■妖精さんいらっしゃい♪〜初詣Ver■
日向葵 |
【0086】【シュライン・エマ】【翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員】 |
新年が明けた神社は初詣で賑わい、初詣客を狙った屋台があちこちに出ていた。
おいしそうな匂いに釣られて、人のごったがえす神社へやってきた妖精コンビ。
「ふわ〜。すごいの」
「人がいっぱいなのー!」
神社の小道を埋め尽くす、人、人、人。
街に出たことはあれど、これほどの人ごみを見たことのなかった妖精コンビはその行列に目を丸くした。
屋台の食べ物をちょっぴり拝借しつつ、行列の先頭を追いかけてきた二人は、あるものを視界に留めて、好奇心いっぱいの瞳をきらきらと輝かせる。
それは、お参りをする人たちがガラガラと鳴らしている鈴だ。
「ねえ、あれ!」
「うん、やりたいのっ!」
二人は早速、鈴を鳴らしに行くべく近づいたのだが……。
「きゃうっ!?」
コンッ、と。
誰かが投げたお賽銭が、運悪くウェルの頭にぶつかった。
急なことでバランスを崩したウェルはそのままひゅるひゅるとお賽銭箱へと落ちていく。
「ウェル〜っ?」
慌ててその後を追いかけようとしたが、大きなお賽銭箱とたくさんの人。
投げ込まれてくるお金もたくさんで、下手に近づけばテクスも落ちてしまいそうだ。
「ウェル、ウェル〜」
片割れを見失って半泣きのテクスは、妖精を信じない大人たちには姿が見えない。
それは逆を言えば子供には見えるということで……。
「ねえ、ママ。あれなにー」
「蝶々さんが泣いてるよ」
そこここで子供たちが告げ、大人たちは首を傾げる。
子供たちが一斉に指差した先を見つめて、不思議そうに、もしくは幽霊でも見るような表情を浮かべる大人たち。
そんな中。
「も、いやあんっ!」
お賽銭箱の周りをうろうろし、投げ込まれるお金を避けながらどうにかウェルを助けようとしていたテクスがキレた。
途端、神社脇に植えられていた木が冬の様相から変化する。蕾が膨らみ、花が咲き。
人々の視線は一斉に、突如起こった不思議な現象へと注がれた。
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妖精さんいらっしゃい♪〜お花見ver
ここ数日、草間興信所に入ってくる依頼の中に、妙に引っかかる依頼があった。
それはとある公園でのこと。
なんの前触れもなく突如バケツ雨が降ったり、突風で酒瓶――しかも中身一杯――がいくつも飛ばされたり。それなのに、その突風で桜が散るようなことにはならないと言うのだ。
「怪奇現象といえば怪奇現象なんでしょうけど」
「どこかで聞いたような騒ぎだな」
傍迷惑だが実被害――いや、実被害はあるか。だが、怪我人は出ない。
シュライン・エマの呟きに、草間武彦が頷いた。どうやら二人して同じことを考えているらしい。
「たっだいま〜。なんかさあ、今日、面白いことになってたよ」
バッタンと扉が開いて入ってきたのは草間興信所の居候神様・桐鳳。本日は花見――といっても人間達がやるような宴会ではなく、本当にただただ桜を眺めるだけの桜見物――に行っていたのだ。
「面白いこと?」
シュラインが問い返すと、桐鳳はニッと無邪気に悪戯っぽく笑う。神様というよりは悪戯っ子のような表情で。
「そ、面白いこと。なんかねえ、召喚……っていうのかな? そんな感じのことやってる人がいた」
「はい?」
「は?」
「えーとね、だから……その公園でね、その人……――」
と、桐鳳の説明したところによるとその人物、木の杖で地面をコツコツ叩き、何ごとかブツブツか唱えていたというのだ。ちなみに桐鳳は、その台詞を聞いてなにかの召喚でもやろうとしているのではないかと推測したらしい。
「確かに、おかしな人ねえ……」
「だが依頼のほうとは関係ないか?」
「依頼?」
きょとんと問い返した桐鳳に、シュラインと武彦がその依頼についてを説明する。
説明を聞いた桐鳳は、しばらく考え込んで。
「ただの悪戯か、それでなかったら花見客を追い出したいんじゃないの?」
突風が吹いても局地的豪雨が降っても桜に被害がないと言うのならば、おそらく桐鳳のその言葉は正解なのだろう。
「そうねえ。たんなる悪戯だったら、桜にだけ被害がいかないように、なんて面倒なことしないわよね」
もし予想通り、あの妖精コンビが原因ならば、調査員を募るほどのものでもないだろう。そう考えて、とりあえずはシュライン一人でその公園に向かうこととなった。
その公園に向かう道――すでに左手には公園が広がっており、中の様子が見て取れた。
確かに話に聞いたとおり、びしょぬれになっていたり、飛ばされたであろう品を回収していたり、中にはビニールシートにびっしり雑草が生えているなんていう物もあった。
「……やっぱり、あの子達かしらねえ」
思いつつ、角を曲がる。その先に公園の中ヘの入口が――と。入口付近の柵のところ……公園内ではな道の側に、見知った顔がいた。
「あら、あれは……」
真名神慶悟、草間興信所の常連である。そしてその近くに小さな人影が二つ。言わずと知れた妖精コンビ。
「こんにちわ」
声をかけると、慶悟はすぐさま振り向いた。
「シュラインなのーっ」
なにか言い掛けた慶悟を遮って、妖精コンビがぱっと飛んで来る。
「もしかして公園の怪事を調べに来たのか?」
「ええ。……やっぱりこの子達だったのね」
飛びついてきた二人を受けとめて、シュラインは苦笑した。
「あたしたち?」
「ええ。雨を降らせたり風を吹かせたり」
「桜さんをお助けしたのっ!」
自慢げに胸を張る二人を見て、慶悟は曖昧に笑う。
「まあ、どこにでもマナーの悪い花見客と言うのはいるからな……」
その一言で、シュラインは妖精たちの今回の悪戯――いや、今回に限っては悪戯とは言えないかもしれないが――の原因を知る。
「そうねえ。でも……人間みんな無差別に追い出すのはどうかと思うわ」
「ああ。そうだな」
「むさべつ?」
きょとんと聞き返してくる妖精コンビに、シュラインが丁寧に説明してやる。
「だって、静かにお食事してるだけの人もいたでしょう? そう言う人まで追い出すことはないと思うの」
「ん〜……」
考えこむ妖精コンビ。と。
「せふぃあだーっ」
「きゃーっ」
誰か知り合いを見つけたらしい。たった今交わされていた会話などすっかり忘れて、妖精コンビはぴゅうっと公園の中へと戻っていった。
「……追いかけましょうか」
「そうだな」
このまま二人を野放しにするわけにも行かず、シュラインと慶悟は妖精コンビを追いかけて歩き出した。
と、その数分後。
妖精たちを見つける前に、二人はとある異変に気がついた。
「なに、あれ……」
明らかに、桜が、動いている。
どうみても風ではなく。
「とにかく行ってみよう」
二人は足を速めてその桜の元へと駆け出した。
桜の異変に駆けつけてきた四人――シェラン・ギリアム、シュライン・エマ、真名神慶悟、鹿沼・デルフェス。
桜の異変を起こした張本人、セフィア・アウルゲート。
そして、桜さんが可哀相だから人間全部を追い出すと言い張っていたウェルとテクスの妖精コンビ。
その全員をゆっくりと見まわして、桜は、枝を手のように動かしてコキコキと肩――と言うのだろうか? どの辺が肩なのかはよくわからないが、まあ、肩をほぐすような動作をした。
「突然ごめんなさい。少し聞きたいことがあるんです」
あまりの出来事に茫然としている四人を放って、セフィアが桜に話しかける。
「わ〜た〜し〜にぃ〜?」
一音一音を伸ばしながら、桜はゆったりと低い声でそう聞き返す。
「ええ。お花見してる人間たちについてなのですけど」
「ああぁ」
ゆぅっくりゆっくりと枝を動かした桜は、ぽんっと身体――幹の前で二本の枝を鳴らす。
「あの人たち、酷いのっ」
「追い出したげるのっ」
「あ、ちょっと待ちなさい」
ぷんぷんと怒る妖精たちを、シュラインが制止する。……悲しいことに、シュラインは、この程度の異常現象では動じないだけの経験がすでにある。あっさりと喋る桜の存在を受け入れて、桜の返答を待つ。
「どうやっているのかは知りませんが……桜の意見を直接聞けるのならばそれが一番良いでしょう。少しだけ、待って頂けませんか?」
続けて、シェランが妖精コンビに声をかけると、納得したのか妖精コンビはひゅっとセフィアの肩に乗って大人しくなった。
「そおぉだなあ〜。わ〜た〜し〜をぉ〜見ぃてぇ、楽しんでくれるのぉは〜嬉しい〜よぉ。けぇどぉなぁ。すこぉし、迷惑なのも〜いるなぁ〜。根ぇの上〜でぇ、暴れられるのぉは〜、けっこぉ〜痛いんだぁ」
「嬉しいの?」
「暴れない人は嬉しいの?」
妖精コンビの問いかけに、桜はわっさと幹の上のほうを縦に揺らした――と、桜の花びらが落ちて、淡いピンクの雪が降る。
「そうですわね……それなら、きちんとマナーを守っていただけるようお願いに行きましょう。それでどうですか?」
舞い散る花吹雪の下で。
デルフェスの問いに、妖精はしばし考えこんだ。
そして。
「うんっ☆」
二人は同時に頷いたのだった。
さて改めて。
「で……とりあえずは自己紹介でもするか?」
各自、面識のない者が若干数名ずつ。なにかワンテンポずれている気もするが改めて自己紹介をしてから、一行はまずマナーの悪い者たちへの注意をすることにした。
「さて、若い連中はこれで聞いてくれると思うんだが」
慶悟が【替形法】で、式神を別嬪さんやら二枚目の男やらの姿に変化させる。
とはいえ、まったく面識のない相手にいきなり注意をしたとて聞いてもらえるとは思えない――所有者でもない人間からの注意では尚更だろう。――そこで、式神たちにゴミ袋を持たせ、公園内のあちこちに行かせることにした。
……案の定。
ゴミ拾いをする美男美女の愛想笑いに、十代後半から三十代前半くらいのグループの大半が引っかかった。
慌てて散らかしていたゴミをかたし、中には下心満載の笑顔を浮かべつつ積極的にゴミ拾いをする者もいた。
「君が為春の野に出でて若菜つむわが衣手に雪はふりつつ……という感じか。この場合、『貴方のためにゴミを拾う』だが」
一部ゴミ拾い大会となった公園内を眺めて、慶悟はそんなことを呟いた。
……さて。これでも残る宴会迷惑グループはまだまだいる。
「そうねえ……妖精さんたち、ちょっと良いかしら?」
「なあにぃ?」
「あの人たちが今捨てたゴミ。あの人たちのところに戻せる?」
「できるのっ☆」
「まかせてなのっ!」
ひゅっと小さな風が吹き、たった今捨てられたゴミが、捨て主達グループのビニールシートに戻って行く。
「なんだぁ?」
最初はそれでもただの風だろうと再度捨てていた彼らであったが、何度も何度も戻ってくるゴミに不気味がり、最後にはゴミを回収してそそくさと立ち去って行った。
が、それだけでは不完全だと感じたシュラインは、公園を出る時に必ず目に付く場所にぺたりと一枚、張り紙を貼っておく。
『楽しんだ後は使った場所を掃除し、ゴミは分別して持ちかえりましょう』
……あんな妙な現象のあとだ。多分気づいてくれるだろう。
これで四分の三ほどの迷惑客が更正もしくは撃退できた。
残っているのは怪奇現象を見ても全く動じない完全酔っ払いと、こんな現象偶然だと言い張り意地で花見を続ける迷惑グループ。
「ここまでやっても態度を改めてもらえないんだもの……」
少しくらいのお仕置きは必要だろう。
セフィアはほてほてと迷惑花見客の方へと歩いて行く。
「どうするんですの?」
デルフェスの問いに、セフィアは、見てればわかるからとだけ答えて、迷惑花見客のすぐ傍にまでやってきた。
「お嬢ちゃん、オレたちになにか用かい?」
ほぼ全員がかなーり真っ赤の顔で、相当酔っ払っている様子。その中の誰かが、そんなふうに聞いてきた。
「あんまり横暴な方にはお仕置です♪」
言って、迷惑客の体に触れる。
と、セフィアに体力を吸収されて、ばったばったと花見客が倒れて行く――と言っても酔っ払いの上に体力を削られて眠ってしまっただけだが。
「これで静かになりました」
一番やっかいな連中は、まったく改心してないのが少しばかり気になるが。
「まあ、彼らにはあとで報いが行くでしょう」
穏やかに人好きのする笑みを浮かべてシェランが言う。
「わーいっ」
「ありがとうなのっ☆」
くるくると一行の周囲を飛びまわりながら、妖精コンビが何度も何度もお礼を言う。
「せっかくですから、私たちも楽しみましょう」
デルフェスが妖精たちに声をかけて。
縁があって共同作業をした五人は、空いた場所でお花見をすることになったのであった。
さて、その騒ぎからきっかり十三日後。
忠告も警告も最後まで聞かなかった迷惑客たちは、動く桜の木に追い掛けられるという悪夢に魘された。
その原因を知っているのは……シェラン一人だけである。
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登場人物(この物語に登場した人物の一覧)
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整理番号|PC名|性別|年齢|職業
1366|シェラン・ギリアム |男|25|放浪の魔術師
0086|シュライン・エマ |女|26|翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員
2334|セフィア・アウルゲート|女|316|古本屋
2181|鹿沼・デルフェス |女|463|アンティークショップ・レンの店員
0389|真名神慶悟 |男|20|陰陽師
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ライター通信
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こんにちわ、日向 葵です。
このたびは依頼にご参加いただきありがとうございました。
>シェランさん
お久しぶりです。
……最後の数文……何故シェランさんしか原因を知らないのかというと、妖精コンビが十三日も後まで覚えているわけないからです(苦笑)
でも、おかげさまで最後まで残った迷惑客もきっと改心したことでしょう。どうもありがとうございました。
>シュラインさん
とっても冷静なご意見、ありがとうございました。
桜さんも同様の意見だったようで、ある意味平和(?)に事態が進んだと思います。
張り紙はちょっとツボでした……別におかしいことではないはずなのですが、なんだかほのぼの雰囲気で楽しかったです。
>セフィアさん
ものすっごく楽しかったです。
喋る桜さん!
本人(?)に話を聞けたことで話もスムーズに進んで、書くのも凄く楽でした(笑)
>デルフェスさん
お花見のお誘いありがとうございます。
一生懸命説得していただいたのですが……飛び去ってしまった妖精さんたちを探すのはきっと大変だったでしょう。
お疲れ様でした。
>慶悟さん
うう、生気を宿す祈念斎の描写を入れる余裕がありませんでした。
ごめんなさいぃ〜。
でも式神さんには大活躍していただきました。ちょおっと酒が入ったくらいの方々にはちょうど良い説得(?)方法で、書いてるこちらも楽しかったです。
それでは、今回はこの辺で……。
またお会いする機会がありましたら、その時はどうかよろしくお願いします。
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