■【深淵の欠片】<Voice>調書 ACT.1■
天瀬たつき |
【2334】【セフィア・アウルゲート】【古本屋】 |
ずっとずっと昔。
この世の中にはとても大きな、大きな化け物がいた。
大地をひと巻きするほどに巨大なそれは混沌とした意思を持ち、いかなるものも、自らの本能のままに飲み込んだ。
そんなある日、その化け物は勇気ある者たちによって倒された。
その身体は7つに分けられ、その際に生まれたごく小さな欠片は世界各地に飛び散った。
その化け物は欠片になってなおその邪悪を失わなかった。
大きな7つの欠片は7体の化け物へと変わり、小さな欠片は自らを手にした者に強大なる力を与えると共に自らの闇にその者を染めていった。
「……と、まぁ俺たちの間ではそんな話が伝わっている。この<Voice>が担う役目の一つがその欠片を見つけて破壊すること」
ここは照明も薄暗いバーのカウンター。カウンターの奥でバーテンダーが穏やかにそう告げる。
「俺たちの間では『深淵の欠片』って呼んでいる。それはごく小さい欠片だけど、それだけでも大きな力を持っていてね、持つ者に力を与える代わりにその者を乗っ取り支配する。……今回の事件も恐らく……」
カウンターに置かれた報告書。被害総数は5件。しかしいずれも異様な変死。
「あの欠片の大元、つまりその化け物は元々海洋に棲むという。水を使う術に長けている。そして、自らが生きる為に周りの者の生気を吸う」
……早急に対処しなくちゃいけない。バーテンダーはそう付け加えた。
「申し訳ないけれど、頼まれてくれないかな。欠片の居所は大方目星はついている」
彼がそういって差し出した写真にはごく普通の大学生の姿が映っている。
穏やかな表情をした、優しげな青年といった印象だ。
「彼が今、欠片を持っている者。名前は庚樹(かのえ いつき)」
事前調査によればごく普通の生活を送っている様に見えるが、事件あるところ必ず、彼が居合わせるのだという。
彼には生来能力者の素養があり、そこを欠片に付け入られた可能性もある、と付け加えた。
それをじっと聞いていた青年が口を開く。
「欠片がその人の手元にあるのは、間違いないのか?」
「ああ。おそらくね……。彼自身が最近、変わった石を拾ったと言っていたそうだ」
『深淵の欠片』は見た目は何の変哲もない水晶なんだとバーテンダーは説明する。
バーテンダーの答えを聞き、青年はわかった、と告げて席を立った。
「被害地域は東京なんでしょう? それなら東京都内の機関も何か情報を持っているだろうと思うし。それに、少し人手がいたほうがいいと思う。ひとまず思い当たる場所があるから、あたってみるよ」
青年が足を向けたのは東京でもその筋の者では「怪奇探偵」として知られている興信所。
その後約1ヵ月後。調査依頼を受けたものの他にもう一つ、「深淵の欠片」が見つかったという報告。
それは、未だ持ち主はいないらしく、とある廃ビルにあるという。
そして、調査対象だった青年、庚樹が足げくその場所へ通っているという。
興信所に依頼をしていた青年はその石の確保を希望する。
それはまだ、物語の幕開けにしか過ぎなかった……。
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はじめまして、またはこんにちは。天瀬たつきと申します。
普段、おバカなほのぼのネタばかりではありますが、こちらの話はごく真面目に
話を進めさせていただければ、と思います。
また、こちらの話は全てモノクロでの作成となります。事前にご了承頂ければ幸いです。
今回は導入部分にあたります。
ある青年が持つ石と、その青年を調査した結果見つかった、もう一つの石の確保が
今回の依頼になります。
シナリオ自体は複数話構成となりますが、その間の出入りは自由となっております。
では、何卒よろしくお願いします。
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想定ページ数:約2〜3ページ(1人のみでの話の場合)
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