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■草間興信所・お花見費用を探し出せ!■

三咲 都李
【1582】【柚品・弧月】【大学生】
「・・・えーっと、本日は私・草間零の内緒のお呼び出しに応じていただきましてありがとうございます。
 実は、お兄さんが花見を計画しています。
 ここに来られたという事はあなたもその花見の招待者の1人・・ということなのです。
 が、当草間興信所には現在その様な友好費を出せるほど裕福ではありません。
 そこで、皆様に兄さんが溜め込んだと噂される『へそくり』を探しだし、今回の花見の費用にしたいと思っています。
 ・・・本当にあるのか、私にはわかりません。
 少なくとも、お兄さんが吸うタバコだけはどんなに家計が苦しくても絶える事はないのであると思ってもいいかもしれません。
 お願いです。草間興信所の家計の為、どうか兄さんのへそくりを探し出してください!
 ・・・もし探し出せなかった場合は、申し訳ないのですが今回の花見に対し援助して頂くことになりますので是非!頑張って探し出してくださいね」
草間興信所・お花見費用を探し出せ!

1.
「柚品さん、お兄さんが先ほど出かけました」
零からの電話で柚品弧月(ゆしなこげつ)は草間興信所へと足を向けた。
「頑張って探してくださいね」
にっこりと笑った零はそういうと奥の部屋へと消えていった。
おそらくは掃除でもしに行ったのであろう。

・・この間聞きそびれてしまっていたっけな。
もうちょっと問い詰めていたら聞き出せてたかもしれないのに。

そう思いつつも、柚品は一通り部屋の中を眺めた。
草間の管理する草間の机やその周辺以外は、年月の汚れ以外は小奇麗にされている。
零の掃除がきちんとされているのだ。

へそくり・・・もし隠すとするならば、まずは草間さんの座っている付近でかつ滅多に移動することのないものに隠してある・・かな。

柚品はそう判断し、草間の机へと狙いを定めた。
どかっと草間がいつも座る椅子へと腰を落ち着け、柚品は草間のへそくり探索へとその手を伸ばしたのであった・・・。


2.
まずは定番。机の引き出しかな。

柚品は迷うことなく机の引き出しに手をかけた。
下から順にガラガラと軋ませながら中を覗く。
かなり昔の書類やら請求書やら・・・ガラクタといってもよいであろう物が次々とお目見えする。
一応底の方が二重底になっていないかなどをチェックするが特に出てくる気配はない。

あの人がそこまで凝った隠し方するとも思えないんだけど。
まかりなりにも草間興信所の所長だしなぁ・・。

中段も同様にどこぞの土産のキーホルダーだのどこに使うか分からない鍵だの工具セットだの・・ガラクタと分類される品々が収められている。
こちらもやはり二重底などにはなっていないようだ。
中段を閉め、今度は上段に手をかける。
と、柚品の手は抵抗を感じた。
「鍵がかかってる・・」
一番上の引き出しだけが鍵がかかっており、開かない。

あれ? さっき鍵があったな。もしかして、ここの鍵か?

わざわざ引き出しの鍵を持ち歩いているような人間は少ないだろう。
いや、それ以上に草間はそのように鍵を持ち歩く人間ではない。
「・・試してみますか」
そう呟くと柚品は中段の鍵を取り出し、上段の鍵穴へと差し込んだ。
カチリと、鍵は何の抵抗もなく回った。
「危機管理薄いなぁ・・」
柚品はそう言ったが、鍵を開けた張本人が言っても説得力はないのであった・・・。

上段には更にガラクタと呼ぶにふさわしいものが入っていた。
どこぞの飲み屋のマッチとか、キスマークのついた名刺とか・・確かにこれは隠しておきたい品々かもしれない。

どうせ常連になるほど通っているわけでもないだろうし、見つかるとヤバイ物なら捨ててしまえばいいのに・・・。

苦笑いでそれらをかき分け、柚品は上段にも二重底がないか探した。
・・と、その前にとある品を見つけた。
「AVビデオ・・・か」
これはどんな女性が見ても捨てる一品かもしれない。
だからこのような場所に保管してあるわけだ。

草間さんも苦労してるなぁ・・・。

柚品はそれを元に戻し、二重底でないことを確かめた上で上段に再び鍵をかけた。


3.
・・となると、この椅子の主軸部分のパイプに丸めて入れられているのではないのだろうか?

柚品は椅子から立ち上がり、椅子を倒すと外せそうなネジを探した。
大きめのネジを見つけ、手でクルクルと回す。
回すたびに背もたれがぐらぐらしてきて、ついに外れた。
柚品はその中を覗きこんだ。
だが、中は暗くてよく分からない。

懐中電灯があれば見えるかな?

そう思い、周りの棚の上の方を見るとちょうどそれらしき柄の部分を見つけた。
柚品は立ち上がり、それを取ろうとした。
背の高い柚品は楽々と手に取ることができた。
・・ふと、その隣においてあった懐かしいものを見つけた。
『怒りん棒』という名の謎の商品である。
「こんなところに仕舞い込んでいたのか・・」
柚品は懐中電灯を持ち、再び分解した椅子の中を覗き見た。
中は錆だらけでお金など入っていそうにもない。

・・この勢いで大本命の電話も分解してみるか・・。

そう思い、柚品は椅子をささっと直すといつから鎮座し続けているのか分からない黒電話へと手をかけた。
ドライバーは机の引き出しに入っていたはずだ。
柚品はそれを使い、黒電話を慎重に分解し始めた。
中は埃だらけで買ってから今日までまず間違いなく人の手が入った様子はない。

「・・草間さんに負けたか・・」
眉間に少々のしわを刻んだ柚品の目の端に『怒りん棒』が鮮明に映っていた・・・。


4.
日は変わり、お花見当日。
陽気もよい昼下がりの1時に現地集合。
だが、柚品はそれよりも早く現地へと来て場所取りをしていた。
差し入れの春限定ケーキを自腹で持参し、ブルーシートを広げ1人草間たちが来るのを待っていた。

「おー、偉い偉い。いいトコとれたなぁ♪」
少し大きめの公園にある桜並木の下、現れた草間が満足げにそう言った。
「ありがとうございました。大変な役目をお任せしてしまって・・」
零がそう言ったので「気にしなくていいよ」と柚品は声をかけた。
そうこうしているうちに、ぼちぼちと人が集まりだした。
丈峯楓香(たけみねふうか)、井上麻樹(いのうえまき)、シュライン・エマ。
一番最後に綾和泉汐耶(あやいずみせきや)が現れた。
「これ、私からの差し入れです」
にっこりと笑った汐耶は、持参したお重を皆に差し出した。
「うっわー! 豪華ぁ! シュラインさんのに負けてない・・」
楓香が感嘆の声を上げた。
エマも、同様に重箱に入れた料理を持ってきていた。
少し多いか? とも思うが、男3人に女4人もいれば食べきれるだろう。
「まま、ひとまずビールでもどないですか?」
麻樹が持参したビールを汐耶に差し出している。
汐耶はそれを受け取り、一口飲んだ。
心地よい風が吹いてきた。
少し時期の遅い花見の宴のせいで、その風に吹かれた花びらがはらはらと目の前を落ちていく。
「なかなか風情があっていいわね」
独り言のように呟いた汐耶に、エマが「まるで別世界ね」と微笑んだ。
「皆さん! 井上さんが持ってきてくださった飲み物や丈峯さんが持ってこられたお稲荷さんやおつまみ、柚品さんが持ってきてくださった春限定のケーキもありますから食べてくださいね〜!」
零がいそいそと紙皿を出したり、箸を用意したりしている。
と、唐突に草間が言った。

「で、おまえら俺のへそくりは見つかったか?」

ニヤニヤと笑いながら、意地の悪い口調。
「な、何で知ってんの〜!?」
楓香が眉間にしわを寄せ、いたずらが見つかった子供のようにうろたえた。
「・・やっぱり草間さんのいたずらでしたか・・」
汐耶は特に驚くでもなく、そう言った。
「ほな、あの新渡戸さんは・・?」
麻樹が目を数度パチパチと瞬かせた後、そう言うと草間は大きくうなずいた。

「宝探しみたいで面白かっただろ? 白い封筒に一律5千円入れといたんだ」

してやったりといった顔の草間に、柚品は愕然とした。
「そんなゲームみたいな物を俺は見つけられなかったと・・・」
半ば自虐的にそう呟き、柚品はがっくりと肩を落とした。
「なんや? 柚品さん見つけられへんかったん??」
「じゃあこのケーキ自腹切ったんですか?」
楓香と麻樹がそんな柚品に追い討ちをかけるように聞く。
どうやらこの2人は見つかった人間のようだ。

柚品の心の中に、むくむくと黒い感情が芽生え始めていた・・・。

「・・こういう時のために実は持ってきたものがあるんですよ・・」
柚品は立ち上がり、自分の荷物の中から『ある物』を取り出した。

「げ!? それは!!!」

それを見た草間の顔色が真っ青に変わった。
『あー!?』
その物がなんだか知っている者たちが叫んだ。
「あれ、なんですか??」
事情がよく分からない汐耶は、エマに聞いた。
「『怒りん棒』っていうの。頭に装着すると感情の高ぶりによって最高5回まであの棒が振り下ろされるのよ」
「・・な、何ですかそれは・・」
そう、柚品はあの日偶然見つけた『怒りん棒』をここへと持ってきていたのだ。
柚品は『怒りん棒』を持ち、嫌がる草間へとじりじりと近づいていく。
柚品は草間にそれを装着させるつもりだった。
「本当のへそくりの在り処、白状してもらいましょうか?」
「知らん! 俺にへそくりなどない!」
逃げ回る草間に、追いかける柚品。
大の男2人が鬼ごっこをやっている姿はなにやら異様であったが、花見の席だからなんでもありか? と他の花見客は気にしている様子もなかった。

「・・面白そうやし、ちーとほっとこか♪」
「ま、また草間さん、気絶するかも・・」
ケタケタと笑う麻樹に、心配げな楓香の横顔。
「柚品さんも本気じゃないし大丈夫・・だと思うんだけど・・」
少々語尾に自信がないらしいエマの声。
ひらひらと風が吹く度に落ちていく花びら。
お酒とお弁当とおつまみと・・・そして、何よりゆったりと流れる時間。
・・いや、大の大人が鬼ごっこで遊べる時間・・・。

俺だけ見つからなかったなんて・・・!

悔しさを胸に、ひたすらに逃げる草間を追いかける。
八つ当たりではある。
だが、1種の余興でもある。
ニコニコとしてみている麻樹や楓香、エマや汐耶の顔が見えた。

宴は楽しむもの。
追いかけながら、散る花びらを柚品は楽しんでいた・・・。


−−−−−−

■□   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  □■

【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

2152 / 丈峯・楓香 / 女 / 15 / 高校生

0086 / シュライン・エマ / 女 / 26 / 翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員

1582 / 柚品・弧月 / 男 / 22 / 大学生

2772 / 井上・麻樹 / 男 / 22 / ギタリスト

1449 / 綾和泉・汐耶 / 女 / 23 / 都立図書館司書

■□     ライター通信      □■
柚品弧月様

この度はゲームノベル『草間興信所・お花見費用を探し出せ!』へのご参加ありがとうございました。
大変遅くなりましたことをお詫び申し上げます。
本当なら4月上旬までには納品する予定だったのですが・・・。
桜の季節、ほぼ終わってしまっている地域が多いのですが、楽しんでいただければ幸いです。
今回のシナリオ・・唯一発見できなかった人となってしまいました・・・。(^^;
受注をいただく前にこちらで隠し場所を決めておりましたので、まったく意図したわけではないのです。
ですので、プレイングに書かれておりました『怒りん棒』出してみました。
多分お話終了後に草間の頭へと装着できたことと思います。(笑)
それでは、またお会いできる日を楽しみにしております。
とーいでした。