コミュニティトップへ



■零とエヴァ5:完結編? エヴァと兄さん■

滝照直樹
【2625】【トール・ウッド】【科学者】
 草間興信所に電話がかかる。零はけたたましくなる黒電話(いい加減電話を替えたいなと思いつつ兄を睨んで)の受話器を取った。
「はい、草間興信所です」
「Hallo! 姉さん!あたし!エヴァよ!」
「エヴァ!?」
 と、大声を上げる零に、草間はビックリし椅子から転げおちた。
「元気になったから、そっち行くわね!」
「うん、待っているから」
 受話器を、静かに置いて……
「やった!」
 と、ガッツポーズの零。
「おい、どういう訳だ? たしかエヴァって……」
 事情を飲み込めない草間武彦3X歳(え? 歳増えたの?)。
 零は、事情を約2時間もわたり不在だった兄に説明した。
「成る程……。で、まさかこの興信所に?」
「はい、姉妹ですから♪」
「ま、まて! いまこれ以上家族が増えたら……、煙草……」
「にいさん……」
 草間が言った発言で周りが怨霊に包まれている。「私、怒りました」サインだ。
「私の“妹”より……煙草が大事なんですか?」
「いや、そう言う訳じゃ無いんだが……、つまりその……」
 言葉を濁す草間。
 正直、たむろしている常連の支払い(つまりは外注支払い)など、あまり潤ってないのが現状だ。確かに『箱』騒動で潤うも、それは表面上で(一度爆発したそうだし)、所長の使用可能範囲はさして変わらない。もし、エヴァが正式に家族として迎えられると……部屋とか、今後の課題が増えるではないかという不安がある。
 いや、其れよりも、煙草代が無くなるのがいたい。愛煙家足るもの其処は譲れない信条なのだ。
「彼女が決めることだが……、会って話しをする。彼女が此処にいたいと言うなら構わない。しかし……!」
「……はい、煙草代は削っちゃ駄目なんですね」
 ため息をつく零。
 やっぱり、兄の煙草への執着は、怨霊で威圧しても無理だったようだ。いっそ、さらに演技して、草間を抑え込もうかと考えた零ちゃんだった。

 さっそく、零は今まで関わった人達に電話する。
 草間武彦はというと、小声で五月達に、
「済まないが、確実に煙草代だけを確保できる助っ人を頼む」
 と、頼んでいたのだった。
零とエヴァ5:完結編? エヴァと兄さん

 エヴァが来ると言うことで、今まで関わりを持った人達が集まる。エヴァの全快祝いをする気満々である。本当のところはこれからエヴァがどうするか決めなくてはならない事を話し合うのだが……。
 草間武彦が煙草代を気にする(本気である)エヴァの今の微妙な立場と彼女の意志が問題。零は、“妹”と一緒に住みたいらしい。其れを煙草という一般的な娯楽物と比べられたら流石に零以外でも怒る。
 しかし、草間の本心は煙草代に匹敵する大事な事があるのだ。つまり……、彼が「紅」という謎の銃使いか「ディテクター」とIO2所属となったとき、敵対的になる可能性は高い。零はもちろん草間がIO2所属のことは知らないし、エヴァ自体はその事を知っているかは定かではない。彼女と彼が顔を見合わせたとたん、エヴァが警戒する事もあるだろう。

 このエヴァ来訪を間近で聞いたのは、手伝いの鹿沼デルフェスにシュライン・エマ。デルフェスは、小耳に挟んでこっそりこの話を聞いたとたん、ガッツポーズを取る。草間と零のやりとりを静観しているのはシュライン。そして、零の電話で集まったのは、榊船亜真知、夜城将清、トール・ウッドである。エヴァと零の戦いを阻止した者達(微妙な位置だった亜真知は除く)だった。
 因みにまだエヴァは来ていない。

「さて、集まったのは良いが……零はエヴァを此処で一緒に暮らそうと希望が出ているが……」
 と、所長デスクを陣取って、格好つけている草間が言った。しかし、頭に赤猫が乗っているので格好良くも何ともない。
「部屋の関係や手続きなどもあるけど、何より虚無の境界とIO2との関わりが大問題よね。実のところあたしは賛同できないわ」
 続けてシュラインが言った。
 零はしょんぼりとしている。
「でも、此はあたし個人の意見だから、決めるのはエヴァ自身だからね」
 此はもっともな意見だと皆は頷いた。
「姉妹喧嘩になったときは凄いことになるが、俺は賛成なんだがね」
 と、将清は煙草をくわえ苦笑する。
「確かに虚無関連でお客様の命に関わりますわね」
 亜真知が頷いている。
「エヴァの気持ち次第だね」
 トールは偉そうに腕を組んで言った。
「彼女が来てからもう少し考えましょう、其れがよい方法だと思いますわ」
 デルフェスの言葉に皆は頷いた。


 けたたましいベルが鳴る。約数名、いい加減この呼び鈴をどうにかしろと訴えた目をして此処の主を睨んだ。しかしその主は知らん顔して鉱石ラジオのチューナーを弄ってはFMラジオを聞いている。
「あたしが出るわ」
 シュラインがドアを開ける。
「はい、いらっしゃいませ、草間興信所です」
「こんにちは!」
 金髪のポニーテール少女が元気に挨拶してきた。
「「エヴァ!」」
 知っている者が声を挙げる。
「皆、久しぶり! 初めての方は始めまして!」
 屈託のない笑顔で挨拶するエヴァ。
 今までとは違う雰囲気をもって、エヴァは零と向き合い、
「姉さん久しぶり」
「エヴァ」
 お互い軽く抱きしめあった。
 其れを微笑ましく見る草間達だった。

「え? あたしが此処に住みたいかって?」
 彼女が来るまで出てきた諸問題の話を聞いて、エヴァはビックリした。
 ただ単に遊びに来た感じのエヴァにとって此は寝耳に水だったらしい。ハッキリ言えば、零の先走り+早とちり、さすが草間も深くつっこめなかったのが現状だろうか?
 彼女は今の自分の立場を理解しているので、
「其れは姉さんと一緒に住みたいな。でもあたしは実際虚無の境界で作られた霊鬼兵……他の人を危険に晒すことは出来ないし……」
 と、答えた。その表情は険しい。
「う〜ん」
 零もすっかりその事を失念していたようだ。腕を組んで悩んでいる。
「でも、他に彼女が住む場所ってあるの?」
 トールが皆に聞いた。
「蓮さんの所か、あやかし荘かなぁ」
 シュラインが考える。
「鎌倉から此処迄って時間食いそうだからその2つが妥当ですわね……」
 デルフェスが賛同する。そして、
「マイマスター(蓮の事)の店だとわたくしは嬉しいですわ」
 にっこり笑うデルフェスだ。
 電話を借りて、蓮の所に連絡を入れるデルフェス。第一希望が通るか皆ドキドキする。

「ところで、タケヒコ……だった?」
「なんだ? エヴァ」
 エヴァが草間を見る。
「前にどこかであってない?」
「気のせいだろう」
 焔を持ち上げ、猫でノーサインを出す草間。
 そう、と言ってエヴァは草間にこれ以上あることについては話しをしなかった。

「はい、ありがとうございます!マスター」
 とデルフェスが電話を切る。
「OKとでましたわ」
 とても嬉しそうに答えるデルフェス。
「後はあやかし荘だけど……」
 シュラインは電話をかけようとするが、
「父様がいらっしゃいますから大丈夫かと思いますよ」
「父様?」
 亜真知の言葉にシュラインは首を傾げる。
「エルハンドのことだろう」
「はい♪」
 草間が聞いて、亜真知はにっこり笑う。
――かなり苦労背負ってないかあいつ?(草間の心の声)
「あやかし荘が良いかもしれないです」
 亜真知が言った。
 この案は、以前零が倒れたときの保護処置を考えてのことだろう。
「どうするエヴァ?」
「う〜ん。この付近というなら何処でも良いのだけど。虚無と関わり持っているあたしが居られる場所って……」
 と、零が訊いて、エヴァは悩んだ。
 そして、彼女は口を開く。
「近くて、姉さんの手伝いが出来れば、あやかし荘で住みたいな」
 其れがエヴァの答えだった。


 住む場所の手続きをさっくり済まして、歓迎会になる興信所。バイト先として興信所とアンティークショップ・レンと言うことに落ち着いた。これからは零と同じように色々な人出会う訓練が始まるのだ。その前に、エヴァの完治祝いを開きたいとデルフェス達が申し出たのだ。
「なんだかんだいって、興信所って宴会場になってません? 兄さん」
「俺もつくづく思う」
 草間兄妹は呟いた。
「“箱”も来るし、鍋もするし、宴会になって当然かもよ」
 にっこりシュラインが言った。
「あと、宴会になると来る、いつもの小麦色だな」
「ええ、あれね」
 草間とシュラインは苦笑する。
 |Д゚)…… ←窓にへばりついているいつもの小麦色。

 将清とトールはエヴァと色々楽しく話している。デルフェスも話しに加わってさらに話題が盛り上げって居るようだ。初対面の時や公園での戦闘、そして悲しい決着の時等々。
 エヴァは煙草嫌いではないから、将清も草間も存分に煙草を吸えるので、愛煙家とヘビースモーカーには良い環境のようだ。
 しかし、
「銘柄には拘らないのか?」
「マルボロが好きだが、特に拘らん」
 将清と草間の煙草の会話。
「近頃聖地が無くなっていくのは辛いよな」
「そうだな」
「兄さん、将清さん、あまり吸い過ぎないように」
「妹もうるさくなった……。此処も危機かもしれないなぁ」
「其れは勘弁して欲しいな……」
 ぼやく愛煙家2人だった。

「デルフェス大丈夫?」
「ええ、大丈夫ですわエヴァ様」
「色々あったけど、宜しくねデルフェス」
 と、エヴァがデルフェスに軽く抱きついてきた。
 エヴァの意外な反応と行動に驚くデルフェス。
「エヴァ様……嬉しいです」
 感動のあまり涙を流し、同じく抱きしめるデルフェスだった。

 零が皿を割ってしまったのを見たトール。
 彼女があわてて掃除しようとするところに彼が間に入って、
「こんな事もあろうかと……」
 と、妙なミニメカを沢山呼び出すトール。
「なんでしょうか?」
「建築と掃除の達人ロボットさ!」
 しかし、そのロボットは、割れた皿を片付け始めたのだが、彼方此方の興信所内を解体し始める。
因みに小麦色にも群がるミニロボット
「いやー、いやー」
「あう、あれ?事務所がボロだから撤去建築物かゴミと勘違い?」
 皆さん白い目。
「失敗、失敗……てへっ」
 緊急停止させて後に業者に頼むトール君だった。


 色々楽しい宴会が終わり、皆はそれぞれ家路についた。
「またね〜」
「気を付けてー」
 又会えることを約束してエヴァは一端鎌倉に戻るという。
「気を付けてね、エヴァ」
「うん。またね」
 興信所の出口に黒いコートを着た銀髪の男が待っていた。
「あやかし荘については因幡恵美がしっかりしてくれるだろう。私はエヴァを送るとするよ」
 と、男は言った。
「では、これからも宜しく、シュライン、タケヒコ、そして姉さん」
「ええ、宜しくね」
「ああ、無茶はするな。まだ追われる身だからな」
「エヴァ、またね」
 そして、エヴァは黒マントの男と共に姿を消した。

「まずエヴァがバイトと決まったけど……煙草代分余計に頑張りましょうね」
 シュラインが草間の肩をぽむっと叩いて笑う。
「ああ、何とか仕事取ってくるさ」
「でも、兄さんは幽霊とか妖怪に好かれているですから」
「其れは言わないでくれ、好きでそうなったわけではない」
 怪奇探偵と呼ばれることは嫌な草間武彦3X歳。
「良い仕事でも振ってこないものか? 離れていても微妙に扶養家族扱いだからな……」
 と、煙草をくわえる所長。
「赤貧時代も乗り切ったんだから大丈夫よ♪ 武彦さん」
 古株の女事務員は又にっこり頼りない所長を励ました。
 
 エヴァがこれからどう生きていくか、楽しみなのは変わらない。それは、茨の道かもしれないが、彼女に関わった者は明るい未来を願わずにいられなかった。


End


□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
【0086 シュライン・エマ 26 女 翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員】
【1593 榊船・亜真知 999 女 超高位次元知的生命体・・・神さま!?】
【2181 鹿沼・デルフェス 463 女 アンティークショップの店員】
【2331 夜城・将清 25歳 男 国家公務員】
【2625 トール・ウッド 10 男 科学者】

□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■         ライター通信          ■
□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
滝照直樹です。
『零とエヴァ5:完結編? エヴァと兄さん』に参加して下さりありがとうございます。
私の所ではエヴァは人の世界で社会復帰する形となりました(とはいっても怪奇事件、IO2や虚無の境界との問題は山積みです)。姉妹仲良く過ごせる日があるかもしれません。
 夜城さまのおっしゃっている通り、姉妹喧嘩で興信所が破壊される事も視野に置かないといけません(ぉ

 では、機会が有れば又お会いしましょう。
 
 滝照直樹拝