■草間興信所・お花見費用を探し出せ!■
三咲 都李 |
【2152】【丈峯・楓香】【高校生】 |
「・・・えーっと、本日は私・草間零の内緒のお呼び出しに応じていただきましてありがとうございます。
実は、お兄さんが花見を計画しています。
ここに来られたという事はあなたもその花見の招待者の1人・・ということなのです。
が、当草間興信所には現在その様な友好費を出せるほど裕福ではありません。
そこで、皆様に兄さんが溜め込んだと噂される『へそくり』を探しだし、今回の花見の費用にしたいと思っています。
・・・本当にあるのか、私にはわかりません。
少なくとも、お兄さんが吸うタバコだけはどんなに家計が苦しくても絶える事はないのであると思ってもいいかもしれません。
お願いです。草間興信所の家計の為、どうか兄さんのへそくりを探し出してください!
・・・もし探し出せなかった場合は、申し訳ないのですが今回の花見に対し援助して頂くことになりますので是非!頑張って探し出してくださいね」
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草間興信所・お花見費用を探し出せ!
1.
「丈峯さん。お兄さんが今出かけました」
草間武彦が外出した隙をつき、零は今回の花見費用探索作戦に呼んだ1人を早急に草間興信所へと呼び寄せた。
「探し物とかは苦手なんだけど・・・へそくり探しとかだったら好きかも♪ 頑張るね!」
腕まくりをし気合を入れた丈峯楓香(たけみねふうか)は、早速応接室の中をうろうろと見回り始めた。
やっぱり普段動かさない場所だと思うのよね〜。
誰かがガタガタやってて出て来ちゃったら困るし。
ファイルとか棚は草間さん以外の人の方が触ってるだろうから草間さん的には危ない。
普段よく見るものも小出しにへそくりを出した時とかに状態が変わってたら気付かれちゃうから・・・。
うろうろと考え込みながら歩き回る楓香。
そしてそれを不安げに見つめる零の姿。
「大丈夫ですか? なにか、お手伝いできることは・・・?」
そんな零の姿にハッと立ち止まり、楓香はにっこりと笑った。
「だいじょーぶ!! 零さんがあたしに期待してくれてる限り、ゼーーーったい見つけ出すから♪」
「・・そうですか。なら私、お茶の用意でもしておきますね」
力強く言い切った楓香に零は微笑み返すと台所へと消えていった。
2.
「じゃ、手始めにここからいってみよっかな!」
零を見送ると、楓香は再度気合いを入れなおしヘソクリ探索へと乗り出した。
まずは、当たり前みたいだけど草間さんの机の私物が入ってる引き出し!
乱雑に入ってる分カモフラージュできるし♪
勢いよく一番上の引き出しに手をかけ、引いた・・・が。
「こしゃくな。鍵なんかかけて・・」
出鼻をくじかれた楓香。だが、そんなことでへこたれるような人間ではない。
乱雑に置かれた机の上の物を一通り見回し、目的の物を見つけ出す。
「ちょーっと探偵の真似しちゃおっかな♪」
にやりと笑い、キランとその手に光るのは書類などを挟むクリップを伸ばした針金である。
鍵穴におもむろに差し込み、カチャカチャと回す。
・・・が、中々うまくいかない。
「むー。意外と難しいなぁ・・」
簡単に出来たらそれこそ鍵屋は必要ないのである。
「・・お、手ごたえあり!」
数分の格闘の後、楓香は引き出しの鍵を開けることに成功した。
ガラガラッと少々軋ませつつ、引き出しを開ける。
引き出しの中は案の定、乱雑に物が入っていた。
「カモフラージュしてもダメだもんね♪」
楓香はごそごそと引き出しの中を漁り始めた。
どこぞの飲み屋のマッチとか、キスマークのついた名刺とか。
「・・・」
その乱雑にして15の乙女が見るには少々刺激の強すぎる品々を見てみないふりをしつつ、楓香はごそごそと引き出しの中を探索する。
と、あるものが楓香の目に飛び込んできた。
「・・・!?」
ガタンと反射的に引き出しを思わず閉めてしまった。
「こ、ここにはないみたいだし、次捜そっかな・・」
1人そう呟き、引き出しの中身を一刻も早く忘れるかのように楓香は他の場所を探索することにした。
3.
「次は・・水着ポスターの裏側を見てみよっかな。ずっと張ってあるポスターだから結構他の人は見ないだろうし・・」
やや変色している水着姿の女性をベリベリッと破かないように丁寧にはがす。
・・・ポスターが張ってあった部分を残し、壁紙がタバコのヤニで汚れていることがよく分かる。
この事務所の壁も、昔はこんなに綺麗だったのだ・・・と楓香は妙な感動を覚えた。
「ないか・・・」
ポスターの裏側に張ってある様子はない。
楓香は再びポスターを元通りに綺麗に張り直した。
壁の汚れの境目にぴったりと元通りに戻すと、楓香はきょろきょろと次の探索場所を求めた。
と、一番穴場がある場所に気がついた。
後は机の上のデスクトレイの下!
もともと上に載ってる物もぐちゃぐちゃだから動かした所で気付かれないだろうし!
書類が色々と乱雑に置かれている。
これは相当気をつけないと崩れることは必死だろう。
楓香はそーっと書類の山を下へと移動させ始めた。
「よくこんだけ貯めとけるなぁ・・」
ちらりと日付を見たら既に1年以上経過している物もある。
神聖なる草間武彦の領域・・・といった感じで誰にも手を出させないのであろう。
シュラインさんでもきっと手を出させてもらえないんだろうなぁ・・・。
などと考えつつやっていたせいか、楓香の手から書類がばらばらと落ちた。
「あ!? やば!」
とっさに手を出すが、それが仇となりまだ積んである書類や本の山に手が当たり更に山崩れを起こす。
「あぁあぁぁあ!!?」
舞い落ちる書類が紙ふぶきとなり、楓香の青ざめた顔の前をひらひらと掠めていった。
「や、やっちゃった・・」
呆然とする楓香の目の前を、1枚だけ色の違う紙が舞い落ちていった。
「・・あれ??」
その違和感に、楓香は我に返りその1枚の落ちていく先を見つめた。
ひらひらと落ち行くそれには、確かに新渡戸稲造が印刷されていた・・・。
4.
日は変わり、お花見当日。
陽気もよい昼下がりの1時に現地集合。
おばあちゃんにお稲荷さんをいっぱい作ってもらい、見つけた5千円でお菓子やおつまみを大量に購入した。
楓香はルンルンとした気持ちで出かけた。
「おー、来た来た」
少し大きめの公園にある桜並木の下でブルーシートを広げ、草間がそう声を張り上げた。
今回のお花見のメンバーは柚品弧月(ゆしなこげつ)、井上麻樹(いのうえまき)、シュライン・エマであった。
少し遅れて綾和泉汐耶(あやいずみせきや)という女性が現れた。
「初めましての方もいるわね。綾和泉汐耶といいます。よろしく」
にっこりと笑った汐耶は、持参したお重を皆に差し出した。
「うっわー! 豪華ぁ! シュラインさんのに負けてない・・」
楓香は感嘆の声を上げた。
エマも同様に重箱に料理を詰めて持ってきていた。
楓香はエマと汐耶の持ってきた料理をパクパクッとつまんでみた。
・・・むむ。どっちもおいしい。
自分の持ってきたおばあちゃんのお稲荷さんには目もくれず、花より団子な楓香である。
「まま、ひとまずビールでもどないですか?」
一見美青年な麻樹にビールを差し出されつつ屈託なく笑いかけられた汐耶は「いただくわ」とありがたく受け取ってぐぐっと一口飲んでいる。
と、心地よい風が吹いてきた。
少し時期の遅い花見の宴のせいで、その風に吹かれた花びらがはらはらと目の前を落ちていく。
満開の桜の下もいいけれど、散っていく桜もなかなか悪くないものだ。
「皆さん! 井上さんが持ってきてくださった飲み物や丈峯さんが持ってこられたお稲荷さんやおつまみ、柚品さんが持ってきてくださった春限定のケーキもありますから食べてくださいね〜!」
零がいそいそと紙皿を出したり、箸を用意したりしている。
と、唐突に草間が言った。
「で、おまえら俺のへそくりは見つかったか?」
ニヤニヤと笑いながら、意地の悪い口調。
「な、何で知ってんの〜!?」
楓香は眉間にしわを寄せ、いたずらが見つかった子供のようにうろたえた。
そんなに雑な探し方をした人間がいて、草間にバレたのだろうか??
「・・やっぱり草間さんのいたずらでしたか・・」
汐耶が特にあわてるでもなく、そう言った。
「ほな、あの新渡戸さんは・・?」
麻樹が目を数度パチパチと瞬かせた後、そう言うと草間は大きくうなずいた。
「宝探しみたいで面白かっただろ? 白い封筒に一律5千円入れといたんだ」
してやったりといった顔の草間。
まさか、草間が仕組んだことだったとは・・・。
そんな草間の言葉を聴いて、柚品が頭を抱えていた。
「そんなゲームみたいな物を俺は見つけられなかったと・・・」
半ば自虐的にそう呟き、柚品はがっくりと肩を落とした。
「なんや? 柚品さん見つけられへんかったん??」
「じゃあこのケーキ自腹切ったんですか?」
楓香と麻樹がそんな柚品に追い討ちをかけるように聞く。
どうやら麻樹もへそくりと称した『花見費用』を手にした人間らしい。
と、柚品が突然立ち上がった。
「・・こういう時のために実は持ってきたものがあるんですよ・・」
楓香と麻樹に追い討ちをかけられていた柚品が自分の荷物の中から何かを取り出した。
「げ!? それは!!!」
それを見た草間の顔色が真っ青に変わった。
『あー!?』
手に棒を持った人形・・・確かに見覚えがあって、楓香は思わず声を上げてしまった。
「あれ、なんですか??」
事情がよく分からない汐耶は、エマに聞いてみた。
「『怒りん棒』っていうの。頭に装着すると感情の高ぶりによって最高5回まであの棒が振り下ろされるのよ」
「・・な、何ですかそれは・・」
エマの真面目な返答に、汐耶は少し戸惑っていた。
そう、間違いなくあれは『怒りん棒』である。
何故それを柚品が今この場所で持っているのか??
見ると柚品が『怒りん棒』を持ち、嫌がる草間へとじりじりと近づいていく。
どうやら柚品は草間にそれを装着させるつもりらしい。
「本当のへそくりの在り処、白状してもらいましょうか?」
「知らん! 俺にへそくりなどない!」
逃げ回る草間に、追いかける柚品。
大の男2人が鬼ごっこをやっている姿はなにやら異様であったが、花見の席だからなんでもありか? と他の花見客は気にしている様子もなかった。
「・・面白そうやし、ちーとほっとこか♪」
「ま、また草間さん、気絶するかも・・」
ケタケタと笑う麻樹に、心配げな楓香の横顔。
「柚品さんも本気じゃないし大丈夫・・だと思うんだけど・・」
少々語尾に自信がないらしいエマの声。
ひらひらと風が吹く度に落ちていく花びら。
お酒とお弁当とおつまみと・・・そして、何よりゆったりと流れる時間。
1年に1度の花の降る季節・・・か。
ちょっと楽しかったし、いっか。
『引き出しの中のアレ』見つけたときは焦ったけど・・・。
・・・『アレ』で脅して、今度草間さんにケーキでも奢ってもらおっかな・・?
思いもよらぬところで草間の弱みを見つけた楓香は、そんなことを考えながら柚品の持ってきたほんのり桜色のケーキに手を伸ばすのだった・・・。
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■□ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) □■
【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
2152 / 丈峯・楓香 / 女 / 15 / 高校生
0086 / シュライン・エマ / 女 / 26 / 翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員
1582 / 柚品・弧月 / 男 / 22 / 大学生
2772 / 井上・麻樹 / 男 / 22 / ギタリスト
1449 / 綾和泉・汐耶 / 女 / 23 / 都立図書館司書
■□ ライター通信 □■
丈峯楓香様
この度はゲームノベル『草間興信所・お花見費用を探し出せ!』へのご参加ありがとうございました。
大変遅くなりましたことをお詫び申し上げます。
本当なら4月上旬までには納品する予定だったのですが・・・。
桜の季節、ほぼ終わってしまっている地域が多いのですが、楽しんでいただければ幸いです。
楓香様が見つけた『引き出しの中のアレ』。
実は柚品様と井上様のシナリオにも出てきますが、楓香様は一応花も恥らう乙女・・ということでそれが何であったかを伏せてあります。
そんな大層な物ではありませんが、お気になるようでしたらそちらの方でご確認ください。(^-^;
それでは、またお会いできる日を楽しみにしております。
とーいでした。
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