■I’ll do anything■
九十九 一 |
【1943】【九耀・魅咲】【小学生(ミサキ神?)】 |
都内某所
目に見える物が全てで、全てではない。
東京という町にひっくるめた日常と不可思議。
何事もない日常を送る者もいれば。
幸せな日もある。
もちろんそうでない日だって存在するだろう。
目に見える出来事やそうでない物。
全部ひっくるめて、この町は出来ている。
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三月の紅い月
■証言その一
―――大変な事件だったようですね。
「可哀相だとは思ってるけど、依頼した事自体、私は間違っていないわ」
―――では……。
「そうね、自業自得だから」
さかのぼる事三日前。
アトラス編集部の敏腕編集長、碇麗香が今回ばかりはと先手を打って出る事を試みた事に事件の発端はある。
だが彼女が悪い訳ではない、だだ単に普通に原稿を上げて貰おうと助けを求めただけなのだ。
万年遅刻ライターである盛岬りょうが、大人しく言う事を聞くような、または簡単に行動を操作できるような相手に。
幸いにしてそれが可能な人材はしっかりとこの編集部の電話帳に記載されていた。
受話器を取り、ナンバーを押し、話をするが……残念な事に彼は都合が悪く行けないとの事。
残念ねと麗香はため息を付いたが、その時に受話器の向こうで天敵、もといバーテンは苦笑しながら言ったのである。
「安心してください、幼なじみに頼みますから」
それが、後に『三月の紅い月』と呼ばれる事件の始まりだった。
■証言その二
「確かに凄かったですね、色々な意味で」
―――予想はされてたんですか?
「何時かはこんな事になるだろって思ってましたから」
現実の物として不幸が降り掛かったのは、そろそろ夜が明けようかといった時刻になってからの事である。
締め切り三日前。
パソコンのキーボードを枕にグッスリと寝転けているりょうの背にかかる重み。
「………っあ、寝てた……って?」
背後に気配を感じ振り返るも誰も居ない、ぼんやりと髪をかき上げながら手探りでテーブルを探り始めた。
「これかえ?」
「あ、それそれ……―――っ!?」
受け取ったタバコをくわえてから思い切り後ずさり、壁へと張り付きながらまじまじと目の前に現れた少女を凝視する。
突然現れた紅い着物を着た12歳頃の少女に、口をパクつかせ何か言葉を探しているらしい。
ここら辺まではよくあるような反応だ。
「……誰かの差し金、か?」
「ほう、察しがいいのう」
回転していない頭で最初に浮かんだのがそれだと言うことは、こういう事が少なくないと言う証明でもある。
「ならば、すべき事は解っておるであろう」
「書けってか? そんな事言われたってこういう事にはタイミングとかノリとかがだな……」
「ほう、お主はまだ状況が解っておらぬか」
「――――っ!?」
少しだけ気配を感じ取らせるように仕向けただけで、今自分の目の前に居る少女がどう言ったものかを大まかに感じ取ったのだろう。
詳しくは解っていなかったとしても、動物的な直感で不安を感じ取ったと言うべきか。
中途半端な理解は時として恐怖しか感じる事が出来なくなるのだ。
「ナ、ナハトっ!」
思い出したように助けを求めるが、手は打ってある。
呼ばれて顔を出したナハトはフルフルと首を左右に振った。
「お、おいっ!!!」
「飼い主よりは聞き分けがよかったのう」
既に邪魔をしないように説得済だ。
別に何をしたという訳ではない。
元々決められた事を守っていないのはりょうなのだから、そこは話せば解っているようだ。
「おーまーえーは!!!」
「無駄口を聞いてる暇があるかえ?」
「わーったよ! 最近こんなんばっかりだっ!!!」
だかだかと乱暴にキーボードを叩き始めるが、10分やそこらで集中力が途切れてペースが落ちてきたり資料と称してネット検索をし始める。
「……お主」
「なっ、なんだよ!」
薄く笑う表情に椅子事後ずさろうとするが何故か動かない。
「なっ!?」
立てない事に気付いたらしい、動けないようにする程度は造作もない事。
まだ余裕があるというのなら次を仕掛ければいいだけだ。
「原稿が一枚足りない毎に………百日」
「……なにがっ!!! なにが百日っ!」
意味深な言葉を必死になって聞くりょうに魅咲がスウッと薄く微笑みかける。
「四百字詰めだから四百日?」
「………へ、減るのか?」
「試してもよいが」
なんとなく解ってしまったのだろう。
ろくな事じゃないだろうと言った表情だが、こういう時の勘はよく働くらしい。
ちなみにやろうとしているのは恐怖新聞と言えばお分かりいただけるだろうか。
「………百日でいいです」
今度こそ大人しくキーボードを叩き始めたが、寿命がかかっているだけ合って早いが追い詰められているという気もしないでもない。
やれば出来ない事はないようだ。
ただ……このペースで書くのを維持している時点で、すでに何かを減少させているようでは合ったが。
「うう……」
「ほれ、まだ十九枚も残っておるぞ。およそ五年か」
「ああああああああ………!!!」
それから追い立てられるように枚数を書き進めていった所で、魅咲がスッと席を離れる。
「また様子を見に来る、くれぐれも忘れるでないぞ」
姿を消して数秒後。
「ーーっ、はあーーーー」
大きく息を吐き、火のついたタバコをくわえ一服。
「あー、怖かった」
ぐでりと机に突っ伏し動かなくなる。
「やはり四百日のほうがよさそうか?」
「うわぁ!!! やります、やりますっ!」
試しにと目を離すフリをしてみれば何てお約束な。
普段がこれだとすれば回りもさぞかし苦労する事だろう。
途中色々と事件に巻き込まれたり首を突っ込んだりとで、なかなか完成しない。
現在締め切り三十分前。
「二枚ほど足りないのう」
このままでは二百日ほど早まる事になる。
「待て、まだ時間はあるぞっ!!!」
「書き終わるだけではなく、アトラスに届ける時間も含まれておる事を忘れてはならぬぞ」
「解ってるからっ、だから追い詰めるな!!!」
乱暴にキーボードを叩き続ける。
流石にここまで来てはタバコを吸う事すら忘れるほど熱中しているようだ。
世にも嫌なカウントダウンを刻む時計。
「き、ぎりぎりっ!!!」
立ち上がったのは予定時間の五分前だ。
「どれ、間に合うか行く末を見届けてやろう」
「行く末とか言うなっ! まだ五分あんだからメールで……ってメールサーバー落ちてるっ!?」
こんな時に限って、つくづく間の悪い。
「何もしておらぬからな」
「解ってるっ、じゃあ超能力で……」
確かにそれならば十分間に合うはずだろう。
だだ……。
「あれ?」
青ざめながら服やポケット、果ては机の回りまで探し始める。
どうやらタバコ切れらしい。
「あと三分」
「―――っ、ナハトッ!!」
間に合うと考えた理由はここにあったのだろう。
「厳粛で破る事のできない夜っ」
「ほう、そう来たか」
人の姿をしたナハトには大体やる事は解ったようだ。
「アトラスに直行だ!」
タイムリミットを考えたら確かにそれしかないだろう。
窓から飛び出した二人のあとを追い、そしてアトラス前。
「十秒前」
「くそっ!!」
階段を上がっている時間はない。
「こうなりゃ最後の手段だ、窓から行くぞ!!」
手にしたフロッピーを鞄に詰める。
どうやらそれを投げさせたかったらしいが。
「………?」
「いいからやれっ!!」
その言葉は、正確に伝わらなかったらしい。
五秒前。
「解った」
「って、ちょ!?」
りょうの腕をつかんだナハトが、りょうをアトラス編集部目掛けて投げつける。
ガシャ、パリーン!
「バカーーーー!!」
「ぎゃゃぁーーー!」
ドザッ!
ガチャン!!
悲鳴とかその他色々と物が壊れる音。
恐らくは三下を巻き込んだか何かしたのだろう。
「……投げるのはあの鞄でよかったのでは?」
「あっ」
■証言その三
―――結局間に合ったんですか?
「そうね、間に合ったって言ってもいいと思うわ、一応」
―――二人はどうなったかお聞きしても?
「まあ、怪奇事件に関係してる訳ですから。貴い犠牲と言うことで」
無責任極まりない台詞を繰り返していた二人、正確には薄情極まりない担当の方へと投げつけた椅子はあっさりと避けられた。
「勝手に殺すなっ!!!」
思い切り怒鳴りつけたのは、つい先ほどアトラスに突っ込んだ張本人。
「さっきから言いたい放題言いやがって!!」
「怒鳴るな、そこの血もちゃんときれいにしろ」
窓から投げ込まれた際になぎ倒した机やら書類やらを片づけをさせられているのである。
「酷いですよぉぉ、どうして僕まで……」
「泣くなうるさいっ! こっちだって怪我人なんだよ!!」
断っておくが魅咲はほんの少し脅しただけであって、不幸になるような事は一切していない。
それは本人が元々持ち合わせた宿命だ。
つくづく運のない事である。
流石に今回の事は懲りたのか……それから三ヶ月ほどは、真面目に仕事をしていたそうだ。
【終わり】
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
【1943/九耀・魅咲/女/999歳/小学生(ミサキ神?)】
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■ ライター通信 ■
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依頼ありがとうございます。
りょうで遊んでくださって何よりです。
三月の紅い月事件だからと考えたこういう結果に。
もっと過激な方が良かったでしょうか(笑)
書き手として楽しませていただきました。
ええ、それはもう!
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