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■妖精さんいらっしゃい♪〜初詣Ver■

日向葵
【2181】【鹿沼・デルフェス】【アンティークショップ・レンの店員】
 新年が明けた神社は初詣で賑わい、初詣客を狙った屋台があちこちに出ていた。
 おいしそうな匂いに釣られて、人のごったがえす神社へやってきた妖精コンビ。
「ふわ〜。すごいの」
「人がいっぱいなのー!」
 神社の小道を埋め尽くす、人、人、人。
 街に出たことはあれど、これほどの人ごみを見たことのなかった妖精コンビはその行列に目を丸くした。
 屋台の食べ物をちょっぴり拝借しつつ、行列の先頭を追いかけてきた二人は、あるものを視界に留めて、好奇心いっぱいの瞳をきらきらと輝かせる。
 それは、お参りをする人たちがガラガラと鳴らしている鈴だ。
「ねえ、あれ!」
「うん、やりたいのっ!」
 二人は早速、鈴を鳴らしに行くべく近づいたのだが……。
「きゃうっ!?」
 コンッ、と。
 誰かが投げたお賽銭が、運悪くウェルの頭にぶつかった。
 急なことでバランスを崩したウェルはそのままひゅるひゅるとお賽銭箱へと落ちていく。
「ウェル〜っ?」
 慌ててその後を追いかけようとしたが、大きなお賽銭箱とたくさんの人。
 投げ込まれてくるお金もたくさんで、下手に近づけばテクスも落ちてしまいそうだ。
「ウェル、ウェル〜」
 片割れを見失って半泣きのテクスは、妖精を信じない大人たちには姿が見えない。
 それは逆を言えば子供には見えるということで……。
「ねえ、ママ。あれなにー」
「蝶々さんが泣いてるよ」
 そこここで子供たちが告げ、大人たちは首を傾げる。
 子供たちが一斉に指差した先を見つめて、不思議そうに、もしくは幽霊でも見るような表情を浮かべる大人たち。
 そんな中。
「も、いやあんっ!」
 お賽銭箱の周りをうろうろし、投げ込まれるお金を避けながらどうにかウェルを助けようとしていたテクスがキレた。
 途端、神社脇に植えられていた木が冬の様相から変化する。蕾が膨らみ、花が咲き。
 人々の視線は一斉に、突如起こった不思議な現象へと注がれた。

妖精さんいらっしゃい♪〜お花見ver

 長らく眠っていて去年の秋に目覚めた鹿沼・デルフェスにとって、日本の春は初めて見るものだった。
「これが日本の桜……ヨーロッパの花にはない可憐で儚い美しさを感じますわ」
 桜の木が多く植えられた、花見客も多く集まるという公園に桜見物にやってきたデルフェスは、ゆったりと公園内の遊歩道を歩いていた。
 基本的に店は年中無休であるのだが、この時期は受注が少し減るらしい。今月は比較的多く休みを貰っていて、今日もお休みの日であったのだ。
 ザアッ−−――と、暖かな風が吹いて、桜の枝が揺れる。そうして、道には淡いピンクの花びらがまるで雪のように舞うのだ。
「これが噂の『わび、さび』というものでしょうか?」
 美しい光景に多少の感動を覚えつつ、デルフェスはゆっくりゆっくり歩いて行く。
 が、道の左右に広がる光景は少々騒がしい――話を聞くところによると、これは花見というものらしい。綺麗な桜のしたで外の食事を楽しむのだ。とはいえ、一部にはかなり騒がしい者たちもいて、すこーし、雰囲気が削がれる気もする。まあ、これも花見の醍醐味というものらしいので仕方がない。
「皆様、楽しそうですものね」
 と、その時。
 びゅっと突風が吹いて、一部の花見客の持参品が飛ばされる。
「え?」
 だがおかしなことに、これだけの突風であるというのに、桜の花びらはまったく散らなかった。
 どう考えても、ただの風ではない。
 そして続くは超局地的なバケツ雨。花見中の人間の上だけに、ほんの一瞬、ザッと水が落ちてきたのだ。
「これは一体……」
 そう思って周囲に目を向けたところ、どうやら原因らしき者を見つけた。
 長いウェーブのピンクの髪に深緑の瞳。薄透明の四枚羽を持つ二人組みの妖精、ウェルとテクスである。
「まあ」
 すぐさま止めなければ――そう思ったデルフェスは、だが妖精コンビの様子がいつもと違うことに気づいて一瞬足を止めた。
 いつもならばきゃらきゃらと甲高い笑い声をあげている二人なのに、何故か今日はそれがない。それに……まだ遠目なのではっきりとは見えないが、どうやら怒っているらしい。
「いつもの悪戯とは違うようですわね」
 しかしだからと言って放っておけるものではない。
「ごめんなさいっ」
 片一方の妖精に換石の術をかけると、残った妖精は少しきょろきょろとしたあと、すぐにこちらに気がついて飛んでくる。
「ひどぉいのっ!」
「申し訳ありません。でもすぐにお止めしなければと思ったのですわ」
 ほとんど泣き顔の妖精――見かけがまったく同じなのでどちらなのかはわからない――に頭を下げて謝罪して、換石の術を解く。
「どうしてこのようなことを?」
 問うと、妖精コンビはぷくっと頬を膨らませた。
「酷いのっ」
「桜さん、可哀相なのっ!」
「あの人たち、桜さん、いじめるの!」
「だから追い出すのっ!!」
 二人交互に言って、最後のワンフレーズは二人で同時に叫ぶ。
「あの方々は、桜をいじめているわけではないんです」
「でもいじめてるのっ」
「助けなきゃなのっ」
「あの方々はお花見をしているのですわ。綺麗な桜を見ながら外でお食事をするのを楽しんでいるんです」
 別に桜をいじめているわけではない。そういった趣旨の説明をしてみたのだが。
「でもっ、いじめてるのっ」
「このままじゃ桜さん、元気じゃなくなっちゃうのっ!」
 デルフェスの説明に納得がいかなかったらしく、妖精コンビはまたもぴゅっと飛んでいってしまった。
 しかも、今度は換石の術を警戒してかすぐさま姿を隠してしまう。
「待ってくださいっ」
 しかし妖精コンビがデルフェスの声に答えることはなかった。
「大変……」
 妖精コンビを止めるべく、デルフェスは公園内を駆け出した。

 一度見失ってしまうと、小さな妖精たちを探し出すのは容易なことではなかった。
 なにせ隠れるところはたくさんあるし、彼女たちは誰にも見えないよう姿を消すという芸当もできるのだ。
 と、その時。
 ズシンっと言う音が響いた。
「…………」
 音の行方を追って視線を向けた時、デルフェスは思わず沈黙した。
 桜が……たくさんの桜のうちの一本が、ずるりと地面から根を抜き動き出したのだ。
 あの妖精コンビはそれほどまでの力を持っていただろうか?
 疑問に思いつつも、デルフェスはその桜の元へと駆け出した。


 桜の異変に駆けつけてきた四人――シェラン・ギリアム、シュライン・エマ、真名神慶悟、鹿沼・デルフェス。
 桜の異変を起こした張本人、セフィア・アウルゲート。
 そして、桜さんが可哀相だから人間全部を追い出すと言い張っていたウェルとテクスの妖精コンビ。
 その全員をゆっくりと見まわして、桜は、枝を手のように動かしてコキコキと肩――と言うのだろうか? どの辺が肩なのかはよくわからないが、まあ、肩をほぐすような動作をした。
「突然ごめんなさい。少し聞きたいことがあるんです」
 あまりの出来事に茫然としている四人を放って、セフィアが桜に話しかける。
「わ〜た〜し〜にぃ〜?」
 一音一音を伸ばしながら、桜はゆったりと低い声でそう聞き返す。
「ええ。お花見してる人間たちについてなのですけど」
「ああぁ」
 ゆぅっくりゆっくりと枝を動かした桜は、ぽんっと身体――幹の前で二本の枝を鳴らす。
「あの人たち、酷いのっ」
「追い出したげるのっ」
「あ、ちょっと待ちなさい」
 ぷんぷんと怒る妖精たちを、シュラインが制止する。……悲しいことに、シュラインは、この程度の異常現象では動じないだけの経験がすでにある。あっさりと喋る桜の存在を受け入れて、桜の返答を待つ。
「どうやっているのかは知りませんが……桜の意見を直接聞けるのならばそれが一番良いでしょう。少しだけ、待って頂けませんか?」
 続けて、シェランが妖精コンビに声をかけると、納得したのか妖精コンビはひゅっとセフィアの肩に乗って大人しくなった。
「そおぉだなあ〜。わ〜た〜し〜をぉ〜見ぃてぇ、楽しんでくれるのぉは〜嬉しい〜よぉ。けぇどぉなぁ。すこぉし、迷惑なのも〜いるなぁ〜。根ぇの上〜でぇ、暴れられるのぉは〜、けっこぉ〜痛いんだぁ」
「嬉しいの?」
「暴れない人は嬉しいの?」
 妖精コンビの問いかけに、桜はわっさと幹の上のほうを縦に揺らした――と、桜の花びらが落ちて、淡いピンクの雪が降る。
「そうですわね……それなら、きちんとマナーを守っていただけるようお願いに行きましょう。それでどうですか?」
 舞い散る花吹雪の下で。
 デルフェスの問いに、妖精はしばし考えこんだ。
 そして。
「うんっ☆」
 二人は同時に頷いたのだった。

 さて改めて。
「で……とりあえずは自己紹介でもするか?」
 各自、面識のない者が若干数名ずつ。なにかワンテンポずれている気もするが改めて自己紹介をしてから、一行はまずマナーの悪い者たちへの注意をすることにした。
「さて、若い連中はこれで聞いてくれると思うんだが」
 慶悟が【替形法】で、式神を別嬪さんやら二枚目の男やらの姿に変化させる。
 とはいえ、まったく面識のない相手にいきなり注意をしたとて聞いてもらえるとは思えない――所有者でもない人間からの注意では尚更だろう。――そこで、式神たちにゴミ袋を持たせ、公園内のあちこちに行かせることにした。
 ……案の定。
 ゴミ拾いをする美男美女の愛想笑いに、十代後半から三十代前半くらいのグループの大半が引っかかった。
 慌てて散らかしていたゴミをかたし、中には下心満載の笑顔を浮かべつつ積極的にゴミ拾いをする者もいた。
「君が為春の野に出でて若菜つむわが衣手に雪はふりつつ……という感じか。この場合、『貴方のためにゴミを拾う』だが」
 一部ゴミ拾い大会となった公園内を眺めて、慶悟はそんなことを呟いた。

 ……さて。これでも残る宴会迷惑グループはまだまだいる。
「そうねえ……妖精さんたち、ちょっと良いかしら?」
「なあにぃ?」
「あの人たちが今捨てたゴミ。あの人たちのところに戻せる?」
「できるのっ☆」
「まかせてなのっ!」
 ひゅっと小さな風が吹き、たった今捨てられたゴミが、捨て主達グループのビニールシートに戻って行く。
「なんだぁ?」
 最初はそれでもただの風だろうと再度捨てていた彼らであったが、何度も何度も戻ってくるゴミに不気味がり、最後にはゴミを回収してそそくさと立ち去って行った。
 が、それだけでは不完全だと感じたシュラインは、公園を出る時に必ず目に付く場所にぺたりと一枚、張り紙を貼っておく。
『楽しんだ後は使った場所を掃除し、ゴミは分別して持ちかえりましょう』
 ……あんな妙な現象のあとだ。多分気づいてくれるだろう。

 これで四分の三ほどの迷惑客が更正もしくは撃退できた。
 残っているのは怪奇現象を見ても全く動じない完全酔っ払いと、こんな現象偶然だと言い張り意地で花見を続ける迷惑グループ。
「ここまでやっても態度を改めてもらえないんだもの……」
 少しくらいのお仕置きは必要だろう。
 セフィアはほてほてと迷惑花見客の方へと歩いて行く。
「どうするんですの?」
 デルフェスの問いに、セフィアは、見てればわかるからとだけ答えて、迷惑花見客のすぐ傍にまでやってきた。
「お嬢ちゃん、オレたちになにか用かい?」
 ほぼ全員がかなーり真っ赤の顔で、相当酔っ払っている様子。その中の誰かが、そんなふうに聞いてきた。
「あんまり横暴な方にはお仕置です♪」
 言って、迷惑客の体に触れる。
 と、セフィアに体力を吸収されて、ばったばったと花見客が倒れて行く――と言っても酔っ払いの上に体力を削られて眠ってしまっただけだが。
「これで静かになりました」
 一番やっかいな連中は、まったく改心してないのが少しばかり気になるが。
「まあ、彼らにはあとで報いが行くでしょう」
 穏やかに人好きのする笑みを浮かべてシェランが言う。
「わーいっ」
「ありがとうなのっ☆」
 くるくると一行の周囲を飛びまわりながら、妖精コンビが何度も何度もお礼を言う。
「せっかくですから、私たちも楽しみましょう」
 デルフェスが妖精たちに声をかけて。
 縁があって共同作業をした五人は、空いた場所でお花見をすることになったのであった。


 さて、その騒ぎからきっかり十三日後。
 忠告も警告も最後まで聞かなかった迷惑客たちは、動く桜の木に追い掛けられるという悪夢に魘された。
 その原因を知っているのは……シェラン一人だけである。

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   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  
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整理番号|PC名|性別|年齢|職業

1366|シェラン・ギリアム  |男|25|放浪の魔術師
0086|シュライン・エマ   |女|26|翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員
2334|セフィア・アウルゲート|女|316|古本屋
2181|鹿沼・デルフェス   |女|463|アンティークショップ・レンの店員
0389|真名神慶悟      |男|20|陰陽師

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         ライター通信          
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 こんにちわ、日向 葵です。
 このたびは依頼にご参加いただきありがとうございました。

>シェランさん
 お久しぶりです。
 ……最後の数文……何故シェランさんしか原因を知らないのかというと、妖精コンビが十三日も後まで覚えているわけないからです(苦笑)
 でも、おかげさまで最後まで残った迷惑客もきっと改心したことでしょう。どうもありがとうございました。

>シュラインさん
 とっても冷静なご意見、ありがとうございました。
 桜さんも同様の意見だったようで、ある意味平和(?)に事態が進んだと思います。
 張り紙はちょっとツボでした……別におかしいことではないはずなのですが、なんだかほのぼの雰囲気で楽しかったです。

>セフィアさん
 ものすっごく楽しかったです。
 喋る桜さん!
 本人(?)に話を聞けたことで話もスムーズに進んで、書くのも凄く楽でした(笑)

>デルフェスさん
 お花見のお誘いありがとうございます。
 一生懸命説得していただいたのですが……飛び去ってしまった妖精さんたちを探すのはきっと大変だったでしょう。
 お疲れ様でした。

>慶悟さん
 うう、生気を宿す祈念斎の描写を入れる余裕がありませんでした。
 ごめんなさいぃ〜。
 でも式神さんには大活躍していただきました。ちょおっと酒が入ったくらいの方々にはちょうど良い説得(?)方法で、書いてるこちらも楽しかったです。

 それでは、今回はこの辺で……。
 またお会いする機会がありましたら、その時はどうかよろしくお願いします。