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■Stop the Crazy Train■ |
silflu |
【0452】【李・光華】【エスパー】 |
身に余るモノだったのかと、その研究者は末期で思った。
「うわあああ!」
断末魔は轟音にかき消された。そのアームから放たれた巨大なビームをまともに受け、研究者は絶命した。
とある地方都市の軍事施設にて、意思を持つ人型殺人機械――コードネーム『クレイジートレイン』は完成を間近に迎えていた。完成すれば、史上に残る兵器になろう。誰もが信じて疑わなかった。
その結果が、崩壊だった。自滅といっていい。プログラムは暴走し、破滅の意思のみを持った。
クレイジートレインは、施設をことごとく灰にした後、街へと出た。
瓦礫の中から、人影が這い出てきた。女性研究者だった。
「……だれか、そいつを、とめて……!」
彼女はうずくまりながら叫んだ。
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【Stop the Crazy Train】
誰もが喜んで触りたくなるような造型、無機質でありながら愛嬌のある顔立ち――人型機械とは普通、そういうものだ。
だがそれを見て、幼子が泣き叫んだ。若者が悲鳴を上げた。老人が惑い続けた。
過ちの産物・クレイジートレインは、目に映るものすべてを殺戮せんと、台風のごとく破壊的に街を走る。すでに死傷者数十名。死にたくない。鎮圧部隊はまだか。そもそもこんなものがなぜ作られた――。
「ハメツ、ハメツ、ハメツ、マッサツ、マッサツ、マッサツ!」
狂気の言語を発しながら、クレイジートレインは前方へと駆動した。
そして目を留めた。吹けば飛びそうな細身の女性が、自分に向かって立っていた。
格好の獲物だと即座に接近して、鉄の腕を振り上げる。
「あの施設、以前からよくない噂が上っていたけど……あなたみたいのが作られていたのね」
その言葉で、暴走軍用機械は脚を止めた。
細い体に秘められたのは明らかな闘志。一切油断のない構え。決して侮れない視線。
クレイジートレインはもともと意思を持つように設計されたもの。ゆえに、目の前の彼女をこう認識することが出来た。
まずこの女を殺さねば、自分に未来はない――と。
「ダレダ?」
彼は問うた。
「驚いた、そんなことを喋れるんだ。私は李・光華」
女はそう答えた。
「あなた、少し私に似てるわね……戦うことしか知らないなんて」
光華は唇を噛んで、
「でも見過ごせない。悪いけど死んでもらうわ」
鉄槌を下すと宣言した。クレイジートレインの眼球部が赤く明滅した。
「イ、ヤ、ダ。オマエガ……シネ!」
鉄塊が爆ぜた。後背部から炎が昇った。小型ロケットエンジンを発動させたのだ。
まさに列車じみた速さで光華に間合いを詰めると、右の鉄腕を脳天に振り下ろした。到底人の身で受けきれる威力ではない。
だが、次に起こったのは地面を抉る轟音だけだった。クレイジートレインは右腕を地面から引き抜くと、すぐさま後ろを振り返った。
ターゲットはさっき自分が立っていた場所にいた。軽やかな跳躍で、一気に突進を飛び越えたのだ。立ち位置が逆になっただけで、再び間合いは元に戻った。
「ヤ・ル・ナ」
抑揚のない音声で彼は言った。
「……」
光華は戦略を組み立てる。
相手は機械だ。疲れるなどということはありえない。長期戦では生身の人間である光華に分が悪い。加えて彼女は武術家。接近戦しか知らぬ。放出系の兵器を持ち出されては、なお勝ち目はない。
「コレデシネ」
クレイジートレインの左腕が変形し、先端が銃の形になった。おそらくは懸念していた殺人レーザーだ。
エネルギーを充填しているのだろう、彼の機械の体全体から電子音が鳴っている。銃口が血の色に光っている。一度放たれれば、かわすことは叶わず死は必定。
「ハアッ!」
だからその前に、彼女は拳で地面を打った。
瞬間的に砂煙が巻き上がり、周囲を包んだ。何も見えない。クレイジートレインの視覚レーダーは、光華を見失った。
――次の瞬間にクレイジートレインが見たのは、あまりにも自分に密着している相手の姿だった。
破壊音と共に、いくつかの機械片が散らばった。
腹が半壊している。クレイジートレインは理解できなかった。ただ殴られただけだ。なぜ柔い人間が鋼鉄の体を傷つけられるのか。
それは決して生身の攻撃などではなかった。ボディESPの応用で、瞬間的に爆発的な威力を発揮する打撃。それを光華は『明勁』と呼んでいる。
続けて腹部に光華の手の平が触れた。再び打撃を送り込むつもりだと即断した。
「コンドコソ、シネ!」
クレイジートレインの口が開いた。その中は機関銃になっていた。
毎秒にして数十発の弾丸の嵐。連続的な掃射音が起こった。
だがその時には、光華は目の前から消えていた。
「――!」
クレイジートレインの両肩を手がかりにして前転し、彼女は背後に降り立っていた。
体の一部が接触していれば、皮膚感覚で相手の動きを先読みすることが出来る能力『聴勁』を発揮したのだ。
光華が小さな声で言った。
「人間で言えば心臓……。ここが動力部のようね」
念を込めて、そこに手を触れた。クレイジートレインは全力で退避しようとするが、間に合わなかった。
ドン!
衝撃音と同時に、機械の内部から白煙が上がった。衝撃を相手の体内に浸透させて、内部から破壊する打撃。明勁と対を成す『暗勁』である。
「ガ、ガ、ガ」
クレイジートレインは動かない。彼の背中のパネルが次々と光を失ってゆく。内部のエンジン音が急速に静まる。
やがて、糸の切れたカラクリ人形のように倒れた。
「……私の勝ちね」
光華が寂しそうに言った。
ここに、暴走機関車は強制停車した。いや、廃車といったほうが正しいだろうか。
パチパチと散る青い火花。ギシギシと組織が崩れる音。緊急事態を告げる電子音。
「ギ、ギ、ギ、ギッ」
「機械のあなたにこんなこと言うのバカらしいけど」
光華は背中を向けた。
「次は、人の役に立つモノに生まれ変わることを祈るわ」
「……ギ……イ」
そして、爆発した。重油の匂いを孕んだ黒い煙が立ち昇った。
光華は思う。
またいつか、こんな哀れな機械が生み出されるかもしれない。空しさがこみ上げて仕方がない。
「……お互いに不幸な時代に生まれたものね」
そんなことを呟いて、光華はその場を後にした。
【了】
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
【0452/李・光華/女性/22歳/エスパー】
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■ ライター通信 ■
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担当ライターのsilfluです。ご依頼ありがとうございました。
若い女性の戦闘シーンは、書いていて楽しいです。
今後も戦闘系の依頼文章を書いた際は、是非よろしく
お願いします。
それではまた。
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