■【庭園の猫】言わない想い■
秋月 奏 |
【2043】【ピューイ・ディモン】【夢の管理人・ペット・小学生(神聖都学園)】 |
言えない想い――。
言わない想い――。
告げなければいいの。
言わなければいいの。
全てが消えないように溶けない様に、散りゆく桜の様に。
全て、儚いものならば。
「…だから、この風鈴の名前は」
「封じの風鈴――鳴らない風鈴ゆえにそう言われる」
沈黙する。
黙される。
もし、誰かに言えぬ想いがあるのなら。
貴方の、その想いを形と色にした。
風鈴を手にしてみませんか?
募集人数:一人から
プレイング傾向:3月、卒業シーズンゆえに言えぬ想い…封印した想いがベースになります。
プレイングには言えぬ想いと、風鈴の形と色合いを添えて下さいね。
色について無い場合はこちらで考えます(汗)
※尚、前回のものに参加されてなくても参加できますのでお気軽にどうぞ♪
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【庭園の猫】言えない思い
夢を食べる。
けれど食べたあとは――誰が、その夢を見るのだろう?
夢は生まれる。
良きにしろ、悪しきにしろ全ての思考あるものから。
だが――誰が、誰の夢を消せるだろう。
……自分自身の夢でさえ、ままならない時があるものを。
とある室内にて、ピューイ・ディモンは主人の呟きを聞いていた。
いや、呟きではなく――話しているのかもしれなかったが、何処か呟きのように聞こえるのをピューイは感じていた。
…それはもしかすると、主人の瞳があまりにも遠くを見てたからかも知れなかったし何処か寂しそうに見えたからかも知れなかった。
「思いを封じる風鈴ぴゅ?」
「とある庭園にあるらしいって言う噂だ」
「何処にあるぴゅ……?」
「狭間だ。此処とあちらの狭間…そうだ、ピューなら夢を介して辿り着けるかもな」
「行くの難しいのぴゅ?」
「いや、目印があるから行こうと思えば行けるさ。ま、……其処は風鈴が鳴っている庭園でな……何つーのか日本風の庭じゃないのに鳴っているから驚くと言うか」
「それは……不思議なのぴゅ……」
「驚くのはまだ早いぞ。風鈴が吊るされてる場所があるなと思うと、何処かから少女が現れる、そして――猫だ」
「猫ちゃんなのぴゅ?」
「そうだ、猫だ。これがまた曲者でなあ……とは言えあそこの風鈴は中々いい」
「綺麗なのぴゅ?」
「多分な。ピューが見たら…気に入ると思うぞ?」
お前もあそこの場所も夢の住人のようなものだしな、とあえて主人は言わず、ピューイの頭を軽く撫でた。
◇◆◇
春とは思えぬ寒さの日、庭園内にある工房の中で少女は一人首を傾げていた。
「…おかしいですね」
確か、此処に一つか二つ風鈴を吊るした覚えがあるのだが……何故か、其処にはない。
と言うより、此処には無いと言うべきなのか。
瞬時に考えたくない思考に到達し首をふるふると緩く振る。
(それに――猫が持って行ったとしても何処に?)
そうだ、第一に猫本人がここ数日、庭園から一歩も出ていないと言うのに。
だが本当に何処に行ったのだろう……。
少女は辺り一面に吊るされた風鈴を見ながら誰に呟くでもない言葉を呟く。
「……貴方たちは黙する事がお仕事ですから決して私に教えられない……」
沈黙する。
黙される。
黙ることから出でる事もあるだろう思いや言葉たち――
風鈴を覗くのが少女の仕事だけれど、沈黙の部分には決して触れられない。
……例え、自分の風鈴であろうとも。
少女は何処に行ったか解らぬ、あてのない風鈴をぼんやりと追うかのごとく瞳を空へと走らせた。
◇◆◇
眠る時に夢を見る。
眠れば――夢は訪れる。
様々な色合いの、様々な夢……中には見てられぬほどの"悪夢"もあるが……
(それは食べてしまえば同じなのぴゅ)
夢は夢だ。
まして、ピューイは夢の管理人だ。
夢の世界であれば彼に敵う者は居ないし、溢れきった想いさえもピューイは食べてきたのだから悪夢も夢も同じ、彼にとっては"夢"と言う"現実"でしかありえない。
(…それにしても…此処は誰の夢なのぴゅ? ……来た事が無い夢のような気がするぴゅ……)
見えるのは一面の荒野原。
其処に一人の青年がうずくまり、誰か…女性だろうか、細身の身体を抱きしめている。
両者とも微動だにせず、また声を出す事もない。
長い長い沈黙だけが夢の中に流れ……砂が舞うようにその光景を掻き消していく。
さらさら、さらさらと。
…まるで砂時計が刻一刻と落ちていく音のように。
そして――………
「…私も前に誰かに言われた事があるが、いい趣味をしているね」
「…誰?」
「私は私だよ、この夢の住人。それと、君が訪れ探してるだろう庭園の持ち主だ」
「……何を」
言ってるのぴゅ、と聞き返したかったが砂の音が激しくなり何もかもが雑音の中に埋もれていく。
夢の持ち主が目覚めるのだ、と気づいた時にはピューイ自身既に、何処か柔らかな場所で瞳を開けたのと同時刻、だった。
◇◆◇
「……あの?」
瞳を開けると黒髪の少女が目の前で手をひらひらと動かしピューイを見ていた。
灰色かと思えた瞳は銀で幾分、その所為なのか少女の顔が人形のように、ピューイには見え……だが何時までも挨拶もせずにまじまじと見るのも失礼にあたるので、ピューイは小さく少女へとお辞儀をした。
「はじめましてなのぴゅ。…誰だか知らない人の夢から起こされたのぴゅ」
「は、はあ……」
少女はどう答えていいかわからず曖昧な笑みを唇に浮かべた。
工房から出て四阿(あずまや)に向かおうとした時にどすんと何か落ちたような音がして、振り向いたら、この少年が居たのだから。
……不思議なことなど一つも無いと言う言葉を聞いたばかりだが最近は色々不思議なことが多いような気がする。
が、ピューイも一生懸命にどう言う人だったかを伝えるべく努力をしていた。
…何せ、庭園に行く、行かないも話を聞いていたその後に夢に潜っていたなどと……思いもよらなかったのだから。
「何だか背の高い男の人だったような気がするぴゅ……庭園の持ち主だって言ってたぴゅ」
「庭園の、持ち主……黒髪で黒尽くめの?」
「黒尽くめかどうかは解らなかったぴゅ…夢の風景は荒野原だったのぴゅ……」
しゅん、とピューイはうな垂れる。
さら…と柔らかな線の銀髪がピューイの動きとともに動き、柔らかな光を放つ。
少女はまぶしそうに瞳を細めると、少しばかり苦々しげな声で答えた。
「……多分、それは猫です」
「猫ちゃんぴゅ?」
「…貴方は何方かのお知り合いなのですね。だから、此処の話を聞かれた」
「うん……僕はココに来るの初めてだけどご主人様は猫ちゃんと女の子に会った事があるって言ってたぴゅ。言えない想いを封印する風鈴があるって聞いてきたぴゅ。風鈴綺麗だって聞いたぴゅ」
「そう、でしたか……あるにはございますよ。ただ、一部見つからないものもあるので、貴方のがあるのかどうか……」
「…風鈴にも足があるのぴゅ?」
「…そうですね、そう考えた方が良いのかも知れません」
「じゃあ風鈴と僕は一緒ぴゅ♪ 僕は夢の管理人一族の出なんだぴゅ」
「ああ、だから……突然何処からともなく現れたんですか」
「うん、普段僕は夢の世界に住んでるぴゅ」
楽しそうに立ち上がるピューイを手招くように少女は工房への道筋を歩きながら教える。
夢の中の住人が現れたのだから、その子の風鈴はあって欲しいと思いながら、無くなったのはこの子の風鈴ではないかとも思う。
…溜息をつきたいのにつけない状況をどうしていいか解らずに、笑みだけがもれた。
◇◆◇
手に持っても鳴る事は無い、風鈴。
決して鳴らず黙するばかりの風鈴を、ピューイは見ていた。
「……どれが誰のかは解らないぴゅ?」
「はい、解りません。ただ、その人自身が風鈴の前に行くと自ずと解るようではありますが」
「ふうん……あのね、夢の中は言えない想いがいっぱいあるぴゅ。僕は一人で抱えきれない溢れた分の想いを食べてあげるんだぴゅ」
「ええ……」
「だから僕は言えない想いをたくさん持ってるぴゅ。溢れた分からちょっとづつ……全部一緒にして一つの風鈴に入れられないぴゅ?」
「……それは一つの風鈴に沢山の方の思いを、と言う事ですか?」
「うん、きっと虹色に光ると思うんだぴゅ」
駄目なのぴゅ?と問い掛けるような瞳のピューイを前にして少女が困ったように口ごもった。
「それは――」
…そして少女の声と重なるようにして。
「…それは無理だよ。人一人に風鈴は一つ。沢山の思いを重ねたら風鈴が困ってしまう」
と、言う声。
聞き覚えのある声にピューイは振り向き――
「……少しばかり来るのが遅れてしまったね、申し訳ない」
黒尽くめの青年は、穏やかな笑みを浮かべると、綺麗な色合いの風鈴を二つほど吊るし……。
「あ」と小さな少女の声に不思議そうな顔をピューイは向けたが「何でもないんです」と少女は首を振るばかりで。
「…相変わらず不思議なことばかりで戸惑います」と言う言葉が奇妙なほど、心に残った。
◇◆◇
「……駄目だったのは残念なのぴゅ」
四阿にてスコーンを食べながらシナモンで馨り付けしたホットミルクをピューイは飲みながら、しゅんと先ほどうな垂れたのと同じようにうな垂れた。
猫は紅茶を飲みながら、ピューイの頭を軽くなで、
「……沢山の想いで人は生きる。誰かの思いは――入れられるにも限りがあり、また時に苦痛を伴うものだから」
「…難しいことは良く解らないのぴゅ……夢と思いは違うのぴゅ?」
「違う…かな。夢だったら起きた瞬間に"夢でよかった"と"夢だったなんて!"とショックを受ける場合があるだろう。思いは…ある程度忘れられないものなんだよ、だから降り積もり形になる」
「にゅ〜……」
「それよりも、君の思いは?」
「え? 僕の想いぴゅ? …僕のご主人様の想いなら僕が丸ごと預かってるのが沢山あるぴゅ。僕のご主人様は元は只の人間だったぴゅ」
「ご主人様? ふむ……」
こつん、と猫はピューイの額へと額を付けた。
見えてくる映像の中に緑の髪の人懐っこい笑顔をした青年が浮かぶ。
猫は納得するとピューイから離れ、「なるほど」と微笑んだ。
自然、ピューイが「な、何するぴゅ!」と猫へと叫び叩こうとするのを少女が「スコーンのおかわりは?」と言うので事なきを得た。
むぅ…と、ピューイはスコーンを食べながら低く唸り猫を見る。
「いや、見させてもらった方が話は早いのでつい」
「…人の映像を勝手に覗くのは失礼なの……あ、あれぴゅ?」
「そう、だからこれで、おあいこだね……で、そのご主人様はどうなったのかな?」
「途中で不老不死になったんだぴゅ。……人間は一生分位しか想いは持てないから……だから僕が溢れた想いを預かってるんだぴゅ」
「では、君の思いは――無いのかな?」
「そんなことは無いのぴゅ。僕とご主人様は同じなのぴゅ……だから、これは僕の思いでもあるのぴゅ……」
哀しげな瞳になるピューイをじっと見る猫と、猫をまるで責めるように見る少女の視線が重なり、猫は考え込みながらも、一つの風鈴をテーブルへと置く。
それは深い緑の風鈴で絵は何も付けられていない、全くの無地の風鈴だったが――ピューイには、これが誰へあてての風鈴なのかは一目でわかった。
(……これが、さっき女の子が言っていた事だったのぴゅ……?)
その人本人が見れば自ずと解る、と言っていたその意味をピューイは理解し、ただその風鈴を見つめる。
「……では、これをお土産に。君のご主人様へ持って帰ってくれるかな?」
「僕が渡してもいいぴゅ?」
「勿論。…彼にも宜しく伝えておくれ。…ああ、その前に君が言えない言葉もこの中に入れようか……その位なら風鈴も大丈夫だろう」
その猫の言葉にピューイは満面の笑みを浮かべ、言えずに居た言葉を呟いた。
「え、えっと……僕はご主人様が背負ってた思いを重く感じちゃう時もあるのぴゅ。でも……それはご主人様には言えないぴゅ」
大好きだから言えない。
辛くても、それが自分の仕事であるとピューイも知っている。
まるで最後の言葉を風鈴が理解したかのごとく、銀の線が幾重にも風鈴へと走る。
追いかけっこをしているかのような、幾重にも走る線。
これをご主人様が見たらどう言う顔をするだろう…とピューイは考え、もしかすると「だから言ったろ、あそこの風鈴は悪くない、と」と言うのかもしれない…と思いながら、掌にある風鈴をぎゅっと強く――握り締めた。
――その、存在を確かめるように。
―End―
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■ 登場人物 ■
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【2043 / ピューイ・ディモン / 男 / 10 /
夢の管理人・ペット・小学生(神聖都学園)】
【NPC / 猫 / 男 / 999 / 庭園の猫】
【NPC / 風鈴売りの少女 / 女 / 16 / 風鈴(思い出)売り】
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■ 庭 園 通 信 ■
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初めまして、こんにちは。
ライターの秋月 奏です。
今回はこちらのゲームノベルに、ご参加くださり誠にありがとうございました!
と言うか以前はご主人様も来ていただけて…本当に有難うございます♪
凄く可愛いプレイングだったので出来うる限り反映させたかったのですが……
本当にすいません!(><)
ですが小さい子相手に話すのは少女も猫も大好きなようですので
お気が向かれましたら、また遊んでいただければ幸いです♪
それでは、また何処かにてお逢い出来ますことを祈りつつ……。
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