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■草間興信所・お花見費用を探し出せ!■

三咲 都李
【0086】【シュライン・エマ】【翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員】
「・・・えーっと、本日は私・草間零の内緒のお呼び出しに応じていただきましてありがとうございます。
 実は、お兄さんが花見を計画しています。
 ここに来られたという事はあなたもその花見の招待者の1人・・ということなのです。
 が、当草間興信所には現在その様な友好費を出せるほど裕福ではありません。
 そこで、皆様に兄さんが溜め込んだと噂される『へそくり』を探しだし、今回の花見の費用にしたいと思っています。
 ・・・本当にあるのか、私にはわかりません。
 少なくとも、お兄さんが吸うタバコだけはどんなに家計が苦しくても絶える事はないのであると思ってもいいかもしれません。
 お願いです。草間興信所の家計の為、どうか兄さんのへそくりを探し出してください!
 ・・・もし探し出せなかった場合は、申し訳ないのですが今回の花見に対し援助して頂くことになりますので是非!頑張って探し出してくださいね」
草間興信所・お花見費用を探し出せ!

1.
「じゃあちょっと出かけてくるから」
草間武彦はそういい残すと、興信所を後にした。
「いってらっしゃい」
笑顔で草間を送り出し、シュライン・エマは事務机で書類を片付けつつ草間が完全に興信所の入ったビルから出て行ったのを音で確信するとおもむろに立ち上がった。
「それでは、よろしくお願いします」
そんなエマを見て零は深々とお辞儀をした。

あるのかしらねぇ、ほんとに。
自分の甲斐性で貯めてるお金だから武彦さんの好きに使って構わない気もするけれど・・。

内心そんな思いがよぎったが、エマは零の顔を見るとにこりと笑った。
「ま、切羽詰った非常時にお世話になるかもしれないから、場所確認だけでもしておいて損はないわよね」
そう言ったエマに零はきっぱりと断言した。
「いえ、見つかったらお花見費用です」
「・・零ちゃんって、意外と容赦ないのね・・」
「贅沢は敵ですから。欲しがりません、勝つまでは!」
「・・・何に勝つの?」
「え、えっと・・貧乏に・・」
「・・・」
苦労がにじむ零の言葉に、エマは零の頭をなでなでと撫でて労ったのであった・・・。


2.
零がキッチンへと消えると、エマは草間興信所内をぐるっとひと回りしつつ草間がへそくりを隠しそうな場所を考えた。

壁のすぐ外せる物は掃除時外してそうだし、貼ってる物だと粘着力弱まってテープ換えたりしてばれるからおそらく違うかな。
何にしろ、短時間で隠せ武彦さんが日頃近くにいても妙じゃない場所だと思うのだけど・・・。

ぴたりと、エマの足が止まった。
下方向へと視線を走らせる。塵箱が目の端を掠めたのだ。

零ちゃんが掃除してるはずだけど、意外と底とかは見ないものよね・・。

ささっと近寄り、くるりとひっくり返してみる。
・・・ない。
「そんな簡単に見つかる場所にあるわけないわよね」
だが、女の勘が告げる。
きっと簡単に探せる場所というものが盲点ではないだろうか?
(こんな場所にあるはずがない)と思う場所に隠すことによって探されないようにする・・・。
灯台下暗しという言葉もある。
仮にも興信所の所長である草間だから人の心理の裏をつくことも可能性としてあるのではないだろうか?
「なんだか武彦さんと知恵比べしてるみたいだわ」
ふつふつと、何かがエマの心に火をつけた。
それは愛する者への挑戦・・・いや、愛するがゆえに起こりうる障害の1つというか・・・。
とにかく、愛は障害を乗り越えるたびに大きく揺らぎのないものになるのである。
よく分からないが、兎にも角にもエマの中で大きく燃える何かがメラメラとその炎を大きくしていった・・・。


3.
武彦さんがいても違和感のない場所・・・。
短時間で隠せる場所・・・。

「そうだわ。武彦さんのデスク周りが1番怪しいんだもの。そこを重点的に探せばいいんだわ」
ポンとはじけるように出た答えに、エマはうんうんと1人頷いた。
草間がいて1番怪しくない場所はやはり草間の机である。
いつも気がつけばそこにいてタバコを吸っている。
そう、零も言っていたではないか。
『どんなに家計が苦しくてもタバコが絶える事はない』と。
エマは草間がいつも座る椅子へと腰掛けた。
年季がはいっているせいか、椅子は少しの軋む音を上げた。
すわり心地もお世辞にもよいとはいえないし、草間の吸うタバコのにおいが染み付いていた。
「ずいぶん年季が入ってきちゃったわね。まぁ、その分愛着も出てきちゃったんだけど・・」
この興信所で過ごした色々な出来事がエマの頭に走馬灯のように思い出された。
「・・と、思い出に浸ってる場合じゃなかったわね」
我に返り、書類の山を崩さないようにペン立てを手に取った。
硬貨なら振れば分かってしまうが、札であれば内側に沿うように入れておいてペンをさして置けばまず疑われることはない。
ザザーっと中身を出し、内側に手を差し込み紙の質感を求める。
・・・ない。
少々考えすぎだったのだろうか?
時計を見ると草間が出かけてから既に1時間を経過している。
そろそろ帰ってきてもおかしくない時間だ。
エマは自分が座っている椅子を調べることにした。
手すり、カバー・・それに背もたれ。
いつもと変わらないようでいて変わっている場所はないだろうか?
エマは感触を確かめながら、細かいところまで見た。

・・・背もたれ、なんだかゴワゴワするわね?

その小さな疑惑が、エマの手を動かした。
背もたれが微妙に剥がれかかっている。
それを慎重にはがすと・・・

「よく貯めたわねぇ・・」

感嘆の声とともに、エマは10枚の福沢諭吉とご対面を果たした。
それをどうするべきか・・・少し考えた後、エマはそれを元に戻した。
お花見の差し入れなら最初からするつもりだったし、なにより健気に貯めてきた武彦のその功績を無碍にするのは気が引けたのだった。


4.
日は変わり、お花見当日。
陽気もよい昼下がりの1時に現地集合。
エマはお重に色々な料理を詰めて出かけた。
結局は自腹なのだが、草間のへそくりを見つけたことでエマの機嫌はよかった。
「おー、来た来た」
少し大きめの公園にある桜並木の下でブルーシートを広げ、草間がそう声を張り上げた。
今回のお花見のメンバーは丈峯楓香(たけみねふうか)、柚品弧月(ゆしなこげつ)、井上麻樹(いのうえまき)、そして遅れて綾和泉汐耶 (あやいずみせきや)も現れた。
「シュラインさん、お久しぶりです」
にっこりと笑った汐耶は、持参したお重を皆に差し出した。
「うっわー! 豪華ぁ! シュラインさんのに負けてない・・」
楓香が感嘆の声を上げた。

あら、かぶっちゃった・・・。

既に広げられたエマのお重と汐耶の持参したお重。大量の料理が広げられた。
「まぁ、こんだけいれば足りないぐらいだろ」
草間が何気なくフォローを入れた。
「まま、ひとまずビールでもどないですか?」
一見美青年な麻樹にビールを差し出されつつ屈託なく笑いかけられた汐耶は「いただくわ」とありがたく受け取っていた。
汐耶の持ってきた料理に手をつけつつ、エマもビールを一口飲んだ。
ふわっと心地よい風が吹いてきた。
少し時期の遅い花見の宴のせいで、その風に吹かれた花びらがはらはらと目の前を落ちていく。
「なかなか風情があっていいわね」
独り言のように呟いた汐耶に、エマは「まるで別世界ね」と微笑んだ。
「皆さん! 井上さんが持ってきてくださった飲み物や丈峯さんが持ってこられたお稲荷さんやおつまみ、柚品さんが持ってきてくださった春限定のケーキもありますから食べてくださいね〜!」
零がいそいそと紙皿を出したり、箸を用意したりしている。
と、唐突に草間が言った。

「で、おまえら俺のへそくりは見つかったか?」

ニヤニヤと笑いながら、意地の悪い口調。
「な、何で知ってんの〜!?」
楓香が眉間にしわを寄せ、いたずらが見つかった子供のようにうろたえた。
「・・やっぱり草間さんのいたずらでしたか・・」
汐耶は特に驚くでもなく、そう言った。

・・なら、あのお金は遠慮なく使ってもよかったということかしら?

意外なカミングアウトにエマは少々戸惑った。
「ほな、あの新渡戸さんは・・?」
麻樹が目を数度パチパチと瞬かせた後、そう言うと草間は大きくうなずいた。

「宝探しみたいで面白かっただろ? 白い封筒に一律5千円入れといたんだ」

してやったりといった顔の草間に、柚品が頭を抱えていた。
「そんなゲームみたいな物を俺は見つけられなかったと・・・」
半ば自虐的にそう呟き、柚品はがっくりと肩を落とした。
「なんや? 柚品さん見つけられへんかったん??」
「じゃあこのケーキ自腹切ったんですか?」
楓香と麻樹がそんな柚品に追い討ちをかけるように聞く。
どうやらこの2人は見つかった人間のようだ。
そんな3人を見つめていた汐耶にエマがポツリと呟いた。
「・・そんな計画だったなんて・・」
汐耶がその言葉を聞いてエマに聞いた。
「シュラインさんは見つからなかったんですか?」
「え? う〜ん・・。そういうわけじゃないんだけど・・」
言うべきか言わざるべきかを悩んでエマは言葉を濁していた。

私が見つけたあの10万はもしかして・・?

何かを察したのか、汐耶はそれ以上突っ込んでは聞いてこなかった。
「・・こういう時のために実は持ってきたものがあるんですよ・・」
楓香と麻樹に追い討ちをかけられていた柚品が立ち上がり、自分の荷物の中から何かを取り出した。

「げ!? それは!!!」

それを見た草間の顔色が真っ青に変わった。
『あー!?』
エマも、思わずそれを見て声を上げていた。
「あれ、なんですか??」
事情がよく分からない汐耶は、エマに聞いた。
「『怒りん棒』っていうの。頭に装着すると感情の高ぶりによって最高5回まであの棒が振り下ろされるのよ」
「・・な、何ですかそれは・・」
エマの真面目な返答に、汐耶は少し戸惑っている。
当然といえば当然の反応である。
しかし、何故それがここにあるのかはさすがのエマにも分からない。
見ると先ほどまでうなだれていた柚品は『怒りん棒』を持ち、嫌がる草間へとじりじりと近づいていく。
どうやら柚品は草間にそれを装着させるつもりらしい。
「本当のへそくりの在り処、白状してもらいましょうか?」
「知らん! 俺にへそくりなどない!」
逃げ回る草間に、追いかける柚品。
大の男2人が鬼ごっこをやっている姿はなにやら異様であったが、花見の席だからなんでもありか? と他の花見客は気にしている様子もなかった。

「・・面白そうやし、ちーとほっとこか♪」
「ま、また草間さん、気絶するかも・・」
ケタケタと笑う麻樹に、心配げな楓香の横顔。
「柚品さんも本気じゃないし大丈夫・・だと思うんだけど・・」
少々語尾に自信がないエマの声。
ひらひらと風が吹く度に落ちていく花びら。
お酒とお弁当とおつまみと・・・そして、何よりゆったりと流れる時間。

怪奇物ばかり舞い込んでくる興信所のお花見とは思えないくらいね。
今度は武彦さんと2人だけで夜桜なんていうのもいいかもしれないわね・・・。

ふと、そんな考えが浮かんだ。
忙しすぎる日常の中で、今この時間がとてもゆっくりと流れていることをエマは楽しんでいた・・・。


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■□   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  □■

【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

2152 / 丈峯・楓香 / 女 / 15 / 高校生

0086 / シュライン・エマ / 女 / 26 / 翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員

1582 / 柚品・弧月 / 男 / 22 / 大学生

2772 / 井上・麻樹 / 男 / 22 / ギタリスト

1449 / 綾和泉・汐耶 / 女 / 23 / 都立図書館司書

■□     ライター通信      □■
シュライン・エマ様

この度はゲームノベル『草間興信所・お花見費用を探し出せ!』へのご参加ありがとうございました。
大変遅くなりましたことをお詫び申し上げます。
本当なら4月上旬までには納品する予定だったのですが・・・。
桜の季節、ほぼ終わってしまっている地域が多いのですが、楽しんでいただければ幸いです。
今回のシナリオ・・他の方々は草間の用意した『偽へそくり』だったわけです。
受注をいただく前にこちらで隠し場所を決めておりましたので、まったく意図したわけではないのですが・・・。
これもまた愛ですかね?(笑)
それでは、またお会いできる日を楽しみにしております。
とーいでした。