=フェインと申します。
 依頼は急なものでして、是非とも御力添えを御願い致します。
 前回と同じく報酬は希望額を御支払い致します。
 または、御代に見合うだけの情報を提供させて頂きます。
 それでは、仕事を引き受けてくださる方はメールの返信をお願いします。

 敬具

(添付ファイル:依頼内容詳細)





 魑魅魍魎の氾濫――ふと、そんな言葉が僕の脳裏に過ぎった。
 昔の戦友が起こした、世界への抵抗。
 そう言えば聞こえは良いが、実質は単なる破壊。
 
 それは、最悪の事態をも起こしかねない状況だと、あの男は知っているのだろうか?



 依頼内容は某街内に発生した時空の歪みの発見と修正。
 万が一、歪みによる魑魅魍魎の発生が確認された場合にはすぐに滅する。
 それとも――…

 僕と共に世界の破滅を愉しむ奴を殺すか?

 私情が入り混じっているようで非常に申し訳ない。
 それでも僕の手で、全てを終わらせたいんだ。
魑魅魍魎の召喚者【第弐話】

 前略

 突然のメール、失礼致します。
 以前もメールを送らせていただきました者で、シン=フェインと申します。
 依頼は急なものでして、是非とも御力添えを御願い致します。
 前回と同じく報酬は希望額を御支払い致します。
 または、御代に見合うだけの情報を提供させて頂きます。
 それでは、仕事を引き受けてくださる方はメールの返信をお願いします。

 敬具

(添付ファイル:依頼内容詳細)





 そこは人通りの多い街の中心部から道一本、裏に入ったところだった。狭い壁と壁の間にただようのは、地元外の人間が無作法に捨てたごみの放つ腐敗臭であり、足元に転がるのはかつて人の手に触れられていたものであった。
 そこに立つのは二つの人影だった。
 一つは背の高い女で、一つは背の小さい少女。
「……壱つ」
 黒い着物の少女は言って、何もない空間に向けて上げていた腕を水平に切る。無言の悲鳴と、全てが断ち切られる。
 “切った”のは、どこか魔の空間へと繋がっている歪みだった。
 暫く静止した状態で、そして少女は腕を下す。
「本当に厄介ね」
 振り返った少女に田中緋玻は言って、曖昧な笑みを返す。
「あと幾つあるのかしら」
「さあ、他の人にも頼んでおります故、もしかしたらないかもしれませんし、あるかもしれませんし」
 微笑む女に対して、依頼者の使え魔であるジンの表情は浮かないものだった。
「本当に、迷惑をかけてすまない」

 一つの街に組み込まれた歪み。
 “好奇心”を媒介として発動する誘導性のもの。
 生むのは魑魅魍魎。
 発生前に破壊するという難しい依頼に加え、扱いにくい使え魔のジンと組むことを、緋玻は快諾してくれた。
 依頼者はその街を幾つかに分割し、各々に人を割り振って魑魅魍魎の駆除を依頼した。
 緋玻とジンの担当区域は、人通りの少ない田園地帯と大通りの間という、何もかもがごっちゃになった場所だった。
 依頼者の指定した区域のほぼ全域を廻り終え、残るのは一件の廃屋だけとなる。“噂”では幽霊だかなんだかが出るそうで、近所の子供達が深夜によく徘徊するのが目撃されているという。
「ここが一番、可能性が高いわね」
 緋玻の言葉に、ジンが頷く。
 可能性とは勿論、歪みが発生している可能性のことである。歪みは“好奇心”の存在する場所に発生する、と依頼者は言っていた。ならば、肝試しだかなんだかで訪れるそれは計り知れないものかもしれない。
「とは言うものの、魑魅魍魎はまだ見えないから完全に開ききっている訳ではなさそうだけれど」
「入ってみないと判らないということですね」
 “噂”というものは出所が分からない反面、匿名性を生かして流すことも可能である。もしかしたら、幽霊の出没云々の話も例の男が流したものかもしれない。二人の胸中にはそのような危惧があった。
 廃屋はいつ出来たのかは殆どの人には知られていないが、情報によると五十年以上昔だという。或る夫婦が以前は住んでいたそうだが、息子夫婦との同居に伴って放置されたというのが表向きの理由である。
「臭います」
 ジンは言って、緋玻を見る。扉を開けると、主を失った生気のない家がそこに佇んでいた。
「人間のニオイ。歪みの蠢く臭い」
「……行こう」
 踏み出した足は、軋んだ音を立てて沈む。抜くと同時に床に舞った腐った木の破片に一瞥をして、緋玻は注意をしながら足を進めていった。
 周囲に軽く意識を向け、
「ここか」
 程なくして一本の大黒柱の前に立つ。
 幼い子供時代、そして反抗期を迎える少年期――そのいずれをも太く鉛筆で刻まれた柱は、その全てを失っても尚、ただ静かにそこに佇んでいる。何重にも鉛筆で深く書かれた線と、その横に書かれた三桁の数字。僅か下には擦れて読めないが、少年らしき名前が刻まれていた。
 時空が少し、歪んだ。
「……この家は、倖せだったのかな」
 触れると仄かに捻れ始める柱を緋玻の細い指が伝う。柱というよりも、鉛筆の線を。
「ジンは、どう思う?」
 問われて、
「さあ、与り知れぬこと。されど、不服ではなかったと想います」
「良かった」
 緋玻の笑みに、ジンは一瞬面喰らったような顔をしたが、すぐに普段の無表情に戻る。
 歪んだ時空を壊すには、その媒介を壊すのが最も早い。
 故に、柱を壊さねばならない。
 しかし、柱を壊せば家は壊れる。
「もし怒っているようだったら、黄泉で謝れば良いだけの話だ」
 家に魂が宿るならば、我はそうする。
 ジンは言って、静かに息を整えた。
 緋玻はその姿を見て頷き、
「ごめんなさい」
 音速の速さで一気に腕を柱に向けて差し出した。
 腕は柱を貫通し、柱は真っ二つに折れる。
 二人の側で断末魔の叫びが響き、消える。
 古い木造建築物は天井からばらばらと崩れだし、やがて見えなくなった。





 シン=フェイン――例の依頼者からメールが来たのはそれから数日後のことになる。





 事件一件落着 感謝

 その一言が明記されただけの、短いメール。
「……らしい、わね」
 メールを視界に、緋玻は微笑んだ。
 事件が一体どういう風に解決したのかは、実は彼女は分かっていない。もしかしたら、何か重大な部分だけ未だに解決していないのかもしれない。そう、思うこともある。
 長い髪を後ろにやって、彼女はその場をあとにした。
 事件がまだ終わっていないのならば、解決すれば良いだけだ。

 次の“魑魅魍魎”を見つけるために、彼女は足を進めた。





【TO BE CONTINUED?】

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
【2240/田中緋玻/女性/900歳/翻訳家】

andジン

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■         ライター通信          ■
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お久し振りです、千秋志庵と申します。
依頼、有難うございます。

今回はグループ(少人数)ごとに書かせていただきました。
NPCのジンと組ませていただきましたが、どうだったでしょうか?
ただ敵を薙ぎ倒す前回を「動」とするならば、歪みだけを壊す今回は「静」となると思います。
対照的なこの小説を愉しんでいただけたら幸いです。

それでは、またどこかで会えることを祈りつつ。

千秋志庵 拝