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■【狭間の幻夢(ゆめ)】魔人の章■

暁久遠
【2863】【蒼王・翼】【F1レーサー 闇の皇女】
―――――それは、ある日の午後のこと。


貴方はなんとなく町を歩き回っていた。


空の頂点には太陽が爛々と輝き、地に佇む貴方を照らす。


―――今日もいい天気だ。


そんなことをぼんやりと考えたその時。



――――――――ザァッ。


貴方の頭上に、唐突に大きな影が被さった。


「!!」


貴方が驚いて目を見開いている間に、その影はあっという間に貴方の頭上を通り過ぎ、何処かへと消えていってしまった。


逆光の為しっかりと判断することは出来なかったが、どうやら大きな鳥のようなものが頭上を通りすぎたらしい。
いや、鳥の羽のようなものを持った…『人間』か?


奇妙な影の正体に頭を悩ませる貴方。
しかしその目の前に、ひらひらと何かが舞い落ちてきた。


反射的に手を伸ばしてそれを捕まえると、その正体は―――大きな、ヤツデの葉。


自分の掌を軽く超えるほどの大きなその葉は、少なくともこの辺りに生息している木ではないのはすぐに見て取れた。
不思議に思って裏返してみると、そこには文のような物が。


『・招待状・
  ただいま我々は非常に困っております。
  しかし、それを解決するためには、どうにも人手が足りません。
  これを読んだ方、どうかお手伝いお願い致します。
      喰魔山管理役より』


「…『喰魔山<くらまやま>』?」


聞いた事がない名称に眉を寄せる貴方。
しかしその疑問は、すぐに解消されることになった。


……すとん。


―――軽い音と共に、貴方の目の前に看視者が到着したからだ。


「あ…」
驚く貴方を他所に、看視者はふっと貴方に目を向け―――ぴたりと、貴方の手の中にあるヤツデの葉に目を留めた。
そして何か考えるような仕草をしてから―――貴方の腕を掴み、地面を蹴った!

とん、と軽い音と共に高々と飛び上がる貴方と看視者。
戸惑いの声をあげる貴方すら半分無視状態で、看視者は貴方の片腕をしっかり掴んだままとんとんとビルや屋根の上を軽やかに飛んでいく。

一体何がどうなっているのかと目を白黒させる貴方にちらりと視線を向けた看視者は、ぽつりと呟いた。


「――――――あのヤツデは、『招待状』だから…」
「『招待状』?」


その言葉に不思議そうに首を傾げる貴方を見ながら、看視者は簡単な説明を行う。


このヤツデは『喰魔山管理役』なる者からの招待状なのだ。
それは無差別に撒き散らされるが、文章を読むことが出来るのは能力者のみと言う変わった術が施されているもので。
何が起こるかわからない場所ゆえ、安全のために超常現象にある程度対処できる力を所持する能力者のみを招待する運びになっているのだそうだ。
…まぁ、看視者の場合は統治者からの依頼も兼ねているので、行きたくなくても行かなければならないらしく。
貴方を発見した時、丁度同じ招待状を持っているのだから連れて行ってもいいだろう、と半ば巻き込む形で拉致することにしたのだという。
…要するに、貴方は行く行かないの選択肢を選ぶ前に、強制的に拉致された、と言うことだ。


そのことで恨めしげに看視者を睨むが看視者達はさらりとその視線を受け流し、黙々と進む。
そして視界は二転三転。
人が多く雑多に建物が立ち並ぶ街中から少しずつ建物がぽつぽつと減っていき、気づけばどこか懐かしい雰囲気漂う大きな山が目に入った。
ぽつぽつと点在するビルや家に囲まれるようにして、しかし全く揺らぐ様子がないように、堂々と鎮座するそれ。
驚いて目を見開く貴方だが、看視者は止まらない。
そのまま田んぼの脇道を軽く蹴って高く飛び上がると―――――そのまま、山の入り口へと着地した。

「ここは…」
「ここが『喰魔山』だよ♪」

呆然とした貴方の疑問に答えたのは、看視者ではない、少女のような…それでいて少年のような、不安定な声。
驚いて声のした方―――山の入り口へと目を向けると、そこには二人の『人』が立っていた。


――――――いや、『人』ではなかった。


「どーも初めまして♪俺たちが届けた招待状、受け取って貰えたみたいだねv」
「其方も忙しいところに呼んでしまってすまなかったな」


入り口に立っていた二人には―――『羽』があった。
黒い脇辺りまである髪をポニーテールにしてあり、くりっとした大きな瞳は右が金、左が金の変わった色彩<いろ>を持っている。
チャイナと膝丈の着物を混ぜたような変わった服にスパッツ、膝まである編み上げブーツを着た少女なんだか少年なんだか判別しかねる子供の腰から、真っ白な蝙蝠のような奇妙な翼があった。
そしてもう一人。
黒く足首まであるややたるませた長い髪を腰辺りで縛り、切れ長の瞳は射るような冷たさを帯びた白銀色。
陰陽師の式服のような衣装に、草履。
和風スタイルの落ち着いた青年の背からは、漆黒の翼が生えていて。折りたたまれたその両翼のそれぞれの中間点には、直径十センチくらいの緋色の石が埋め込まれるように点在していた。


――――どちらも、姿からして、やはり人ではなさそうに感じた。


しかしこの二人、見る限りではどうにも兄弟が親子にしか見えないのだが…それよりも、むしろ何故こんな格好で、それもこんな人里離れた山の中にいるのだろうか。
訝しげな貴方の視線に気づいたのか、子供の方がにこりと笑うと、貴方に向かって握手を求めるように手を差し出す。


「俺は神翔<かしょう>だよ。
 こっちのひょろ長いのは鳴<なる>ってゆーんだ」
「ひょろ長い言うな」
どげしっ。
「あ」

笑顔の神翔の説明に不満を持った鳴からの蹴りツッコミが神翔の背中にキレイに入った。
顔からずべしゃぁっ!と見事にスライディングをかます神翔。
驚いたように目を丸くする貴方の目の前で、神翔はがばぁっ!と体を起こした。
ちょっと鼻の頭がすりむけている辺り、結構痛そうだ。

「なんだよ鳴!ホントのことじゃんかぁ!!」
「人に変な印象を持たせるような紹介はやめろといつも言っているだろうが!!!」
きゃんきゃん吠える神翔と怒鳴り返す鳴。
最初の印象とは違い、どうにも漫才コンビの印象が拭えない。

どうすればいいのだろうと戸惑っている貴方とじーっと見ている看視者に気づいたのか、二人ははっとして佇まいを直す。
そして『こほん』とわざとらしい咳をすると、鳴は真面目な顔で口を開いた。


「まぁ、私達の名前はこれで知ってもらえたと思うが。
 私達の素性についてなど色々と気になることもあるだろうが、とりあえず我々の住居へと案内させてもらう。
 話はそれからだ」


その言葉に頷いた貴方と看視者は、前を歩き出す神翔と鳴に着いていき、山の中へと足を踏み入れるのだった。


***


「――――――そういうワケで、私達はきちんと『統治者』から許可を貰って暮らしているわけだ」

先ほどの邂逅から約一時間後。

数十分ほどかけて木や草をきちんと避けられた一本道を真っ直ぐに通った先にあった古風な一軒家の中。
外見の割には意外と近代的な内装の家の中に入り、鳴に入れてもらった茶を飲みながらの話の締めくくりが、これ。

―――鳴の無駄に長い話を要約すると、こうだ。

神翔と鳴は純正のあやかしだが、ここの森に住む他のあやかし達は大抵が何かしら半端な部分を持つ者達らしい。
それゆえ戦闘能力もほとんどの者が皆無に等しく、人と争う気も持たない者ばかり。
だからこそ黒界では攻撃や蔑みの対象になることが多く、それを回避する意も込めて、統治者がこの『喰魔山』にそれら半端なあやかしたちを集め。
そして用心棒も兼ね、人界で暮らしたいと思っていた神翔と鳴の申請を『喰魔山の管理役になる』と言う条件でもって受けたのである。

「ここの山はなんだか不思議な力があるみたいでね。
 純正のあやかしは近づくことすら難しいみたいなんだ」
あ、俺達は看視者から喰魔山の気の影響を受けない術を施して貰ってるから平気なんだけどね☆と笑い、神翔は話を続ける。

「それにここの山の草木は全てが純正のあやかしにとっては普通の人間にとっての『毒』に等しいほどの威力を持ってるんだ。
 草木の汁や木屑の欠片が付着しただけでもアウト。被れたりそのだけ腐ったりしちゃうみたい。
 ついでに言うと、食べれば下手すれば即死、ってトコだね」

あー、でも黒界のあやかしにしか威力がないみたいだから、結局のところ黒界以外の存在に対してはほとんど無力なんだけど。
そう言って笑顔を向ける神翔。


「…そういうわけで、この喰魔山は半端者の孤児院のようなものであると同時に、対あやかしの能力を持つ天然の要塞も同然、と言うわけだ」


だからこそ、ここに住まう半端者達は皆健やかにすごせる。
そう言ってしめくくる鳴を見ながら、貴方は口を開いた。


「…それじゃあ、『困ってる』って…?」


その疑問に、神翔と鳴は苦虫を噛む潰したような表情を浮かべる。
そして少々の沈黙の後、神翔が困ったように眉尻を下げて口を開いた。


「……それがさぁ。どっかの開拓業者がこの山を開拓の対象にしてるみたいなんだ」


その言葉に、貴方は驚いたように目を見開く。

「この山がなくなれば半端者達の行き先がなくなる。
 そうなれば、ヤツらは黒界に戻るしかない。
 …そうなると、また半端者に対する虐待が酷くなるだろう…」
できればそれだけは避けたいと悲しげに目を伏せる鳴を見て、貴方は戸惑うように視線を看視者に向ける。
しかし看視者はただ話を静かに聴いているだけ。どうやら話が終わるまで動く気はないらしい。

「何度か人のフリして此処の開拓は止めてって適当に理由でっちあげてお願いしたんだけど、あっちは聞く耳持たず。
 とにかくそんな事情は知らぬ・存ぜぬ・今更開拓止められぬ、の一点張り」
「このままでは喰魔山が崩されてしまうのもそう遠くはない」
「だから…」

そこで言葉を切った神翔は、がばぁっ!といきなり立ち上がる。
驚いて目を見開く貴方を他所に、神翔はぐっと拳を握りながら声を荒げた。


「――――こうなったら俺達で開拓を無理矢理やめさせるしかないって、決めたんだ!!」


「……は?」
あまりにも唐突な発言に、貴方は完全に目が点。
いきなり何を言い出すんだと言わんばかりの表情に気づいたのか、鳴が呆れたようにコーヒーを飲みながら口を開く。


「…要するに、奴らが此処を開拓したくないと思わせればいい、と私達は考えたわけだ。
 とは言え、我々には財力はないからな。金での交渉は不可能。
 ……となれば、最終的に残るのは実力行使、と言うわけだ」

「だから俺達がその開拓業者に対して徹底的にイタズラや嫌がらせをして、ここの山を開拓しようとしたら祟りが起こるとでも思い込ませればいい!
 俺はそう考えた!!!」

「…とりあえず最終的な交渉はしてみるつもりではいるが、恐らく希望は持てまい。
 その時は徹底抗戦だ。
 私は必要な機材の破壊や、威嚇も兼ねたギリギリ直撃しないように調整して人間達へ攻撃。
 神翔は他のあやかし達を先導して悪戯の限りを尽くす。
 悪いとは思うが、相手の都合よりこちらの都合。
 二度とそのような考えが湧かぬよう、容赦はしないつもりだ」

「それで他の業者にもその話が広がれば、俺達としては万々歳だしね!!
 この山が開拓されないようになれば、それでいいわけ♪」


交互に為されるトーンもテンションも違う言葉に少々混乱しかけながらも、貴方は大方のところを理解した。
要するに、開拓をやめさせるため、業者達に嫌がらせや脅しを行えばいいわけだ。
直接人間に危害を加えるつもりではないようだし、彼等の住処になり得るところが此処しかないのなら、仕方がないだろう。

此処まで聞いてしまった以上、放っておくわけにもいくまい。
既に今回の行動について話し合いを始めている看視者と鳴・神翔を見ながら、貴方は面倒なことになったかもしれないと、深々と溜息を吐くのだった。


――――――――勝負は明日の昼間から。
           はてさて、喰魔山が開拓されぬよう、どうするか。






どうも初めまして、もしくはこんにちは。暁久遠です。
微妙なOPでごめんなさい。全看視者に対応したOPにしようとすると何かと描写に制限がかかるので…(汗)
この異界での第3回目のゲームノベルは、イタズラ系(笑)にしました。
いまだに戦闘してませんが、そこはご容赦くださいませ…(滝汗)
看視者達や神翔・鳴ら特殊NPCや世界観については、異界の「狭間の幻夢(ゆめ)」を御覧下さいませ。

今回のシナリオは、大雑把に言えば「魔人・看視者(一人)と一緒にイタズラ及び実力行使で工事の立ち退き要請!」となります(をい)
出会った看視者・鳴(立ち退き最終要請及び実力行使)と神翔(イタズラし放題)のどちらと一緒に行動をとるか・看視者が二人組の場合、どちら(一人)が一緒に来るか・どんな行動をとるか―はお忘れなく書いて下さい。勿論、属性についての明記も必須ですよ。(属性名か、お任せか)
複数人数打ち合わせの上での同時参加の場合は、その旨をお書きください。
喰魔山の気になることや、看視者達の気になることなども聞きつつ、思いっきり実力行使しちゃってください☆(笑)

参加人数は特に決めておりません。期間内は開けっ放しの可能性高し(をい)
ではでは、ご参加お待ちしております。
【狭間の幻夢】ユニコーンの章―鬼―

●高級住宅街で●
深夜の高級住宅街。
その広い道路脇に、3人の人影があった。
蒼王・翼と鬼斬と御先だ。
実際は翼は巻き込まれただけで、本来は自宅であるマンションに戻るところだったのだが。
偶然ユニコーンに会ってしまったのが運の尽きだろう。
「手伝ってくれてありがとね、オネーサン♪」
「…」
にっこりと子供っぽい笑顔で夕陽色の瞳を細める御先。
鬼斬は特に会話をする気はないらしく、無言のままユニコーンが消えていった方向を睨むように見つめているだけだ。
その2人を一瞥すると、翼はふぅ、と小さく溜息を吐いた。
「前もって言っておくけど」
彼女は、そう言い置いてからゆっくりと口を開く。
「…僕の嫌いなモノの1つが、男なんだ」
その言葉に、思わずきょとんとする御先。
鬼斬はまたもや大して気にしていないらしく、そうか、とだけ呟くとまたユニコーンが消えていった方向を眺め出す。
「……マジですか?」
「嘘をついてどうするんだ?
 本当のことに決まってるだろう」
「えー…オネーサンホントに男嫌いなの?」
残念そうに食い下がる御先に、翼は呆れたように言葉を返す。
「嫌いだよ。
 まぁ、勿論例外だって幾らでもいるし、間違っても怖いわけじゃない。
 場合によって対応が冷淡になるだけさ」
嫌いだからね、と更に付け足して念を押すように言った翼に、御先はぶー、と子供みたいに頬を膨らませる。
しかしすぐに笑顔になると、翼の手をぎゅっと掴んで話し出す。
「だったら、俺とトモダチになってちょ!」
「……は?」
あまりにも唐突なその言葉に思わず目を見開く翼に、御先は一層にこにこと笑って話し続ける。
「それでいっぱい話をすれば、嫌いじゃなくなるかもしれないっしょ?」
なんの脈絡もないその言葉に、翼は酷く困惑した。
嫌いだと宣言した相手にここまで食い下がられるとは思わなかったのもあるが、この無邪気さがどうにも苦手な気がする。
「…何故そういう考えに持っていけるんだ?」
「え?だって普通そう考えない?」
そう言って小首を傾げた御先に、翼は呆れを通り越して思わず脱力した。
「…キミは…いや、もういい…」
首を横に振って深々と溜息を吐く翼。
ふと視線を向けると、鬼斬が此方を観察するように見ていることに気づく。
「…キミまで同じことを言い出すんじゃないだろうね?」
可能性は低いと思いながらも、念のためと顔を顰めて聞く翼に、鬼斬は小さく首を左右に振った。
「……俺はそいつと違って無闇に交流を深める趣味はない」
「そうか。それを聞いて安心したよ」
そう言って肩を竦めた翼に、鬼斬はまた興味を無くしたかのように自分に纏わりつく毛玉を指先で弄びながら相手をし始める。
「ちぇー。きーちゃんもオネーサンもつめったいのー」
「『きーちゃん』?」
聞いたことのない名前に翼が眉を潜めると、御先はあぁ、と言って手を打った。
「鬼斬のコトだよ。鬼からとって『きーちゃん』。
 味気ない名前よりはよっぽど可愛らしいと思わなーい?」
頬に手を添えて乙女チックなポーズをとりつつ笑う御先に、翼は呆れたように溜息を吐いてから鬼斬を見た。
鬼斬は翼の視線を受け、首を静かに横に振った。…既に諦めているらしい。
「……それよりも、早くユニコーンを捕まえに行かなくていいのか?」
ぽつりと呟かれた鬼斬の言葉に、1人で勝手に話をしていた御先ははっと思い出したような動きをすると、翼に詰め寄った。
「そうだった、すっかり忘れてた!
 …ねぇオネーサン、ユニコーンが何処に行ったか心当たりある?」
真顔でそう問われ、翼は小さく頷くと此方も真剣な顔で口を開く。

「…キミ達は『思い出の場所』だと言ったね?
 思い出の場所だと…おそらく、ヴァンパイアの神祖の居城だな」

翼の言葉に首を傾げる御先と、どこか納得した様子の鬼斬。
「ヴァンパイアの神祖?」
「…なるほど。
 人間界にもヴァンパイアがいると聞いていたが…お前はその関係者か。
 変わった力を持っているのもそれに関係していると考えてよさそうだな」
「まぁね。…人間界『にも』ってことは、黒界とやらにもいるんだ?ヴァンパイア」
「あぁ。まぁ、お前を見る限りでは恐らく此方のヴァンパイアの方が弱いだろうが」
「そうなんだ」
「…なんかオネーサンときーちゃんだけで解り合っちゃっててずるーい」
淡々と進められる翼と鬼斬のトークに、御先がつまらなさそうに口を挟む。
それを煙たそうに見た翼は、また口を開いた。
「ちょうど考え事をしてたから、あの時覗かれたとしたらそこの可能性が一番高い」
そうきっぱりと言い切る翼の言葉に嘘はない。
そのことを察した2人は、こくりと小さく頷いた。
「僕としてはユニコーンがそこに辿り着く前に追いつくことをお勧めするね」
「恐らくその方がいいだろうな」
「ユニコーンが何するかわかんないもんね」
下手をすれば神祖の城を破壊しようと暴れ出す可能性もある。
光と闇の相反する者は、惹かれ合えば強い力を手にすることができるが、敵対すればこれ以上危険な相手はいない。
ユニコーンは特に闇を毛嫌いする傾向があるため、あまり笑えない状況だったりするのだ。
「じゃあ、長居は無用だね。
 早く追いかけよう」
「あぁ」
「オッケー♪」
とん、と同時に地面を蹴った3人は、体重をまるで感じさせない跳躍力を発揮。
そのままふわりと羽根が落ちるように見通しのいい屋根の上に着地すると、ユニコーンを捕捉しやすい屋根の上を移動し始めるのだった。

十数分後。
翼自身の身体能力が非常に高い事もあって、3人の移動は予想以上にスムーズに進んだ。
たまに軽口を叩く御先に翼が律儀に答えつつ、また、鬼斬がそれを無視して黙々と移動していると、目の前の景色の中に大きな影が現れた。
それは徐々にその姿をはっきりと現していき、ついには月の光に照らされ、はっきりと窓の位置すら確認できるほどになる。

――――――城だ。
大雑把に例えるのならば、ディズニーランドのシンデレラ城。
とはいえ、アミューズメントパーク専用の作られたものとは違い、長い時を刻んでいる証がそこかしこに現れており、それゆえの威厳というか…重々しい雰囲気を纏っている。

「うっわー、おっきな城だねー」
しかし御先にとってはその一言に限るらしい。
そこから迸る闇の力と空気を漂う血の香を知っていながらそんな軽口を叩けるとは、ある意味賞賛に値するかもしれない。
「…これが、神祖の居城だよ」
地を蹴り城に向かって跳びながら、翼がやや強張った表情でそう呟く。
「残念ながら、間に合わなかったみたいだね」
そう言って溜息を吐く翼だったが、隣に並んだ鬼斬が僅かに目を細めた。

「―――いや。どうやらそうでもなさようだ」

「え?」
鬼斬の言葉に翼がその視線を追う。
その先に、1つの影が見える。
すらりとした体躯は、縦よりも横に長いようだが、だからといって太っているわけでもない。
非常に奇妙な影だ。
「…どうやら、お馬サンがお待ちかねみたいだねー☆」
御先の呑気な台詞に、翼も納得がいった。
―――そこにいるのは、ユニコーンだ。
そう認識した途端、月の光が射してその姿をくっきりと映し出した。
薄緑色のすらりとした胴体に、クリーム色のタテガミと尾。
額に鎮座する天を突くような角。
顔はこちらに向けられており、紅色の瞳はどこか楽しげに眇められている。
まるで待ち構えるかのように堂々と立つ姿は、凛としていてどこか神々しささえ感じさせた。
3人はその影の3mほど手前に着地する。鬼斬の属性や翼の特異な能力を考慮してのことだ。
すとん、と軽く地を叩くような音を出して足を着けた3人。
それを確認したように目を動かしたユニコーンは、軽く身体を振るわせた。

【―――待ちくたびれたぞ】

瞬間、ユニコーンの声が直接頭の中に響いてくる。
既に一度経験済みなので翼は大して驚くこともなく、冷静にユニコーンに声をかけた。
「…なんで城の中に入らなかったんだ?」
それは翼にとって疑問でしかなかったものだ。
自分達を待っているほどの余裕があるのなら、城に侵入を試みることだって、上手く行けばすぐに中に入ることすら出来る筈。
それをしなかったのはどうしてか、どうしても聞いてみたかったのだ。
その質問に鼻を鳴らすように息を吐いたユニコーンは、
【――しれたこと。
 我はそやつらに捕まえてみろと言うておったのだぞ?
 だのに我が関係のないことで疲れきってしまったり、下手をしたら死んでしまう可能性があることを率先してやるわけがなかろう】
とさらりと言った。
実際ユニコーン側には約束を守らないで逃げ切る、という選択肢もあったのだが…中々律儀というか生真面目というか…。
そんなユニコーンに、翼は思わず溜息を吐いた。
それを横目で見ながら、ユニコーンは看視者の2人に視線を移す。
【―――看視者よ】
「はいはーい」
「…なんだ」
ユニコーンの呼び声におちゃらけて答える御先と、仏頂面で答える鬼斬。
そんな対照的な2人を見て面白そうに目を細めたユニコーンは、すぐに重々しい声で話し出す。
【我の行き先を知ったまでは良かったが、追いつくまでには至らなかったようだな。
 残念な話だ】
本当に残念そうに呟く声に、御先の表情が若干強張った。鬼斬も一瞬だけ眉をぴくりと釣り上げる。
その様子を眺めながら、ユニコーンは軽く目を閉じて、言葉を続けた。

【…よって、角の話は無―――】
「ちょっと待ってくれないか」
無効、といい終わる前に凛とした声が続きを遮った。
翼だ。
「オネーサン?」
きょとんとする御先の視線を軽く流し、翼はしっかりとユニコーンを見据える。
【―――主は…先刻の】
「翼。蒼王・翼だ」
きっぱりと名乗られ、ユニコーンは思わず小さく笑った。

【―――翼、と言ったな。
 名乗られたら名乗り返すのが礼儀というもの。此方も名乗るとしよう。
 …我はセリル。ユニコーンのセリルだ】

そう言って礼をするように頭を下げるユニコーン…セリルに、翼もよろしくと軽く頭を下げてから顔を上げた。
「―――いきなり本題に入らせて貰うけど。
 セリル、キミの角が黒界に必要な事は…知っているんだね?」
【無論】
真面目な顔で問いかける翼に、セリルは小さく頷く。
【そやつらから全て聞いて知っておる。
 黒界で古き奇病が再発、蔓延しつつあることも。
 その治療の特効薬が我の角であることも】
「…なら、どうしてこんな条件を?
 嫌ならきっぱりと断ってしまえばいい。
 キミの体の一部なんだ、決定権はキミにあるはずだよ」
「オネーサン!?」
淡々と翼が告げた言葉に、御先が非難するような声をあげる。
しかし翼は御先を一瞥して黙らせると、セリルを再度見た。
「悪いけど、僕は彼ら看視者とは一時的に協力をしていただけの関係に過ぎない。
 キミのことを僕が強制するつもりはないぜ」
【……なるほどな】
肩を竦めながらそう言うと、セリルはどこか面白そうに目を眇める。
【その特異な能力といい、その性格といい、中々面白い娘だ。
 実に興味深い】
くく、と喉を鳴らしながら笑ったセリルに翼は思わず眉を寄せた。
【すまない、つい、な。
 気を悪くしたのなら謝ろう。
 別に主を馬鹿にしたわけではないのだ】
「…別に、大して気にしてないさ」
謝る気があるのかよく解らない謝罪にふいっと顔を背けた翼に、セリルは愉快そうに笑いながら再度声を発した。

【――――――よかろう。
 この角、主らに分けてやる】

「……え?」
「ホント!?」
唐突に意見を翻したセリルに思わず翼は間抜けな声を零す。
一歩後ろでその様子を見守っていた御先は、その言葉に嬉しそうに身を乗り出した。

【面白い…いや、非常に興味深い存在を連れてきて貰った礼、と言う事にしておこう】
「……僕は見世物じゃないんだけど?」
【そんなことは解っている。ちょっとした言葉のあやだ】
むっとして呟く翼に、くすりと笑いながら言葉を返すセリル。
未だに少々納得行かない表情の翼を他所に、鬼斬は隣を浮遊していた毛玉に顔を向けた。
「…玉(ギョク)。『鬼斬』を」
ぽつりと呟かれたその名に翼は思わず小さく首を傾げる。
何故自分の名前を毛玉に向かって呟いているのだろう、と。

が、毛玉は鬼斬の言葉に「ワカッタ」と言うと、がばっと唐突に口を開いた。
直径20cmはあるだろう巨大な口の奥は、真っ黒でまるでブラックホールのようだ。
思わずじっと見てしまうと、その黒い穴から、唐突にぬっと細い影が現れた。
―――刀の柄だ。
黒塗りの柄は一切の装飾もなく、辛うじて刀の柄と解るくらい簡素なものだった。
鬼斬はさして驚いた様子もなくその柄に手をかけると、ぐっと自分の方に向かって引く。
ずるり、という効果音が似合いそうな動きで、毛玉の口から刀が引き出された。
鞘に入ったそれは、やや長めの日本刀。
その鞘もまるで闇のように真っ黒で、装飾らしい装飾は全くなかった。
生き物の口から出てきたにも関わらず、それには一切の液体すら付着していない。

まさか目の前でこんな異様な光景が繰り広げられるとは思わなかった翼は、思わず目を見開いてしまう。
「驚いたっしょ?
 玉の体の中はブラックホール並みの収納箱みたいなモンになってるんだよー?」
にしし、としてやったり顔で御先が翼の顔を覗き込む。
それにはっとした翼はすぐに表情を戻し、鬼斬の動きに目を戻した。

鬼斬はその柄をしっかりと握ると、軽く上下に振る。
その動きに合わせて、鞘はするりと滑り落ちた。
そこから現れたのは…まるで血のような紅色の刀身。
月の光を浴びて、それは赤黒く輝いていた。
【…ほぅ、中々美しい刀を持っているな、闇の】
「……」
少々感心した様子のセリルの言葉にも表情1つ変えることなく、鬼斬は刀を軽く振ってから、刃を角の先端付近に宛がう。
「…一瞬で済ます」
【あぁ、そうしてくれ】
鬼斬の呟きにセリルが頷いた瞬間、鬼斬の手が一瞬だけブレた。
―――――直後。
ず…とセリルの角が先端から数cm程下の所で、不自然にずれた。
そのまま支えを失って落下する角の先端。
それは、鬼斬の出した手の中にすとんと静かに収まった。
「…終わったぞ」
【の、ようだな。
 中々良い腕前を持っているようで安心したぞ】
「……」
満足げに言うセリルの言葉に無言で返した鬼斬は、すぐに身を翻す。
「…帰るぞ」
「あ、うん」
任務は終わったとばかりにとっとと帰ろうとしている鬼斬の背中を追いかけようとした御先だったが、翼の姿を視界に収めて、その足を止めた。
「…きーちゃん、ちょっと待って」
「……」
鬼斬はその言葉に思いの外素直に従い、足を止めて振り返る。
御先は納得行かない様子で佇む翼に駆け寄ると、にっこりと微笑みかけた。
「えっと、オネーサン、お手伝いしてくれて有難う。
 これ、ささやかだけどお礼のシルシだよ♪」
そう言いながらぎゅっと両手で翼の手の平を包んだ御先は、半ば無理矢理翼の手の中に何か小さな物を手渡す。
解放された手の中にあるものを確認した翼は、訝しげに眉を寄せた。

「―――種?」

それは、向日葵の種ぐらいの大きさの、幾つかの種。
しかしそれは普通の種とは違い、透明で向こう側がぼんやりと透けて見え、また月の光を受けて七色に変化する。
その不思議な輝きは、少なくともこの世界のものではないことは容易に理解できた。

「それは虹蘭花(コウランカ)って言う黒界に生えてる花の種なんだ。
 花の形は人間界で言う百合に近いかな。色は種を見れば分かると思うけど、七色に変化するんだよ☆
 水分さえあればどこででも育つし、水をやらなくても自分で空気中の水分を吸収する変わった花なのだ!!」

ふふん、とまるで自分の事のようにふんぞり返りながら言う御先に、翼は思わず小さく笑う。
「…そうか。別にお礼が欲しかったわけじゃないけど…ありがたく受け取っておくよ」
「うん!」
翼の返事に嬉しそうに頷いた御先は、くるりと身を翻して小走りで鬼斬の所へ駆け寄り、もう一度此方を振り向いた。

「今日は本当にありがとね、オネーサン!
 セリやんも角提供してくれてアリガト!!
 じゃあ、バイバーイ☆」
「…今日は世話になったな」
ぶんぶんと両手を振る御先と小さく頭を下げた鬼斬は、進行方向に身体を向けると地面を軽く蹴る。
行きよりも高い跳躍を見せた2人は、あっという間に木々の中に紛れて消えてしまった。

「…なんだか、嵐みたいな人達だったな…」
【我など『セリやん』などと珍妙な呼び名をつけられてしまったぞ】
2人を見送ってから思わずぽつりと呟いた翼に、まだ帰っていなかったセリルが言葉を返す。
そう言えばまだいたんだった、と思い出した翼はセリルに視線を戻し、彼の顔を覗き込む。
「…それで、キミはこれからどうする?
 神祖に戦いを挑むつもりだったら、僕は止めたいところなんだが」
翼の問いかけに、セリルは緩く首を左右に振る。
【いや、止めておこう。
 角を提供したことで多少だが力が減少しているし、折角の興味対象と闘うつもりもないからな】
「…そ。それを聞いて安心したよ」
それじゃあ僕も帰ろうかな、とセリルより一歩分前に踏み出した翼の背に、セリルの声がかけられた。

【―――我の力が必要になった時は我が名を呼ぶが良い。
 我にできる限りの範囲で力を貸そうぞ】

「…?
 それは一体どういう―――」
意味深な言葉に翼が思わず振り向いた時、既に其処にセリルの姿はなかった。

あっという間に静かになった場所。
先ほどまで妙に騒がしかったせいか、静寂を少しだけ寂しく感じた自分に、翼は思わず自嘲気味に笑う。
手の中には、虹色に輝く種が数個。
幾つかの種のうちの1つを指先で摘んで月の光に透かすと、月が虹色に光ながらぐにゃぐにゃと歪んでいた。
「……まぁ、いいか」
たまにはこんな日も悪くはないかもしれない。
…あくまで、『たまには』…だが。
種を着ていた服のポケットにそっとしまい込んで、翼は地面を蹴ってふわりと飛んだ。
自分の住むマンションへ帰るために、高く、高く。


――――月の光を、その美しくしなやかな身に受けながら。


<結果>
交渉:成功。ユニコーンから角を分けて貰えることができた。
   ユニコーンの名前を知ることができた。
   ユニコーンは翼の能力に興味を持ったようだ。
報酬(?):虹蘭花(コウランカ)の種を入手。

終。

●登場人物(この物語に登場した人物の一覧)●
【整理番号/名前/性別/年齢/職業/属性】

【2863/蒼王・翼/女/16歳/F1レーサー兼闇の狩人/光&闇】

【NPC/鬼斬/男/?/狭間の看視者/闇】
【NPC/御先/男/?/狭間の看視者/光】
【NPC/わた坊(玉)/無性/?/空飛ぶ毛玉/?】
【NPC/セリル/男/?/ユニコーン/光】
■ライター通信■
大変お待たせいたしまして申し訳御座いませんでした(汗)
異界第一弾「ユニコーンの章」をお届けします。 …いかがだったでしょうか?
やはりというかなんというか、今回の参加者様方の属性は光・闇・無の3属性のどれかのみでした。
やっぱり地水火風の属性はあまりいらっしゃないんでしょうか?うーん…(悩)
また、参加者中、男性はたったお1人でした(笑)やっぱりその辺も特徴といえば特徴…ですか?(聞くなよ)
なにはともあれ、どうぞ、これからもNPC達のことをよろしくお願い致します(ぺこり)

NPCに出会って依頼をこなす度、NPCの信頼度(隠しパラメーターです(笑))は上昇します。ただし、場合によっては下降することもあるのでご注意を(ぇ)
同じNPCを選択し続ければ高い信頼度を得る事も可能です。
特にこれという利点はありませんが…上がれば上がるほど彼等から強い信頼を得る事ができるようです。
参加者様のプレイングによっては恋愛に発展する事もあるかも…?(ぇ)
また、登場する『あやかし』の名前を知ることができると、後々何かいいことがあるかもしれません(をい)

・翼様・
ご参加どうも有難う御座いました。
属性に関してはどうしようか悩んだのですが、結局光と闇を半分ずつ持っている、という形で採用させていただきました。
男が嫌い…と言われているにも関わらず、御先は大分馴れ馴れしく接してしまいましたが…大丈夫でしたでしょうか?(びくびく)
友達になろう宣言したり、勝手に手を握ったり、無駄にフレンドリーだったりと、ご機嫌損ねるようなことばっかりしてるヤツですみません…(汗)
また、居城については勝手に描写させていただきました。
ユニコーンには好かれも嫌われもしなかったようですが、興味は持たれたようです。いいんだか悪いんだか…(汗)
報酬(?)は役に立たない微妙なものですが、とりあえずお礼の印と言う事で受け取ってやってください(礼)

色々と至らないところもあると思いますが、楽しんでいただけたなら幸いです。
それでは、またお会いできることを願って。