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■花唄流るる■

草摩一護
【2182】【倉前・沙樹】【高校生】
【花唄流るる】

 あなたはどのような音色を聴きたいのかしら?

 あなたはどのような花をみたいですか?

 この物語はあなたが聴きたいと望む音色を…

 物語をあなたが紡ぐ物語です・・・。

 さあ、あなたが望む音色の物語を一緒に歌いましょう。



 **ライターより**

 綾瀬・まあや、白さん(もれなくスノードロップの花の妖精付き)のNPCとの読みたい物語をプレイングにお書きくださいませ。^^

『花唄流るる ― ワルツを踊る妖精 ― 』

 ひらひらと、ひらひらと、降るように舞い落ちてくる淡い薄紅の花びらの雨。
 春もまだ始まりの頃の夜とあって夜気はさすがにひんやりと冷たいけど、それでも同じ年頃の女の子六人でする会話は楽しいし、大阪弁の天狗さまのお話も面白ければ、ボケる彼とハリセン片手にツッコミ役をする彼女の掛け合いも面白い。そんな二人を見ていると本当に初々しいくって良いな、って想ってしまう。
 だけどそれは他の人から見れば私も同じで、やっぱりあんな風に私も初々しく見えているのであろうか?
 私、倉前沙樹は周りの空間をたゆたう花びらのようにきっとほんのりと薄桃色に染まっているのであろう頬を緩めて微笑んだ。
 

 そうして私は軽やかにワルツを踊る心臓の音色を聴きながら、憧れの人にそっと視線を送る。


 その視線の先にいる人……白さんは、スノードロップの花の妖精を左肩に乗せて優しい穏やかな顔で桜の樹に話し掛けていた。その唇の動きを見れば、綺麗な花を見せてくれてありがとう、と言っている。
 そして私はやっぱりそんな白さんを見てどうしようもなく、ああ、いいな、って想ってしまうのだ。
 圧倒的に落ち着いたその優しく穏やかな雰囲気は、私の体をそっと包み込んでくれるようで隣にいられるだけで本当にほっと安心できる。だから白さんの青い瞳に映る私の顔はいつも満ち足りた笑みを浮かべている。心臓が奏でる軽やかな音色に相応しいそんな優しい表情を。
 このままではちょっと心臓の音が聞こえてしまいそうなので小さく深呼吸してから私は立ち上がり、白さんとスノードロップちゃんがいる方へと歩いていった。そして白さんと並んで立つと、同じように桜の樹を見上げる。
 夜空には春のそれに相応しい朧月があるはずだけど、しかしその空は満開の薄紅の花をつけた枝によって隠されている。視界を覆う淡い薄紅の帳。その空間に舞う花びらの数は数の概念を超えていて・・・
 無限の桜の花びら舞う、夢幻の薄紅の嵐の光景。
 そんな息もつかせぬその艶やかな薄紅の世界の中で、綺麗な桜色の着物を着た女性が現れて、舞を踊りながら詩を詠う。


『さあ、一夜限りの花を咲かせましょう』
 花が散っていくそばからまた枝には蕾がつき、花が開く。
『ワタシのために集まってくれた人たちの心の中に確かな記憶となって、
 いつまでもいつまでもいつまでもワタシが咲いていられるように』
 私と目を合わせたその人はにこりと笑う。その目に私はどきりとした。だってその目はとても強い意思の光を持っていたから。
『桜は人の心の鏡。
 あなた方が優しい気持ちをワタシに見せてくれるから、だからワタシは優しく咲けるのです。
 桜は人の心を養分にして咲く。
 あなた方が優しい気持ちをワタシにくれるから、だからワタシは優しい花を咲かせられるのです。
 そのせめてものお礼として、今一度ワタシは花を咲かせましょう。舞わせましょう。
 優しさという名の花を。優しいあなた方に出逢えたからこそ咲かせられるワタシだけの優しい花を』
 ひらひらひらと、ひらひらと、それは無限に咲き続け、そして無限の花びらを舞わせる。


 ワタシは夜の世界に咲かせる。ワタシだけが咲かせられる優しいあなた達のための美しい薄紅の花を。


 夜の桜の園に、世界がする呼吸かのような一陣の強い風が吹き、そうして今までよりも更に淡く美しい薄紅の花を咲かせた桜の樹は、その花びらを夜の空間に舞い上がらせた。
 ひらひらとひらひらと降るように舞い落ちてくる桜の花びらの雨に打たれながら私は桜の樹の幹にそっと触れる。手に伝わってくる優しい樹の温もり。感謝に満ちた心。私はその想いをそっくりそのまま桜の樹に返す言葉を紡ぐ。


 桜の花は心の鏡。だけどそれは人のこころも同じ。


「ありがとう、はこちらの言葉だよ。本当に今夜は綺麗な花を見せてくれてありがとう。私は決して今夜あなたが咲かせて見せてくれた淡い薄紅の花を忘れません。本当にありがとう。綺麗な花を」


 ありがとう。


 ざぁーっと枝が鳴ったかと想うと、私の頭上にある枝から舞い落ちてきた桜の花びらは私を抱きしめるように包み込んでくれた。私にはその花びらの温もりが確かに伝わった。
「温かい」
 そうして私は桜の花びらに包まれながら視線を、私の隣でその優しい青い目に私の姿を映してくれる白さんに向ける。にこりと笑う白さん。その笑みにとくん、と心臓が軽やかに脈打つ。
「白さん」
 隣に立つ白さんを視界に映した瞬間から心臓が奏でていた音色がもう少しだけ早くなる。私の体を硬くさせる心地良い緊張感。顔が熱い。この心臓の音色が白さんに聞こえてしまわないように私は、少し早口に言葉を紡ぐ。
「桜、綺麗ですね。本当に」
 ――――私と白さんの間にある空間を淡い薄紅色の花びらと一緒に私の言葉で埋めてしまおうとするように。
「ええ、本当に」
 白さんの声。それはこの時期に吹く春の涼風のように軽やかに私の心の扉を開けて、奥深い…大切な感情をしまうための部屋に入り込む。だけど私はもちろん、それが嫌じゃない。すごく嬉しい。そんな幸せな想いを感じながら、私は青い瞳を見つめるのだ。その優しい澄んだ穏やかな瞳を。
 降る桜の花びらはそんな私の心を敏感に感じ取ってくれたのか、その落ちるスピードを緩めて、空間で緩やかなダンスを踊る。それは私の心臓が脈打つテンポにあわせたかのようなかわいらしいワルツのように見えた。
 そしてそんな桜の花びらと一緒にワルツを踊るのは、先ほどまで白さんの左肩に乗っていたスノードロップちゃん。彼女は軽やかに一枚の桜の花びらを相手にワルツを踊っては、丁寧にお辞儀をして、そうして次々に彼女にワルツを申し込んでくる桜の花びらたちのお相手をしている。
 私はそんなかわいらしいスノードロップちゃんの姿に微笑ましい気持ちになり、そうして隣の白さんと顔を見合わせあって、またくすりと笑いあった。
「楽しそうですね、白さん。スノードロップちゃん」
「ええ。彼女は踊るのが好きですから」
「あ、そう言えば、初めてスノードロップちゃんと出逢った日も、彼女、楽しそうに踊っていました」
「ああ、そうでしたね。そしてあの日もこうやって僕と沙樹さんは淡い薄紅の花びらに包み込まれながら、スノードロップのワルツを見ていたのですよね」
「はい」
 優しく微笑んだ白さんに私は幸せいっぱいに頷いた。だって嬉しかったから。大切な思い出の共有が。
 そう、あの日もこうやって私は白さんと一緒に並んで空間舞い飛ぶ桜の花びらを見ていた。


 ざぁーとまた枝が風に揺れて奏でる音を聴きながら視界に映る薄紅の色に私はあの日の事を、その視界に映る色のように鮮やかに思い出した。


 ――――――――――――――――――――

 3月も半ばになるとまだ風はほんの少し強く肌寒いが、それでも空気には春の香りが混じりだすし、それに所々にも春の使者が姿をあらわしている。
 私はアスファルトに咲くたんぽぽを一輪見つけて、にこりと微笑んだ。
「とてもかわいく咲けたね」
 そう声をかけると、たんぽぽはくすぐったそうな声で『ありがとう』と言った。そう、私は植物の声が聞こえるのだ。その力は一体どれほどに私を助けてくれただろう?
 霊を見、寄せ付けてしまう体質。その力が上手くコントロールできなかった幼い頃は泣いてばかりいた。それこそ心が壊れてしまうぐらいに。
 それでも私がギリギリの場所で、私でいられたのは、それは、


『沙樹。おはよう。すずめたちが教えてくれたのだけど、3丁目で綺麗なユキヤナギが咲いたそうだよ』
『おや、沙樹。今日はひとりなのだね』
『沙樹。蓮や蘭たちは元気? またあの子たちのお話をしておくれね』


 そう、それはそうやって優しく私に植物たちが語りかけてくれていたから。それが私の心を繋ぎとめてくれていた。確かな絆という力で。だから私は植物が好きなのだし、それに……
「あれ? あれはなに?」
 先ほど、松の木が教えてくれた3丁目のとある家の前に来た私は不思議なモノを見た。
 視線の先にあるのは見事に花を咲かせたユキヤナギ。それは本当に我が家の庭に移したいぐらいにすごくボリュームがあって、まるで噴水かのようで、すごく見ごたえがあるのだけど、しかしそのユキヤナギの周りをひらひらとワルツを踊るように飛行している何かがいるのだ。
 まず最初に感じたのは、幼い頃から見てきたモノかも…という考えだったが、だけどひらひらと飛んでいるソレに私は別段胸が張り裂けそうになるぐらいの嫌な感情は受けはしなかった。
 だから私は・・・
「何だろう、鳥? 虫?」
 と、その家の門の前まで歩いていって、目を凝らした。するとその時、
「あっ」
「ひゃぁ」
 それと目が合った。
 その瞬間、それは思いっきりその小さな顔に驚きの表情を浮かべて、そして花の噴水、とよく言い例えられるユキヤナギの枝々の中に潜ってしまった。
 そして私はというと、
「今の…妖精だよ、ね。わぁー、妖精さんって本当にいたんだぁー」
 その素敵な出会いに私は感動して胸の前で手を合わせて歓声をあげてしまう。どうしよう? 随分と驚いてしまっているようだからもう姿を見せてはくれないだろうか?
「うーん、なんとかお友達に・・・」
 何とかもう一度姿を見せてくれて、そしてお友達にはなれないだろうか? などと想いながらユキヤナギを見つめていると、多摩川の水からタマちゃんがひょっこりと顔を出すようにユキヤナギの花を咲かせる枝々の間からひょっこりとその妖精が顔を出した。そしてかわいらしいどんぐり眼を更に大きく見開いてじぃーっと私を見ているのだ。
(わわ。こっちを見てる)
 私は慌てながらもそれを顔には出さずに主演女優賞ものの演技で、落ち着き払ったお姉さんを演じる。にっこりと余裕のある優しい笑みを浮かべて、
「こんにちは」
 と、声をかけた。
 するとその妖精も周りのユキヤナギの花に負けないぐらいに愛らしい笑顔を浮かべる。
「こんにちはでし」
 すぅーっと透き通るような青い空に手の平を向けた両手を門の上からユキヤナギの方に伸ばすと、その妖精は、心得ているように飛んできて、ちょこんと私の手の平の上に正座して座ってくれる。私は引き寄せた両の手の平の上の彼女に向けた顔ににこりと微笑み、そして彼女もえへへと笑う。自然に顔が綻ぶ。とてもかわいい。
「私は倉前沙樹。あなたはユキヤナギの花の妖精?」
 確かユキヤナギの花言葉は愛らしいだったはず。それはなんともこの彼女に相応しい言葉ではないか。だけど彼女はぶんぶんと顔を横に振った。
「違いますでしよ。わたしはスノードロップの花の妖精でし。花言葉は希望でし♪」
「わわ。ごめんなさい」
「いえいえ。全然かまわないでし。虫に間違われなければすべてオールOKでし♪」
 右手の伸ばした人差し指一本をメトロノームのように左右にリズミカルに振った彼女に私はこっそりと最初に虫? と口に出した事を心の中で謝りつつ、
「ねえ、あそこで何をしていたの?」
「ユキヤナギさんと遊んでいたんでし♪」
「そっかー。すごく楽しそうにワルツを踊っていたよね」
「はいでし。ワルツにダンス、バレー、阿波踊り、なんでもOKで、末はブロードウェーで踊るのが夢なんでしよ♪」
「そっかー。叶うといいね」
「はいでし。ただ・・・」
「ただ?」
 小首を傾げると、スノードロップちゃんは両手でお腹を押さえた。
「踊るのはすごく楽しいけどお腹が空くでし」
 そのあまりものかわいさに私はくすくすと笑ってしまった。
 そして鞄の中に丁度タイミングよくあれを入れている事を思い出す。
「ちょっと待ってて」
 スノードロップちゃんを家の塀の上に乗せた私は、鞄から取り出した紙袋の中に入れておいたクッキーを取り出して、それを彼女に渡した。
「うわぁーーー。うささんのクッキーでし♪」
 顔をくしゃっとさせて喜ぶ彼女に、私もすごく嬉しい気分になる。
「えっとね、こっちがハーブ味で、こっちがココア。それでこれがコーヒーなんだけどどれがいい?」
「全部食べるでし」
「コーヒーは大丈夫?」
「はいでし。よく飲んでるでしよ♪」
 なんとなくその愛らしい姿から幼い子どもを連想してしまう私は彼女がコーヒーを飲める事を聞かされて少々驚きながらもうさぎの形にして焼いたクッキーをひとつ彼女に渡した。
 それを両手で抱え持つ彼女は、大きく口を開けて・・・
「うぅ」
 だけど、クッキーを口に頬張る寸前のところでその動きを止める。
「どうしたの?」
 やっぱりコーヒーは早すぎるのかしら? コーヒーを飲んでいると言っても、アメリカの子どもが飲むようなミルクたっぷりのお子様向けコーヒーの可能性は充分あるわけだし。
「うぅわ。えっと・・・うささんがなんだかかわいそうで食べれないでし」
「えっと・・・あの」
 ・・・私は思わず目を瞬かせてしまう。そしてやっぱり堪えようとしても堪えきれなくって、ぷっと吹き出して、軽く握った拳を口元にあててくすくすと笑ってしまった。
 見れば彼女は両手でうさぎのクッキーを抱え持ったままぷぅーと頬を膨らませている。そんな彼女がやっぱり本当に愛らしくって私はまたくすくすと笑ってしまった。
 そしていつの間にかスノードロップちゃんもクッキーを持ってくすくすと笑っているのだ。
「ごめんね。こっちにしておけばよかったね」
 私はハート型にくり抜いて焼いたクッキー(ハーブ味)を彼女に渡した。今度は彼女は美味しそうに食べている。
「沙樹さんはこんな美味しいクッキーを持ってどこに行く予定だったんでしか?」
「ん? あのね、散歩しながら近所にある野原に行ってお花や木とおしゃべりをした後に知り合いのお店に行って、そこでもらった蘭…猫の写真を見せようと想っていたのよ。このクッキーはその時に渡そうかなって。ああ、大丈夫だよ、スノードロップちゃん。まだいっぱいクッキーはあるから」
 思わず自分の食べかけのクッキーを見て固まった彼女を本当に愛らしく想いながら私は顔を横に振った。
「ねえねえ、沙樹さん。その猫さんの写真、わたしにも見せてくださいでし」
「ん、いいよ」
 ぱんぱんと手を叩いてクッキーの欠片を落としている彼女(ちょっとその小さな体に500円玉ぐらいの大きさのクッキーがぺろりと入ってしまった事に驚いてしまう)に鞄から取り出した写真を見せた。
「うわぁー、かわいい猫さんでしねー」
「うん。こっちが蓮で、こっちが蘭。すごくかわいいでしょう。この子たちはお友達なんだよ」
「ほぉわぁー。わたしもお友達になれるでしかね?」
「もちろん。こんなにもかわいいスノードロップちゃんですもの。すぐにお友達になれるよ」
「うわぁー、嬉しいでし」
 そして私はもう一枚クッキー(今度はココア味)を渡して、それを食べる彼女に蓮と蘭のかわいらしさを力説した。
 それをにこにこと聞いてくれていたスノードロップちゃんだが、おもむろに、
「あっ」
 と、声をあげると、
「ちょっち待っててくださいでし、沙樹さん」
 と、言って、飛んでいってしまった。
 私はちょこんと小首を傾げると、視線を彼女が飛んでいった方に向けた。そこにいたのは・・・
「・・・白さん?」
 そう、そこにいたのは白さんだった。樹木のお医者様であり、そして優しく穏やかなその人柄に憧れの想いを抱いている私は、その予想外の展開に嬉しいのだけど困ってしまう。
(あわわわ。心の準備が)
 私は素早く服装をチェックし、髪も手で揃えた。それでも恥ずかしくって、ちょっと顔を俯かせてしまう。
(に、逃げ出したい)
 溢れ出てくるくるりと180度半回転して、走り出したいという衝動を必死に押さえ込みながら、私は目の前に立った白さんに子どもみたいな上目遣いの視線を送った。その視線の先にいる白さんはにこりと微笑んでくれる。
「こんにちは、沙樹さん。スノードロップが色々とお世話になったようで、ありがとうございます」
「ございますでし」
「あ、いえ、そんな」
 ぺこりと頭を下げた白さんに私は顔を横にぶんぶんと振った。
「白さん、白さん、それにしても沙樹さんのクッキーは本当に美味しかったんでしよ♪ もうきゅーっとほっぺたが落ちそうになるぐらいに美味しいんでし」
「それは、僕も食べてみたいですね」
「え、あ、あの、それじゃあ、もしもよかったらまだたくさんあるのでどうぞ」
 私はクッキーが入った紙袋を白さんの前に差し出す。
「それじゃあ、おひとつ」
 白さんはコーヒー味のクッキーを手にとって、口に入れた。そしてにこりと微笑む。
「うん。これは美味しいです」
「うわぁー、本当ですか。ありがとうございます。あ、まだあるんでよかったらどうぞ食べてください」
「それじゃあ、もう一個」
「あ、わたしにもくださいでし」
 そのまま私達は道で談笑するのはちょっと、という事で近くにある公園に移動する事になった。
 その道すがら私はきっと耳まで真っ赤になっているのであろう事を自分でも認識しながら左肩にスノードロップちゃんを乗せて憧れの白さんとおしゃべりをする。それは本当に他の人が聞いたら他愛も無い会話だったのかもしれないけど、その後数日は何度も頭の中でリピートしては微笑むであろう事間違い無しの私の大切な想い出の一つ一つとなっていくのだ。
 そこの公園はここら辺でも多品種で植えられている四季折々の花々が綺麗な事で有名な公園で、そこの敷地を走る遊歩道にはそれに沿って桜が植えられているし、6月頃には花しょうぶが綺麗に咲く池のすぐ近くには桃の木が植えられている。それらの花が目当てで、私もよく散歩にはここまでやってくるものだ。
「あ、白さん、桃の花が綺麗に咲いてます」
「そうですね」
 にこりと微笑む白さん。
 だけど私の視界の隅で…左肩に乗っているスノードロップちゃんは小首を傾げている。
「どうしたの、スノードロップちゃん?」
「なんかおかしくないでしか? あの桃の木たち?」
「え?」
 私は彼女のどんぐり眼が見ている方に視線を向けた。別段おかしい点は・・・
「あれ?」
 小首を傾げる私。確かに皆綺麗な桃色の花を咲かせているのだけど、しかし確かに違和感を感じるのだ。だけどどこが違うのか答えろ、と言われてしまうと正直その返答に困ってしまう。
 私とスノードロップちゃんは二人揃って白さんを見つめた。ほんの少しその銀色の髪の下にある顔に憂いの表情を浮かべている白さんは私達の視線に気が付くと、にこりと微笑んで、一本の桃の木を指差した。
「彼がその違和感の元です」
「え?」
 もう一度目を凝らしてその桃の木を見つめて、そして私は、
「あっ」
 と、声をあげてしまった。
「あれは桜の樹?」
「はい、そうです」
「え、あ、でも桜はまだ先でしよ?」
「ええ。でも咲いてしまったんです、彼は。桃の花のふりをして」
「どうしてでしょう?」
「わかりません」
 白さんは顔を横に振った。
「ただ、それでもあの子の話は聞かないといけませんね」
 そして白さんはいつも通りに優しく話し掛けた。だけど、どうした事か、その子は頑なに心を閉じて、白さんと口を利こうとはしない。
 私とスノードロップちゃんは思わず顔を見合わせあってしまう。
「どうしたんだろうね?」
「でしね?」
 その時、


 ざぁざぁざぁーーー


 桃の木がたくさん植えられた園を風が渡り、枝が音色を奏でた。当然、頑なに心を閉ざしている桜の木もその枝を風に震わせるわけで・・・
 ――――そして私は確かにその桜の木の枝が奏でた音色をどこかで聴いた事がある気がして、
(あれ、今の音・・・)
 と、想った瞬間に記憶のパズルのピースが一気に組み合わさり、それでその桜の樹がなぜに今咲いているのかがわかった。
「そっか。そうだったんだね」


 幼い頃の私と同じなのだよね。
 ――――ひとりぼっち・・・ひとりだけ違うのは嫌だよね。だけど・・・・・・・・


 私はそっとその桜の樹に触れる。幼い頃の私と同じ心の声をあげている桜の樹に。
「沙樹さん?」
「しぃ。静かにしてましょうね、スノードロップ」
 ちらりと見た先で、白さんは優しく微笑みながら頷いてくれる。
 そして私はそんな白さんにこくりと頷いて、言葉を紡いだ。
「あのね、あなたは桜。桜の樹なのよ。桜が咲くのはまだもう少し先。今は桃の花が咲く季節なの」
 その私の声に、桜の樹が震えた。
『だ、だけど、皆が言うんだ。ここに来る皆が・・・。どうしておまえだけ、咲いていないの? って。だから僕・・・』
「そっか。それで焦ってしまったんだね。だけどね、そんなの気にしないで。確かに周りは桃だからあなただけは取り残されて咲けないかもしれないけど、だけどもう少し季節が進んで春となったらあなたは美しい淡い薄紅の花を咲かせるの。それはその季節に咲けるからそうなんだよ。だから焦らずにその時を待って。桜梅桃李、桜には桜の、梅には梅の、そして桃には桃、李(すもも)には李の美しさがある。今は桃が周りで綺麗に咲いて、だけどあなただけは桜だから咲けなくて、それにとても焦るだろうけど、だけど本当に時が来ればあなたは綺麗に咲けるから、だから今はその時のためにそっと力を取っておこう。焦らなくてもいいんだよ。自分のスピードを大切にしていいんだよ」
 私はぎゅっと桜の樹の幹に手をまわして、そして呟いた。


「絶対に大丈夫。あなたは咲けるから、だから今は焦らないで、いつか本当のあなたの花を咲かせて。自分のスピードで歩けばいいんだよ」


 その瞬間にぱぁっと、その樹の枝に咲いていた桜の花びらが舞い散った。
 それはとても鮮やかで淡い…そしてとても物悲しく…だけどどこか次への希望に満ちたそんな薄紅の色を持ってひらひらと虚空を舞い落ちる。
「うわぁー、綺麗でしぃぃぃ――――」
「ええ、本当に」
 そして私は白さんと並んで、その舞い散った…ほんの少しだけ焦って咲いてしまった桜の樹の花の花びらと嬉しそうにダンスを踊るスノードロップちゃんを見つめていた。そのダンスが桜の樹を励ますような優しさを持ち、そして桜の樹の次への希望に満ち溢れている想いを代弁するかのように見えるのはきっと私の気のせいではないだろう。


 だってスノードロップの花言葉は・・・希望だから。


 そして意識をその想い出から現実に向けた私は、薄紅の帳から隣の白さんに視線を変えた。
「白さん。私、今日、あの桜の樹を見てきたんです。とても綺麗な花を咲かせていました」
「そうですか。それは本当によかった。それもすべてあなたのおかげです、沙樹さん。優しいあなたがいてくれて本当に良かったと想います」
「はい」
 私はその言葉ひとつで本当に幸せになりながら、白さんに頷いた。
 そうして私はまた、希望と言う言葉がよく似合うスノードロップちゃんを見つめて、彼女に賞賛の拍手を贈るのだった。


 ― fin ―




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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】


 2182 / 倉前・沙樹 / 女性 / 17歳 / 高校生


 NPC / 白・―


 NPC / スノードロップの花の妖精



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■         ライター通信          ■
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こんにちは、倉前・沙樹さま。
いつもありがとうございます。
今回担当させていただいたライターの草摩一護です。


『花唄流るる』白さん&スノードロップの花の妖精ご指名ありがとうざいます。^^
沙樹さんは植物と会話できるとの事でしたので、少しプレイングとは違う展開にさせていただき、
白さんの助手のような事をしていただきました。

あの桜の樹は周りで桃の木がどんどん咲いていっているのに、自分だけが咲けない事を焦り、恥ずかしく想い、
それで無理やり桃のふりをして咲いているという設定です。
そして沙樹さんの一番最初のシチュノベを読ませていただき、その見たくないモノが見えてしまって、
子どもゆえの酷い事を言われていたシーンから、
ああ、だからこういう沙樹さんなら、きっとこの桜の樹の事を誰よりもわかってあげられるのだろうな、
と思いこのようなシナリオにさせていただきました。
プレイングにあったほのぼのとした感じが全体的に出ていればいいと想います。^^


そして白さんとの触れ合いですが、本当に初々しい感じが出ていれば嬉しいですね。
沙樹さんは白さんに憧れているという事でしたので、
めいっぱい白さんを意識して心地良い緊張感や嬉しい戸惑いを沙樹さんに感じていただいたのですが、
そういう雰囲気、気に入っていただければ幸いです。


あとはスノードロップとの触れ合い。こちらはもう本当にただただスノードロップのかわいさ&ボケを強調し、
沙樹さんに楽しんでいただく事だけを念頭に書きました。
プレイングにあった彼女に関するお言葉は本当に嬉しかったです。^^
どうもありがとうございました。
あのようなお言葉は本当にライター冥利に尽きるのですよ。^^


それでは今日はこの辺で失礼させていただきますね。
本当にありがとうございました。
失礼します。