■妖精さんいらっしゃい♪■
日向葵 |
【0806】【栗田・芽琉】【コンビニバイト】 |
それはある晴れた日のこと。
「こーんにーちわ、なの〜♪」
「ワタシたち、すっごく暇なの〜☆」
突然降ってわいた甲高い声のその直後。
貴方の目の前に、何かがぽんっと姿を現わした。・・・・・・それは、透明で薄い綺麗な四枚羽を持った、二人の小さな妖精。
そっくり同じ姿を持った二人は息もぴったり合うようで、見事に左右対称に、まるでダンスでもするかのように宙を踊った。
ふわふわんっとウェーブのかかった薄紅の髪が背中まで伸びていて、楽しげに風に揺れる。
少女たちの深緑の瞳と目が合うと、二人はくるりと空中で一回転。ダンスを止めて、可愛らしい笑みを浮かべた。
「あたしはウェル♪」
「ワタシはテクス☆」
そして二人は、パンッとお互いの両手を合わせて、見事に声を合わせた。
「遊んでなの〜〜〜っ!」
妖精たちは返答も待たずに飛びついて来て、
「遊んでくれなきゃイタズラしちゃうのっ」
無邪気な笑みで脅しともとれる言葉を告げたのだった。
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妖精さんいらっしゃい♪
たいして広くはないけれど、小さなというほどには狭くない。子供よりもむしろカップルの多い公園の片隅で、一人の男がぼーっとてくてく散歩をしていた。
栗田芽琉(くりた・める)、十七歳。彼女いない歴ン年の彼は、いちゃいちゃと楽しげなカップルに少々フクザツな溜息をついた。
今日は久々のバイト休み。天気も良いしでなんとなく散歩に出てきたのだが。……平日の昼間だというのに、なんでカップルばっかりが多いのか。
「……彼女、欲しいなあ」
ぽつりと呟き、少々考えてから、今度は軽く息を吐く。
何故なら、実は芽琉は女嫌いなのだ。いや、嫌いと言うより恐怖症に近いかもしれない。三メートル以内に女がいればすぐ気付く。そして逃げる。
……近いかも、じゃなくてそのものか。
とにかくまあ、そんな芽琉が彼女を作るだなんて至難のワザ。いっくら彼女が欲しいと願ったって、まずその前に、女嫌いを克服せねばそもそも近づくことすらもできない。
「いい天気だなあ……」
あえてカップルたちから目を逸らし、見上げた先には青く澄み切った空。と、鳥の影が二つ。
「……ん?」
いや、鳥にしては少しおかしい。
逆行になっていたよくわからないが……。あれは、鳥と言うよりは人影ではないか?
しかしそれにしてはサイズが小さい。距離が遠いのだろうか……?
だがそれを差し引いて考えても、あんなふうに空を飛ぶ人間が――いや、いないとは言わないが、普通あんなに堂々とは飛ばない。しかも真昼間に。
上空の人影が、芽琉の真上あたりでぴたりと止まった。どうやら芽琉の視線に気付いたらしい。
と、思った瞬間。
人影は、まっすぐこちらに突っ込んできた。
「……は?」
距離のせいではなかった。
あの人影は、本当にミニサイズの人間……ぽいものらしい。
十メートル……五メートル……三メートル……。
「お、女!?」
いや、先に驚くべきはどう考えても人間ではない彼女たちの姿に対してだろうと頭のどこか冷静な部分では思ったが、今は逃げる方が先であった。
しかし。逃げる芽琉の背中の向こうから、きゃらきゃらと楽しげな笑い声が追い掛けてくる。
「鬼ごっこなのっ!」
「追い掛けるのーーっ☆」
冗談じゃないっ!
「うぎゃあっ!?」
慌てて駆けるスピードを上げると、どうやら二人はあまり早くは飛べないらしい。少し距離が広がってほっとしたのも束の間、
「むうー……追いつかないのぉ」
「つかまえるのっ!」
そんな声が聞こえた直後。
足もとの草がにょるっと伸びて、芽琉の足に絡みつく。
「うわっ?」
なんとかコケるのだけは免れたものの、当然足は止まる。
「つっかまーえたっ☆」
ぺとっと顔に張りつかれて。
哀れ、芽琉は鼻血とともに、その場にぶっ倒れたのであった。
「おっはよーなのっ☆」
目を覚ました芽琉が、最初に見たのは小さな少女――といっても顔立ちは十二、三さい前後。小さいと言うのは、そのまま体のサイズが小さいという意味だ――のドアップだった。
緩くウェーブがかかったピンクの髪に、深緑の深い森の色をした瞳。そして背中には薄透明の四枚羽。どっからどう見ても妖精と言うやつである。
そしてまた。
可愛らしい顔立ちに甲高い声。…………どっかだらどう見ても、女であった。
「あっそぼー、なのっ!」
にこにこと笑う姿はまあ可愛いが、それでもやっぱり女は女。
自然と逃げを打つ芽琉に気付いたのか、妖精たちは変わらぬ笑顔のままで付け足した。
「遊んでくれなきゃイタズラしちゃうのっ☆」
「…………」
逃げられない、ということか?
「わ、悪いけど僕、女の子は苦手――」
「女の子?」
「誰が?」
「ワタシは違うよ」
「あたしも違うの」
「は?」
しかしどこからどう見ても……。
「女の子は子供を産むのっ」
「あたしは違うのっ」
「ワタシも違うのっ」
……彼女らの真の性別はこの際どうでもよい。
とにかく、彼女たちの外見はきっぱりはっきりどこから見ても女の子。
ならば芽琉にとっては充分以上に苦手な対象に入ってしまう。
「むーー」
「?」
妖精たちが、不機嫌そうに睨んでいる。
「遊んでくれないなら、イタズラしちゃうのっ!」
ぽんっと妖精二人が芽琉の頭の上に乗っかってきた。
「……」
思わず硬直する芽琉。
ああ、この妖精たち、いったい何を考えてるんだろう?
何故か沈黙のまま、芽琉の頭の上に張り付いている。さっきまでが煩かっただけに、なんだか嫌な予感がした。
「苦手はダメなのっ」
「は?」
妖精たちは唐突にそう言って、芽琉の顔の真正面に戻ってきた。そして、何故か、ものすっごく楽しそうに笑う。
「苦手は治さなきゃなのっ」
「……」
主語のない妖精たちの話はビミョーにわかりにくかった。が、数秒の思考の後に、芽琉はその意味をつかんであとずさる。
「まさか……」
「きゃーっ☆」
黄色い声とともに迫ってくる妖精コンビを咄嗟に避けて、すぐさま二人の次の行動に警戒する。
「いっくのーっ!」
ああ、なんて楽しそうな声。
僕の苦手克服なんてどうでもいいんでしょうが、本当は!
叫びたくなったが、あえて言葉を呑みこんだ。言ったら多分、思いっきり無邪気な「うんっ」という返事がかえってくるだろうし、どうやらこの妖精たち、芽琉にしか見えていないらしい。周囲のカップルたちの視線がいろいろと冷たい……。
とりあえず人の少ない方へと駆け出した芽琉を追って、妖精たちも飛んでくる。
さっきのことを警戒して、できるだけ草のない道を選んだのだが、世の中そんなに甘くはなかった。
「きゃーっ、なのっ☆」
妖精たちの歓声に呼応して、ざっぱと上から大量の雪が落ちてきた。季節外れもいいトコロだ。
「つっかまーえたーっ」
ぺたん。
雪が溶ける――どうやったのか、芽琉は特に濡れたりはしていなかった。
きゃらきゃらと笑いながら肩に飛び乗ってきた妖精たちは、ぺたぺたとまた芽琉の身体を触りまくった――と思ったら、
「おもしろもの、はっけーんっ!」
さっき商店街を歩いていた時に貰ったライターを持ち出した。
「あっ、それは危ない――」
言い終わる前にボッとライターに火がついて、途端、妖精たちはライターを投げ出した。
「いやーんっ」
「びっくりなのーっ」
たかがライター。されどサイズの小さい二人には充分大きな火だっただろう。いきなり出てきた炎に怯えつつ、二人はぱっと芽琉の胸に飛びついて来る。
「うぇーんっ」
「怖かったのぉ〜〜」
「ああ、もう大丈夫だから」
苦笑して妖精たちを宥めつつ、ハタとあることに気がついた。
妖精たちは――本人の主張はともかくとして――女の子である。こんなに接近しているのになんともない。
「……」
ああ、これなら彼女もできるかも!!
そんな希望を抱いたのはほんの数日ばかり。上機嫌で妖精を見送ってから数日後。
期待を胸に、女性の人通りが多い道に行ってみたのだが……。
結果は、見事に玉砕。女性に慣れたというよりは、ミニサイズ妖精コンビに慣れただけだったらしい。
……芽琉に彼女ができる日は遠そうである。
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登場人物(この物語に登場した人物の一覧)
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整理番号|PC名|性別|年齢|職業
0806|栗田・芽琉|男|17|コンビニバイト
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ライター通信
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はじめまして、こんにちわ。
このたびは妖精さんの遊び相手(?)どうもありがとうございました。
いろいろと大変なメに遭ってしまいましたが、その結果妖精コンビには慣れた模様。
……不幸の種が増えただけかもしれませんが(苦笑)
また機会がありましたら、どうぞ妖精コンビと遊んでやってくださいませ。
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