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■かわうそ?と愉快な仲間達1■

滝照直樹
【2276】【御影・蓮也】【大学生 概念操者「文字」】
 貴方の机に程よい厚みのある新書のような本が置いている。
 内容はというと、織田義明や、長谷茜。かわうそ?……などの誰かと楽しく過ごしているもしくは喧嘩をしている物語。笑いあり涙あり、そう言った手合いだ。

 彼らと一緒に過ごした思い出を書き留めたいなら、思い出すがよい。
 その本は厚さに関係なく、白紙を埋めていく事だろう。
 そう、思い出はいつもあなたの心にあるのだから……。
∞道は無限に続いている

 蓮の間に少年と隻眼銀髪の男。
 2人とも沈黙して、緑茶を飲んでいた。周りには、2人を見守るように沢山の猫がいる。
 ――静寂。
 外では雨が降っている。
 少年は御影蓮也、概念操者。彼の能力は自分の思う「概念装備」を物体に与える事から来ている。また、秘伝剣術の継承者でもある。傘がトレードマークと言えるだろう。
 かたや、隻眼銀髪の男は、蓮の間の主、エルハンド・ダークライツ。異世界の神にして剣聖と言われる、剣や武の達人・魔術や魔法の熟練者である。対極神の息子で対極の中で「陽」領域を得意とする者だ。
「話があると聞いたが……なんだね?御影蓮也」
 エルハンドが口を開いた。
 蓮也は意を決したように、口を開いた。
「運命ってあるのかな?俺の大切な人、貴方も知ってる娘だけど、その娘は今まで辛い経験をしてきた。そしてこれから歩む先も。その一端も見たよ。それがその娘の運命なのか?」
「誰とて運命はある」
「そうなのか……」
 頭を垂れる蓮也。エルハンドの言葉は自分が神の「立場」として言っている。それ以外には彼の存在はない。
 しかし、
「話を聞いてくれと言うことだ…そのまま続けろ」
「え?あ、ああ」
 エルハンドの言葉に、少し戸惑いを感じた蓮也。
 
 実のところ、「話を聞いて欲しい」と願う人物の心理は「最後まで何も言わずに聞いて欲しい」と言うことだ。理由や途中に助言など聞きたくない。いまのモヤモヤの発散や心の整理を助けて欲しい。口に出してでないと、いまの気持ちが纏まらない。なので、話を聞くだけに徹して欲しい。そう言うことが言いたいのだ。全て話し終えれば、心に余裕が出来、助言も注意も聞くことが出来る。そんな詩がある。カウンセリングでもそれは重要なものだ。
 
「解ってると思うけど、その娘がこのまま進めば、貴方や義昭の敵になる。その時、俺は約束通り一緒にいて貴方の敵に廻ってでも彼女を支えるか、それとも傷つけてでも彼女の敵として運命から解き放つか」
 蓮也の言葉に黙って聞いている、エルハンド。彼の頭では、この部屋に居候として過ごしている少女のことを指しているのだろうと分かった。様々な不幸で無くしていき、悲しい宿命を背負った少女。気配を隠すことで実兄は何も気が付いていないのが幸いだろうか?
 蓮也の話は続く。
「運命は強い想いと心のみが斬り開く。俺が『運斬』を授かったときの言葉。そう信じている。運命なんて逃げの言葉だって」
 『運斬(さだぎり)』それは、運命の糸を斬り、宿命を変える御影家の家宝である小太刀。時間魔法の一端の具現化だ。しかしエルハンドは、それだけでは足りないと思っている。しかし口には出さず、彼の言葉に耳を傾けていた。
 他に蓮也は、彼女の事を色々話している。神聖都学園の中庭での出来事。彼女が彼に話しかける時の事。感情が無いようである彼女の仕草。ただ、彼女が何を失ったのか本当には理解出来ない。ただ、彼の言葉の最後は、
「色々言っても、望む事なんてホント些細な事なんだ。ただ彼女に心から笑って欲しい。それだけだよ」
と言う。
 其れが彼の悩みである。
 雨は止まず。猫は悲しそうに鳴いた。
 

 「運命」という糸は、一つの世界で1本である。人が見えるのはその1本しか見えない。ただ、エルハンドの場合、糸の中が複雑な迷路になっている。出口の沢山ある選択肢の多き迷路。その1本の糸にはその迷路が埋まっており、隙間にその選んだ結末という出口があるのだ。蓮也のいう「運命と言う言葉は逃げ」というのは、彼には「運命」は迷路に酷似したものに見えるのだろう。間違った選択をした場合、の諦めの言葉と…。此は、『運斬』から得た映像かと思われる。しかし、この時間軸や平行世界が入り乱れる世界において言うなら……更に複雑化している。エルハンドの見る「糸」から考えれば、他の世界の干渉で縺れや毛糸玉になっている人物が多い。エルハンドは天空剣を用いれば、その縺れや毛玉を壊し、望む形につなぎ止める事は出来よう。しかし其れはこの世界に来るための制約事項によって不可能である。彼の任務は、この混沌とした世界の微調整と助言であり、報酬としてこの世界で「天空剣後継者」を残す事であるのだ。


「道は無限だ。迷路のように」
「え?」
 エルハンドが口を開いた。湯飲みのお茶が無くなったのか、見えない使い魔を使って、注ぐ神。言葉は淡々としたものだった。
「君がどう考えようと、助言のみ、其れで良いかね」
 蓮也は頷いた。
 エルハンドはお茶をすすり、一息ついてから続けた。
「運命は、1つしか見えないのは幻だ。しかしどう見ても一本しか見えない。それは人の生きる糸は1つしかない思いこみからなる。私も1本の糸しか見えないがね。運命を司る神の息子だからね。命が複数あろうが、それは1つしかない。しかし、其れを望む糸に結ぶことは可能だ」
 蓮也には何となく分かる。1本しか糸がないのなら、どこかから1本持ってくればいい。
「運命の糸の面白いところは、その中だ。普通の糸や縄を考えてみよう。複数の小さな糸、藁で為される。更に細部に行けば、絡まった繊維だ。わかるかね?」
 仕草で糸の構成を言うエルハンド。
 蓮也はその説明を聞いて頷いた。
「実は1本に見える糸でも、複雑に絡み合う迷路だ。運命とはそう言うものだ。いくつもの結果がある其れを選ぶには己の判断しかない。それで皆は生きて死ぬ。其れが普通だ」
 その後、エルハンドは真剣な顔つきになり、こう答えた。
「だから、選んだ結果を後悔するな。後悔する前に先を考えろ。道は無限にあり、障害も無数にある。行動するのはお前であり、結果を受け止める事もお前だ。全ての経験を糧とし、足を止めず行動に移れ。いいな?」
 と。


 蓮也は、
「ありがとう」
 と、一礼して去っていく。
 決意を持った少年にエルハンドは一言、
「そう……惚れた女の為なら、自分を犠牲にしても悪くないだろう」
「あ、え?っとその…」
 少年は赤面する。
 エルハンドの最後の言葉には笑みがこぼれていた。

 いつの間にか、雨は止み、猫たちはこぞって外に遊びに出かけた。
 蓮也が蓮の間から去った後、使い魔の猫が戻ってきた。
「人の道は一方通行。悔い無きよう生きろ」
 猫を撫でながら、今夜のご飯はどうしようか考えるエルハンドだった。

End


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【2276 御影・蓮也 18 男 高校生 概念操者】


【NPC エルハンド・ダークライツ 年齢不詳 男 正当神格保持者・剣聖・大魔技】

※エルハンドから伝言
 私からの助言はこれぐらいだ。敵になっても私は容赦しないからな。最も良く動く方は、義昭になるがね。しかし、しっかりその少女を守れよ。