コミュニティトップへ



■妖精さんいらっしゃい♪〜初詣Ver■

日向葵
【2334】【セフィア・アウルゲート】【古本屋】
 新年が明けた神社は初詣で賑わい、初詣客を狙った屋台があちこちに出ていた。
 おいしそうな匂いに釣られて、人のごったがえす神社へやってきた妖精コンビ。
「ふわ〜。すごいの」
「人がいっぱいなのー!」
 神社の小道を埋め尽くす、人、人、人。
 街に出たことはあれど、これほどの人ごみを見たことのなかった妖精コンビはその行列に目を丸くした。
 屋台の食べ物をちょっぴり拝借しつつ、行列の先頭を追いかけてきた二人は、あるものを視界に留めて、好奇心いっぱいの瞳をきらきらと輝かせる。
 それは、お参りをする人たちがガラガラと鳴らしている鈴だ。
「ねえ、あれ!」
「うん、やりたいのっ!」
 二人は早速、鈴を鳴らしに行くべく近づいたのだが……。
「きゃうっ!?」
 コンッ、と。
 誰かが投げたお賽銭が、運悪くウェルの頭にぶつかった。
 急なことでバランスを崩したウェルはそのままひゅるひゅるとお賽銭箱へと落ちていく。
「ウェル〜っ?」
 慌ててその後を追いかけようとしたが、大きなお賽銭箱とたくさんの人。
 投げ込まれてくるお金もたくさんで、下手に近づけばテクスも落ちてしまいそうだ。
「ウェル、ウェル〜」
 片割れを見失って半泣きのテクスは、妖精を信じない大人たちには姿が見えない。
 それは逆を言えば子供には見えるということで……。
「ねえ、ママ。あれなにー」
「蝶々さんが泣いてるよ」
 そこここで子供たちが告げ、大人たちは首を傾げる。
 子供たちが一斉に指差した先を見つめて、不思議そうに、もしくは幽霊でも見るような表情を浮かべる大人たち。
 そんな中。
「も、いやあんっ!」
 お賽銭箱の周りをうろうろし、投げ込まれるお金を避けながらどうにかウェルを助けようとしていたテクスがキレた。
 途端、神社脇に植えられていた木が冬の様相から変化する。蕾が膨らみ、花が咲き。
 人々の視線は一斉に、突如起こった不思議な現象へと注がれた。

妖精さんいらっしゃい♪〜お花見ver

 その日のセフィア・アウルゲートはゆっくりゆったりお散歩をしていた――ただし、本体ではなく分身体だが。目的地は駅前マンション。最近のセフィアは、時折ここに顔を出してはマンションの住人とお喋りをしたりしているのだ。
 しかし、マンションに着く前に、セフィアはぴたりと足を止めた。別に、疲れて歩くのがイヤになったと言うわけではない。
 セフィアは、自分より小さい者を愛でるのが好きだ。
 そして、セフィアの目に入ってきた、可愛らしい小さな妖精……しかも、二人も。
「あ、可愛い……」
 思わずぴたりと足をとめ、しばらく観賞していたセフィアだったが、ふいに、あることに気づく。
 緩いウェーブを描く、長いピンクの髪。深緑の瞳。薄透明の四枚羽。
「えぇと、ウェルさんとテクスさん?」
 そう。以前会ったことのある妖精だったのだ。
 だがどうもいつもと様子が違う。いつもならばきゃらきゃらと甲高い、楽しげな声をあげていることが多いのだが……。
「なにか、あったんでしょうか?」
 ぴゅっと飛んでは超局地的な雨を降らせ、また別の場所に飛んでは突風を起こし、また別の場所では下草を急生長させる。それも全て、人間が花見をしているところを狙って。
 そんな妖精たちの被害を受けた人間の一部は、仕方がなくといったふうに――びしょぬれになってまで花見を続けようとする人はあまりいないだろう――帰り支度を始めていた。
「??」
 ここに二人の笑い声が重なれば、たんなる悪戯とも見えるだろう。だが……遠目からなのでハッキリしないが、どうも、怒っているらしいのだ。
 と。桜の木の影に隠れてしまったのか、姿が見えなくなる。
「あら」
 怒っている理由も気になるが、それ以上に。せっかく会ったのだ、ちょっとでいいから二人をなでなでしたりぎゅっとしたりもしたい。
 妖精コンビが向かって行った方角へと歩き出した――しかし急いでいるわけではないので、相変わらず歩調はゆっくりであった――が、しばらく歩くと今度はこちらへ向かってくる妖精コンビを発見した。
「セフィアだーっ」
「わーいなのっ☆」
 どうやらセフィアの存在に気づいて戻ってきたらしい。
「こんにちわ」
 飛びこんできた妖精をぎゅっと抱きとめて、セフィアはにっこりと微笑を浮かべる。
「こんにちわなのっ」
「ねえねえ聞いてなのぉ」
「はい?」
「あのねえ、酷いのっ」
「桜さんをお助けしたいの」
「え?」
 話が見えない……。
 じーっと期待の眼差しで見上げられたが、わからないもの、答えることもできない。
 しばらく待った後、妖精コンビはぷくっと頬を膨らませた。
「桜さんが可哀相なのっ」
「あれーっ!」
 言いつつ、妖精コンビが指差したのは花見客。桜を愛でつつゆったりとほのぼのピクニックをしているグループに混じって、いくつか、ドンチャン騒ぎの宴会をしている者たちがいる。
「だからね、追い出すのっ!」
「追い出すんですか?」
「そうなのっ☆」
 と。
 どっぱとバケツ雨が降る。しかも超局地的、花見客の真上だけである。
「あ……ちょっと待ってください」
「いじめるの、味方なの?」
 そういうわけではないのだが、妖精コンビが降らせた雨、お弁当を広げて穏やかに食事をしていたグループにまで及んでいるのだ。
「自然を大切にしたいというお二人の気持ちもわかります。けど、人間さんは綺麗な桜を見てついつい昂揚してしまってるだけだと思うんです」
 むーっと頬を膨らませる二人。どうやら納得はしてもらえないらしい。
「あ、そうだ」
 にっこり笑って、セフィアは、近場の桜の木に触れた。
 セフィアの行動の理由がわからないのか、妖精コンビはきょとんと首を傾げる。
「桜さんに直接聞いてみましょう」
 そう言って、セフィアは、桜に招魂をかけたのだった。


 桜の異変に駆けつけてきた四人――シェラン・ギリアム、シュライン・エマ、真名神慶悟、鹿沼・デルフェス。
 桜の異変を起こした張本人、セフィア・アウルゲート。
 そして、桜さんが可哀相だから人間全部を追い出すと言い張っていたウェルとテクスの妖精コンビ。
 その全員をゆっくりと見まわして、桜は、枝を手のように動かしてコキコキと肩――と言うのだろうか? どの辺が肩なのかはよくわからないが、まあ、肩をほぐすような動作をした。
「突然ごめんなさい。少し聞きたいことがあるんです」
 あまりの出来事に茫然としている四人を放って、セフィアが桜に話しかける。
「わ〜た〜し〜にぃ〜?」
 一音一音を伸ばしながら、桜はゆったりと低い声でそう聞き返す。
「ええ。お花見してる人間たちについてなのですけど」
「ああぁ」
 ゆぅっくりゆっくりと枝を動かした桜は、ぽんっと身体――幹の前で二本の枝を鳴らす。
「あの人たち、酷いのっ」
「追い出したげるのっ」
「あ、ちょっと待ちなさい」
 ぷんぷんと怒る妖精たちを、シュラインが制止する。……悲しいことに、シュラインは、この程度の異常現象では動じないだけの経験がすでにある。あっさりと喋る桜の存在を受け入れて、桜の返答を待つ。
「どうやっているのかは知りませんが……桜の意見を直接聞けるのならばそれが一番良いでしょう。少しだけ、待って頂けませんか?」
 続けて、シェランが妖精コンビに声をかけると、納得したのか妖精コンビはひゅっとセフィアの肩に乗って大人しくなった。
「そおぉだなあ〜。わ〜た〜し〜をぉ〜見ぃてぇ、楽しんでくれるのぉは〜嬉しい〜よぉ。けぇどぉなぁ。すこぉし、迷惑なのも〜いるなぁ〜。根ぇの上〜でぇ、暴れられるのぉは〜、けっこぉ〜痛いんだぁ」
「嬉しいの?」
「暴れない人は嬉しいの?」
 妖精コンビの問いかけに、桜はわっさと幹の上のほうを縦に揺らした――と、桜の花びらが落ちて、淡いピンクの雪が降る。
「そうですわね……それなら、きちんとマナーを守っていただけるようお願いに行きましょう。それでどうですか?」
 舞い散る花吹雪の下で。
 デルフェスの問いに、妖精はしばし考えこんだ。
 そして。
「うんっ☆」
 二人は同時に頷いたのだった。

 さて改めて。
「で……とりあえずは自己紹介でもするか?」
 各自、面識のない者が若干数名ずつ。なにかワンテンポずれている気もするが改めて自己紹介をしてから、一行はまずマナーの悪い者たちへの注意をすることにした。
「さて、若い連中はこれで聞いてくれると思うんだが」
 慶悟が【替形法】で、式神を別嬪さんやら二枚目の男やらの姿に変化させる。
 とはいえ、まったく面識のない相手にいきなり注意をしたとて聞いてもらえるとは思えない――所有者でもない人間からの注意では尚更だろう。――そこで、式神たちにゴミ袋を持たせ、公園内のあちこちに行かせることにした。
 ……案の定。
 ゴミ拾いをする美男美女の愛想笑いに、十代後半から三十代前半くらいのグループの大半が引っかかった。
 慌てて散らかしていたゴミをかたし、中には下心満載の笑顔を浮かべつつ積極的にゴミ拾いをする者もいた。
「君が為春の野に出でて若菜つむわが衣手に雪はふりつつ……という感じか。この場合、『貴方のためにゴミを拾う』だが」
 一部ゴミ拾い大会となった公園内を眺めて、慶悟はそんなことを呟いた。

 ……さて。これでも残る宴会迷惑グループはまだまだいる。
「そうねえ……妖精さんたち、ちょっと良いかしら?」
「なあにぃ?」
「あの人たちが今捨てたゴミ。あの人たちのところに戻せる?」
「できるのっ☆」
「まかせてなのっ!」
 ひゅっと小さな風が吹き、たった今捨てられたゴミが、捨て主達グループのビニールシートに戻って行く。
「なんだぁ?」
 最初はそれでもただの風だろうと再度捨てていた彼らであったが、何度も何度も戻ってくるゴミに不気味がり、最後にはゴミを回収してそそくさと立ち去って行った。
 が、それだけでは不完全だと感じたシュラインは、公園を出る時に必ず目に付く場所にぺたりと一枚、張り紙を貼っておく。
『楽しんだ後は使った場所を掃除し、ゴミは分別して持ちかえりましょう』
 ……あんな妙な現象のあとだ。多分気づいてくれるだろう。

 これで四分の三ほどの迷惑客が更正もしくは撃退できた。
 残っているのは怪奇現象を見ても全く動じない完全酔っ払いと、こんな現象偶然だと言い張り意地で花見を続ける迷惑グループ。
「ここまでやっても態度を改めてもらえないんだもの……」
 少しくらいのお仕置きは必要だろう。
 セフィアはほてほてと迷惑花見客の方へと歩いて行く。
「どうするんですの?」
 デルフェスの問いに、セフィアは、見てればわかるからとだけ答えて、迷惑花見客のすぐ傍にまでやってきた。
「お嬢ちゃん、オレたちになにか用かい?」
 ほぼ全員がかなーり真っ赤の顔で、相当酔っ払っている様子。その中の誰かが、そんなふうに聞いてきた。
「あんまり横暴な方にはお仕置です♪」
 言って、迷惑客の体に触れる。
 と、セフィアに体力を吸収されて、ばったばったと花見客が倒れて行く――と言っても酔っ払いの上に体力を削られて眠ってしまっただけだが。
「これで静かになりました」
 一番やっかいな連中は、まったく改心してないのが少しばかり気になるが。
「まあ、彼らにはあとで報いが行くでしょう」
 穏やかに人好きのする笑みを浮かべてシェランが言う。
「わーいっ」
「ありがとうなのっ☆」
 くるくると一行の周囲を飛びまわりながら、妖精コンビが何度も何度もお礼を言う。
「せっかくですから、私たちも楽しみましょう」
 デルフェスが妖精たちに声をかけて。
 縁があって共同作業をした五人は、空いた場所でお花見をすることになったのであった。


 さて、その騒ぎからきっかり十三日後。
 忠告も警告も最後まで聞かなかった迷惑客たちは、動く桜の木に追い掛けられるという悪夢に魘された。
 その原因を知っているのは……シェラン一人だけである。

□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  
□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
整理番号|PC名|性別|年齢|職業

1366|シェラン・ギリアム  |男|25|放浪の魔術師
0086|シュライン・エマ   |女|26|翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員
2334|セフィア・アウルゲート|女|316|古本屋
2181|鹿沼・デルフェス   |女|463|アンティークショップ・レンの店員
0389|真名神慶悟      |男|20|陰陽師

□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
         ライター通信          
□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
 こんにちわ、日向 葵です。
 このたびは依頼にご参加いただきありがとうございました。

>シェランさん
 お久しぶりです。
 ……最後の数文……何故シェランさんしか原因を知らないのかというと、妖精コンビが十三日も後まで覚えているわけないからです(苦笑)
 でも、おかげさまで最後まで残った迷惑客もきっと改心したことでしょう。どうもありがとうございました。

>シュラインさん
 とっても冷静なご意見、ありがとうございました。
 桜さんも同様の意見だったようで、ある意味平和(?)に事態が進んだと思います。
 張り紙はちょっとツボでした……別におかしいことではないはずなのですが、なんだかほのぼの雰囲気で楽しかったです。

>セフィアさん
 ものすっごく楽しかったです。
 喋る桜さん!
 本人(?)に話を聞けたことで話もスムーズに進んで、書くのも凄く楽でした(笑)

>デルフェスさん
 お花見のお誘いありがとうございます。
 一生懸命説得していただいたのですが……飛び去ってしまった妖精さんたちを探すのはきっと大変だったでしょう。
 お疲れ様でした。

>慶悟さん
 うう、生気を宿す祈念斎の描写を入れる余裕がありませんでした。
 ごめんなさいぃ〜。
 でも式神さんには大活躍していただきました。ちょおっと酒が入ったくらいの方々にはちょうど良い説得(?)方法で、書いてるこちらも楽しかったです。

 それでは、今回はこの辺で……。
 またお会いする機会がありましたら、その時はどうかよろしくお願いします。