■零とエヴァ4:Dead or Alive■
滝照直樹 |
【2181】【鹿沼・デルフェス】【アンティークショップ・レンの店員】 |
姉の零や色々な人と楽しい事に参加することで心が変わっていくエヴァ。しかし、彼女の鎖は取り払えなかった。
―――最強であるため。
―――あの苦しみを救えるのは戦いだけ。
―――私は兵器なのだ。
それに彼女は虚無の境界の一員として存在している。霊鬼兵でも自由意志はあるが、組織からの命には従わなければならない。
楽しいかった日々を思い出すと同時に霊鬼兵になる前の「怨念の記憶」
葛藤する中、彼女は決意した。
「決まったかね?零は危険だ。虚無が立派な組織の一員になることを望んでいる」
忌屍者屍術師の声が聞こえる。
「言われるまでもないわ」
彼女は、そのまま歩き出した。
―――私は姉さんみたいにはなれない……。
真夜中の港に運命の姉妹がいる。
「何故?まだ分かってくれないの?」
零はエヴァに説得を続ける。
「姉さん……戦って……」
「どうして!?意味がないのよ!戦っても!」
「意味がある……それは同じ霊鬼兵。そう……私たちは兵器なのよ!」
エヴァは涙を浮かべていた。
「そんな……それは……ちがう。絶対に……」
まだ説得を試みようとする姉の零。
しかし、エヴァは虚無の境界の戦闘結界を念だけで張った。
この戦いを見届けるため、そして邪魔する者を止めるために傭兵のファングが立っている。
「この戦いを邪魔するなら…俺が相手するぞ?」
獅子の傭兵の後ろにもう1人薄暗い影が存在しているようだ。
「……エヴァ……私、悲しいわ」
零は手に怨霊を集める。避けられない運命なのか?
「……いくわよ……姉さん」
涙ながらにエヴァがかけだした。
―――この戦いを止めることは出来るのか?
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Dead or Alive
【0.決意と悲しみ】
エヴァの哀しき決断。
見届けるために傭兵と三滝が、あなたの行く手を阻んでおり、その場は緊張に包まれていた。
【1.立ち会うもの、阻もうとするもの】
此処に集まった者は、元からの立会人を除いて零やエヴァを親友や大切な人と思っている。しかし、彼女の決意を尊重するものと、間違っていると訴える者とが別れてしまった。
戦いの前に、榊船亜真知は条件を出した。
――この戦いに勝った者が、敗者を好きにする。
此には、虚無の境界側である三滝は承諾した。傭兵ファングはあくまで戦いの立ち会い故、反論することはない。
驚くべき事は、亜真知がファングの隣に立っていることにある。
「この勝負に手を出す人は、例え友人でも容赦しません」
此は、その場にいる鹿沼デルフェスや夜城将清、トール・ウッドは驚いた。
「何故ですか!意味のない事ですわ!」
デルフェスが反論しようも亜真知は答えない。
「デルフェスさん、エヴァの決意は固いのです……。立ち会いに水を差すことは彼女を侮辱することになります」
隠岐智恵美がデルフェスを説得する。彼女の声にも悲しみが浮かんでいる。
夜城は戦闘してでも阻止したかったが、亜真知の存在で計画が狂ったと、唇を噛んでいた。
子供のトールが叫ぶ。
「ねぇ!エヴァ!零を殺してどうするの?」
と。
しかし、エヴァはこういった。
「零を殺し、“霊鬼兵最強”と言う名を手に入れた時、更に強い相手と戦い続けるまで。私は生まれた理由が其れよ」
「そんな虚しい生き方が楽しい?」
「……もう、そんな感情はないわ。元から私は兵器なのだから。当然の事よ」
「今のままではだめなの?」
泣いている少年に、エヴァも零も唇を噛んでいる。
「駄目……。アレは夢なの。私は自由意志を持っていても、虚無の境界のメンバーよ。其れが使命なのだから」
それ以上、トールは泣くしかなかった。
「そんなの嫌だ!そんなの嫌だ!」
駆け寄ろうとするトールを夜城が止める。
「まて! いまお前が言っても、3人相手じゃどうすることも出来ない!」
唇から血が出ているほど夜城はいま、自分が如何に無力なのかを思い知らされた。
戦力差からして、分が悪いのだ。異常な魔術をもつ屍術師と、金の獅子。さらに止めると思われた神が立ち会い側に立ったことだ。幾ら、夜城とデルフェスが向かっていっても無理がある。見た限り、智恵美も静観することにしている。
「くそっ、エヴァさん……貴女は間違っている……」
拳を握りしめ、戦いを見届けるしかなかった。
亜真知が時空固有結界を張る。此により被害を最小限に止めるそうだ。そして三滝が“観客”に向かって何かを唱えた。
「力の障壁ですか?」
「左様。ギャラリーに怪我をさせるのは我とて気分が悪い。それに……此でほぼ邪魔は出来まい」
「……そうですか」
三滝が出した魔術は、物理干渉遮断の力場だった。此は力業や下級魔術での解呪は不可能である。純粋に魔術の分解か最上級解呪、転移魔術、エーテル状態による“力場の隙間”からの脱出しかないのだ。
ファングが、
「開始だ……」
と、感情の無い声で戦いの始まりを告げた。
その時に、怨霊が飛び交う恐ろしい地獄の風景が始まった。
【幕間1】
固有結界外から、黒マントの男が霊鬼兵姉妹の戦いを観ている。
「戦いは……避けられなかったか」
男はこの“空間”が何かに変わるときが、自分の出番と言う感じで愛剣『パラマンディウム』を召還した。
「最大奥義を使うときが来るとはな……」
すでに彼はある女性の連絡で、全ての支度を整えていた。あとは、「戦いを止めたい」者の気持ちをくみ取り、“手を貸す”ことだけだ。其れが彼が出来る事だけである。
「“娘”にはジト目で見られるが、仕方あるまい」
彼は苦笑した。
【2.霊鬼兵の戦い】
姉妹の戦いは同質。差があると言えば、エヴァには虚無の境界から教わった呪術と戦闘技術を持つことだ。術を高速展開するよう、零を囲んで攻撃する。分身術、目くらましなど多彩だ。純粋に怨霊を使役するだけの零は苦戦する。しかし、疲労もないし一寸した怪我でも、彼女たちは回復する。霊力を糧として霊力で生きている霊鬼兵、半永久機関、戦いはほぼ永遠に続く。
しかし、其れはただの兵器ならだ。
彼女らには心がある。人と同じように心があるのだ。若干異なるだろうが元は人間の魂。量産型霊鬼兵には殆ど其れはない。
「迷いがあるな」
ファングが言う。
戦いに身を置く者なら分かる、攻撃の甘さだ。
「このままでは永遠に続くだろうよ」
三滝は感情もなく言った。固有結界で外で何が起こっているのか分からないが、そんなに気にする事もないようだ。
「亜真知さん!此を解呪して下さい」
「お願いです!」
力場に囚われている、夜城達が叫ぶ。
しかし亜真知は、首を振って拒否した。
自分は立会人。余計な事はしては行けないのだ。戦闘開始前に言った言葉を貫く。
しかも、この戦況で障壁を解呪すれば、デルフェスや夜城、智恵美は大丈夫だろう。しかし、霊能力のないトールは、“怨霊”に冒されるだろう。
夜城は何とかこの障壁を壊せるかどうか考えた。
港なのだからどこかに金属の隙間があるはず。それを“錬成”で変化すれば、この障壁が破壊できるかもしれないと。銀を粉末にして、障壁解呪後の防護壁を展開し、考える。
デルフェスは、自分のプライドを捨てて、障壁を殴る。しかし見えない壁はびくともしない。
「換石の術も届かない……わたくしは無力なのでしょうか……」
「隠岐さん、何か言って下さい」
「……」
智恵美は何も答え無い。悲しみの目を2人に向けるのみ。
「くそ!」
夜城は苛立った。地面に“鉄”を見つけたが、どうもこの障壁は外界からも別の意味で“切断”されているのだ。
延々と続く、避けられない戦いを見ているだけしかないのか。
「其れは違う……榊船の行動は正しいかもしれない……でも、やっちゃ行けないんだ」
トールは泣きながら言う。
残念ながらまだメイドロボ零式は完全修復されていない。単身で彼はきたのだ。
魔術、呪術には疎い子供だが、機転だけは天才だ。神秘学を知らない代わりに、科学でもってこの障壁を壊すと決めた。小型の電磁波による物質分解銃(形状はスタンガン)を取り出す。元は零式のアタッチメントから考えついた物だが、其れを最大出力で障壁に放った。
「痛っ!」
はじき飛ばされるトールをしっかり智恵美が抱きかかえた。
「無茶をしては駄目です」
「でも!でも!止めなきゃ!あの戦いは無意味だよ!」
トールは泣いた。
障壁には少し傷が付いたかと思うとすぐさま修復された。分解銃は完全に焦げ付いている。
「無駄だ我が呪文を解呪出来るのはそこの星船の化身と我、我と同じ“魔法”を扱う者ぐらいだ」
と屍術師が振り向かずに言っている。
睨む夜城にデルフェス。
其れを静観している智恵美は、壁にもたれかかる。
「本当に助けたいのですね?」
「当たり前ですわ!」
「そうでなきゃ、此処にいない!あの3人の攻撃を喰らっても止めないと行けない!」
智恵美の問いに、デルフェスと夜城が叫んだ。
「わかりました……。エヴァも良い友達を持ってよかったですね。合図を送ります。その時、全力を尽くし、2人を止めて下さい」
智恵美の言葉にウソはなかった。
夜城とデルフェスは頷いた。
戦いの空間内は完全に怨霊に支配されていた。
【3.合図】
“何か”が、空間外から入ってきた。
「!?」
亜真知は直ぐに固有結界を変換し、その侵入者に浄化封滅陣をぶつける。
しかし……
「え!?父様?」
理力攻撃の手応え無く、術はかき消されていたのだ。しかもその侵入者は自分がよく知っている人物……神だったのだ。
不意を打たれた亜真知、そして、
――すまんな、娘。頼まれた仕事何でね。
大きな神格の発動で、ファングや三滝はそちらを見てしまった。
「馬鹿な!神の介入だと!」
「今です!」
智恵美が“分解術”を障壁にかけた。塵のように霧散する。怨霊が襲って来るも、夜城の対悪霊結界が皆を庇っている。智恵美自身はトールを庇い、怨霊を退散させていった。
そのまま隙を見せた3人の横をデルフェスと夜城は走る。周りには金属で生成した金竜数頭。
流石、大きな力を見せられ不意打ちされた三滝と亜真知は動けなかったが、傭兵はそうではなかったようだ。
獅子の豪腕が、2人をなぎ払う。
しかし、デルフェスが身体を張って、豪腕を止める。デルフェスは頑丈であるが流石に力負けし、はじき飛ばされた。
「きゃぁ!」
「くそぉ!」
夜城がそのままファングの攻撃範囲から逃れた。
しかし、次の反応の早さは神速の三滝と亜真知。2人の容赦ない魔術と理力が彼を襲う。夜城はあらゆる術を簡易発動を持って展開し、魔法の矢を風で受け流し、金竜で純粋理力の弾丸を受け止めた。しかし数発身体に命中し、血を吐く。
「興を殺ぐ愚か者が!お前に死を与えん!――大いなる死…」
三滝は瀕死の夜城に呪文を成す仕草である指を指そうとする瞬間、その腕が飛んだ。
「何!?」
其れは夜城がブーメラン型にした真空刃が三滝の腕を斬ったのだ。
「人間めぇ!」
三滝は、紅き目で夜城を睨むが、ファングが制止する。彼は、状況を把握したのか、ため息をついていた。
「戦いは中断だ……いや終わった。エヴァを想う者達の勝利よ」
「デルフェスさん」
「デルフェス?」
デルフェスは運がよかったのか悪かったのか、零とエヴァが戦いっている真ん中まで吹き飛ばされていた。
流石に何度も傷を負っているためか、素体のミスリルの劣化が激しい。おそらく夜城の隠し能力の副作用……金属系を変成させる……事もあるのだろうか。
「だめです……姉妹で戦うなんて」
よろめきながら、エヴァに近寄る。
続いて、夜城も片足を引きずり、デルフェスと一緒に彼女を抱きしめた。
【幕間2】
亜真知は睨んだ。侵入者を。
「怒るな亜真知。お前もこの戦いに意味はないと思っているのだろ?」
「しかし父様。それでもエヴァの主張を……」
「そう言うものではない。シンプルに考えろ……神であるお前が其処まで冷静さを欠いてどうする?」
「……欠いてなどありません……」
侵入者はエルハンド・ダークライツ。実際血も繋がっていないが、親子関係のように親しい。
「この空間は怨霊に汚染されている。この先何が起こるか分からないお前ではあるまい」
2人の距離は50メートル以上。声は実は念話で行っている。先には神格のオーラでエルハンドがいると分かる。
「……どうしてこの戦いを知っておられるのです?」
「智恵美からだよ。少し分が悪いから手を貸してしまったが、永遠に続く戦いを早く終わらせるのは……心のうったえのみ。力ではない」
「……」
「あと、其処の屍術師の思惑を止める意味では、私も手を出さないとな……」
「え?」
「“森羅万象”で一瞬だけ皆を守れ、“書き換えの力”は、“書き換えの力”のみにしか対応しない」
「父様其れは!」
娘(?)は驚く。
父親(?)が滅多に使わない大技を出す。それがあの神格の波動だったのだ。
エルハンドは、大きく聖剣を振りかぶり一言……
“――世界を斬り裂く――”
【4.大切なもの】
「エヴァ様は兵器じゃありません」
「エヴァさん考えて見て下さい……楽しかった日々を」
怨霊渦巻くなかで、傷つきもデルフェスと夜城が哀しい霊鬼兵に訴える。
「そんな……私は……」
エヴァは何故其処までして、己を傷つけて、戦いを止めようとするのか分からなかった。
――怨念の記憶が崩れる。
「あなたは兵器なのか?」
「私は兵器だ!私の意志だ!何故、其処まで!」
「戦いたいと言う意志は貴女の物か?」
「そうだ!」
「兵器というのは心を持たないんだよ……意志を持つ貴女は兵器じゃない」
――また一片崩れる
「エヴァ様……夜城様の言う通りですわ。わたくしとて、貴女をライバル……いえ、親友と思っているのです。色々とありましたが、思い出して下さい、楽しい日々を。友達と過ごした事を!」
姉か親のように抱きしめるデルフェス。
――完全に怨念の記憶が壊れた。
その反動は、周りの怨霊を更に活性化させた。
怨霊器の真の発動に似ている。
「ああああ!」
「エヴァさん!」
「エヴァ様!」
「エヴァ……」
武装を解いて零が近寄る。エヴァは過去の記憶に苦しめられている様をみて耐えきれなくなったのだ。
しかし、三滝が其れを阻んだ。切り落とされた腕を付け直し……。
「さすが、意志の強さ。戦闘能力は妹にも劣るというのに……長年“生きていた”故か」
「どきなさい、屍術師!」
零は倒すべき敵を見いだした。
「エヴァをそそのかしたのは貴方ですね……お仕置きします」
「無駄だ。エヴァは、既に虚無のメンバーとしての仕事をこなせる迄に至る。この怨霊の暴走をみよ。今まで自分を支えていた信念が崩壊すれば、怨霊のコントロールなど一時は狂う。それだけでも、怨霊器5台分の破壊力はあろう」
「それが、目的!」
「気が付いたか、大事な妹と共に果てるがいい」
――果てる方は貴様の計画だ、三滝。
不意に念話が三滝に届く。
「なぬ?」
怒り狂う怨霊の嵐、其れに何とか耐える夜城だが、デルフェスはもう耐えられない程弱体化している。
「デルフェスさん!逃げて!」
夜城とトールが叫ぶ。しかし彼女は首を振る。
「何としてでもエヴァ様を助けたい……」
よく見ると、真の銀であるミスリルの身体が崩れてきている。度重なる術の行使にダメージ、半永久機関でない故の代償で、寿命を縮めたようだ。しかし、それでもデルフェスは命を張ってエヴァを守りたいのだ。
「元よりいつか、崩れる身。零様もエヴァ様もわたくしの憧れでした……」
――いや……居なくならないで……
「零様やお友達と仲良く……」
デルフェスは、気を失うように倒れる。
「――だめぇ!」
エヴァの叫びと、遠くからの大きな閃光が同時に辺りを包んだ。
それは神の力のなせるもの。怨霊を消し飛ばし、その範囲に居る生物さえも消滅させ、法則さえも書き換える。
その書き換えをもう一人の神が手伝った。
「おのれ……異世界の神どもめ……。必ずあの小僧の……」
唯一怨霊扱いにされた三滝は、何重もの結界さえ消され、消滅する。
――まぁ、これは“影”だから全く問題はないがな……。
【5.エンディング】
IO2では、港の光と、異常な霊力を察知し、
「虚無の境界の“霊鬼兵エヴァ”の死亡の信号です」
と、配下の一人がリーダー格の男に告げた。
「相変わらず、派手な信号を……しかし、もみ消しスペシャリストだから問題はないか……」
「後の処理は?」
「隠岐特別顧問が居る。彼女が全ての責任を取る様になっている」
俺たちは周囲の調査と証拠隠滅だ、と尻ぬぐいにため息をついており、エージェント達は忙しく動き始めた。
事件から数週間のこと。
鎌倉の孤児院で、ぼうっとしている金髪で赤い目の少女がいた。
「気分はどう?」
「……うん、すごくいい…」
優しい女性の声に答える。
女性の声は智恵美だ。
そして、少女はエヴァである。
零は1日で傷は治ったが、この少女は、今までの呪縛が説かれたために、霊鬼兵の全能力を失い、消滅しかけていた。そこで、彼女の奥の手で、霊鬼兵の設計図を引き出し、既にエルハンドが長谷神社の道場に設備を施し、治療をしたのだ。
しかし、大きく心に穴が開いた為か、記憶障害を起こしているようだ。
エルハンドの放った技“世界を斬り裂く”は、怨霊の浄化と結界の崩壊、影の三滝の退治は為せた。しかし人間や、魔獣などの生命体に対する絶大的殺傷効果を『無効』と“書き換え”たが、それは霊鬼兵やミスリルゴーレムには当てはまらない。それを亜真知が此も又奥の手で、“人造生物に危害を加えない”と書き加えたのだ。よって、夜城もトールも亜真知、もちろんファングも生きている。かなり傷ついているために、数人は自宅で休養か、入院している。傭兵ファングは、素早くその光の中から逃げ出していたので問題はない。当然、IO2に捕まるようなへまもしないで逃げている。IO2は其処にファングが居たという事を知らずにいる。
今は、エヴァは調子がよくなるまで、療養中なのはわかるだろう。
「姉さん……に……あいたいな……皆に」
徐々に記憶が戻ってきているようだ。
智恵美は涙を流して、
「元気になればいつでも会えますよ」
「うん……そうしたら……えーっと、友達とあそびたいな……」
無垢な笑顔でエヴァは答えた。
蓮の間に作られた特殊異界。
「あれ?わたくしは?」
デルフェスは身の軽さに驚き、起きる。ミスリルのあの微妙な重さと魔力がないのだ。しかし、姿は前のままである。球体の寝室と視認すると更に驚いた。
「起きたようだな」
医者のような格好をした、エルハンドがいるので更に驚く。
デルフェスの身体は崩壊しはじめていた。すでにゴーレムの寿命が尽きる頃だったのだ。あの「技」を避けようとしても遅かったともいう。しかし急いでエルハンドが「封の技」を込めたダガーを彼女に打ち込み、彼女の記憶と能力を封印石にしたのだ。その時の皆の驚き様は、印象に残っている。例外は数名いるが。
そのあと、ミスリルというバカ高く希少な代物は手に入らないので、エルハンドは自分の“実際の肉体”を媒体として、複製したのだ。お節介焼きもココまで来ると何と呼べばいいか分からないほどに。
「暫く、リハビリは必要だがね」
彼はデルフェスが起きた後、事の事情を告げる。
彼女はその結果に安堵するが、慣れない身体に違和感を感じている。
「今までの術や能力は使える。ただミスリルゴーレムの心を人間とほぼ同じように書き換えるのは苦労した」
「え?」
「人間でもあるし半ばミスリルゴーレムと言うことだ。肉体硬度は前より落ちるが、皆と一緒食事も出来るし、人の痛みも知る。何より私本体の肉体を使っているから、かなり能力は上がっているだろう。人の数百倍は生きられるさ」
「……」
デルフェスは、ありがたいのだが、何というか、此処までして貰ったお礼が言えない。何しろ蘇生課程が理解の範疇を越えているわけだから。
ただ、エヴァの笑顔を見ずに死ねないのだから感謝すべき事だろう。
興信所では、零と、亜真知、トールに夜城はのんびりと応接室でお茶をしていた。
「何とか丸く収まったかなぁ」
と、トールはそわそわしている。
「トール君、エヴァはまだですよ、智恵美さんがしっかり看病してますし」
零はニコニコしながら、ケーキを切っている。
「果報は寝てまてですわ」
「でも、会いたいよ!」
ジタバタするトール。
「駄々をこねるな、俺も我慢しているんだ」
「わたくしもです」
夜城と亜真知が子供を窘めていた。
「しかし、亜真知さん、本気で攻撃するのは勘弁してほしかったな。結果オーライでよかったですけど……」
「それはあの後、謝りました……根に持つとモテませんわよ……」
「“お父様”の叱責付きで、ですね」
「う〜」
今度は亜真知が責められた。
多分、否、後でエルハンドに仕返ししちゃおうかと思う策士亜真知サマ。しかも5倍返しで。
「此処に住める様になるには少し時間がかかるかもしれませんね」
零が窓から外をみる。
「そうですね。彼女が、鎌倉で過ごすのか姉妹そろって過ごすのかは彼女自身が決める事だから……」
皆は、呪縛から解き放たれた零の“妹”の再会を楽しみにしている。
それは、早く来ないかとワクワクする一方、のびるだけ又楽しみが増えるものだという心地よいものだった。
空には、燕が鳴いている。興信所の壁に巣が作られていた。
――待ってますよ。エヴァ
End
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【1593 榊船・亜真知 999 女 超高位次元知的生命体・・・神さま!?】
【2181 鹿沼・デルフェス 463 女 アンティークショップの店員】
【2331 夜城・将清 25歳 男 国家公務員】
【2390 隠岐・智恵美 46 女 教会のシスター】
【2625 トール・ウッド 10 男 科学者】
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■ ライター通信 ■
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滝照直樹です。
『零とエヴァ4:Dead or Alive』に参加して頂きありがとうございます。
どれだけ、エヴァや零に友情や愛情を持って下さっていて感動しております。
今回亜真知サマが立会人になりかなり障害が増えましたが、“父様”登場で、デルフェス様や夜城様達の思いをエヴァに伝えられたことで安堵してます。
デルフェス様は肉体素体が変わりましたが……。尊い犠牲を払った代償に其れに見合う(のかな?)形で特殊蘇生という形をとらせて頂きました。
エヴァの人生はこれからです。元気になったエヴァと再会したときのことを思い浮かべて頂ければ幸いです。
では、機会が有ればお会いしましょう。
滝照直樹拝
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