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■アトランティック・ブルー #2■

穂積杜
【2093】【天樹・昴】【大学生&喫茶店店長】
 東京から出航、四国と九州に寄港し、最終的には沖縄へと向かうアトランティック・ブルー号。
 入手困難気味の乗船券を手に入れ、迎えるは出航日。
 不穏な乗客に何かが起こりそうな気配を感じるも、船は無事に港を離れた。
 
 しかし。
 
 差出人不明の脅迫状。
 謎のぬいぐるみ。
 幽霊船の噂。
 狙われている存在とそれを狙う存在。
 客としてまぎれこんでいる異質な何か。
 三つの品物の写真。
 そして、姉妹船と航路の謎。
 
 哀しいかな、予感は的中。
 楽しい旅路で終わるわけもなく……事件は起こった。
 アトランティック・ブルー #2
 
 心配かけてごめんなさいと素直にぺこりと頭を下げる。
「……よかった。心配したんだよ〜」
「具合の方はもう大丈夫ですか?」
 そんな声が戻ってきた。
「はい、もうすっかりしっかりばっちりです」
 元気になりましたと昴は答える。医務室でぐっすり眠ったおかげで頭はすっきりしている。
「それならよかったけど。そうそう、二人とも船内を歩いてみてどうだった? 俺はちょっと気になる女性に会ったんだけど」
ほっと息をついた荘はそんなことを話しはじめた。
「なんていうか、華やかな雰囲気を漂わせているんだけど……時折、ふいっと視線を鋭くするというか……ちょっと気になって声をかけてみたんだけど、やっぱり何か問題を抱えているみたいだったな……」
 その女性のことを思い出しているのか、荘は遠い眼差しで語る。
「俺もそんな雰囲気の女性を見かけたよ、荘さん」
 そう言ったのは弧月だった。そして、茶色の封筒を取り出すとそのなかから写真を四枚ほど取り出し、テーブルの上へと並べる。
 一枚は、恰幅のいい中年の男。
 一枚は、古そうな鏡。
 一枚は、絵巻物でも入っていそうな細長い桐の箱。
 一枚は、龍宮城の玉手箱を思わせるような漆の箱。
 それらを示しながら弧月は言葉を続けた。
「その雰囲気が気になって、声をかけてみようとしたけれど、その前に席を立ってしまって……そこに残されていたものが、これ。彼女は写真の……この男を見張っているように思えたよ」
 弧月は恰幅のいい中年の男の写真を指で軽くとんとんと叩いた。
「へぇ、なんだかその女性も気になるね……」
 荘は呟きながら、写真を覗き込むように見つめる。昴は同じように写真を覗き込み、はっとする。
 そこにある写真は、自分が月読で見たものと同じ。
 そうなると、弧月が会ったという女性は。
「その女性、こんな感じのイヤリングをしていませんでした?」
 昴はそんな言葉と共にイヤリングを差し出した。そして、二人の反応を見やる。
「あ!」
「あ……」
 二人は同時に声をあげ、驚く。
 その動作で確信した。
「やはり……」
 月読が告げるとおりなのかもしれない。昴は神妙な顔で視線を伏せ、呟く。
「やはり……?」
「彼女と関わったのは、まったくの偶然でした。……いえ、その、ちょっと道を尋ねようかと……いや、まあ、それはともかくとして、どうやら彼女と俺たちの未来は交錯するようですよ……」
 視線を戻し、昴は二人に告げた。
「それは……」
「ええ、月読によるものです。彼女に触れたとき……」
 昴は弧月が並べた写真を見やる。
「これらが見えました。それから、何故か……このトランクも」
 今回の依頼で運んでいるトランク。それが見えたことを告げると、荘は明らかに困惑した表情を見せた。
「え、これ?」
 そう、それ。昴はこくりと頷く。
「そういうわけで、これを調べてもらえると」
 そして、弧月の手にイヤリングを渡した。弧月の持つ物に触れることでその物が重ねてきた時間を読み取る力、サイコメトリーであれば、このイヤリングから情報を引き出すことができるはず。
「ところで、彼女のイヤリングをどうして昴くんが持っているんだろう?」
「実は、具合が悪いところを介抱していただいていたりなんかして……そのときに引っ掛かってしまったんでしょうね」
 なくしてしまって困っているかもしれませんねと昴は少し困ったような笑みを浮かべる。
「弧月さん、この写真も調べてもらえますか? あ、それとも、もう調べたかな?」
 荘はイヤリングの情報を読み取る弧月に言った。
「ああ、写真の方は既に。わかったことは、手紙にあるようなことと……ああ、手紙が一緒に入っていますよ」
「手紙?」
 封筒を手に取り、中身を確認する。なかに入っていた手紙を取り出し、目を通す。そのあと、自分へと差し出した。それを受け取り、同じように目を通す。
『ひとつは陸路、もうひとつは海路、残るひとつの経路は不明だ。私は陸路を押さえる。君は海路をよろしく頼む。乗船券はどうにか手配した。三上。追伸。あまり無茶はしないように』
 手紙にはそう書かれていた。
 彼女は電話をしていたが……その相手がこの手紙にある男なのかもしれない。この手紙とあの電話の内容は一致する。
「他には、その中年の男の名前は南条というらしいことと、どうやらその三つの品物は沖縄で取引されるらしいこと、かな」
 弧月は言う。それから、手にしていたイヤリングを写真の横に置いた。
「このイヤリングで彼女の今日の一日の行動がわかったけれど……ずっと、この南条という男を追っていますね。その途中、昴さんと会って……」
「こうなる、というわけか……」
 荘の言葉に弧月はこくりと頷く。
「少し気になるのは、彼女の行動は……どうにも素人で……いや、素人なんだろうけど、こういうことに関して。……もしかしたら、相手に気づかれているかもしれない」
 なんともいえない顔で弧月は言った。
「……」
 お互いに表情を確かめる。
 その瞳を見て、意思は同じだと確信した。
 
 預かっているトランクのこともあるので、ひとりは部屋に残ることにし、夕食も交代でとることにした。順番としては、自分が見張りの番であるので、昴は素直に荘とダミーのトランクを持った弧月を見送った。
 トランクを狙っているものが本当にいるのかどうかを話し合った結果、ダミーのトランクを持って船内を歩いて相手の出方を窺うことに決めた。弧月はその囮を引き受けた。
 二人を見送ったあと、部屋で話し合ったことを考える。
 彼女は、南条というあの男を追っていた。
 それが何者であるのかはわからないが、とりあえず、写真にある三つの品物を所持しているらしい。とはいえ、三つの品物は三つの方法で運ばれているらしいから、実際に南条が手にしている品物はひとつかもしれない。
 まず、あの男が何者であるかをはっきりさせよう。
 あの男の写真を撮り、身元調査を依頼して……身辺警護を配置しているかどうかも気になるところだ。それに、仲間がいるのかどうかも。
 そういえば。
 ふと、弧月が持ってきた写真のなかに男の写真があったことを思い出す。
 撮りに行かなくてもいいか……楽ができるところは楽をしよう。写真は借りることにし、あれこれと考える。
 そのうちに弧月が戻ってきた。
「あれ、早いですね」
 思ったよりも早く戻ってきた弧月に声をかける。
「ええ。もう少し歩いてみようとは思っていますが、昴さん、何も食べてないでしょう? とりあえず、夕食を終えてきたらどうかなって」
「お気遣い、どうも」
「いえいえ」
 お互いに穏やかな笑みを浮かべながらそんな言葉を交わし、部屋を出て行こうとしたところで、写真のことを思い出した。
「あ、さっきの写真、少しばかり貸してもらえませんか?」
「え? あ、はい。どうぞ」
 差し出された封筒のなかから、男の写真を失敬する。
「では、借りていきますね」
 そして、部屋をあとにすると、インターネットルームへと向かう。
夕食時であるせいか、それとも他に楽しむ場所があるからか、インターネットルームの利用者はほとんどいない。いくつかのパソコンが置かれ、衝立で仕切られているが、そのほとんどの場所が空席だった。適当な場所を選び、椅子に腰をおろす。
 利用するにあたって、ブルーカードが必要とある。必要最低限の管理かと『カードを置いてください』とある場所にカードを置いた。
 写真をスキャナでとりこんだあと、チャットを使い、昔なじみのハッカーへその画像を送る。その画像の人物……おそらく名前は南条……と、それを追う彼女……の画像はないが、名前はわかっているので、その名前を告げて身辺調査を依頼すると、それほどの時間を要さずにすぐに返答があった。
 楽勝という言葉と共に送られてきた情報によると、男の名前はやはり南条であっていたらしく、南条優とあった。古美術の買いつけなどを行っている人物であるらしく、そこそこの資産家。取引についてはやや強引な面があるらしいが、その手腕は確かとある。表向きは博物館など硬い方面と取引を行っているが、裏では盗品なども扱っているらしい。現在は豪華客船にて船旅を楽しんでいる最中ということで、客室の番号の情報を得た。
 その南条を追っている彼女……夏目弥生に関しては、大学生でとある博物館でアルバイトをしているとあった。特にこれといった問題もなければ、裏もなく、極めて一般的な市民といえた。
 とりあえず、簡単にわかったことはその程度で、さらに時間をかければもう少し深いこともわかるということだった。ならば、もう少し深いところも調べてみてくれと依頼し、インターネットルームをあとにした。
 弧月が見張りを変わってくれているようなものだから、そんなに長い時間はかけられない。なるべく早く食事を終えて部屋に戻ろうとは思うが、せっかく、得た情報。南条の客室の位置くらいは把握しておこうかと足を運んでみる。
 慎重に進み、もう少しで問題の客室だというとき、不意に目の前を見知った女性が駆け抜ける。……彼女だ。
「あ……」
 声をかける間もなく、彼女は走り去る。どう見ても慌ただしく、尋常ではないと思っていると、何人かの男が通りすぎた。
「!」
 どう見ても、追手。迷う必要もない。すっと足を伸ばし、後続を転ばせたあと、彼女を追っている男たちを追う。
 追いつくことは、さほど難しいことではなかった。角を曲がったところで、彼女は追いつかれ、腕を掴まれている。抵抗してはいるが、大した威力はなく、意味もない。
「離してっ……」
「おとなしくしろ……うっ」
 自分の方にはまるで気を配っていない。そんな相手を気絶させることはそう難しいことでもなかった。ひとりを気絶させる。残りは、二人。
「なんだ、貴様は……」
「あなたは……」
 そんな言葉を受けながら、身構えたものの、さらに追手が増える気配を感じ、彼女の腕を取ると走りだす。
「こっちです」
「え? あ、はい……!」
 追手を背中で感じながら、通路を走り、角を曲がる。非常階段とある扉を見つけ、そこに手をかけた。開いた扉の向こうに彼女の口許と身体を押さえ、抱き寄せるようにして身を隠す。
 足音が遠のいたことを確認して、ほっと息をつく。
「これで、ひとまず安心……?」
 ふと手に触れているものがふくよかであることに気づいた。やわらかいそれが彼女の胸であると悟った瞬間、弁解する余地もなく、頬を平手が襲っていた。
 
 はっと意識を取り戻す。
 そこは見知らぬ部屋。
 手足の自由はきかない。
 どうやら縛られているらしい。
「気がつきました……?」
 彼女の声に顔を向ける。そこには、手足を縛られている状態の彼女がいた。
「私の平手打ちくらいで気絶しないでください……なんだか、私が馬鹿力みたいじゃない……」
 少し拗ねたような、困ったような笑みを浮かべ、彼女は言う。
「すみません……」
 でも、効きました……かなり。目の覚めるような……いや、意識を失うような鋭い一撃だったとしみじみ思う。
「ここは……?」
「捕まってしまいました……ごめんなさい、あなたは関係ないのに……」
「いいえ。気にしないで下さい。言ったじゃないですか」
 昴は少し困ったような笑みを浮かべた。
「この先も関わるって……?」
「そうです」
 それにしても、どうしたものか。
 そういえば、どれくらい時間が過ぎたのか……二人はどうしているだろう……と、いうか、また行方不明ですみません……昴は心のなかで二人に謝り、ため息をついた。
 
 −完−


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【2093/天樹・昴(あまぎ・すばる)/男/21歳/大学生&喫茶店店長】
【1085/御子柴・荘(みこしば・しょう)/男/21歳/錬気士】
【1582/柚品・弧月(ゆしな・こげつ)/男/22歳/大学生】


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■         ライター通信          ■
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ご乗船、ありがとうございます(敬礼)
お待たせしてしまい、大変申し訳ありませんでした。

相関図、プレイング内容、キャラクターデータに沿うように、皆様のイメージを壊さないよう気をつけたつもりですが、どうなのか……曲解していたら、すみません。口調ちがうよ、こういうとき、こう行動するよ等がありましたら、遠慮なく仰ってください。次回、努力いたします。楽しんでいただけたら……是幸いです。苦情は真摯に、感想は喜んで受け止めますので、よろしくお願いします。

こんにちは、天樹さま。
納品が遅れてしまい大変申し訳ありません。
予定どおり(?)……捕まりました。
軟禁状態です。扉の向こうには見張りがいそうです。ちなみに縄で縛られています。

今回はありがとうございました。よろしければ#3も引き続きご乗船ください(少々、オフが落ち着かぬ状態で、窓を開けるのは六月の中旬頃になりそうです。お時間があいてしまいますが、よろしければお付き合いください)

願わくば、この旅が思い出の1ページとなりますように。