■駅前マンション〜それぞれの日常■
日向葵 |
【0086】【シュライン・エマ】【翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員】 |
二十階建て各階五戸、屋上完備の4LDK。しかも新築で駅から徒歩五分程度。それなのに家賃はばかに安い。
今は現役を引退した老退魔師が大家と管理人を兼ねるこのマンションは、異様なまでに怪奇現象が多い。
土地柄のせいもあるのだが、人間世界に慣れない妖怪や人外の存在を次々と受け入れているためである。
しかしそれだけに、このマンションは騒ぎも多い。
謎の怪奇現象や人間世界の常識を知らない住民が起こす事件や、かつては凄腕の退魔師だった大家を頼ってくる人外などなど。
けれどまあ。
いつも大騒ぎというわけでもなく。
平和な毎日と、時折起こる事件と。
そんな感じに、駅前マンションの日常は過ぎて行くのだ。
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◆ライターより◆
・駅前マンションを舞台としたフリーシナリオ。完全個別ということで+500円しております。
別PCと一緒に描写してほしい場合は同時期に発注のうえ、プレイングにその旨明記をお願いします。
・怪奇事件との遭遇や日常生活風景的などなど。貴方の日常生活を好きに発注してくださいませ。今までの駅前マンションシナリオや日向 葵が担当したシナリオに関わるシチュエーションもOK。
・日向葵の他NPC、公式NPCなども登場可能。
下記以外のNPCに関しては、東京怪談個別部屋を参照願います。
http://omc.terranetz.jp/creators_room/room_view.cgi?ROOMID=397
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駅前マンションの怪
●眠りのマンション
……何かしら、この異様な眠気と状況は……。
くらくらとボケる頭を片手で抑え、シュライン・エマはなんとかその場に立っていた。
興信所の用事でやってきた駅前マンション。しかしそこは現在なんとも異常な環境に陥っていた。
まず最初の異変は、一歩入った途端に襲ってきた異様な眠気。……どう考えても、普通ではない。
とりあえず、一歩外に出てみる。
途端に頭がしゃきっとした。
「……」
ああ……やっぱり。
毎度おなじみ、駅前マンション内部でなにか妙な現象が発生しているらしい。
マンションの外から中の様子をよくよく観察してみると、見える範囲で十人近くの人間が、階段のところだとかコミュニティスペースのところだとかで寝こけていた。
毛布がかかっているのは、大家さんがやってくれたのだろうか?
そう思って大家さんの部屋の窓に目を向けると、人影が動いているのが見えた。どうやら大家さんはきちんと起きているらしい。
「事情をお聞きしてみましょうか」
何があったのかはわからないが、まずは事情を知らねば何もできない。
そう考えたシュラインは、大家宅のチャイムへと足を向けた。
●チャイナ服の少女を探せ!
毎度のごとくというか、いつもながら不思議なほどにチャイムの音から間をあけずに、管理人室の扉が開かれる。
「いらっしゃい、お嬢さん」
「こんにちわ」
入った瞬間眠気の消えたその空間をちょっと不思議に思いつつもにっこりと微笑んで返して、さあ聞いてみよう――と思った矢先にチャイムの音が鳴る。入ってきたのは天薙撫子。そして彼女に数分遅れでもう一人――三春風太という名前だそうだ。
適度にお茶とお菓子が出た頃、まず最初に口を開いたのはシュラインだった。
「どうなってるのかしら……。大家さんは何か知ってます?」
廊下側の窓の方にちらと視線を向け、シュラインは大家に視線を戻してから尋ねた。
それに対しての大家の答えは至極簡単。
「春の妖精が何故かここに留まっているんだよ。いつもならもう次の土地に行っている頃なんだがなあ」
「春の妖精?」
ぽかぽかと眠気を誘う暖かい陽気を思い出して、風太は楽しそうに聞き返す。
「もしかして……お団子頭にチャイナ服の女の子ですか?」
思い当たるところのある撫子の問いかけに、大家から肯定の言葉が返ってきた。
「おや、シュミンに会ったのかね」
「はい」
「シュミンちゃんって名前なんだ〜」
頷く撫子の後ろで、妖精の名前を知った風太が楽しげに彼女の名前を繰り返す。
大家の様子から察するに、その春の妖精は悪い子ではないらしい。つまり、意地悪して留まっているわけではないということ。……もしかしたらなにか困った事が起こって移動できなくなっているのかもしれない。
「まずは本人に直接聞きに行くのが良いかしら」
「ええ。でも睡魔をどうにかしませんと……。お祖父様、お部屋に張ってある結界を応用して彼女の眠気の効果を抑えることってできませんか?」
撫子の問いを聞いて、風太がなにやら考えこむ様子を見せた。
「風太くん?」
シュラインが尋ねると、風太はじーっと外を見て、
「シュミンちゃんは、ちゃんと眠れてるのかな? もしかして、ボクらに陽気を運ぶのに忙しくて寝る時間なかったりしないかな……?」
唐突にそんなことを言い出した。
ちょっと論点がずれているのでは? と思うシュラインと撫子であったが、それをそのまま口にしたりはしない。
「それじゃあ、その事を聞くためにも、シュミンを探さないとね」
大家に小さな簡易結界を張ってもらった一行は、春の妖精・シュミンを探すべく、管理人室を後にした。
●行き倒れ、一名。
階下から順に。春の妖精を探して上へと上へと昇っていた三人は、不本意に眠ってしまったのだろう者を発見した。
なんでそう思ったのかといえば、それは落ちていたカフェインの錠剤の瓶のせい。
「起こした方が良いのでしょうか?」
「そうねえ……」
撫子とシュラインは彼と面識があった。悠桐竜磨――このマンションの住民にして人外の存在である。
「でも、気持ち良さそ〜だよ?」
風太の一言もまあ、間違っていない。
春の妖精にして、春眠暁を覚えずの言葉通りの眠りをもたらす妖精でもある彼女の影響による眠りは、必ず良い夢が見られると言う。だから、竜磨の表情がけっこう幸せそうなのは不思議でもなんでもない……が、どんなに幸せな夢を見ていようが、眠りっぱなしでいたいと思うかどうかは別問題だ。
とゆーわけで。
「大丈夫ですか?」
ゆっさゆっさと揺らしてみる。
「悠桐くん、起きて!」
さらに揺らす事数回。
「ん……」
「おはよぉ、お兄さん」
「……おはよう」
なんとものんきな風太の挨拶に、寝ぼけ半分で答えてから、竜磨はぱっと起きあがった。
「ああっ!! あの子は!?」
「あの子?」
「春の妖精のことですか?」
撫子の問いに、竜磨はこくこくと頷いた。
「……早いところ探し出さないとマズイ」
キョロキョロと周囲を見るその様子に、シュラインが口を開いた。
「シュミンちゃんと会ったの?」
「ああ。ほんのついさっきね……多分」
多分と入ったのは、どのくらい寝ていたのかわからないからである。
「どーもあの子、自覚ないみたいなんだよな……自分が撒き散らしてる睡魔の威力に」
「……とにかくお祖父様の結界が消える前に探し出しましょう」
「ボクたちは下から順に見て回ってきたから、いるなら上のほうだよね?」
風太の言葉に頷いて、一行はさらに上へと昇っていった。
●風の知らせ
えっちらおっちら階段を昇り、一行がシュミンを見つけたのは十八階の廊下であった。
「あーっ、さっきのお兄さんっ」
お団子頭にチャイナ服の少女が、ぱっとこちらに飛んでくる。
「と、こちらさんは?」
「ボクねえ、風太!」
じっーっと見上げてくるシュミンに最初に答えたのは風太であった。元気に右手を差し出して、その意味を悟ったシュミンは小さな両手で握り返してくれる。
それぞれ名前を名乗って自己紹介を終えてから、一行はとりあえず管理人室へと戻ることにした。大家が用意してくれたお茶とお菓子を頂きつつ、シュミンに事情を聞いてみる。
「いつもならもう次の場所に行ってる頃だって聞いたんだけど……どうして今回はずっとここに留まっているの?」
シュラインの問いに、シュミンはんーっと考えるような仕草を見せた。
「わかんないっ」
「わからない……?」
「うんっ。だって風が吹かないんだもん」
「シュミンは風に乗って移動してたわけか」
「そぉよ。風が教えてくれるの。そろそろ次の場所に行きなさーいって」
「それが今回に限っては何故かなかったわけか」
単純に上手く風に乗れなかったとか道に迷ったとか言うならばまだやりようがあるのだが、風の知らせなんてどうやって探せばよいのやら……。
「そうねえ……去年から今年にかけて、新しくできたビルとかあるかしら」
もしかしたらそれで風の流れが変わったせいかもしれない。その考えには撫子と竜磨も同意した。
「だったら高いところにでも行ってみるか?」
とりあえず、この周辺で一番高い建物は実はここ……二十階建てマンションの屋上である。
「それじゃ、一緒に屋上に行ってみましょうか」
今度はエレベーターを使って、二十階まで上がり、そこからは階段で屋上へ。
高いところだけあって風は強い――と、しばらくして。
「そっかあ、高いところは風の声が聞こえやすいんだね。うんっ、良いこと知ったわ」
「……聞こえたの?」
「うんっ。どーもありがと〜」
「そーだ、忘れるとこだった。あのね、どうもありがとう。シュミンちゃんのおかげでボクら、ぽかぽか陽気の中ぐーっすりお昼寝できるんだよね」
にっこりと笑った風太に、シュミンがぱっと表情を輝かせる。
「嬉しい? 嬉しい? わーいっ!」
言うが早いかぴゅっと昇っていったシュミンは、あっという間に姿が見えなくなり……そのままどこか遠くへ飛んで行った。
●そして……
「あっ、聞き忘れちゃった……。シュミンちゃんはちゃんと眠れてるのかなって。よかったらシュミンちゃんも一緒にお昼寝しようよって誘おうと思ってたのに」
シュミンを見送った屋上で、突然そんなことを言い出す風太。
「そうねえ……。そういえばそもそも、妖精って眠るのかしら」
「さあな。とりあえず、オレは帰って寝る」
帰ってきた当初は大学に行く気でいたが、なんだかもうそんな気力もない。さすがにバイトは休めないが、それまでは思いっきり寝倒す気である。
「ちゃんと眠ってますよ、きっと」
確信のないことを言うのもどうかと思うが、少なくとも『忙しくて寝る時間がない』なんて事態とは無縁に見えたのでそう返しておく。
「ん〜……なんだかお昼寝したくなっちゃったな、ボク」
言いつつ、何故か出すのはお風呂セット。
「おねーさんたちも入る? 温泉であったまった後ってとっても気持ち良く眠れるんだよ」
――温泉効果かそれともシュミンの置き土産か。
その日の四人は、それぞれとても良い夢を見ることができたのだった。
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登場人物(この物語に登場した人物の一覧)
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整理番号|PC名|性別|年齢|職業
0328|天薙撫子 |女|18|大学生(巫女)
0086|シュライン・エマ|女|26|翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員
2133|悠桐竜磨 |男|20|大学生/ホスト
2164|三春風太 |男|17|高校生
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ライター通信
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こんにちわ、日向 葵です。
毎度おなじみ(?)駅前マンションご参加ありがとうございました。
>天薙さん
いつも大家と仲良くしてくださってどうもありがとうございます。
「お祖父様」と呼んでいただけたのはもう、本当に本当に嬉しかったですv
>シュラインさん
毎度お世話になっております。
眠りっぱなしの人へのフォローもいろいろ入れてくださったのですが、書く余裕がなくてすみません(汗)
>竜磨さん
カフェインで頑張ってくださったのですが……眠ってしまいました(をい)
眠っている人に対しての楽しい描写があったのですが、寝たおしてやろうプレイングがなかったので書く機会がなく……ちょっと残念です(苦笑)
>風太さん
はじめまして、こんにちわ。駅前マンションにようこそいらっしゃいました♪
可愛いプレイングが楽しくて、ついつい笑みが零れました。
可愛くも優しい風太さんの台詞がとてもとても嬉しかったです。
今回はご参加ありがとうございました。多少なりとも楽しんでいただければ幸いです。
それでは……またお会いする機会がありましたら、その時はどうぞよろしくお願いします。
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