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■ゆきむすめのうた■

ゆみ
【1415】【海原・みあお】【小学生】
 人などほとんど来ることもない、真夏ですら雪のとけることのないほどの山奥に、小さな小さな小屋があった。
 そこには小さな子供の姿をした、ゆきむすめがひとりで住んでいた。
 彼女の力は、過去見の力。
 望むものへと過去を見せる力。
 そして、もし違った道をたどっていたら――そんなifすら見せることのできる力。
 今日もゆきむすめの住む小屋には、過去を望む人間たちが訪れる。
ゆきむすめのうた
 人などほとんど来ることもない、真夏ですら雪のとけることのないほどの山奥に、小さな小さな小屋があった。
 そこには小さな子供の姿をした、ゆきむすめがひとりで住んでいた。
 彼女の力は、過去見の力。
 望むものへと過去を見せる力。
 そして、もし違った道をたどっていたら――そんなifすら見せることのできる力。
 今日もゆきむすめの住む小屋には、過去を望む人間たちが訪れる。

   *

 海原みあおは、父親に手を引かれ、その小屋へと訪れていた。
「……あら。珍しいわね」
 中から顔を出した少女は、みあおの顔を見るなりそう口にする。
 けれども口にしただけで、それ以上どうということもなく、少女はみあおたちふたりを小屋の中へと招きいれた。
「それで、なにが見たいのかしら?」
「それよりもまず先に、聞きたいんだけど……その、雪白さんはいったいどちらにいるんだい?」
 みあおの父親は少女に視線をあわせて、ゆっくりと発音した。
 すると少女は薄く笑う。
「雪白は私よ」
「ええ〜っ、雪白って、なんかすごい力を持ってるってきいたから、みあお、もっと年上の人なんだと思ってたよ! みあおとあんまり変わらないんだね〜」
 みあおは無邪気に声を上げた。
 それに対して雪白は気を悪くしたふうでもなく、小さくうなずく。
「ええ。多分、あなたよりは長く生きていると思うけどもね。……それで、なにが知りたいの? なんでもいいわ」
「えっとね、あのね、みあおね、『みあおがもし改造されてなかったら』っていうのがどうだったのか知りたいの。あとそれとか、『お父さんが助けに来てくれなかったら』とか」
「……そう。いいわ、それならこっちへ……」
 外から見ると小さな小屋のようだったのに、小屋の中は思った以上に広い。
 雪白が奥の方へふたりを案内しようとするが、みあおは首を振った。
 そんなものはただの口実で、本当の目的は別にあるのだ。
「あ、でも、先にね、ふたりでお父さんのお話聞きたいの!」
 みあおは笑顔でそう口にした。
 たしかに、もしこうだったら――というのが見られるとしたら、それは興味がある。
 けれども、だからといって、未来が変わるわけではない。
 それにみあおは、みあおの力でもとに戻るのだと心に決めている。だから、もし、なんていうものには、ちょっとした興味くらいしかないのだ。
「お話?」
 雪白は怪訝な顔でみあおを見た。
「そうそう。あのね、お父さん、すごいんだよ。世界各国旅行してるし。だから色んなこと知ってるんだ!」
「……そうなの」
 雪白は無表情に答えてくる。
「うん! 大丈夫、ジュースとかお菓子とか、ちゃあんと持ってきたよ! だから、ねえ、一緒に聞こ!」
 みあおは雪白の手をひっぱる。
 雪白は手元を見つめながら一瞬、迷うようなそぶりを見せたが、すぐに顔を上げた。
「……そうね。たまにはそれもいいかもしれないわ」
「うんうん! こんなところにひとりだったら、絶対、退屈だもんね! お父さん、ムダに旅ばっかりしてるから、すごい詳しいんだよ〜! ね、お父さん!」
「……ムダにって、ちょっと傷つくなあ」
 言いながら、みあおの父親は苦笑する。
 けれども、みあおがこうなのはいつものことなので、結局はあまり気にしていないようだ。
 背負っていたデイパックから、みあおにせがまれて持ってきた、ジュースやお菓子を取り出す。
 お菓子は雪白がどんなものが好きでも大丈夫なようにと、いろいろなものを持ってきてある。
 クッキーやマドレーヌ、せんべいにおかき。これだけあれば、しばらく篭城できそうなくらいの量がある。
「あとね、ジュースだけじゃなくって、ミルクコーヒーも持ってきたんだよ!」
 みあおは笑顔で、大きな魔法瓶を振ってみせる。
 中にはみあおの口にあうような、甘いミルクコーヒーが入っているのだ。
「……変わった人ね」
 雪白の声音は先ほどまでと変わらないが、それでも、少しは楽しげな響きが含まれている。
 やっぱり、ずっと退屈だったんだ。自分の予想が当たっていたことが嬉しくて、みあおは笑顔でうなずいた。
「でも、たまには悪くないわ。……それじゃあ、そうね、あっちの辺りがいいかしら」
 雪白は囲炉裏の近くを指す。
「あれ、でも、火とかのそばにいても大丈夫なの?」
「大丈夫よ。私は少し離れていればいいもの。……それに、あなたたちが寒いでしょう」
「あ、そっかあ。そういえばそうだよね。じゃ、お父さん、お話聞かせて!」
 みあおは雪白の手をにぎったままで、父親の腕にまとわりつく。
 父親は困ったような顔をしながらも、笑顔で囲炉裏の方へと歩いて行く。
 ――その日、珍しく山小屋はにぎやかだった。
 雪白の住む小屋がこれほどまでににぎやかだったのは、あとにも先にも、これだけだった。

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
【1415 / 海原・みあお / 女 / 13 / 小学生】

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■         ライター通信          ■
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 こんにちは、2度目の発注ありがとうございます。今回、執筆を担当させていただきました、ライターの浅葉里樹です。
 今回は明るく楽しく! な感じのご依頼でしたので、そのような雰囲気で描かせていただきました。
 実際には13歳なみあおちゃんですが、実年齢よりずっと幼く、無邪気で愛らしい雰囲気の子なのかなあ……と、そのように描かせていただいたのですがいかがでしたでしょうか。雪白が無愛想なタイプですので、対照的なふたりをいっしょに描写させていただけて楽しかったです。
 もしよろしかったら、ご意見・ご感想・リクエストなどがございましたら、お寄せいただけますとありがたく思います。ありがとうございました。