コミュニティトップへ



■獣達の啼く夜■

水貴透子
【2240】【田中・緋玻】【翻訳家】
「今回で7件目か」
 桃生 叶は遺体に被せられているビニールシートを捲りながら小さく呟く。
 今回もまるで獣に食い荒らされたような遺体だった。
 ここ3週間で七人もの人間が通り魔にあっている。
 被害者の共通点は全くなく、共通して言えることは毎回、獣に食い荒らされたような遺体だという事。
「叶さん、気合入ってますね」
 名も知らない同僚達が声を潜めて言っている。
「気合も入るさ、この通り魔事件の最初の被害者は彼女の妹だったんだからな」
 年を取ると口が軽くなうというのは本当らしい。
「…すみませんケド、これ以上見ていても無意味なので失礼します」
 そう言って叶はすたすたとどこかへと歩いていった。
 これが普通の刑事課なら許されないのだろうが、叶が所属しているのは無職一課。
 迷宮入りになりそうな事件、迷宮入りになった事件を調べる一課、といえば聞こえはいいが
 簡単に言えば邪魔者を放り込む用なしの一課、というのが事実だ。
「…ふん、里香の仇は必ずとるわ…」
 そう言って叶は調査書をファイルしてある分厚い本を取り出してパラパラと捲る。
「昨日の事件は公園か、今日の夜にでも調べに行こうかしら…」


         ▽ライターより▽
 初めましての方もそうでない方もこんにちは、瀬皇緋澄です。
 このシリーズ…獣達の啼く夜は一応続きモノですが、短編の集まりにする予定です。
 ですから、最初から参加されても途中から参加されても大丈夫…だと思います^^:
獣達の啼く夜〜act1〜

オープニング

「今回で7件目か」
 桃生 叶は遺体に被せられているビニールシートを捲りながら小さく呟く。
 今回もまるで獣に食い荒らされたような遺体だった。
 ここ3週間で七人もの人間が通り魔にあっている。
 被害者の共通点は全くなく、共通して言えることは毎回、獣に食い荒らされたような遺体だという事。
「叶さん、気合入ってますね」
 名も知らない同僚達が声を潜めて言っている。
「気合も入るさ、この通り魔事件の最初の被害者は彼女の妹だったんだからな」
 年を取ると口が軽くなうというのは本当らしい。
「…すみませんケド、これ以上見ていても無意味なので失礼します」
 そう言って叶はすたすたとどこかへと歩いていった。
 これが普通の刑事課なら許されないのだろうが、叶が所属しているのは無職一課。
 迷宮入りになりそうな事件、迷宮入りになった事件を調べる一課、といえば聞こえはいいが
 簡単に言えば邪魔者を放り込む用なしの一課、というのが事実だ。
「…ふん、里香の仇は必ずとるわ…」
 そう言って叶は調査書をファイルしてある分厚い本を取り出してパラパラと捲る。
「昨日の事件は公園か、今日の夜にでも調べに行こうかしら…」


視点⇒田中・緋玻


「騒がしいわね」
 緋玻は近くの公園から響く人間の声に耳を傾けた。
「何かあったの?」
 近くを通る人間に話しかけて聞くと「また例の連続通り魔事件らしいわよ」と年配の女性が答えた。
 あぁ、あれか。緋玻は小さく呟き、現場の方を見る。警察やマスコミの連中が所狭しといて、とても近寄れそうにない。
(…夜歩きができなくなるのは、困るわ。『外食』がやりにくくなるもの)
 緋玻は小さく舌打ちをした後で心の中で毒づく。
(ああ…でも、犯人が普通の人間でもそろそろ食べ頃の鬼になってるかしら)
 緋玻はとりあえず今日の夜にでももう一度現場に来てみようと思い、家へと足を向けた。もう一度犯人が現われるという確証はないけれど、それは人間だった場合の常識だ。被害者の殺され方からして恐らく人間ではないだろう。人間ではなくなったのか、モトから人間ではないのかまではわからないけれど。


 そして、その夜…。

 心地良い闇を吹き抜ける風に緋玻は目を伏せる。
 犯行現場まで足を運ぶと、風に運ばれて血の匂いが鼻につく。流石に殺人事件があった場所なので夜になると人通りもなくなる。下手に歩き回れば次は自分の番かもしれないという思いこみもあるのだろう。
「…っ?」
 ふいに何かの気配を察知して緋玻はバッと後ろを見る。だが、そこには闇の静寂があるばかりで誰もいない。だが何かの気配は消える事はない。むしろ近づいてきているようにも思える。
「上?」
 緋玻が上を見ると同時に木の上に潜んでいたらしいソレは雄叫びのような声を発しながら勢いよく飛び降りてきた。
 咄嗟に避けたが、今まで緋玻がいた場所は地面がえぐれているのが目に入る。それと同時に人の姿に似たソレにも。
「…ふぅん」
 緋玻は別に驚きはしなかった。多分《ああいうもの》だろうと予想していたのだから。
「大きいから食いではありそうね」
 嬉しそうに言う緋玻に獣は再び襲い掛かってきた。
「さっきは突然だから驚いたけど、あたしをなめるな」
 そう言って緋玻は獣の攻撃をサラリと避けて、殴りつける。獣は殴られて後ろにあった木に叩きつけられてしまうが、痛みを感じないのかニィと気持ちの悪い笑みを浮かべて立ちあがった。
「…痛みは感じないのね」
 それもつまらないわね、と残念そうに呟いた後に獣目掛けて走る。そして、再度殴る。その時だった。一発の銃声が響いた。
 緋玻が銃声の方に視線を移すと、一人の女性が銃を構えて「早く逃げて!」と叫んでいる。どうやら緋玻が犯人に襲われていると勘違いしたらしい。
(半分は勘違いじゃないんだけど…)
 目の前の獣は銃声によって標的を女性に変えたようで、緋玻の頭上を高く飛び越え、女性の方に走っていく。
「余計な事を」
 チッと緋玻は舌打ちをして獣を追いかける。
「きゃああっ…」
 女性は獣に殴られて壁に叩きつけられる。その際に意識を失ったのかぐったりとして動かなくなった。
「ヤメナサイってばっ!」
 獣に蹴りつけ、女性から離す。
「あなたはあたしに大人しく食べられてればいいの」
 OK?と確認を取るようにして呟いた後に牙を向き、獣に喰らいつく。噛まれている感覚が気持ち悪いのか獣は必死に緋玻を振り払おうとしている。
 だが、力で緋玻に適うわけもなく、暫くは公園に骨の折れる音などが響いた。


「ごちそーさま」
 口の周りを拭いた後で緋玻が短く告げた。その時に小さな笑い声が公園に響いた。
「おねーさん、おもしろいね。アイツを食べちゃう奴なんて初めて見たよ」
 ケラケラと笑い声のほうに目を向けると、ジャングルジムの天辺に一人の少年がいた。
「…誰?一般人じゃないようね。今のを見て笑ってられるくらいだから」
 緋玻が少年を見上げながら言うと「まあね。おねーさんも普通じゃないでしょ?アイツを食べちゃうくらいだからね」とからかうように言葉を返してくる。
「さっきの奴を知ってるの?」
「知ってるも何も…俺が作った合成人間だからね、ちょうど始末しようと思ってたらおねーさんが食べてくれたから助かったよ」
 ストン、とジャングルジムから降りて緋玻の前に立つ。
「あなたは…」
「夜白、十六夜・夜白っていうんだよ。今回は助かったけど、次は邪魔しないでね。じゃないと…今度は俺があんたを喰うよ」
 表情を変えて夜白は言った。
「俺はこれから忙しいんだ。だから、邪魔しないでよね」
 それだけ言うと夜白はフッと姿を闇に溶け込ませて消えていった。
「…邪魔、ねぇ…」
 どっちかというと、向こうの方がこっちの邪魔してるんじゃないかしら…と考えもしたが、もう夜白はいなくなっていたので、何も言わなかった。
「さて、帰るかなぁ」
 うーんと伸びをして緋玻は踵を返す。女性の事はあまり関わりたくないので放っておく事にした。拳銃を持つという事は警察関係という可能性もあるし、あの獣をどうしたのかと聞かれても困るからだ。

「これから、って言ってたっけ。まぁ…あたしの回りで何も起きない限りは邪魔なんかしないけどね」
 そう呟く緋玻の声闇夜に浮かぶ満月のみが聞いていた。





□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

2240/田中・緋玻/女性/900歳/翻訳家

□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■         ライター通信          ■
□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□

田中・緋玻様>

お久しぶりです^^
今回「獣達の啼く夜」を執筆させていただきました、瀬皇緋澄です。
「獣達の啼く夜」に発注をかけてくださいまして、ありがとうございました。
話の方はいかがだったでしょうか?
少しでも面白いと思ってくださるとありがたいです^^
それでは、またお会いできる機会がありましたらよろしくお願いします^^

            −瀬皇緋澄