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■アトランティック・ブルー #2■

穂積杜
【1582】【柚品・弧月】【大学生】
 東京から出航、四国と九州に寄港し、最終的には沖縄へと向かうアトランティック・ブルー号。
 入手困難気味の乗船券を手に入れ、迎えるは出航日。
 不穏な乗客に何かが起こりそうな気配を感じるも、船は無事に港を離れた。
 
 しかし。
 
 差出人不明の脅迫状。
 謎のぬいぐるみ。
 幽霊船の噂。
 狙われている存在とそれを狙う存在。
 客としてまぎれこんでいる異質な何か。
 三つの品物の写真。
 そして、姉妹船と航路の謎。
 
 哀しいかな、予感は的中。
 楽しい旅路で終わるわけもなく……事件は起こった。
 アトランティック・ブルー #2
 
 不意に手に入れた写真と手紙。
 ひとり部屋で過ごしながら、それらについて考える。
 重ねた時間を読み取る力で、写真から情報を引き出すことを試みると、封筒を忘れていった彼女ともうひとりが会話をしている光景が浮かんだ。
 会話の内容は、手紙に書かれていたようなこと。
 自分はこれを追う、君はこれを追ってくれ、もうひとつの経路は掴めなかった……そんなことを会話を交わしている。
 沖縄に運ばれて取引されるらしい、その前に取り戻す、或いは証拠を掴むことができれば、南条の罪を世間に暴くこともできる……そんなようなことも話している。
 そんな会話の内容から、恰幅のいい中年の男の名は南条であることを知り、あまり好ましくないことを行っているらしいことを知った。
「……」
 考えているうちに時間は過ぎ、扉が開いた。荘が部屋へと戻ってくる。
「あ、おかえり、荘さん」
「ただいま、弧月さん。昴くんは……まだ、みたいだね」
 なんとも言えない複雑な表情で荘は言う。確かに、昴は戻っていない。未だ船内を彷徨っているのか、それとも。
「具合が悪そうだったからね。どこかで休んでいるのかもしれないけれど……」
「うん……それにしても……」
 荘は心配そうに時計を見あげる。同じように時計を見あげたそのとき、扉が開いた。反射的に扉を見やる。と、そこには昴の姿があった。
「……あ、あー……ご心配おかけしました……」
 昴はすまなそうな笑みを浮かべ、ぺこりと頭を下げる。
「……」
 それを荘と共に見つめたあと、互いに顔を見あわせる。そして、どこか苦笑いのような、安堵の笑みを浮かべ、吐息をついた。
「……よかった。心配したんだよ〜」
「具合の方はもう大丈夫ですか?」
 そんな声をかける。
「はい、もうすっかりしっかりばっちりです」
 昴はにこやかに答えた。表情と態度からその言葉どおり体調は良くなったと判断できる。とりあえず、安心した。
「それならよかったけど。そうそう、二人とも船内を歩いてみてどうだった? 俺はちょっと気になる女性に会ったんだけど」
 安堵していると、荘はそんなことを話しはじめた。
「なんていうか、華やかな雰囲気を漂わせているんだけど……時折、ふいっと視線を鋭くするというか……ちょっと気になって声をかけてみたんだけど、やっぱり何か問題を抱えているみたいだったな……」
 その女性のことを思い出しているのか、荘は遠い眼差しで語る。
「俺もそんな雰囲気の女性を見かけたよ、荘さん」
 華やかな雰囲気を漂わせているものの、時折、視線を鋭くする女性。自分もそんな女性を見かけている。そして、その女性は忘れ物をしていった。弧月は茶色の封筒を取り出すとそのなかから写真を四枚ほど取り出し、テーブルの上へと並べる。
 一枚は、恰幅のいい中年の男。
 一枚は、古そうな鏡。
 一枚は、絵巻物でも入っていそうな細長い桐の箱。
 一枚は、龍宮城の玉手箱を思わせるような漆の箱。
 それらを示しながら言葉を続けた。
「その雰囲気が気になって、声をかけてみようとしたけれど、その前に席を立ってしまって……そこに残されていたものが、これ。彼女は写真の……この男を見張っているように思えたよ」
 そして、恰幅のいい中年の男の写真を指で軽くとんとんと叩き、示す。
「へぇ、なんだかその女性も気になるね……」
 荘は呟きながら、写真を覗き込むように見つめる。
「その女性、こんな感じのイヤリングをしていませんでした?」
 昴はそんな言葉と共にイヤリングを差し出した。その手のひらの上にあるイヤリングには見覚えがあった。
「あ!」
「あ……」
 自分が声をあげると同時に、荘も小さく声をあげている。その声に驚き、思わず顔を見あわせたあと、お互いを指で指し示す。
 もしかして。
「やはり……」
 昴は神妙な顔で視線を伏せ、呟く。
「やはり……?」
「彼女と関わったのは、まったくの偶然でした。……いえ、その、ちょっと道を尋ねようかと……いや、まあ、それはともかくとして、どうやら彼女と俺たちの未来は交錯するようですよ……」
 視線を戻し、昴は言う。
「それは……」
「ええ、月読によるものです。彼女に触れたとき……」
 昴は並べられている写真を見やる。
「これらが見えました。それから、何故か……このトランクも」
「え、これ?」
 昴は三つのトランクを見つめた。いきなりトランクを示され、荘は困惑した表情で小首を傾げている。
「そういうわけで、これを調べてもらえると」
 そう言い、昴はイヤリングを差し出した。弧月はそれを受け取り、その情報を読み取ろうと精神を集中させる。
 彼女がイヤリングを身につけて行った言動が脳裏に浮かぶ。支度をし、家を出て、この客船へ。それから、あの写真の男を見つけ出し、そのあとをずっと追っている。何気ない風を装ってはいるが、動きを追っているせいなのか、時折、視線が鋭くなる。基本的にこういった行動には不慣れなようで、見事な尾行をしている……とは言いがたい光景ばかりが浮かぶ。
「ところで、彼女のイヤリングをどうして昴くんが持っているんだろう?」
「実は、具合が悪いところを介抱していただいていたりなんかして……そのときに引っ掛かってしまったんでしょうね」
 なくしてしまって困っているかもしれませんねと昴は少し困ったような笑みを浮かべた。
「弧月さん、この写真も調べてもらえますか? あ、それとも、もう調べたかな?」
 イヤリングの情報を読み取っていると、荘が言う。
「ああ、写真の方は既に。わかったことは、手紙にあるようなことと……ああ、手紙が一緒に入っていますよ」
「手紙?」
 荘は封筒を手に取り、中身を確認する。手紙を取り出し、目を通す。そのあとで、手紙を昴へと渡した。
「他には、その中年の男の名前は南条というらしいことと、どうやらその三つの品物は沖縄で取引されるらしいこと、かな」
 弧月は言う。それから、手にしていたイヤリングを写真の横に置いた。
「このイヤリングで彼女の今日の一日の行動がわかったけれど……ずっと、この南条という男を追っていますね。その途中、昴さんと会って……」
「こうなる、というわけか……」
 荘の言葉に頷く。
「少し気になるのは、彼女の行動は……どうにも素人で……いや、素人なんだろうけど、こういうことに関して。……もしかしたら、相手に気づかれているかもしれない」
 お世辞にも上手い尾行だとは言えない。気づかれている可能性は十分に考えられるような気がした。
「……」
 お互いに表情を確かめる。
 その瞳を見て、意思は同じだと確信した。
 
 預かっているトランクのこともあるので、ひとりは部屋に残ることにし、夕食も交代でとることにした。順番としては、昴が見張りの番であるので、荘と共にそれじゃあよろしくと客室をあとにする。
「それじゃあ、あとで、弧月さん。……気をつけて」
「ええ」
 荘の言葉を受け取り、ダミーのトランクを持って歩きだす。トランクを狙っているものが本当にいるのかどうかを話し合った結果、ダミーのトランクを持って船内を歩いて相手の出方を窺うことに決めた。自分はその囮ということになる。本来ならば、その役目は自分が引き受けるべきだと荘は言ったものの、他に気にしていることもありそうだったので、自分がと引き受けた。
 船内を歩くついでに、インターネットルームへと向かい、知り合いの教授の助力を仰ぐことにした。
 夕食時であるせいか、それとも他に楽しむ場所があるからか、インターネットルームの利用者は少ない。いくつかのパソコンが置かれ、衝立で仕切られているが、そのほとんどの場所が空席だった。適当な場所を選び、椅子に腰をおろす。
 利用するにあたって、ブルーカードが必要とある。必要最低限の管理かと『カードを置いてください』とある場所にカードを置いた。
「さて……」
 写真をスキャナでとりこんだあと、メールに画像を添付して、教授へと送る。それから、電話で連絡を入れてみる。
 呼び出し音が何度か続いたあと、切り換わる。
『はい、どちらさまかな』
「あ、もしもし」
『その声は……君か』
 声でわかったらしく、ほんの少し、その声音がやわらかくなる。
「はい。こんばんは。唐突に申し訳ないのですが、少々、調べていただきたいことがあって、メールを送りました。添付してある画像がその調べていただきたいものなのですが……」
 そう告げると、受話器の向こうで移動するような音がした。パソコンを操作しているらしい音もする。
『どれどれ……ああ、これだね。鏡かな、これは。それと……細長い箱に、漆塗りの箱か……それから、おや、この男……』
 声の調子が変わった。
「ご存じですか?」
『ああ、確か……なんだったかな……』
「おそらく、名前は南条だと思うのですが」
 考え込んでいるところに名前を告げてみる。
『そう、それだ。彼は、エージェント……言ってみれば、仲買人か。売り手と買い手の間に立って、取引を仲介している男だ。そうなると……これらはこの男が関係した品物ということか……』
 受話器の向こうでは何やら調べているらしい音がする。
『ああ、わかったぞ。君が送ってきたこれらは、南条が取引をしている博物館に展示されているものだな』
 男の名前がわかっていたことが、かなり有利に作用したらしく、わりと簡単にそれがなんであるのかがわかる。
「博物館に展示されているものですか? それらは盗まれていたりはしませんか?」
『いや、特にそういった話はなさそうだ。確かめてみようか。このまま待てるかい?』
「あ、はい」
 そのあと、電話は保留へと切り換わり、流れる音楽を聞くとはなしに聞きながら、答えを待つ。しばらくすると、再び、切り換わった。
『待たせたね。かの品物だが、今も問題なく展示されているそうだ』
「そうですか……」
 自分が見た光景や会話によれば、これらの品物を追っているということなのだが……問題なく展示されているらしい。そうなると。
『ん? ああ、柚品くん……これはよくないぞ』
 不意に声が曇る。
「え?」
『この鏡だが……少々、いわくのある品物らしい。持ち主がよく変わっているが……その行く先々で不幸が起こっているな』
「不幸……ですか?」
 その不幸とは、おそらく運が悪いとかそういうものではなく、死に関わるものであるような気がした。
『その鏡に関わる女性のほとんどが変死を遂げている。……とはいえ、君は男性であることだし、問題はないか』
 そういう意味では問題はない。が、問題であるような気がする。
「教授……」
『冗談だよ。これは展示するには少々、危険だな。私の方から手を回して、博物館から引き上げさせよう』
 ありがとう柚品くんこれでまたひとつ危険なものが回収できたよと教授は言い、電話は切れた。
「……」
 確かに、そうであるならば良いのだが。
 博物館に展示されているというそれは、果して本物なのだろうか?
 そんな風に考えるのは自分の危惧だと言い切れるのか。
 ……言い切れないような気がする。言い切れないどころか、むしろ、展示されているものは偽物で、本物は沖縄で取引されようとしている……そんな風に思えてならない。
 それというのも、写真から読み取った情報のせい。
 手紙によれば、彼女は三つのうちのひとつを追っているらしい。それがどれであるのかまではわからない。
 だが、もし、それが……。
 弧月はため息をついたあと、インターネットルームをあとにした。
 
 −完−


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【1582/柚品・弧月(ゆしな・こげつ)/男/22歳/大学生】
【2093/天樹・昴(あまぎ・すばる)/男/21歳/大学生&喫茶店店長】
【1085/御子柴・荘(みこしば・しょう)/男/21歳/錬気士】


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■         ライター通信          ■
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ご乗船、ありがとうございます(敬礼)
お待たせしてしまい、大変申し訳ありませんでした。

相関図、プレイング内容、キャラクターデータに沿うように、皆様のイメージを壊さないよう気をつけたつもりですが、どうなのか……曲解していたら、すみません。口調ちがうよ、こういうとき、こう行動するよ等がありましたら、遠慮なく仰ってください。次回、努力いたします。楽しんでいただけたら……是幸いです。苦情は真摯に、感想は喜んで受け止めますので、よろしくお願いします。

こんにちは、柚品さま。
納品が遅れてしまい大変申し訳ありません。
前回は本当にすみませんでした。
文中にはありませんが、トランクを持って歩いた結果、彼女が追っていた男と一緒にいた面々と出会うと、視線を感じることになります。

今回はありがとうございました。よろしければ#3も引き続きご乗船ください(少々、オフが落ち着かぬ状態で、窓を開けるのは六月の中旬頃になりそうです。お時間があいてしまいますが、よろしければお付き合いください)

願わくば、この旅が思い出の1ページとなりますように。