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■花唄流るる■

草摩一護
【2060】【ノージュ・ミラフィス】【雑貨屋【モノクローム・ノクターン】の主人】
【花唄流るる】

 あなたはどのような音色を聴きたいのかしら?

 あなたはどのような花をみたいですか?

 この物語はあなたが聴きたいと望む音色を…

 物語をあなたが紡ぐ物語です・・・。

 さあ、あなたが望む音色の物語を一緒に歌いましょう。



 **ライターより**

 綾瀬・まあや、白さん(もれなくスノードロップの花の妖精付き)のNPCとの読みたい物語をプレイングにお書きくださいませ。^^

 『花唄流るる  ― 白のワンピースドレスとリュート弾きの少女と、ノージュ ― 』

 からぁ〜〜ん。
 雑貨屋【モノクローム・ノクターン】の扉に付けられた鐘が今日も軽やかに澄んだ音色で来客をこの店の主であるノージュ・ミラフィスに告げた。
「こんにちは、まあやさん」
「こんにちは、ノージュさん」
 店に入って来たのは腰まである黒髪を軽やかに揺らしながらノージュの前に立った少女。彼女は紫暗の瞳を柔らかに細めて微笑んだ。彼女は綾瀬まあやという。だけどその彼女がこの店の客かと言うと、どうもそうではないらしい。
「ねえ、ノージュさん」
「ん?」
「あれって、鳥篭、よね?」
 ノージュはまあやの切れ長な瞳が見つめている方を見て、そして口元に微苦笑を浮かべた。二人の視線の先には、鳥篭があって、その鳥篭の中には黒猫のぬいぐるみがあるのだ。
「ええ、鳥篭。だけどね、あの黒猫、ちょっと目を離すと、動き出して悪戯をするのよ、それであの鳥篭の中に入れてるってわけ」
「なるほど」
 まあやは店内にあるアンティーク家具の陰から自分を見つめる妖精たちに視線をやりながらこくりと頷いた。
 そしてその視線を、妖精たちから、店の隅にかけられた白のワンピースドレスに向ける。
「これが今日、売れるのね」
「ええ、そう。昨日辺りから、その子、すごく落ち着きが無いのよ」
 白のワンピースドレスを手に取ったノージュは、この店で一番の場所にそれを移すと、どこか懐かしそうな目で、それを見た。だってそれは・・・
「まあやさんと知り合うきっかけがこの白のワンピースドレスだったのよね」
 こくりと小さく微笑んだ顔を頷かせた綾瀬まあやとの出会いを、ノージュはまるで昨日の事のように鮮やかに脳裏に思い浮かべた。


 ――――――――――――――――――――

 深夜という世界はどうあるべきなのか?
 深い闇に包まれ、生きとし生ける者はその呼吸をぐっと押し殺して、その夜が明けるのを待つべきなのだろう。
 深夜の東京。
 しかしそこから光が失われる事はない。
 車のヘッドライトは流れる光の奔流のようだし、
 店々のネオンの輝きも夜の闇を陵辱している。
 眠らない街、東京。
 自然の明かり以上に眩しい光が溢れるそこは、本来あるべき夜の闇を光が陵辱するばかりではなく、人の心も喰らわれる。伝染していく心のさつばつさ。刺々しさ。暗い闇。
「くぅう」
 それでもまだ上空には本来あるべき闇はある。その上空にある闇に紛れるようにして闇色の翼を羽ばたかせながら空を飛ぶ少女は、しかしもう何週間も水を飲めずにいる砂漠で道に迷った旅人かのように右手で喉を掴んで苦しげなうめき声を漏らした。


 夜空にある朧月。
 春の夜の空は、どこかからか舞ってきた桜の花びらが舞い飛んでいる。
 その花びらが包み込むは夜の眷属。
「あがぁ…ぐぅ」
 喉を押さえながら、渇きに苦しむ少女を労わるように優しく包み込む。もしくは消してしまおうとしているのか、桜は…?
 夜の眷属たるその少女の髪は、
 美しい蒼銀色の髪から、
 月色に変わっていく。
 透き通るような青い目も、
 今はどこか茫洋で、
 虚空を彷徨い、
 その白い肌はさらに白くなって血管が浮かぶ。
 汗ばんでいく。


 少女を包み込んでいた桜の花びらは皆、散っていった。
 ―――――――変化した少女を怖がるように。哀しむように。


「渇きがひどい」
 渇き、それは吸血鬼の性。
 人が人以外の生き物を殺し、喰らうように、
 吸血鬼は人の生き血を啜る。
 人の頚動脈に犬歯と呼ぶには鋭すぎる八重歯を突き刺し、
 溢れ出る血を嚥下するのだ。
 少女の目は丁度真下の道を歩くひとりのOLに行く。20代前半の綺麗な娘だ。この夜の闇の中でそのOLのうなじの白さばかりが亡羊な光となって目立つ。
 少女の青い瞳には弱肉強食の冷たい霜が降りた。その冷たい視線を隠そうとするかのように少女はその青い目を細め、
 喉を鳴らす………
「くぅ」
 しかし少女は、寸での所で自我を取り戻したようだ。
 わずかに見開かれた瞳からはあの冷たい霜は消え去っている。
 ただその代償かのように少女の白い肌は先ほどよりも汗ばんでいたし、渇きも進んでいるようだった。
 少女は、空中停止していたその空間から音速のスピードで離脱する。
 これ以上あのOLの近くにいれば、間違いなく自分は哀れな野鼠の子どもに空から襲い掛かる鷲のように、OLの前に降り立ち、その眼光でOLを金縛りにし、喉の渇きを潤さんとそのOLの髪を掻きあげ、首筋に牙を埋め、その牙が皮膚を破り肉を裂く感触を楽しみながら、溢れ出た血を喉に流す事は明らかだった。
「嫌よ、そんなのは……」
 少女は泣きそうな顔でぎゅっと下唇を噛んだ。とても辛い…本当にものすごくぎりぎりの場所でされている戦いなのだ、それは。
 確かにそれで喉の渇きは潤されるかもしれない。
 だけど今度はそれで少女の心が渇いてしまうのだ。


 そう、心が渇いてく……それは、喉の渇きよりももっともっともっと辛い事なのだ……胸が張り裂けそうになるぐらいに………


 吸血鬼の衝動を振り切ろうとするかのように空を飛ぶ少女は、やがて都心から郊外の方まで飛んできてしまった。
 そこには深い闇があった。
 そして静かな闇も。
 そのしじまの中では少女のだらしなく半開きにされた口から零れる荒い呼吸音も充分に響く。


 助けて…。助けて、誰か助けて………


 少女は心の中で助けを求めた。
 心が苦しい。
 このままでは自分は吸血鬼の性に負けてしまう。
 そうしたら、そしたら、自分は、喉の渇きを潤してしまう。それは吸血鬼の自分としては至極当然の行為だけど、だけどもう半分の人間としての自分にとっては……心砕く哀しい行為。


 ボーン。ボーン。ボーン。ボーン。ボーン。ボーン。ボーン。ボーン。ボーン。ボーン。ボーン。ボーン。


 時を知らせる時計塔の鐘の音。
 郊外にあるこの住宅街はその景観整備の一環として、住宅街の真ん中に位置する場所にちょっとした公園を持ってきた。そこにはわずかばかりの遊具と、噴水。そして背の低い時計塔があって、それは一時間毎に時を報せる鐘の音を鳴らす。
 しかし少女は、誰もが聴き惚れるようにと、音の権威に依頼してまで作られたその鐘の音を嫌い、両耳を手で塞いだ。
 深夜24時の世界と、時計塔の鐘の音、そして吸血鬼である自分という取り合わせがあまりにも物語のままのようなシーンですごく心が苦しかったのだ。


 助けて…。たすけて。タスケテ………


 いっそうこのまま心を汚染していく吸血鬼の性に身も心も任せてしまえば、それが一番楽なのだろう。だけどそれは本当に嫌なのだ。自分が自分でなくなってしまう恐怖。それは計り知れない。そう、自分を無くしてしまいたくない。
「あたしはノージュ。ノージュ・ミラフィスなんだから」
 ノージュはともすれば折れそうになる自分を叱咤するようにそう呟いた。
 そしてそれは聞こえた。


「キャぁ―――」


 悲鳴だ。
 ノージュは耳を両手で塞ぐ。
 ノージュは元人間。
 ノージュは半吸血鬼。
 しかし【吸血鬼進行】はそこで止まっているわけではない。彼女の吸血鬼化は未だに進行中なのだ。
「人の想いが、あたしの中に流れ込んでくる。いやぁ、あたしは………これ以上吸血鬼になりたくない」
 そう、【吸血鬼進行】、それは人の想いがノージュをそうさせるのだ。ノージュが人の心、醜さ、性根に絶望したその時に吸血鬼化は進む。
 闇の中にたゆたう悲鳴の余韻。それは当然の如くノージュの中に入り込んでくる。だけどそれがノージュにもたらしたものは・・・・・
 最前まで確かにノージュの長い髪は月色の輝きを放っていた。しかしその色がまるでビデオの映像を巻き戻ししているように毛先から変わっていく。それは美しい蒼銀色へと。
「はあはあはあはあ……これは、醜い心じゃなく悲しみ?」
 虚空に空中停止ししていたノージュは己が身を自分の両腕で抱きしめた。まるで今、自分の中にあるその流れ込んできた想いを抱きしめようとするかのように。
 ノージュの【吸血鬼進行】。それは逆の場合もある。人間の醜い想いが彼女を吸血鬼に近づけさせるのなら、逆に、人間の生きる強さとか、悩みながら、苦しみながら生きる姿はノージュを人に近づけるのだ。
 あれだけ渇きに苦しんでいたノージュからはもはやその苦しみは消えていた。それはあの悲鳴の主の心が…ノージュの中に流れ込んできた心が、彼女を人に近づけたから。ノージュはその自分を人間に近づけさせた想いを感じる。


『わぁー、かわいい服』
『あ、ほんとじゃん。もしもよかったら買ってやろうか?』
『え、あ、いいの?』
『ああ。それにだって今日はおまえの誕生日だろう。だからさ、遠慮すんな』
『え、あ、そうか。今日、私の誕生日だ』
『って、おまえ、それ素で言ってんの? ばか』
『あははは。失敗。失敗』
 ――――本当に誕生日なんて忘れていた。だって、彼が自分以外にも数人の女の子と付き合っていると言う情報を教えられて、不安と哀しさで胸がいっぱいだったから。
『どうした?』
『ううん。なんでも無いの』
 ――――そう笑った。そう、何でもない。何でも。
 ―――――――――構わない。自分の他にも何人この彼氏が女の子と付き合っていても。だって自分はこの彼氏が好きだから。側にいられればそれでいいから。少なくとも今という瞬間は、この彼氏は自分の姿だけをその目に映してくれているから。


 だけど、徹底的な瞬間が来てしまったんだね、と、ノージュは自分の中にいる彼女に囁いた。透き通るような青い目から、涙を一滴零しながら。


 服を買って店を出た。
 その荷物は彼氏が持ってくれていた。とても優しい人。
 だけどその彼氏の携帯電話にメールが入って、
『あ、ちょっと悪い。電話するな』
『うん』
 彼は電話をかけた。そして携帯電話を切って、
『ちょっと、他の奴と会うことになったから、これでお開きな』
 ――――他の人って、女の子?
 自分の他にも女の子が何人いてもいい。自分が何番でもいい。だけど彼女は訊いてみたいという衝動に駆られた。そう想ったら堪らなくなってしまった。そして口に出た言葉。
『お願い。今日は私の誕生日だから、だからずっと一緒にいて』
 言ってしまってから、どうしようと想った。体ががくがくと震えた。だけど信じていたんだ、彼氏を!!! 
 ――――――――――――――――――――――――――だけど
『面倒臭い事言うなよ。また今度な』
 それで終わらされてしまった。
 気付いたら彼女は全然知らない街を歩いていて、そして・・・


『危ない!!!』


 という言葉が耳朶を叩き、目の前に車のヘッドライトの光が溢れて・・・・


 ノージュは泣いていた。彼女のために泣いていた。そしてその哀しい泣き声にあわせるように深夜の街にたゆたう冷たい夜気を震わせて、リュートの音色がどこかから聴こえてきた。
「これはリュートの音色?」
 ノージュは闇色の翼を翻し、幽玄なリュートの音色が聴こえて来る方へと飛んだ。そう、そこにはこの哀しい彼女もいるはずだと無意識に確信しながら。


 ――――――――――――――――――――

 そこは道路だった。その道路の真ん中で白のワンピースドレスを着た少女が倒れていた。その傍らに立つ、夜の闇から浮き出てきたような黒髪に紫暗の瞳の少女。その黒髪の少女はまるでレクイエムかのような音色をリュートで奏でさせながら、前髪の奥にある紫暗の瞳を動かせた。
 その視線の先に舞い降りるノージュ。
「あなた、何をやっているの?」
 ―――抑揚の無い声でノージュは訊いた。この異常な光景に心が彼女を警戒させていた。
 黒髪の少女はリュートを奏でさせる手を止めて、肩をすくめた。
「闇を調律しているの」
「闇を調律?」
「そう、あたしは闇の調律師だから。だからあたしはこの白のワンピースドレスに宿る報われぬ少女の想いと言う奴を調律しているの」
 黒髪の少女はそう言って笑った。
「・・・」
 ノージュは絶句する。
 そして彼女は、道端に倒れたままの少女を見た。
「なぁ・・・」
 ノージュはまた絶句する。彼女の青い色の瞳にはそのアスファルトに転がる少女がだぶって見えるのだ。それはつまり・・・
「白のワンピースドレスに宿る魂が、この娘の体を乗っ取っているの?」
「そう」
 黒髪の少女は頷いた。
「叶えられなかった想いを、果たそうとしていたのよ。自分が買ってもらったはずの…しかし平然と他の女に与えられたこの白のワンピースドレスに宿ってね。自分の体は病院のベッドの上で今も眠ったままだから」
 ノージュはいたたまれない想いにいっぱいになりながら顔を横に振った。そしてその少女の傍らにしゃがみこみ、彼女の頭を優しく撫でてやる。幼い子どものようにしゃくりをあげて泣きながら。
「辛かったね。苦しかったね。悔しかったね。だけどもういいんじゃない? もうやめようよ。あんなクズ男のためにあなたがそんな風に苦しむなんて、かわいそすぎるわ。だからもうおやすみ。戻りな、自分の体に。そして次をやりなおそう。新しい恋をして、その人の事をめいっぱい愛して愛されて、それで幸せになろうよ。うん、あなたみたいな美人さんで優しい娘があんな奴に縛られたままなんて悲しすぎる」


 それは優しい言葉。
 ――――心の奥底から紡がれたノージュの想い。少女への労わりに満ちた。


 だからこそ、それは頑なに閉じられた少女の心に届いた。


 ぼろぼろと少女の瞳から涙が零れた。
 その涙はノージュの瞳から零れ落ちそして少女の顔を濡らしていた涙と混じり合って伝い落ちていく。
 そしてその最初の一滴がアスファルトの上に落ちた瞬間に倒れたままの少女から、もうひとりの少女がすぅーっと抜け出て、宙に浮いた。
 ノージュはその彼女に優しく微笑んで、唇を動かす。


 がんばって、ね。


 そしてこくりと頷いた彼女はノージュと黒髪の少女に頭を下げて、消え去った。


 ぱちぱちとノージュの耳朶を拍手の音が叩いた。
 彼女は拍手をしている黒髪の少女を見る。
「すごいわね、あなた。あたしには調律と言う名の音によって無理やり彼女をこの少女から引き剥がす事しか方法が無かった。だけどあなたは違った。人を理解し、共感し、哀れみ、そして励ます。人が往々に望みながら…常にそうありたいと想いながらも、そう想う心の隙間から零れてしまうようなそんな想いをちゃんと胸に抱きながら、あなたは彼女に接した。だから彼女はその頑なに閉じていた心を開いた。あれだけあの男を殺す事しか…この少女も殺す事しか考えていなかった彼女をあなたは救えた。本当にすごいわ。あなたが求めるべき心を一番あなたが持っているのね」
 とても眩しいモノを見つめるかのように両目を細める彼女にノージュは肩をすくめる。
「そんなに褒められると照れるな」
 そして二人そろってくすくすと笑い出す。
「あたしは綾瀬まあや」
「あたしはノージュ。ノージュ・ミラフィス」
 朧月の下で、ノージュとまあやは握手をした。


 ――――――――――――――――――――

「それではこの服は当店で買い取らせていただきますので」
 ノージュはベッドの上にいる少女ににこりと微笑んだ。そして受け取った白のワンピースドレスをまあやに渡す。まあやはそれを紙袋に入れ、
 一方ノージュは、ベッドの上の彼女にお札と紙を渡した。
「それではこちらが代金と領収書になります。お確かめを」
「あー、はいはい。確かに。だけどほんと、助かっちゃう。それって男にもらった奴なんだけど、はっきり言ってわたしの趣味じゃないからさ、ほんとに困ってたのよね。しかも気付いたらその服着て、救急車に乗せられているし・・・」
 嬉しそうにお金を見ながらぺらぺらとしゃべっていた彼女は、そこでしまったという表情をして口を閉ざし、ノージュとまあやを見た。だけど蒼銀色の髪の下にあるその美貌も黒髪の下にある美貌も両方共がにこにこと笑っているので、彼女も愛想笑いをした。内心で、ふぅー、別に金を返せと言われないみたいね。やばいやばい。いらない服も処分できて、金も入って、大万歳だわ。あー、あの服は病院で治療される時にハサミで切られたとかと言っておけば、あいつも騙せるしね―などと想いながら。
「それでは失礼します」
「失礼します」
 ノージュとまあやは頭を下げた。そしてノージュが右手に白のワンピースが入った紙袋を持って、二人一緒に病院の廊下を歩いていく。
 その彼女らが足を止めたのは、前からあの男が歩いてくるからだ。ノージュはその彼を見つめる。
 ノージュのその視線に彼も気付いたらしい。彼は、図々しくもノージュが自分に一目惚れでもしたのだと想ったのだろうか。自身ではイケてるに違いないと信じて疑わない表情を浮かべて、ノージュの前に立って、そして口を開こうとして、
 その彼にノージュはにこりと微笑んだ。


 ぱぁーん。


 病院の廊下に景気のいい音があがった。
 ノージュに平手打ちされた右頬を押さえた彼は目を点にして、彼女を見つめる。
 一方ノージュは、
「あー、すきっりした。この勘違い男を殴れて」
 と、にこりと微笑むと、まあやに言った。
「これであたしは完全に気がすんだわ」
 そんな彼女にまあやは肩をすくめ、呆然としている彼の右頬に手を触れさせる。
「大丈夫?」
 その言葉に男は頷いて、
 そしてまあやもにこりと笑って、


 ぱぁーん。


 今度はまあやが彼の左頬を平手打ちした音の余韻も消えぬうちに、ノージュとまあやは顔を見合わせあって、そしてけたけたと笑いあうと、二人同時に両頬を真っ赤にした男に向って、


「「ばーか」」


 と、言って、立ち去っていった。
 ただ病院の廊下の真ん中で、両頬を真っ赤にした男だけが他の患者や看護士、そして見舞い客の好奇の視線の中で突っ立っていた。


【ラスト】

 雑貨屋【モノクローム・ノクターン】の店内には美しいリュートの音色が流れていた。
 ノージュは瞼を閉じてまあやが演奏する曲を聴いていたが、店の中にある品が騒ぎ出したのを感じて、瞼を開く。
「いらっしゃいませー♪」
 扉につけられた鐘が音色を奏でるのと同時にノージュは明るい声を出した。そして、店に入ってきたカップルに微笑ましそうな笑みを浮かべる。
 そして白のワンピースドレスを手に取った彼女に、ノージュはこの白のワンピースドレスは着る女性を守り、幸せにしてくれる品だと説明をするのだった。
 店内にはリュートの音に合わせて詠うようにしゃべるノージュの優しく明るい声が今日も軽やかに響いている。


 ― fin ―





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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】


2060 / ノージュ・ミラフィス / 女性 / 17歳 / 雑貨屋【モノクローム・ノクターン】の主人


 NPC / 綾瀬・まあや



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■         ライター通信          ■
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こんにちは、ノージュ・ミラフィスさま。
いつもありがとうございます。
今回担当させていただいたライターの草摩一護です。


【花唄流るる】綾瀬・まあやご指名ありがとうございました。^^
まずはノージュさんとまあやとの一番最初の出会いはこうだったようです。
力づくで白のワンピースドレスに宿り、そこから少女を操っていた哀しい少女の魂を、
その優しさで説得して、次なる一歩を前に歩き出させたノージュさんに彼女は、
好意を持ったようで。
一応僕の中では、綾瀬・まあやという人間はとてもクールで、本当にこういう場合でも、
闇の音を乱すなら、
自分の道を邪魔するならば、
平気で排除する人間ですから、ノージュさんのように優しく接して共感するという感情は無かったのでしょう。
そして実はご自分が一番それを【吸血鬼進行】を止めるために求めているのに、
なのにそれを自分が他者に与えられるその深さにも感銘を覚えたのでしょうね。
だからこそ生まれた友情だと想います。
本当に彼女に良き物語を送っていただき、ありがとうございます。^^


そしてどうでしょうか、ノージュさん。
プロットにあった幻想的でシリアスにというのとはちょっと違う出来になってしまったかもですが、
それでもノージュさんに楽しんでいただけてましたら、本当にそれは心の奥底より幸いでございます。
そして綾瀬・まあやとの相関は今回の物語に相応しくこちらからは友人にさせてくださいね。^^


それでは今回はここら辺で失礼させていただきます。
本当にありがとうございました。
失礼します。