■I’ll do anything■
九十九 一 |
【0086】【シュライン・エマ】【翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員】 |
都内某所
目に見える物が全てで、全てではない。
東京という町にひっくるめた日常と不可思議。
何事もない日常を送る者もいれば。
幸せな日もある。
もちろんそうでない日だって存在するだろう。
目に見える出来事やそうでない物。
全部ひっくるめて、この町は出来ている。
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シュライン・エマのお宅拝見
困った大人二人の事件が解決したのは良いのだが、一つだけ引っかかっていた事があった。
「やっぱりご挨拶にうかがったほうがいいわよね」
「……?」
所長である武彦に珈琲を出しながら、あの事件の顛末を話す。
「あー、夜倉木の実家なぁ……」
「突然おじゃまして騒いじゃったしね、お詫びに行ったほうがいいでしょ」
「そうだな、じゃあ……」
シュラインは気軽な口調そのままでもあるのだが、武彦にとっては少しだけ意味が違う。
気にしなくても良いと解っているのだが、夜倉木は殺し屋の家系だ。
知っていても、黙っていれば何も問題ない。
「……って」
シュラインのいたって普通な口調に同調しかけるが、注意はしておくに越した事は無い。
そんな事を考え、武彦も席を立ちたくてしかたなさそうではあったが……今ちょうど事件の整理に追われている最中であって動けないのだ。
間違っても逃亡などはしない辺りは大人だが、ため込む時点でどうかという気はしないでもない。
仕事はこれだけでは無いからしかたないが。
「あいつら連れてったほうがいいんじゃないか」
「そうね、夜倉木さんやりょうさん達にも聞いたほうがいいわよね」
受話器を取り上げたシュラインはおみやげに何を持っていったらいいかを尋ね、さっそくとばかりにおみやげのお菓子を作り始めた。
数日後。
お詫びにうかがうというシュラインの申し出は、扱く簡単に受け入れられた。
ただし三人と一匹のおまけ付き。
「付きあわせちゃって悪かったわね」
「いえ、別に気にしなくてよかったんですが……」
「そんな事言って、見られたくなかっただけだろ」
ぼそりとくわえられた余計な一言に睨み合いを始めるりょうと夜倉木。
「いつもの事だから」
何時までもここにいる訳には行かないとチャイムを鳴らしたのはリリィに、すぐに応答が帰ってくる。
『はい』
確かに、二人のケンカはいつもの事だ。
気にしないで話を進める。
「先日お電話したシュライン・エマですけど」
『はい、お待ちしてました。少々お待ち下さい』
切ってこちらへ来ようとする前に。
「いい、勝手にはいるから」
言うが早いか、夜倉木は鍵を差し込み扉を開く。
「おじゃまします」
「おじゃましまーす」
「よっしゃ!」
中に入るなり喜々として走るりょう。
「―――っ、だからお前が来るのは嫌だったんだこの馬鹿!!」
追っていく夜倉木。
「……いつもの事ですから」
「そうね」
「ワン……」
今の騒ぎを聞きつけてきたのだろう。
「いらっしゃい」
応答した女性と同じ声。
彼女が母親、前に一度ほんの少しだけ会ったのだが、本当に印象に残りにくい人だ。
「どうぞこちらへ」
今へと案内され、お茶を出される。
外もそうだが、中も和風の作りで落ち着いた雰囲気だ。
ドタドタドタ!
時折聞こえる遠くからの怒鳴り声やらを覗けばの話だが。
「何時も息子がお世話になってます」
「いえ……あ、これよかったらどうぞ」
「ありがとうございます」
持ってきたお菓子を受け取りニコリと微笑む。
バタバタバタ!!
「こちらこそ先日は大勢でおじゃましてしまいまして」
「いいえ、私としてもああやって遊びに来てくれる人は多いほうが楽しいですから。こちらこそ立て込んでてなんのおかまいもせず……」
ガラガシャーーンッ!!
破壊音は留まる所を知らない。
「りょう……」
「済みませんねぇ、せわしなくて」
「何時もこうなんですか?」
「ええ、本当に楽しそうで……」
クスクスと笑ってからホッと肩の力を抜く。
「遊びに来てくれた時は何時もああでしたから、前は大人しかったぐらいですね」
確かにこの何時家が壊れてもおかしくないような破壊音がいつもの事だとしたら、あの人数程度では動じたりはしないだろう。
「……止めなくて大丈夫なんですか?」
ダブルノックダウンは近いと解っていても、どこかのふすまらしき物がなぎ倒された音は流石に気になる。
「そうですね。この感じだったらもう少し続きそうですけど、そろそろ主人が止めてくれると思いますから……」
事実。
ドンッ!
ドダダダン!!
タンッ、タンッ……。
一際大きな音と銃声かも知れない音がして、騒ぎはピタリとやんでしまった。
「おじさん家にいたの……」
「仕事で疲れて寝てたから、ご挨拶できなくてごめんなさいね」
「いえ、お構いなく」
その仕事が何かは……聞かないほうがいいかも知れない。
むしろ聞くまでもないだろう。
きっと殺し屋なのだ。
「こんな物騒な家系ですから、普通に接して貰える人は貴重なんですよ。人前で酔ったり、あんなに熟睡できる事がその証明です」
確かに表沙汰に出来無いどころか、言う人すら選ぶような仕事である。
「その点では恵まれてると言ってもいいと思うんですけど……皆さんの方があの様子では大変じゃないかと心配で、外でもあの調子のようですし」
りょうと夜倉木ひっくるめて、本当に色々とやっているのだ。
「……そう、ですね」
「本当に……」
母親に言ってもいい物かと思ったが、どうやら二人がやった程度の事は話が通っているらしい。
「何時もご迷惑をかけてる見たいですし、どうです? 少し面白い話しでも」
楽しそうなその表情に、シュラインとリリィは目を合わせ……すぐにその提案に頷いた。
それから出てくる出てくる。
大学時代の悪行やら、昔の写真やら。
それだけじゃ終わらない。
りょうと夜倉木の二人が揃うと本当にろくな事をしていないのだ。
例えばレポート提出間際に、家の近くで騒いでいたチーマーを黙らせるのに夜倉木を巻き込んで全滅させたとか。
「……この頃から時間守ってなかったのね」
「変わらないわね」
化学実験室に忍び込んでぼやを起こしかけたにも関わらず、一部に怒られただけで警察には捕まらなかったらしいとか。
「本当にどうしようもないわね……」
「昔からって解ってたけど」
これはまだ武勇伝………かも、知れない。
なにせもっと酷い話は幾らでも出てくるのだ。
「酔って気付いたら何で家にりょうさんがいるんだって怒るんですよ、自分が引きずってきたのにすっかり忘れてるんです」
それが始めて家に来た時らしい。
同時に酔って記憶が無くなる事が発覚した事件でもあるそうだ。
解った事はと言えば酔ったら記憶があやふやになり、物を拾ってきては玄関にほったらかしにしてしまうそうなのである。
例えばかのフライドチキン屋の等身大人形や、ハチ公の銅像やら……流石に後者はまずいからと帰しに行ったらしい。
この事がある前までは家を知られないようにしていたのだが、こんな時だけりょうは無駄に記憶力を発揮し一度でここまでの道筋を覚え、自分も普段は勝手に入られているからと夜倉木……有悟の方に断りもなく来るようになったのだそうだ。
告げ口をしに来るとも言う。
「仲悪いんだか解らないわね」
「本当」
クスクスと笑っているとカラリと開くフスマ。
やたら眠たげな様子をした和装の男性。
「あら、起きてらしたんですか?」
「寝れません」
父親、何のだろう。彼の方は一見ぼんやりとした人という感じを受ける。
「あ、お客様ですか、失礼しました」
「いえ、こちらこそおじゃましてます」
そんな会話を交わした辺りで、当然のように気になったのは……。
「りょう達は?」
リリィの質問には同意見だ。
「向こうで寝てます。あ、麻酔銃ですから。これからまた仕事なんです……はあ、大仕事こなしたばっかりなのに」
自分の息子とその友人? に麻酔銃を撃ち込む父親。
この人も相当だ。
「一応様子見てくるね」
「ワンっ」
「そうね」
様子を見に行こうと立ち上がりかけたシュラインに、付け加える。
「……引かないでやってくださいね」
「はい、それは……」
苦笑して、ハタと気付く。
考えてみれば凄い事なのに……興信所にいるおかげでそれほどでもなかったのだ。
慣れとは頼もしくもあり恐ろしくもある。
軽いショックを受けつつも笑い返す。
「それは……はい、大丈夫です」
そんな感情が伝わったのか。
「流石草間興信所の方ですね、動じない」
「いえ、そんな……それほどでも」
不意に、ほんの少しだけ。
事務所の壁に貼ってある『怪奇ノ類 禁止!!』の張り紙が頭を過ぎって苦笑した。
そして再び興信所。
「おー、お帰り」
「ただいま、武彦さん」
「どうだった?」
他愛のない質問だったのだろう。
それで思い出すのは色々と仕入れた情報。
「そうね、色々と話が聞けたのが一番の収穫かしら」
今度どう使おうかと、そんな事を考えた。
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
【0086/シュライン・エマ/女性/26歳/翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員】
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■ ライター通信 ■
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両親はこんな人達でした(笑)
これからはこのネタで存分に脅かせます。
やらかしてたネタはいっぱいありますので。
夜倉木家ものつてと言う方向からの調査も可能かと思います。
流石に仕事上守秘義務もあると思いますが、
ヒントや切っ掛けという点では使い所があるのじゃないかと。
それも好きな所でお使い下さい。
ちなみに補足。
両親の方は夜倉木と違ってなかなかに友好的です。
まあ、両親家族。親戚の一部も揃って同業者ですが。
出せなかったですが兄もいたりします。
ええと、なんて言うか嫌な一族ですね。
依頼ありがとうございました。
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