■I’ll do anything■
九十九 一 |
【2897】【東雲・舞】【錬金術師】 |
都内某所
目に見える物が全てで、全てではない。
東京という町にひっくるめた日常と不可思議。
何事もない日常を送る者もいれば。
幸せな日もある。
もちろんそうでない日だって存在するだろう。
目に見える出来事やそうでない物。
全部ひっくるめて、この町は出来ている。
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彼女と彼等と遊園地
アトラス編集部にて、例のごとくレポートを提出してから。
「そうだわ、よかったらこれも受け取って」
「……? いいんですか、ありがとうございます。行きたかったんです」
最近出来たテーマーパークのチケット。
受け取った東雲舞はパッと表情を輝かせるが、すぐにある事に気付いた。
「って、今日までじゃないですか!」
「使う使わないは自由ね」
果たして今から誰かを呼んで人が捕まるだろうかを思案した所に、応接セットの所で騒がしく言い合いをしている二人。
「ひっでぇ!」
「お前が弱すぎるんだ」
「何してるの?」
ひょいのぞき込むとりょうと夜倉木の二人がオセロをしていた。
「あー、賭けなんかしなきゃ良かった!」
「言いだしたのはお前だろう? 今さら盤面ひっくり返したって無効にはしないからな」
もの凄く暇としか思えない。
「仲いいんですね、お二人とも」
「……」
動きが止まる。
二人にとっては予想していなかった言葉なのだろう。
無邪気なのだから余計に何も言えない。
「暇だったら一緒に遊びに行かない?」
「遊園地?」
「……これが終わったらどうぞ好きにしてやって下さい、ちゃんと車弁償しろよ」
「そんなん払えるかよ!」
パチリと黒をひっくり返すとまた盤面が黒で埋まっていく。
「夜倉木さんも一緒にですよ」
「はい?」
疑問は置いて置かれた。
「何の賭なんですか?」
「俺が勝ったら締め切り延ばして貰う、負けたら車の弁償しろって」
「じゃあ……私がここから勝ったら、一緒に遊びに行きましょう?」
舞の提案に夜倉木が少し考えてからうなずく。
「どうぞ」
「じゃあ……」
りょうに代わり舞がオセロをやり始める。
パチリ。
少し時間はかかったが、不利な盤面から何とか挽回する事が出来た。
目撃者は多数。
言い逃れは出来ない。
「私の勝ちです、一緒に遊んで下さい」
「いよっしゃ!!」
「待ってください、これは……!」
反論しかけた夜倉木に、麗香が待ったをかける。
「負けは負けね、行ってらっしゃい」
「……………!」
「上司命令! 大人でしょう、言った事は守りなさい」
それはまさに鶴の一声。
「………解りました」
「さっ、行きましょう」
「言うこと聞かないとなぁ? 負けたんだし!」
渋い顔をする夜倉木を前に舞とりょうは楽しげに笑みを浮かべた。
今日はとても天気がいい。
まさに遊ぶためにある様な日だ。
人で賑わう園内を、微妙に目立ちながら歩く3人。
実質目立っているのは二人だ。
ただし意味は正反対。
先頭を長い黒髪をなびかせ楽しそうに歩く少女、よく見ればその瞳も青だという事も解っただろう。
その少し後ろを歩く人相の悪い男。
あまり目立たない男も一人。
ちぐはぐな三人は一見してどんな関係か判断が付かない。
「なにのろっか?」
「そうだな……とりあえず……ジェットコースター系は制覇だよな」
「初めから? 飛ばしますね」
「当然……!」
いかに効率よく回るかを考え始めた二人に。
「勝手にやってくれ……」
「なに言ってるんですか夜倉木さん、夜倉木さんも乗るんですよ」
「………は?」
この場に及んでまだ傍観を決め込むらしい。
「敗者に発言件なんか無い!」
「お前が勝った訳じゃないだろ」
その言葉を待ってたとばかりのタイミングで舞が微笑む。
「私は勝ちましたよ、それはもう証言してくれる人も居ます。不利な状況から勝ちました。だから一緒に遊びましょう」
「………っ!」
これは確実に効果があったらしい、負けたのは事実なだけに反論も出来ない。ムッとした表情の夜倉木に止めの一言。
「まさか乗れないなんて言わないよなぁ? 落ちるのが嫌だーとか、乗ると具合が悪くなるんですーとか」
「ええっ、そうなんですか夜倉木さん!?」
「そんな訳無いですよ」
「じゃあ乗りましょう」
謎の団結力と勢いの前に、ゲームに負けたという事も合ってか大人しくさせる事に成功。
「最初はフリーフォールにしましょう!」
「三回は乗らないとな」
「混みませんかね」
「平気だって、俺が行けば人減らせるから」
「それ本当にやったら駄目ですからね、盛岬さん」
園内中を周り、次々と乗り物を制覇していく。
それはもう楽しげに。約1名除いて。
「そろそろ一休みしませんか?」
「そうだな、ゲームでもやるか?」
「………」
ジュースやアイス片手に園内のアミューズメントが集まったコーナーへと向かう。
「レースゲームも良いですけど……クレーンゲームやりません? 今朝テレビで見てコツとか流れてましたから、おもしろそうだなって」
「それなら任せとけ、俺も得意だ」
「本当ですか? じゃあおっきいヌイグルミとか取ってる人見た事無いので見たいです」
「簡単簡単!」
機体に小銭を入れ、真剣に向き合う。
狙いは一抱えはありそうな大きなパンダのヌイグルミ、垂れていてつかみ所はなさそうなのだが。
「………」
「………」
胴に引っかかったアームはひょいとヌイグルミを持ち上げる。
「わっ、すごい!」
「だろっ?」
ニッと笑うが、あれと舞が首を傾げる。
重そうなのに簡単にアームに乗っかった事を考えるとアームが強いか、ヌイグルミが実は軽かったなのだが。
それにしては何か違和感が残る。
「……インチキじゃないんですか、それ?」
途端にぽたりと落ちるヌイグルミ。
「……………」
「えっ? あっ!!」
少し考えれば解るはずなのだ。
りょうは超能力が使えるのだから、それを使って不正行為をしていたのである。
「だっ、駄目ですよっ」
「良くある事だって」
この反応はかなり前からの常習犯に違いない。
「こうなったら私がクレーンゲーム道を教えてあげます!」
「はっ?」
驚いた様に目を開くが、さっそくとばかりに次のターゲットを捜す。
「あれにしましょう、普通のヌイグルミから練習です」
「………あ、ああ」
重心を狙う方法から微妙に操作を要求される様な物まで色々と回っていく。
初めは舞に引っ張られているだけだったのだが、こういうゲームとはやり混むほどに熱くなるものだ。
幸か不幸かこの中には沢山の景品がある。
「次はあれにしましょう、不正は駄目ですからね」
「解ってるって!」
最近はとても景品の種類が多い。
つまりそれはそのの数だけ攻略法があると言う事だ。
夢中になって続けた結果……。
「……大量だな」
「そうですね」
「どうするんだ?」
「どうしましょう?」
気付けば景品の山。
クマやウサギにフィギィア。時計にCDやラジオや模型。
財布もすっかり軽くなっていたりする。
「幾ら使ったんですか?」
「さ、財布が泣いている……!」
「でも……面白かったですよね?」
景品の山に囲まれながら、舞はニッコリと微笑んだ。
景品の類は一部を残してアトラスに保管される事になった。
厄介払いをしたとも言う。
財布が軽くなりとてもダメージを受けているりょうと最初から口数が少なかった夜倉木が応接セットでグッタリとしている。
元気なのは舞だけだ。
「楽しかった?」
「はい、でも……」
二人は大丈夫なのだろうか?
気になって振り返った舞に麗香が微笑み。
「そっちは気にしなくって良いわよ、暇人だし。楽しかったでしょう?」
「さ、財布が……」
「……楽しい?」
あまりそうは見えないのだが。
「ほら、楽しそう」
「何処が!?」
「ちょうど良いのよ、ここで喧嘩になるよりはずっと。助かったわ」
「厄介払い!?」
苦情の言葉はあっさりと無かった事にされた。
「よかったらまたチケットあげるからよろしくね」
「はい、ありがとうございます」
いくらかの景品を手に抱え、二人に手を振る。
「また行こうねー!」
「………!」
撃沈。
「………次は負けませんとも」
「賭けなんかしなければ良かった……」
またそう遠くない日に起きるだろう事は実現するかしないかは……誰にも解らない。
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
【2897/東雲・舞/女性/18歳/錬金術師】
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■ ライター通信 ■
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ありがとうございました。
遊園地で遊んでいただき嬉しいです(笑)
りょうはともかく夜倉木で遊ぶなんてなかなか素敵です!
このような展開で良かったでしょうか?
初依頼、少しでも楽しんでいただけたら幸いです。
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